(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モジュール内にパージガスを供給するための中空部材であって、前記中空糸束の略中心に配置された芯管をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガス分離膜モジュール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような有機蒸気分離を行う場合、管板の膨潤・収縮などの変形が大きいことから、ガス分離膜モジュールの気密性が損なわれ、良好なガス分離の実施が継続できなくなるおそれがある。また、上記のような問題は、有機蒸気分離に限らず管板の変形を引き起こしうる他のガス分離でも同様に生じうる問題である。例えば、管板が、炭化水素、二酸化炭素もしくは水などを吸着した場合も、管板の可塑化や膨潤が生じて変形が起こる可能性がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ガス分離における管板の膨潤・収縮などの変形を抑えることができるガス分離膜モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一形態のガス分離膜モジュールは次の通りである:
1.選択的透過性を有する複数の中空糸膜が集束された中空糸束と、
前記中空糸束が内部に配置されるモジュール容器と、
前記中空糸束の端部において前記複数の中空糸膜を固定する管板と、を備えるガス分離膜モジュールであって、
前記管板の断面は、前記中空糸膜が埋設された中空糸膜埋設部と、該中空糸膜埋設部の外側に位置し前記中空糸膜が存在しない無垢部とを含んでおり、
少なくとも前記中空糸膜埋設部内において、前記複数の中空糸膜の少なくとも一部に補強繊維布が巻かれていることを特徴とする、ガス分離膜モジュール。
【0009】
2.前記補強繊維布が無機繊維状の織布であることを特徴とする、上記1.に記載のガス分離膜モジュール。
【0010】
3.前記補強繊維布がガラスクロスであることを特徴とする、上記2.に記載のガス分離膜モジュール。
【0011】
4.前記補強繊維布がスパイラル状に配置されていることを特徴とする、上記1〜3.のいずれか一つに記載のガス分離膜モジュール。
【0012】
5.前記補強繊維布が円状に配置されていることを特徴とする、上記1〜3.のいずれか一つに記載のガス分離膜モジュール。
【0013】
6.前記中空糸束の両端部に前記管板を1つずつ有し、
各管板内において、複数の中空糸膜の少なくとも一部に補強繊維布が巻かれていることを特徴とする、上記1〜5.のいずれか一つに記載のガス分離膜モジュール。
【0014】
7.前記中空糸膜が、有機蒸気分離用のガス分離膜であることを特徴とする、上記1〜6.のいずれか一つに記載のガス分離膜モジュール。
【0015】
8.モジュール内にパージガスを供給するための中空部材であって、前記中空糸束の略中心に配置された芯管をさらに備えることを特徴とする、上記1〜7.のいずれか一つに記載のガス分離膜モジュール。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガス分離における管板の膨潤・収縮などの変形を抑えることができるガス分離膜モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の一形態について説明する。なお、以下ではパージガスを流すタイプのモジュールについて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、以下では有機蒸気分離を行う例を中心に説明するが、当然ながら、本発明はこれに限らず他のガス分離を行うガス分離膜モジュールにも適用可能である。
【0019】
[ガス分離膜モジュールの構成]
図1に示すガス分離膜モジュール(以下、単にモジュールともいう)100は、複数の中空糸膜114が集束された中空糸束115と、それを収容するモジュール容器110と、中空糸束115の両端部に設けられた管板120−1、120−2(以下、これらを区別せず単に管板120ともいう)とを備えている。このガス分離膜モジュール100は、一例として、混合ガスが中空糸膜114の内側へと供給されるいわゆるボアフィードタイプのものである。
【0020】
中空糸膜114は選択的透過性を有する従来公知のものを利用可能である。中空糸膜の構造は、均質性のものであっても、複合膜や非対称膜などの非均質性のものであってもよい。ガス分離用途においては、例えば、芳香族ポリイミド製の非対称膜が、選択性とガス透過速度とにおいて優れているため適当である。膜厚は20〜200μmで、外径が50〜1000μmのものが好適に使用できる。中空糸膜114の材料は、一例として、高分子材料特にポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネートなどを利用可能である。
【0021】
本明細書において「有機蒸気分離」とは、常温で液体である有機化合物を含む液体混合物を加熱した蒸気状態の混合物(有機蒸気混合物)を、ガス分離膜モジュールに導入し、有機蒸気混合物が中空糸膜に接して流通する間に、中空糸膜を透過した透過蒸気と、中空糸膜を透過しなかった非透過蒸気とに分離し、透過蒸気を透過ガス排出口から、非透過蒸気を非透過ガス排出口から回収する方法のことを意味する。中空糸膜は選択的透過性を有するため、透過蒸気は中空糸膜を透過する速度が大きい成分(以下、高透過成分と記載することもある)に富み、非透過蒸気は高透過成分が少なくなる。この結果、有機蒸気混合物は、高透過成分に富んだ透過蒸気と、高透過成分が少ない非透過蒸気とに分離される。
【0022】
有機蒸気分離としては、例えば、水を含むエタノールを、ポリイミド製中空糸膜を用いて脱水する例が挙げられる。ポリイミド製中空糸膜を透過する速度は、水蒸気の方が大きいため水蒸気が高透過成分となり、水蒸気を主成分とする透過蒸気と、エタノール蒸気を主成分とする非透過蒸気とに分離、回収される。その結果、脱水されたエタノールが得られる。
【0023】
中空糸束115は、例えば100〜1,000,000本程度の中空糸膜114を集束したものであってもよい。集束された中空糸束115の形状には特に制限はないが、製造の容易さおよびモジュール容器の耐圧性の観点から一例として円柱状が好ましい。
図1では中空糸膜が実質的に平行に配列されている形態を例示しているが、各中空糸膜が交叉配列されている形態であってもよい。
【0024】
中空糸束115には、パージガス(詳細下記)が混合ガスの供給方向に対して向流となるように、パージガスの流れを規制するフィルム部材131が巻かれている。フィルム部材131はガス不透過性の材質である。透過ガス出口110c付近においては、中空糸束115にはフィルム部材131が巻かれておらず、中空糸膜114が露出した状態となっている。
【0025】
モジュール容器110は、全体として略筒状であり、この例では、一方の端面に混合ガス入口110aが形成されるとともに、反対側の端面にパージガスを導入するためのパージガス入口110dが形成されている。なお、本明細書において「筒状」とは、円筒状に限定されるものではなく、断面形状が矩形、多角形、楕円形等の中空部材をも含む。モジュール容器110は、例えば、1つの筒状部材とその両端部に取り付けられたキャップ部材とで構成されていてもよい。
【0026】
モジュール容器110の内部は、2つの管板120−1、120−2によって仕切られ、3つの空間111、112、113が形成されている。空間111は管板120−1の上流側に形成されており、ここには、混合ガス入口110aを通じて混合ガスが流れる。空間112は管板120−1および120−2の間に形成されており、ここには、中空糸膜114を透過した透過ガス等が流れる。空間113は管板120−2の下流側に形成されており、ここには、非透過のガスが流れる。
【0027】
空間112内に放出された透過ガスを外部に送出するため、モジュール容器110の周壁部には透過ガス出口110cが設けられている。また、空間113内に供給された非透過ガスを外部に送出するため、同じくモジュール容器110の周壁部に非透過ガス出口110bが設けられている。
【0028】
中空糸束115の中心部には芯管171が通されている。芯管171は、両端のうち一方が閉塞し他方が開口した部材であり、開口部が下流側(管板120−2側)となる向きで配置されている。芯管171は、管板120−2を貫通して延在し、先端部が上流側の管板120−1に埋設されている。芯管171は、2つの管板120−1、120−2の間の位置に孔171aを有している。芯管171の開口部(パージガス入口110d)から供給されたパージガスは、孔171aを通じて空間112内へと送られ、このパージガスにより透過ガスの排出が促進される。
【0029】
管板120の材質としては、従来公知のものを利用可能であるが、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂やウレタン樹脂などからなる熱硬化性樹脂などが例示される。管板120は、基本的には、複数の中空糸膜114を固定(固着)する役割を果たす。また、管板120の外周面がモジュール容器の内周面に接着されていてもよい。
【0030】
図2(a)、(b)に例示するように、管板120は、中空糸膜114が存在している中空糸膜埋設部120Aと、その外側の中空糸膜114が存在しない無垢部120Bとを有している。中空糸埋設部120Aでは、中空糸膜114どうしの間を樹脂が埋めている構造となっており、無垢部120Bは基本的に樹脂のみで構成された構造となっている。
【0031】
図2(a)、(b)に示すように、本実施形態では、一方または双方の管板120の少なくとも中空糸埋設部120Aに補強繊維布125が配置されている。
図2(a)のように、補強繊維布125はスパイラル状に巻かれていてもよいし、あるいは、
図2(b)のようにリング状の断面となるように巻かれていてもよい。
図2(a)の補強繊維布125がより長く巻かれ、無垢部125Bにまで延びているような形態も好ましい。
【0032】
なお、
図2では、補強繊維布125が滑らかな曲線で描かれているが、これに限らず、補強繊維布125は、細かい波形(半径方向に凹凸する形状)を有しつつ全体としてはスパイラル状または円状に巻かれていてもよい。
図2(b)に示すように、円状に補強繊維布125を配置する場合、複数の補強繊維布125が略同心円状に配置されてもよい。
図2(a)では芯材171の図示は省略されているが、補強繊維布125は芯材171またはその近傍を起点としてスパイラル状に巻かれてもよい。
【0033】
補強繊維布125のさらに他の配置態様については、別の図面を参照して後述するものとする。
【0034】
補強繊維布125の材質としては、ガラスクロスなどのガラス繊維布、金属メッシュスクリーンなどの金属繊維布、炭素繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ザイロン繊維などが挙げられ、管板材料よりも熱膨張係数の低いものが好ましい。補強繊維布125の種類としては、織布、不織布などの繊維布が挙げられる。
【0035】
補強繊維布125の厚みは、使用する糸の種類、織り密度及び開繊度によって変化するものの、例えば10μmから2000μmまでの範囲が例示できる。補強繊維布125の厚みが10μmより薄い場合には、十分な補強効果が得られない懸念がある。また、補強繊維布125の厚みが2000μmより厚い場合には、管板120の断面積中に占める補強繊維布の面積が大きくなり、中空糸膜の充填量が下がる懸念がある。
【0036】
補強繊維布125の目付け量は、使用する糸の種類、織り密度及び開繊度によって変化するものの、例えば10g/m
2から1500g/m
2の範囲が例示できる。補強繊維布125の引張強度は、10MPa以上の範囲が例示できる。補強繊維布125の引張弾性率の好ましい下限は1GPa、より好ましい下限は5GPa、好ましい上限は500GPa、より好ましい上限は200GPaである。上記引張弾性率が低すぎると、十分な補強効果が得られない懸念がある。
【0037】
本実施形態における補強繊維布125として、一例で、ガラスクロス(東京硝子器械(株)製、厚み250μm、目付け量211g/m
2、引張強度131MPa、弾性率6.3GPa)が挙げられる。
【0038】
補強繊維布125は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などを含浸させた状態で巻き付けられてもよい。補強繊維布125の幅寸法L
125(管板の厚み方向の寸法、
図3参照)は、管板120の厚みL
120と同程度としてもよいし、または、厚みL
120の50%〜90%程度としてもよい。
【0039】
[ガス分離膜モジュールの使用方法]
上述のように構成された本実施形態のガス分離膜モジュール100は、以下のように使用される。なお、以下に例示する使用方法は本発明を何ら限定するものではない。
【0040】
有機蒸気分離の場合を例とすると、まず、有機蒸気と水蒸気とを含む有機蒸気混合物が、例えば70℃以上の温度に加熱され、混合ガス入口110aからモジュールの空間111内に供給される。この際のガスの供給圧力は例えば0.1〜0.3MPaGである。
【0041】
有機蒸気混合物は、次いで、各中空糸膜114内に送り込まれ、その内部を流れる際に、有機蒸気混合物の一部が中空糸膜114の外へと透過する。中空糸膜114を透過した透過ガスは空間112内に放出され、芯管171経由で供給されたパージガスによって、透過ガス排出口110cを通じて外部に排出される。一方、中空糸膜114を透過しなかった非透過ガスはそのまま中空糸膜114内を下流へと流れ、下流側の開口端から膜外へと送り出されて空間113内に供給される。そして、非透過ガスは非透過ガス出口110bを介して外部へと排出される。中空糸膜114は選択的透過性を有しているので、膜を透過した透過ガスは、高透過成分である水蒸気に富んでおり、非透過ガス排出口から排出される非透過ガスは、高透過成分である水蒸気の濃度が減少している。
【0042】
また、二酸化炭素分離としては、例えば、4〜8MPaG、40〜70℃の天然ガスをポリイミド製中空糸膜を用いて処理する例が挙げられる。ポリイミド製中空糸膜を透過するガスの速度は、メタン等の炭化水素より二酸化炭素のほうが大きいため、二酸化炭素が富化された透過ガスと、メタン等の炭化水素が富化された非透過ガスとに分離、回収される。
【0043】
[製造方法の一例]
本実施形態のガス分離膜モジュールは、補強繊維布の巻付け工程以外については、基本的には従来と同様の工程を用いて製造可能である。
【0044】
図2(a)のように補強繊維布125をスパイラル状に巻き付けるには、例えば、芯管171の周りに中空糸膜141を少量ずつ配置していきながら、補強繊維布125を連続的に巻いていく方法が挙げられる。
【0045】
図2(B)のように補強繊維布125を円状に巻き付けるには、例えば、所定量の中空糸膜114を芯管の周りに集束させた状態で、補強繊維布125をその周りに巻き付ける方法が挙げられる。同心円状に複数の補強繊維布を形成する場合には、上記工程を繰り返せばよい。円状に巻き付ける場合、補強繊維布125の端部どうしの継ぎ目を、接着剤等を用いて貼り合わせてもよい。あるいは、補強繊維布125にエポキシ樹脂等が含浸されている場合には、端部どうしを粘着テープ等で仮止めし、樹脂硬化後にその粘着テープを剥離させてもよい。円状に巻きつける場合、補強繊維布125の端部を、補強繊維布と同等の繊維等で縫い合わせてもよい。あるいは、補強繊維布と同等の繊維等を補強繊維布上に巻き付け、縛ってもよい。
【0046】
管板120を形成するための従来の工程の1つに、管板硬化後に管板の一部を切り落とし中空糸膜を開口させる工程があるが、この工程において、管板内の補強繊維布125の一部を一緒に切り落としてもよい。
【0047】
以上のように構成された本実施形態のガス分離膜モジュール100によれば、管板120の内部に補強繊維布125が巻かれているので、有機蒸気分離を行う際の管板の膨潤・収縮などの変形が抑制され、ガス分離膜モジュールの気密性が損なわれず、良好なガス分離を行うことが出来る。
【0048】
管板内の補強繊維布の無い従来のガス分離膜モジュールでは、有機蒸気分離を行う際に管板が軸方向(厚み方向)に凸状となるように膨潤し変形することがある。
【0049】
これに対して、本実施形態の構成によれば、管板120内に補強繊維布125が巻かれているので、そのような膨潤・収縮などの変形が抑えられる。その結果、本実施形態のガス分離膜モジュール100によれば、ガス分離を良好に行うことができる。
【0050】
なお、上述のような、補強繊維布を巻き付けることによる作用効果は、エポキシ製の管板に限らずウレタンなど他の材質からなる管板であっても同様に奏されるものである。すなわち、本発明において管板は必ずしも特定の材質に限定されるものではない。
【0051】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。
【0052】
図4に示すように、補強繊維布125は、管板120の中空糸埋設部120Aにおいて一つの円を形成するように巻かれてよい。この場合、補強繊維布125が複数の中空糸膜に1周だけ巻き付けられてもよいし、複数回巻かれてもよい。
【0053】
図5(a)に示すように、補強繊維布125が、中空糸埋設部120Aに加え無垢部120Bにも配置されていてもよい。また、
図5(b)および(c)のように中空糸埋設部120Aと無垢部120Bとの境界部分に補強繊維布125を配置してもよい。補強繊維布125の断面は、
図5(c)に示すように波形となっていてもよく、この波形は規則的なものであってもよいし不規則的なものであってもよい。
【0054】
本明細書において「複数の中空糸膜の少なくとも一部に補強繊維布が巻かれている」とは、必ずしも、補強繊維布125が周方向の360度以上にわたって巻かれている必要はなく、
図6(a)〜(d)に例示されるように、1つもしくは複数の円弧状、または、スパイラル形状の一部のみであってもよい。
図6(a)では管板120内に2つの円弧状の補強繊維布125が配置されている。
図6(b)では1つの円弧状の補強繊維布125が配置されている。
図6(c)では直径の異なる複数の円上のそれぞれにおいて、2つの円弧状の補強繊維布125が配置されている。
図6(d)では、管板内部の所定位置から管板外周面へとスパイラル状に延びる補強繊維布125が、周方向に沿って複数配置されている。
【0055】
図7に示すように、スパイラル形状の一部のみを形成するように、補強繊維布125を配置してもよい。
図7では、管板120内の中央部付近にのみ補強繊維布125が配置されている。