(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、燃料電池を発電させた場合、燃料電池内の触媒の劣化を防止するために、無負荷状態は好ましくなく、負荷を接続して電力を消費することが好ましい。
特許文献1では、車両の走行用モータを、電力を消費する負荷として使用している。そして、車両に搭載された燃料電池の劣化状態を判定するために、車両とは別体の診断装置を必要としており、さらに駆動装置(負荷作用ローラ等の検査用設備)をも必要としている。燃料電池の劣化状態は定期的に診断することが好ましいが、診断のために多大な手間と費用がかかってしまう。また、負荷作用ローラ上を擬似走行させる必要があるので、安全面の管理にも手間と費用がかかる。
また特許文献2では、燃料電池の電流・電圧特性変化データを収集するために、燃料電池の電流を所定の増加速度で変化させつつ、燃料電池の電流と電圧をセルモニタにて計測する、と記載されている。無負荷状態で燃料電池の出力電流を増加させることはできないので、燃料電池の出力電流を所定の増加速度で変化させるためには、消費電流が所定の増加速度で変化するような負荷を接続しなければならない。従って、診断を行うための専用の装置が必要であり、多大な手間と費用がかかる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、燃料電池の劣化状態を診断するために特別な診断装置や検査用設備を必要とすることなく、燃料電池の劣化状態の診断を、手間なく容易に、より安全に、より低コストで行うことができる、産業車両及び燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る産業車両及び燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、燃料電池と、前記燃料電池からの電力を用いて荷役作業を行うための荷役作業手段と、前記燃料電池からの電力を用いて走行するための走行手段と、前記燃料電池の劣化状態を検出可能な電池劣化診断手段と、記憶手段と、を備えた産業車両である。
そして前記記憶手段には、前記燃料電池の初期状態において所定負荷を動作させて電力を消費させた場合の前記燃料電池の出力特性である初期負荷出力特性が記憶されており、前記電池劣化診断手段は、前記燃料電池の劣化診断の実行が指示された後、前記所定負荷を動作させて電力を消費させた場合の前記燃料電池の出力特性である診断時負荷出力特性を検出し、
前記荷役作業手段が安定動作して前記燃料電池の前記出力特性が安定的に出力されている場合は、前記記憶手段に記憶されている前記初期負荷出力特性と、検出した前記診断時負荷出力特性と、に基づいて前記燃料電池の劣化状態を判定
し、前記燃料電池の出力が安定していない場合は、前記燃料電池が交換されるべき劣化状態であると判定して判定結果に関する情報を出力し、前記初期負荷出力特性及び前記診断時負荷出力特性を求める際に動作させて電力を消費させる前記所定負荷は、前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段である。
【0006】
この第1の発明では、燃料電池を搭載した産業車両は、電力を消費する負荷として、走行手段と荷役作業手段を備えている。そして、燃料電池の劣化診断を行う際、走行停止状態の場合に荷役作業手段を動作させて所定電力を消費させて燃料電池の出力特性である診断時負荷出力特性を検出する。
つまり、もともと産業車両が備えている荷役作業手段を診断用の負荷として利用する。これにより、特別な診断用の負荷(特別な診断装置)を必要とせず、走行も必要ないのでより安全であり、検査用の設備等(擬似走行用の負荷作用ローラ等)も不要である。従って、手間なく容易に、より安全に、より低コストで燃料電池の劣化診断を行うことができる。また荷役作業手段の消費電力は比較的大きいので(例えば1K[W]前後)、燃料電池の出力特性の検出に非常に適している。
そして、診断時負荷出力特性と初期負荷出力特性に基づいて燃料電池の劣化を判定することで、適切に劣化状態を判定することができる。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る産業車両であって、前記初期負荷出力特性は、前記燃料電池の初期状態において前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段の動作中における前記燃料電池の出力電圧であり、前記診断時負荷出力特性は、前記劣化診断が指示された際の前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段の動作中における前記燃料電池の出力電圧である。
【0008】
この第2の発明では、初期負荷出力特性は燃料電池の初期状態における荷役作業手段の動作中の燃料電池の出力電圧であり、診断時負荷出力特性は燃料電池の診断時における荷役作業手段の動作中の燃料電池の出力電圧である。
一般的に、燃料電池の出力電流を検出するよりも、出力電圧を検出するほうが、より容易であり、且つより正確に検出することができる。従って、診断時負荷出力特性と初期負荷出力特性に基づいた燃料電池の劣化の判定を、より容易に、且つより正確に行うことができる。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る産業車両であって、前記産業車両は、車体に対して傾動可能に設けられたマストと、前記マストに沿って昇降可能に設けられたフォークと、を有するフォークリフトであり、前記初期負荷出力特性及び前記診断時負荷出力特性を検出する際に動作させる前記荷役作業手段は、前記マストの傾斜角度を変更するチルト駆動手段または前記フォークを昇降移動するフォーク駆動手段、の少なくとも一方である。
【0010】
この第3の発明では、産業車両はフォークリフトであり、荷役作業手段はチルト駆動手段またはフォーク駆動手段の少なくとも一方である。
これにより、走行停止状態において、適切な荷役作業手段を動作させて、手間なく、より安全に、より容易に燃料電池の劣化診断を行うことができる。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明〜第3の発明のいずれか1つに係る産業車両であって、表示手段を備え、前記電池劣化診断手段からの前記判定結果に関する情報の出力先は、前記表示手段であり、前記電池劣化診断手段は、前記燃料電池の劣化診断の実行が指示されると、自動的に前記所定負荷を動作させて前記診断時負荷出力特性を検出して前記燃料電池の劣化状態を判定し、判定した前記劣化状態を含む前記判定結果に関する情報を前記表示手段に表示する。
【0012】
この第4の発明では、劣化診断の実行が指示されると、電池劣化診断手段が自動的に所定負荷を動作させて診断を行い、診断結果を表示手段に表示する。
これにより、燃料電池の劣化状態を診断するために特別な診断装置を必要とすることなく、燃料電池の劣化状態の診断を、手間なく容易に低コストで行うことができる。
【0013】
次に、本発明の第5の発明は、燃料電池と、前記燃料電池からの電力を用いて荷役作業を行うための荷役作業手段と、前記燃料電池の劣化状態を検出可能な電池劣化診断手段と、記憶手段と、を用いた、燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法である。
前記記憶手段には、前記燃料電池の初期状態において所定負荷を動作させて電力を消費させた場合の前記燃料電池の出力特性である初期負荷出力特性が記憶されている。
そして前記燃料電池の劣化診断の実行が指示された後、前記電池劣化診断手段にて、前記所定負荷が動作されて電力を消費させた場合の前記燃料電池の出力特性である診断時負荷出力特性を検出する診断時出力特性検出ステップと、前記電池劣化診断手段にて、
前記荷役作業手段が安定動作して前記燃料電池の前記出力特性が安定的に出力されている場合は、前記記憶手段に記憶されている前記初期負荷特性と、検出した前記診断時負荷出力特性と、に基づいて前記燃料電池の劣化状態を判定
し、前記燃料電池の出力が安定していない場合は、前記燃料電池が交換されるべき劣化状態であると判定する判定ステップと、前記電池劣化診断手段にて、前記判定ステップの判定結果に関する情報を出力する判定結果出力ステップと、を有し、前記初期負荷出力特性及び前記診断時負荷出力特性を求める際に動作させて電力を消費させる前記所定負荷は、前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段である、燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法である。
【0014】
この第5の発明は、産業車両の発明である第1の発明に対して、産業車両の燃料電池の劣化診断方法とした発明である。
従って、第1の発明と同様に、もともと産業車両が備えている荷役作業手段を診断用の負荷として利用しており、特別な診断装置を必要とせず、走行も必要ないのでより安全であり、検査用の設備等も不要である。従って、手間なく容易に、より安全に、より低コストで燃料電池の劣化診断を行うことができる。また荷役作業手段の消費電力は比較的大きいので(例えば1K[W]前後)、燃料電池の出力特性の検出に非常に適している。
そして、診断時負荷出力特性と初期負荷出力特性に基づいて燃料電池の劣化を判定することで、適切に劣化状態を判定することができる。
【0015】
次に、本発明の第6の発明は、上記第5の発明に係る燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法であって、前記初期負荷出力特性は、前記燃料電池の初期状態において前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段の動作中における前記燃料電池の出力電圧であり、前記診断時負荷出力特性は、前記劣化診断が指示された際の前記走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された前記荷役作業手段の動作中における前記燃料電池の出力電圧である。
【0016】
この第6の発明は、産業車両の発明である第2の発明に対して、産業車両の燃料電池の劣化診断方法とした発明である。
従って、第2の発明と同様に、診断時負荷出力特性と初期負荷出力特性に基づいた燃料電池の劣化の判定を、容易に且つ適切に行うことができる。
【0017】
次に、本発明の第7の発明は、上記第5の発明または第6の発明に係る燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法であって、前記産業車両は、車体に対して傾動可能に設けられたマストと、前記マストに沿って昇降可能に設けられたフォークと、を有するフォークリフトであり、前記初期負荷出力特性及び前記診断時負荷出力特性を検出する際に動作させる前記荷役作業手段は、前記マストの傾斜角度を変更するチルト駆動手段または前記フォークを昇降移動するフォーク駆動手段、の少なくとも一方である。
【0018】
この第7の発明は、産業車両の発明である第3の発明に対して、産業車両の燃料電池の劣化診断方法とした発明である。
従って、第3の発明と同様に、走行停止状態において、適切な荷役作業手段を動作させて、手間なく、より安全に、より容易に燃料電池の劣化診断を行うことができる。
【0019】
次に、本発明の第8の発明は、上記第5の発明〜第7の発明のいずれか1つに係る燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法であって、前記電池劣化診断手段からの前記判定結果に関する情報を表示可能な表示手段を用い、前記燃料電池の劣化診断の実行が指示されると、前記電池劣化診断手段にて、自動的に前記所定負荷を動作させて前記診断時負荷出力特性を検出して前記燃料電池の劣化状態を判定し、判定した前記劣化状態を含む前記判定結果に関する情報を前記表示手段に表示する。
【0020】
この第8の発明は、産業車両の発明である第4の発明に対して、産業車両の燃料電池の劣化診断方法とした発明である。
従って、第4の発明と同様に、燃料電池の劣化状態を診断するために特別な診断装置を必要とすることなく、燃料電池の劣化状態の診断を、手間なく容易に低コストで行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[産業車両1の全体構成(
図1)と各電気機器の接続(
図2)]
図1に、本発明の産業車両1の一実施の形態の側面図を示す。また
図2には、各電気機器を接続した電機ブロック図を示す。
なお、本実施の形態の説明では、産業車両の例としてフォークリフトを用いて説明するが、本発明の産業車両は、フォークリフトに限定されず、車両の走行停止状態において燃料電池からの電力で荷役作業を行う種々の産業車両に適用することが可能である。
【0023】
まず
図1を用いて、産業車両1の全体構成について説明する。
産業車両1の車体の前部には、マスト45が設けられている。そしてマスト45は、車体に対して前後に傾動可能となるように、下端部が車体に対して回動可能に支持され、ピストンロッド53及びチルトシリンダ52を介して車体に支持されている。
またマスト45は、車体に対して前後に傾動可能な左右一対のアウタマスト45Bと、アウタマスト45Bの長手方向に沿ってアウタマスト45B内をスライド昇降する左右一対のインナマスト45Aとからなる。
チルトシリンダ52及びピストンロッド53は、左右一対で設けられた油圧式の駆動手段であり、ピストンロッド53は荷役用ポンプ30Aの駆動によって供給される作動油の油圧によってチルトシリンダ52内を往復移動する。
車両コントローラ25は、運転席に設けられたチルトレバー51の操作量に基づいて、チルトシリンダ52への作動油の油圧を制御してマスト45を前後に傾動させる。
【0024】
アウタマスト45Bの後方には、油圧式の駆動手段であるリフトシリンダ42及びピストンロッド43が設けられており、ピストンロッド43は荷役用ポンプ30Aの駆動によって供給される作動油の油圧によってリフトシリンダ42内を往復移動する。
ピストンロッド43の先端はインナマスト45Aの上部に連結されており、ピストンロッド43が上昇すると、インナマスト45Aが上昇する。
インナマスト45Aの上端部には、チェーンホイール46が設けられており、当該チェーンホイール46にはチェーン47が掛けられている。そしてチェーン47の一方端はアウタマスト45Bに固定されており、チェーン47の他方端は、リフトブラケット48に固定されている。
【0025】
リフトブラケット48は、インナマスト45A(またはアウタマスト45B)に沿ってスライド可能に構成されており、チェーン47に吊り下げられている。そしてリフトブラケット48には、フォーク49が取り付けられている。
従って、ピストンロッド43が上昇すると、インナマスト45Aが上昇し、チェーン47が巻き上げられてフォーク49が取り付けられたリフトブラケット48が上昇する。
車両コントローラ25は、運転席に設けられたリフトレバー41の操作量に基づいて、リフトシリンダ42への作動油の油圧を制御してフォーク49を上下に移動させる。
【0026】
また産業車両1は、燃料電池システム11と燃料電池コントローラ15を有する燃料電池ユニット10を備えており、燃料電池ユニット10からの電力は、走行用モータ30B、荷役用ポンプ30Aに供給される。
また産業車両1は、車両コントローラ25を備えている。
そして車両コントローラ25は、作業者からのアクセルペダル31の踏込み量に基づいて走行用モータ30Bを制御するとともに燃料電池コントローラ15に電力供給を要求する制御信号を出力し、作業者からのリフトレバー41やチルトレバー51の操作量に基づいて荷役用ポンプ30Aを制御するとともに燃料電池コントローラ15に電力供給を要求する制御信号を出力する。
走行用モータ30Bは、産業車両1の駆動輪を回転駆動し、荷役用ポンプ30Aは、チルトシリンダ52及びリフトシリンダ42に供給する作動油を圧送する。
また本実施の形態の産業車両1では、「荷役作業手段」は、燃料電池からの電力を用いて作動油を圧送する荷役用ポンプ30Aと、作動油の油圧を用いてマスト45の傾斜角度を変更するチルトシリンダ52とピストンロッド53と、を含むチルト駆動手段と、燃料電池からの電力を用いて作動油を圧送する荷役用ポンプ30Aと、作動油の油圧を用いてフォーク49を昇降移動するリフトシリンダ42とピストンロッド43と、を含むフォーク駆動手段と、が相当している。
また本実施の形態の産業車両1では、「走行手段」は、燃料電池からの電力を用いて駆動輪を回転駆動する走行用モータ30Bが相当している。
【0027】
次に
図2を用いて、産業車両1に搭載されている各電気機器と、当該各電気機器の電気的な接続について説明する。
燃料電池ユニット10は、燃料電池システム11、第1出力電圧検出手段12V、第1出力電流検出手段12A、DC−DCコンバータ13、第2出力電圧検出手段13V、キャパシタ14、燃料電池コントローラ15等を有している。
燃料電池システム11は、燃料電池11Aと、燃料電池11Aに大気中の酸素を供給するコンプレッサ11Bと、燃料電池11Aに水素を供給する水素タンク11Cと、を有している。
燃料電池11AからDC−DCコンバータ13までの経路には、燃料電池11Aから供給される電力の電圧を検出可能な第1出力電圧検出手段12Vと、燃料電池11Aから供給される電力の電流を検出可能な第1出力電流検出手段12Aと、が設けられている。
そして燃料電池コントローラ15は、車両コントローラ25からの電力供給要求信号に基づいて、燃料電池システム11に制御信号を出力して、酸素と水素の供給量を制御して、要求された電力を燃料電池11Aにて発電させる。また燃料電池コントローラ15は、第1出力電圧検出手段12V及び第1出力電流検出手段12Aからの検出信号を取り込み、燃料電池11Aから供給された電圧及び電流を検出し、検出した電圧と電流に基づいて、燃料電池システム11をフィードバック制御する。
【0028】
DC−DCコンバータ13には燃料電池11Aにて発電された電力が入力され、DC−DCコンバータ13は、燃料電池11Aから入力されたDC電力を、安定化したDC電力(例えば48Vの定電圧)に変換して出力する。
燃料電池コントローラ15は、第2出力電圧検出手段13Vからの検出信号を取り込んでDC−DCコンバータ13からの出力電圧を検出し、所望する電圧が出力されるように、DC−DCコンバータ13をフィードバック制御する。
またDC−DCコンバータ13の出力の両端には、電流を平滑化及び安定化させるキャパシタ14が接続されている。
【0029】
燃料電池ユニット10からの出力であるDC−DCコンバータ13からの出力は、荷役用インバータ22A及び走行用インバータ22Bの、それぞれに接続されている。
また、DC−DCコンバータ13からの出力の両端には第3出力電圧検出手段21Vが接続されており、車両コントローラ25は、第3出力電圧検出手段21Vからの検出信号を取り込んで、DC−DCコンバータ13からの出力電圧を検出する。
車両コントローラ25は、第3出力電圧検出手段21Vを用いて検出したDC−DCコンバータ13からの出力電圧と、アクセルペダル31の踏込み量に基づいて、走行用インバータ22Bを制御して、走行用モータ30Bを適切に駆動する交流電力を走行用インバータ22Bから出力させる。
また車両コントローラ25は、第3出力電圧検出手段21Vを用いて検出したDC−DCコンバータ13からの出力電圧と、チルトレバー51及びリフトレバー41の操作量に基づいて、荷役用インバータ22Aを制御して、荷役用ポンプ30Aを適切に駆動する交流電力を荷役用インバータ22Aから出力させる。
【0030】
また車両コントローラ25は、通信線T1にて燃料電池コントローラ15と互いに送受信可能となるように接続されており、燃料電池コントローラ15と種々の情報を送受信することができる。例えば車両コントローラ25は、電力供給の要求信号の送信や、燃料電池の出力電圧や出力電流の受信を行うことができる。
また車両コントローラ25には、燃料電池11Aの劣化診断の実行を指示するための劣化診断ボタン23と、車両コントローラ25からの種々の情報を表示させる表示手段24(液晶表示モニタ等)と、が接続されている。
【0031】
本発明の産業車両1は、車両コントローラ25または燃料電池コントローラ15の少なくとも一方に、燃料電池の劣化診断を行う電池劣化診断手段20の機能を持たせ、燃料電池の劣化状態を診断するために特別な診断装置を必要とすることなく、燃料電池の劣化状態の診断を、手間なく容易に、より安全に、より低コストで行うことを実現している。なお電池劣化診断手段20を、車両コントローラ25または燃料電池コントローラ15とは別体で設けることも可能であるが、より低コストとするためには、車両コントローラ25または燃料電池コントローラ15の少なくとも一方に、電池劣化診断手段の機能を備えさせることが好ましい。
以下、電池劣化診断手段20の処理手順について説明する。
【0032】
●[電池劣化診断手段20の処理手順(
図3)]
次に
図3に示すフローチャートを用いて、電池劣化診断手段20による燃料電池の劣化診断の処理手順を説明する。当該処理は、例えば一定時間毎(100ms毎等)に起動される。
【0033】
ステップS10にて電池劣化診断手段20は、劣化診断指示の有無を判定する。作業者から劣化診断ボタン23が操作された場合(Yes)はステップS15に進み、劣化診断ボタン23が操作されていない場合(No)は処理を終了する。
ステップS15に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、例えば走行用インバータ22Bの制御状態や車輪の回転状態を検出して、産業車両が走行停止状態であるか否かを判定する。車両が走行停止状態である場合(Yes)はステップS20に進み、車両が走行停止状態でない場合(No)はステップS90Dに進む。なお、車両の走行停止状態の判定方法は、特に限定しない。
ステップS90Dに進んだ場合、電池劣化診断手段20は、表示手段24に、例えば「走行中では燃料電池の劣化診断を実行できません。車両の走行を停止して劣化診断を実行してください。」等の表示を行い、処理を終了する。
【0034】
ステップS20に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、記憶手段に初期特性が記憶されているか否かを判定する。なお、初期特性とは、燃料電池の初期状態において、荷役作業手段を動作させて電力を消費させた場合の燃料電池の出力特性(初期負荷出力特性に相当)である。また荷役作業手段は、車両が走行停止状態で電力を消費させることができる荷役用ポンプ30Aを介したマストのチルト動作やフォークの昇降動作であり、以降ではマストのチルト動作を例として説明する。
また記憶手段としては、車両コントローラ25または燃料電池コントローラ15が備えている記憶手段を利用する。
そして電池劣化診断手段20は、記憶手段に初期特性が記憶されている場合(Yes)はステップS25に進み、記憶手段に初期特性が記憶されていない場合(No)はステップS40Bに進む。
【0035】
ステップS25に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、表示手段24に、初期特性記憶モードか劣化診断モードか、の選択を促す画面を表示してステップS30に進む。なお、初期特性記憶モードは、燃料電池の交換時において燃料電池の初期状態における初期負荷出力特性を記憶手段に記憶するモードであり、劣化診断モードは、現在の燃料電池の劣化状態を診断して結果を表示手段24に表示させるモードである。
ステップS30にて、電池劣化診断手段20は、選択が完了されたか否かを判定する。選択が完了された場合(Yes)はステップS35に進み、選択が完了していない場合(No)はステップS30に戻る。
ステップS35にて、電池劣化診断手段20は、劣化診断モードが選択されたか否かを判定する。劣化診断モードが選択された場合(Yes)はステップS40Aに進み、劣化診断モードが選択されなかった場合(No(初期特性記憶モードが選択された場合))はステップS40Bに進む。
ステップS40Aに進んだ場合、電池劣化診断手段20は、今回の処理は劣化診断モードであると記憶して、表示手段24に「劣化診断モードを実行します」等の表示を行い、ステップS45に進む。
ステップS40Bに進んだ場合、電池劣化診断手段20は、今回の処理は初期特性記憶モードであると記憶して、表示手段24に「初期特性記憶モードを実行します」等の表示を行い、ステップS45に進む。
【0036】
ステップS45に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、表示手段24に、荷役作業手段の動作(この場合、マストのチルト動作)を指示する表示を行い、ステップS50に進む。例えば、電池劣化診断手段20は、表示手段24に、「周囲の安全を確認してチルトレバーを操作してマストを傾動させてください」と表示させる。
ステップS50にて電池劣化診断手段20は、荷役作業手段が動作されたか否かを判定する。荷役作業手段が動作されている場合(Yes)はステップS55に進み、荷役作業手段が動作されていない場合(No)はステップS45に戻る。
ステップS55にて電池劣化診断手段20は、測定中である旨を表示し、燃料電池の出力特性を測定してステップS65に進む。例えば測定する出力特性は、第1出力電圧検出手段12Vにて検出された出力電圧である。
なお、出力電圧を複数回検出して、その平均値を求めて以降の処理に用いてもよい。
このステップS55の処理は、診断時出力特性検出ステップに相当する。
また
図4に、燃料電池の初期状態における電流・電圧特性である「初期特性」(
図4中に実線にて表示)と、燃料電池がA%劣化した状態における電流・電圧特性である「A%劣化時特性」(
図4中に一点鎖線にて表示)と、燃料電池がB%劣化(B>A)した状態における電流・電圧特性である「B%劣化時特性」(
図4中に二点鎖線にて表示)の例を示す。また
図4において横軸は燃料電池の出力電流を示し、縦軸は燃料電池の出力電圧を示している。
燃料電池の出力特性は、劣化が進行していくと、初期特性に対して下方へと移動していく傾向がある。
【0037】
ステップS65に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、荷役作業手段が安定動作して燃料電池の出力電力が安定的に出力されているか否かを判定する。安定している場合(Yes)はステップS70に進み、安定していない場合(No)はステップS85に進む。
ステップS85に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、所定時間経過しても不安定な状態が解除されないか否かを判定する。不安定な状態が解除された場合(Yes)はステップS55に戻り、不安定な状態が解除されない場合(No)はステップS90Cに進む。
ステップS90Cに進んだ場合、電池劣化診断手段20は、荷役作業手段を安定動作できないくらい燃料電池の劣化が進行していると判定して、表示手段24に燃料電池の交換を促す表示(例えば「燃料電池の寿命に達しています。燃料電池を交換してください。」と表示)を行い、処理を終了する。
【0038】
ステップS70に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、今回の診断が劣化診断モードであるか否かを判定する。今回の診断が劣化診断モードである場合(Yes)はステップS75に進み、今回の診断が劣化診断モードでない場合(No(初期特性記憶モードの場合)はステップS80に進む。
ステップS80に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、測定した出力電圧を、初期特性(初期負荷出力特性)として記憶手段に記憶してステップS90Bに進む。
そしてステップS90Bにて電池劣化診断手段20は、燃料電池の初期特性を記憶手段に記憶した旨の表示を表示手段に表示(例えば「燃料電池の初期特性を記憶しました」と表示)して処理を終了する。
またステップS75に進んだ場合、電池劣化診断手段20は、今回測定した燃料電池の出力特性(出力電圧)と、記憶手段に記憶されている初期特性の出力電圧と、を比較して、燃料電池の劣化状態(劣化レベル)を判定し、ステップS90Aに進む。
このステップS75の処理は、判定ステップに相当する。
そしてステップS90Aにて電池劣化診断手段20は、判定した劣化状態(劣化レベル)を表示手段に表示(例えば「燃料電池は、現在A%劣化状態です。B%劣化状態に達した場合は燃料電池を交換してください。」と表示)して処理を終了する。
なおステップS90Aの処理は、判定結果出力ステップに相当する。
【0039】
なお
図4は、燃料電池が初期状態において荷役作業手段の動作時の出力が点P0の位置であったことを示し、燃料電池がA%劣化状態において荷役作業手段の動作時の出力が点P1の位置であったことを示し、燃料電池がB%劣化状態において荷役作業手段の動作時の出力が点P2の位置であったことを示している。なお、B%>A%であり、点P0は(電流、電圧)=(I0、V0)であり、点P1は(電流、電圧)=(I1、V1)であり、点P2は(電流、電圧)=(I2、V2)であることを示している。
ここで、荷役作業手段は同一であるので(この場合、チルト動作で同一)、荷役作業手段の消費する電力(電圧×電流)は同一である。従って、四角形V0−P0−I0−Oの面積と、四角形V1−P1−I1−Oの面積と、四角形V2−P2−I2−Oの面積は同一である。
電池劣化診断手段20は、初期特性記憶モードの場合、ステップS80にて、初期負荷出力特性として(電圧)=(V0)を記憶手段に記憶しておく。
また電池劣化診断手段20は、劣化診断モードの場合、例えば今回測定した(電圧)が(V1)であった場合、電圧の減少分である100(%)−V1/V0(%)=A(%)を算出して、A%劣化状態であると算出する。
なお、
図4に示す燃料電池の出力特性において、電流が非常に小さな領域である領域Aでは、初期特性と劣化時特性で差を検出しにくいので、劣化診断時に負荷が消費する電力が少ない場合では、この領域Aで測定することになるので好ましくない。
図4に示す燃料電池の出力特性において、領域Aよりも電流が比較的大きな領域である領域Bでは、初期特性と劣化時特性との差が大きくなるので、より容易に、且つより正確に劣化状態を検出することができる。そして、マストを傾動させるチルト動作やフォークを昇降させるリフト動作で用いる荷役用ポンプは、消費電力が約1KW前後であり、適量な電力を消費することができるので、非常に好ましい。
【0040】
またステップS90Aによる表示は、「A%劣化状態」であるという劣化状態の数値の表示に限定されず、指針が移動して初期状態から要交換までに至る現在の状態に相当する位置を指し示すようにしてもよいし、単純に「良好」または「要交換」等を選択的に表示するようにしてもよく、判定結果に関する情報(劣化に関する情報)を表示すれば、どのような表示を用いてもよい。
また本実施の形態にて説明した産業車両では、安全に荷役作業の保証出力が得られる14%劣化状態で燃料電池の交換を推奨しており、初期状態から数万時間の利用で14%劣化状態となる。そして求めた燃料電池の劣化状態が14%以上である場合、例えば電池劣化診断手段から、燃料電池の交換を促すように表示手段から警報表示等を出力するようにしてもよい。
【0041】
以上の説明では、マストのチルト動作を荷役作業手段の例として説明したが、マストのチルト動作とフォークの昇降動作の少なくとも一方を荷役作業手段として劣化診断時に動作させて診断を行ってもよい。
また、もともと産業車両が備えている荷役作業手段を診断用の負荷として利用するので、特別な診断用の負荷(特別な診断装置)を必要とせず、走行も必要ないのでより安全であり、検査用の設備等(擬似走行用の負荷作用ローラ等)も不要である。従って、手間なく容易に、より安全に、より低コストで燃料電池の劣化診断を行うことができる。また荷役作業手段の消費電力は比較的大きいので(例えば1K[W]前後)、燃料電池の出力特性の検出に非常に適している。
また一般的な燃料電池は、複数のセルが直列に接続された構成を有しており、各セルの出力電圧の総和が燃料電池の出力電圧となる。そして燃料電池コントローラ15及び電池劣化診断手段20は、各セルの出力電圧を検出可能である。この構成を用いて、電池劣化診断手段20が初期負荷出力特性を記憶する際にセル毎に出力特性(セル毎の出力電圧)を記憶させ、劣化診断時に診断時負荷出力特性を検出する際にセル毎に出力特性(セル毎の出力電圧)を検出し、セル毎に劣化状態を判定するようにしてもよい。
本発明の産業車両1は、燃料電池を搭載した従来の産業車両に対して、劣化診断ボタン23を追加して(表示手段24は従来の産業車両も備えている)、燃料電池コントローラ15または車両コントローラ25のプログラムを変更して電池劣化診断手段20の機能を、燃料電池コントローラ15または車両コントローラ25の少なくとも一方に追加することで実現できるので、より容易に、より低コストに実現することができる。
また、表示手段24にタッチ入力が可能な表示装置(タッチパネル等)を用いれば、劣化診断ボタンを省略することができる。
【0042】
また以上の説明では、燃料電池の出力特性である電圧、電流において、電圧のみを用いて劣化状態を判定したが、電流を用いて劣化状態を判定するようにしてもよい。
この場合、電池劣化診断手段は、ステップS55にて、第1出力電流検出手段12Aにて検出された出力電流を取り込む(複数回取り込んで平均値を求めてもよい)。
そして電池劣化診断手段は、ステップS80では、初期特性(初期負荷出力特性)として、検出した出力電流を記憶し、ステップS75では、今回測定した出力電流と、初期特性(初期負荷出力特性)として記憶している出力電流と、を比較して、燃料電池の劣化状態(劣化レベル)を判定する。
例えば初期特性の出力電流がI0、劣化診断モードで検出した出力電流がI1であった場合、電流の増加分であるI1/I0(%)−100(%)=A(%)を算出して、A%劣化状態であると算出する。
また、燃料電池の出力特性である電圧、電流において、電圧と電流の双方を用いて劣化状態を判定するようにしてもよい。
また以上の説明では、作業者に荷役作業手段を操作させて電池劣化診断手段にて燃料電池の出力特性を測定したが、燃料電池の劣化診断の実行が指示された場合、電池劣化診断手段にて自動的に荷役作業手段を動作させ、電池劣化診断手段にて燃料電池の出力特性の測定と劣化状態を判定させ、判定した劣化状態を含む判定結果に関する情報を表示させるようにしてもよい。この場合、作業者は劣化診断ボタンを操作するだけでよく、あとは電池劣化診断手段が、荷役作業手段の動作を含む劣化診断を自動的に行ってくれるので、非常に便利である。
【0043】
また、荷役作業手段と、電池劣化検出手段と、記憶手段と、を用い、記憶手段に初期負荷出力特性を記憶させておき、ステップS55の診断時出力特性検出ステップと、ステップS75の判定ステップと、ステップS90Aの判定結果出力ステップと、を有する、燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法として、本発明を提供することもできる。
この場合も、初期負荷出力特性及び診断時負荷出力特性を求める際に動作させて電力を消費させる所定負荷は、走行手段が停止された走行停止状態の場合に動作された荷役作業手段であり、燃料電池の劣化診断を、手間なく容易に、より安全に、より低コストで行うことができる。
【0044】
本発明の産業車両及び燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法は、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本実施の形態の説明では、燃料電池を備えた産業車両の例としてフォークリフトを用いて説明したが、本発明の産業車両及び燃料電池を備えた産業車両における燃料電池の劣化診断方法は、走行停止状態において燃料電池の電力を用いて荷役作業を行う種々の産業車両に適用することが可能である。
また本実施の形態の説明では、電池劣化診断手段の機能を車両コントローラ25または燃料電池コントローラ15の少なくとも一方に備える例を説明したが、車両コントローラ25及び燃料電池コントローラ15とは別体の電池劣化診断装置として構成してもよい。
また本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。