(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070186
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】レコーダ
(51)【国際特許分類】
G11B 20/10 20060101AFI20170123BHJP
G11B 27/10 20060101ALI20170123BHJP
G11B 27/34 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
G11B20/10 311
G11B27/10 A
G11B27/34 S
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-287206(P2012-287206)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130656(P2014-130656A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003676
【氏名又は名称】ティアック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 茂之
【審査官】
梅本 達雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−199805(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/117337(WO,A1)
【文献】
特開2012−257186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 20/10 − 20/12
G11B 27/00 − 27/34
H04S 1/00 − 7/00
G10H 1/00 − 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号の入力ゲインを調整して該音声信号を記録するレコーダであって、
前記入力ゲインの調整レンジとして少なくとも第1レンジ及び第2レンジを備え、前記第1レンジは第1最大値と第1最小値の間のゲインを設定するレンジで、前記第2レンジは第2最大値と第2最小値の間のゲインを設定するレンジであり、前記第2最大値は前記第1最大値よりも小さくかつ前記第1最小値よりも大きく設定され、前記第2最小値は前記第1最小値よりも小さく設定されることで前記第1レンジと前記第2レンジは一部重複するように設定されており、
前記入力ゲインを調整するための、最小値から最大値までの一定範囲内で操作可能な操作子と、
現在設定されている調整レンジを記憶する記憶手段と、
メッセージを表示する表示手段と、
現在設定されている調整レンジが前記第1レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第2レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替え、かつ、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第1レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とするレコーダ。
【請求項2】
請求項1記載のレコーダにおいて、
前記制御手段は、現在設定されている調整レンジが前記第1レンジであって前記操作子が最小値近傍まで操作されたことを検出した場合に、前記第2レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替え、かつ、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が最大値近傍まで操作されたことを検出した場合に、前記第1レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替える
ことを特徴とするレコーダ。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載のレコーダにおいて、
前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として、前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作されて切替直前のゲイン値に対応する位置まで操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする
ことを特徴とするレコーダ。
【請求項4】
請求項1,2のいずれかに記載のレコーダにおいて、
前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として、前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする
ことを特徴とするレコーダ。
【請求項5】
請求項1,2のいずれかに記載のレコーダにおいて、
前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作されて切替直前のゲイン値に対応する位置まで操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする第1の処理と、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする第2の処理と、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を有効とする第3の処理のいずれかを選択的に実行する
ことを特徴とするレコーダ。
【請求項6】
請求項1,2のいずれかに記載のレコーダにおいて、
前記制御手段は、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が最小値近傍まで操作されたことを検出した場合に、ミュート状態へ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示する
ことを特徴とするレコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレコーダ、特に入力ゲインを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号のレベルを調整する調整装置が知られている。例えば、下記の特許文献1には、入力オーディオ信号を増幅するアンプゲインを複数段階に切替可能な増幅手段と、出力オーディオ信号の減衰量を複数段階に切替可能な減衰手段を備え、ボリューム操作によってオーディオ信号の減衰量が所定量を超えたときに、ゲインアンプを切り替える構成が開示されている。
【0003】
なお、入力オーディオ信号のアンプゲイン、つまり入力ゲインを切り替える方法には、大別して2つの方法がある。第1の方法は、
図10に模式的に示すように、全可変範囲を連続で変化させる方法である。
図10において、−90dBから+30dBまで連続して変化し得ることを示す。第2の方法は、
図11に模式的に示すように、複数の可変範囲(レンジ)に分割し、スイッチ等でこれらのレンジを互いに切り替えてレンジ毎に決められた可変範囲を変化させる方法である。
図11において、全可変範囲はHIGH、MID、LOWの3つのレンジに分割され、HIGHレンジでは−30dBから+30dBまで変化させ、MIDレンジでは−60dBから0dBまで変化させ、LOWレンジでは−90dBから−30dBまで変化させる。通常、各レンジ間の可変範囲はその一部が互いに重複するように設定される。
図11では、HIGHレンジとMIDレンジの一部の範囲が重複し、MIDレンジとLOWレンジの一部の範囲が重複している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3247526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1の方法は、レンジの切替が不要であるため、全ての可変範囲を自由に設定できる利点があるが、範囲が広すぎるため所望の入力ゲインに設定することが困難であり、また、ボリュームの可変範囲や分解能によっては変化が粗くなり、精密な設定が困難となる問題がある。
【0006】
第2の方法は、操作中にレンジ切替を行う必要はあるものの、分解能を上げることができるため入力ゲインの精密な設定が比較的容易である利点がある。実際の使用環境下では、精密な設定が可能である方がより望ましいため、第2の方法が採用される場合が多くなっている。
【0007】
一方、第2の方法でレンジを切り替える場合においても、さらに大別して2つの方法が存在する。すなわち、ハードウェアによる方法とソフトウェアによる方法である。ハードウェアによる方法では、切替スイッチを設けて切り替えるものであり、視認性が高くて操作も単純明快であるが、コストがかかり、特に小型機器の場合には切替スイッチを設置するためのスペースを確保する必要がある。ソフトウェアによる方法では、コスト的には有利であるが、視認性及び操作性の点で改善が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、複数の可変範囲(レンジ)に分割し、各レンジを互いに切り替えて入力ゲインを設定する際に、コスト的にも優れ、かつ、視認性及び操作性にも優れた構成を備えるレコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、音声信号の入力ゲインを調整して該音声信号を記録するレコーダであって、前記入力ゲインの調整レンジとして少なくとも第1レンジ及び第2レンジを備え、前記第1レンジは第1最大値と第1最小値の間のゲインを設定するレンジで、前記第2レンジは第2最大値と第2最小値の間のゲインを設定するレンジであり、前記第2最大値は前記第1最大値よりも小さくかつ前記第1最小値よりも大きく設定され、前記第2最小値は前記第1最小値よりも小さく設定されることで前記第1レンジと前記第2レンジは一部重複するように設定されており、前記入力ゲインを調整するための、最小値から最大値までの一定範囲内で操作可能な操作子と、現在設定されている調整レンジを記憶する記憶手段と、メッセージを表示する表示手段と、現在設定されている調整レンジが前記第1レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第2レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替え、かつ、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第1レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替える制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、本発明において、前記制御手段は、現在設定されている調整レンジが前記第1レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第2レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替える際に、自動的にレンジを切り替える態様の他、表示手段に表示されたメッセージに応じたユーザ操作に基づいてレンジを切り替える態様も含まれる。後者の態様では、ユーザ操作がない場合にはレンジ切替は生じない。現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が前記第1レンジと前記第2レンジの重複範囲内まで操作されたことを検出した場合に、前記第1レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替える場合も同様であり、自動的にレンジを切り替える態様の他、表示手段に表示されたメッセージに応じたユーザ操作に基づいてレンジを切り替える態様も含まれる。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記制御手段は、現在設定されている調整レンジが前記第1レンジであって前記操作子が最小値近傍まで操作されたことを検出した場合に、前記第2レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替え、かつ、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が最大値近傍まで操作されたことを検出した場合に、前記第1レンジへ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示してレンジを切り替えることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の実施形態では、前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として、前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作されて切替直前のゲイン値に対応する位置まで操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とすることを特徴とする。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として、前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とすることを特徴とする。
【0014】
本発明のさらに他の実施形態では、前記制御手段は、前記レンジを切り替えた場合に、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作されて切替直前のゲイン値に対応する位置まで操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする第1の処理と、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を無効として切替直前のゲイン値を有効とし、前記操作子が操作された時点で前記操作子の操作によるゲイン値を有効とする第2の処理と、切替直後のゲイン値として前記操作子の位置によるゲイン値を有効とする第3の処理のいずれかを選択的に実行することを特徴とする。
【0015】
本発明のさらに他の実施形態では、前記制御手段は、現在設定されている調整レンジが前記第2レンジであって前記操作子が最小値近傍まで操作されたことを検出した場合に、ミュート状態へ切り替えるためのメッセージを前記表示手段に表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のレンジに分割し、各レンジを互いに切り替えて入力ゲインを設定する際に、コスト的にも優れ、かつ、視認性及び操作性にも優れたレコーダを得ることができる。特に、レンジ切替が必要と推定される状況において表示手段に自動的にレンジを切り替えるためのメッセージが表示されてレンジの切替を行うことができるので、ユーザの利便性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】入力ゲイン調整用ボリュームの構成図である。
【
図3】表示部に表示されるポップアップ画面の説明図である。
【
図5】入力ゲイン調整用ボリュームの位置説明図である。
【
図7】表示部に表示されるポップアップ画面の説明図である。
【
図8】表示部に表示されるポップアップ画面の説明図である。
【
図9】表示部に表示されるポップアップ画面の説明図である。
【
図10】第1の方法によるゲイン調整の説明図である。
【
図11】第2の方法によるゲイン調整の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について、レコーダとしてマルチトラックレコーダを例にとり説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、音声信号を記録するレコーダであれば任意の形態に適用し得る。
【0019】
図1に、本実施形態におけるマルチトラックレコーダ1の構成ブロック図を示す。音声信号入力回路10は、複数の入力ポートを備え、複数の音源(ソース)からの音声信号を入力する。複数の音声信号を例示すると、ギター、ボーカル、ドラム等である。音声信号入力回路10は、内蔵マイク及び/又は入力ポートを備え、音声信号を入力する。内蔵マイクと入力ポートの双方を備える場合、内蔵マイクと入力ポートは相互に切替可能である。音声信号入力回路10から入力された音声信号は、バス16を介してDSP(デジタルシグナルプロセッサ)14に供給される。
【0020】
DSP14は、CPU32の制御の下で、音声信号入力回路10から供給された複数チャンネルの音声信号に対して、所定のデジタル処理、具体的には、ミックスダウン処理やマスタリング処理等を施し、バス18を介してレコーダ34に記録する。レコーダ34の記録媒体は、CD−R/RW、DVD−R/RW等の光ディスクやハードディスク、フラッシュメモリ媒体等である。DSP14の処理には、操作子20の操作に応じて各音声信号のパン(PAN)や音量レベルを調整する処理も含まれる。
【0021】
操作子20は、マルチトラックレコーダ1の操作面に設けられる。操作子20は、各種のキースイッチや選択ボタン、メニューボタン、決定ボタン、パン(PAN)つまみ、レベルつまみ等から構成され、音声信号入力回路から供給される音声信号の入力ゲインを増減調整するためのゲイン調整ボリュームも含まれる。ユーザは、操作子20を操作することで、各音声信号の入力ゲイン(入力レベル)を所望の値に調整して、複数トラックの少なくとも1つのトラックに割り当てる。操作子20の操作状態は検出回路22で検出される。検出回路22は、バス18を介して操作子20の操作状態検出信号をCPU32に供給する。
【0022】
CPU32は、マルチトラックレコーダの全体を統括制御する。CPU32は、フラッシュROM28に記憶されたプログラムに従い、ワーキングメモリとしてのRAM30を用いて各種処理を実行する。また、CPU32は、各種の情報を表示回路26に供給する。表示回路26は、各種情報を表示部24に表示する。CPU32は、ユーザによる操作子20の操作に応じて各種メニュー画面や設定画面を表示すべく表示回路26に指令し、表示回路26は、CPU32からの情報に応じてメニュー画面や設定画面を表示部24に表示する。また、CPU32は、各トラック毎に割り当てられた音声信号のレベルを、例えば棒グラフ形式(レベルメータ)で表示すべく表示回路26に指令し、表示回路26は、CPU32からの情報に応じてレベルメータ画像を表示部24に表示する。さらに、CPU32は、検出回路22からの操作状態検出信号に応じ、レコーダ34に記録された音声信号を読み出してDSP14に供給し、DSP14はバス及び音声信号出力回路12を介して音声信号を外部に出力する。音声出力回路12は、アナログ出力ポートやデジタル出力ポート等の各種出力ポートを有する。
【0023】
図2に、録音すべき音声信号の入力ゲインを調整するための調整機構を示す。操作子20としてのゲイン調整ボリューム21は、ユーザによる手動操作が可能に構成され、図では最小レベル(MIN)から最大レベル(MAX)まで回動自在に構成される。ゲイン調整ボリューム21の操作信号はA/D変換器23に供給され、デジタル信号に変換されて電子ボリューム33のゲイン調整に用いられる。ゲイン調整ボリューム21をMAX方向(図では時計回り)に回転させるとゲインが増大し、入力音声信号のレベルが増大調整される。逆に、ゲイン調整ボリューム21をMIN方向(図では反時計方向)に回転させるとゲインが減少し、入力音声信号のレベルが減少調整される。電子ボリューム33はDSP14の一部として構成され得るが、DSP14とは別個に構成してもよい。
【0024】
本実施形態では、上記の第2の方法、すなわち、複数の可変範囲(レンジ)に分割し、スイッチ等でこれらのレンジを互いに切り替えてレンジ毎に決められた可変範囲を変化させる方法により所望の入力ゲインに設定するが、この際に、ハードウェアで全てを構成するのではなく、ハードウェアとソフトウェアの両者を巧みに組み合わせて第2の方法を実現する。
【0025】
具体的には、ゲイン調整ボリューム21によりある範囲内でゲインを調整するが、各レンジの切替は、別の切替スイッチを設けて行うのではなくソフトウェアで実現し、CPU32が表示部24に所定のタイミングでレンジを切り替えるためのポップアップ画面を表示する。ポップアップ画面には、ゲインのレンジを切り替えるために複数のレンジが表示され、例えばHIGH、MID、LOWの3つのレンジが表示され、ユーザがこれらのレンジのうちのいずれかを択一的に選択できるように表示される。HIGH、MID、LOWの各レンジは、
図11に示すようにそれぞれ互いのゲイン調整範囲が一部重複するように設定される。具体的には、HIGHレンジの最大値は+30dB、最小値は−30dBであり、MIDレンジの最大値は0dBであって、MIDレンジの最大値はHIGHレンジの最大値と最小値の間にあり、0dB〜−30dBはHIGHレンジとMIDレンジで重複範囲が存在する。同様に、LOWレンジの最大値はMIDレンジの最大値と最小値の間にあり、MIDレンジとLOWレンジで重複範囲が存在する。また、ポップアップ画面は、表示部24に常に表示されるのではなく、レンジの切替が必要となるタイミングにおいて表示される。
【0026】
レンジの切替が必要となるタイミングとは、以下のようなタイミングである。ユーザがゲイン調整ボリューム21を時計方向に回動させて最大値(MAX)近傍まで回動させた場合、ユーザはその時点を所望のゲイン設定値であると認識する場合の他、さらに大きなゲイン設定値を望むとも考えられる。そこで、ゲイン調整ボリュームの操作位置が最大値(MAX)近傍まで操作された場合に、CPU32は、これに応じてレンジの切替が必要となると推定し、ポップアップ画面を表示する。また、ユーザがゲイン調整ボリューム21を反時計方向に回動させて最小値(MIN)近傍まで回動させた場合、ユーザはその時点を所望のゲイン設定値であると認識する場合の他、さらに小さなゲイン設定値を望むとも考えられる。そこで、ゲイン調整ボリュームの操作位置が最小値(MIN)近傍まで操作された場合に、CPU32は、これに応じてレンジの切替が必要となると推定し、ポップアップ画面を表示する。
【0027】
図3に、ゲイン調整用ボリューム21が最大値(MAX)近傍まで回動された場合に、表示部24にゲイン切替用のポップアップ画面100が表示される様子を示す。ポップアップ画面100は、選択すべきゲイン(GAIN)のレンジとしてHIGH、MID、LOWを表示する。また、CPU32は、現在設定されているレンジを検出し、現在のレンジをハイライト表示する。図では、現在設定されているレンジがLOWである場合に、ポップアップ画面100のLOWがハイライト表示される場合を示す。なお、現在設定されているレンジの情報は、RAM30に記憶しておき、CPU32がRAM30にアクセスして現在設定されているレンジの状態を取得してハイライト表示する。ユーザは、ポップアップ画面100を視認することで、レンジの切替が可能であることを認識でき、必要であればレンジの切替を行う。この場合、現在設定されているレンジはLOWであり、ゲイン調整ボリューム21は最大値(MAX)近傍まで回動されているので、ユーザはMIDレンジを選択することになろう。勿論、MIDレンジを飛び越えて、HIGHレンジを選択することを許容してもよい。表示部24をタッチパネルで構成した場合、ユーザは所望のレンジにタッチすることでレンジを切り替えることができる。表示部24をタッチパネルで構成しない場合、操作子20を操作してハイライト表示をLOWから他のレンジ、例えばMIDレンジに遷移させ、確定ボタンを押す等の操作によりレンジを切り替えることができる。ユーザがレンジを選択して確定すると、CPU32はポップアップ画面100の表示を消す。
【0028】
なお、現在設定されているレンジがLOWであり、ユーザがゲイン調整ボリューム21を最小値(MIN)近傍まで回動させた場合には、レンジを切り替えることができないのでポップアップ画面100を表示しなくてもよい。同様に、現在設定されているレンジがHIGHであり、ユーザがゲイン調整ボリューム21を最大値(MAX)近傍まで回動させた場合には、レンジを切り替えることができないのでポップアップ画面100を表示しなくてもよい。要するに、CPU32は、RAM30に記憶されている現在設定されているレンジと、最大値(MAX)、最小値(MIN)との関係において、ポップアップ画面100を表示するか否かを判定してもよい。
【0029】
また、
図3の例では、ゲイン調整ボリューム21が最大値(MAX)あるいは最小値(MIN)近傍まで回動操作された場合に表示部24にポップアップ画面100を表示しているが、必ずしも最大値(MAX)に達したときあるいはその直前、又は、最小値(MIN)に達したときあるいはその直前でポップアップ画面100を表示するのではなく、ゲイン調整用ボリューム21の位置が各レンジの重複範囲内に位置する場合にポップアップ画面100を表示してもよい。
【0030】
図4に、この場合のポップアップ画面100の表示例を示す。図において、MIDレンジとLOWレンジが模式的に示されており、その重複範囲120が示されている。ゲイン調整用ボリューム21の回動位置がこの重複範囲120内に位置している場合に、CPU32はこれを検出して表示部24にポップアップ画面100を表示する。具体的には、現在設定されているレンジがMIDレンジであり、ユーザがゲイン調整用ボリューム21を反時計方向に回動操作して重複範囲120内に入ったときに、CPU32はポップアップ画面100を表示するとともに、MIDレンジをハイライト表示する。また、現在設定されているレンジがLOWレンジであり、ユーザがゲイン調整用ボリューム21を時計方向に回動操作して重複範囲120内に入ったときに、CPU32はポップアップ画面100を表示するとともに、LOWレンジをハイライト表示する。図ではMIDレンジとLOWレンジについて示しているが、HIGHレンジとMIDレンジについても同様であり、HIGHレンジとMIDレンジの重複範囲においてポップアップ画面100を表示する。
【0031】
本実施形態において、ゲイン調整用ボリューム21を最大値(MAX)、最小値(MIN)の近傍、あるいはレンジの重複範囲においてレンジ切替を促すポップアップ画面100を表示しているが、これは、ゲイン調整用ボリューム21を回動操作する際に、ボリューム位置が最大値(MAX)あるいは最小値(MIN)に到達しそうな場合、レンジを切り替えてできるだけ上下にゲイン調整の余裕を持たせておきたいと欲し、定常的にボリューム位置が最大値(MAX)あるいは最小値(MIN)を示すことはあまりないとの実際の操作感覚にも合致するといえる。なお、
図3及び
図9に示すように、ポップアップ画面100の表示可能範囲Rをゲイン調整用ボリューム21に沿って表示することにより、ユーザにレンジ切替が可能なゲイン調整用ボリュームの回動位置を常に認識させるようにしてもよい。これにより、レンジ切替を目的としたゲイン調整用ボリュームの操作性を向上することができる。表示可能範囲Rの表示方法は、シルク印刷等の印刷表示やLED等の電気的表示が考えられる。
【0032】
ところで、ポップアップ画面100を用いてレンジを切り替えた場合、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置はそのままである。例えば、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が最大値(MAX)近傍においてポップアップ画面100を表示し、ユーザがレンジをLOWレンジからMIDレンジに切り替えた場合でも、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置は最大値(MAX)近傍のまま維持される。この場合、LOWレンジにおいてはそのときのボリューム位置がゲイン値で例えば−30dBに相当するものとし、MIDレンジにおいてはそのときのボリューム位置がゲイン値で例えば0dBに相当するものとなり、両者の間に乖離が生じる。この場合、LOWレンジからMIDレンジに切り替えた直後に入力音声信号のレベルが急激に増大することになり好ましくない。
【0033】
そこで、レンジが切り替わった直後は、CPU32は、実際のゲイン調整用ボリューム21の回動位置に追従してゲイン値を調整するのではなくこれを無視してレンジ切替直前のゲイン値をそのまま保持し(以下、これを内部ゲイン値と称する)、ユーザが切替後のレンジにおいてゲイン調整用ボリューム21を回動操作して内部ゲイン値に相当する位置まで回動操作した時点でゲイン調整用ボリューム21の回動位置を有効としこれに追従するようにする。ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が内部ゲイン値に一致するまでゲイン調整用ボリューム21に追従せず、一致した時点以降においてゲイン調整用ボリューム21に追従する処理をキャッチ(CATCH)処理と称する。
【0034】
図5及び
図6に、キャッチ処理を模式的に示す。
図5は、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が最大値(MAX)近傍でレンジをLOWレンジからMIDレンジに切り替えた場合である。LOWレンジからMIDレンジに切り替えた直後において、内部ゲイン値は切り替える直前のゲイン値であり、これを符号aで示す。一方、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置は最大値(MAX)近傍のままである。この位置を符号bで示す。仮に、CPU32がレンジ切替直後からゲイン調整用ボリューム21の位置bを有効とし、これに追従してゲイン値を調整するものとすると、符号aで示すLOWレンジの最大値から、符号bで示すMIDレンジの最大値に急峻にゲイン値が変化することになってしまう。従って、CPU32は、レンジ切替直後において、ゲイン調整用ボリューム21の実際の回動位置bを無効とし、ゲイン値として切替直前の位置aに対応するゲイン値を内部ゲイン値として保持しておく。
【0035】
この状態でユーザが
図6に示すようにゲイン調整用ボリューム21を反時計方向に回動し、ゲイン調整用ボリューム21の位置を符号bから符号aまで回動させたときに、CPU32はこの回動を検出して内部ゲイン値とゲイン調整用ボリューム21の示すゲイン値が一致したものと判定し、ゲイン調整用ボリューム21を有効とし、ゲイン調整用ボリューム21に追従してゲイン値を調整する。以上のようなキャッチ処理を実行することで、レンジ切替直後における急峻なゲイン値の増大を防止できる。
【0036】
なお、上記ではLOWレンジからMIDレンジに切り替える場合を例にとり説明したが、MIDレンジからHIGHレンジに切り替える場合も同様である。また、逆に、HIGHレンジからMIDレンジ、あるいはMIDレンジからLOWレンジに切り替える場合も同様であり、キャッチ処理を実行することでレンジ切替直後における急峻なゲイン値の減少を防止できる。
【0037】
また、キャッチ処理を実行する場合、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が内部ゲイン値に一致するまではゲイン調整用ボリューム21に追従せず、ゲイン値は内部ゲイン値のまま維持されるため、ユーザが違和感を覚えることも考えられる。そこで、キャッチ処理を実行中であること、あるいはゲイン調整用ボリューム21の回動位置が内部ゲイン値に一致したタイミングでその旨をユーザに報知することも好適である。
【0038】
図7に、キャッチ処理をユーザに報知する場合の一例を示す。ユーザがゲイン調整用ボリューム21を回動操作してその位置が内部ゲイン値に対応する位置に一致した場合、CPU32はこれを検出して表示部24に「CATCH」と表示する。ユーザは、この表示を視認することで、ゲイン調整用ボリューム21の位置が内部ゲイン値と一致し、これ以後はゲイン調整用ボリューム21が有効化され、ゲイン値が調整されることを認識できる。ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が内部ゲイン値に対応する位置に一致していない間に「CATCH中」等のメッセージを表示部24に表示してもよい。
【0039】
レンジ切替直後のゲイン値の急峻な増減を防止するためにキャッチ処理は有効であるが、ユーザによっては必ずしもキャッチ処理が実行されることを望まない場合も想定される。このような場合、キャッチ処理を実行するか否かをユーザが選択できるような構成とすることが好適である。
【0040】
図8に、この場合の表示部24の表示例を示す。ゲイン調整用ボリューム21が最大値(MAX)、最小値(MIN)近傍に達したときにポップアップ画面100を表示するとともに、レンジ切替直後の処理として、リアル(REAL)、キャッチ(CATCH)、ジャンプ(JUMP)のいずれかを選択するためのポップアップ画面200も併せて表示する。ここで、リアル(REAL)処理とは、レンジ切替直後からゲイン調整用ボリューム21の位置を有効としてこれに追従する処理であり、ジャンプ(JUMP)処理とは、レンジ切替直後はゲイン調整用ボリューム21の位置を無効とするが、ユーザがゲイン調整用ボリューム21を回動操作したときに直ちに有効としてこれに追従する処理である。ユーザは、ポップアップ画面100を用いて所望のレンジに切り替えるとともに、ポップアップ画面200を用いてレンジ切替後の処理を選択することができる。キャッチ(CATCH)処理をデフォルトとし、それ以外の処理をユーザが選択可能としてもよい。
【0041】
本実施形態では、ゲイン調整用ボリューム21の回動位置が最大値(MAX)、最小値(MIN)近傍のときにポップアップ画面100を表示してレンジ切替を促す構成であるが、現在設定されているレンジがLOWレンジであってユーザがゲイン調整用ボリューム21を最小値(MIN)近傍まで回動操作した場合、ユーザは最小のゲイン値で音声信号を録音することを望んでいる他に、無音状態を望んでいる場合も想定される。しかしながら、ゲイン調整用ボリューム21ではゲイン値を最小にすることはできても無音状態、いわゆるミュート状態にすることはできず、ゲイン調整用ボリューム21の他にミュート設定用のスイッチが必要となる。
【0042】
そこで、現在設定されているレンジがLOWレンジであってユーザがゲイン調整用ボリューム21を最小値(MIN)近傍まで回動操作した場合に、CPU32は、ポップアップ画面を表示するとともに、そのポップアップ画面の選択メニューにミュート(MUTE)を追加して表示してもよい。
【0043】
図9に、この場合の表示例を示す。現在設定されているレンジがLOWレンジであり、ゲイン調整用ボリューム21を最小値(MIN)近傍まで回動操作すると、CPU32は、表示部24にポップアップ画面300を表示する。ポップアップ画面300には、HIGH、MID、LOWの各レンジに加え、ミュート(MUTE)のメニューが表示される。ユーザがこのミュートを選択すると、CPU32はゲイン値を0、すなわち入力音声信号をカットして無音状態とする。なお、ポップアップ画面300が表示される際には現在設定されているレンジであるLOWレンジがハイライト表示されており、ミュートではなく最小のゲイン値を望むユーザはミュートを選択することなく確定することで最小のゲイン値に調整できる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、レンジの切替直後の処理として、キャッチ処理を例示し、あるいはキャッチ処理とリアル処理とジャンプ処理の択一的な選択を例示しているが、リアル処理のみ、ジャンプ処理のみ、キャッチ処理とジャンプ処理の択一的な選択、リアル処理とジャンプ処理の択一的な選択、のいずれかを用いてもよい。
【0046】
また、キャッチ処理あるいはジャンプ処理の場合において、内部ゲイン値とゲイン調整用ボリューム21が示すゲイン値との乖離状態をより明確に表示部24に表示し、どのようにゲイン調整用ボリューム21を回動操作すれば内部ゲイン値に一致するかを明示するようにしてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、LOWレンジにおいてユーザがゲイン調整用ボリューム21を最小値(MIN)近傍まで回動操作した場合にポップアップ画面にミュートメニューを表示しているが、ミュート状態を解除する方法としてはいくつかの方法があり得る。第1は、ミュート状態に設定されているときには表示部24にポップアップ画面300を表示しておき、ユーザがこのポップアップ画面から所望のレンジを選択することでミュート状態を解除する方法である。第2は、ミュート状態に設定されているときにもポップアップ画面300は表示せず、ユーザがゲイン調整用ボリューム21を回動操作したときにCPU32がこの操作を検出してミュート状態を解除し、ミュート状態に移行したときのレンジ(通常はLOWレンジ)に復帰させる方法である。ミュート状態に移行したときのレンジは、CPU32がRAM30に保持しておく。いずれの方法を用いてもよく、ユーザがいずれかの方法を選択可能としてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、ゲインを調整する操作子20としてゲイン調整用ボリューム21を例示したが、本発明は回動操作可能なボリュームに限定されるものではなく、一定範囲内でスライド操作可能なバーでもよい。また、必ずしも物理的な操作子を意味するものではなく、タッチパネルに表示された操作子であってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、
図3等に示すような、複数の選択可能なレンジを表示したポップアップ画面100等を表示してユーザにレンジの切替を促しているが、現在設定されているレンジがLOWレンジの場合においてゲイン調整用ボリューム21が最大値(MAX)近傍まで回動操作されたときは「MIDレンジに切り替えますが?」とメッセージを表示するとともに「YES」、「NO」を表示し、ユーザが「YES」を選択したときにMIDレンジに切り替えてもよい。同様に、現在設定されているレンジがMIDレンジの場合においてゲイン調整用ボリューム21が最大値(MAX)近傍まで回動操作されたときは「HIGHレンジに切り替えますが?」とメッセージを表示するとともに「YES」、「NO」を表示し、ユーザが「YES」を選択したときにHIGHレンジに切り替えてもよい。同様に、現在設定されているレンジがMIDレンジの場合においてゲイン調整用ボリューム21が最小値(MIN)近傍まで回動操作されたときは「LOWレンジに切り替えますが?」とメッセージを表示するとともに「YES」、「NO」を表示し、ユーザが「YES」を選択したときにLOWレンジに切り替えてもよい。さらに、現在設定されているレンジがLOWレンジの場合においてゲイン調整用ボリューム21が最小値(MIN)近傍まで回動操作されたときは「ミュートに切り替えますが?」と表示するとともに「YES」、「NO」を表示し、ユーザが「YES」を選択したときにミュート状態に切り替えてもよい。要するに、レンジを切り替えるための画面はポップアップ画面ではなくメッセージでもよく、ポップアップ画面もメッセージの一種であるととらえると、ゲイン調整用ボリューム21の回動操作に連動し、操作位置が所定位置に達したときにレンジを切り替えるためのメッセージを表示部24に表示するといえる。本実施形態では、レンジ切替を行うためのスイッチはソフトウェアで実現されるが、その全てをソフトウェアで実現する必要は必ずしもない。例えば、
図3の場合では、ポップアップ画面100を表示部24に表示するが、ポップアップ画面100の各レンジを選択するために既存のメニュー選択スイッチを用いることができ、この場合にはレンジを切り替えるための手段はハードウェアとソフトウェアで実現されているといえる。勿論、このことは、表示部24をタッチパネルで構成することで、レンジ切替を行うためのスイッチを全てソフトウェアで実現する構成を排除するものではない。
【符号の説明】
【0050】
10 音声信号入力回路、12 音声信号出力回路、14 DSP、20 操作子、22 検出回路、24 表示部、30 RAM、32 CPU、34 レコーダ。