(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(B)繊維状充填剤は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、または石コウ繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)PPS樹脂
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【化1】
【0018】
(A)PPS樹脂は、耐熱性の観点からは上記構造式(I)で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造の少なくとも一つを有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0020】
上記化2で示す構造の少なくとも一つを一部に有するPPS共重合体は、PPSホモポリマーに比べて融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0021】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、クロロホルム抽出量が1.8質量%以下であることが好ましく、さらには1.0質量%以下であることがより好ましい。(A)PPS樹脂のクロロホルム抽出量が1.8質量%を越える場合、より優れたウェルド強度を得ることが困難となり、また後述する低塩素化を図る上でも困難となる。かかるクロロホルム抽出量が1.8質量%以下のPPS樹脂を得るには、後述する後処理工程で、有機溶剤洗浄する方法が好ましく用いられる。
【0022】
なお本発明におけるクロロホルム抽出量は、ソックスレー抽出器を用いて測定した値である。測定は、(A)PPS樹脂サンプルを約10g、クロロホルム200mlを用いて、ソックスレー抽出器にて5時間抽出し、その抽出液を50℃で乾燥し、得られた残さを仕込み(A)PPS樹脂サンプル量で割り返し、100をかけてパーセンテージ表記としたものである。
【0023】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れたウェルド強度と良流動性を両立させる観点および後述する低塩素化を図る観点から、その溶融粘度は、400〜2000Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)の範囲が好ましく、400〜1300Pa・s以下の範囲がより好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を併用して用いてもよい。
【0024】
なお、本発明における溶融粘度は、320℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0025】
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(A)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではもちろんない。
【0026】
まず、(A)PPS樹脂の製造方法において使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について個々に説明する。
【0027】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0028】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(A)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0029】
[スルフィド化剤]
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0031】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0032】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0033】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0034】
本発明において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0035】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0036】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0037】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0038】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0039】
[分子量調節剤]
本発明においては、生成する(A)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0040】
[重合助剤]
本発明においては、重合度調節のために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(A)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩、水、塩化リチウムが好ましく用いられる。
【0041】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0042】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0043】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0044】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0045】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0046】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0047】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0048】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0049】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。
【0050】
次に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0051】
[前工程]
本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0052】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0053】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0054】
[重合反応工程]
本発明においては、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0055】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0056】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0057】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
【0058】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0059】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0060】
[回収工程]
本発明で用いる(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。本発明で用いる(A)PPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
【0061】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0062】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm
2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
【0063】
[後処理工程]
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0064】
酸処理を行う場合は次のとおりである。本発明で(A)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(A)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(A)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0065】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を60〜200℃、好ましくは60〜100℃に加熱した中に(A)PPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施された(A)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0066】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。本発明において使用する(A)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0067】
本発明の熱水洗浄による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(A)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(A)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(A)PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0068】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。
【0069】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。本発明で(A)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(A)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0070】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(A)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0071】
本発明においては、上記のようにして得られた(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を、アルカリ土類金属塩を含む水による洗浄処理を施すことが好ましい。
【0072】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を、アルカリ土類金属塩を含む水で洗浄する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。アルカリ土類金属塩の種類としては特に制限は無いが、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が好ましい例として挙げられ、特に酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ土類金属塩を含む水の温度は、室温〜200℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。上記水中におけるアルカリ土類金属塩の使用量は、乾燥(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂1kgに対し0.1g〜50gであることが好ましく、0.5g〜30gであることがより好ましい。洗浄時間としては0.5時間以上が好ましく、1.0時間以上がより好ましい。また好ましい洗浄浴比(乾燥(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂単位質量当たりのアルカリ土類金属塩を含む温水使用量)は洗浄時間、温度にもよるが、乾燥(A)ポリフェニレンスルフィド1kg当たり、上記アルカリ土類金属を含む温水を5kg以上用いて洗浄することが好ましく、10kg以上用いて洗浄することがより好ましい。上限としては特に制限はなく、高くてもよいが、使用量と得られる効果の点から100kg以下であることが好ましい。アルカリ土類金属塩を含む水による洗浄は、数回行なうことが好ましい。洗浄に用いるアルカリ土類金属塩を含む水は、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。アルカリ土類金属塩を含む水による洗浄後の(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂中のアルカリ土類金属塩の濃度は、200〜2000ppmであることが好ましい。
【0073】
(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の降温結晶化温度を195℃〜220℃の範囲に調整するためには、(A)PPS樹脂として、アルカリ土類金属塩を含む水で洗浄したものを併用することが好適であるが、使用する(A)PPS樹脂を、上記した化学式2の構造で表されるモノマー成分を有するPPS共重合体から選択したり、後述する(B)繊維状充填剤と(A)PPS樹脂との配合比を調整すること、その他の添加剤を添加する等の方法により、降温結晶化温度を調整してもよい。降温結晶化温度の調整のために、(A)PPS樹脂としてPPS共重合体を選択する場合は、共重合成分として、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物を用いることが好ましい。
【0074】
なお、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂中のアルカリ土類金属の含有量は以下に従って測定することができる。白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケーター内で乾燥する。本白金皿の重量を、化学天秤を用いて0.1mgまで精秤する。この値をAgとする。次に、ボリマー試料を白金皿の中におよそ5g採り、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1mgまで精秤する。この値をBgとする。その後、ステンレスバットにボリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、次いで高温オーブン設定を500℃に上げ、500℃に達してから5時間焼成する。処理後、高温オーブン温度が300℃以下になるまで冷却し、300℃以下に達した後白金皿を乗せたステンレスバットを取り出し、デシケーター内で処理後の白金皿を12時間保管する。その後、白金皿をデシケーター中から取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ、6時間焼成する。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に炭化物(黒色)が完全に無くなっていることを確認する。なお、僅かでも炭化物が認められる場合は、焼成をさらに実施する。焼成終了後、白金皿をマッフル炉から白金皿を取り出し、汚れのないステンレスバットに乗せデシケーター内で30分冷却する。次いで、白金皿内に純水:塩酸=1:1(以下1:1塩酸と称する)の液体を2ml加える。塩酸は特級品を使用する。その後、ホットプレートを用い1:1塩酸の入った白金皿を加熱する。加熱は溶液が緩く沸騰する程度で実施する。蒸発乾固近くまでになったら加熱を止め、白金皿を室温に冷却する。その後、“TPX(登録商標)”(三井化学(株))製50mlメスフラスコに“TPX(登録商標)”(三井化学(株))製ロートを用いて白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分けメスフラスコ内に入れ、メスフラスコの標線をイオン交換水で合わせる。このように調整した試料液を用い、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定実施し、測定値を得る。
【0075】
なお、測定前には分析する金属と同じ金属を含む標準液を用い検量線を作成し、本検量線を基に金属濃度を算出する。測定値が検量線を外れる場合、試料液をXml採取し、イオン交換水で希釈しYmlにし、検量線の範囲に来るよう濃度を調整する。このように調整した試料液を用い測定した値をCppmとする。以上の数値を用い、以下に従って金属濃度を算出する。
濃度[ppm]=C/(B−A)×50×Y/X
【0076】
本発明において用いる(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0077】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0078】
しかしながら、高ウェルド強度と優れた溶融流動性を両立する観点からは、架橋構造の導入はあまり好ましくなく、直鎖状PPSであることが好ましく、MFRは50〜1200g/10分が好ましい。
【0079】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0080】
かかる好適な(A)PPS樹脂の製品例としては、東レ株式会社製、M2888、M2588、M2088、T1881、E2280、E2180、E2080、GR01などが挙げられる。
【0081】
また、本発明で使用する(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂は、機械的強度、流動性、降温結晶化温度の観点から、アルカリ土類金属塩を含む水による洗浄処理を施したポリフェニレンサルファイド樹脂と通常の処理をしたポリフェニレンサルファイド樹脂を併用することが好ましい。
【0082】
ここで降温結晶化温度とは、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を340℃×5分ホットプレスし、これを水中に急冷して厚み50マイクロメートルのフィルムを調製し、該フィルム10mgをサンプルとして、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC7を用いて、50℃から20℃/分で340℃まで昇温し、340℃で1分保持した後、20℃/分で降温した際に検出される結晶化ピーク温度を指す。この温度が高いほど結晶化速度が速いことを示す。
【0083】
本発明においては、射出成形品の機械的強度向上のために、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂100質量部に対して、(B)繊維状充填剤を10〜100質量部配合することが必須である。20〜90質量部の範囲がより好適であり、30〜80質量部の範囲が更に好適であり、機械的強度と良流動性を両立させる上で特に好ましい態様の一つである。
【0084】
(B)繊維状充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維が挙げられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら(B)繊維状充填材を、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でもガラス繊維、炭素繊維がより好適に用いられる。
【0085】
また、本発明において、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂100質量部に対して、(C)炭素数12〜炭素数21の脂肪酸と、亜鉛、カルシウムまたはマグネシウムとの塩である脂肪酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種を0.01〜0.8質量部配合することが必須である。0.02〜0.6質量部の範囲がより好適であり、0.05〜0.4質量部の範囲が更に好適であり、耐湿熱性の観点から特に好ましい態様の一つである。一方、0.8質量部を越える範囲では、強度、耐湿熱性の低下およびガス発生分が増加するため好ましくない。
【0086】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、その降温結晶化温度が195℃〜220℃であることが必要であり、197℃〜215℃の範囲がより好適であり、200℃〜210℃の範囲が、より優れた射出成形性を兼備する観点から更に好適である。一方、樹脂組成物の降温結晶化温度が195℃未満であると、機械的強度の観点から好ましくなく、降温結晶化温度が220℃より高い場合、成形性が悪くなるため、好ましくない。
【0087】
通常アルカリ土類金属を200〜2000ppm含有するポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、結晶化速度が遅くなる、すなわち降温結晶化温度が低くなる傾向にある。結晶化速度が遅いと、射出成形などで成形した場合、固化が遅くなるため、成形時の冷却時間が長くなり、単位時間当たりの成形片取得数が減り、経済的に不利益となる。しかしながら、大型射出成形品の場合、固化速度が速いと、樹脂の充填途中で固化が始まり、ショートショットといった不具合や、ガラス浮きなどの外観不良が発生するため、良好な成形品を得るために意図的に降温結晶化温度を下げる必要性がある。
【0088】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、大型射出成形に対して良好な成形品を得るために、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂がアルカリ土類金属を含むことが好ましく、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂は、(a−1)降温結晶化温度が220℃以上250℃以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂10〜90質量部と、(a−2)降温結晶化温度が170℃以上220℃未満であるアルカリ土類金属を含むポリフェニレンサルファイド樹脂90〜10質量部を併用することが好ましい。降温結晶化温度が220℃以上250℃以下である(a−1)ポリフェニレンサルファイド樹脂30〜70質量部、降温結晶化温度が170℃以上220℃未満であるアルカリ土類金属を含む(a−2)ポリフェニレンサルファイド樹脂70〜30質量部の範囲がより好適であり、また、前者が40〜60質量部、後者が60〜40質量部の範囲が更に好適であり、降温結晶化温度、機械的強度、良流動の観点から特に好ましい態様の一つである。このような比率で、降温結晶化温度が220℃以上250℃以下である(a−1)ポリフェニレンサルファイド樹脂と、降温結晶化温度が170℃以上220℃未満であるアルカリ土類金属を含む(a−2)ポリフェニレンサルファイド樹脂とを併用することで、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の降温結晶化温度を195℃以上220℃以下に調整することが容易となるので、好ましい。そして、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の降温結晶化温度を195℃以上220℃以下とすることで、大型射出成形の成形性に優れ、成形品としたときの機械的性質にも優れるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物とすることができる。
【0089】
さらに、本発明のPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、(D)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、特に(d−1)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するシラン化合物を添加してもよい。
【0090】
(d−1)シラン化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基を有するアルコキシシランが優れたウェルド強度を得る上で特に好適である。
【0091】
(D)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基及びウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する化合物の好適な添加量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部に対し、0.1〜2質量部の範囲が選択される。
【0092】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシル基やカルボン酸エステル基や酸無水物基やエポキシ基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などが挙げられる。
【0093】
なお、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0094】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0095】
一方、大型射出成形品は通常、型締め力が1000トン以上の射出成形機を用いて、成形される。また、樹脂の充填容量が2L以上100L以下の大型成形品の場合、厚みが10mm以下では、特にショートショットなどの成形不良が起きやすいが、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、微細構造を有する大型射出成形品とした場合においてもショートショットの発生が防止できる等成形性に優れるものである。
【0096】
このようにして得られる本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に大型射出成形用途に適している。
【0097】
以上のように、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、耐湿熱性に優れ、降温結晶化温度が低いことから、例えば、建材部品、自動車部品、建機部品、農機部品のような大型成形品に特に好適に用いられる。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0099】
[(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂のMFRの測定]
(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂のMFRは、315.5℃、5000gの荷重の条件で、ASTM−D1238−70に従い、東洋精機製F−B01を用いて測定した。
【0100】
[ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物のMFRの測定]
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物のMFRは、315℃、2160gの荷重の条件で、ISO1133に従い、東洋精機製C−5059D2−1を用いて測定した。
【0101】
[降温結晶化温度の測定]
(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の降温結晶化温度は以下のように測定した。試料を340℃×5分ホットプレスし、これを水中に急冷して得られた厚み50マイクロメートルのフィルムを調製し、10mgのサンプルをパーキンエルマー社製の示差操作熱量計DSC7を用いて、50℃から20℃/分で340℃まで昇温し、340℃で1分保持した後、20℃/分で降温した際に検出される結晶化ピーク温度を測定した。
【0102】
[曲げ強度の測定]
ASTM D790に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。本発明のPPS樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度320℃、金型温度150℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、射出圧力=成形下限圧力+15kgf/cm
2のゲージ圧にて射出成形を行い、幅12.7mm×高さ6.4mm×長さ127mmの試験片を得た。この試験片を用い、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、スパン100mm、歪み速度3mm/minの条件で測定を行った。
【0103】
[PCT処理後の曲げ強度]
ASTM D790に準じた曲げ試験片を121℃、100%RH、2atm、100時間の条件下で、ダバイエスペック社製高度加速寿命試験装置(EHS-221M)を用いて、プレッシャークッカー処理(PCT)を行い、処理後の試験片の曲げ強度を測定した。
【0104】
[加熱減量の測定]
PPS樹脂組成物のペレット10gをアルミカップにいれ、150℃の雰囲気で1時間予備乾燥した。ペレット質量を測定し、320℃の雰囲気で2時間処理後、再度ペレット質量を測定した。320℃の処理による質量の減量分を、処理前のペレット質量で除してパーセント表示したのが加熱減量である。
【0105】
[大型成形性]
PPS樹脂組成物ペレットを、700mm×500mm×7mmの平板金型を用いて、9点ゲートで射出成形を行った。装置は日本製鋼所社製射出成形機(J1000AD)を用い、シリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定し、射出成形品を得た。PPS樹脂組成物が金型内にフル充填された場合を○、ショートショットの場合を×とした。
【0106】
以下に、実施例および比較例で使用した材料を示す。
【0107】
[PPS樹脂]
(A−1):撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0108】
その後反応容器を200℃まで冷却し、反応容器内にp−ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0109】
内容物を約35リットルのNMP中に投入しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水中に投入し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水中に投入し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水中に投入し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS樹脂(A−1)を得た。
【0110】
得られた(A−1)PPS樹脂は、MFRが300g/10分であった。また、降温結晶化温度は235℃であった。
【0111】
(A−2):撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27Kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.96Kg(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.43Kg(115.34モル)、酢酸ナトリウム2.58Kg(31.50モル)、及びイオン交換水10.50Kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78KgおよびNMP0.28Kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0112】
次に反応容器にp−ジクロロベンゼン10.36Kg(70.49モル)、NMP9.01Kg(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0113】
内容物を取り出し、26.30KgのNMP中に投入後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31.90KgのNMPで洗浄、濾別した。これを、56.00Kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05質量%酢酸カルシウム一水和物水溶液70.00Kgを加え、70℃で30分間攪拌して洗浄、濾別した。70.00Kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥することにより、乾燥PPS樹脂(A−2)を得た。得られた(A−2)PPS樹脂は、MFRが100g/10分で、カルシウムの含有量は500ppmであり、また降温結晶化温度は175℃であった。
【0114】
[繊維状充填材]
(B−1)ガラス繊維:日本電気硝子社製、ガラスチョップドストランドECS 03 T−760H (平均繊維直径10.5μm)
【0115】
[脂肪酸金属塩]
(C−1)ステアリン酸亜鉛:勝田化工社製、EZ−103
(C−2)ベヘン酸亜鉛:勝田化工社製、ZS−7B
(C−3)ラウリン酸亜鉛:勝田化工社製、EZ−303
(C−4)ステアリン酸カルシウム:勝田化工社製、EC−102
(C−5)ステアリン酸マグネシウム:勝田化工社製、EM−100
(C−6)ステアリン酸リチウム:勝田化工社製、St−Li
【0116】
[シランカップリング剤]
(D−1)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、SH6040
【0117】
[実施例1、比較例1〜4]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、吐出量40kg/h、スクリュー回転数200rpm、シリンダー出口樹脂温度が380℃となるように温度を設定した日本製鋼所社製TEX44型2軸押出機(L/D=35)を用い、ガラス繊維以外の原料を原料供給口から添加して溶融状態とし、ガラス繊維を表1に示す質量比となるよう中間添加口から供給し、溶融混練して、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。結果を表1に示す。
【0118】
[実施例2〜6]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、吐出量40kg/h、スクリュー回転数400rpm、シリンダー出口樹脂温度が380℃となるように温度を設定した日本製鋼所社製TEX44型2軸押出機(L/D=35)を用い、ガラス繊維以外の原料を原料供給口から添加して溶融状態とし、ガラス繊維を表1に示す質量比となるよう中間添加口から供給し、溶融混練して、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例1と比較例1、2を比べると、アルカリ土類金属を含有した(A−2)ポリフェニレンサルファイド樹脂を配合することで、降温結晶化温度が明らかに下がり、大型成形性も良くなる。また、実施例1は、ステアリン酸亜鉛を配合するため、比較例1、3に比べ、100時間PCT処理後の強度保持率が明らかに優れていることがわかる。
【0121】
また、比較例4は、ステアリン酸亜鉛を過剰量である0.9質量部配合するため、初期の曲げ強度が低く、100時間PCT処理後の強度保持率も大きく低下し、また、加熱減量も増加し、ガスの発生分が多くなっていることがわかる。
【0122】
アルカリ2類金属塩ではない(C−6)ステアリン酸リチウムを配合した比較例5は、100時間PCT処理後の強度保持率が低く、耐湿熱性の観点で、アルカリ土類金属塩が優れていることがわかる。
【0123】
実施例2〜実施例6より、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、アルカリ土類金属を含む(A−2)ポリフェニレンサルファイド樹脂を配合することで、降温結晶化温度を下げることができ、また、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の(C)脂肪酸金属塩を配合することで、100時間PCT処理後の強度保持が優れていることがわかる。