(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070145
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】調節器、操作量出力方法、プログラムおよび記憶媒体
(51)【国際特許分類】
B29C 47/92 20060101AFI20170123BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20170123BHJP
G05D 23/19 20060101ALI20170123BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20170123BHJP
B29C 47/78 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
B29C47/92
G05B13/02 B
G05D23/19 J
G05D23/19 H
G05B11/36 507H
B29C47/78
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-272710(P2012-272710)
(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公開番号】特開2014-117824(P2014-117824A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】石見 太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰地
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特許第2802460(JP,B2)
【文献】
特開平05−289704(JP,A)
【文献】
特許第3211444(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0148059(US,A1)
【文献】
特開2004−227062(JP,A)
【文献】
特開2009−157691(JP,A)
【文献】
特開2006−260048(JP,A)
【文献】
特開2012−242618(JP,A)
【文献】
特開2003−114725(JP,A)
【文献】
特開2011−186589(JP,A)
【文献】
特開2009−252192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機に冷却媒体を供給することにより前記成形機を冷却する冷却装置に対し、前記成形機を冷却させる第1の操作量と、前記成形機の冷却を停止させる第2の操作量とを出力する調節器であって、
オートチューニングの実行中において、前記冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更するための変更手段と、
前記オートチューニングの実行中において、前記成形機の温度が冷却開始しきい値に到達すると、前記冷却制御周期の開始点を新たに定めるための手段とを備え、
前記変更手段は、前記成形機の温度が前記冷却開始しきい値まで上昇すると、現在の前記冷却制御周期の終了点が到来する前であっても、前記冷却装置に対して出力する操作量を前記第2の操作量から前記第1の操作量に、新たに定められた冷却制御周期の開始点において変更する、調節器。
【請求項2】
前記変更手段は、前記成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、前記冷却制御周期の途中であっても前記冷却装置に対して出力する操作量を前記第1の操作量から前記第2の操作量に変更する、請求項1に記載の調節器。
【請求項3】
成形機を加熱する加熱装置に対し、前記成形機を加熱させる第3の操作量と、前記成形機の加熱を停止させる第4の操作量とを出力するための手段と、
前記加熱装置に対して出力する操作量を、加熱制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更するための加熱操作量変更手段と、
前記成形機の温度が加熱開始しきい値に到達すると、前記加熱制御周期の開始点を新たに定めるための手段とを備え、
前記加熱操作量変更手段は、前記成形機の温度が前記加熱開始しきい値まで低下すると、前記加熱装置に対して出力する操作量を前記第4の操作量から前記第3の操作量に、新たに定められた加熱制御周期の開始点において変更する、請求項1または2に記載の調節器。
【請求項4】
前記加熱操作量変更手段は、前記成形機の温度が加熱終了しきい値まで上昇すると、前記加熱制御周期の途中であっても、前記加熱装置に対して出力する操作量を前記第3の操作量から前記第4の操作量に変更する、請求項3に記載の調節器。
【請求項5】
前記冷却制御周期よりも短い検出周期で前記成形機の温度を検出するための手段をさらに備える、請求項1〜4のいずれかに記載の調節器。
【請求項6】
前記成形機の温度変化の振幅および周期から、前記成形機の温度を目標値に一致させるためのフィードバック制御のパラメータを自動で設定するための手段をさらに備える、請求項1〜5のいずれかに記載の調節器。
【請求項7】
前記成形機は、押出成形機である、請求項1〜6のいずれかに記載の調節器。
【請求項8】
成形機に冷却媒体を供給することにより前記成形機を冷却する冷却装置に対し、前記成形機を冷却させる第1の操作量と、前記成形機の冷却を停止させる第2の操作量とを出力する操作量出力方法であって、
オートチューニングの実行中において、前記冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更するステップを備え、
前記冷却装置に対して出力する操作量を変更するステップは、前記成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、前記冷却制御周期の途中であっても、前記冷却装置に対して出力する操作量を前記第1の操作量から前記第2の操作量に変更するステップを含む、操作量出力方法。
【請求項9】
成形機に冷却媒体を供給することにより前記成形機を冷却する冷却装置に対し、前記成形機を冷却させる第1の操作量と、前記成形機の冷却を停止させる第2の操作量とを出力する調節器に、
オートチューニングの実行中において、前記冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更させ、
前記オートチューニングの実行中において、前記成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、前記冷却制御周期の途中であっても前記冷却装置に対して出力する操作量を前記第1の操作量から前記第2の操作量に変更させる、プログラム。
【請求項10】
成形機に冷却媒体を供給することにより前記成形機を冷却する冷却装置に対し、前記成形機を冷却させる第1の操作量と、前記成形機の冷却を停止させる第2の操作量とを出力する調節器に、
オートチューニングの実行中において、前記冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更させ、
前記オートチューニングの実行中において、前記成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、前記冷却制御周期の途中であっても、前記冷却装置に対して出力する操作量を前記第1の操作量から前記第2の操作量に変更させるプログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項11】
成形機に冷却媒体を供給することにより前記成形機を冷却する冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更する調節器であって、
オートチューニングの実行中において、前記成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、冷却制御周期の途中であっても前記冷却装置に対して出力する操作量を、前記成形機を冷却させる第1の操作量から、前記成形機の冷却を停止させる第2の操作量に変更するよう構成された、調節器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートチューニング機能を有する調節器、その調節器における制御方法、およびその調節器を実現する制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、PID制御系をはじめとするフィードバック制御系は、温度制御、速度制御、位置制御といった様々な用途で利用されている。特開2006−260048号公報(特許文献1)の第2段落に記載されているように、プラスチック減量の温度制御等においては、加熱器または冷却器に対する操作量を求め、この操作量に従って加熱器および冷却器の作動をそれぞれ制御するように構成される。
【0003】
また、フィードバック制御系では、目標値の変更に対する応答性や外乱に対する収束性を高めるために、比例ゲイン、積分時間、微分時間といった制御パラメータを制御対象に応じて最適化することが重要である。
【0004】
しかしながら、フィードバック制御系についての知識のないユーザが制御パラメータを最適化することは容易ではない。そのため、このような制御パラメータを自動的に最適化するオートチューニング機能が開発および実用化されている。このようなオートチューニング機能の代表例としては、ステップ応答法、限界感度法(非特許文献1参照)、リミットサイクル法(特許文献2および3参照)などが知られている。
【0005】
具体的には、特開平05−289704号公報(特許文献2)は、加熱および冷却2種類のPID演算機能を有する加熱冷却調節計を開示する。この加熱冷却調節計は、加熱および冷却オートチューニング機能を有している。特開2004−227062号公報(特許文献3)は、加熱アクチュエータに操作量を出力するヒートモードと冷却アクチュエータに操作量を出力するクールモードとを適宜切り換えて温度制御を行うヒートクール制御技術を開示している。このヒートクール制御技術は、操作量振幅が一定のリミットサイクルを発生させて制御パラメータを調整するリミットサイクルオートチューニング方法を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−260048号公報
【特許文献2】特開平05−289704号公報
【特許文献3】特開2004−227062号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.G.Ziegler and N.B.Nichols, "Optimum Settings for Automatic Controllers", TRANSACTIONS OF THE A.S.M.E., November, 1942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
たとえば特許文献2の第11,12段落等に記載されているように、オートチューニングの実施の際には、設定値に対する測定値の偏差eの符号がマイナス時すなわち加熱側であるときの操作量と、偏差eの符号がプラス時すなわち冷却側であるときの操作量とは異なる。よって、偏差eの符号が変われば、操作量を変える必要がある。
【0009】
しかしながら、操作量のサイクルタイムの途中で偏差eの符号が変化しても、次のサイクルタイムが始まるまでは操作量を変更することができない。よって、操作量の変更に関して遅れが生じ得る。この遅れが、オートチューニングの精度に悪影響を及ぼし得る。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、操作量の変更遅れを小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
成形機に冷却媒体を供給することにより成形機を冷却する冷却装置に対し、成形機を冷却させる第1の操作量と、成形機の冷却を停止させる第2の操作量とを出力する調節器は、冷却装置に対して出力する操作量を、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更するための変更手段と、成形機の温度が冷却開始しきい値に到達すると、冷却制御周期の開始点を新たに定めるための手段とを備える。成形機の温度が冷却開始しきい値まで上昇すると、冷却装置に対して出力する操作量を第2の操作量から第1の操作量に、新たに定められた冷却制御周期の開始点において変更される。成形機には、押出成形機、射出成形機、プレス成形機などのいずれであってもよい。冷却媒体は、水および油などの液体、空気などの気体のいずれであってもよい。これにより、成形機の温度が冷却開始しきい値まで上昇すれば、成形機を速やかに冷却することができる。
【0012】
成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すると、冷却制御周期の途中であっても、冷却装置に対して出力する操作量を第1の操作量から第2の操作量に変更するようにしてもよい。冷却制御周期の途中で成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すれば、操作量を、成形機を冷却させる第1の操作量から、成形機の冷却を停止させる第2の操作量へ速やかに変更することが可能である。よって、操作量の変更遅れを小さくすることができる。
【0013】
成形機の温度が冷却開始しきい値に到達すると、冷却制御周期の開始点を新たに定め、成形機の温度が冷却開始しきい値まで上昇すると、冷却装置に対して出力する操作量を第2の操作量から第1の操作量に、新たに定められた冷却制御周期の開始点において変更してもよい。これにより、成形機の温度が冷却開始しきい値まで上昇すれば、成形機を速やかに冷却することができる。
【0014】
調節器は、成形機を加熱する加熱装置に対し、成形機を加熱させる第3の操作量と、成形機の加熱を停止させる第4の操作量とを出力するための手段と、加熱装置に対して出力する操作量を、加熱制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更するための加熱操作量変更手段と、成形機の温度が加熱開始しきい値に到達すると、加熱制御周期の開始点を新たに定めるための手段とを備えてもよい。加熱操作量変更手段は、成形機の温度が加熱開始しきい値まで低下すると、加熱装置に対して出力する操作量を第4の操作量から第3の操作量に、新たに定められた加熱制御周期の開始点において変更してもよい。
【0015】
加熱装置に対して出力する操作量を変更する時期は、加熱制御周期によって限定されるものの、加熱制御周期の途中で成形機の温度が加熱開始しきい値に到達すると、加熱制御周期の開始点が新たに設定されるため、次の周期を待たずとも、新たに設定された加熱制御周期により規定される時期に、操作量を変更できる。操作量を、成形機の加熱を停止させる第4の操作量から、成形機を加熱させる第3の操作量へ変更することにより、成形機を速やかに加熱することができる。
【0016】
成形機の温度が加熱終了しきい値まで上昇すると、加熱制御周期の途中であっても、加熱装置に対して出力する操作量を第3の操作量から第4の操作量に変更してもよい。これにより、成形機の温度が加熱終了しきい値まで上昇すれば、成形機の加熱を速やかに停止できる。
【0017】
調節器は、冷却制御周期よりも短い検出周期で成形機の温度を検出するための手段をさらに備えてもよい。短周期で温度を検出するため、温度の検出精度を向上することができる。
【0018】
調節器は、成形機の温度変化の振幅および周期から、成形機の温度を目標値に一致させるためのフィードバック制御のパラメータを自動で設定するための手段をさらに備えてもよい。フィードバック制御のパラメータが自動で設定されるため、ユーザの利便性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
冷却装置に対して出力する操作量を変更する時期は、冷却制御周期によって限定されるものの、冷却制御周期の途中で成形機の温度が冷却終了しきい値に到達すると、冷却制御周期の開始点が新たに設定されるため、次の周期を待たずとも、新たに設定された冷却制御周期の開始点において操作量を変更できる。操作量の変更内容に制約はない。そのため、成形機の温度が冷却終了しきい値まで低下すれば、操作量を、成形機を冷却させる第1の操作量から、成形機の冷却を停止させる第2の操作量へ速やかに変更することが可能である。よって、操作量の変更遅れを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施の形態に係るフィードバック制御系を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に係るフィードバック制御系を実現するシステム構成を示す模式図である。
【
図3】オートチューニングの実行時における操作量を示す図である。
【
図6】押出成形機の温度、冷却制御周期および加熱制御周期を示す図(その1)である。
【
図7】押出成形機の温度、冷却制御周期および加熱制御周期を示す図(その2)である。
【
図8】押出成形機の温度、冷却制御周期および加熱制御周期を示す図(その3)である。
【
図9】調節器が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
図1は、本実施の形態に係るフィードバック制御系1を示す模式図である。
図1を参照して、フィードバック制御系1は、調節器100と、制御対象プロセス200とを含む。制御対象プロセス200は、アクチュエータとして加熱装置210および冷却装置220を含み、これらの装置が制御対象230に対して加熱または冷却を行う。
【0023】
調節器100は、制御対象230から取得される観測量(温度)が目標値と一致するように、予め設定されたパラメータに従って、制御対象230の制御量に冷却を生じさせる冷却側の操作量、または、制御量に加熱を生じさせる加熱側の操作量を選択的に決定する。
【0024】
冷却装置220にとって、冷却側の操作量は、制御対象230を冷却させる第1の操作量であり、加熱側の操作量は、冷却を停止させる第2の操作量である。一方、加熱装置210にとって、加熱側の操作量は、制御対象230を加熱させる第3の操作量であり、冷却側の操作量は、加熱を停止させる第4の操作量である。
【0025】
したがって、基本的には、加熱と冷却とが同時になされることはなく、制御対象230の温度が予め設定された目標値と一致するように、加熱装置210による制御対象230に対する加熱、および、冷却装置220による制御対象230に対する冷却が選択的に実行される。
【0026】
このような制御を実現するため、調節器100は、フィードバックされる制御対象230の温度と予め設定される目標値とを比較して、加熱側の操作量に基づく加熱信号または冷却側の操作量に基づく冷却信号を選択的に、加熱装置210または冷却装置220へそれぞれ出力する。つまり、調節器100は、加熱装置210および冷却装置220を制御することで、制御対象230の温度を一定に保つ。また、調節器100は、加熱信号および冷却信号を介して、加熱装置210および冷却装置220に対して間接的に制御量を出力する。なお、操作量は加熱装置210および冷却装置220の種類に関わらず百分率などを用いて表される一方で、加熱信号および冷却信号は、加熱装置210および冷却装置220の種類に応じて電圧、電流、オン信号、オフ信号などの様々な形態をとり得る。よって、種々の種類の加熱装置210および冷却装置220に対応すべく、操作量から信号が生成される。
【0027】
以下の説明においては、制御対象230に属する量のうちで制御目的を代表するものを「制御量」と称し、制御対象230に設けられた温度センサなどの検出部によって取得された量を「観測量」と称する。厳密に言えば、「観測量」は「制御量」に何らかの誤差を含む値として定義されるが、この誤差を無視すれば、「観測量」は制御対象230の「制御量」とみなすことができる。そのため、以下の説明において、「観測量」と「制御量」とを同義で用いることもある。
【0028】
図1に示す制御対象プロセス200としては、任意のプロセスを含めることができるが、典型的には、押出成形機における原料の温度制御や恒温槽内の温度制御などが挙げられる。以下、押出成形機における原料の温度制御を一例として、本実施の形態の詳細な内容について説明するが、本発明の適用範囲はこのプロセスに限られるものではない。
【0029】
本実施の形態に係る調節器100を含むフィードバック制御系1は、PID制御系を含む。本明細書において、「PID制御系」は、比例動作(Proportional Operation:P動作)を行う比例要素、積分動作(Integral Operation:I動作)を行う積分要素、および微分動作(Derivative Operation:D動作)を行う微分要素のうち、少なくとも一つの要素を含む制御系を意味する。すなわち、本明細書において、PID制御系は、比例要素、積分要素および微分要素のいずれをも含む制御系に加えて、一部の制御要素、例えば比例要素および積分要素のみを含む制御系(PI制御系)なども包含する概念である。
【0030】
本実施の形態に係る調節器100は、PID制御系に必要な制御パラメータ(以下、「PIDパラメータ」とも記す。)を最適化するためのオートチューニング機能を有している。このオートチューニング機能として、調節器100は、加熱装置210および冷却装置220に対し、冷却側の操作量および加熱側の操作量を観測量に応じて出力し、交互出力によって取得された応答特性からPIDパラメータを決定する。すなわち、調節器100は、冷却側の操作量と加熱側の操作量とを交互に出力してリミットサイクルを発生させ、この発生したリミットサイクルの応答特性に基づいて、PIDパラメータが決定される。
【0031】
図2は、本実施の形態に係るフィードバック制御系1を実現するシステム構成を示す模式図である。
【0032】
図2を参照して、調節器100は、制御対象プロセス200から測定された温度(観測量:Process Value;以下「PV」とも記す。)が、入力された目標値(設定値:Setting Point;以下「SP」とも記す。)と一致するように、操作量(Manipulated Value;以下「MV」とも記す。)を出力する。調節器100は、この操作量として、加熱に係る加熱信号および冷却に係る冷却信号を出力する。
【0033】
具体的には、調節器100は、制御部110と、アナログ・デジタル(A/D)変換部からなる入力部120と、2つのデジタル・アナログ(D/A)変換部からなる出力部130と、設定部140と、表示部150とを含む。
【0034】
制御部110は、通常のPID制御機能およびオートチューニング機能などを実現するための演算主体であり、CPU(Central Processing Unit)112と、プログラムモジュール118を不揮発的に格納するFlashROM(Read Only Memory)114と、RAM(Random Access Memory)116とを含む。CPU112は、FlashROM114に格納されたプログラムモジュール118を実行することで、後述するような処理を実現する。この際、読み出されたプログラムモジュール118の実行に必要なデータ(温度PVおよび目標値SPなど)は、RAM116に一次的に格納される。CPU112に代えて、デジタル信号処理に向けられたDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成してもよい。プログラムモジュール118については、各種の記録媒体を介して、アップデータできるように構成されてよい。そのため、プログラムモジュール118自体も本発明の技術的範囲に含まれ得る。また、制御部110の全体をFPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて実現してもよい。
【0035】
入力部120は、後述する温度センサからの測定信号を受信し、その値を示す信号を制御部110へ出力する。例えば、温度センサが熱電対である場合には、入力部120は、その両端に発生する熱起電力を検出する回路を含む。あるいは、温度センサが抵抗測温体である場合には、入力部120は、当該抵抗測温体に生じる抵抗値を検出する回路を含む。さらに、入力部120は、高周波成分を除去するためのフィルタ回路を含んでいてもよい。
【0036】
出力部130は、制御部110で算出される操作量に従って、加熱信号または冷却信号を選択的に出力する。具体的には、デジタル・アナログ変換部を含む加熱側出力部132は、制御部110で算出された操作量を示すデジタル信号をアナログ信号に変換し、加熱信号として出力する。一方、デジタル・アナログ変換部を含む冷却側出力部134は、制御部110で算出された操作量を示すデジタル信号をアナログ信号に変換し、冷却信号として出力する。
【0037】
設定部140は、ユーザの操作を受け付けるボタンやスイッチなどを含み、受け付けたユーザ操作を示す情報を制御部110へ出力する。典型的には、設定部140は、ユーザから目標値SPの設定やオートチューニングの開始指令を受け付ける。
【0038】
表示部150は、ディスプレイやインジケータなどを含み、制御部110における処理の状態などを示す情報をユーザへ通知する。
【0039】
一方、制御対象プロセス200は、制御対象230(
図1)の一例である押出成形機232を含む。押出成形機232は、軸中心に設けられたスクリュー234の回転によって、その内部に挿入された原料(例えば、プラスチック)を押し出す。この原料の温度を検出するための温度センサ240が押出成形機232の内部に設けられている。温度センサ240は、一例として、熱電対や抵抗測温体(白金抵抗温度計)からなる。
【0040】
押出成形機232では、新たな原料の挿入によって吸熱する一方で、スクリュー234の回転による原料の移動によって発熱する。そのため、この吸熱反応と発熱反応とによる温度変動を抑制するために、加熱装置210および冷却装置220(いずれも
図1)が設けられる。
【0041】
図2に示すフィードバック制御系1において、加熱装置210の一例として、押出成形機232の内部に発熱体を設けた構成を採用する。
【0042】
より具体的には、加熱装置210は、ソリッドステートリレー(Solid State Relay:SSR)212と、抵抗体である電熱ヒータ214とを含む。ソリッドステートリレー212は、AC電源と電熱ヒータ214との電気的な接続/遮断を制御する。より具体的には、調節器100は、加熱信号として、操作量に応じたデューティー比を有するPWM信号を出力する。ソリッドステートリレー212は、調節器100からのPWM信号に従って、回路をON/OFFする。この回路のON/OFFの比率に応じた電力が電熱ヒータ214へ供給される。電熱ヒータ214へ供給された電力は熱になって原料へ与えられる。
【0043】
一方、冷却装置220は、押出成形機232の周囲に配置された冷却配管222と、冷却配管222へ供給される冷却媒体(典型的には、水や油)の流量を制御する電磁弁224と、電磁弁への電力供給を制御するリレー225と、冷却配管222を通過した後の冷却媒体を冷却するための水温調整設備226とを含む。電磁弁224が冷却配管222を流れる冷却媒体の流量を調整することで、冷却能力を制御する。より具体的には、調節器100は、冷却信号として、操作量に応じたデューティー比を有するPWM信号を出力する。リレー225は、調節器100からのPWM信号に従って、回路をON/OFFする。電磁弁は、回路がONにされると弁を開き、OFFにされると弁を閉じる。電磁弁224の開時間と閉時間とを調整することで、冷却媒体の流量、すなわち、押出成形機232か取り除かれる熱量が制御される。
【0044】
図3に示すように、オートチューニングが実行される際、加熱装置210ならびに冷却装置220は2値制御される。すなわち、加熱装置210は最大電力でONとされた状態(操作量100%)、あるいはOFFとされた状態(操作量0%)のいずれかとなり得る。同様に、冷却装置220は、電磁弁224を全開としてONとされた状態(操作量100%)、あるいは電磁弁224を全閉としてOFFとされた状態(操作量0%)のいずれかとなり得る。
【0045】
本実施の形態においては、調節器100から冷却側の操作量が出力されると、加熱装置210はOFFとされ、冷却装置220は、電磁弁224を全開としてONとされる。逆に、調節器100から加熱側の操作量が出力されると、加熱装置210は最大電力でONとされ、冷却装置220は電磁弁224を全開としてONとされる。
【0046】
本実施の形態においては、押出成形機232の温度が目標値SPに到達すると、操作量が変更される。より具体的には、押出成形機232の温度が目標値SPまで上昇すると、加熱側の操作量から冷却側の操作量に操作量が変更される。逆に、押出成形機232の温度が目標値SPまで低下すると、冷却側の操作量から加熱側の操作量に操作量が変更される。
【0047】
なお目標値SPの代わりに、目標値SPと同じ、あるいは異なる加熱開始しきい値、加熱終了しきい値、冷却開始しきい値、冷却終了しきい値を用いてもよい。この場合、押出成形機232の温度が加熱開始しきい値まで低下すると加熱側の操作量を出力し、押出成形機232の温度が加熱終了しきい値まで上昇すると加熱側の操作量の出力を停止してもよい。同様に、押出成形機232の温度が冷却開始しきい値まで上昇すると冷却側の操作量を出力し、押出成形機232の温度が冷却終了しきい値まで低下すると冷却側の操作量の出力を停止してもよい。加熱開始しきい値、加熱終了しきい値、冷却開始しきい値、冷却終了しきい値は、他のしきい値と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
操作量を交互に出力することにより得られた押出成形機232の温度の応答特性から、上述したように、PIDパラメータが最適化される。周知のように、加熱期間における温度の周期および振幅、ならびに冷却期間における温度の周期および振幅から、加熱装置210および冷却装置220夫々のPIDパラメータが最適化される。
【0049】
ところで、操作量の変更は、リレー225および電磁弁224等に変化をもたらすため、これらの部品の保護のため、操作量は頻繁に変更するべきではない。この目的のため、
図4に示すように、冷却装置220に対して出力される操作量は、開発者によって定められる冷却制御周期によって規定される時期に変更される。すなわち、操作量は、冷却制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更され、冷却制御周期の途中では変更されない。
【0050】
同様に、
図5に示すように、加熱装置210に対して出力される操作量は、開発者によって定められる加熱制御周期によって規定される時期に変更される。すなわち、操作量は、加熱制御周期の開始点および終了点のうちのいずれかにおいて変更され、加熱制御周期の途中では変更されない。一般的に、加熱制御周期は冷却制御周期よりも短い。また、冷却制御周期および加熱制御周期は、押出成形機232の温度の検出周期に比べて非常に大きい。
【0051】
操作量を変更可能な時期は、上述の冷却制御周期ならびに加熱制御周期によって制限されるため、オートチューニングに際し、押出成形機232の温度が目標値SPに到達する時期が冷却制御周期あるいは加熱制御周期の途中であれば、操作量の変更時期が遅れ得る。操作量の変更時期が遅れた場合、温度の正確な応答特性を得ることができないため、オートチューニングの精度が悪化し得る。
【0052】
このような不都合が無いよう、本実施の形態においては、
図6に示すように、押出成形機232の温度が目標値SPに到達すると、冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点が新たに定められる。より具体的には、押出成形機232の温度が目標値SPに到達した時点が、冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点として定められる。
【0053】
操作量は、新たに定められた冷却制御周期および加熱制御周期によって規定される時期に変更される。より具体的には、新たに定められた冷却制御周期および加熱制御周期の開始点において、操作量が変更される。上述したように、押出成形機232の温度が目標値SPまで上昇すると、加熱側の操作量から冷却側の操作量に操作量が変更される。逆に、押出成形機232の温度が目標値SPまで低下すると、冷却側の操作量から加熱側の操作量に操作量が変更される。
【0054】
なお、オートチューニングの精度は悪化するが、
図7に示すように、押出成形機232の温度が目標値SPまで低下したときのみにおいて冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点を新たに定め、冷却側の操作量から加熱側の操作量に操作量を変更してもよい。
【0055】
逆に、
図8に示すように、押出成形機232の温度が目標値SPまで上昇したときのみにおいて冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点を新たに定め、加熱側の操作量から冷却側の操作量に操作量に変更してもよい。
【0056】
上述したように、目標値SPの代わりに、加熱開始しきい値、加熱終了しきい値、冷却開始しきい値、冷却終了しきい値を用いてもよい。この場合、押出成形機232の温度が加熱開始しきい値または加熱終了しきい値に到達すると加熱制御周期の開始点を新たに定めてもよい。同様に、押出成形機232の温度が冷却開始しきい値または冷却終了しきい値に到達すると冷却制御周期の開始点を新たに定めてよい。この場合においても、加熱開始しきい値まで低下すると加熱側の操作量を出力し、押出成形機232の温度が加熱終了しきい値まで上昇すると加熱側の操作量の出力を停止してもよい。同様に、押出成形機232の温度が冷却開始しきい値まで上昇すると冷却側の操作量を出力し、押出成形機232の温度が冷却終了しきい値まで低下すると冷却側の操作量の出力を停止してもよい。
【0057】
押出成形機232の温度が加熱終了しきい値まで上昇した場合には、加熱制御周期の開始点を再設定せずに、加熱側の操作量の出力を停止してもよい。同様に、押出成形機232の温度が冷却終了しきい値まで低下した場合には、冷却制御周期の開始点を再設定せずに、冷却側の操作量の出力を停止してもよい。
【0058】
図9を参照して、調節器100によって実行される処理について説明する。以下に説明される処理は、調節器100のCPU112がFlashROM114に格納されたプログラムモジュール118に含まれる命令コードを実行することで実現される。
図9に示す処理は、ユーザなどがオートチューニングの開始を指示すると、予め定められた演算周期毎に繰返し実行される。
【0059】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、加熱側の操作量が出力される。押出成形機232の温度が目標値SPまで上昇すると(S102にてYES)、S104にて、冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点が新たに定められる。さらに、S106にて、加熱側の操作量から冷却側の操作量に操作量が変更される。
【0060】
押出成形機232の温度が目標値SPまで低下すると(S108にてYES)、S110にて、冷却制御周期ならび加熱制御周期の開始点が新たに定められる。さらに、S112にて、冷却側の操作量から加熱側の操作量に操作量が変更される。
【0061】
押出成形機232の加熱と冷却とが所定回数実行されると(S114にてYES)、S116にて、PIDパラメータが算出される。そして、オートチューニングが終了する。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 フィードバック制御系、100 調節器、110 制御部、112 CPU、114 ROM、116 RAM、118 プログラムモジュール、120 入力部、130 出力部、132 加熱側出力部、134 冷却側出力部、140 設定部、150 表示部、200 制御対象プロセス、210 加熱装置、212 ソリッドステートリレー、214 電熱ヒータ、220 冷却装置、222 冷却配管、224 電磁弁、225 リレー、226 水温調整設備、230 制御対象、232 押出成形機、234 スクリュー、240 温度センサ。