特許第6070202号(P6070202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070202転がり軸受装置、及びこれを用いた圧延機用バックアップロール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070202
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置、及びこれを用いた圧延機用バックアップロール
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20170123BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20170123BHJP
   F16C 19/24 20060101ALI20170123BHJP
   F16C 19/28 20060101ALI20170123BHJP
   F16J 15/32 20160101ALI20170123BHJP
   B21B 31/07 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C33/78 D
   F16C33/66 Z
   F16C19/24
   F16C19/28
   F16J15/32
   B21B31/07 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-5367(P2013-5367)
(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2014-137090(P2014-137090A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増井 孝志
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−47297(JP,A)
【文献】 特開2009−63096(JP,A)
【文献】 特開2008−256204(JP,A)
【文献】 特開2008−223966(JP,A)
【文献】 特開2008−223965(JP,A)
【文献】 特開2004−278660(JP,A)
【文献】 実開昭51−9147(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66,33/76,33/78
B21B 31/07
F16C 19/24,19/28
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記内輪と同心に配置され、内周面に前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記内輪及び前記外輪の軸方向両端に設けられ、前記内輪外周面と前記外輪内周面とで画定された第1空間を閉鎖している一対の密封装置と、を備え、
気体と混合された霧状の潤滑油が、前記第1空間内に加圧供給される転がり軸受装置において、
前記密封装置は、
前記内輪及び外輪のいずれか一方に固定される環状の芯金と、
前記内輪及び外輪のいずれか他方に固定されるとともに前記芯金に対して軸方向外側に対向配置された環状のスリンガと、
前記芯金の軸方向外側の側端面に突設され前記スリンガに摺接することで前記第1空間の軸方向端部開口を密封している第1シールリップと、
前記第1シールリップよりも径方向外方に設けられ、前記芯金の前記側端面に突設して前記スリンガに摺接することで前記第1シールリップとともに前記第1空間を密封しているとともに、前記第1シールリップとの間で第2空間を形成している第2シールリップと、を備え、
前記芯金には、前記第1空間と前記第2空間との間を連通している排気孔が設けられ、
前記第2シールリップは、前記第1空間内が所定圧力を超えると、前記スリンガから離間して前記第1空間内の圧力を、前記排気孔及び前記第2空間を通じて外部空間に開放することで前記第1シールリップが前記スリンガに摺接した状態を維持する圧力制御機能を有することを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記排気孔を塞ぐ蓋部をさらに備え、
前記蓋部には、前記第1空間内が所定圧力を超えると開口するスリットが設けられている請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記第1シールリップ、前記第2シールリップ、及び前記蓋部は、弾性素材によって一体に形成されている請求項2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
圧延材を圧延するワークロールの外周面に転動可能に接触して前記ワークロールを支持する転がり軸受装置を備えた圧延機用バックアップロールであって、
前記転がり軸受装置は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の転がり軸受装置であることを特徴とする圧延機用バックアップロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、圧延機のロールを支持するためのバックアップロールに用いられる転がり軸受装置、及びこれを用いた圧延機用バックアップロールに関する。
【背景技術】
【0002】
多段式圧延機等において圧延機用ロールを支持するためのバックアップロールは、シャフトと、このシャフトに外嵌固定されるとともに軸方向に並べて配置された複数の転がり軸受装置とを備えて構成されている。
上記転がり軸受装置は、図5に示すように、回転輪である外輪101と、前記シャフトに外嵌固定される内輪102と、内外輪101,102の間で転動自在に介在している複列の円筒ころ103と、内外輪101,102の間の環状開口部を密封している密封装置104とを備えた複列の円筒ころ軸受で構成されている。
密封装置104は、外輪101に固定される環状の芯金105と、内輪102に固定されるとともに芯金105に対して軸方向一方側に対向配置された環状のスリンガ106と、芯金105の軸方向一方側の端面から突設されスリンガ106の端面と摺接することで外輪101と内輪102との間を密封している環状のシールリップ107とを備えている。
【0003】
上記転がり軸受装置では、空気と混合されたオイルミストが内外輪101,102間の空間内に所定圧力で加圧供給されることで当該転がり軸受装置の各部の潤滑が行われている。さらにこの転がり軸受装置は、オイルミストが供給されることで内外輪101,102間の空間内の圧力が高まると、密封装置104のシールリップ107の先端がスリンガ106からわずかに離間し、内外輪101,102間の空間内の圧力を外部空間側に開放して当該空間内が所定の圧力以上にならないように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−228007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例の転がり軸受装置では、内外輪101,102間の空間内の圧力によって、シールリップ107の先端がスリンガ106から離間するので、その隙間を通して内外輪101,102間の空間に水分や塵埃等の異物が侵入するおそれが生じる。このような前記空間内への異物の侵入は、転がり軸受装置の寿命を低下させる要因となる。
さらに、内外輪101,102間の空間内の圧力の開放は、シールリップ107がスリンガ106から離間することで行われているため、内外輪101,102が軸方向にわずかに相対移動することでスリンガ106に対するシールリップ107の接触圧が変化したり、シールリップ107の離間がスムーズに行われなかったりすると、内外輪101,102間の空間内の圧力が大きく変動し、オイルミストの供給量が不安定となって潤滑不良を生じるおそれもあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、内外輪間の空間内の圧力の変動を抑制しつつ、より効果的に前記空間内に異物が侵入するのを抑制できる転がり軸受装置、及びこれを用いた圧延機用バックアップロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記内輪と同心に配置され、内周面に前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動可能に配置された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の軸方向両端に設けられ、前記内輪外周面と前記外輪内周面とで画定された第1空間を閉鎖している一対の密封装置と、を備え、気体と混合された霧状の潤滑油が、前記第1空間内に加圧供給される転がり軸受装置において、前記密封装置は、前記内輪及び外輪のいずれか一方に固定される環状の芯金と、前記内輪及び外輪のいずれか他方に固定されるとともに前記芯金に対して軸方向外側に対向配置された環状のスリンガと、前記芯金の軸方向外側の側端面に突設され前記スリンガに摺接することで前記第1空間の軸方向両端を密封している第1シールリップと、前記第1シールリップよりも径方向外方に設けられ、前記芯金の前記側端面に突設して前記スリンガに摺接することで前記第1シールリップとともに前記第1空間を密封しているとともに、前記第1シールリップとの間で第2空間を形成している第2シールリップと、を備え、前記芯金には、前記第1空間と前記第2空間との間を連通している排気孔が設けられ、前記第2シールリップは、前記第1空間内が所定圧力を超えると、前記スリンガから離間して前記第1空間内の圧力を、前記排気孔及び前記第2空間を通じて外部空間に開放することで前記第1シールリップが前記スリンガに摺接した状態を維持する圧力制御機能を有することを特徴としている。
【0008】
上記のように構成された転がり軸受装置によれば、第2シールリップは、第1空間内が所定圧力を超えるとスリンガから離間して第1空間内の圧力を、排気孔及び第2空間を通じて外部空間に開放するので、第1空間内の圧力を外部空間側に開放しつつ、第1シールリップがスリンガに摺接した状態を維持することができる。つまり、第2シールリップには、主として第1空間内の圧力を開放する機能を負担させ、第1シールリップには、主として内外輪間の密封性を高める機能を負担させることができる。
これにより、第2シールリップについては、第1空間内の圧力の変動が抑制されるようにスリンガに対する接触圧を調整でき、第1シールリップについては、スリンガに対する密封性が高まるように接触圧を調整することができる。この結果、第1空間内の圧力の変動を抑制しつつ、密封性を高めることができ、より効果的に前記空間内に異物が侵入するのを抑制できる。
【0009】
上記転がり軸受装置において、前記排気孔を塞ぐ蓋部をさらに備え、前記蓋部には、前記第1空間内が所定圧力を超えると開口するスリットが設けられていることが好ましい。
排気孔は、第1シールリップと第2シールリップとの間で形成された第2空間に連通しているので、排気孔近傍に異物が到達することは第2シールリップによって抑制されるが、万が一、第2空間に異物が侵入し排気孔近傍に到達したとしても、上記構成によれば、スリットが設けられた蓋部によって、第1空間内の圧力の開放を許容しつつ、排気孔から第1空間内に異物が侵入するのを抑制することができる。
【0010】
また、上記転がり軸受装置において、前記第1シールリップ、前記第2シールリップ、及び前記蓋部は、弾性素材によって一体に形成されていてもよく、この場合、各部を個々に形成する場合と比較して、各部の形成が容易となる。
【0011】
また、本発明は、圧延材を圧延するワークロール又は中間ロールの外周面に転動可能に接触して前記ワークロール又は中間ロールを支持する転がり軸受装置を備えた圧延機用バックアップロールであって、前記転がり軸受装置は、上述の転がり軸受装置であることを特徴としている。
上記構成の圧延機用バックアップロールによれば、転がり軸受装置において、内外輪間の空間である第1空間内の圧力の変動を抑制しつつ、密封性を高めることができ、より効果的に前記空間内に異物が侵入するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転がり軸受装置、及びこれを用いた圧延機用バックアップロールによれば、内外輪間の空間内の圧力の変動を抑制しつつ、より効果的に前記空間内に異物が侵入するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る圧延機のバックアップロールを示す断面図である。
図2図1中の密封装置を拡大した部分断面図である。
図3】スリット部分を内側端面側からみたときの外観図である。
図4】他の態様の転がり軸受装置の構成を示す断面図である。
図5】従来の転がり軸受装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る圧延機のバックアップロールを示す断面図である。図中、バックアップロールは、圧延材を圧延する圧延機のワークロールや中間ロール等(図示せず)に接触従動してこれらをサポートするためのロールであり、1又は複数の転がり軸受装置1と、転がり軸受装置1を圧延機に対して支持する支持シャフトTとを備えている。
【0015】
転がり軸受装置1は、支持シャフトTに、1つ又は複数個が軸方向に沿って配置されており、外輪部材2をワークロール等の外周面転動可能に接触従動して前記ワークロール等を支持する。転がり軸受装置1は、前記圧延機のロール等に接触して従動するロールを構成する外輪部材2と、外輪部材2の内周側に同心に配置された内輪部材3と、外輪部材2及び内輪部材3の間に転動自在に配置された複数の転動体としての円筒ころ4と、これら複数の円筒ころ4を周方向に保持するための環状の保持器5と、当該転がり軸受装置1の両端に固定されている一対の密封装置10とを備えている。
【0016】
内輪部材3は、一対の円筒状の内輪3aを軸方向に組み合わせて構成されている。内輪3aの外周面には、複数の円筒ころ4が転動する内輪軌道面3a1が形成されている。
外輪部材2は、外周面2aが前記圧延機のロール等に接触する円筒状の部材であり、外輪部材2の内周面には、複数の円筒ころ4が転動する外輪軌道面2bが、一対の内輪3aそれぞれに形成された内輪軌道面3a1に対向して一対形成されている。
複数の円筒ころ4は、一対の内輪軌道面3a1及び外輪軌道面2bの間に転動自在に配置されており、これによって、外輪部材2と内輪部材3とは、相対回転自在である。
上記構成によって、転がり軸受装置1は、支持シャフトTに内輪部材3が固定されることで、外輪部材2を支持シャフトTに対して回転自在に支持している。
【0017】
一対の密封装置10は、外輪部材2と内輪部材3の軸方向両端に設けられている。一対の密封装置10は、内輪軌道面3a1と外輪軌道面2bとで画定された環状の空間である第1環状空間(第1空間)S1の両端開口それぞれに固定されており、これら開口を閉鎖している。よって、第1環状空間S1は、外部に対して密封されている。
【0018】
一対の内輪3aが互いに突き合わされている突き合わせ部3bには、内外輪部材2,3間の第1環状空間S1内に、オイルミストを供給するための給油孔3cが形成されている。第1環状空間S1内には、給油孔3cを通じて、空気等の気体と混合されたオイルミストが加圧供給される。本実施形態の転がり軸受装置1では、上記オイルミストが第1環状空間S1内に加圧供給されることによって、各部の潤滑が行われている。
なお、各部の潤滑のために供給されるオイルミストは、高圧の気体とオイルミストとを混合したものを用いてもよいし、オイルミスト自体を加圧し高圧化したものを用いてもよい。
【0019】
図2は、図1中の密封装置を拡大した部分断面図である。図において、密封装置10は、外輪部材2に固定された環状の芯金11と、内輪3a(内輪部材3)に固定された環状のスリンガ12と、芯金11に固定されたシール部材13とを備えている。
【0020】
スリンガ12は、芯金11に対して内輪部材3端部側である軸方向外側に位置するように当該芯金11に対向配置されており、内輪3a外周面の外側端部に外嵌固定された円筒部12aと、円筒部12aの外側端部に形成されたフランジ部12bとを有している。フランジ部12bの外周面12cは、外輪部材2の内周面に対して僅かな隙間が形成されるように設けられており、スリンガ12よりも転がり軸受装置1の内部空間側へ異物が侵入するのを防ぐためのラビリンスを構成している。
【0021】
芯金11は、外輪部材2の内周面に形成された周溝2cに嵌め込まれた止め輪15と、外輪部材2の内周面に形成された段差部2dとの間で外周縁部が挟持されており、これによって、外輪部材2の内周面に一体回転可能に固定されている。
【0022】
シール部材13は、ニトリルゴム等の弾性素材を用いて芯金11に加硫接着によって形成固定された部材であり、芯金11の軸方向内側に向く内側端面11bに沿う基部13aと、芯金11の外側端面11aに突設されフランジ部12bの内側端面12b1と摺接する環状の第1シールリップ13bとを有している。
シール部材13は、さらに、第1シールリップ13bの径方向外側に同心に設けられている環状の第2シールリップ13cと、芯金11の軸方向外側に向く外側端面11aに沿って設けられ第1シールリップ13bの基端部と第2シールリップ13cの基端部とを繋ぐ繋ぎ部13dとを有している。
【0023】
シール部材13が有している、第1シールリップ13bや、第2シールリップ13c、基部13a等は、上述のように加硫接着によって一体に形成されている。よって、これら各部を個々に形成する場合と比較して、各部の形成が容易である。
【0024】
基部13aは、芯金11の内側端面11bから芯金11の外周面を覆うように形成されており、基部13aは、芯金11の外周縁部と、外輪部材2の段差部2dとの間に介在しており、外輪部材2と芯金11の外周縁部との間を密封している。
【0025】
第1シールリップ13bは、芯金11の外側端面11aから軸方向スリンガ12側に向かうにつれて、径方向外方に向かって延在している。シールリップ13bの先端は、フランジ部12bの内側端面12b1と摺接しており、外輪部材2と、内輪部材3との間の相対回転を許容しつつ第1環状空間S1の端部開口を密封している。
つまり、第1環状空間S1は、内輪部材3の外周面と、外輪部材2の内周面と、軸方向両端に設けられた一対の第1シールリップ13bとによって区画されている。
【0026】
第2シールリップ13cは、第1シールリップ13bと同様、芯金11の外側端面11aに突設されフランジ部12bの内側端面12b1と摺接しており、第1シールリップ13bとともに第1環状空間S1を密封している。第2シールリップ13cは、第1シールリップ13bの径方向外方に同心に設けられていることによって第1シールリップよりも外部空間S3側に設けられている。
【0027】
また、第2シールリップ13cは、第1シールリップ13bの径方向外方に同心に設けられていることによって、当該第1シールリップ13bとの間で第2環状空間(第2空間)S2を形成している。
よって、第2環状空間S2は、第1シールリップ13bと、第2シールリップ13cと、これらシールリップ13b,13cが設けられている芯金11と、シールリップ13b,13cが摺接しているスリンガ12とによって区画されている。
第1シールリップ13b及び第2シールリップ13cは、第1環状空間S1と、外部空間S3との間に第2環状空間S2を介在させて、当該第1環状空間S1を密封している。
【0028】
また、芯金11には、第1環状空間S1と、第2環状空間S2との間を連通して第1環状空間S1内を圧力を第2環状空間S2に開放する排気孔11cが設けられている。
この排気孔11cは、断面円筒状に形成されて芯金11を厚み方向に貫通し、さらに繋ぎ部13dを貫通して形成されている。また、排気孔11cは、芯金11の円周方向に沿って複数個設けられている。
排気孔11cは、シール部材13の基部13aによって芯金11の内側端面11b側が覆われている。つまり、シール部材13の基部13aは、排気孔11cを塞ぐ蓋部を構成している。
基部13aの排気孔11cに対応する部分には、スリット13a1が形成されている。
【0029】
図3は、スリット13a1の部分を内側端面11b側からみたときの外観図である。図1も参照して、スリット13a1は、径方向に直交する方向に沿って直線状に形成されている。スリット13a1は、基部13aを厚み方向全域に亘って切り込みを入れることで形成されており、第1環状空間S1内の圧力が所定圧力P1を超えると開口する。
より具体的には、第1環状空間S1の圧力が所定圧力P1より高くなりかつ第2環状空間S2よりも高くなると、スリット13a1は開口し、第1環状空間S1の圧力は、スリット13a1を通じて第2環状空間S2に開放される。
一方、水分や塵埃等の異物が、第1環状空間S1の圧力に応じて開閉するスリット13a1を通過することは、困難である。
よって、蓋部としての基部13aは、スリット13a1が設けられることで、第1環状空間S1内の圧力が第2環状空間S2側に開放されるのを許容しつつ、排気孔11cから第1環状空間S1内に異物が侵入するのを抑制することができる。
なお、第1シールリップ13bは、第1環状空間S1の圧力がスリット13a1が開口する圧力である所定圧力P1を超えた場合にも、スリンガ12から離間しない程度の接触圧に設定されている。よって、第1環状空間S1内の圧力が所定圧力P1を超えたとしても、第1シールリップ13bは、スリンガ12に摺接した状態を維持する。
【0030】
第1環状空間S1内の圧力が所定圧力P1を超えることで、排気孔11cを通じて第1環状空間S1の圧力が第2環状空間S2に開放されると、第2環状空間S2の圧力が上昇する。第1環状空間S1から開放される圧力によって、第2環状空間S2内の圧力が所定圧力P2を超えると、第2シールリップ13cは、その圧力によって弾性変形し、スリンガ12から離間して、第2環状空間S2内の圧力を外部空間S3側に開放する。
【0031】
また、後述するように、所定圧力P1は、所定圧力P2以上となるように各部が設定されている。よって、第1環状空間S1の圧力が第2環状空間S2に開放されれば、第2環状空間S2は、所定圧力P2以上となり、第2シールリップ13cはスリンガ12から離間する。つまり、第2シールリップ13cは、第1環状空間S1内の圧力が所定圧力P1を超えるとスリンガ12から離間して第1環状空間S1内の圧力を、排気孔11c及び第2環状空間S2を通じて外部空間S3に開放する圧力制御機能を有している。
【0032】
上記のように構成された転がり軸受装置1によれば、第2シールリップ13cは、第1環状空間S1内が所定圧力P1を超えるとスリンガ12から離間して第1環状空間S1内の圧力を、排気孔11c及び第2環状空間S2を通じて外部空間S3に開放するので、第1環状空間S1内の圧力を外部空間S3側に開放しつつ、第1シールリップ13bがスリンガ12に摺接した状態を維持することができる。
すなわち、上記転がり軸受装置1では、第1環状空間S1内の圧力を第1シールリップ13bよりも外部空間S3側である第2環状空間S2を通じて開放するように構成したので、第2シールリップ13cに、主として第1環状空間S1内、及び第2環状空間S2内の圧力を調整する排気弁としての機能(圧力制御機能)を負担させ、第1シールリップ13bに、主として内外輪部材2,3間の密封性を高める機能を負担させることができる。
【0033】
これにより、第2シールリップ13cについては、第1環状空間S1内の圧力変動が抑制されるようにスリンガ12に対する接触圧を調整でき、第1シールリップ13bについては、スリンガ12に対する密封性を高めるように接触圧を調整することができる。この結果、第1環状空間S1内の圧力の変動を抑制しつつ、密封性を高めることができ、より効果的に第1環状空間S1内に異物が侵入するのを抑制できる。
【0034】
本実施形態において、第1環状空間S1における所定圧力P1は、スリット13a1の開放圧力、第2環状空間S2における所定圧力P2は、第2シールリップ13cの開放圧力である。外部空間S3の圧力をP3とすると、下記式が可能な限り満たされるように、第1シールリップ13b及び第2シールリップ13cそれぞれのスリンガ12に対する接触圧や、スリット13a1の寸法や形状が調整されている。
P1 ≧ P2 > P3
【0035】
スリット13a1の開放圧力である所定圧力P1は、スリット13a1の形状等の設定の他、オイルミストの供給圧力、第1シールリップ13bのスリンガ12に対する接触圧等によって定まる。
また、第1シールリップ13bは圧力の開放を行う必要がない。よって、第1シールリップ13bのスリンガ12に対する接触圧は、上記従来例のように、圧力の開放を行う必要があった場合と比較して、より高い密封性が得られるように設定される。
【0036】
また、第2シールリップ13cは、所定圧力P2が上記式を満たすように形成されるとともに、内輪部材3と外輪部材2とが軸方向に相対移動したとしても、上記の圧力の関係が維持可能な形状、接触圧に設定される。
【0037】
より具体的に、本実施形態では、大気圧である外部空間S3の圧力P3を基準圧力とすると、所定圧力P1が、+10〜20kPa、所定圧力P2が、+5〜10kPaとなるように、各部が設定されている。
【0038】
また、本実施形態において、排気孔11cは、第1シールリップ13bと第2シールリップ13cとの間で形成された第2環状空間S2に連通しているので、排気孔11c近傍に異物が侵入することは第2シールリップ13cによって抑制されるが、万が一、第2環状空間S2に異物が侵入したとしても、第2シールリップ13cの先端から排気孔11cまでの間には、軸方向にある程度の距離があるために、第2シールリップ13cの先端を通過した前記異物が排気孔11cにすぐに接近することはなく、排気孔11cから第1環状空間S1内に異物が侵入するのを抑制することができる。
仮に異物が排気孔11c近傍に到達したとしても、上記構成によれば、スリット13a1が設けられた蓋部としての基部13aによって、第1環状空間S1内の圧力の開放を許容しつつ、排気孔11cから第1環状空間S1内に異物が侵入するのを抑制することができる。
【0039】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、排気孔11cを断面円筒状に形成した場合を例示したが、断面四角状や、楕円形状等、その断面形状は適宜変更することができる。
また、上記実施形態では、シール部材13の基部13aが排気孔11cを塞ぐ蓋部として機能する場合を示したが、この蓋部が無い構成とすることもできる。ただし、この場合、第1環状空間S1と第2環状空間S2とは、ほぼ同じ圧力となるので、第1環状空間S1の圧力が、第2シールリップ13cの開放圧力である所定圧力P2を超えると、第2シールリップ13cがスリンガ12から離間し、第1環状空間S1内の圧力を排気孔11c及び第2環状空間S2を通じて外部空間S3に開放する。
【0040】
また、上記実施形態では、基部13aに形成されたスリット13a1を直線状に形成した場合を示したが、例えば、2本のスリットを交差させて形成してもよいし、多数本のスリット13a1を並べて形成してもよい。さらに、スリット13a1の厚みも適宜調整することができる。
【0041】
また、上記実施形態では、芯金11の内側端面11b側にのみ基部13aを蓋部とした場合を示したが、例えば、図4に示すように、芯金11の外側端面11a側にも、スリット13a1が形成された蓋部を設けてもよい。この場合、外側端面11a側の蓋部は、第1シールリップ13bと第2シールリップ13cとを繋ぐ繋ぎ部13dによって構成されている。このように、芯金11の両端面11a,11bに蓋部を設けることで、第1環状空間S1への異物の侵入をさらに効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 転がり軸受装置 2 外輪部材 2b 外輪軌道面
3 内輪部材 3a1 内輪軌道面
4 円筒ころ(転動体) 10 密封装置 11 芯金
11a 外側端面 11c 排気孔 12 スリンガ
13b 第1シールリップ 13c 第2シールリップ
13a1 スリット S1 第1環状空間
S2 第2環状空間 S3 外部空間
図1
図2
図3
図4
図5