(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070177
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/30 20071001AFI20170123BHJP
B60K 6/10 20060101ALI20170123BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20170123BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20170123BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20170123BHJP
F16H 33/02 20060101ALI20170123BHJP
F16F 15/31 20060101ALI20170123BHJP
F03G 3/08 20060101ALI20170123BHJP
F02B 61/06 20060101ALI20170123BHJP
B60L 11/16 20060101ALI20170123BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
B60K6/30ZHV
B60K6/10
B60K6/445
B60W10/10 900
B60W20/00
F16H33/02 A
F16F15/31 B
F16F15/31 H
F03G3/08 C
F03G3/08 D
F02B61/06 F
B60L11/16
B60L11/14
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-284313(P2012-284313)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125141(P2014-125141A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】三輪 晃司
(72)【発明者】
【氏名】河合 高志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉昭
【審査官】
神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−082138(JP,A)
【文献】
特開2006−153229(JP,A)
【文献】
特開2008−296630(JP,A)
【文献】
特開2004−340017(JP,A)
【文献】
特開2007−309104(JP,A)
【文献】
特開2012−163131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00〜20/50
B60K 6/20〜 6/547
B60L 11/00〜11/18
F03G 3/00〜 3/08
F16F 15/00〜15/36
F16H 33/02
F02B 61/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
発電機と、
駆動輪に動力を伝達するための出力部と、
相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を有し、前記第1回転要素に前記内燃機関が、前記第2回転要素に前記発電機が、前記第3回転要素に前記出力部がそれぞれ接続された差動機構を含む動力分割機構と、
前記出力部に動力を出力できる電動機と、
前記内燃機関の出力軸及び前記発電機の回転軸の少なくともいずれか一方に設けられ、かつ高慣性状態及び前記高慣性状態よりも慣性モーメントが小さくなる低慣性状態に切替可能な可変慣性フライホイールと、を備えたハイブリッド車両に適用され、
前記車両に対して加速が要求された場合には、前記電動機から前記駆動輪に動力を出力する加速制御を実行し、
前記車両の減速時には、前記駆動輪から入力された動力で前記発電機を駆動して回生発電を行う回生制御を実行する制御装置において、
前記車両に対して加速が要求されている場合、前記加速制御の実行中に前記電動機から出力されているトルクが所定の切替トルクに達するまでは前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に切り替え、前記加速制御の実行中に前記電動機から出力されているトルクが前記切替トルクに達した後は前記可変慣性フライホイールを前記高慣性状態に切り替える制御手段を備えている制御装置。
【請求項2】
前記切替トルクは、前記電動機から出力可能なトルクの最大値である請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記切替トルクは、前記電動機の定格トルクである請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記車両に対して加速が要求されている場合、前記電動機から出力可能なトルクに影響を与える物理量が所定の上限値に達するまでは前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に切り替え、前記物理量が前記上限値に達した後は前記可変慣性フライホイールを前記高慣性状態に切り替える請求項1〜3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前記発電機及び前記電動機が電気的に接続されたバッテリをさらに備え、
前記制御手段は、前記バッテリを充電すべき所定の充電条件が成立している場合には、前記車両に対して加速が要求されており、かつ前記電動機から出力されているトルクが前記切替トルクに達した後も前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に維持する請求項1〜4のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動力を発電機と駆動輪に動力を伝達するための出力部とに分配可能な動力分割機構と、出力部に動力を出力可能な電動機とを備え、かつ内燃機関の出力軸又は発電機の回転軸に可変慣性フライホイールが設けられたハイブリッド車両に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動力をモータ・ジェネレータと駆動輪に動力を伝達するための出力部とに分配可能な動力分割機構と、出力部に動力を出力可能なモータ・ジェネレータとを備え、かつ内燃機関の出力軸に可変慣性フライホイールが設けられたハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両の駆動装置として、車両に対して加速が要求された場合には可変慣性フライホイールの慣性質量を小さくする駆動装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−082138号公報
【特許文献2】特許第4135690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に対して加速が要求された後は、車両に対して減速が要求される可能性が高い。特許文献1の装置では、加速要求中は可変慣性フライホイールを慣性質量が小さい低慣性状態にするので、減速が要求されたときに可変慣性フライホイールの状態を慣性質量が大きい高慣性状態に速やかに切り替えることができない。そのため、減速時に回生発電を行う場合に、回生エネルギを十分に回収できない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、加速性能を向上させつつ減速時における回生エネルギの回収量を増加させることが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置は、内燃機関と、発電機と、駆動輪に動力を伝達するための出力部と、相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を有し、前記第1回転要素に前記内燃機関が、前記第2回転要素に前記発電機が、前記第3回転要素に前記出力部がそれぞれ接続された差動機構を含む動力分割機構と、前記出力部に動力を出力できる電動機と、前記内燃機関の出力軸及び前記発電機の回転軸の少なくともいずれか一方に設けられ、かつ高慣性状態及び前記高慣性状態よりも慣性モーメントが小さくなる低慣性状態に切替可能な可変慣性フライホイールと、を備えたハイブリッド車両に適用され、前記車両に対して加速が要求された場合には、前記電動機から前記駆動輪に動力を出力する加速制御を実行し、前記車両の減速時には、前記駆動輪から入力された動力で前記発電機を駆動して回生発電を行う回生制御を実行する制御装置において前記車両に対して加速が要求されている場合、
前記加速制御の実行中に前記電動機から出力されているトルクが所定の切替トルクに達するまでは前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に切り替え、
前記加速制御の実行中に前記電動機から出力されているトルクが前記切替トルクに達した後は前記可変慣性フライホイールを前記高慣性状態に切り替える制御手段を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の制御装置では、車両に対して加速が要求されている場合、電動機から出力されているトルク(以下、出力トルクと称する。)が切替トルクに達するまでは可変慣性フライホイールを低慣性状態に切り替える。そのため、内燃機関の回転数を速やかに上昇させることができる。そのため、内燃機関の出力を増大させるために要する時間を短縮できる。また、可変慣性フライホイールの慣性モーメントを小さくすることにより、内燃機関の回転数を上昇させるために必要なエネルギを低減できる。これにより、例えば内燃機関の動力の一部で発電機を駆動し、発電機で発生した電力を電動機に回すことができる。この場合、電動機の出力トルクを速やかに上昇させることができるので、加速レスポンスを向上させることができる。そのため、加速性能を向上させることができる。
【0008】
また、本発明の制御装置では、電動機の出力トルクが切替トルクに達した後は可変慣性フライホイールを高慣性状態に切り替える。そのため、減速時に最初から可変慣性フライホイールを高慣性状態にしておくことができる。周知のように慣性モーメントが大きい方が回生時に回収可能なエネルギを増加させることができる。そのため、本発明によれば、減速時における回生エネルギの回収量を増加させることができる。
【0009】
本発明の制御装置の一形態において、前記切替トルクは、前記電動機から出力可能なトルクの最大値であってもよい(請求項2)。電動機の出力トルクがこの最大値に達した場合には、電動機の出力トルクをこれ以上増加させることができない。そのため、可変慣性フライホイールを高慣性状態に切り替えても加速レスポンスが悪化しない。
【0010】
本発明の制御装置の一形態において、前記切替トルクは、前記電動機の定格トルクであってもよい(請求項3)。一般に電動機は定格トルクで動作させる。そのため、電動機の出力トルクが定格トルクに達した後は、電動機がその定格トルクで運転される可能性が高い。この場合、電動機の出力トルクがこれ以上増加しないので、可変慣性フライホイールを高慣性状態に切り替えても加速レスポンスが悪化しない。
【0011】
本発明の制御装置の一形態において、前記制御手段は、前記車両に対して加速が要求されている場合、前記電動機から出力可能なトルクに影響を与える物理量が所定の上限値に達するまでは前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に切り替え、前記物理量が前記上限値に達した後は前記可変慣性フライホイールを前記高慣性状態に切り替えてもよい(請求項4)。このような物理量が上限値に達した場合には、電動機の出力トルクを増加させることができなくなる。そのため、物理量が上限値に達した後は可変慣性フライホイールを高慣性状態に切り替えても加速レスポンスが悪化しない。
【0012】
本発明の制御装置の一形態において、前記車両は、前記発電機及び前記電動機が電気的に接続されたバッテリをさらに備え、前記制御手段は、前記バッテリを充電すべき所定の充電条件が成立している場合には、前記車両に対して加速が要求されており、かつ前記電動機から出力されているトルクが前記切替トルクに達した後も前記可変慣性フライホイールを前記低慣性状態に維持してもよい(請求項5)。可変慣性フライホイールを低慣性状態に維持することで、発電機の駆動に用いることができるエネルギを増加させることができる。これにより発電量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、電動機の出力トルクが切替トルクに達するまでは可変慣性フライホイールを低慣性状態に切り替え、電動機の出力トルクが切替トルクに達した後は可変慣性フライホイールを高慣性状態に切り替えるので、加速性能を向上させつつ減速時における回生エネルギの回収量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両を概略的に示す図。
【
図3】車両制御装置が実行するフライホイール制御ルーチンを示すフローチャート。
【
図4】車両に対して加速が要求されているときの可変慣性フライホイールの状態、第2MGの出力トルク、及びエンジンのトルクの時間変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両のスケルトン図を示している。この車両1はいわゆるハイブリッド車両として構成されている。車両1は、内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)11と、第1モータ・ジェネレータ(以下、第1MGと略称することがある。)12と、第2モータ・ジェネレータ(以下、第2MGと略称することがある。)13とを備えている。エンジン11は、ハイブリッド車両に搭載される周知のものであるため、詳細な説明を省略する。第1MG12及び第2MG13は、電動機及び発電機として機能する周知のモータ・ジェネレータである。第1MG12は、ロータ軸12aと一体回転するロータ12bと、ロータ12bの外周に同軸に配置されてケース(不図示)に固定されたステータ12cとを備えている。第2MG13も同様に、ロータ軸13aと一体回転するロータ13bと、ロータ13bの外周に同軸に配置されてケースに固定されたステータ13cとを備えている。
【0016】
エンジン11の出力軸11a及び第1MG12のロータ軸12aは、動力分割機構14と接続されている。動力分割機構14には、車両1の駆動輪2に動力を伝達するための出力部15も接続されている。出力部15は、第1ドライブギヤ16と、第1ドライブギヤ16と噛み合うとともにカウンタ軸17に固定されたカウンタギヤ18と、カウンタ軸17に固定された出力ギヤ19とを備えている。出力ギヤ19は、デファレンシャル機構20のケースに設けられたリングギヤ20aと噛み合っている。デファレンシャル機構20は、リングギヤ20aに伝達された動力を左右の駆動輪2に分配する周知の機構である。なお、
図1では左右の駆動輪2のうちの一方のみを示す。
【0017】
動力分割機構14は、差動機構としての遊星歯車機構21を備えている。遊星歯車機構21は、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、外歯歯車であるサンギヤSと、そのサンギヤSに対して同軸的に配置された内歯歯車としてのリングギヤRと、これらのギヤS、Rに噛み合うピニオンギヤPを自転可能かつサンギヤSの周囲を公転可能に保持するキャリアCとを備えている。サンギヤSは、第1MG12のロータ軸12aと連結されている。キャリアCは、エンジン11の出力軸11aと連結されている。リングギヤRは、第1ドライブギヤ16と連結されている。そのため、サンギヤSが本発明の第2回転要素に、キャリアCが本発明の第1回転要素に、リングギヤRが本発明の第3回転要素にそれぞれ相当する。
【0018】
この図に示すように第2MG13のロータ軸13aには、第2ドライブギヤ22が設けられている。第2ドライブギヤ22は、カウンタギヤ18と噛み合っている。第1MG12は、インバータ23を介してバッテリ24と電気的に接続されている。同様に、第2MG13もインバータ25を介してバッテリ24と電気的に接続されている。
【0019】
エンジン11の出力軸11aには、慣性モーメントを変化させることが可能な可変慣性フライホイール(以下、フライホイールと略称することがある。)30が設けられている。
図2は、フライホイール30の断面を示している。この図に示したようにフライホイール30は、互いに組み合わされた第1ホイール31及び第2ホイール32を備えている。第1ホイール31は出力軸11aと一体回転するように出力軸11aに取り付けられている。第2ホイール32は第1ホイール31に対して相対回転可能なように軸受Bを介して第1ホイール31に支持されている。フライホイール30は第1ホイール31と第2ホイール32との間に介在する磁性流体Mfと、その磁性流体Mfに磁場を作用させるためのステータコイル33とをさらに備えている。磁性流体Mfは磁場の作用により粘性が高まる周知の流体である。ステータコイル33は回転不能なようにケース(不図示)に固定される。磁性流体Mfは、第1ホイール31と第2ホイール32との間に形成された流体収容室34に収容されている。この流体収容室34は、その内部と外部とが一対のシール装置35にて仕切られている。
【0020】
このフライホイール30では、ステータコイル33に電力が供給されると、第1ホイール31と第2ホイール32との間の溝部36及び流体収容室34に存在する磁性流体Mf及びその周囲に磁場が発生する。この図に示すようにステータコイル33が発生させる磁場の磁束aは、主にステータコイル33、第2ホイール32、及び第1ホイール31を経由するように流れる。そのため、この磁場は第1ホイール31と第2ホイール32との間に介在する磁性流体Mfに作用する。磁場の作用により磁性流体Mfの粘性が高まるので、第1ホイール31と第2ホイール32とが一体回転するように互いに結合する。これにより、これらが相対回転する場合に比べて慣性質量が増加する。以下、この状態を高慣性状態と称することがある。
【0021】
一方、磁場が発生していない場合には、第1ホイール31と第2ホイール32とが互いに相対回転するので、高慣性状態と比較して慣性質量が減少する。以下、この状態を低慣性状態と称することがある。
【0022】
フライホイール30は車両制御装置40にて制御される。また、エンジン11、第1MG12、及び第2MG13の動作も車両制御装置40にて制御される。車両制御装置40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。車両制御装置40は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。車両制御装置40は、これらのプログラムを実行することによりエンジン11及び各MG12、13等の制御対象に対する制御を行っている。なお、車両制御装置40は、各インバータ23、25を制御することにより各MG12、13を制御する。車両制御装置40には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。車両制御装置40には、例えばアクセル開度センサ41、SOCセンサ42、及び車速センサ43が接続されている。アクセル開度センサ41は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル開度に対応した信号を出力する。SOCセンサ42は、バッテリ24の充電状態に対応した信号を出力する。車速センサ43は、車両1の速度(車速)に対応した信号を出力する。この他にも車両制御装置40には種々のセンサやスイッチ等が接続されているが、それらの図示は省略した。
【0023】
車両制御装置40は、車両1に対して加速が要求された場合には、加速制御を実行する。この加速制御では、第2MG13を電動機として機能させ、第2MG12から動力を出力して駆動輪2を駆動する。なお、エンジン11で駆動輪2を駆動しているときに加速が要求された場合には、加速制御を実行して第2MG13で駆動輪2の駆動をアシストする。また、車両制御装置40は、車両1の減速時に回生制御を実行する。この回生制御では、各MG12、13を発電機として機能させる。そして、駆動輪2から入力された動力で各MG12、13を駆動し、これにより回生発電を行う。回生発電で発生した電力は、バッテリ24に充電される。
【0024】
図3は、フライホイール30を制御するために車両制御装置40が実行するフライホイール制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、車両1が走行中か否かに拘わりなく所定の周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンを実行することにより、車両制御装置40が本発明の制御手段として機能する。
【0025】
この制御ルーチンにおいて車両制御装置40は、まずステップS11で車両1の状態を取得する。車両1の状態としては、例えば車速、アクセル開度及びバッテリ24の充電状態が取得される。また、この処理では、第2MG13から出力されているトルク(以下、出力トルクと称することがある。)及び回転数も取得される。上述したように第2MG13は車両制御装置40が制御している。そのため、この出力トルクは、例えばインバータ25への制御指示値に基づいて取得すればよい。第2MG13の回転数は、車速に基づいて算出すればよい。この処理では、この他にも車両1に関する種々の情報が取得されるがそれらの説明は省略する。次のステップS12において車両制御装置40は、車両1に対して加速が要求されているか否か判定する。この判定は、例えばアクセル開度に基づいて周知の判定方法で行えばよい。加速が要求されていないと判定した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
一方、加速が要求されていると判定した場合はステップS13に進み、車両制御装置40は切替トルクを算出する。この切替トルクには、第2MG13から出力可能なトルクの最大値(以下、最大トルクと称することがある。)が設定される。周知のようにモータ・ジェネレータの最大トルクは、モータ・ジェネレータの仕様で決まっている。また、モータ・ジェネレータの最大トルクは、モータ・ジェネレータの回転数に応じて定まる。そこで、予め実験や数値計算等により第2MG13の回転数と最大トルクとの関係を求め、車両制御装置40のROMにマップとして記憶させておけばよい。そして、この第2MG13の回転数及びこのマップに基づいて第2MG13の最大トルク、すなわち切替トルクを算出すればよい。
【0027】
次のステップS14において車両制御装置40は、第2MG13の出力トルクが切替トルク以上か否か判定する。第2MG13の出力トルクが切替トルク未満と判定した場合はステップS15に進み、車両制御装置40はフライホイール30を低慣性状態に切り替える。なお、既にフライホイール30が低慣性状態であった場合にはその状態を維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
一方、第2MG13の出力トルクが切替トルク以上と判定した場合はステップS16に進み、車両制御装置40は所定の充電条件が成立しているか否か判定する。この充電条件は、バッテリ24の残量が所定の判定値より少なく、バッテリ24の充電を行う必要ある場合に成立したと判定される。なお、充電条件が成立している場合、第1MG12を発電機として機能させ、エンジン11から出力された動力で第1MG12を駆動する。そして、これにより発生した電力をバッテリ24に充電する。充電条件が成立していると判定した場合はステップS14に進み、車両制御装置40はフライホイール30を低慣性状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0029】
一方、充電条件が不成立と判定した場合はステップS17に進み、車両制御装置40はフライホイール30を高慣性状態に切り替える。なお、既にフライホイール30が高慣性状態であった場合にはその状態を維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0030】
図4は、車両1に対して加速が要求されているときのフライホイール30の状態、第2MG13の出力トルク、及びエンジン11のトルクの時間変化の一例を示している。なお、時刻t1より少し手前から第2MG13の最大トルクが徐々に減少しているが、これは時間が経過して車速が上昇したことによるものである。車速が上昇するに伴って第2MG13の回転数が上昇するため、それに伴って第2MG13の最大トルクが減少している。この図に示した例では、時刻t1に第2MG13の出力トルクが切替トルク(第2MG13の最大トルク)に達している。そのため、時刻t1にステータコイル33に電力が供給される。時刻t1から時刻t2までの期間は、第2ホイール32が第1ホイール31と同期するまでに要する期間である。そのため、時刻t2にフライホイール30が高慣性状態に切り替わる。なお、この時刻t1から時刻t2までの期間は、エンジン11が高効率の状態で運転される。そして、この図で斜線を付した部分のエネルギは、第2ホイール32を第1ホイール31に同期させるためのエネルギとして消費される。従って、この同期に消費されるエネルギを効率良く発生させることができる。
【0031】
以上に説明したように、本発明では、車両1に対して加速が要求されている場合、第2MG13の出力トルクが切替トルクに達するまではフライホイール30を低慣性状態に切り替える。これによりエンジン11の回転数を速やかに上昇させることができる。そのため、加速が要求されてからエンジン11の出力が増大するまでの時間を短縮できる。また、出力軸11aの慣性質量が小さくなるので、エンジン11の回転数を上昇させるために必要なエネルギを低減できる。これにより、例えばエンジン11の動力の一部で第1MG12を駆動し、第1MG12で発生した電力を第2MG13に回すことができる。この場合、第2MG13に回せるエネルギを増加させることができるので、第2MG13の出力トルクを速やかに上昇させることができる。そのため、加速レスポンスを向上させることができる。従って、加速性能を向上させることができる。
【0032】
また、本発明では、車両1に対して加速が要求されている場合であっても第2MG13の出力トルクが切替トルクに達した後はフライホイール30を高慣性状態に切り替える。一般に、車両1に対して加速が要求された後は、車両1に対して減速が要求される。そのため、このように車両1の加速中にフライホイール30を高慣性状態に切り替えておくことで、減速時に最初からフライホイール30を高慣性状態にしておくことができる。周知のように慣性質量が大きいほど回生時に回収可能なエネルギを増加させることができる。そのため、減速時にフライホイール30を低慣性状態から高慣性状態に切り替える場合と比較し、本発明では減速時における回生エネルギの回収量を増加させることができる。
【0033】
上述した形態では、切替トルクに第2MG13の最大トルクが設定される。第2MG13の出力トルクが最大トルクに達した場合には、第2MG13の出力トルクをこれ以上増加させることができない。そのため、フライホイール30を高慣性状態に切り替えても加速レスポンスが悪化しない。
【0034】
さらに、本発明では、充電条件が成立している場合には、車両1に対して加速が要求されており、かつ第2MG13の出力トルクが切替トルクに達していたとしてもフライホイール30が低慣性状態に維持される。フライホイール30を低慣性状態にしておくことでフライホイール30を回転させるために消費するエネルギを第1MG12の駆動に回すことができる。これにより第1MG12の発電量を増加させることができる。
【0035】
なお、上述した形態では、切替トルクに第2MG13の最大トルクを設定したが、切替トルクには適宜の値を設定してよい。例えば切替トルクに第2MG13の定格トルクを設定してもよい。周知のように定格トルクは、モータ・ジェネレータが定格回転速度で動作しているときのトルクである。そして、一般に第2MG13はこの定格トルクで動作する。そのため、第2MG13の出力トルクが定格トルクに達した後は、第2MG13が定格トルクで運転される可能性が高い。従って、このように切替トルクに定格トルクを設定することにより、上述した形態と同様に加速性能を向上させつつ減速時における回生エネルギの回収量を増加させることができる。この他、切替トルクには、第2MG13の最大トルク又は定格トルクに基づいて適宜の値を設定してよい。
【0036】
上述した形態では、第2MG13の出力トルクが切替トルクに達したか否かに応じてフライホイール30の状態を切り替えたが、インバータ25の電流値、バッテリ24の電圧、又は第2MG13の温度などに応じてフライホイール30の状態を切り替えてもよい。例えば、インバータ25の電流値、バッテリ24の電圧、及び第2MG13の温度のうちの少なくともいずれか1つが所定の上限値に達した後、フライホイール30を高慣性状態に切り替えてもよい。そのため、これらインバータ25の電流値、バッテリ24の電圧、又は第2MG13の温度が本発明の物理量に相当する。
【0037】
上述した形態では、第1MG12が本発明の発電機に相当し、ロータ軸12aが本発明の回転軸に相当する。また、第2MG13が本発明の電動機に相当する。
【0038】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明が適用されるハイブリッド車両は、上述した形態で示したハイブリッド車両に限定されない。例えば、エンジンの出力軸には慣性モーメントを変更できないフライホイールが設けられ、第1MGのロータ軸に可変慣性フライホイールが設けられているハイブリッド車両に適用してもよい。また、エンジンの出力軸及び第1MGのロータ軸の両方に可変慣性フライホイールが設けられているハイブリッド車両に適用してもよい。これらのハイブリッド車両でも、本発明を適用することにより、上述した形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
本発明が適用されるハイブリッド車両に設けられる可変慣性フライホイールは、磁性流体を用いて慣性モーメントを変更するフライホイールに限定されない。可変慣性フライホイールは、慣性モーメントを変更可能なフライホイールであればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 車両
2 駆動輪
11 内燃機関
11a 出力軸
12 第1モータ・ジェネレータ(発電機)
12a ロータ軸(回転軸)
13 第2モータ・ジェネレータ(電動機)
14 動力分割機構
15 出力部
21 遊星歯車機構(差動機構)
24 バッテリ
25 インバータ
30 可変慣性フライホイール
40 車両制御装置(制御手段)
S サンギヤ(第2回転要素)
C キャリア(第1回転要素)
R リングギヤ(第3回転要素)