(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、透析治療装置は、ダイアライザーと呼ばれる血液透析器と、患者の血液が流通する血液回路と、透析液が流通する透析液回路とを備えている。そして、血液回路の2カ所を患者の血管に直接接続して体外循環を維持しつつ、この血液回路の途中に設けた血液透析器の中空糸内側のコンパートメントに血液を流入させ、一方、血液透析器の中空糸外側のコンパートメントには、透析液回路によって透析液を流入させる。血液透析器の内部には、両コンパートメントを仕切るように透析膜が設けられており、透析膜の両側の濃度勾配に応じた粒子の拡散移動によって不要物質の除去や不足物質の補充が行われる。
【0003】
近年では、透析実施前の回路の空気抜きを行なう工程(プライミング工程)や患者の血液を血液回路内に導入する工程(脱血工程)、透析中に補液を行なう工程(補液工程)、透析治療後血液回路内の血液を患者の体内に戻す工程(返血工程)などの各工程を、血液回路内の透析液の流れを制御することで連続して自動的に行なう自動血液透析装置が開発されている。
【0004】
自動血液透析装置は、大別すると、透析液を血液透析器を介して血液回路に流入させる逆濾過方式の装置と、透析液を血液透析器を介さずに血液回路に直接流入させるオンライン方式の装置の2種類がある。
【0005】
逆濾過方式の血液透析装置は、例えば特許文献1に開示されており、除水/逆濾過ポンプによって血液透析器の中空糸外側及び内側のコンパートメントの圧力差を調整し、透析液を血液透析器を介して血液回路に流入させたり、血液からの除水を行ったりすることが可能になっている。
【0006】
一方、オンライン方式の血液透析装置は、例えば特許文献2に開示されており、補液ポンプ及び送液ラインによって血液回路に透析液を直接流入させるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逆濾過方式の血液透析装置では、血液透析器の透析膜で透析液を濾過できるため、万が一、透析液に菌やウイルス等が含まれていた場合でもそれが患者の体内に侵入してしまうのを未然に防止でき、安全性の面で好ましい。
【0009】
逆濾過方式の血液透析装置では、
図11に示すように、逆濾過速度コントロール圧を設定しておき、透析液圧が逆濾過速度コントロール圧よりも低い圧力となるように制御する。この
図11ではUFR(限外濾過率)の高い透析膜を用いる場合を示しており、UFRが高いと、通常、透析液圧が逆濾過速度コントロール圧に達しないので、逆濾過速度が狙い通りの範囲内に収まる。
【0010】
一方、透析治療で血液中から除去すべき物質によっては、UFRの低い透析膜を用いる場合がある。UFRが低くなると、透析液も透析膜を通過しにくくなるため、
図12に示すように、透析液圧が短時間で逆濾過速度コントロール圧に達してしまう。この
図12では、透析液圧の上昇により逆濾過速度が上昇する場合を示している。透析液圧が短時間で逆濾過速度コントロール圧に達してしまうと透析液圧を下げる制御を行うので、逆濾過速度が低下する。つまり、逆濾過速度コントロール圧に達しないように透析液圧を徐々に上昇させていかなければならないので、血液回路内への透析液の流入量の制御が困難となり、その結果、透析治療が長時間化してしまうという問題がある。また、透析中に血中蛋白等によって透析膜が目詰まりを起こした場合も同様である。
【0011】
さらに、
図13に示すように、UFRの低い場合であって逆濾過速度を変化させても透析液圧がほとんど下がらない場合もあり、この場合も血液回路内への透析液の流入量が制限されるので、透析治療が長時間化してしまう。
【0012】
血液透析器を介さずに透析液を血液回路に流入させるオンライン方式では上述した問題は生じない。ところが、万が一、透析液に菌やウイルス等が含まれていた場合のことを考慮して、オンライン方式では透析液を濾過するためのフィルタを別途設ける必要がある。そのため、フィルタの管理や交換の手間が増えるとともに、コスト高になるといった問題がある。
【0013】
つまり、特許文献1の逆濾過方式では、手間がいらず、低コストであるというメリットを持っているものの、UFRが低い場合や透析膜が目詰まりを起こした場合に制御が困難なるというデメリットがあり、特許文献2のオンライン方式では、UFRが低い場合に対応できるものの、手間がかかり、コスト高であるというデメリットがあり、いずれの方式の装置でもデメリットを許容せざるを得なかった。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、逆濾過方式とオンライン方式の双方のデメリットを補完し、UFRが低い場合や透析膜が目詰まりを起こした場合でも適切に制御を行うことができ、しかも、手間がかからず、低コストでもある血液透析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、UFRが低い場合や透析膜が目詰まりを起こした場合を透析液圧や逆濾過速度によって推定し、逆濾過運転からオンライン運転に自動で切り替えることができるようにした。
【0016】
第1の発明は、
透析膜を介して血液及び透析液を接触させる血液透析器と、
患者の血液を上記血液透析器に流入させる動脈系及び上記血液透析器の血液を患者に戻す静脈系を有す
る血液回路と、
上記血液透析器に透析液を流入させる導入系及び上記血液透析器の透析液を排出する排出系を有する透析液回路と、
上記血液回路に接続され、該血液回路に透析液を供給するための送液ラインと、
上記送液ラインによる透析液の供給状態及び非供給状態を切り替える切替手段と、
上記血液透析器の内部における透析液圧を変更することによって除水及び逆濾過を行うための除水/逆濾過ポンプと、
上記透析液回路の透析液の圧力を検出する透析液圧検出部と、
上記透析液圧検出部からの出力信号に基づいて上記切替手段及び上記除水/逆濾過ポンプを制御する制御装置とを備えた血液透析装置において、
上記制御装置は、上記切替手段によって上記送液ラインを透析液の非供給状態にするとともに、上記除水/逆濾過ポンプを作動させている逆濾過運転のときに、上記透析液圧検出部により、
逆濾過速度が逆濾過運転開始から患者毎に設定された要求速度となるまでの透析液圧の上昇速度が所定以上であると検出された場合には、上記切替手段によって上記送液ラインを透析液の供給状態にするオンライン運転に切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、UFRが高い血液透析器を使用して逆濾過運転を行っている場合のように、透析液圧の上昇
速度が所定よりも低い場合には、逆濾過運転が継続されるので、安全性が高く、手間がいらず、しかも、低コストで透析治療を行うことが可能になる。
【0018】
一方、UFRが低い場合や血液透析器が目詰まりを起こした場合には、透析液圧が急に上昇することになる。この場合に、透析液圧検出部により、透析液圧の上昇
速度が所定以上であると検出されれば、オンライン運転に切り替えて透析液を送液ラインから血液回路に供給するので、透析治療が長時間化することはない。
【0019】
第2の発明は、
透析膜を介して血液及び透析液を接触させる血液透析器と、
患者の血液を上記血液透析器に流入させる動脈系及び上記血液透析器の血液を患者に戻す静脈系を有す
る血液回路と、
上記血液透析器に透析液を流入させる導入系及び上記血液透析器の透析液を排出する排出系を有する透析液回路と、
上記血液回路に接続され、該血液回路に透析液を供給するための送液ラインと、
上記送液ラインによる透析液の供給状態及び非供給状態を切り替える切替手段と、
上記血液透析器の内部における透析液圧を変更することによって除水及び逆濾過を行うための除水/逆濾過ポンプと、
上記除水/逆濾過ポンプによる逆濾過速度を検出する逆濾過速度検出部と、
上記逆濾過速度検出部からの出力信号に基づいて上記切替手段及び上記除水/逆濾過ポンプを制御する制御装置とを備えた血液透析装置において、
上記制御装置は、上記切替手段によって上記送液ラインを透析液の非供給状態にするとともに、上記除水/逆濾過ポンプを作動させている逆濾過運転のときに、上記逆濾過速度検出部により、逆濾過速度が
オンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続したことが検出された場合には、上記切替手段によって上記送液ラインを透析液の供給状態にするオンライン運転に切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、UFRが高い血液透析器を使用して逆濾過運転を行っている場合のように、
逆濾過速度がオンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続しなければ、逆濾過運転が継続されるので、安全性が高く、手間がいらず、しかも、低コストで透析治療を行うことが可能になる。
【0021】
一方、UFRが低い場合や血液透析器が目詰まりを起こした場合には、逆濾過速度が上昇しなくなる。この場合に、逆濾過速度検出部により、
逆濾過速度がオンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続したことが検出されれば、オンライン運転に切り替えて透析液を送液ラインから血液回路に供給するので、透析治療が長時間化することはない。
【0022】
第3の発明は、第1または2の発明において、
上記制御装置は上記血液透析装置の運転開始時には逆濾過運転とするように構成されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、透析液圧の上昇
速度が所定よりも低い場合や、
逆濾過速度がオンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続しない場合には、運転開始から治療終了まで逆濾過による安全な透析治療を継続して行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明によれば、逆濾過運転のときに、透析液圧の上昇
速度が所定以上であると検出された場合にオンライン運転に切り替えて送液ラインによって透析液を供給することができるので、逆濾過方式とオンライン方式の双方のデメリットを補完し、UFRが低い場合や目詰まりを起こした場合でも適切に制御を行うことができ、しかも、手間がかからず、低コストに透析治療を行うことができる。
【0025】
第2の発明によれば、逆濾過運転のときに、逆濾過速度が所定未満であると検出された場合にオンライン運転に切り替えて送液ラインによって透析液を供給することができるので、逆濾過方式とオンライン方式の双方のデメリットを補完し、UFRが低い場合や目詰まりを起こした場合でも適切に制御を行うことができ、しかも、手間がかからず、低コストに透析治療を行うことができる。
【0026】
第3の発明によれば、血液透析装置の運転開始時に逆濾過運転とすることで、透析液圧の上昇度合い低い場合や、逆濾過速度が所定以上である場合に、運転開始から治療終了まで逆濾過による安全な透析治療を継続して行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る血液透析装置1の概略構成を示す図である。血液透析装置1は、腎不全患者や薬物中毒患者の血液を浄化するとともに、血液中の余分な水分を除去し、必要に応じて血液中に水分を補充(補液)することができるように構成されている。
【0030】
また、この実施形態の血液透析装置1は、プライミング工程、脱血工程、補液工程、返血工程などの各工程を、血液回路内の透析液の流れを制御することで連続して自動的に行なう自動血液透析装置である。
【0031】
血液透析装置1は、ダイアライザーからなる血液透析器5と、血液回路20と、透析液回路30と、送液ライン40と、オンライン用クランプ(切替手段)41と、除水/逆濾過ポンプP1と、制御装置50(
図2に示す)とを備えている。
【0032】
血液透析器5は、血液回路20の動脈系21と静脈系22との間に設けられる従来周知のものであり、本発明では、UFRが高い血液透析器とUFRが低い血液透析器との両方を使用することができる。血液透析器5の内部には、図示しないが、透析膜として機能する中空糸で仕切られることで、中空糸内側のコンパートメントと、中空糸外側のコンパートメントとが形成されている。血液透析器5は、中空糸内側のコンパートメントに血液を流入させるための血液流入口5aと、中空糸内側のコンパートメントから血液を流出させる血液流出口5bと、中空糸外側のコンパートメントに透析液を流入させる透析液流入口5cと、中空糸外側のコンパートメントから透析液を流出させる透析液流出口5dとを有している。
【0033】
血液回路20の動脈系21は、血液が流通するチューブで構成されており、血液透析器5の血液流入口5aに接続されている。動脈系21は、患者の血管に穿刺される針が接続される動脈側接続部21aと、チューブ内の気泡の有無を検出する動脈側気泡検知器21bと、チューブをしごくことによって血液を送る血液ポンプ21cとを有している。血液ポンプ21cは、制御装置50により制御され、正転、逆転の切替、回転速度の変更が可能となっている。
【0034】
また、動脈系21には、シリンジポンプ55が接続されるようになっている。シリンジポンプ55は、血液透析中に必要な薬剤を患者に投与するために用いられる一般的な装置であるため、詳細な説明は省略する。
【0035】
血液回路20の静脈系22も血液が流通するチューブで構成されている。静脈系22は血液透析器5の血液流出口5bに接続されている。静脈系22は、患者の血管に穿刺される針が接続される静脈側接続部22aと、チューブ内の気泡の有無を検出する静脈側気泡検知器22bと、点滴筒22cと、気泡検知器用クランプ22dと、オーバーフローライン22eと、自動プライミング用クランプ22fとを有している。動脈側接続部21aと静脈側接続部22aとは、両接続部21a、22aを直接接続する、いわゆる短絡状態にすることができるようになっている。
気泡検知器用クランプ22dは、静脈側気泡検知器22bよりも下流側に設けられており、制御装置50により制御されてチューブを閉塞した閉状態(クランプ状態)と、開放した開状態(非クランプ状態)とに切り替えられる。気泡検知器用クランプ22dは、静脈側気泡検知器22bにより気泡が検出された場合に閉状態とされ、通常時は開状態である。
【0036】
オーバーフローライン22eは、点滴筒22cに接続されており、プライミング工程で排液するためのラインある。自動プライミング用クランプ22fは、オーバーフローライン22eに設けられており、制御装置50により制御されてオーバーフローライン22eを閉塞した閉状態と、開放した開状態とに切り替えられる。
【0037】
透析液回路30は、透析液を血液透析器5に流入させる導入系31と、透析液を血液透析器5から排出する排出系32と、チャンバ33とを有している。
【0038】
チャンバ33は、透析液を一旦貯留しておくためのものであり、外部の透析液生成装置(図示せず)に対し、透析液供給管A1及び透析液排出管A2を介して接続されている。導入系31は、透析液が流通するチューブで構成されており、血液透析器5の透析液流入口5cに接続されている。導入系31は、チャンバ33の透析液を血液透析器5に送るための透析液導入ポンプ31aを有している。
【0039】
排出系32は、チューブで構成されており、血液透析器5の透析液をチャンバ33に送るための透析液排出ポンプ32aと、透析液回路30の排出系32内における透析液の圧力を検出するための透析液圧センサ(透析液圧検出部)32bとを有している。
【0040】
送液ライン40は、透析液を血液回路20に直接供給するためのラインであり、チューブで構成されている。この送液ライン40によってオンライン運転が実現される。送液ライン40の上流側は、透析液回路30の導入系31における透析液導入ポンプ31aと透析液流入口5cとの間に接続されている。送液ライン40の下流側は、血液回路20の動脈系21における血液ポンプ21cと血液透析器5との間に接続されている。
【0041】
送液ライン40の上流側には、補液ポンプ42が設けられている。補液ポンプ42は、チャンバ33の透析液を血液回路20に送るためのものであり、制御装置50により制御されて停止、作動の切り替えと、透析液の供給量の変更が可能となっている。
【0042】
オンライン用クランプ41は、送液ライン40の下流側に設けられている。オンライン用クランプ41は、制御装置50により制御されて送液ライン40を閉塞した閉状態と、開放した開状態とに切り替えられる。閉状態とは、送液ライン40による透析液の非供給状態であり、開状態とは、送液ライン40による透析液の供給状態である。
【0043】
除水/逆濾過ポンプP1は、透析液排出管A2と透析液回路30の排出系32とを繋ぐ除水/逆濾過ラインL1の中途部に設けられている。除水/逆濾過ポンプP1は、制御装置50により制御され、透析液排出管A2の透析液を排出系32に流入させるように作動し、そのときの透析液の流量を変更することもできるようになっている。
【0044】
図2に示す制御装置50は、所定のプログラムに従って動作するマイクロコンピュータ等で構成されたものである。制御装置50には、操作者が操作する操作ボタン51等が接続されている。操作ボタン51は、例えば透析開始ボタン、各種設定ボタン等である。
【0045】
制御装置50は、透析液圧センサ32b、動脈側気泡検知器21b、静脈側気泡検出器22b等から入力される信号、及び操作者による操作ボタン51の操作を検出し、これらに基づいて、血液ポンプ21c、透析液導入ポンプ31a、透析液排出ポンプ32a、除水/逆濾過ポンプP1、補液ポンプ42、自動プライミング用クランプ22f、気泡検知器用クランプ22d及びオンライン用クランプ41を制御する。
【0046】
制御装置50は、逆濾過速度検出部50aを有している。この逆濾過速度検出部50aは、逆濾過がどの程度の速度(ml/min)で行われているか検出するためのものである。具体的には、逆濾過速度検出部50aは、透析液圧センサ32bから出力される透析液圧と、除水/逆濾過ポンプP1による透析液の送給流量とに基づいて得る。除水/逆濾過ポンプP1による透析液の送給流量は、除水/逆濾過ポンプP1の回転速度から得ることができる。そして、逆濾過速度検出部50aで得られた逆濾過速度を制御することにより、結果として透析液圧が変化することになる。この透析液圧の変化を透析液圧センサ32bでモニタリングしておき、除水/逆濾過ポンプP1を制御することで逆濾過速度を変化させ、これにより透析液圧を制御することができるようになっている。
【0047】
制御装置50は、透析液を血液透析器5を介して血液回路20に流入させる逆濾過運転と、透析液を血液透析器5を介さずに送液ライン40から血液回路20に直接流入させるオンライン運転とを操作者の操作を要することなく、状況に応じて自動的に切り替えて運転する。逆濾過運転とオンライン運転との切替については後述する。
【0048】
また、制御装置50は、血液回路20や血液透析器5を洗浄し清浄化する準備工程であるプライミング工程、穿刺後に患者の血液を血液回路20に充填させて体外循環させる脱血工程、脱血工程に続いて行われる透析工程、透析治療中における急速補液工程、血液回路20内の血液を患者の体内に戻す返血工程を行う。プライミング工程、急速補液工程及び返血工程は、逆濾過運転とオンライン運転とで異なるが、脱血工程及び透析工程は、動作的には逆濾過運転とオンライン運転とで同じである。
【0049】
逆濾過運転におけるプライミング工程は
図3に示すように、自動プライミング用クランプ22f及び気泡検知器用クランプ22dを開状態にし、オンライン用クランプ41を閉状態にする。また、血液回路20の動脈側接続部21aと静脈側接続部22aとは短絡状態にしておく。
【0050】
透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aを作動させるとともに、除水/逆濾過ポンプP1を作動させる。このとき、例えば、透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aの送給量を500ml/minとし、除水/逆濾過ポンプP1の送給量を400ml/minとすることで、透析液を、血液透析器5の透析膜によって濾過しながら中空糸外側のコンパートメントから中空糸内側のコンパートメントへ流す、いわゆる逆濾過を行うことができる。これにより、血液回路20に透析液が充填される。尚、このとき補液ポンプ42は停止状態とする。
【0051】
血液ポンプ21cは、血液回路20内の透析液を透析工程とは逆に送るように作動させる。血液回路20内の透析液はオーバーフローライン22eから排出される。
【0052】
オンライン運転におけるプライミング工程は
図4に示すように、自動プライミング用クランプ22f、気泡検知器用クランプ22d及びオンライン用クランプ41を開状態にする。また、血液回路20の動脈側接続部21aと静脈側接続部22aとは短絡状態にしておく。
【0053】
透析液導入ポンプ31a、透析液排出ポンプ32a、除水/逆濾過ポンプP1及び血液ポンプ21cは逆濾過の場合と同様にしておき、補液ポンプ42を作動させる。これにより、透析液が送液ライン40から血液回路20の動脈系21に直接供給される。血液回路20内の透析液はオーバーフローライン22eから排出される。
【0054】
逆濾過運転における急速補液工程は
図5に示すように、自動プライミング用クランプ22f及びオンライン用クランプ41を閉状態にし、気泡検知器用クランプ22dを開状態にする。この急速補液工程は透析工程中に行う工程であるため、血液回路20の動脈側接続部21a及び静脈側接続部22aは穿刺針に接続され、穿刺針は患者の血管に穿刺される。
【0055】
透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aを作動させるとともに、除水/逆濾過ポンプP1を作動させる。このとき、例えば、透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aの送給量を500ml/minとし、除水/逆濾過ポンプP1の送給量を150ml/minとすることで、血液透析器5で逆濾過を行うことができる。これにより、血液回路20に透析液が流入して補液が行われる。補液の量は、除水/逆濾過ポンプP1による透析液の送給量によって調整することができる。尚、このとき補液ポンプ42は停止状態とする。血液ポンプ21cは、透析工程時と同様に作動させておく。
【0056】
オンライン運転における急速補液工程は
図6に示すように、自動プライミング用クランプ22f及び気泡検知器用クランプ22dを逆濾過運転における急速補液工程と同じにし、オンライン用クランプ41を開状態にする。
【0057】
透析液導入ポンプ31a、透析液排出ポンプ32a、除水/逆濾過ポンプP1、血液ポンプ21cは、オンライン運転における急速補液工程と同じにする。補液ポンプ42を作動させる。補液の量は、補液ポンプ42の送給量によって調整することができる。
【0058】
逆濾過運転における返血工程は
図7に示すように、自動プライミング用クランプ22f及びオンライン用クランプ41を閉状態にし、気泡検知器用クランプ22dを開状態にする。この返血工程は透析工程後に行う工程であるため、血液回路20の動脈側接続部21a及び静脈側接続部22aは穿刺針に接続され、穿刺針は患者の血管に穿刺される。
【0059】
透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aを作動させるとともに、除水/逆濾過ポンプP1を作動させる。このとき、例えば、透析液導入ポンプ31a及び透析液排出ポンプ32aの送給量を500ml/minとし、除水/逆濾過ポンプP1の送給量を100ml/minとすることで、血液透析器5で逆濾過を行うことができる。これにより、血液回路20に透析液が流入して血液回路20内の血液が患者に戻される。尚、このとき補液ポンプ42は停止状態とする。血液ポンプ21cは、透析工程とは逆に血液を送るように作動させておく。
【0060】
オンライン運転における返血工程は
図8に示すように、自動プライミング用クランプ22f及び気泡検知器用クランプ22dを逆濾過運転における返血工程と同じにする。また、オンライン用クランプ41を開状態にする。透析液導入ポンプ31a、透析液排出ポンプ32a、除水/逆濾過ポンプP1、血液ポンプ21cは、オンライン運転における返血工程と同じにする。補液ポンプ42を作動させる。これにより、血液回路20に透析液が流入して血液回路20内の血液が患者に戻される。
【0061】
次に、逆濾過運転とオンライン運転との切替について、制御装置50で行われる制御を
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。この制御は、操作ボタン51中の開始ボタンが押されたらスタートする。
【0062】
スタート後のステップS1では、逆濾過運転を開始する。例えばプライミング工程では
図3に示す運転状態とし、急速補液工程では
図5に示す運転状態とし、返血工程では
図7に示す運転状態とする。つまり、制御装置50は血液透析装置1の運転開始時には逆濾過運転とするように構成されている。
【0063】
ステップS2では、除水/逆濾過ポンプP1による送給量(回転速度)を上昇させることによって逆濾過速度を要求速度まで上昇させる。要求速度とは、患者の状況や治療の種類によってあらかじめ設定される速度であり、
図10に示すように例えば400ml/min等である。
【0064】
ステップS3では、ステップS2で逆濾過速度を要求速度まで上昇させた状態において、透析液圧センサ32bで検出された透析液圧が所定圧以上であるか否かを判定する。所定圧とは、例えば、
図10に実線で示す濾過速度コントロール圧(300mmHg)に10mmHgを加えた310mmHgである。
【0065】
ステップS3で透析液圧が所定圧以上まで上昇していないと判定された場合には、UFRが高い血液透析器5であると推定されるので、そのままエンドまで進み、逆濾過運転を継続する。
【0066】
一方、ステップS3で透析液圧が所定圧以上であると判定された場合には、透析液が血液回路20に流入しにくい状態であるため、UFRが低い血液透析器5、または目詰まりを起こした血液透析器5であると推定される。この場合は、ステップS4に進み、除水/逆濾過ポンプP1による送給量を減少させて逆濾過速度を減速させる。ステップS4では、逆濾過速度を要求速度の10%程度とする。これにより、
図10に示すように透析液圧が低下する。
【0067】
その後、ステップS5に進み、透析液圧センサ32bで検出された透析液圧が上記所定圧(310mmHg)よりも低いか否かを判定する。ステップS5でNOと判定されて透析液圧が上記所定圧以上の場合には、ステップS4に戻り、逆濾過速度をさらに減速させる。
【0068】
ステップS5でYESと判定されて透析液圧が上記所定圧よりも低い場合には、ステップS6に進み、除水/逆濾過ポンプP1による送給量を増加させて逆濾過速度を上昇させる。ステップS6における逆濾過速度の上昇量は、現状の速度の10%の割合である。
【0069】
その後、ステップS7に進み、透析液圧センサ32bで検出された透析液圧が上記所定圧(310mmHg)以上であるか否かを再び判定する。ステップS7でYESと判定されて透析液圧が所定圧以上まで上昇している場合には、ステップS4に進んで逆濾過速度を、例えば現状の速度の90%まで減速させる。ステップS7でNOと判定されて透析液圧が上記所定圧よりも低い場合には、ステップS8に進む。
【0070】
ステップS8では、逆濾過速度が上記要求速度未満であるか否かを判定する。ステップS8でNOと判定されて逆濾過速度が上記要求速度以上である場合には、エンドに進み、逆濾過運転を継続する。
【0071】
逆濾過速度を減速させた後、再度上昇させる制御を行っても、ステップS8でYESと判定されて逆濾過速度が上記要求速度未満である場合には、逆濾過速度が低速域(例えば50ml/min以下)であるのに透析液圧がすぐに上昇して濾過速度コントロール圧に達してしまうということであり、この場合は逆濾過速度を要求速度まで上昇させることができない状態になる。
【0072】
ステップS9では、逆濾過速度がオンライン切替設定速度(
図10に示す)以下である場合に、その状態が一定時間(数十分間)継続しているか否かを判定する。ステップS9でNOと判定されて逆濾過速度がオンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続していない場合には、エンドに進み、逆濾過運転を継続する。
【0073】
一方、ステップS9でYESと判定されて逆濾過速度がオンライン切替設定速度以下である状態が一定時間継続した場合には、ステップS10に進んでオンライン運転に切り替える。
【0074】
すなわち、UFRが低い血液透析器5や目詰まりした血液透析器5の場合、上記ステップS2〜S7までの制御を行っても、逆濾過速度が低速域であるにも関わらず、透析液圧がすぐに上昇して濾過速度コントロール圧に達するため、逆濾過速度を上げることができず、ひいては、透析時間が長時間化してしまうので、この場合には、ステップS9の判定を経てステップS10に進んでオンライン運転に切り替える。これにより、透析時間が長時間化してしまうのを回避できる。
【0075】
UFRが高い血液透析器5の場合や目詰まりした血液透析器5の場合は、ステップS3、ステップS8、ステップS9においてNOと判定されるので、逆濾過運転を行うことができる。これにより、透析液を血液透析器5で濾過して血液回路20に導入できるので安全性が高く、しかも、透析液を濾過するためのフィルタの管理工数が削減されるとともに、低コスト化を図ることができる。
【0076】
また、制御装置50は、ステップS1〜S3を経ることで、運転開始から逆濾過速度が要求速度まで上昇した段階で、透析液圧の上昇度合い(上昇速度)を検出することもできる。この透析液圧の上昇度合いが所定以上の急激な場合には、UFRの高い血液透析器5であるとして、ステップS10に進んでオンライン運転に切り替えるように制御することもできる。
【0077】
また、プライミング工程でオンライン運転に切り替えた場合には、後の工程(急速補液工程や返血工程)では逆濾過運転を行わずに、オンライン運転として急速補液工程や返血工程を行うのが好ましい。
【0078】
尚、
図9に示す逆濾過運転とオンライン運転との切替制御については、プライミング工程だけでなく、補液工程や返血工程で実施してもよい。
【0079】
また、本発明の切替手段としてオンライン用クランプ41を設けているが、これに限らず、例えば補液ポンプ42の動作によって供給状態と非供給状態とを切り替えるようにしてもよい。また、補液ポンプ42を設けずに、オンライン用クランプ41の開閉だけで供給状態と非供給状態とを切り替えるようにしてもよい。
【0080】
また、送液ライン40の下流側を血液回路20の静脈系22に接続して透析液を静脈系22に直接供給するようにしてもよい。
【0081】
また、送液ライン40の上流側を透析液回路30の排出系32に接続して透析液を排出系32から供給するようにしてもよい。
【0082】
以上説明したように、この実施形態に係る血液透析装置1によれば、逆濾過運転のときに、逆濾過速度が所定未満であると検出された場合にオンライン運転に切り替えて送液ライン40によって透析液を供給することができるので、逆濾過方式とオンライン方式の双方のデメリットを補完し、UFRが低い場合や目詰まりを起こした場合でも適切に制御を行うことができ、しかも、手間がかからず、低コストに透析治療を行うことができる。
また、逆濾過運転のときに、透析液圧の上昇度合いが所定以上であると検出された場合にオンライン運転に切り替えて送液ライン40によって透析液を血液回路20に供給することもできる。
【0083】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。