特許第6070260号(P6070260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070260中空糸型半透膜及びその製造方法及びモジュール
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  • 特許6070260-中空糸型半透膜及びその製造方法及びモジュール 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070260
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】中空糸型半透膜及びその製造方法及びモジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20170123BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20170123BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B01D69/08
   B01D63/02
   B01D61/00 500
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-33024(P2013-33024)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-198893(P2013-198893A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2016年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-38689(P2012-38689)
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 美智子
(72)【発明者】
【氏名】八木 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】時見 忍
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−225822(JP,A)
【文献】 特表2002−535116(JP,A)
【文献】 特許第5418739(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃の塩化ナトリウム濃度35g/L、圧力1.0MPaの水溶液を、長さが70cmの中空糸型半透膜の外側に流し、25℃の塩化ナトリウム濃度0g/Lの淡水を中空糸型半透膜の一方の開口端部の内側に流して他方の開口端部から10kPa以下で排出させた場合に、濃度差を駆動力として、中空糸型半透膜の内側から外側へ向かって流れる透水量の2倍が外側へ流入する流量であって、かつ中空糸型半透膜の内側から排出の流量が該透水量の10%となる条件での透水量が30〜90L/m/日であり、塩化ナトリウム濃度1.5g/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が100〜300L/m/日である中空糸型半透膜であって、外径が100〜20μmであり、内径が50〜200μmであり、中空率が24〜42%であることを特徴とする、濃度差を駆動力とした水処理用の中空糸型半透膜。
【請求項2】
ポリマーと溶媒と非溶媒を含む製膜原液を調製し、これを紡糸口金から空中走行部を経て凝固液中に吐出して中空糸型半透膜を製造し、この中空糸型半透膜を水洗した後に熱水処理に供して膜を収縮させて得られる請求項1に記載の中空糸型半透膜の製造方法であって、製膜原液中のポリマー濃度が40〜45重量%であること、及び製膜原液中の溶媒/非溶媒の重量比が80/20〜95/5であること、及び熱水処理の温度が70℃超80℃以下であること、前記溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上であること、前記非溶媒がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の中空糸型半透膜を組み込んだことを特徴とする中空糸型半透膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水性能と分離性能の両方を高いレベルで維持して設置スペースを低減させ、処理効率を向上させることができる中空糸型半透膜及びその製造方法及びモジュールに関するものである。より詳しくは、有価物の濃縮、回収や排水の濃縮による減容化、または、低濃度の水溶液から高濃度かつ加圧状態の水溶液に濃度差を駆動力として水を透過させ、透過した水により増加した高濃度かつ加圧状態の水溶液の流量と圧力でタービンを回すなどしてエネルギーを生成させるものである。特に、海水または濃縮海水と淡水との濃度差を利用して電力などのエネルギーを生成するための水処理などに好適に使用される中空糸型半透膜である。
【背景技術】
【0002】
膜分離法による液状混合物の分離・濃縮は、蒸留などの分離技術に比べて相変化を伴わないため省エネルギー法であり、かつ物質の状態変化を伴わないことから、果汁の濃縮、ビール酵素の分離などの食品分野、あるいは工業排水からの有機物の回収といった多分野において幅広く利用されており、半透膜による水処理は、最先端技術を支える不可欠のプロセスとして定着している。
【0003】
例えば、半透膜を用いた海水と淡水との濃度差を利用して得られる水によるエネルギーの生成は、クリーンなプロセスであり、再生可能エネルギーとして期待されている。特に中空糸型半透膜は、スパイラル型半透膜に比べ単位膜面積当たりの透水量は小さいが、膜モジュール容積当たりの膜面積を大きくとることができるため、全体として透水量を大きくとることができ、容積効率が非常に高いという利点があり、コンパクト性に優れる。また、高濃度水溶液と淡水の両方をモジュール内に供給して半透膜を介して接触させることにより発生する濃度差を駆動力とする水処理の場合に、スパイラル型に比して、膜表面の濃度分極を小さく抑えられ、濃度差の低下を抑制できる利点がある。
【0004】
このような中空糸型半透膜は一般に、ポリマー素材として酢酸セルロースを含む製膜原液を調製し、これを紡糸口金から空気中に吐出し、続いて凝固液中で凝固させ、洗浄後に熱水処理して膜収縮させることにより製造される。例えば、特許文献1の実施例では、ポリマー素材としてセルローストリアセテートを使用した製膜原液を吐出、凝固し、水洗後に無緊張下で85℃の熱水処理を20分間施して得られる半透膜が記載されている。この実施例のデータを参照すると、0.2%塩化ナトリウム水溶液を供給水として30kg/cmの圧力で測定した半透膜の透水量と塩化ナトリウムの除去率がそれぞれ230l/(m日),99.85%(実施例1)、245l/(m日),99.87%(実施例3)、250l/(m日),99.84%(実施例4)であったことが示されている。透水量は有効圧力差に依存するので、上記の実施例の半透膜を、濃度差を駆動力として淡水を透過させる場合など有効圧力差が低い場合、たとえば、半分の圧力15kg/cmで測定すると、塩化ナトリウムの除去率はあまり影響を受けないが、透水量はほぼ半分の120l/m日程度に低下する。即ち、特許文献1のような従来の半透膜は、高い熱水処理温度で膜収縮を大きくしているため高い塩除去性能を発揮できるが、低圧で使用すると透水性能が低下する問題があり、濃度差を駆動力とした水処理に用いる場合など、高い圧力を印加することが好ましくない場合などはその処理能力は高くできない。
【0005】
半透膜において透水性能と分離性能の両方を高いレベルで維持しようとしたものとしては、例えば、特許文献2及び3が挙げられる。特許文献2では、液体混合物からの固体分離あるいは溶質分離に利用される中空糸型半透膜モジュールに関する技術が開示されている。しかし、特許文献2の表1の三酢酸セルロースを使用した中空糸膜性能を参酌すると、操作圧力55kg/cmで測定した透水量(FR1)は22.6〜91.5l/(m・日)であり、高い透水性能を達成できていない。
【0006】
また、特許文献3には、微多孔性支持体上にポリアミドを主成分とする活性層(薄膜、スキン層)を備えた高塩阻止率と高透過性を併せ持つ平膜タイプの複合半透膜に関する技術が開示されている。特許文献3に記載の半透膜は、実施例1の記載によれば、操作圧力7.5kg/cmで測定した透過流速が1.0m/(m・日)(1000l/m・日)であることが記載されている。しかし、この半透膜は、平膜形状のため、実際に半透膜を介した濃度差を駆動力とする水処理に用いる膜モジュールでは、モジュールに供給される高濃度水溶液、および、低濃度水溶液(淡水)が、膜前面に有効に均一に分配させることが困難であり、また、供給される水溶液が少ない部分は、特に膜表面の濃度分極が大きくなり、有効に膜を介しての濃度差を確保することが困難で、水処理の効率的が高くできないデメリットがある。また、このようなポリアミド素材からなる膜は、耐塩素性が劣る。また、使用できる殺菌薬品が限られているデメリットがある。
【0007】
一方、水処理膜プラントの経済性やコンパクト性を重視するユーザーから、中空糸型半透膜の膜面積あたりの処理能力を向上することが強く望まれている。高い圧力を印加せず濃度差を駆動力とする水処理の場合、従来の低圧用半透膜を使用しても高い透水性能が得られず、結局、造水コストや設置スペースを抑えることができないのが現状である。
【0008】
以上のように、透水性能と分離性能を高いレベルで両立して、少ない設置スペースで、かつ効率的に水処理が可能な酢酸セルロース系中空糸型半透膜は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−036715号公報
【特許文献2】特開平10−337448号公報
【特許文献3】特開平09−019630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、異なる濃度の液体を半透膜を介して、それらの濃度差を駆動力として低濃度側の水を半透膜を透過させ、高濃度側に透過した水の流量と圧力でエネルギーを生成する水処理において、少ない膜面積、設置スペースで効率良く処理が可能な、透水性能と分離性能を高いレベルで達成した中空糸型半透膜及びその製造方法及びモジュールを提供することにある。特に、本発明の中空糸型半透膜は、塩濃度の高い水(例えば、海水、濃縮海水)とそれより塩濃度の低い水溶液の濃度差を駆動力として供給水から半透膜を透過させて取り出した水でエネルギーを生成する際の水処理用途に好適なものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、中空糸型半透膜において塩分と水の分離機能の役割を有する緻密層を従来より薄くし、非対称性を高めることにより濃度差を駆動力とする透過水を多く得ることでエネルギー生成可能な水と圧力を高いレベルで達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)の構成を有するものである。
(1)25℃の塩化ナトリウム濃度35g/L、圧力1.0MPaの水溶液を、長さが70cmの中空糸型半透膜の外側に流し、25℃の塩化ナトリウム濃度0g/Lの淡水を中空糸型半透膜の一方の開口端部の内側に流して他方の開口端部から10kPa以下で排出させた場合に、濃度差を駆動力として、中空糸型半透膜の内側から外側へ向かって流れる透水量の2倍が外側へ流入する流量であって、かつ中空糸型半透膜の内側から排出の流量が該透水量の10%となる条件での透水量が30〜90L/m/日であり、塩化ナトリウム濃度1.5g/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が100〜300L/m/日である中空糸型半透膜であって、外径が100〜20μmであり、内径が50〜200μmであり、中空率が24〜42%であることを特徴とする、濃度差を駆動力とした水処理用の中空糸型半透膜。
(2)ポリマーと溶媒と非溶媒を含む製膜原液を調製し、これを紡糸口金から空中走行部を経て凝固液中に吐出して中空糸型半透膜を製造し、この中空糸型半透膜を水洗した後に熱水処理に供して膜を収縮させて得られる(1)に記載の中空糸型半透膜の製造方法であって、製膜原液中のポリマー濃度が40〜45重量%であること、及び製膜原液中の溶媒/非溶媒の重量比が80/20〜95/5であること、及び熱水処理の温度が70℃超80℃以下であること、前記溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上であること、前記非溶媒がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする方法。
(3)(1)に記載の中空糸型半透膜を組み込んだことを特徴とする中空糸型半透膜モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明の中空糸型半透膜は、膜の透水性能が高く、かつ、水と塩の高い分離性能により塩の濃度差を駆動力とした場合の透水量が高くなるように設計されているので、濃度差を駆動力としてエネルギーを生成するための水と圧力を効率良く取り出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の半透膜の製造工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従来、中空糸型半透膜、特に、塩分と水の高い分離性を有する半透膜は、膜構造の緻密化に主眼がおかれ、基本的には製膜原液中のポリマー濃度を高めに設定し、かつ製膜後の膜に高温の熱水処理を施すことにより膜構造を更に締める方向での開発が行われてきた。このような手法は、高圧の加圧状態で使用する場合の耐久性の付与や高分離性の面では合理的であり、海水を高圧で供給して半透膜でろ過して海水を淡水化する目的の半透膜の開発指向としては妥当である。しかし、供給水に高い圧力を印加せずに、半透膜を介した液体間の濃度差を駆動力として水処理するための半透膜に転用すると、低い有効圧力差(浸透圧差)での処理のために透水量の低いものしか得られないことになる。
【0016】
本発明者は、塩と水の高い分離性と高い透水性の両立を図るべく、従来の半透膜の開発指向から脱却し、新しい膜設計の概念を取り入れて膜構造の改良を進めてきた。すなわち、中〜高圧で供給水を供給して処理する半透膜よりも更に構造の非対称性を高めるとともに、分離活性層(緻密層)を薄く緻密なものとすることにより、水と塩の分離性と透水性のバランスを高めることができると考えた。また、支持層部での拡散が促進される構造とすることにより、支持層部の濃度分極を低減し、有効な濃度差を確保できるものと考えた。さらに、十分な耐久性を具備しながら最大限のパフォーマンスを発揮する膜モジュール設計については、中空部を流れる流体の流動圧損とモジュール容積あたりの膜面積との関係より中空糸型半透膜の外径と中空率の最適化に着目した。本発明は、これらの技術思想の具現化に向けて試行錯誤を繰り返して完成したものである。
【0017】
本発明の半透膜は、中空糸型の膜であり、素材として酢酸セルロースを採用するのが好ましい。酢酸セルロースは、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を容易に抑制することができる。従って、膜面での微生物汚染を効果的に抑制できる特長がある。酢酸セルロースの中では、耐久性の点で三酢酸セルロースが好ましい。中空糸型の膜は、スパイラル型の膜と比べてモジュールあたりの膜面積を多くとることができ、中空糸型半透膜の大きさにもよるが、ほぼ同サイズのモジュールの場合、スパイラル型のおよそ10倍の膜面積を得ることができる。従って、中空糸型の膜は、同じ透水量を得る際に単位膜面積あたりの処理量が極めて少なくて良く、供給水が膜を透水する際に生じる膜面の汚れを減少でき、膜の洗浄までの運転時間を長くとることができる。
【0018】
本発明の半透膜は、低濃度水溶液と高濃度水溶液を膜を介して接触させた際の溶液の濃度差を駆動力として低濃度側から高濃度側に水を透過させて、加圧状態の水を得る。得られた加圧状態の水を用いてエネルギーを生成する方法は特に限定されないが、一例として、水流発電機など、水流でタービンを回転させ、その回転を発電機により電力に変換する方法があげられる。したがって、操作時には高濃度側はタービンを回すために、加圧状態で保持される。この圧力は濃度差が有する浸透圧差より小さく、通常は浸透圧の約半分に設定され、この濃度差(浸透圧差)は淡水が膜を透過する駆動力であり、加圧状態を保持するために、加圧分の圧力を差し引いた値となる。高濃度水溶液の塩濃度は一般に広く存在する海水が代表的であり、高塩濃度域の海水を含めると、3.5%〜7%程度であることから、前記、加圧圧力は0.5〜3MPa程度の範囲が妥当である。一方、低濃度水溶液とは、塩分濃度として、代表的な高濃度水溶液である一般海水の1/10以下の濃度であり、TDS(蒸発残留物濃度)であれば3500mg/L以下であり、浸透圧では0.3MPa以下である。たとえば、河川水、湖沼水や水道水、工業用水、排水処理水などがこれに相当する。
【0019】
半透膜は一般に、操作圧力で分類されるが、5〜8MPaの操作圧力で使用する高圧用の膜は、海水淡水化に使用され、海水の浸透圧を超える圧力に耐えるように非常に緻密な構造を有する。これに対して、本発明の半透膜は濃度差を駆動力として水を透過させるものであり、海水など高濃度側の溶液の浸透圧より低い3MPa以下の操作圧力で使用される。従来の高圧用の膜は、耐圧性を付与するために膜全体が相対的に緻密な構造を有するので、有効圧力差を低下させると、透水量が圧力に比例して低下する。透水量を高めるために膜全体の構造を粗くすると、分離性が低下する。また、従来の低圧用の膜は、中高圧膜をベースとして開発されているためか高い透水性を達成できる構造を有していない。本発明の半透膜は、低圧の有効圧力差で透水性と分離性を高いレベルで達成しており、さらに、濃度差を駆動力として膜に水を透過させる場合に高い透水性能レベルを得る、従来に存在しない設計思想のものである。
【0020】
本発明の半透膜は、25℃の塩化ナトリウム濃度35g/L、圧力1.0MPaの水溶液を、長さが約70cmの中空糸型半透膜の外側に流入させ、25℃の塩化ナトリウム濃度0g/Lの淡水を中空糸型半透膜の一方の開口端部より導入して他方の開口端部より10kPa以下で排出させた場合に、濃度差を駆動力として、中空糸型半透膜の内側から外側へ向かって水が透過する場合、その透水量の2倍が中空糸型半透膜の外側に流れる流量であって、かつ、中空糸型半透膜の他端部の開口部から排出する流量が該透水量の10%となる条件での膜面積あたりの該透水量が30〜90L/m/日であり、塩化ナトリウム濃度1.5g/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が100〜300L/m/日であり、外径が100〜280μmであり、内径が50〜200μmであり、中空率が24〜42%であることを特徴とする。塩化ナトリウム濃度を35g/Lとしたのは、自然界に豊富に存在する海水と淡水との濃度差での使用を意図したものであり、34.5g/L〜35.4g/Lの範囲である。また、淡水側の塩化ナトリウム濃度が0g/Lとしたのは、自然界で容易に得られる低浸透圧の淡水を想定したものであり、200mg/L以下を意味する。圧力が1.0MPaとは、0.95〜1.04MPaの範囲であり、また、淡水側の出口圧は実質大気圧を意味するが実用上生じる圧力損失等を考慮し10kPa以下とした。この値に設定したのは、海水と淡水の濃度差から得られる水量と圧力から最も効率的にエネルギーが生成される圧力領域であるためである。また、濃度差を駆動力として得られる透水量は、膜表面の塩濃度や濃度分極の影響を受けるため、透水量の値を規定する条件を、その透水量の2倍が中空糸型半透膜の外側に流れる流量であって、かつ中空糸型半透膜の他端部の開口部から排出する流量が該透水量の10%となる条件に実用面を考慮して設定した。10%とは9.5%〜10.4%の範囲である。また、中空糸型半透膜の長さにより、中空内部の流速や、圧力損失が異なるため、透水量規定時の中空糸型半透膜の長さを約70cmと規定した。透水量は、必要膜面積の低減や処理量の増大を図るために高い方がよく、従来の中空糸型やスパイラル型に対する競争力の点から40L/m/日以上が好ましく、より好ましくは50L/m/日以上であり、さらに好ましくは60L/m/日以上である。透水量は高すぎても問題は生じないが、達成すべき分離性能とのバランスからみて上限値は90L/m/日である。また、濃度差による透水量は、一般には圧力差による透水量が高い膜ほど高い傾向があり、これは膜の内部を水が透過する場合の流動抵抗が小さいためと考えられるが、塩の除去性能が高くない場合や、膜の内部の塩分の拡散が小さい膜構造のため分離機能を有する膜表面での濃度分極が大きい場合は、膜を介する有効な濃度差が低くなり、たとえ、圧力による透水量が高くても、濃度差による透水量が低くなる場合が存在する。
本発明おける中空糸型半透膜の場合は、塩の低濃度溶液側への漏洩が小さいレベルであり、膜を介しての濃度差が塩分の漏洩により低下することなく、安定して確保されており、膜内部の塩分の拡散が確保されて濃度分極が小さいと予想されるため、圧力差による透水量が高く透過抵抗が小さいほど、濃度差による透水量も大きくなる。
なお、濃度差を駆動力として淡水を透過させる場合、淡水を透過させる方向が中空糸型半透膜の外側から内側に向かっての場合と中空糸型半透膜の内側から外側に向かっての場合が考えられる。高濃度溶液の溶質の濃度、特性や流量レベル等を考慮して適宜設定することが可能である。
【0021】
本発明の半透膜は、濃度差を駆動力とした水処理に用いた場合に最大のパフォーマンスを発現できるように設計されたものであるが、比較的低い圧力差を駆動力とした水処理においても優れた選択透過性能を有するものである。塩化ナトリウム濃度1.5g/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が100〜300L/m/日であり、塩除去率が96.0〜99.9%を発現することが可能である。圧力1.5MPaでの濾過時の値を規定したのは、本発明の半透膜が低圧の操作圧力での使用を意図しているからである。透水量は、水処理時の設置スペースの低減や処理量の増大を図るために高い方がよく、従来の中空糸型やスパイラル型に対するコンパクト性のメリットの点から好ましくは120L/m/日以上、より好ましくは140L/m/日以上である。透水量は高すぎても問題は生じないが、達成すべき塩除去率とのバランスからみて上限値は300L/m/日である。塩除去率は、達成すべき透水量とのバランスから考慮すべきであり、96.0〜99.9%、好ましくは97.0〜99.5%、より好ましくは98.0〜99.0%である。
【0022】
本発明の半透膜は、外表面近傍に緻密層を有し、該緻密層の厚みが0.1〜7μmであることが好ましい。実質の分離活性層である緻密層の厚みは薄い方が、透水抵抗が小さくなるため好ましく、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。しかし、緻密層が薄すぎると、潜在的な膜構造の欠陥が顕在化しやすくなり、1価イオンの漏出を抑えることが困難になるとか、膜の耐久性が低下するなどの問題が発生することがある。したがって、緻密層の厚みは0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、従来の圧力差をドライビングフォースとした逆浸透膜においては、膜表面の濃度分極が膜性能に大きな影響を与えるが、濃度差をドライビングフォースとする本発明の膜開発においては、膜内部での濃度分極の影響を考慮する必要があり、改良している。
【0023】
本発明の半透膜は、濃度差を駆動力として低濃度水溶液から膜を介して加圧状態の高濃度水溶液へ水を透過させるため、従来の高圧タイプの半透膜のような耐圧性は必要としないが、ある程度の耐圧性は長期に安定的に使用するために必要な特性である。一般的に、高分子からなる半透膜は、加圧下状態では膜の圧密化が生じ透水性能が低下する。その経時変化は一般的には時間の負の指数関数で近似され、運転初期の変化率は大きいが、時間と共に安定化する。よって、運転初期の透水性能の変化率を長期の性能安定性の推定指標とすることができる。たとえば、24時間経過時の透水量と初期(1時間経過時)の透水量の比率で表される透水量比は耐圧性を示す性能保持率となりうる。これが0.7以上であることが好ましく、0.85以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましい。また、耐圧性の評価圧力は実際の運転条件(0.5〜3MPa)を考慮して3MPaを設定している。ここでの運転条件では、高濃度側にはタービンを回すために、加圧状態で保持され、この圧力は濃度差が有する浸透圧差より小さく、通常は浸透圧の約半分に設定される。高濃度側の塩濃度としては一般に広く存在する海水が代表的であり、高塩濃度地域の海水を含めると、3.5%〜7%程度であることから、その浸透圧3MPa〜6MPaを考慮すれば、運転条件での加圧圧力の最大値は3MPa程度であり、3MPa程度の耐圧性、耐久性を確保すれば実用的である。
【0024】
本発明の半透膜の内径は、50〜200μm、好ましくは65〜190μm、より好ましくは75〜160μmである。内径が上記範囲より小さいと、中空部を流れる流体の圧力損失が一般に大きくなるため、中空糸型半透膜の長さを比較的長くした場合に所望の淡水流量を流す場合に過大に高い圧力が必要となり、エネルギーロスの原因となり好ましくない。一方、内径が上記範囲より大きいと、中空率とモジュール膜面積がトレードオフの関係となり、使用圧力における耐久性または単位容積あたりの膜面積のいずれかを犠牲にする必要が生じる。
【0025】
本発明の半透膜の外径は、100〜280μm、好ましくは115〜270μm、より好ましくは120〜250μmである。外径が上記範囲より小さいと、必然的に内径も小さくなるため、上述の内径と同じ問題が生じる。一方、外径が上記範囲より大きいと、モジュールにおける単位容積あたりの膜面積を大きくすることができなくなり、中空糸型半透膜モジュールのメリットの一つであるコンパクト性が損なわれる。
【0026】
本発明の半透膜の中空率は、24〜42%が好ましく、25〜40%がより好ましく、26〜38%がさらに好ましい。中空率が上記範囲より小さいと、膜抵抗が大きくなり、所望の透水量が得られない可能性がある。また、中空率が上記範囲より大きいと、低圧処理での使用であっても十分な耐圧性を確保できない可能性がある。
なお、中空率(%)は下記式により求めることができる。
中空率(%)=(内径/外径)×100
【0027】
本発明の半透膜の長さは、15〜500cmが好ましく、20〜400cmがより好ましく、25〜300cmがさらに好ましい。この長さは、中空糸型半透膜モジュールで一般に使用される可能性のある範囲である。但し、長さが上記範囲を逸脱すると、低い運転コストで透水性と塩除去性を両立することが困難になる可能性がある。
【0028】
次に、本発明の半透膜の製造方法の一例について説明する。本発明の半透膜は、図1に示すように、製膜原液を紡糸口金から空中走行部を経て凝固浴中に吐出して中空糸型半透膜を製造し、この中空糸型半透膜を水洗した後に熱水処理に供して膜を収縮させることによって製造される。本発明の半透膜の製造方法は、膜の非対称化を促進するために、製膜原液中のポリマー濃度を比較的高めに設定するとともに溶媒/非溶媒比を高めに設定したことを特徴とする。このような特徴の製膜原液を高温のノズルより吐出すると、空中走行部でより多くの溶媒が蒸発するのでポリマーの凝集(核化)が起こる。続く凝固浴においては、溶媒濃度を低く設定しているので、相分離が進行するよりも早く凝固が完了するため、中空糸型半透膜の外表面構造がより薄く緻密化されることになる。一方、内表面側(中空部側)は閉鎖系であり溶媒蒸発が制限されているので、空中走行部から凝固浴にかけてポリマーの核化→成長(相分離の進行)が進み、よって非対称化が促進する。このようにして得られた中空糸型半透膜を、特定の範囲の温度条件で熱水処理することにより適度な膜収縮を生じさせて外表面層の緻密化を行うとともに、支持層部がややルーズな状態で膜構造の固定を行う。
【0029】
製膜原液としては、膜素材の酢酸セルロースと溶媒と非溶媒を含むものを使用し、必要により有機酸および/または有機アミンを加えたものを使用する。酢酸セルロースは、三酢酸セルロースを使用することが好ましい。溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。より好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである。非溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。より好ましくは、エチレングリコールである。有機酸は、アミノ酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸、二塩基酸またはそのヒドロキシモノエステルが好ましい。より好ましくは、フタル酸、酒石酸、ε−アミノ−n−カプロン酸、安息香酸、4−メチルアミノ酪酸、p−オキシ安息香酸、マレイン酸であり、1種以上を混合して使用することができる。有機アミンは、一級、二級、三級ヒドロキシアルキルアミンのいずれでも使用できる。具体的には、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンが好ましい。トリイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0030】
製膜原液中の酢酸セルロースの濃度は40〜45重量%であることが好ましい。酢酸セルロースの濃度が上記範囲より低いと、中空糸型半透膜構造が粗くなりすぎて十分な分離性能および膜強度が得られないことがあり、上記範囲より高いと、製膜原液の粘度が高くなり、製膜の安定性が得られないとか、得られる膜の透水性を高めることができなくなる可能性がある。また、製膜原液中の溶媒/非溶媒の重量比は80/20〜95/5であることが好ましい。溶媒/非溶媒の重量比が上記範囲より低いと、溶媒蒸発が進行しないため膜表面の構造が緻密化せず、透水性は大きく変化しないが分離性能が低いものとなり、上記範囲より高いと、極端な非対称膜化が進行して膜強度が得られない可能性がある。
【0031】
次に、上記のようにして得られた製膜原液を90〜190℃に加熱して溶解し、得られた製膜原液を150〜180℃に加熱したアーク型、C型、チューブインオリフィス型ノズルより押出す。チューブインオリフィス型ノズルを使用する場合は、中空形成材として空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを使用することが好ましい。押出された製膜原液は、0.02〜0.4秒間、空中走行部(気体雰囲気中)を通過した後、続いて水性凝固浴に浸漬して凝固される。
【0032】
凝固浴は、製膜原液に使用した溶媒、非溶媒と同一組成のものを使用することが好ましい。凝固浴の組成割合は、溶媒/非溶媒/水(重量比)=0〜15/0〜8/100〜77が好ましい。水の比率が低すぎると、膜の相分離が進行し、細孔径が大きくなりすぎることがある。水100%でも良いが、連続製膜において凝固浴からの廃液の量が多くなる。
【0033】
凝固浴から引き上げた中空糸型半透膜は、残存する溶媒、非溶媒等を水で洗浄除去する。水洗方式としては、例えば、長尺傾斜樋に水洗水を流下させ、その水洗水中に中空糸型半透膜を通して水洗する多段傾斜樋水洗方式、また2本の長尺ローラーに互いに角度をもたせ、ローラーに中空糸型半透膜を何重にも捲き上げるネルソンローラーにおいて、ネルソンローラー表面を常に水洗水で濡らし、該水洗水と中空糸型半透膜との接触で水洗するネルソンローラー水洗方式、更にネット上に中空糸型半透膜を振り落し、シャワー水によって水洗するネットシャワー水洗方式、また中空糸型半透膜を直接深槽水洗水中に浸漬水洗する浸漬水洗方式等がある。本発明においては、いずれの水洗方式で水洗してもよい。
【0034】
水洗処理を施した中空糸型半透膜は、無緊張状態で水中に浸漬し、70℃より高く80℃以下の温度で5〜60分間、熱水処理を行うことが好ましい。より好ましくは72〜80℃でさらに好ましくは74〜80℃で熱水処理を施すことによって、膜構造の固定化や寸法安定性の向上、熱安定性の向上を図ることができる。このような目的のため、通常、熱水処理は、ガラス転移温度よりも高く融点よりも低い温度が採用される。酢酸セルロースを使用する場合においても、一般的に湿潤状態において90℃以上の熱水処理温度が採用されるが、本発明においては、70℃超80℃以下の特定の範囲の処理温度を採用することにより膜構造の過度の緻密化を抑制している。
【0035】
熱水処理温度が上記範囲より高いと、膜構造の緻密化が進みすぎて塩除去性と透水性のバランスが崩れることがあり、逆に、上記範囲より低いと、膜構造の非対称性が十分でなく、所望の塩除去性能が得られないことがある。熱水処理時間は、通常5〜60分である。処理時間が短すぎると、十分な熱水処理効果が得られない可能性がある。また、膜構造に不均一が生じることがある。処理時間が長すぎると、製造コストアップに繋がるだけでなく、膜が緻密化しすぎて所望の性能バランスが得られないことがある。
【0036】
上記のようにして得られた本発明の中空糸型半透膜は、中空糸型半透膜モジュールとして組み込まれる。一例として、従来公知の方法による半透膜の組み込み方法があり、例えば、特許4412486号公報、特許4277147号公報、特許3591618号公報、特許3008886号公報などに記載されているように、例えば、中空糸型半透膜を45〜90本集めて1つの中空糸型半透膜集合体とし、さらにこの中空糸型半透膜集合体を複数横に並べて偏平な中空糸型半透膜束として、多数の孔を有する芯管にトラバースさせながら巻き付ける。この時の巻き付け角度は5〜60度とし、巻き上げ体の特定位置の周面上に交差部が形成するように巻き上げる。次に、この巻き上げ体の両端部を接着した後、片側のみ/または両側を切削して中空糸開口部を形成させ中空糸型半透膜エレメントを作成する。得られた中空糸型半透膜エレメントを圧力容器に挿入して中空糸型半透膜モジュールを組立てる。
【0037】
本発明の中空糸型半透膜を用いたモジュールは、0.5〜3.0MPaの加圧状態の高濃度水溶液に濃度差を駆動力として低濃度側の水溶液から淡水を透過させて、増加した加圧水を利用してエネルギーを生成する用途に好適である。好ましい高濃度水溶液には、自然界に豊富に存在する海水、濃縮海水、または人工的に得られる高濃度水溶液であり、好ましい高濃度水溶液の濃度は高いほど良く、その浸透圧は溶質の分子量にもよるが、0.5〜10MPaであり、好ましくは1〜7MPa、より好ましくは2〜6MPaである。本発明の中空糸型半透膜を用いたモジュールによれば、膜の透水性能が高く、かつ水と塩の高い分離性により塩の濃度差を駆動力とした場合に透水量が高くなるように設計されているので、濃度差を駆動力として加圧状態の水を効率良く得ることが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0039】
(1)内径、外径、中空率
中空糸型半透膜の内径、外径および膜厚は、中空糸型半透膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸型半透膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面に沿ってカミソリにより中空糸型半透膜をカットし、中空糸型半透膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon PROFILE PROJECTOR V−12を用いて中空糸型半透膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸型半透膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸型半透膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5つの断面について同様に測定を行い、平均値を内径、外径、膜厚とした。
中空率は(内径/外径)×100で算出した。
【0040】
(2)圧力差による透水量
中空糸型半透膜を束ねて、プラスチック製スリーブに挿入した後、熱硬化性樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸型半透膜の端部を切断することで中空糸型半透膜の開口面を得て、外径基準の膜面積がおよそ0.1mの評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる膜性能試験装置に接続し、性能評価した。
塩化ナトリウム濃度1.5g/Lの供給水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型半透膜の外側から内側へ向かって濾過して1時間運転する。その後、中空糸型半透膜の開口面より膜透過水を採取して、電子天秤(島津製作所 LIBROR EB−3200D)で透過水重量を測定した。透過水重量は、下記式にて25℃の透過水量に換算した。
透過水量(L)=透過水重量(kg)/0.99704(kg/L)
透水量(FR)は下記式より算出する。
FR[L/m/日]=透過水重量[L]/外径基準膜面積[m]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
また、上記の条件で運転圧力を3.0MPaとして透水量を同様に測定し、また、24時間後の透水量の測定値との比を膜の耐圧性として下記の式より算出する。
透水量比[−]=24時間後の3.0MPaでの透水量/1時間後の3.0MPaでの透水量
【0041】
(3)圧力差による塩除去率
前記透水量測定で採取した膜透過水と、同じく透水量の測定で使用した塩化ナトリウム濃度1.5g/L供給水溶液を電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて塩化ナトリウム濃度を測定する。
塩除去率は下記式より算出する。
塩除去率[%]=(1−膜透過水塩濃度[mg/L]/供給水溶液塩濃度[mg/L])×100
【0042】
(4)濃度差による透水量
(中空糸型半透膜エレメントの作製)
これらの中空糸型半透膜を多孔管からなる供給流体分配管の周りに交差状に配置させ、中空糸型半透膜の集合体を形成させた。供給流体分配管をその軸を中心に回転させながら中空糸型半透膜の束をトラバースさせ、供給流体分配管の周りに捲きつけることにより中空糸型半透膜が交差状に配置される。最外層における中空糸型半透膜は軸方向に対して約41度であった。この中空糸型半透膜の集合体の両端部をエポキシ樹脂でポッティングさせて固定させた後、両端を切断して中空糸型半透膜の中空孔を開口させて中空糸型半透膜エレメントを作製した。この中空糸型半透膜エレメントの中空糸型半透膜集合体の外径は117mm、開口端部間の軸方向の長さは58cmであった。また、中空糸型半透膜の有効長の平均長さは約70cmであった。また、有効膜面積は、中空糸型半透膜の外径基準で約67mであった。
(モジュールの透水量測定)
このエレメントを圧力容器に装填して、中空糸型半透膜のそれぞれの開口部に連通するノズルのうち、一方のノズルより塩化ナトリウム濃度0g/Lの淡水を供給ポンプで供給し、他方のノズルから淡水を流出させた。塩化ナトリウム濃度35g/Lの高濃度水溶液を中空糸型半透膜の外側に連通する供給流体分配管に供給ポンプで供給し、中空糸型半透膜の外側を通過させた後、中空糸型半透膜集合体の外側に連通する圧力容器の側面に存在するノズルから流出させ、流量調整バルブで、圧力と流量を調整する。高濃度水溶液の供給圧力をPDS1(MPa)、供給流量をQDS1(L/min)、高濃度水溶液の排出水量をQDS2(L/min)、淡水の供給流量をQFS1(L/min)、淡水の流出流量をQFS2(L/min)、淡水の流出圧力をPFS2(kPa)とした場合、モジュールの透水量(QDS2−QDS1)と、圧力、流量が下記の条件となるように、各供給ポンプの流量と圧力を調整し、その条件での高濃度水溶液の流量増分(QDS2−QDS1)をモジュール透水量として測定した。
PDS1=1.0MPa
PFS2=10kPa以下
QDS1/(QDS2−QDS1)=2
QFS2/(QDS2−QDS1)=0.1
濃度による透水量(FR)は下記式より算出する。
FR[L/m/日]=モジュール透水量[L/min]/外径基準膜面積[m]×(60[分]×24[時間])
【0043】
(5)緻密層厚み
評価する中空糸型半透膜を水洗した後、25℃の2-プロパノール(ナカライテスク社)、シクロヘキサン(ナカライテスク社)の順に1時間ずつ浸漬して溶媒置換を行う。溶媒置換後の中空糸型半透膜を液切りし、庫内温度50℃、庫内圧力−40Paの真空乾燥機(Yamato VacuumDryingOven DP41)で24時間乾燥する。
乾燥して得られた中空糸型半透膜を樹脂包埋して中空糸型半透膜断面が観察できるようにミクロトーム(REICHERT-NISSEI ULTRACUT)を用い切片を切り出す。
切り出した切片を微分干渉顕微鏡(Nikon社製 OPTIPHOT鏡基、反射型微分干渉装置NR)で観察する。
得られた顕微鏡画像より、10ヵ所の緻密層厚みを測定し、それらの平均値を緻密層厚みとした。
【0044】
(実施例1)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を75℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0045】
(実施例2)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)44重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)47.3重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.4重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を72℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0046】
(実施例3)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)47.0重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)11.7重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を80℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0047】
(実施例4)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)52.8重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)5.9重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を72℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0048】
(実施例5)
実施例1と同様にして、内径が76μm、外径が120μm、中空率が40%の中空糸型半透膜を得た。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0049】
(実施例6)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)52.8重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)5.9重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を71℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が170μm、外径が270μm、中空率が40%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0050】
(実施例7)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)43重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)51.0重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)5.7重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を72℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が158μm、外径が250μm、中空率が40%であった。
本実施例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表1にまとめる。
【0051】
(比較例1)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を40℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0052】
(比較例2)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)38重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)52.4重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)9.3重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0053】
(比較例3)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)41.1重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)17.6重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0054】
(比較例4)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)47重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)44.8重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)7.9重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を98℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0055】
(比較例5)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)38重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)43.2重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)18.5重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を88℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0056】
(比較例6)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)41.1重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)17.6重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を82℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0057】
(比較例7)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)43重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)56.7重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を65℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が158μm、外径が250μm、中空率が40%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0058】
(比較例8)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)38重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)61.7重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸型半透膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸型半透膜を65℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸型半透膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸型半透膜を用いて長さ約100cmの評価用モジュールを作製し、圧力差による透水性能、塩除去率と透水量比を測定した。また、中空糸型半透膜の有効長が約70cmの濃度差による透水量測定用のエレメントを作製し、透水量を測定した。評価結果を表2にまとめる。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜7の中空糸型半透膜はいずれも、濃度差を駆動力とする透水性能が高い値を有しているので、少ない設置スペースで濃度差を駆動力としてエネルギーを生成するための水と圧力を効率良く得ることが可能である。これに対して、比較例1は、熱水処理温度が低いため、膜構造の緻密化、固定化が不十分となり、加圧による透水性は高いが、塩分の除去率が不十分で、濃度差を駆動力とする水処理の場合、漏洩した塩分により半透膜を介した濃度差が十分取れないためか、濃度差を駆動力とする透水性能は低い。比較例2は、ポリマー濃度が低く、また、熱水処理温度も低いため、膜全体として構造の緻密化が不十分となり、加圧による透水性能は高いが濃度差を駆動力とする水処理の場合、塩分が漏洩して、半透膜を介した濃度差が十分取れないため、濃度差を駆動力とする透水性能は低い。比較例3は、溶媒/非溶媒比が大きく、おそらく空中走行部での溶媒蒸発が十分促進されず、よって膜表面の構造が思ったほど緻密化せず、分離性能が高くないため、濃度差を駆動力とする水処理の場合、塩分が漏洩して、半透膜を介した濃度差が十分取れないため、濃度差を駆動力とする透水性能は低い。比較例4は、製膜原液中のポリマー濃度が高く、また、熱水処理温度が高いためか、加圧による透水性は低く、濃度差を駆動力とする水処理の場合の透水性能も低い。比較例5は、製膜原液中のポリマー濃度が低く、溶媒/非溶媒比が大きく、熱水処理温度が高いため、加圧による透水性も低く、また、塩除去率もそれほど高くないため、濃度差を駆動力とする水処理の場合の透水性能は低い。比較例6は、製膜原液中の溶媒/非溶媒比が大きく、熱水処理温度が高いため、加圧による透水性は低く、濃度差を駆動力とする水処理の場合の透水性能は低く、濃度差を駆動力とする水処理時の透水性能は低い。比較例7は、製膜原液中の非溶媒がない系であり、熱水処理温度が低く、中空率が高いため、加圧による透水性は高く、濃度差を駆動力とする水処理の場合の透水性能は非常に高いが、耐圧性は非常に低く、加圧状態の高濃度の溶液について濃度差を利用する場合には実用的ではない。比較例8は、製膜原液中のポリマー濃度は低く、製膜原液中の非溶媒がない系であるが、熱水処理温度が低いため、圧力差による透水量は高いが塩除去率が低く、濃度差を駆動力とする水処理の場合の透水性能は低い。
これらの比較例にも記載したように、圧力による透水量が高くても濃度差による透水量が低い場合が存在する。これは、圧力による透水量が高くても塩の除去性能が十分高くなく、塩の漏出により低濃度側の濃度が増加したことや、低濃度側の膜内での塩の拡散が不十分で濃度分極が大きくなり低濃度側の濃度が増加したことにより、膜を介した濃度差が十分取れなかったためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の中空糸型半透膜は、膜の透水性能が高く、かつ、水と塩の高い選択性により塩の濃度差を駆動力とする透水量が高くなるように設計されているので、濃度差を駆動力としてエネルギーを生成する分野において極めて有用である。
図1