(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態:
A1.半導体装置の構成:
図1は、第1実施形態における半導体装置10の構成を模式的に示す断面図である。
図1には、本実施形態における半導体装置10の断面の一部を示している。なお、
図1は、半導体装置10の技術的特徴をわかりやすく示すための図であり、各部の寸法を正確に示すものではない。また、
図1には、説明を容易にするために、相互に直交するXYZ軸が図示されている。このことは、以降の図についても同様である。
【0020】
本実施形態における半導体装置10は、窒化ガリウム(GaN)系のPINダイオード(P-Intrinsic-N Diode)である。半導体装置10は、基板110と、第1N型半導体層120と、P型半導体層130と、保護膜310と、段差部500と、カソード電極210と、アノード電極220と、フィールドプレート電極230(FP電極)とを備える。半導体装置10は、基板110と第1N型半導体層120とP型半導体層130とが順に積層された構造を有する。
【0021】
以降、各半導体層が積層された構造を、「積層体」とも呼び、+Z方向(各半導体層が積層される方向)を「上方」、−Z方向を「下方」とも呼ぶ。基板110及び各半導体層の表面のうち上方側の表面を「上面」、下方側の表面を「下面」とも呼ぶ。
【0022】
半導体装置10の基板110は、XY平面に沿って広がる半導体層である。基板110はGaN系基板であり、ドーパント(ドナー)としてシリコン(Si)を含有する。本実施形態では、基板110の全域におけるSiの平均濃度は、1.0×10
18cm
-3である。
【0023】
第1N型半導体層120は、基板110の+Z方向側へ積層され、XY平面に沿って広がる半導体層である。第1N型半導体層120は、GaN系の半導体であり、基板110よりも低い濃度で、ドーパント(ドナー)としてシリコン(Si)を含有する。本実施形態では、第1N型半導体層120の全域におけるSiの平均濃度は、1.0×10
16cm
-3である。また、第1N型半導体層120の+Z方向への厚さは、10μmである。
【0024】
P型半導体層130は、第1N型半導体層120の+Z方向側へ積層され、XY平面に沿って広がる半導体層である。P型半導体層130は、GaN系の半導体であり、ドーパント(アクセプタ)としてマグネシウム(Mg)を含有する。本実施形態では、P型半導体層130の全域におけるMgの平均濃度は、1.0×10
18cm
-3である。また、P型半導体層130の+Z方向への厚さは、1.0μmである。
【0025】
段差部500は、半導体装置10を、基板100上に形成された他の半導体装置から分離する(区画する)ために形成されている。段差部500は、上面502と底面501と溝部503と側壁504とにより構成されている。段差部500の詳細については後述する。側壁504は、
図1において太線で示している。このことは、以下の図においても同様である。
【0026】
保護膜310は、段差部500及びP型半導体層130の上面132を連続的に覆うように形成された膜である。本実施形態では、保護膜310は、酸化シリコン(SiO
2)により形成されている。
【0027】
アノード電極220は、P型半導体層130に接続するように形成された電極である。アノード電極220はニッケル(Ni)からなる層と金(Au)からなる層を積層した後、熱処理することによって形成されており、Auからなる層が上方に位置する構造を有する。
【0028】
カソード電極210は、基板110の下面111に形成された電極である。カソード電極210は、チタン(Ti)からなる層とアルミニウム(Al)からなる層を積層した後熱処理することによって形成されており、Tiからなる層が上方(基板110の下面111側)に位置する構造を有する。
【0029】
フィールドプレート電極230は、アノード電極220から保護膜310を介した段差部500の底面501までを連続的に覆うように形成された電極である。
図1に示すように、フィールドプレート電極230の端は、保護膜310を介して底面501上に存在している。フィールドプレート電極230は、アルミニウム(Al)からなる層を積層することによって形成されている。
【0030】
図2は、段差部500を中心に拡大した半導体装置10の構成を模式的に示す図である。
図2では、フィールドプレート電極230と保護膜310とを省略している。
図2に示すように段差部500は、上面502と底面501と側壁504と溝部503とにより構成されている。
【0031】
段差部500の上面502は、P型半導体層130の上面132である。溝部503は、底面501の隅に形成されており、底面501よりも更に下方に落ち込んでいる。底面501の隅とは、段差部500の隅といいかえることができる。側壁504は、上面502から溝部503にわたっている。本実施形態では、底面501及び溝部503の下端503Tは、同じ半導体層内である第1N型半導体層120内に存在する。また、溝部503は、溝部503の下端503Tにおいて、直径0.1μm以上の円を内接する丸まった形状を有している。
【0032】
図2には、上面502から底面501までの深さdmと、底面501から溝部503の下端503Tまでの深さ(以下、溝部503の深さ)dmtと、底面501から側壁504までの最短距離である溝部503の幅(以下、溝部503の幅)Wmtと、が示されている。溝部503の幅Wmtは、底面501を含む平面上における底面501から側壁504までの幅といいかえることができる。上面502から底面501までの深さdmと溝部503の深さdmtとは、dmt/dm≧0.1の関係を満たしている。溝部503の幅Wmtと溝部503の深さdmtとは、Wmt/dmt≧2の関係を満たしている。
【0033】
A2.半導体装置の製造方法:
図3は、半導体装置10の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置10を製造する際には、まず、基板110上に第1N型半導体層120とP型半導体層130とが積層された積層体20が用意される(ステップS110)。積層体20は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法による結晶成長によって、基板110に、第1N型半導体層120とP型半導体層130とを上方に順に積層することによって製造される。
【0034】
次に、積層体20に対しドライエッチング(ステップS122)及びウェットエッチング(ステップS124)を行うことによって段差部500が形成される。
【0035】
図4は、段差部500の形成方法について説明するための図である。
図4(a)には、ステップS122によってドライエッチングが施された後の段差部500が示されている。
図4(b)にはステップS124によってウェットエッチングが施された後の段差部500が示されている。
図4(a)(b)には、段差部500の上面502から底面501までの深さdmと、溝部503の深さdmtと、溝部503の幅Wmtと、が示されている。以下、
図3及び
図4を用いて、段差部500の形成方法について説明する。
【0036】
段差部500の形成に際しては、まず、段差部500を形成すべき領域を除いて、積層体20にSiO
2をマスクとするパターンが形成される。その後、積層体20に対して、誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)エッチング装置を用いて、溝部503の下端503T及び底面501が第1N型半導体層120に達するようにドライエッチングが行われる(
図3、ステップS122)。段差部500の上面502から底面501までの深さdmは、底面501を形成すべき位置によって、定めることができる。
【0037】
このとき、
図4(a)に示すように、ドライエッチング後の段差部500の形状が、dmt/dm≧0.1を満たすことが好ましい。dmt/dm≧0.1の関係を満たすために、プラズマ生成電力(ICP電力)及びバイアス電力のうち少なくとも一方を調整することが好ましい。具体的には、プラズマ生成電力は300W以上及びバイアス電力は45W以上の少なくともいずれか一方の条件を満たすように調整することが好ましい。本実施形態及び以降の実施形態では、プラズマ生成電力は500Wであり、バイアス電力は45Wの条件でドライエッチングが行われる。また、ドライエッチングには、塩素系のガスであるSiCl
4とCl
2との混合ガスが用いられる。
図3に示したステップS122は本願の工程(A)に相当する。
【0038】
次に、ステップS122で形成された溝部503の幅Wmtを広げるようにウェットエッチングが行われる(
図3、ステップS124)。
【0039】
このとき、
図4(b)に示すように、ウェットエッチング後の段差部500の形状が、Wmt/dmt≧2を満たすことが好ましい。ドライエッチング後の段差部500の形状がdmt/dm≧0.1を満たし、ウェットエッチング後の段差部の形状がWmt/dmt≧2を満たすようにすることで、半導体装置10の電気的特性を向上させるために適した深さ及び幅の溝部503を得ることができるからである。Wmt/dmt≧2の関係を満たすために、溶液温度及びエッチング時間の少なくともいずれか一方を調整することが好ましい。具体的には、溶液温度が40℃以上及びエッチング時間が5分以上の少なくともいずれか一方の条件を満たすように調整して、アルカリ系の溶液を用いてウェットエッチングが行われることが好ましい。本実施形態及び以降の実施形態では、溶液温度が85℃、エッチング時間が30分の条件で、濃度22%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いてウェットエッチングが行われる。
図3に示したステップS124は本願の工程(B)に相当する。
【0040】
なお、ウェットエッチングが行われることによって、溝部503の幅Wmtは広がるが、溝部503の深さdmtはほとんど変化しない。積層体20に対する−Z方向へのウェットエッチングは、+Y方向及び−Y方向へのウェットエッチング(サイドエッチング)に比べて進行し難いためである。
【0041】
以上で説明した条件によってドライエッチングが行われ、その後ウェットエッチングが行われると、溝部503は、下端503Tにおいて直径0.1μm以上の円を内接する丸まった形状になる。
【0042】
図3に戻り、次に、段差部500が形成された積層体20に対し、保護膜310が形成される(ステップS130)。保護膜310が形成された積層体20には、P型半導体層130に接続するようにアノード電極220が形成される(ステップS140)。その後、アノード電極220が形成された積層体20に対し、接触抵抗を低減させるための熱処理が行われる(ステップS150)。熱処理が行われた積層体20に対し、フィールドプレート電極230が形成され(ステップS160)、基板110の下面111にカソード電極210が形成される(ステップS170)。その後、カソード電極210が形成された積層体20に対し、接触抵抗を低減させるための熱処理が行われる(ステップS180)。以上の工程を経て、本実施形態の半導体装置10が製造される。
【0043】
A3.段差部の形成条件:
図5は、プラズマ生成電力がdmt/dmの値に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
図5に示すdmt/dmの値は、ICPエッチング装置のプラズマ生成電力を変化させてドライエッチングを行った積層体を、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて観察することにより算出した。
図5より、プラズマ生成電力が300W以上であれば、dmt/dm≧0.1の関係を満たす段差部500を形成することができる。なお、ICPエッチング装置内の部品を保護するために、プラズマ生成電力は1000W以下であることがより好ましい。
【0044】
図6は、バイアス電力がdmt/dmの値に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
図6に示すdmt/dmの値は、ICPエッチング装置のバイアス電力を変化させてドライエッチングを行った積層体を、SEMを用いて観察することにより算出した。
図6より、バイアス電力が45W以上であれば、dmt/dm≧0.1の関係を満たす段差部500を形成することができる。なお、ドライエッチングプロセスを適切に制御するために、バイアス電力は300W以下であることがより好ましい。
【0045】
図7は、エッチング溶液の温度がWmt/dmtの値に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
図7に示すWmt/dmtの値は、濃度22%のTMAHの温度を変化させてウェットエッチングを行った積層体を、SEMを用いて観察することにより算出した。
図7より、エッチング溶液の温度が40℃以上であれば、Wmt/dmt≧2の関係を満たす段差部500を形成することができる。また、エッチング溶液の温度を高くすれば、それだけウェットエッチングに要する時間を短くすることができる。なお、ウェットエッチングを適切に進行させるために、溶液温度は60℃以上であることが好ましい。また、エッチング溶液の蒸発を防ぐために、溶液温度は90℃以下であることが好ましい。
【0046】
図8は、エッチング時間がWmt/dmtの値に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
図8に示すWmt/dmtの値は、濃度22%、溶液温度85℃のTMAHと、濃度22%、溶液温度60℃のTMAHとを用い、ウェットエッチングを行う時間を変化させた積層体を、SEMを用いて観察することにより算出した。
図8より、溶液温度が85℃である場合には、エッチング時間が5分以上であれば、Wmt/dmt≧2の関係を満たすことができる。溶液温度が60℃である場合には、エッチング時間が15分以上であれば、Wmt/dmt≧2の関係を満たすことができる。
【0047】
図9は、ドライエッチング後にウェットエッチングが行われた積層体20の断面SEM像を示す図である。
図9には、プラズマ生成電力が500W、バイアス電力が45Wの条件でICPエッチング装置を用いて積層体20に対してドライエッチングを行った後、温度85℃、濃度22%のTMAH溶液を用いて30分間ウェットエッチングを行うことによって形成された段差部500が示されている。このような条件でドライエッチング後にウェットエッチングが行われると、
図9に示すように、溝部503は丸まった形状になる。また、dm、dmt及びWmtの値を算出すると、dmは0.8μmであり、dmtは0.2μmであり、Wmtは0.8μmであった。すなわち、段差部500は、dmt/dm≧0.1の関係を満たし、Wmt/dmt≧2の関係を満たす形状となった。
【0048】
なお、エッチング溶液として濃度22%のTMAHを用い、溶液温度が60℃以上90℃以下、エッチング時間が15分以上である場合には、
図9に示す溝部と同様に、丸まった形状の溝部が形成された。
【0049】
A4.効果:
以上で説明した第1実施形態によれば、半導体装置10は、段差部500の底面501の隅に幅の広がった溝部503を有するため、底面501の隅での電界集中が緩和される。また、底面501から−Z方向への半導体層は、溝部503の下端503Tから−Z方向への半導体層よりも厚いので、フィールドプレート電極230の端での破壊による耐圧の低下が低減する。そのため、半導体装置10は、上述のような段差部500を有さない半導体装置と比べて良好な電気的特性を有する。
【0050】
また、段差部500を形成するためのドライエッチングにおいて、dmt/dm≧0.1を満たすようにプラズマ生成電力及びバイアス電力のうち少なくとも一方を調整することで、半導体装置10の電気的特性を向上させるために適切な深さの溝部503を形成することができる。ウェットエッチングにおいて、Wmt/dmt≧2を満たすように溶液温度及びエッチング時間のうち少なくとも一方を調整することで、半導体装置10の電気的特性を向上させるために適切な幅の溝部503を形成することができる。
【0051】
更に、上述の形状の段差部500を形成するために、一般的な半導体装置を製造するための設備を利用することができるので、電気的特性が良好なGaN系の半導体装置10を低コストで製造することができる。
【0052】
A5.第1実施形態の変形例1:
図10は、第1実施形態の変形例1における半導体装置11の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置11は窒化ガリウム(GaN)系のSBD(Schottky Barrier Diode)である。半導体装置11は、第1実施形態の半導体装置10と比較して、P型半導体層130を有しておらず、第1N型半導体層120に接続するようにアノード電極240が形成されている点と、段差部510の上面512が第1N型半導体層120の上面122である点とが異なる。アノード電極240は、ニッケル(Ni)からなる層により形成されている。半導体装置11のその他の構成は第1実施形態の半導体装置10と同様であるため説明を省略する。
【0053】
図11は、半導体装置11の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置11を製造する際には、まず、基板110上に第1N型半導体層120が積層された積層体21が用意される(ステップS210)。積層体21は、MOCVD法による結晶成長によって、基板110に、第1N型半導体層120を上方に積層することによって製造される。
【0054】
次に、積層体21に対しドライエッチング(ステップS222)及びウェットエッチング(ステップS224)を行うことによって段差部510が形成される。ステップS222では、溝部513の下端513T及び底面511がともに第1N型半導体層120に存在し、dmt/dm≧0.1を満たすようにドライエッチングが行われる(ステップS222)。
【0055】
次に、ドライエッチングが行われた積層体21に対して、溝部513の幅Wmtを広げ、Wmt/dmt≧2の関係を満たすように、ウェットエッチングが行われる(ステップS224)。上述の条件でドライエッチング(ステップS222)が行われ、その後ウェットエッチング(ステップS224)が行われると、溝部513は、下端513Tにおいて直径0.1μm以上の円を内接する丸まった形状になる。
【0056】
次に、段差部510が形成された積層体21に対し、保護膜310が形成される(ステップS230)。保護膜310が形成されると、第1N型半導体層120に接続するようにアノード電極240が形成される(ステップS240)。その後、アノード電極240が形成された積層体21に対し、フィールドプレート電極230が形成され(ステップS260)、基板110の下面111にカソード電極210が形成される(ステップS270)。その後、カソード電極210が形成された積層体21に対し、接触抵抗を低減させるための熱処理が行われる(ステップS280)。以上の工程を経て、半導体装置11が製造される。
【0057】
以上で説明した第1実施形態の変形例1によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するGaN系のSBDである半導体装置11を得ることができる。
【0058】
A6.第1実施形態の変形例2:
図12は、第1実施形態の変形例2における半導体装置12の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置12は窒化ガリウム(GaN)系のトレンチ型MOSFETである。半導体装置12は、基板110と、第1N型半導体層120と、P型半導体層130と、第2N型半導体層140と、段差部520と、ゲートトレンチ610と、リセス620と、ドレイン電極250と、ゲート電極260と、Pボディ電極270と、ソース電極280と、保護膜310と、絶縁膜320と、フィールドプレート電極230と、を備える。
【0059】
基板110と第1N型半導体層120とP型半導体層130は、それぞれ第1実施形態における基板110と第1N型半導体層120とP型半導体層130と同様の構造を有する。第2N型半導体層140は、P型半導体層130の+Z方向側へ積層され、XY平面に沿って広がる半導体層である。第2N型半導体層140はGaN系の半導体であり、ドーパント(ドナー)としてシリコン(Si)を含有する。第2N型半導体層140の全域におけるSiの平均濃度は、4.0×10
18cm
-3である。また、第2N型半導体層140の+Z方向への厚さは、0.2μmである。
【0060】
段差部520の上面522は、上述の実施形態の段差部500、510と異なり、第2N型半導体層140の上面142である。段差部520のその他の構成は、上述の第1及び第2実施形態の段差部500,510と同様である。
【0061】
Pボディ電極270は、P型半導体層130を露出することによって形成されたリセス620に形成された電極である。Pボディ電極270は、第1実施形態のアノード電極220と同様の構造を有する。ソース電極280は、第2N型半導体層140に接続するように形成された電極である。ソース電極280は、チタン(Ti)からなる層とアルミニウム(Al)からなる層を積層した後熱処理することによって形成されており、Alからなる層が上方に位置する構造を有する。ドレイン電極250は、第1実施形態のカソード電極210と同様の構造を有する。ゲート電極260は、第2N型半導体層140の上面142からP型半導体層130を貫通し、第1N型半導体層120を露出することによって形成されたゲートトレンチ610に、絶縁膜320を介して形成された電極である。ゲート電極260はアルミニウム(Al)により形成されている。フィールドプレート電極230は、第1実施形態と同様の構造を有し、Pボディ電極270から保護膜310を介した段差部520の底面521までを連続的に覆うように形成されている。
【0062】
絶縁膜320は、ゲートトレンチ610とその周縁の第2N型半導体層140の上面142とを連続的に覆うように形成された膜である。保護膜310は、段差部520と第2N型半導体層140の上面142とソース電極280とゲート電極260とを覆うように形成された膜である。保護膜310及び絶縁膜320は、酸化シリコン(SiO
2)により形成されている。
【0063】
図13は、半導体装置12の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置12を製造するには、まず、基板110上に第1N型半導体層120とP型半導体層130と第2N型半導体層140とが積層された積層体22が用意される(ステップS310)。積層体22は、MOCVD法による結晶成長によって、基板110に、第1N型半導体層120とP型半導体層130と第2N型半導体層140とを上方に順に積層することによって製造される。
【0064】
次に、積層体22に対しドライエッチングを行うことによってリセス620が形成される(ステップS315)。
【0065】
次に、リセス620が形成された積層体22に対しドライエッチング(ステップS322)及びウェットエッチング(ステップS324)を行うことによって段差部520が形成される。
図13に示すように、ステップS322では、溝部523の下端523T及び底面521がともに第1N型半導体層120に達し、dmt/dm≧0.1を満たすようにドライエッチングが行われる(ステップS322)。
【0066】
次に、ドライエッチングが行われた積層体に対して、溝部523の幅Wmtを広げ、溝部523の形状がWmt/dmt≧2の関係を満たすように、ウェットエッチングが行われる(ステップS324)。上述の条件でドライエッチング(ステップS322)が行われ、その後ウェットエッチング(ステップS324)が行われると、溝部523は、下端523Tにおいて直径0.1μm以上の円を内接する、丸まった形状になる。
【0067】
次に、段差部520が形成された積層体22に対しドライエッチングが行われることによって、ゲートトレンチ610が形成される(ステップS325)。
【0068】
次に、ゲートトレンチ610が形成された半導体装置12に対し、絶縁膜320が形成される(ステップS327)。その後、P型半導体層130に接続するようにPボディ電極270が形成され、第2N型半導体層140に接続するようにソース電極280が形成される(ステップS340)。その後、接触抵抗を低減させるための熱処理が行われる(ステップS350)。ゲートトレンチ610には、絶縁膜320を介してゲート電極260が形成され(ステップS355)、ゲート電極260が形成された積層体22に対し、保護膜310が形成される(ステップS357)。
【0069】
次に、保護膜310が形成された積層体22に対し、Pボディ電極270に接続するようにフィールドプレート電極230が形成される(ステップS360)。その後、基板110の下面111にドレイン電極250が形成され(ステップS370)、接触抵抗を低減させるための熱処理が行われる(ステップS380)。以上の工程を経て、半導体装置12が製造される。
【0070】
以上で説明した第1実施形態の変形例2によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するGaN系のトレンチ型のMOSFETである半導体装置12を得ることができる。
【0071】
B.第2実施形態:
上述の第1実施形態では、段差部の底面と溝部の下端とが同じ半導体層内に存在する半導体装置について説明した。本実施形態では、段差部の底面と溝部の下端とが異なる半導体層内に存在する半導体装置について説明する。
B1.半導体装置の構成:
図14は第2実施形態における半導体装置13の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態の半導体装置13は、第1実施形態の半導体装置10と同様に窒化ガリウム(GaN)系のPINダイオードである。本実施形態の半導体装置13の段差部530では、上述の実施形態及び変形例の段差部500、510、520と異なり、溝部533の下端533Tと底面531とがそれぞれ異なる半導体層内に存在している。具体的には、溝部533の下端533Tが第1N型半導体層120内に存在し、底面531がP型半導体層130内に存在している。いいかえると、段差部530の底面531の下方には、P型半導体層130が残されている。第2実施形態における半導体装置13のその他の構成は、第1実施形態における半導体装置10と同様であるため説明を省略する。なお、本実施形態において、第1N型半導体層120は本願の第1導電型の半導体層に相当し、P型半導体層130は本願の第2導電型の半導体層に相当する。
【0072】
B2.半導体装置の製造方法:
図15は、半導体装置13の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置13の製造の際には、まず、基板110上に第1N型半導体層120とP型半導体層130とが積層された積層体23が用意される(ステップS410)。
【0073】
次に、積層体23に対しドライエッチング(ステップS422)及びウェットエッチング(ステップS424)を行うことによって段差部530が形成される。本実施形態では、ステップS422において、dmt/dm≧0.1を満たし、
図15に示すように溝部533の下端533Tが第1N型半導体層120に達するとともに底面531がP型半導体層130内に残るようにドライエッチングが行われる(ステップS422)。
【0074】
次に、ドライエッチングが行われた積層体23に対して、溝部533の幅Wmtを広げ、Wmt/dmt≧2の関係を満たすように、ウェットエッチングが行われる(ステップS424)。上述の条件でドライエッチング(ステップS422)が行われ、その後ウェットエッチング(ステップS424)が行われると、溝部533は、下端533Tにおいて、直径0.1μm以上の円を内接する、丸まった形状になる。なお、積層体23の下方へのウェットエッチングは進み難いため、底面531はP型半導体層130内に存在したままである。すなわち、底面531の下方にはP型半導体層130が残されたままである。
【0075】
段差部530が形成された後の工程(ステップS430〜ステップS480)は、第1実施形態における半導体装置10の段差部500が形成された後の工程(
図3、ステップS130〜ステップS180)と同様であるため説明を省略する。
【0076】
B3.効果
以上で説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するGaN系のPINダイオードである半導体装置13を得ることができる。更に、本実施形態の半導体装置13においては、底面531の下方に残されたP型半導体層130によっても、段差部530の隅での電界集中が緩和される。そのため、半導体装置13は、底面531の下方にP型半導体層130を有さない半導体装置と比較して、より良好な電気的特性を有する。
【0077】
B4.第2実施形態の変形例1:
図16は、第2実施形態の変形例1における半導体装置14の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置14は、窒化ガリウム(GaN)系のトレンチ型MOSFETである。半導体装置14の段差部540では、上述の第2実施形態の半導体装置13の段差部530と同様に、溝部543の下端543Tが第1N型半導体層120内に存在し、底面541がP型半導体層130内に存在する。半導体装置14のその他の構成は、トレンチ型MOSFETである第1実施形態の変形例2で説明した半導体装置12と同様であるため説明を省略する。
【0078】
図17は、半導体装置14の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置14を製造する際には、まず、基板110上に第1N型半導体層120とP型半導体層130と第2N型半導体層140とが積層された積層体24が用意される(ステップS510)。積層体24が用意されると、ドライエッチングによって、リセス620が形成される(ステップS515)。
【0079】
次に、リセス620が形成された積層体24に対しドライエッチング(ステップS522)及びウェットエッチング(ステップS524)を行うことによって段差部540が形成される。
図17のステップS522に示すように、積層体24に対して、dmt/dm≧0.1を満たし、溝部543の下端543Tが第1N型半導体層120に達するとともに底面541がP型半導体層130内に残るようにドライエッチングが行われる(ステップS522)。
【0080】
次に、ドライエッチングが行われた積層体24に対して、溝部543の幅Wmtを広げ、Wmt/dmt≧2の関係を満たすように、ウェットエッチングが行われる(ステップS524)。
図17に示すように、上述の条件でドライエッチング(ステップS522)が行われ、その後ウェットエッチング(ステップS524)が行われると、溝部543は、下端543Tにおいて、直径0.1μm以上の円を内接する、丸まった形状になる。
【0081】
段差部540が形成された後の工程(ステップS525〜ステップS580)は、第1実施形態の変形例2の段差部520が形成された後の工程(
図13、ステップS325〜ステップS380)と同様であるため説明を省略する。
【0082】
以上で説明した第2実施形態の変形例1によれば、第2実施形態と同様の効果を奏するGaN系のトレンチ型MOSFETである半導体装置14を得ることができる。
【0083】
B5.第2実施形態の変形例2:
図18は、第2実施形態の変形例2における半導体装置15の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置15は、第2実施形態の変形例1における半導体装置14と同様の窒化ガリウム(GaN)系のトレンチ型MOSFETである。半導体装置14では、段差部540は基板110上に形成された他の半導体装置を区画するために用いられていたのに対し、半導体装置15では、段差部550はゲートを形成するためのゲートトレンチとして用いられている。半導体装置15を基板110上に形成された他の半導体装置から分離するための段差部590(アイソレーショントレンチ590)は、半導体装置14と異なり溝部及び底面591の下方のP型半導体層130を有していない。半導体装置15のその他の構成は半導体装置14と同様であるため説明を省略する。
【0084】
図19は、半導体装置15の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置15の製造に際しては、まず、基板110上に第1N型半導体層120とP型半導体層130と第2N型半導体層140とが積層された積層体25が用意される(ステップS610)。積層体25が用意されると、ドライエッチングによって、リセス620が形成される(ステップS615)。次に、リセス620が形成された積層体25に対し、ドライエッチングによってアイソレーショントレンチ590が形成される(ステップS617)。
【0085】
次に、アイソレーショントレンチ590が形成された積層体25に対しドライエッチング(ステップS622)及びウェットエッチング(ステップS624)を行うことによってゲートトレンチとして用いられる段差部550が形成される。
図19のステップS622に示すように、積層体に対して、dmt/dm≧0.1を満たし、溝部553の下端553Tが第1N型半導体層120に達するとともに底面551がP型半導体層130内に残るようにドライエッチングが行われる(ステップS622)。
【0086】
次に、ドライエッチングが行われた積層体に対して、溝部553の幅Wmtを広げ、Wmt/dmt≧2の関係を満たすように、ウェットエッチングが行われる(ステップS624)。上述の条件でドライエッチング(ステップS622)が行われ、その後ウェットエッチング(ステップS624)が行われると、溝部553は、下端553Tにおいて、直径0.1μm以上の円を内接する、丸まった形状になる。
【0087】
ゲートトレンチとして用いられる段差部550が形成された後の工程(ステップS627〜ステップS680)は、第2実施形態の変形例1における段差部540が形成された後の工程(
図17、ステップS527〜ステップS580)と同様であるため説明を省略する。
【0088】
以上で説明した第2実施形態の変形例2によれば、第2実施形態と同様の形状を有する段差部550がゲートトレンチとして用いられているので、ゲートトレンチの底面の隅での電界集中を緩和することができる。また、第2実施形態と同様に段差部550の底面551の下方にP型半導体層130が残されている。そのため、底面551の下方に残されたP型半導体層130によって、ゲートトレンチの底面の隅での電界集中をより緩和することができる。
【0089】
C.他の変形例:
C1.変形例1:
上述の種々の実施形態及び変形例では、段差部500〜550は、ICPエッチング装置を用いたドライエッチングにより形成されている。これに対し、ICPエッチング装置に代えて、例えば、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマを用いた誘導結合型エッチング装置や、マグネトロン型やイオンビーム型などの容量結合型プラズマエッチング装置など、プラズマ生成電力とバイアス電力を制御することのできる他のエッチング装置を用いてもよい。
【0090】
C2.変形例2:
上述の種々の実施形態及び変形例では、段差部を形成するために行われるドライエッチングにおいて、塩素系のガスであるSiCl
4とCl
2の混合ガスが用いられている。これに対し、ドライエッチングは、例えば、塩素系ガスであるBCl
3やCl
2、CCl
4、SiCl
4のうちいずれか一つのガスを用いてもよく、SiCl
4とCl
2の混合ガス以外の塩素系のガス同士の混合ガスでもよく、塩素系ガスと他のガス(例えばアルゴンガス)との混合ガスを用いてもよい。
【0091】
C3.変形例3:
上述の種々の実施形態及び変形例では、段差部を形成するために行われるウェットエッチングにおいて、エッチング溶液として、TMAHが用いられている。これに対し、エッチング溶液として、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NH
4OH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ系の溶液を用いてもよい。
【0092】
C4.変形例4:
上述の種々の実施形態及び変形例では、段差部を形成するために行われるウェットエッチングにおいて、エッチング溶液として、濃度22%のTMAHが用いられている。これに対し、エッチング溶液の濃度は22%以上であってもよい。
【0093】
C5.変形例5:
上述の種々の実施形態及び変形例では、段差部の溝部は、下端において、直径0.1μm以上の円を内接する丸まった形状を有している。こうすることで、段差部の底面の隅での電界集中を効果的に緩和することができる。これに対し、Wmt/dmt≧2を満たす形状であれば、溝部は丸まった形状でなくともよい。溝部の形状は、例えば矩形形状、楕円形状、角丸矩形形状であっても、段差部の底面の隅での電界集中を緩和することができる。
【0094】
C6.変形例6:
上述の種々の実施形態及び変形例における各半導体層の形成材料はあくまで一例であり、他の材料を用いることも可能である。例えば、上述の実施形態では、各半導体層が主として窒化ガリウム(GaN)により構成されているとしている。これに対し、各半導体層は窒化アルミニウム(AlN)や窒化インジウム(InN)といった他の材料により構成されていてもよい。
【0095】
C7.変形例7:
上述の第2実施形態の変形例1,2では、トレンチ型MOSFETとして、アイソレーションのための段差部540を有する半導体装置14とゲート用の段差部550を有する半導体装置15とを示した。これに対し、トレンチ型MOSFETとして、半導体装置14におけるアイソレーションのための段差部540と半導体装置15におけるゲート用の段差部550とを備える半導体装置であってもよい。このようにすれば、電気的特性が更に向上したトレンチ型MOSFETを得ることができる。
【0096】
C8.変形例8:
上述の第1実施形態の変形例2及び第2実施形態の変形例1,2において、リセス620及びゲートトレンチ610は、ドライエッチングによって形成されている。これに対し、リセス620及びゲートトレンチ610は、ドライエッチング後にウェットエッチングを行うことによって形成されてもよい。こうすることで、リセス620及びゲートトレンチ610を形成する際に、ドライエッチングによって各半導体層に与えられたダメージを低減することができる。
【0097】
C9.変形例9:
上述の種々の実施形態及び変形例において、フィールドプレート電極230を除く他の電極を形成する順序は、相互に入れ換えられてもよい。また、ゲートトレンチ、リセス、アイソレーショントレンチを形成する順序は、相互に入れ換えられてもよい。また、接触抵抗を低減させるための熱処理は、まとめて行ってもよい。
【0098】
C10.変形例10:
上述の第2実施形態では、窒素化合物系の半導体層について、「第1導電型」はN型であり、「第2導電型」はP型である。これに対し、「第1導電型」がP型であり、「第2導電型」がN型であってもよい。
【0099】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。