特許第6070217号(P6070217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000002
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000003
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000004
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000005
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000006
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000007
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000008
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000009
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000010
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000011
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000012
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000013
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000014
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000015
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000016
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000017
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000018
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000019
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000020
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000021
  • 特許6070217-サイドエアバッグ装置 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070217
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20170123BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20170123BHJP
   B60R 21/239 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B60R21/207
   B60R21/233
   B60R21/239
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-12409(P2013-12409)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-141231(P2014-141231A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 喜明
(72)【発明者】
【氏名】本田 健作
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−137615(JP,A)
【文献】 特開2012−046167(JP,A)
【文献】 特開2011−121431(JP,A)
【文献】 特開2011−031719(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより膨張する膨張部を有し、かつ前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開するエアバッグ本体が備えられ、
前記膨張部は、膨張用ガスが供給されて展開膨張する第1膨張室と、縦区画部を介して前記第1膨張室の前側に隣接する第2膨張室と、横区画部を介して前記第1膨張室の上下方向についての少なくとも一方に隣接し、かつ膨張用ガスにより前記第1膨張室よりも高い内圧で展開膨張する第3膨張室とに区画され、
前記縦区画部及び前記横区画部にはそれぞれ開口部が設けられ、
前記縦区画部には、前記第1膨張室が膨張して乗員を拘束する前には閉弁して、同第1膨張室から膨張用ガスが前記開口部を通じて同第2膨張室へ流出するのを規制し、かつ前記第1膨張室が乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力による前記縦区画部の緊張状態の変化に応じて開弁して前記規制を解除する調圧弁が設けられ、
前記横区画部には、前記第3膨張室から前記第1膨張室への膨張用ガスの流通を規制する逆止弁が設けられ、
前記横区画部は、前記第1膨張室の膨張に伴い、前記乗物用シートの幅方向に緊張して同方向についての同第1膨張室及び前記第3膨張室の膨張厚みを規制する布片からなり、
前記布片は、前記乗物用シートの幅方向に並設される一対の構成布部により構成され、
前記一対の構成布部は、前記乗物用シートの前後方向に延びる外結合部によってそれぞれ前記エアバッグ本体に結合されるとともに、内結合部によって相互に結合され、
前記内結合部は、前記両構成布部の前端部から延びる第1内結合部と、前記第1内結合部の後端部から前記第3膨張室方向へ延びる第2内結合部とで構成され、
前記一対の構成布部において、前記第2結合部によって相互に結合された部分が前記逆止弁を構成し、
前記縦区画部の前記第3膨張室側の延出端は、前記横区画部の前記一対の構成布部の間に配置されるとともに、前記一対の構成布部を相互に結合する前記第1内結合部によって前記横区画部に結合されており、
膨張用ガスの供給初期には、前記第1膨張室に向かうより多くの膨張用ガスが、前記逆止弁に向けて流れることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記調圧弁は、前記縦区画部の前記開口部の周りに設けられた一対の弁体部を備え、前記第1膨張室による乗員拘束前には、前記両弁体部が膨張用ガスにより押圧されて互いに接触又は接近することで閉弁する一方、前記第1膨張室による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記両弁体部が前記縦区画部を通じて撓んで互いに離間することで開弁するものである請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記第1膨張室及び前記第2膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の胸部の側方で展開膨張するものである請求項1又は2に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記膨張部は、前記第1膨張室の上側に前記第3膨張室を有しており、
前記第3膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の肩部の側方で展開膨張するものである請求項3に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記膨張部は、前記第1膨張室の下側に前記第3膨張室を有しており、
前記第3膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の腰部の側方で展開膨張するものである請求項3又は4に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項6】
前記縦区画部は、前記第1膨張室の膨張に伴い、前記乗物用シートの幅方向に緊張して同方向についての同第1膨張室の膨張厚みを規制する布片からなる請求項1〜5のいずれか1つに記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記第3膨張室は、前記乗物用シートの前後方向について、前記第1膨張室及び前記第2膨張室に跨って設けられている請求項1〜のいずれか1つに記載のサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートの側方から乗物に衝撃が加わった場合に、その乗物用シートに着座している乗員の側方でエアバッグを展開膨張させて、乗員を衝撃から保護するサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗員が着座している車両用シートの側方から、側突等により車両に衝撃が加わった場合に、その衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれた状態でインフレータとともに、車両用シートのシートバック(背もたれ)内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両の側部を構成する部材(ボディサイド部)、例えばサイドドア等に対し側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスが、エアバッグの外殻部分を構成するエアバッグ本体の膨張部に供給される。この膨張用ガスにより膨張部が膨張し、エアバッグ本体が展開膨張する。エアバッグ本体が、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから前方へ飛び出す。このエアバッグ本体は、乗員とボディサイド部との間の狭い空間で展開膨張する。展開膨張したエアバッグ本体が、乗員と車内側へ進入してくるボディサイド部との間に介在して乗員を拘束するとともに、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ここで、一般に、人体側部の耐衝撃性については、腰部及び肩部が胸部よりも勝っていることが知られている。そのため、腰部から肩部にわたる広い領域について乗員を保護するサイドエアバッグ装置の場合、展開膨張するエアバッグ本体によって、胸部を、腰部及び肩部よりもソフトに保護することが望ましい。
【0004】
そこで、エアバッグ本体の膨張部が複数の膨張室に区画されたサイドエアバッグ装置が例えば特許文献1に記載されている。このサイドエアバッグ装置では、図21に示すように、エアバッグ本体131の膨張部132が、第1膨張室134、第2膨張室135及び上下一対の第3膨張室136,137に区画されている。第1膨張室134は、インフレータ133から膨張用ガスが供給されて展開膨張する膨張室である。第2膨張室135は、縦区画部138を介して第1膨張室134の前側に隣接する膨張室である。一方の第3膨張室136は、横区画部139を介して第1膨張室134及び第2膨張室135の上側に隣接する膨張室である。他方の第3膨張室137は、横区画部141を介して第1膨張室134の下側に隣接する膨張室である。
【0005】
縦区画部138は、インフレータ133を内包するインナチューブによって構成されている。縦区画部138には、第1膨張室134及び第2膨張室135を連通させる開口部142が設けられている。上側の横区画部139には、第1膨張室134及び第3膨張室136を連通させる開口部143と、第3膨張室136の膨張用ガスが開口部143を通じて第1膨張室134へ流出(逆流)するのを規制する逆止弁144とが設けられている。下側の横区画部141には、第1膨張室134及び第3膨張室137を連通させる開口部145と、第3膨張室137の膨張用ガスが開口部145を通じて第1膨張室134へ流出(逆流)するのを規制する逆止弁146とが設けられている。
【0006】
上記サイドエアバッグ装置によれば、インフレータ133から噴出された膨張用ガスは第1膨張室134に供給される。この膨張用ガスの一部は、開口部142を通じて第2膨張室135に供給される。また、上記膨張用ガスの一部は、開口部143及び逆止弁144を通じて第3膨張室136に供給されるとともに、開口部145及び逆止弁146を通じて第3膨張室137に供給される。また、各逆止弁144,146の作用により、第1膨張室134及び第2膨張室135の各内圧が低下し、第3膨張室136,137の各内圧が上昇する。乗員の拘束時に第1膨張室134及び第2膨張室135の各内圧が過度に上昇する現象が抑制される。また、肩部及び腰部を拘束及び保護するのに適切な内圧にまで高められた第3膨張室136,137の各内圧が維持される。
【0007】
このように、乗員の側部において耐衝撃性の高い肩部及び腰部の側方では、第3膨張室136,137が高い内圧で展開膨張し、耐衝撃性の低い胸部の側方では、第1膨張室134及び第2膨張室135が、上記両第3膨張室136,137よりも低い内圧で展開膨張する。このようにして、乗員側部の耐衝撃性に即した圧力分布で膨張部132が展開膨張し、乗員の各部(肩部、腰部及び胸部)が衝撃から効果的に保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−137615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記サイドエアバッグ装置では、側方からの衝撃により車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグ本体131が乗員に押付けられた際、乗員はエアバッグ本体131を通じて衝撃の荷重を受ける。この荷重は、乗員がエアバッグ本体131から圧力を受ける面積(乗員のエアバッグ本体131側の受圧面積)と、上記エアバッグ本体131の内圧との積によって表される。この荷重は、乗員を衝撃から保護する観点からは、ボディサイド部の進入開始後短時間で所定値に到達し、その後は、ボディサイド部の進入量(ストローク)に拘らず所定値に維持されることが望ましい。
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載されたサイドエアバッグ装置では、第1膨張室134の膨張初期から膨張用ガスが開口部142を通じて第2膨張室135へ流出し、同第2膨張室135も第1膨張室134とともに展開膨張する。そのため、ボディサイド部の進入量(ストローク)の増加に伴い内圧及び受圧面積が増加する。乗員がエアバッグ本体131から受ける荷重は、ボディサイド部の進入が進むにつれて徐々に増加する。荷重は、ボディサイド部がある程度進入してからでないと所定値に達しない。しかも、荷重は所定値に到達した後も増加し続け、最終的には、所定値を越える。その結果、荷重が所定値に到達するまでは、衝撃からの乗員の充分な保護が開始されない。荷重が所定値に到達した後には、乗員はエアバッグ本体131を通じて、所定値よりも大きな荷重を受けることとなる。従って、乗員を拘束及び保護するうえで改良の余地が残されている。
【0011】
上記の事項は、第3膨張室136,137の一方が省略されたタイプのサイドエアバッグ装置にも共通する。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、第1膨張室と第2膨張室との間に開口部が設けられ、第1膨張室と第3膨張室との間に開口部及び逆止弁が設けられたものよりも乗員を拘束及び保護する性能を高めることのできるサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するサイドエアバッグ装置は、乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより膨張する膨張部を有し、かつ前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開するエアバッグ本体が備えられ、前記膨張部は、膨張用ガスが供給されて展開膨張する第1膨張室と、縦区画部を介して前記第1膨張室の前側に隣接する第2膨張室と、横区画部を介して前記第1膨張室の上下方向についての少なくとも一方に隣接し、かつ膨張用ガスにより前記第1膨張室よりも高い内圧で展開膨張する第3膨張室とに区画され、前記縦区画部及び前記横区画部にはそれぞれ開口部が設けられ、前記縦区画部には、前記第1膨張室が膨張して乗員を拘束する前には閉弁して、同第1膨張室から膨張用ガスが前記開口部を通じて同第2膨張室へ流出するのを規制し、かつ前記第1膨張室が乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力による前記縦区画部の緊張状態の変化に応じて開弁して前記規制を解除する調圧弁が設けられ、前記横区画部には、前記第3膨張室から前記第1膨張室への膨張用ガスの流通を規制する逆止弁が設けられ、前記横区画部は、前記第1膨張室の膨張に伴い、前記乗物用シートの幅方向に緊張して同方向についての同第1膨張室及び前記第3膨張室の膨張厚みを規制する布片からなり、前記布片は、前記乗物用シートの幅方向に並設される一対の構成布部により構成され、前記一対の構成布部は、前記乗物用シートの前後方向に延びる外結合部によってそれぞれ前記エアバッグ本体に結合されるとともに、内結合部によって相互に結合され、前記内結合部は、前記両構成布部の前端部から延びる第1内結合部と、前記第1内結合部の後端部から前記第3膨張室方向へ延びる第2内結合部とで構成され、前記一対の構成布部において、前記第2結合部によって相互に結合された部分が前記逆止弁を構成し、前記縦区画部の前記第3膨張室側の延出端は、前記横区画部の前記一対の構成布部の間に配置されるとともに、前記一対の構成布部を相互に結合する前記第1内結合部によって前記横区画部に結合されており、膨張用ガスの供給初期には、前記第1膨張室に向かうより多くの膨張用ガスが、前記逆止弁に向けて流れる。
【0013】
上記の構成によれば、乗物に対し乗物用シートの側方から衝撃が加わると、第1膨張室に膨張用ガスが供給され、乗員の上半身の側方近傍で同第1膨張室が展開膨張する。この第1膨張室による乗員拘束前には調圧弁が閉弁され、第1膨張室から膨張用ガスが縦区画部の開口部を通じて第2膨張室へ流出することを規制される。そのため、第1膨張室の内圧が上昇する。
【0014】
この際、膨張部のうち所定高さで膨張する領域が第1膨張室及び第2膨張室に区画されていることから、第1膨張室の容積は、同領域が区画されない場合の容積よりも小さい。そのため、第1膨張室の内圧は、上記領域が区画されない場合よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。
【0015】
また、第1膨張室に供給された膨張用ガスの一部は、横区画部の開口部を通じて第3膨張室に供給される。この膨張用ガスにより、第3膨張室が乗員の上半身の側方であって、第1膨張室の上下方向についての隣で、第1膨張室よりも高い内圧で展開膨張する。
【0016】
前記衝撃により、乗物において乗物用シートの側方に存在する乗物構成部材が同乗物用シート側へ進入すると、第1膨張室によって、乗員の側部の一部(前後方向についての後側となる部位)が押圧されて拘束される。
【0017】
膨張部の上記領域では、第1膨張室のみが膨張していることから、乗員が上記領域の圧力を受ける面の面積は、第1膨張室の圧力を受ける面の面積と同じであって小さい。
乗員が膨張部の上記領域を通じて受ける衝撃の荷重は、受圧面積と内圧との積によって表されるところ、この荷重は、膨張用ガス供給期間の初期の早い時期から増加し、乗員を衝撃から保護するための所定値に早く到達する。
【0018】
また、このときには、第3膨張室によって、乗員の側部の一部(第1膨張室による拘束部位に対し上下方向についての隣となる部位)が、第1膨張室によるよりも強く押圧されて拘束される。第3膨張室では、逆止弁により、膨張用ガスの第1膨張室への流通(流出)が規制される。そのため、第3膨張室が内圧の高い状態に保持される。
【0019】
上記第1膨張室による乗員の拘束時には、その拘束に伴い加わる外力によって同第1膨張室が押圧されて変形する。これに伴い、縦区画部の緊張状態が変化して調圧弁が開弁し、膨張用ガスの上記流通規制が解除される。この解除により、第1膨張室から第2膨張室へ膨張用ガスが流出し、第1膨張室の内圧が低下する。
【0020】
また、上記膨張用ガスにより第2膨張室が膨張を開始し、同第2膨張室の内圧が上昇し始める。また、内圧の上昇から少し遅れて、車両構成部材により膨張部の上記領域が、第1膨張室に加え第2膨張室においても乗員に押付けられて、乗員がより拘束されるようになり、乗員が第2膨張室の圧力を受ける面の面積が増加し始める。
【0021】
そのため、調圧弁の開弁後に乗員が膨張部の上記領域全体から受ける荷重は、単に、膨張部の上記領域を区画せず、かつ調圧弁を設けない場合の荷重の最大値よりも小さな値(所定値)に維持される。
【0022】
このように、上記調圧弁の作動により、膨張部の上記領域を通じて乗員が受ける荷重の特性を、短時間で所定値に到達し、その後は所定値に維持されるといった、乗員を適切に拘束して保護するうえで好適な特性にすることが可能となる。
また、布片からなる横区画部は、第1膨張室及び第3膨張室が展開膨張する際、乗物用シートの幅方向に緊張させられた状態となり、第1膨張室及び第3膨張室の同方向の膨張厚みを規制する。この際の膨張厚みは、膨張部を、布片を用いずに第1膨張室及び第3膨張室に区画する場合、すなわち、縫合等の手段によって区画する場合よりも大きくなる。また、横区画部による上記膨張厚みは、上記方向についての寸法の異なる布片を用いることで変更可能である。従って、横区画部として、乗物用シートの幅方向について適切な寸法を有するものを用いることで、第1膨張室及び第3膨張室を、乗員を拘束及び保護するうえで好適な膨張厚みで膨張させることが可能である。
【0023】
上記サイドエアバッグ装置において、前記調圧弁は、前記縦区画部の前記開口部の周りに設けられた一対の弁体部を備え、前記第1膨張室による乗員拘束前には、前記両弁体部が膨張用ガスにより押圧されて互いに接触又は接近することで閉弁する一方、前記第1膨張室による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記両弁体部が前記縦区画部を通じて撓んで互いに離間することで開弁するものであることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、第1膨張室による乗員拘束前には、両弁体部が同第1膨張室の膨張用ガスによって押圧されて互いに接触又は接近することで、調圧弁が閉弁する。第1膨張室の膨張用ガスが縦区画部の開口部を通って第2膨張室へ流通(流出)することを規制される。そのため、第1膨張室の内圧が上昇して、同第1膨張室が展開膨張する。
【0025】
第1膨張室による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力によって同第1膨張室が押圧されて変形する。これに伴い、縦区画部を通じて両弁体部が撓んで互いに離間し、調圧弁が開弁する。前記流通規制が解除され、第1膨張室の膨張用ガスが開口部を通じて第2膨張室へ流出することを許容される。
【0026】
上記サイドエアバッグ装置において、前記第1膨張室及び前記第2膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の胸部の側方で展開膨張するものであることが好ましい。
ここで、一般に、乗員側部の耐衝撃性については、胸部以外の部位(例えば、腰部、肩部等)が胸部よりも勝っていることが知られている。そのため、エアバッグ本体の膨張部を通じて乗員の上半身に側方から作用する衝撃は、胸部において他の部位におけるよりも小さいことが望ましい。
【0027】
この点、上記サイドエアバッグ装置では、乗物に対し、乗物用シートの側方から衝撃が加わると、乗員の上半身のうち耐衝撃性が他の部位よりも低い胸部の側方で、第1膨張室及び第2膨張室が、上下方向についての隣に位置する第3膨張室よりも低い内圧で展開膨張する。第1膨張室及び第2膨張室によって、胸部が上半身の他の部位よりも低い圧力で押圧されて拘束される。このように、乗員の胸部についての耐衝撃性に即した圧力で第1膨張室及び第2膨張室が展開膨張し、その胸部が第1膨張室及び第2膨張室によって衝撃から効果的に保護される。
【0028】
上記サイドエアバッグ装置において、前記膨張部は、前記第1膨張室の上側に前記第3膨張室を有しており、前記第3膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の肩部の側方で展開膨張するものであることが好ましい。
【0029】
ここで、一般に、乗員側部の耐衝撃性については、肩部が胸部よりも勝っていることが知られている。そのため、エアバッグ本体の膨張部を通じて乗員の上半身に側方から作用する衝撃は、胸部において肩部におけるよりも小さいことが望ましい。
【0030】
この点、上記サイドエアバッグ装置では、乗物に対し、乗物用シートの側方から衝撃が加わると、乗員の上半身のうち耐衝撃性が胸部よりも高い肩部の側方で、第3膨張室がその下側の第1膨張室よりも高い内圧で展開膨張する。この第3膨張室によって、肩部が胸部よりも高い圧力で押圧されて拘束される。このように、乗員の肩部についての耐衝撃性に即した圧力で第3膨張室が展開膨張し、その肩部が第3膨張室によって衝撃から効果的に保護される。
【0031】
上記サイドエアバッグ装置において、前記膨張部は、前記第1膨張室の下側に前記第3膨張室を有しており、前記第3膨張室は、前記乗物用シートに着座している乗員の腰部の側方で展開膨張するものであることが好ましい。
【0032】
ここで、一般に、乗員側部の耐衝撃性については、腰部が胸部よりも勝っていることが知られている。そのため、エアバッグ本体の膨張部を通じて乗員の上半身に側方から作用する衝撃は、胸部において腰部におけるよりも小さいことが望ましい。
【0033】
この点、上記サイドエアバッグ装置では、乗物に対し、乗物用シートの側方から衝撃が加わると、乗員の上半身のうち耐衝撃性が胸部よりも高い腰部の側方で、第3膨張室がその上側の第1膨張室よりも高い内圧で展開膨張する。この第3膨張室によって、腰部が胸部よりも高い圧力で押圧されて拘束される。このように、乗員の腰部についての耐衝撃性に即した圧力で第3膨張室が展開膨張し、その腰部が第3膨張室によって衝撃から効果的に保護される。
【0034】
上記サイドエアバッグ装置において、前記縦区画部は、前記第1膨張室の膨張に伴い、前記乗物用シートの幅方向に緊張して同方向についての同第1膨張室の膨張厚みを規制する布片からなることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、布片からなる縦区画部は、第1膨張室が展開膨張する際、乗物用シートの幅方向に緊張させられた状態となり、第1膨張室の同方向の膨張厚みを規制する。この際の膨張厚みは、膨張部を、布片を用いずに第1膨張室及び第2膨張室に区画する場合、すなわち、縫合等の手段によって区画する場合よりも大きくなる。また、縦区画部による上記膨張厚みは、上記方向についての寸法の異なる布片を用いることで変更可能である。従って、縦区画部として、乗物用シートの幅方向について適切な寸法を有するものを用いることで、第1膨張室を、乗員を拘束及び保護するうえで好適な膨張厚みで膨張させることが可能である。
【0038】
上記サイドエアバッグ装置において、前記第3膨張室は、前記乗物用シートの前後方向について、前記第1膨張室及び前記第2膨張室に跨って設けられていることが好ましい。
ここで、第3膨張室が、第1膨張室のみの上下方向についての少なくとも一方で展開膨張するだけでは、乗員の上半身を十分に拘束及び保護することが困難な場合も起こり得る。
【0039】
この点、上記の構成によれば、第3膨張室は、第1膨張室だけでなく第2膨張室の上下方向についての少なくとも一方でも展開膨張する。従って、第3膨張室は、第2膨張室の上下方向についての少なくとも一方で展開膨張する分、前方に広い領域で展開膨張することとなり、乗員の上半身の前後方向に広い部位を拘束及び保護することが可能となる。
【発明の効果】
【0040】
上記サイドエアバッグ装置によれば、第1膨張室と第2膨張室との間に開口部が設けられ、第1膨張室と第3膨張室との間に開口部及び逆止弁が設けられたものよりも乗員を拘束及び保護する性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】サイドエアバッグ装置の一実施形態を示す図であり、同装置が設けられた車両用シートをエアバッグ及び乗員とともに示す側面図。
図2】一実施形態において、車両用シート、エアバッグ、乗員及びボディサイド部の位置関係を示す平断面図。
図3】一実施形態において、エアバッグモジュールが組み込まれたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図。
図4】一実施形態において、エアバッグ本体が非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
図5】(A)は、図4のエアバッグモジュールの内部構造を乗員とともに示す部分側断面図、(B)は(A)の一部を拡大して示す部分側断面図。
図6】一実施形態において、エアバッグの構成部材である本体布部、横区画部及び縦区画部を分解して示す斜視図。
図7】一実施形態において、エアバッグの第1結合工程を説明する斜視図。
図8】一実施形態において、エアバッグの第2結合工程を説明する斜視図。
図9】一実施形態において、エアバッグの第3結合工程を説明する図であり、本体布部の一部を省略して示す部分斜視図。
図10】一実施形態において、エアバッグの第4結合工程を説明する斜視図。
図11図4の11−11線に沿ったエアバッグの内部構造を模式的に示す部分断面図。
図12図4の12−12線に沿ったエアバッグの内部構造を模式的に示す部分断面図。
図13図4の13−13線に沿ったエアバッグの内部構造を模式的に示す部分断面図。
図14図13の14−14線に沿ったエアバッグの内部構造を模式的に示す部分断面図。
図15図3のエアバッグ本体がその一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開膨張した状態を示す部分平断面図。
図16】一実施形態における縦区画部が緊張したときの調圧弁及びその周辺部分を示す部分斜視図。
図17】(A)〜(C)は、一実施形態における調圧弁の動作を模式的に示す側断面図。
図18図14に対応する図であり、横区画部が緊張したときのエアバッグ内部の状態を示す部分断面図。
図19】一実施形態において、車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる際の内圧、受圧面積及び荷重と、ボディサイド部の進入量(ストローク)との関係を示す特性図。
図20】(A)〜(C)は、エアバッグの変形例を車両用シート及び乗員とともに示す部分側面図。
図21】従来のサイドエアバッグ装置を示す図であり、エアバッグの内部構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、サイドエアバッグ装置の一実施形態について、図1図19を参照して説明する。
本実施形態でのサイドエアバッグ装置は、乗物としての車両に装備されるものである。なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、車両の幅方向(車幅方向)についての中央部を基準とし、その中央部に近づく側を「車内側」とし、中央部から遠ざかる側を「車外側」とするものとする。また、各図においては、「前方」、「後方」、「車内側」、「車外側」を、それぞれ「前」、「後」、「内」、「外」と記載するものとする。
【0043】
また、車両用シートには、標準的な体格を有する乗員(大人)が、予め定められた姿勢(正規の姿勢)で着座しているものとする。
図1及び図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側)の近傍には、乗物用シートとして車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材(乗物構成部材)を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0044】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0045】
シートバック14は、シートバック本体15と、そのシートバック本体15の幅方向についての両側部に設けられた一対のサイドサポート部16とを備えている。シートバック本体15は後側へ傾斜しており、乗員Pの上半身を後側から支える。両サイドサポート部16は、シートバック本体15から前方へ突出しており、シートクッション13に腰掛けてシートバック本体15に凭れた乗員Pの上半身の車幅方向についての動きを規制する。
【0046】
次に、シートバック14において、車外側のサイドサポート部16を含む車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック14内の車外側(図3では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部17」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部17を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド18が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード19が配置されている。なお、シートパッド18は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。後述する図15についても同様である。
【0047】
シートパッド18内において、サイドフレーム部17の車外側近傍には収納部21が設けられている。収納部21の位置は、シートバック14の上下方向についての中間部分であって、車両用シート12に着座した乗員Pの斜め後方近傍となる(図1図2参照)。この収納部21には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0048】
収納部21の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット22が延びている。シートパッド18の前側の角部18Cとスリット22とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部23を構成している。
【0049】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
【0050】
<インフレータアセンブリ30>
図3図5に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生器としてのインフレータ31と、そのインフレータ31を覆うリテーナ32とを備えている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(下端部)には、ガス噴出部31Aが設けられている。また、インフレータ31の上記長さ方向についての他方の端部(上端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0051】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0052】
一方、リテーナ32は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒に上記サイドフレーム部17(図3参照)に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって、略上下方向へ延びる略筒状に形成されている。リテーナ32の少なくとも下端は開放端32Aとなっている。リテーナ32においてガス噴出部31Aの前方となる箇所には窓部33が設けられている。そして、インフレータ31から噴出された膨張用ガスの多くが、開放端32A及び窓部33を通じてリテーナ32の外部(下方や前方)へ噴き出される。本実施形態では、膨張用ガスが、窓部33からよりも開放端32Aから多く吹き出されるように設定されている。
【0053】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部17に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0054】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
図1及び図2に示すように、エアバッグ40の外殻部分はエアバッグ本体41によって構成されている。
【0055】
<エアバッグ本体41>
エアバッグ本体41は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が車両用シート12の側方から同車両10(ボディサイド部11)に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスの供給を受ける。このエアバッグ本体41は、自身の一部を上記シートバック14内に残した状態で同シートバック14から前方へ向けて飛び出す。エアバッグ本体41は、車両用シート12に着座している乗員Pに接近した箇所で展開膨張することにより、同乗員を拘束して上記衝撃から保護するためのものである。
【0056】
図4は、エアバッグ本体41が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを示している。また、図5は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図4の非膨張展開状態のエアバッグ本体41が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを乗員Pとともに示している。
【0057】
図4及び図5に示すように、エアバッグ本体41は、1枚の布片(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ本体41の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを本体布部43(図5参照)といい、車外側に位置するものを本体布部44(図4参照)というものとする。
【0058】
なお、本実施形態では、折り線42がエアバッグ本体41の後端部に位置するように布片が二つ折りされているが、折り線42が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように布片が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ本体41は折り線42に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ本体41は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ本体41は3枚以上の布片からなるものであってもよい。
【0059】
エアバッグ本体41においては、両本体布部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある(図6参照)。各本体布部43,44の形状・大きさは、エアバッグ本体41が車両用シート12とボディサイド部11との間で展開膨張したときに、その車両用シート12に着座している乗員Pの上半身の多くの部分(腰部PPから肩部PSにかけての部位)に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0060】
上記両本体布部43,44としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0061】
両本体布部43,44の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部45においてなされている。本実施形態では、周縁結合部45の大部分は、両本体布部43,44の周縁部のうち、後端部(折り線42の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する無端状結合部48、環状結合部53、外結合部72,84,85、内結合部73,93及び結合部76,77についても同様である。
【0062】
上記縫製に関し、図4図10及び図16では、3つの線種によって縫製部分が表現されている。1つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合部分を側方から見た状態を示している(図4における周縁結合部45等参照)。2番目の線種は、一定長さ(一般的な破線よりも長い長さ)の細線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、車外側の本体布部44の奥に位置していて直接は見えない(隠れている)縫糸の状態を示している(図5(A)における内結合部93等参照)。3番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる本体布部43と本体布部44との間や、構成布部66と構成布部69との間における縫糸の状態を示している(図5(A)における周縁結合部45等参照)。すなわち、縫製が3番目の線種で表現されている図は、縫製部分を通る断面に沿った断面構造を示している。
【0063】
図4図6に示すように、両本体布部43,44間であって、周縁結合部45によって囲まれた空間は、膨張用ガスによって乗員Pの上半身の側方で展開膨張することにより、同上半身の多くの部分を拘束して衝撃から保護するための膨張部46となっている。
【0064】
なお、周縁結合部45は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、後述する無端状結合部48、環状結合部53、外結合部72,84,85、内結合部73,93及び結合部76,77についても同様である。
【0065】
各本体布部43,44の後端部であって上下方向についての中間部分には、折り線42を跨いで前方へ延びるスリット47(図7参照)が形成されている。両本体布部43,44においてスリット47の周りには無端状結合部48が設けられている。無端状結合部48は、両本体布部43,44におけるスリット47の周りの部分を補強して、同部分が裂けるのを防止するためのものである。
【0066】
両本体布部43,44においてスリット47よりも上側部分は、他の部分の内側へ折り曲げた状態で入り込ませられた内折り部49となっている。内折り部49の上端部は、上述した周縁結合部45によって両本体布部43,44の他の部分に結合されている。また、上記内折り部49の形成に伴い、スリット47が略円形に開かれて、上記インフレータアセンブリ30の挿入口51が形成されている。
【0067】
また、車内側の本体布部43について、上記折り線42の近傍であって上記スリット47の下方となる複数箇所(2箇所)には、上記リテーナ32のボルト34(図3参照)を挿通させるためのボルト孔52があけられている。各ボルト孔52の周りには環状結合部53が設けられている。環状結合部53は、本体布部43における各ボルト孔52の周りの部分を補強して、同部分が裂けるのを防止するためのものである。
【0068】
図5に示すように、膨張部46は、膨張用ガスが供給されて展開膨張する第1膨張室61と、縦区画部81を介して第1膨張室61の前側に隣接する第2膨張室62と、横区画部64を介して第1膨張室61及び第2膨張室62の下側に隣接する第3膨張室63とに区画されている。縦区画部81及び横区画部64は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
【0069】
<横区画部64>
図5及び図6に示すように、横区画部64は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えば織布等からなる1枚の布片を、その中央部分に設定した折り線65に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を両本体布部43,44の下部間に架設することにより形成されている。両本体布部43,44の下部とは、乗員Pの腰部PPと胸部PTとの境界部分の側方となる箇所である。
【0070】
なお、横区画部64は、折り線65に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。
横区画部64の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置する部分を構成布部66といい、車外側に位置するものを構成布部69というものとする(図14参照)。
【0071】
車内側の構成布部66の主要部は、本体布部43の後端部から前端部まで延びる本体構成布部67によって構成されている。本体構成布部67は前側ほど低くなるように傾斜している。構成布部66は、上記本体構成布部67に加え、その本体構成布部67の後端部から前下方へ向けて延びる延出部68を備えている。
【0072】
車外側の構成布部69の主要部は、各本体布部44の後端部から前端部まで延びる本体構成布部70によって構成されている。本体構成布部70は前側ほど低くなるように傾斜している。構成布部69は、上記本体構成布部70に加え、その本体構成布部70の後端部から前下方へ向けて延びる延出部71を備えている。
【0073】
上記のように二つ折りされた横区画部64は、折り線65を上記折り線42に合致させた状態で両本体布部43,44間に配置されている(図14図18参照)。車内側の本体構成布部67は、その上側の周縁部に沿って設けられた外結合部72によって車内側の本体布部43に結合されている。同様に、車外側の本体構成布部70は、その上側の周縁部に沿って設けられた外結合部72によって車外側の本体布部44に結合されている。さらに、両本体構成布部67,70は、それらの下側の周縁部に沿って設けられた内結合部73によって相互に結合されている。なお、本体構成布部67,70の上側は、横区画部64が緊張させられた状態では、本体布部43,44に近い側となる。また、本体構成布部67,70の下側は、上記と同様の状態では、本体布部43,44から遠い側となる。
【0074】
さらに、上記両本体構成布部67,70の前端部は、上述した周縁結合部45によって両本体布部43,44の前端部に結合(共縫い)されている(図5参照)。
膨張部46において横区画部64よりも下側の空間は、車両用シート12に着座している乗員Pの腰部PPの側方で展開膨張する第3膨張室63となっている。
【0075】
横区画部64は、膨張部46が展開膨張したとき、車幅方向に緊張させられた状態となり、膨張部46の同方向の厚みを規制する(図18参照)。
<縦区画部81>
図11は、図4の11−11線に沿った断面構造を示し、図12図4の12−12線に沿った断面構造を示している。図13は、図4の13−13線に沿った断面構造を示し、図14は、図13の14−14線に沿った断面構造を示している。これらの図11図14では、各部材が厚みを省略して描かれている。また、図11では、各内結合部93がジグザグ状に描かれている。図5図11及び図12に示すように、エアバッグ本体41が非膨張展開状態となっているときには、縦区画部81は、両本体布部43,44間において、上下方向に延びる折り線82に沿って折り返されることにより、相対向する一対の周縁部83を互いに接近させてなる二つ折り状態にされている。この二つ折り状態の縦区画部81は、折り線82を両周縁部83よりも上流側(インフレータアセンブリ30側)に位置させた状態で膨張部46内(本体布部43,44間)に配設されている。縦区画部81は、横区画部64に対し交差する方向である略上下方向へ延びている。
【0076】
図4及び図8に示すように、二つ折り状態の縦区画部81は、その上側の延出端である上端部において、エアバッグ本体41に結合されている。すなわち、縦区画部81の上端部は、上述した周縁結合部45によって両本体布部43,44の上端部に結合(共縫い)されている。
【0077】
また、二つ折り状態の縦区画部81は、その下側の延出端である下部において、両構成布部66,69間に配置され、両本体構成布部67,70の後部に重ねられている。二つ折り状態の縦区画部81の下端部は、上述した内結合部73によって、横区画部64の両本体構成布部67,70に結合(共縫い)されている。
【0078】
図6に示すように、上記縦区画部81は、第1膨張室61の展開膨張に伴い面状に緊張させられたとき、折り線82に沿う方向(以下「縦方向」という)の寸法が、同折り線82に直交する方向(以下「横方向」という)の寸法よりも長い形状を有している。図8に示すように、緊張させられた状態の縦区画部81は、両本体構成布部67,70に重ならない箇所では、横方向(車幅方向)について相対向する一対の周縁部83に沿って設けられた外結合部84によって本体布部43,44に結合されている。また、緊張させられた状態の縦区画部81は、両本体構成布部67,70に重なる箇所では、上記各周縁部83の下部に沿って設けられた外結合部85によって、本体構成布部67,70にのみ結合されている(図13参照)。
【0079】
縦区画部81は、上記の結合により両本体布部43,44間に架設されている。縦区画部81は、エアバッグ本体41が非膨張展開状態となったときには、二つ折りされた状態となる(図5図11図13参照)。また、縦区画部81は、第1膨張室61が展開膨張したとき、横方向(車幅方向)に緊張させられた状態となり(図16参照)、第1膨張室61の同方向の厚みを規制する。
【0080】
縦区画部81は、膨張部46において横区画部64よりも上側の膨張室が展開膨張したとき、乗員Pの上半身の後半部と前半部との境界部分の近傍に位置するように配置されている。横区画部64よりも上側であって、縦区画部81よりも後側の膨張室は、インフレータ31からの膨張用ガスが最初に供給される第1膨張室61とされ、縦区画部81よりも前側の膨張室は第2膨張室62とされている。第1膨張室61は、乗員Pの上半身のうち、肩部PSの側方及び胸部PTの後半部の側方で展開膨張して、同肩部PS及び胸部PTの後半部を拘束及び保護する。また、第2膨張室62は、胸部PTの前半部の側方で展開膨張して、同胸部PTの前半部を拘束及び保護する。
【0081】
縦区画部81は、図8及び図16に示すように、縦方向(上下方向)に並べられた2つの布片86,87からなる。縦区画部81は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えば織布等からなる。
【0082】
図16に示すように、上下両布片86,87では、それらの端部88,89の端縁88E,89E同士が合致させられた状態で、端部88,89同士が帯状に重ね合わされている。上下両布片86,87は、それぞれ帯状をなす一対の重ね合わせ部91と、それ以外の箇所(以下「非重ね合わせ部92」という)との境界部分において、横方向(車幅方向)へ延びる内結合部93によって結合されている。この境界部分は、上記端縁88E,89Eから上下方向についての一方(本実施形態では、下方)へ一定距離離れている。
【0083】
そして、図5に示すように、インフレータアセンブリ30の大部分は、略上下方向へ延びる姿勢にされて、エアバッグ本体41内の後端部に収容されている。インフレータアセンブリ30の上部は、挿入口51を通り、エアバッグ本体41の外部に露出している。リテーナ32のボルト34は、対応するボルト孔52(図6参照)に挿通されている。こうした挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ本体41に対し位置決めされた状態で係止されている。この状態では、ガス噴出部31Aが、第1膨張室61の後部であって、第3膨張室63に接近した箇所に位置している。
【0084】
横区画部64には開口部74及び逆止弁75が設けられ、縦区画部81には開口部94及び調圧弁97が設けられている。
<開口部74及び逆止弁75>
図5(A),(B)及び図6に示すように、開口部74は、膨張部46において、横区画部64よりも下側の膨張室(第3膨張室63)と、横区画部64よりも上側の膨張室(第1膨張室61)とを連通させるためのものである。
【0085】
横区画部64における上記内結合部73は、各本体構成布部67,70の後部において結合を解除されている。表現を変えると、折り線65を跨ぐ部分では、両本体構成布部67,70を結合させる内結合部73が設けられていない。このように、内結合部73が設けられていない部分である、結合を解除された箇所によって開口部74が構成されている。
【0086】
逆止弁75は、開口部74での膨張用ガスの流通を制御する弁であり、第1膨張室61から第3膨張室63への膨張用ガスの流通(流入)を許容するが、その逆の流通(流出)を規制する。
【0087】
二つ折りされた両延出部68,71の前側の周縁部は、それらの周縁部に沿って設けられた結合部76によって相互に結合されている。この結合部76の上端部は、上記内結合部73の後端部に繋がっている。二つ折りされた両延出部68,71の後部は、それらの後側の周縁部に沿って設けられた結合部77によって相互に結合されている。結合部76,77はいずれも前側ほど低くなるように傾斜している。さらに、二つ折りされた両延出部68,71において結合部77よりも後側部分は、上述した周縁結合部45によって両本体布部43,44の後下端部に結合(共縫い)されている。車内側の延出部68において、開口部74と両結合部76,77とによって囲まれた箇所は、逆止弁75の弁体部78を構成している。また、車外側の延出部71において、開口部74と両結合部76,77とによって囲まれた箇所は、逆止弁75の弁体部79を構成している。そして、逆止弁75は、両弁体部78,79の一方が他方から離間することで膨張用ガスの流通を許容する。このときの逆止弁75の動作態様を「開弁」という。また、逆止弁75は、両弁体部78,79が、それらの少なくとも一部において互いに接触することで、膨張用ガスの流通を規制する。このときの逆止弁75の動作態様を「閉弁」という。
【0088】
<開口部94及び調圧弁97>
図5(A),(B)及び図16に示すように、開口部94及び調圧弁97は、縦区画部81において、縦及び横の両方向についての略中央部分に設けられている。詳しくは、縦区画部81における内結合部93は、その一部(本実施形態では折り線82を跨ぐ部分)において結合を解除されている。表現を変えると、両重ね合わせ部91と非重ね合わせ部92との境界部分において、折り線82を跨ぐ部分では、上下両布片86,87を結合させる内結合部93が設けられていない。このように内結合部93が設けられていない部分である、結合を解除された箇所は、横方向(車幅方向)に延びて、第1膨張室61と第2膨張室62とを連通させるスリットからなる開口部94を構成している。ここでの横方向(車幅方向)は、車両10に対し衝撃の加わる方向と同じである。
【0089】
調圧弁97は、開口部94での膨張用ガスの流通を制御することで、第1膨張室61及び第2膨張室62の各内圧を調整する弁である。より詳しくは、調圧弁97は、第1膨張室61が膨張して乗員を拘束する前には閉弁して、同第1膨張室61の膨張用ガスが開口部94を通じて第2膨張室62へ流出するのを規制する。調圧弁97は、第1膨張室61が乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力による縦区画部81の緊張状態の変化に応じて開弁して上記規制を解除する。
【0090】
図16に示すように、重ね合わせ部91であって、開口部94と端縁88Eとの間の部分は、調圧弁97の弁体部95を構成し、開口部94と端縁89Eとの間の部分は、調圧弁97の弁体部96を構成している。両弁体部95,96が、それらの少なくとも一部、例えば先端部95T,96Tにおいて互いに接触することで、両弁体部95,96間での膨張用ガスの流通が規制される(図17(A),(B)参照)。このときの調圧弁97の動作態様を「閉弁」という。また、開口部94が開かれ、かつ弁体部95の全体が弁体部96の全体から離間することで、両弁体部95,96間での膨張用ガスの流通が可能となる(図17(C)参照)。このときの調圧弁97の動作態様を「開弁」という。
【0091】
さらに、上記のように、両弁体部95,96を有する両重ね合わせ部91は、膨張部46の展開膨張前には第1膨張室61に配置されている。
そして、両重ね合わせ部91は非重ね合わせ部92との境界部分において、上方又は下方(本実施形態では上方)へ折り曲げられて、同非重ね合わせ部92に重ねられている。さらに、折り曲げられた帯状の両重ね合わせ部91は、内結合部93に沿う方向(横方向:車幅方向)の両端部において、前述した外結合部84により、エアバッグ本体41の対応する本体布部43,44及び非重ね合わせ部92に結合(共縫い)されている(図5(A)、図8参照)。
【0092】
上記のようにして、エアバッグ40が構成されている。次に、このエアバッグ40を製造する方法について、図7図10を参照しながら、横区画部64及び縦区画部81を両本体布部43,44間に架設する方法を中心に説明する。この製造に際しては、次の第1〜第4の4つの結合工程が順に行なわれる。
【0093】
<第1結合工程>
図7に示すように、第1結合工程では、エアバッグ本体41及び横区画部64がともに展開させられる。エアバッグ本体41としては、スリット47、無端状結合部48、ボルト孔52及び環状結合部53が予め形成されたものが用いられる。
【0094】
折り線65を折り線42に合致させた状態で、横区画部64がエアバッグ本体41の下部上に重ねられる。詳しくは、車内側の構成布部66が対応する本体布部43の下部上に重ねられ、車外側の構成布部69が対応する本体布部44の下部上に重ねられる。
【0095】
車内側の本体構成布部67がその上側の周縁部に沿って本体布部43に縫合されるとともに、車外側の本体構成布部70がその上側の周縁部に沿って本体布部44に縫合されることで、外結合部72が形成される。この外結合部72により、各構成布部66,69のうち、緊張状態にされたときに本体布部43,44に近い側(上側)の周縁部が、展開状態の本体布部43,44に結合される。
【0096】
<第2結合工程>
図8に示すように、第2結合工程では、エアバッグ本体41の後部と、横区画部64の後部とが折り線42,65(図7参照)に沿って二つ折りされる。エアバッグ本体41の後部を除く部分と、横区画部64の後部を除く部分とは展開させられる。
【0097】
上記のように一部が展開させられた状態のエアバッグ本体41上及び横区画部64上に、展開させられた状態の縦区画部81が重ねられる。この縦区画部81としては、第2結合工程の実施に先立ち、上下一対の布片86,87が内結合部93によって結合されて、開口部94と調圧弁97とが形成されたものが用いられる。
【0098】
縦区画部81の一対の周縁部83において、両構成布部66,69に重ならない箇所が本体布部43,44に縫合されることで、一対の外結合部84が形成される。
また、両周縁部83において両構成布部66,69に重なる箇所が本体構成布部67,70のみに縫合されることで、一対の外結合部85が形成される。
【0099】
このように、第2結合工程が行なわれることで、開口部94と調圧弁97とを備える縦区画部81が、両本体布部43,44間に架設されるとともに、同縦区画部81の延出端(下端部)が横区画部64に連結される(図13参照)。
【0100】
なお、両外結合部84の形成は両外結合部85の形成よりも早いタイミングで行なわれてもよいし、遅いタイミングで行なわれてもよい。
<第3結合工程>
図9に示すように、第3結合工程では、上記第2結合工程において少なくとも一部が展開されている部分(エアバッグ本体41、横区画部64及び縦区画部81)がさらに折り線82(図8参照)に沿って二つ折りされる。この状態で、両本体構成布部67,70のうち、下側の周縁部同士が縫合されることによって、内結合部73と開口部74とが形成される。両延出部68,71の前側の周縁部同士が縫合されることで結合部76が形成され、後側の周縁部同士が縫合されることで結合部77が形成される。両結合部76,77の形成により、弁体部78,79を有する逆止弁75が形成される。
【0101】
このように、一対の構成布部66,69のうち、下側(横区画部64が緊張状態となったとき、本体布部43,44から遠い側)の周縁部同士が結合される過程で、横区画部64を介して上下方向に隣り合う膨張室(第1膨張室61及び第3膨張室63)間を連通させる開口部74と、同開口部74を開閉する逆止弁75(弁)とが形成される。すなわち、第3結合工程が行なわれることで、両構成布部66,69の周縁部同士が結合されるだけでなく、開口部74及び逆止弁75(弁)も一緒に形成される。
【0102】
なお、この第3結合工程に際しては、同図9に示すように、本体布部43,44において外結合部72よりも下側部分が上外方へ折り曲げられる等して、横区画部64が露出させられる。図9では、車外側の本体布部44の一部については破断された状態で図示されている。
【0103】
これらの第1〜第3結合工程には、特段難しい作業は含まれていない。各結合工程において縫合(結合)作業が順に行なわれることで、互いに連結された状態の横区画部64と縦区画部81とが、両本体布部43,44間に架設される。
【0104】
<第4結合工程>
図9及び図10に示すように、第4結合工程では、両本体布部43,44においてスリット47よりも上側部分が、他の部分の内側へ折り曲げた状態で入り込ませられて、内折り部49が形成される。この状態で、本体布部43,44の周縁部同士が縫合されることで、周縁結合部45が設けられる。この周縁結合部45によって両本体布部43,44が結合されるとともに、内折り部49の上端部が本体布部43,44の他の部分に結合(共縫い)される。そのほか、横区画部64における本体構成布部67,70毎の前端部が本体布部43,44の前端部に結合(共縫い)されるとともに、延出部68,71の両後部において結合部77よりも後側部分が本体布部43,44の後下端部に結合(共縫い)される。さらに、二つ折りされた縦区画部81における上端部が本体布部43,44の上端部に結合(共縫い)される。
【0105】
このようにして、本体布部43,44間に横区画部64及び縦区画部81が架設されてなるエアバッグ40が形成される。このエアバッグ40では、図10に示すように、車外側の本体布部44上に縫い目として周縁結合部45、無端状結合部48及び外結合部72,84が表われる。また、車内側の本体布部43上には、上記に加え、縫い目として環状結合部53が表われる。
【0106】
ところで、図3に示すように、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図4図5参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMを、シートバック14における限られた大きさの収納部21に対し、収納に適したものとするためである。
【0107】
収納用形態にされたエアバッグモジュールAMでは、上記のようにリテーナ32から延びてエアバッグ本体41(本体布部43)に挿通されたボルト34がサイドフレーム部17に挿通され、このボルト34にナット35が締付けられている。この締付けにより、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部17に固定されている。
【0108】
なお、インフレータアセンブリ30は、上述したボルト34及びナット35とは異なる部材によって車両10(サイドフレーム部17)に固定されてもよい。
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに衝撃センサ121及び制御装置122を備えている。衝撃センサ121は加速度センサ等からなり、車両10のボディサイド部11(図2参照)等に設けられており、同ボディサイド部11に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置122は、衝撃センサ121からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0109】
さらに、車両10には、車両用シート12に着座している乗員Pをその車両用シート12に拘束するためのシートベルト装置が装備されているが、図1等ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
【0110】
上記のようにして、本実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用として、代表的な動作の態様(モード)について説明する。
図17(A)〜(C)は、調圧弁97及び縦区画部81の形態が、膨張用ガスの供給開始後、時間とともに変化する様子を模式的に示したものであり、細部については省略・簡略化されている。
【0111】
また、図19は、第1及び第2の各膨張室61,62内の膨張用ガスの圧力(内圧)と、乗員Pの各膨張室61,62側の受圧面積と、乗員Pがエアバッグ40から受ける荷重とが、衝撃により車内側へ進入するボディサイド部11の進入量(ストローク)に応じてどのように変化するかを示している。荷重は、内圧と受圧面積との積によって表される。なお、図19では、第1膨張室61による荷重と、第2膨張室62による荷重とを比較するために、インフレータ31からの膨張用ガスが、第3膨張室63には供給されず、第1膨張室61及び第2膨張室62にのみ供給されるものとしている。
【0112】
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両10(ボディサイド部11)に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置122からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、インフレータ31から膨張用ガスが第1膨張室61に供給されない。エアバッグ40は、収納用形態で収納部21に収納され続ける(図3参照)。ボディサイド部11の進入量(ストローク)は「0」である。各膨張室61,62の内圧はともに低く(略大気圧)、受圧面積及び荷重はともに「0」である。
【0113】
これに対し、車両10の走行中に、側突等により車両10(ボディサイド部11)に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ121によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置122からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力される(図1図2参照)。このときのボディサイド部11の進入量(ストローク)をS0とする。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が膨張用ガスを発生し、これをインフレータ31の軸線に直交する方向(径方向)へ噴出する。膨張用ガスの一部は、図5に示すリテーナ32の窓部33を通って第1膨張室61に供給される。この膨張用ガスにより第1膨張室61が膨張を開始する。
【0114】
一方、上記第1膨張室61に向かうよりも多くの膨張用ガスが、リテーナ32の下側の開放端32Aから逆止弁75へ向けて流れる。インフレータ31からの膨張用ガスが逆止弁75に供給されている期間には、両弁体部78には、円筒状になろうとする力が発生する。そのため、膨張用ガスは、開口部74と両弁体部78,79間とを通り第3膨張室63へ流入する。この膨張用ガスにより第3膨張室63が膨張を開始する。横区画部64が、膨張する第1膨張室61及び第3膨張室63(一対の本体布部43,44)によって、横方向(車幅方向)に引っ張られる。インフレータ31からの膨張用ガスの供給が続くことで、第3膨張室63の内圧が上昇していく。
【0115】
上記第1膨張室61の膨張開始に伴い、二つ折り状態の縦区画部81が、膨張する第1膨張室61(一対の本体布部43,44)によって、横方向(車幅方向)に引っ張られる。
【0116】
図17(A)に示すように、調圧弁97の両弁体部95,96に対しては、その重なり方向(厚み方向)から内圧PIが加わる。この内圧PIは、第1膨張室61による乗員Pの拘束時の内圧や、第3膨張室63の内圧ほど高くない。両弁体部95,96は、この内圧PIにより面全体で互いに密着し、両弁体部95,96間での膨張用ガスの流通を規制する自己シール状態となる。さらに、折り曲げられて縦区画部81の非重ね合わせ部92に重ねられた重ね合わせ部91が、内圧によりその非重ね合わせ部92に押付けられる(図16参照)。このことからも、両弁体部95,96が一層閉じられやすくなる。
【0117】
ここで、図6に示すように、縦区画部81は、横方向(車幅方向)よりも縦方向(上下方向)に長く形成されている。このことから、縦区画部81では、横方向(車幅方向)に対し、縦方向(上下方向)に対するよりも強いテンションが掛かりやすい。本実施形態では、開口部94は、この強いテンションの掛かりやすい横方向(車幅方向)に延びているため、閉じられやすい。
【0118】
さらに、第1膨張室61が展開膨張したときには、縦区画部81に対し、横方向(車幅方向)に強いテンション(張力)が掛かるだけでなく、重ね合わせ部91に対しても同方向に強いテンション(張力)が掛かる。これは、重ね合わせ部91の両端部が本体布部43,44に結合されてからである。
【0119】
両弁体部95,96が、それらの少なくとも一部において互いに接触すると、調圧弁97が閉弁した状態となる。第1膨張室61内の膨張用ガスは、両弁体部95,96間及び開口部94を通って第2膨張室62へ流出することを規制される。この規制により、第1膨張室61に膨張用ガスが溜まり、進入量(ストローク)S0以降、専ら第1膨張室61の内圧が上昇し始める。
【0120】
本実施形態では、横区画部64よりも上側の膨張室が縦区画部81によって前後方向に2つに区画されていることから、第1膨張室61の容積は、上記上側の膨張室が区画されていない場合よりも小さい。そのため、第1膨張室61の内圧は、上記上側の膨張室が区画されていない場合よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。
【0121】
なお、このときには、膨張部46が未だ乗員Pに接しておらず、従って、受圧面積及び荷重はともに依然として「0」である。
上記内圧の上昇により、第1膨張室61及び第3膨張室63が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、シートバック14のシートパッド18が第1膨張室61及び第3膨張室63によって押圧され、破断予定部23(図3参照)において破断される。図15に示すように、第1膨張室61及び第3膨張室63は、それぞれ一部を収納部21に残した状態で、破断された箇所を通じてシートバック14から前方へ飛び出す。
【0122】
その後も膨張用ガスの供給される第1膨張室61及び第3膨張室63は、図2に示すように、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座している乗員Pの上半身(肩部PSの後半部及び腰部PP)との間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する。図5に示すように、内圧が第1膨張室61よりも高い第3膨張室63は腰部PPの側方で展開膨張する。また、内圧が第3膨張室63よりも低い第1膨張室61は、肩部PSの側方及び胸部PTの後半部の側方で展開膨張する。このときには、第2膨張室62は未だ膨張してないか、膨張していたとしても僅かであり、その内圧は低い。
【0123】
なお、図16に示すように、横方向(車幅方向)に引っ張られた縦区画部81は緊張した状態となる。この緊張状態の縦区画部81により、第1膨張室61の同方向の膨張厚みが規制される。この際の膨張厚みは、膨張部46を、布片を用いずに第1膨張室61及び第2膨張室62に区画する場合、すなわち、縫合等の手段(一般に「シーム」と呼ばれるもの)によって区画する場合よりも大きくなる。
【0124】
また、図18に示すように、横方向(車幅方向)に引っ張られた横区画部64は緊張した状態となる。この横区画部64により、第1膨張室61及び第3膨張室63の同方向の膨張厚みが規制される。この際の膨張厚みは、膨張部46を、布片を用いずに第1膨張室61及び第3膨張室63に区画する場合、すなわち、縫合等の手段(シーム)によって区画する場合よりも大きくなる。
【0125】
ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS1となり、乗員Pの肩部PSが第1膨張室61によって車内側へ押圧され始める。
そして、上記第1膨張室61による肩部PSの押圧及び胸部PTの後半部の押圧と、第3膨張室63による腰部PPの押圧とによって、乗員Pが車内側へ移動させられて拘束される。この移動により、乗員Pとボディサイド部11との間隔が拡げられ、第2膨張室62の展開膨張のための空間が確保される。
【0126】
ところで、上記押圧に際し、横区画部64よりも上側の膨張室では、専ら第1膨張室61が展開膨張していることから、乗員Pが膨張部46の圧力を受けながら接触する箇所は専ら第1膨張室61である。そのため、乗員Pが膨張部46の圧力を受ける面の面積(膨張部46側の受圧面積)は、第1膨張室61の圧力を受ける面の面積(第1膨張室61側の受圧面積)と同じであって小さい。ただし、この第1膨張室61側の受圧面積は、側突の衝撃に応じたボディサイド部11の車内側への進入が進む(進入量(ストローク)が増加する)につれて増大する。
【0127】
乗員Pが膨張部46を通じて受ける衝撃の荷重もまた、受圧面積及び内圧の増加に伴い増加する。上述したように、第1膨張室61の内圧が早く上昇を開始することから、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S1は、横区画部64よりも上側の膨張室が区画されていない場合(特許文献1がこれに該当する:図19中の比較例参照)において、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S10よりも小さくなる。表現を変えると、横区画部64よりも上側の膨張室が区画されていない場合(特許文献1)よりも早いタイミングで荷重が増加し始め、その分、乗員Pの上半身を衝撃から保護するための所定値βに早く到達する(図19参照)。
【0128】
両弁体部95,96がそれらの面全体で密着した(閉じられた)状態で、第1膨張室61内に膨張用ガスが供給され続ける一方、ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS2となることで、同ボディサイド部11から加わる外力により、同第1膨張室61の内圧が値αまで上昇すると、調圧弁97が開弁し始める。
【0129】
すなわち、横区画部64よりも上側の膨張室への膨張用ガスの供給期間の途中からは、乗員Pの拘束に伴う外力が加わって(押圧されて)膨張部46が変形する。これに伴い、縦区画部81に対し横方向(車幅方向)に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、縦方向(上下方向)に掛かるテンション(張力)が増加する。
【0130】
また、膨張部46の上記変形に伴い第1膨張室61の内圧PIがさらに上昇して、縦区画部81が第2膨張室62側へ押圧されて(図17(B)参照)、同縦区画部81に掛かるテンションが変化する。そして、上記テンション(張力)の変化により、縦及び横の両方向のテンション(張力)の差が小さくなる。縦区画部81に位置する開口部94の変形が許容され、同縦区画部81に位置する弁体部95,96の作動が許容されるようになる。
【0131】
一方、重ね合わせ部91は非重ね合わせ部92に重ねられ、横方向(車幅方向)についての両端部において、外結合部84によって本体布部43,44に結合されている。そのため、重ね合わせ部91において外結合部84に近い部分では、重ね合わされた状態を維持しようとする力が強い。しかし、この力は、外結合部84から遠ざかるに従い小さくなり、横方向(車幅方向)についての中央部分、すなわち両弁体部95,96において最小となる。そのため、縦方向(上下方向)へ引っ張られた重ね合わせ部91は、弁体部95,96及びその近傍部分においてのみ同方向へ変形する。
【0132】
開口部94が縦方向(上下方向)へある程度開くと、重ね合わせ部91では、図17(B)に示すように、第1膨張室61の高い内圧PIを受けた両弁体部95,96においてのみ、開口部94を通って第2膨張室62へ押し出される(反転される)。この開口部94の上下方向の幅W1が狭いときには、先端部95T,96T同士が接触し合い、調圧弁97が閉じる。
【0133】
そして、開口部94の上記幅W1の増大により、図17(C)に示すように、先端部95T,96Tが離れ、調圧弁97が開弁した状態になると、上記流通規制が解除され、第1膨張室61内の膨張用ガスGは開口部94と両弁体部95,96間とを順に通って第2膨張室62へ流出することを許容される。
【0134】
上記膨張用ガスの流出により、第1膨張室61の内圧が上昇から低下に転ずる。ただし、ボディサイド部11は車内側へ依然として進入し続けていて、膨張部46が第1膨張室61において乗員Pに押付けられるため、乗員Pの第1膨張室61側の受圧面積は増加し続ける。
【0135】
また、進入量(ストローク)S2以降、膨張用ガスの流入により第2膨張室62が膨張を開始するとともに、同第2膨張室62の内圧が上昇し始める。第2膨張室62が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しようとする。
【0136】
このときには、第2膨張室62は、上記第1膨張室61よりも低い内圧で、耐衝撃性が肩部PSよりも低い胸部PTの前半部の側方で展開膨張する。この際、上述したように、ボディサイド部11と乗員Pの上半身との間隔が、第1膨張室61及び第3膨張室63によって拡げられていて、第2膨張室62の展開膨張のための空間が確保されている。このことから、第2膨張室62は、こうした間隔の拡大が行なわれない場合よりも、前方へ向けて展開膨張しやすい。
【0137】
そして、第2膨張室62の内圧の上昇開始から少し遅れて、進入量(ストローク)がS3となったところで、車内側へ進入するボディサイド部11により、第1膨張室61に加え、第2膨張室62が乗員Pの上半身に接触し押し付けられ始める。同上半身が第1膨張室61に加え、第2膨張室62によって拘束され始める。乗員Pが第2膨張室62の圧力を受ける面の面積(第2膨張室62側の受圧面積)は増加し始める。
【0138】
なお、第1膨張室61の内圧と第2膨張室62の内圧とは、進入量(ストローク)S4以降、等しくなる。
また、上述した第3膨張室63は、第1膨張室61及び第2膨張室62に跨って設けられていることから、第1膨張室61の下側だけでなく第2膨張室62の下側でも展開膨張する。従って、第3膨張室63は、第2膨張室62の下側でも展開膨張する分、第1膨張室61の下側だけで展開膨張するものよりも前方へ広い領域で展開膨張することになる。
【0139】
このように、第1膨張室61、第2膨張室62及び第3膨張室63がそれぞれ展開膨張したエアバッグ40が、乗員Pの上半身と、車内側へ進入してくるボディサイド部11との間に介在する。このエアバッグ40によって上半身が車内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて上半身に伝わる側方からの衝撃が、膨張部46によって緩和されて、同上半身が保護される。特に、腰部PPについては、前後方向に広い領域が、上記のように第1膨張室61及び第2膨張室62の下側で展開膨張する第3膨張室63によって拘束及び保護される。
【0140】
上記のように、調圧弁97の開弁(進入量(ストローク)S2)後には、第1膨張室61の内圧が低下するとともに第2膨張室62の内圧が上昇する。また、乗員Pの第1膨張室61側の受圧面積、及び第2膨張室62側の受圧面積が時間差をもって増加する。そのため、進入量(ストローク)S2以降、乗員Pが膨張部46の全体から受ける荷重、すなわち、第1膨張室61から受ける荷重と第2膨張室62から受ける荷重との合計は、膨張部を単一の膨張室により構成し、かつ調圧弁97を設けない場合(特許文献1)の最大値よりも低く、しかも略一定の値(所定値β)となる。
【0141】
ここで、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、一般に、後半部において前半部よりも勝っている。これは、後半部には背骨があり、肋骨がその後部において背骨に接続されているのに対し、肋骨の前部は、上記背骨のような強度を有するものに接続されていないからである。そのため、横区画部64よりも上側の膨張室の展開膨張に伴い乗員Pの上半身に側方から作用する膨張部46の内圧は、前半部において後半部よりも低いことが望ましい。
【0142】
この点、本実施形態では、横区画部64よりも上側の膨張室は、前後方向については、縦区画部81が、上半身の前半部と後半部との境界部分の近傍に位置するように膨張する。膨張部46が展開膨張した状態では、上記後半部の側方近傍には第1膨張室61が位置し、上記前半部の側方近傍には第2膨張室62が位置する。従って、エアバッグ40による乗員Pの拘束初期には、前半部よりも耐衝撃性の高い後半部は、早期に内圧が高くなる第1膨張室61によって押圧される。また、同拘束初期には、耐衝撃性の比較的低い前半部は、内圧が第1膨張室61ほど高くならない第2膨張室62によって押圧される。
【0143】
インフレータ31からの膨張用ガスの噴出が停止し、第3膨張室63内の膨張用ガスが、第1膨張室61側へ流れようとすると、逆止弁75の弁体部78,79が、第3膨張室63内の高い圧力を受けて押圧され、互いに接触する。逆止弁75が閉弁された状態となり、第3膨張室63の膨張用ガスが、両弁体部78,79間及び開口部74を通って第1膨張室61へ流出(逆流)することを規制される。
【0144】
従って、乗員Pの腰部PPを保護するのに適切な内圧にまで高められた第3膨張室63の内圧がその高い状態に維持される。
その後も、逆止弁75は、膨張用ガスが第1膨張室61から第3膨張室63へ流入することは許容するが、第3膨張室63内の膨張用ガスが第1膨張室61へ流出(逆流)することを規制する。そのため、例えばサイドエアバッグ装置が乗員Pの腰部PPを拘束することで第3膨張室63の内圧が上昇したとしても、上記逆止弁75により、第3膨張室63内の膨張用ガスが第1膨張室61へ流出することを規制される。第1膨張室61の内圧が、腰部PPの拘束に伴う第3膨張室63の圧力変動の影響を受けて上昇することが起こりにくい。
【0145】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ本体41の膨張部46を、膨張用ガスが供給されて展開膨張する第1膨張室61と、縦区画部81を介して第1膨張室61の前側に隣接する第2膨張室62と、横区画部64を介して第1膨張室61の下側に隣接する第3膨張室63とに区画する。縦区画部81に開口部94及び調圧弁97を設け、横区画部64に開口部74及び逆止弁75を設けている(図5(A))。
【0146】
そのため、調圧弁97によって第1膨張室61及び第2膨張室62の各内圧を調整することができる。第1膨張室134と第2膨張室135との間に開口部142が設けられ、第1膨張室134と第3膨張室136,137との間に開口部143,145及び逆止弁144,146が設けられた特許文献1よりも乗員Pを拘束及び保護する性能を高めることができる。
【0147】
(2)調圧弁97として、開口部94の周りに設けられた一対の弁体部95,96を備えるものを用いる。そして、第1膨張室61による乗員Pの拘束前には、両弁体部95,96を、第1膨張室61内で膨張用ガスにより押圧させて互いに接触又は接近させる(図17(A))。また、第1膨張室61による乗員Pの拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、両弁体部95,96を、縦区画部81を通じて撓ませて互いに離間させるようにしている(図17(B),(C))。
【0148】
そのため、こうした構成の調圧弁97を用いることで、第1膨張室61による乗員Pの拘束前には調圧弁97を閉弁させ、第1膨張室61から膨張用ガスが開口部94を通じて第2膨張室62へ流出するのを規制することができる。また、第1膨張室61による乗員Pの拘束時には、調圧弁97を開弁させて上記規制を解除することができる。
【0149】
(3)第1膨張室61及び第2膨張室62を、車両用シート12に着座している乗員Pの胸部PTの側方で展開膨張させるようにしている(図5(A))。
そのため、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性が他の部位よりも低い胸部PTの側方で、第1膨張室61及び第2膨張室62を、その下側に隣接する第3膨張室63よりも低い内圧で展開膨張させ、胸部PTを耐衝撃性に応じた圧力(上半身の他の部位よりも低い圧力)で押圧して拘束し、衝撃から効果的に保護することができる。
【0150】
(4)第3膨張室63を第1膨張室61の下側に設け、この第3膨張室63を、車両用シート12に着座している乗員Pの腰部PPの側方で展開膨張させるようにしている(図5(A))。
【0151】
そのため、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性が胸部PTよりも高い腰部PPの側方で、第3膨張室63を、その上側に隣接する第1膨張室61よりも高い内圧で展開膨張させ、腰部PPを耐衝撃性に応じた圧力(胸部PTよりも高い圧力)で押圧して拘束し、衝撃から効果的に保護することができる。
【0152】
(5)縦区画部81として、第1膨張室61の膨張に伴い、車両用シート12の幅方向(横方向)に緊張して同方向についての同第1膨張室61の膨張厚みを規制する布片を用いている(図16)。
【0153】
そのため、縦区画部81として、上記方向について適切な寸法を有するものを用いることで、第1膨張室61を、乗員Pを拘束及び保護する(側突による衝撃のエネルギーを吸収する)うえで好適な膨張厚みで膨張させることができる。
【0154】
(6)横区画部64として、第1膨張室61の膨張に伴い、車両用シート12の幅方向(横方向)に緊張して同方向についての第1膨張室61及び第3膨張室63の膨張厚みを規制する布片を用いている(図14図18)。
【0155】
そのため、横区画部64として、車両用シート12の幅方向について適切な寸法を有するものを用いることで、第1膨張室61及び第3膨張室63を、乗員Pを拘束及び保護する(側突による衝撃のエネルギーを吸収する)うえで好適な膨張厚みで膨張させることができる。
【0156】
(7)第3膨張室63を、車両用シート12の前後方向について、第1膨張室61及び第2膨張室62に跨って設けている(図5(A))。
そのため、第3膨張室63を第1膨張室61のみの下側に設けた場合よりも、前方に広い領域で展開膨張させることができ、乗員Pの腰部PPの前後方向に広い部位を拘束及び保護することができる。
【0157】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<インフレータアセンブリ30について>
・リテーナ32として、その下端部が閉塞され、上端部のみが開放されたものや、上下両端部がともに開放されたものが用いられてもよい。
【0158】
・リテーナ32が用いられることなくインフレータ31がシートバック14(サイドフレーム部17)に直接取付けられてもよい。
・インフレータアセンブリ30の全体が膨張部46(第1膨張室61)の内部に配置されてもよい。
【0159】
・インフレータアセンブリ30の全体がエアバッグ40の外部に設けられてもよい。この場合には、例えば、インフレータ31と第1膨張室61とが管によって繋がれ、この管を介してインフレータ31からの膨張用ガスが第1膨張室61に供給されてもよい。
【0160】
<膨張部46について>
・エアバッグ40は、その略全体が上記実施形態のように膨張部46からなるものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0161】
・ここで、一般に、乗員側部の耐衝撃性については、肩部PSが胸部PTよりも勝っていることが知られている。そのため、エアバッグ本体41の膨張部46を通じて乗員Pの上半身に側方から作用する衝撃は、胸部PTにおいて肩部PSにおけるよりも小さいことが望ましい。
【0162】
そこで、図20(A),(B)に示すように、横区画部64が縦区画部81の下側に代えて上側に設けられることで、第3膨張室63が、第1膨張室61及び第2膨張室62の下側に代え、上側に設けられてもよい。
【0163】
この場合、第1膨張室61の下部は、図20(A)に示すように、腰部PPの側方で展開膨張するものであってもよいし、図20(B)に示すように、腰部PPの上側方で展開膨張するものであってもよい。
【0164】
このようにすると、サイドエアバッグ装置では、車両10に対し、車両用シート12の側方から衝撃が加わると、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性が胸部PTよりも高い肩部PSの側方で、第3膨張室63がその下側の第1膨張室61よりも高い内圧で展開膨張する。この第3膨張室63によって、肩部PSが胸部PTよりも高い圧力で押圧されて拘束される。このように、乗員Pの肩部PSについての耐衝撃性に即した圧力で第3膨張室63を展開膨張させ、その肩部PSを第3膨張室63によって衝撃から効果的に保護することができる。
【0165】
なお、図20(A),(B)、及び後述する図20(C)の各々は、エアバッグ40の膨張部46における縦区画部81、横区画部64等の配置状態を模式的に示したものであり、開口部74,94、逆止弁75、調圧弁97等、細部については省略・簡略化されている。
【0166】
図20(C)に示すように、横区画部64が縦区画部81の下側に加え、上側にも設けられることで、第3膨張室63が、第1膨張室61及び第2膨張室62の各下側に加え、上側にも設けられてもよい。
【0167】
この場合、同図20(C)に示すように、第1膨張室61を胸部PTの後半部の側方で展開膨張させ、第2膨張室62を胸部PTの前半部の側方で展開膨張させてもよい。また、下側の第3膨張室63を腰部PPの側方で展開膨張させ、上側の第3膨張室63を肩部PSの側方で展開膨張させてもよい。
【0168】
・上記実施形態、及び上記図20(A)〜(C)において、第3膨張室63は第1膨張室61のみの下側に設けられてもよい。このようにすると、第3膨張室63は、第1膨張室61及び第2膨張室62に跨って設けられた場合よりも、前後方向に狭い領域で展開膨張することになる。しかし、第3膨張室63は腰部PPの少なくとも一部の側方で、第1膨張室61よりも高い内圧で展開膨張するため、腰部PPを拘束し、衝撃から保護する効果は得られる。
【0169】
・乗員Pの側部について第1膨張室61及び第2膨張室62が拘束及び保護する対象箇所は、上記実施形態とは異なるものに変更されてもよい。
例えば、第1膨張室61が胸部PTの前半部分の側方で展開膨張され、第2膨張室62が胸部PTよりも前側の空間の側方で展開膨張されてもよい。この場合、第2膨張室62には、第1膨張室61から流出される膨張用ガスを受け入れて、同第1膨張室61の内圧を調整する機能を発揮させてもよい。
【0170】
<横区画部64について>
・横区画部64は、エアバッグ本体41の両本体布部43,44間に布片を架設してなるテザーに代え、両本体布部43,44を互いに接触させた状態で縫合(結合)してなるシームによって構成されてもよい。
【0171】
<縦区画部81について>
・縦区画部81における上側の布片86及び下側の布片87の少なくとも一方は、折り線82に沿って2枚に分割されてもよい。
【0172】
・縦区画部81の両周縁部83は、本体布部43,44に対し、第1膨張室61内で結合されてもよいし、第2膨張室62内で結合されてもよい。
また、両周縁部83の一方が第1膨張室61内で結合され、他方が第2膨張室62内で結合されてもよい。
【0173】
・開口部94は、縦区画部81の折り線82に直交する方向に限らず、斜めに交差する方向に沿って設けられてもよいし、折り線82に沿う方向に沿って設けられてもよい。
・縦区画部81として、単一の部材(布片)からなるものが用いられてもよい。
【0174】
・重ね合わせ部91において、両弁体部95,96として機能するのは、開口部94に対応する部分(開口部94の近傍部分、より正確には、開口部94と端縁88E,89Eとの間の部分)である。そのため、第1膨張室61の展開膨張時に、両弁体部95,96の少なくとも先端部95T,96Tが接触して閉じられるのであれば、重ね合わせ部91において、開口部94に対応しない部分(非近傍部分)の形態が変更されてもよい。例えば、重ね合わせ部91において開口部94に対応しない部分(非近傍部分)については、部分的又は全体的に結合されてもよい。この結合の手段としては、縫合であってもよいし、接着であってもよい。このように変更されることで、重ね合わせ部91において開口部94に対応する部分だけ両弁体部95,96として作動させ、対応しない部分が不要に動く現象、例えば、ばたつく現象を抑制することができる。
【0175】
そのほかにも、重ね合わせ部91において開口部94に対応しない箇所の少なくとも一部に切欠きが入れられてもよい。
・縦区画部81と両弁体部95,96とは、互いに異なる部材によって構成されてもよい。
【0176】
・二つ折り状態の縦区画部81における折り線82は、エアバッグモジュールAMの上下方向に対し多少傾斜していてもよい。
・内結合部93において結合を解除される箇所は、必ずしも折り線82を跨ぐ部分に設けられなくてもよく、折り線82から、同折り線82に直交する方向へ外れた箇所に設けられてもよい。
【0177】
・両内結合部93間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
・両弁体部95,96を含む一対の重ね合わせ部91は、膨張部46の展開膨張前に第1膨張室61に代えて、第2膨張室62に配置されてもよい。
【0178】
・折り線82に沿って折り返されることにより、相対向する一対の周縁部83を接近させてなる二つ折り状態の縦区画部81は、折り線82を周縁部83よりも下流側に位置させた状態で非膨張展開状態の膨張部46に配設されてもよい。この場合、両弁体部95,96を含む重ね合わせ部91が、膨張部46の展開膨張前に第2膨張室62に配置されてもよい。
【0179】
・縦区画部81の上下両布片86,87では、それらの端部88,89の端縁88E,89E同士が合致していない状態で、端部88,89同士が帯状に重ね合わされてもよい。
【0180】
・縦区画部81として、上記実施形態とは異なる外形形状を有するものが用いられてもよい。この場合、乗員Pの上半身のうち、第1膨張室61によって拘束及び保護したい箇所に応じて縦区画部81の外形形状が変更されることが望ましい。これに伴い、縦区画部81を本体布部43,44に結合する外結合部84の形態が上記実施形態とは異なるものとなる。例えば、乗員Pの肩部PSをより広い領域で拘束及び保護したい場合には、外結合部84が上記実施形態よりも前側に設けられてもよい。例えば、外結合部84のうち、上側の布片86を本体布部43,44に結合する部分については、上部ほど前側に位置するように傾斜した形態で設けられてもよい。
【0181】
・縦区画部81は、エアバッグ本体41が展開膨張したとき、車両用シート12のサイドサポート部16の前端又は前端よりも若干前方となる箇所に設けられてもよい。
<エアバッグモジュールAMの収納部21について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部21に相当する箇所が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが組み込まれてもよい。
【0182】
<逆止弁75について>
・逆止弁75は、横区画部64とは別部材によって形成されてもよい。
<その他>
・サイドエアバッグ装置による乗員Pの上半身の保護対象は、上記実施形態と異なっていてもよい。
【0183】
・上記サイドエアバッグ装置は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するタイプのサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0184】
・上記サイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記サイドエアバッグ装置は、車両以外の乗物、例えば航空機、船舶等における乗物用シートに装備されるサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0185】
12…車両用シート(乗物用シート)、41…エアバッグ本体、46…膨張部、61…第1膨張室、62…第2膨張室、63…第3膨張室、64…横区画部、74,94…開口部、75…逆止弁、78,79,95,96…弁体部、81…縦区画部、97…調圧弁、P…乗員、PI…内圧、PP…腰部、PS…肩部、PT…胸部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21