【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省、委託事業、「測地画像処理の高速計算法開発」及び平成20年度、文部科学省、委託事業、「細胞内物流システム解明のためのイメージデータを基としたデジタル解析システムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
佐藤善隆,外1名,“レベルセット法を用いた医用画像セグメンテーション”,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2005年 1月15日,Vol.104,No.580,p.1−6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記画像Iは、生体を撮像して得られたCT(Computed Tomography)画像又はMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像であり、
上記領域Dは、上記CT画像又はMRI画像において上記生体の部位に対応する領域である、
ことを特徴とする請求項1〜4までの何れか1項に記載の境界特定装置。
コンピュータを請求項1〜5までの何れか1項に記載の境界特定装置として動作させるためのプログラムであって、上記コンピュータを上記境界特定装置の各部として機能させるプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の陰関数曲面再構成法には、対象領域(観察対象物に対応する領域)の境界を正確に表現するゼロレベルセットを導出することが困難であるという問題があった。
【0006】
例えば、対象領域の境界は、画像のエッジ(画像の勾配強度が大きい部分)に沿って存在するが、従来の陰関数曲面再構成法により特定される境界は、ユーザにより指定された点pから離れたところで画像のエッジに沿わない。何故なら、従来の陰関数曲面再構成法では、スカラー場fが画素値を参照することなく生成されているからである。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、領域の境界を従来の陰関数曲面再構成法よりも正確に表現するゼロレベルセットを導出可能な境界特定装置及び境界特定方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る境界特定装置は、s次元(sは予め定められた2以上の整数)空間R
sの各点xに対応するr次元画素値I(x)により構成される画像Iに関して、該s次元空間R
sに含まれる領域Dの境界δDを、該境界δD上の点として指定されたN個の点p
iと、各点p
iにおける該境界δDの法線ベクトルとして指定されたN個のs次元ベクトルn
iとに基づいて特定する境界特定装置において、画像Iに対応する画像多様体M={(x,wcI(x))∈R
s+r|x∈R
s}(wcは0より大きい任意の実数)を生成する画像多様体生成部と、各点p
iに対応する画像多様体M上の制約点p’
i=(p
i,wcI(p
i))∈R
s+rを導出する制約点導出部と、各s次元ベクトルn
iに対応するs+r次元ベクトルである制約ベクトルn’
i=J(p
i)n
i/|J(p
i)n
i|(J(p
i)は点p
iにおける写像r:x→r(x)=(x,wcI(x))のヤコビ行列)を導出する制約ベクトル導出部と、結合空間R
s+r上のスカラー場fであって、各制約点p’
iについて、第1の制約条件f(p’
i)=0、及び、第2の制約条件∇f(p’
i)=wbn’
i+(1−wb)(n
i,0)(wbは0以上1以下の任意の実数)を満たす滑らかなスカラー場fを生成するスカラー場生成部と、スカラー場fのゼロレベルセットZ={x∈R
s|f(r(x))=0}を導出するゼロレベルセット導出部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る境界特定方法は、s次元(sは予め定められた2以上の整数)空間R
sの各点xに対応するr次元画素値I(x)により構成される画像Iに関して、該s次元空間R
sに含まれる領域Dの境界δDを、該境界δD上の点として指定されたN個の点p
iと、各点p
iにおける該境界δDの法線ベクトルとして指定されたN個のs次元ベクトルn
iとに基づいて特定する境界特定方法において、画像Iに対応する画像多様体M={(x,wcI(x))∈R
s+r|x∈R
s}(wcは0より大きい任意の実数)を生成する画像多様体生成ステップと、各点p
iに対応する画像多様体M上の制約点p’
i=(p
i,wcI(p
i))∈R
s+rを導出する制約点導出ステップと、各s次元ベクトルn
iに対応するs+r次元ベクトルである制約ベクトルn’
i=J(p
i)n
i/|J(p
i)n
i|(J(p
i)は点p
iにおける写像r:x→r(x)=(x,wcI(x))のヤコビ行列)を導出する制約ベクトル導出ステップと、結合空間R
s+r上のスカラー場fであって、各制約点p’
iについて、第1の制約条件f(p’
i)=0、及び、第2の制約条件∇f(p’
i)=wbn’
i+(1−wb)(n
i,0)(wbは0以上1以下の任意の実数)を満たす滑らかなスカラー場fを生成するスカラー場生成ステップと、スカラー場fのゼロレベルセットZ={x∈R
s|f(r(x))=0}を導出するゼロレベルセット導出ステップと、を含んでいる、ことを特徴とする。
【0010】
上記のように導出されたゼロレベルセットZは、指定されたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を通り、各点p
iにおける法線ベクトルが指定されたベクトルn
iに一致するs−1次元多様体となる。しかも、上記のように導出されたゼロレベルセットZは、画像Iのエッジ(画像Iの勾配強度|∇I(x)|が大きい部分)が存在する領域においてエッジに沿い、明確なエッジが存在しない領域(画像Iの勾配強度|∇I(x)|が全体的に小さい領域)において滑らかになる。したがって、上記の構成によれば、対象領域(領域D)の境界を従来よりも正確に表現する滑らかなゼロレベルセットZを導出することができる。
【0011】
本発明に係る境界特定装置において、上記スカラー場生成部は、後述する式(2)により定義されるスカラー場fを生成する、ことが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、後述する連立方程式(5)を解くことによって、スカラー場fを容易に生成することができる。
【0013】
本発明に係る境界特定装置において、上記画像多様体生成部は、ユーザにより指定されたパラメータwcの値を用いて、画像多様体Mを生成する、ことが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、導出されるゼロレベルセットが画像に影響される程度を、ユーザが自由にコントロールすることが可能になる。
【0015】
本発明に係る境界特定装置において、上記スカラー場生成部は、ユーザにより指定されたパラメータwbの値を用いて、スカラー場fを生成する、ことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、余計な連結成分を含まないゼロレベルセットを導出することを優先するか、ゼロレベルセットが画像のエッジに追従することを優先するかを、ユーザが自由にコントロールすることが可能になる。
【0017】
本発明に係る境界特定装置において、上記画像データは、生体を撮像して得られたCT(Computed Tomography)画像又はMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像であり、上記領域Dは、上記CT画像又は上記MRI画像において上記生体の部位に対応する領域である、ことが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、領域Dが肛門括約筋のような複雑な形状を有する部位に対応する場合であっても、その境界δDを正確に特定することができる。
【0019】
なお、コンピュータを上記境界特定装置として動作させるためのプログラムや、そのようなプログラムが記録されているコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、画像Iの位置空間R
sに含まれる領域Dの境界を、従来よりも正確に表現するゼロレベルセットZを導出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る境界特定装置について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0023】
なお、本実施形態に係る境界特定装置は、離散s次元(sは予め定められた2以上の整数)空間R
sの各点xに対応する画素値I(x)により構成される画像Iを処理する装置である。ここで、画素値I(x)は、離散r次元(rは予め定められた1以上の整数)空間R
rの元である(例えば、画像Iがモノクロ画像である場合にはr=1となり、画像IがRGBカラー画像である場合にはr=3となる)。
【0024】
以下の説明においては、画像Iを離散s次元空間R
sから離散r次元空間R
rへの写像I:x→I(x)と同一視する。また、以下の説明においては、写像Iの始域R
sを画像Iの「位置空間」(spatial domain)と呼び、写像Iの終域R
rを画像Iの「値空間」(range domain)と呼ぶ。
【0025】
〔境界特定装置の構成〕
本実施形態に係る境界特定装置1に構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、境界特定装置1の構成を示すブロック図である。
【0026】
境界特定装置1は、ユーザにより指定されたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}と、ユーザにより指定されたN個のs次元ベクトル{n
1,n
2,…,n
N}とに基づいて、画像Iの位置空間R
sに含まれる領域Dの境界δDを特定する装置である。画像Iとしては、生体(例えば人体)を撮影して得られた2次元又は3次元MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像が想定され、領域Dとしては、該生体に含まれる部位(特に臓器、腫瘍、組織、骨格などの塊状部位)が挙げられる。
【0027】
境界特定装置1により特定される境界δDは、下記の条件(A)及び(B)を満たすs−1次元多様体(s=2の場合は曲線、s=3の場合は曲面)である。
【0028】
(A)境界δDは、ユーザにより指定されたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を通る。
【0029】
(B)各点p
iにおける境界δDの法線ベクトルは、ユーザにより指定されたベクトルn
iに一致する。
【0030】
また、境界特定装置1により特定される境界δDは、更に、以下の性質(C)及び(D)を有する。
【0031】
(C)画像Iのエッジ(画像Iの勾配強度|∇I(x)|が大きい部分)が存在する領域において、境界δDはエッジに沿う。
【0032】
(D)明確なエッジが存在しない領域(画像Iの勾配強度|∇I(x)|が全体的に小さく、ぼやけた領域)において、境界δDは滑らかである。
【0033】
このような境界δDを特定するために、境界特定装置1は、画像Iに対応する画像多様体Mを利用する。ここで、画像Iに対応する画像多様体Mとは、位置空間R
sから直積空間R
s×R
rへの写像r:x→r(x)=(x,wcI(x))の値域{r(x)∈R
s×R
r|x∈R
s}として定義されるs次元多様体のことを指す。以下の説明においては、写像rの終域、すなわち、直積空間R
s×R
rのことを、「結合空間」(bilateral domain又はjoint spatial range domain)と呼ぶ。
【0034】
境界特定装置1は、
図1に示すように、画像多様体生成部11、制約点導出部12、制約ベクトル導出部13、スカラー場生成部14、及びゼロレベルセット導出部15により構成することができる。境界特定装置1が備えている各ブロックの機能を説明すれば、以下のとおりである。
【0035】
画像多様体生成部11は、与えられた画像Iと、ユーザにより指定されたスカラー値wcとから、画像Iに対応する画像多様体Mを生成するための構成である。例えば、画像Iがr次元配列I(x)を要素とするs次元配列として与えられている場合、画像多様体生成部11は、画像多様体Mを表現する配列、すなわち、s+r次元配列r(x)=(x、wc・I(x))を要素とするs次元配列を生成する。
【0036】
制約点導出部12は、1≦i≦Nの各整数iについて、ユーザにより指定された点p
i∈R
sに対応する画像多様体M上の点p’
i=r(p
i)を導出するための構成である。例えば、画像多様体Mがs+r次元配列r(x)を要素とするs次元配列として与えられている場合、制約点導出部12は、当該s次元配列の要素r(p
i)を取得することによって、画像多様体M上の点p’
iを得る。制約点導出部12により導出された画像多様体M上の点p’
iのことを、以下、「制約点p’
i」と記載する。
【0037】
なお、ここでは、ユーザにより指定された点p
iが画素位置(離散s次元空間である位置空間R
sの要素)に配置された点であることを仮定した制約点導出部12の処理を例示したが、これに限定されない。例えば、ユーザにより指定された点p
iが画素位置以外に配置された点である場合、制約点導出部12は、写像I(x)を線形補間することによって得られた写像I’(x)(連続s次元空間R
s上の関数)を用いて、画像多様体M上の点p’
i=r(p
i)を導出してもよい。
【0038】
制約ベクトル導出部13は、1≦i≦Nの各整数iについて、ユーザにより指定されたs次元ベクトルn
iに対応するs+r次元ベクトルn’
i=J(p
i)n
i/|J(p
i)n
i|を導出するための構成である。ここで、J(p
i)は、点p
iにおける写像rのヤコビ行列である。写像rは、s次元空間R
sからs+r次元空間R
s+rへの写像なので、点p
iにおける写像rのヤコビ行列J(p
i)は、s+r行s列の行列となる。また、s+r次元ベクトルn’
iは、点p’
iにおける画像多様体Mの接空間Tp’
iMに含まれ、かつ、位置空間R
sへの射影がs次元ベクトルn
iと平行なs+r次元ベクトルとなる。制約ベクトル導出部13により導出されたs+r次元ベクトルn’
iのことを、以下、「制約ベクトルn’
i」と記載する。
【0039】
ここで、ヤコビ行列J(p
i)は、下記の式(1)により定義される。下記の式(1)において、Eは、s行s列の単位行列を表し、I
j(x)は、r次元ベクトルI(x)の第j要素(1≦j≦r)を表し、x
kは、s次元ベクトルxの第k要素(1≦k≦s)を表す。
【0041】
制約ベクトルn’
iの導出は、例えば、(1)画像多様体Mから点p
iにおける写像rのヤコビ行列J(p
i)を算出する工程と、(2)ヤコビ行列J(p
i)とs次元ベクトルn
iとの行列積J(p
i)n
iを算出する工程と、(3)行列積J(p
i)n
iのノルム|J(p
i)n
i|を算出する工程と、(4)行列積J(p
i)n
iの各要素をノルム|J(p
i)n
i|で除算する工程とにより実現することができる。ここで、ヤコビ行列J(p
i)の要素∂I
j(p
i)/∂x
kは、位置空間R
s上の関数I
j(x)に対して公知のソーベルフィルタを適用することにより導出することができる。その他の工程は、何れも周知のアルゴリズムにより実現することができるので、ここではその説明を割愛する。
【0042】
スカラー場生成部14は、下記の制約条件(A’)及び(B’)を満たす結合空間R
s+r上のスカラー場fを生成するための構成である。なお、下記の制約条件(B’)における(n
i,0)は、第1成分から第s成分までがs次元ベクトルn
iの対応する成分と一致し、第s+1成分から第s+r成分までが0となるs+r次元ベクトルを意味する。また、下記の制約条件(B’)におけるwbは、ユーザにより指定された0以上1以下のスカラー値である。
【0043】
(A’)1≦i≦Nの各整数iについて、f(p’
i)=0となる。
【0044】
(B’)1≦i≦Nの各整数iについて、∇f(p’
i)=wbn’
i+(1−wb)(n
i,0)となる。
【0045】
本実施形態においては、スカラー場fが下記の式(2)により定義されるB−HRBF(Bilateral Hermite Radial Basis Function)であると仮定する。下記の式(2)において、φは、φ(t)=t^3により定義されるカーネルであり、Pは、P(x’)=a・x’+bにより定義される多項式である。また、α
i∈R及びβ
i∈R
s+rは、下記の式(3)(4)を満たす未定係数である。
【0049】
スカラー場生成部14が結合空間R
s+r上のスカラー場fを生成するとは、上記の制約条件(A’)及び(B’)を満たすα
i∈R、β
i∈R
s+r、a∈R
s+r、及びb∈Rを算出することに他ならない。
【0050】
上記の制約条件(A’)及び(B’)を満たすα
i∈R、β
i∈R
s+r、a∈R
s+r、及びb∈Rは、下記の連立方程式(5)を解くことによって得ることができる。
【0052】
ここで、ブロックK
ijは、下記の式(6)により定義される行列であり、ブロックS
jは、下記の式(7)により定義される行列である。また、ベクトルs、w
i、及びc
iは、それぞれ、下記の式(8)により定義されるベクトルである。
【0056】
スカラー場生成部14は、連立方程式(5)を解くことによって、上記の制約条件(A’)及び(B’)を満たすα
i∈R、β
i∈R
s+r、a∈R
s+r、及びb∈Rを算出する。連立方程式(5)は、公知のアルゴリズムにより解くことが可能なので、ここではその説明を割愛する。
【0057】
ゼロレベルセット導出部15は、画像多様体M上のスカラー場fのゼロレベルセットZ={x∈R
s|f(r(x))=0}を導出するための構成である。ゼロレベルセットZの導出は、例えば、(1)位置空間R
sの全ての点xについてf(r(x))の値を算出する工程と、(2)f(r(x))=0となるxの集合を構成する工程とによって実現することができる。
【0058】
ただし、このような方法でゼロレベルセットZを導出した場合、以下のような問題が生じる。すなわち、このような方法で導出されたゼロレベルセットZは、与えられたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を通る連結成分の他に、これらの点の何れをも通らない連結成分を含み得る。また、このような方法でゼロレベルセットZを導出するためには、画像Iの解像度のs乗に比例して増大する計算時間を要する。このような問題を回避するためには、公知のsurface trackingアルゴリズム(surface tracking marching cubesアルゴリズムと呼ばれることもある)を用いてゼロレベルセットZを導出すればよい。surface trackingアルゴリズムを用いて、与えられたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を含む連結成分のみにより構成されるゼロレベルセットZを導出すればよい。なお、surface trackingアルゴリズムについては、例えば、”F. Shekhar, et.al, Octree-Based Decimation of Marching Cubes Surfaces, In Proc. of IEEE Vis. (1996), 335-342”を参照されたい。
【0059】
境界特定装置1は、ゼロレベルセット導出部15にて導出されたゼロレベルセットZを、境界δDとして外部に出力する。例えば、画像I上に境界δDを書き加えた画像をディスプレイに出力する。
【0060】
なお、ここでは、N個の点{p
1,p
2,…,p
N}及びN個のs次元ベクトル{n
1,n
2,…,n
N}をユーザに直接的に指定させる構成について説明したが、これに限定されるものではない。N個の点{p
1,p
2,…,p
N}及びN個のs次元ベクトル{n
1,n
2,…,n
N}をユーザに間接的に指定させる構成、例えば、位置空間R
sにおける領域Dの輪郭線(s=2の場合)、又は、位置空間R
sの2次元断面における領域Dの輪郭線(s≧3の場合)をユーザに指定させる構成を採用してもよい。この場合、境界特定装置1は、指定輪郭線(ユーザにより指定された輪郭線)上のN個の点を選択し、選択したN個の点を{p
1,p
2,…,p
N}とする。また、境界特定装置1は、各点p
iにおいて指定輪郭線に直交するベクトルを算出し、算出したベクトルをn
iとする。このような構成を採用することによって、ユーザに求められる操作がより容易になる。なお、領域Dの輪郭線をユーザに指定させる方法については、本願出願人が先に出願した特許出願(特願2010-149497)の公開公報(特開2012−010893)等を参照されたい。
【0061】
〔境界特定装置の動作例〕
境界特定装置1の動作例について、
図2を参照して説明する。なお、以下に説明する動作例は、s=2かつr=1の場合の動作例である。
【0062】
図2(a)は、与えられた画像Iを示す平面図である。ユーザは、このような画像Iにおいて、注目する領域Dの境界δD上の点p
iを指定する。また、ユーザは、このような画像Iにおいて、点p
iにおける境界δDの法線ベクトルn
iを指定する。
【0063】
境界特定装置1は、与えられた画像Iから画像多様体Mを生成する。
図2(b)は、境界特定装置1により生成された画像多様体Mを示す斜視図である。
【0064】
次に、境界特定装置1は、ユーザにより指定された点p
iに対応する制約点p’
iを導出する。また、境界特定装置1は、ユーザにより指定されたベクトルn
iに対応する制約ベクトルn’
iを導出する。
図2(b)には、境界特定装置1により導出された制約点p’
i及び制約ベクトルn’
iが示されている。
【0065】
次に、境界特定装置1は、上記の制約条件(A’)及び(B’)を満たすスカラー場fを生成する。
図2(c)は、境界特定装置1により生成されたスカラー場fの画像多様体M上での値を示す斜視図である。
【0066】
次に、境界特定装置1は、スカラー場fのゼロレベル曲線Z={x∈R
s|f(r(x))=0}を導出する。境界特定装置1により導出されるゼロレベル曲線Zは、ゼロレベル曲面Z’={x’∈R
s×R
r|f(x’)=0}と画像多様体Mとの交線Z’∩Mに一致する。
図2(d)は、ゼロレベル曲面Z’を画像多様体Mと共に示す斜視図である。画像Iのエッジが存在する領域においてゼロレベル曲線Zがエッジに沿うこと、及び、画像Iのエッジが存在しない領域においてゼロレベル曲線Zが滑らかになることが、
図2(d)から見て取れる。
【0067】
図2(e)は、スカラー場fのゼロレベル曲線Z、すなわち、境界特定装置1により特定された境界δDを画像Iと共に示す平面図である。境界特定装置1により特定された境界δDがユーザにより指定されたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を通ること、及び、各点p
iにおける境界δDの法線ベクトルがユーザにより指定されたベクトルn
iに一致することが、
図2(e)から見て取れる。
【0068】
なお、
図2(e)に示すように、ゼロレベル曲線Zには、与えられたN個の点{p
1,p
2,…,p
N}を通る連結成分の他に、これらの点の何れをも通らない連結成分が含まれる。ただし、ゼロレベル曲線Zの導出にsurface trackingアルゴリズムを用いれば、後者の連結成分が境界δDとして特定されるこを回避することができる。
【0069】
〔制約条件(B’)に含まれるパラメータwb〕
境界特定装置1においては、スカラー場fに課す制約条件(B’)として、∇f(p’
i)=n’
iではなく、∇f(p’
i)=wbn’
i+(1−wb)(n
i,0)を採用している。以下、制約条件(B’)におけるパラメータwbの意義について、
図3を参照して説明する。
【0070】
図3(a)〜
図3(d)は、それぞれ、ゼロレベル曲面Z’={x’∈R
s×R
r|f(x’)=0}を画像多様体Mと共に示した模式断面図(上段)、ゼロレベル曲線Z={x∈R
s|f(r(x))=0}を画像Iと共に示した平面図(中段)、及び、ゼロレベル曲面Z’={x’∈R
s×R
r|f(x’)=0}を画像多様体Mと共に示した斜視図である。
図3(a)は、パラメータwbの値を0.0に設定したもの、
図3(b)は、パラメータwbの値を0.1に設定したもの、
図3(c)は、パラメータwbの値を0.5に設定したもの、
図3(d)は、パラメータwbの値を1.0に設定したものである。
【0071】
wb=1とした場合、
図3(d)に示すように、∇f(p’
i)が位置空間R
sと略直交する。その結果、ゼロレベル曲面Z’は、位置空間R
sと略平行な曲面(I軸正方向に開いた腕状の曲面)となる。このため、ゼロレベル曲面Z’は、画像多様体Mの傾斜部分(画像Iの勾配強度|∇I(x)|が一定以上の部分)と交わり易くなる。すなわち、ゼロレベル曲線Zは、画像Iのエッジに追従し易くなる。ただし、位置空間R
sと略平行なゼロレベル曲面Z’は、領域Dに対応する画像多様体Mの峰のみならず、その近傍にある画像多様体Mの他の峰と交わり易い。このため、ゼロレベル曲線Zは、余計な連結成分(領域Dを取り囲む連結成分以外の連結成分)を含み易くなる。
【0072】
一方、wb=0とした場合、
図3(a)に示すように、∇f(p’
i)が位置空間R
sと平行になる。その結果、ゼロレベル曲面Z’は、位置空間R
sと略直交する曲面(領域Dに対応する画像多様体Mの峰を取り囲む筒状の曲面)となる。この場合、ゼロレベル曲線Zの形状は、画像多様体Mの影響を受け難くなる(ゼロレベル曲面Z’をI軸正方向側から見た形状が、略そのままゼロレベル曲線Zの形状となる)。したがって、ゼロレベル曲線Zは、画像Iのエッジに完全には追従せずに、滑らかな曲線を描くようになる。ただし、位置空間R
sと略直交するゼロレベル曲面Z’は、領域Dに対応する峰の近傍にある画像多様体Mの他の峰と交わり難い。このため、ゼロレベル曲線Zは、余計な連結成分(領域Dを取り囲む連結成分以外の連結成分)を含み難くなる。
【0073】
このように、パラメータwbの値が0に近づくほど、ゼロレベル曲線Zが余計な連結成分を含み難くなる反面、ゼロレベル曲線Zのエッジ追従性が低下する。一方、パラメータwbの値が1に近づくほど、ゼロレベル曲線Zのエッジ追従性が向上する反面、ゼロレベル曲線Zが余計な連結成分を含み易くなる。そこで、境界特定装置1においては、パラメータwbの値をユーザにより指定させる構成を採用している。
【0074】
ゼロレベル曲線Zが余計な連結成分を含んでいる場合、ユーザは、パラメータwbの値をより小さな値に設定し直すことができる。また、ゼロレベル曲線Zがエッジに追従しない場合、ユーザは、パラメータwbの値をより大きな値に設定し直すことができる。ゼロレベル曲線Zを再計算しながら、このような設定作業を何度か繰り返すことによって、余計な連結成分を含まず、かつ、エッジに追従するゼロレベル曲線Zを得ることができる。
図3に示した例では、パラメータwbの値を0.1に設定することによって、余計な連結成分を含まず、かつ、エッジに追従するゼロレベル曲線Zを得ることができる(
図3(b)参照)。
【0075】
〔境界特定装置の構成例〕
境界特定装置1は、コンピュータ(電子計算機)を用いて構成することができる。
図4は、境界特定装置1として利用可能なコンピュータ100の構成を例示したブロック図である。
【0076】
コンピュータ100は、
図4に示したように、バス110を介して互いに接続された演算装置120と、主記憶装置130と、補助記憶装置140と、入出力インタフェース150とを備えている。演算装置120として利用可能なデバイスとしては、CPU(Central Processing Unit)を挙げることができる。また、主記憶装置130として利用可能なデバイスとしては、例えば、半導体RAM(random access memory)を挙げることができる。また、補助記憶装置140として利用可能なデバイスとしては、例えば、ハードディスクドライブを挙げることができる。
【0077】
入出力インタフェース150には、
図4に示したように、入力装置200及び出力装置300が接続される。点p
i及びベクトルn
iを指定する操作を行なうためのポインティングデバイスは、この入出力インタフェース150に接続される入力装置200の一例である。また、境界δDを画像Iと共にディスプレイは、この入出力インタフェース150に接続される出力装置300の一例である。
【0078】
補助記憶装置140には、コンピュータ100を境界特定装置1として動作させるための各種プログラムが格納されている。具体的には、画像多様体生成プログラム、制約点導出プログラム、制約ベクトル導出プログラム、スカラー場生成プログラム、及びゼロレベルセット導出プログラムが格納されている。
【0079】
演算装置120は、補助記憶装置140に格納された上記各プログラムを主記憶装置130上に展開し、主記憶装置130上に展開された上記各プログラムに含まれる命令を実行することによって、コンピュータ100を、
図1に示す画像多様体生成部11、制約点導出部12、制約ベクトル導出部13、スカラー場生成部14、及びゼロレベルセット導出部15として機能させる。
【0080】
主記憶装置130は、画像I(を表現する配列)、画像多様体M(を表現する配列)、スカラー場fを規定する未定乗数等(α
i∈R、β
i∈R
s+r、a∈R
s+r、及びb∈R)の値、連立方程式(5)の左辺に現れるB−HRBF行列(を表現する配列)、ゼロレベルセットZ(を表現する配列)を格納する記憶部20(
図1参照)として機能する。
【0081】
なお、ここでは、内部記録媒体である補助記憶装置140に記録されているプログラムを用いてコンピュータ100を境界特定装置1として機能させる構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、外部記録媒体に記録されているプログラムを用いてコンピュータ100を境界特定装置1として機能させる構成を採用してもよい。外部記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であれば何でもよく、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクなどを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM(登録商標)/フラッシュROM等の半導体メモリ系などにより実現することができる。
【0082】
また、コンピュータ100を通信ネットワークと接続可能に構成し、上述した各プログラムコードを通信ネットワークを介してコンピュータ100に供給するようにしてもよい。この通信ネットワークとしては、とくに限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、とくに限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。
【0083】
〔境界特定装置の出力例〕
最後に、境界特定装置1の出力例について、
図5を参照して説明する。
図5は、境界特定装置1から出力される出力画像を示す図である。
【0084】
図5に示す出力画像には、境界特定装置1により特定された、肛門括約筋に対応する領域D1の境界と、腫瘍に対応する領域D2の境界とが示されている。なお、
図5に示す出力画像を得るために、境界特定装置1に入力された画像は、人体を撮像することにより得られたMRI画像である。
【0085】
肛門括約筋に対応する領域D1の境界を特定するために、ユーザが指定した輪郭線γ1は、14本である。また、腫瘍に対応する領域D2の境界を特定するために、ユーザが指定した輪郭線γ2は、4本である。このように、境界特定装置1を用いれば、僅かな本数の輪郭線を指定するだけで、複雑な形状を有する部位の形状を極めて正確に再現することができる。
【0086】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
例えば、本明細書においては、医療用MRI画像への適用を想定した実施形態を開示したが、本発明の適用範囲は医療用MRI画像に限定されない。すなわち、本発明は、医療用画像にも適用することができるし、産業用画像にも適用することができる。また、本発明は、MRI画像にも適用することができるし、CT画像にも適用することができるし、共焦点レーザ顕微鏡画像にも適用することができるし、内部構造顕微鏡画像にも適用することができる。
【0088】
例えば、生体(例えば、人体)を撮像することにより得られたCT画像又はMRI画像において、その生体の部位(例えば、臓器や腫瘍などの塊状部位)に対応する領域の境界を特定する処理は、本発明の適用に適した処理である。また、細胞を撮像することにより得られた共焦点レーザ顕微鏡画像又は内部構造顕微鏡画像において、その細胞の部位(例えば、核やミトコンドリアなどの細胞小器官)に対応する領域の境界を特定する処理も、本発明の適用に適した処理である。更に、構造物(産業用部品など)を撮像することにより得られたCT画像において、その構造物内に埋設された部品、或いは、その構造物内に形成された気泡などに対応する領域の境界を特定する処理も、本発明の適用範囲に含まれる。