(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガラス板の製造方法として、フロートバスと称される製造ラインを使用して行うフロート法が知られている。フロート法によって製造されたガラス板は、例えば、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等)、太陽電池パネル等に使用される。
【0003】
フロートバスは、通常、溶融金属として溶融錫(融点:約232℃)が満たされる。溶融錫で満たされたフロートバスは、側壁及び天井によって囲われた内部空間を有しており、内部空間には雰囲気ガスとして溶融錫の酸化防止を目的とした不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)又は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスが導入される。フロート法では、フロートバス内に貯留した溶融錫の上に溶融ガラスを供給し、溶融錫の上に拡がった溶融ガラスを下流側に導いて帯状のガラスリボンが形成される。ガラスリボンは、その両側縁部近傍に配置された複数のトップロールにより、ガラスリボンの幅方向外側に引っ張られ、所望の厚みや幅に調整される。
【0004】
ガラスリボンを引っ張るトップロールは、ガラスリボンの側縁部近傍に当接しながら回転するローラ部と、ローラ部に同軸で接続する回転軸部とから構成されている。ここで、トップロールを回転させてガラスリボンを幅方向外側に引っ張る際、ガラスリボンは粘性が高いため、ガラスリボンがローラ部の当接面で巻きつき、付着してしまうことがある。これを防止するためには、ローラ部を適切に冷却し、ローラ部からガラスリボンを剥離させ易くすることで、ローラ部へのガラスリボンの巻きつきを防止することが必要となる。そこで、従来では、回転軸部を中空構造とし、回転軸部の内部に冷却水を通流させることで、ローラ部の冷却を行っている。これにより、ローラ部からのガラスリボンの剥離性を向上させ、ガラスリボンがローラ部に巻きついて付着することを防止している。
【0005】
ところが、トップロールに上述のような水冷構造を設けると、トップロール全体が冷却体として作用するため、トップロールからの冷気によりガラスリボンが所望の形状に成形される前に冷却されてしまう虞がある。成形前のガラスリボンの温度が過度に低下すると、ガラスリボンの固化が進行し、ガラスリボンの厚みや幅を調整することが困難となる。また、トップロールからの冷気によりフロートバス内に局所的な低温領域が発生すると、これがフロートバス内の雰囲気温度を不安定化させ、熱ロスが生じるという問題もある。さらに、溶融錫の表面から揮発した錫化合物が、上記のフロートバス内に生じた低温領域において凝集し易くなり、錫化合物の凝集物がガラスリボン上に落下して付着し、製品欠陥を招く可能性もある。
【0006】
その他の問題として、フロートバス法では、本来はガラスリボンの下側にある溶融錫がガラスリボンの表面に付着することがある。このような状態でガラスリボンをトップロールによって無理に引っ張ると、ローラ部がガラスリボン表面の溶融錫で濡れてしまい、その結果、ローラ部にガラスリボンが巻きついてガラス板の製造が中断されることがある。
【0007】
従来、フロート法によるガラス板の製造装置に関して、トップロールの先端部に断熱材を取り付けたものがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1のガラス板製造装置によれば、ローラ部の回転端面に取り付けた断熱材により、冷却された低温のローラ部によって成形前のガラスリボンが過度に冷却されることを防止している。
【0008】
また、ガラス板製造装置に用いられるトップロールにおいて、ローラ部がガラスリボンに当接する部分を除く領域を遮熱体で覆ったものがあった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2のガラス板製造装置によれば、冷却されたトップロールの略全体を遮熱体で覆うことにより、フロートバス内の熱ロスを低減している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2のガラス板製造装置は、何れもトップロールに断熱対策を施すことで、トップロールの冷気がガラスリボンやフロートバスの内部雰囲気に伝達することを防止しようとするものである。しかしながら、これらのガラス板製造装置では、トップロールを構成するローラ部の先端まで冷却水が通流しているため、ローラ部の回転端面や周囲全体に断熱対策を施したとしても、ローラ部がガラスリボンに直接接触する領域では、ガラスリボンの過度な冷却を避けることは困難である。ローラ部からの冷気によってローラ部の近傍に存在するガラスリボンの固化が必要以上に進行すると、トップロールによってガラスリボンを十分に引き延ばせなくなり、その結果、要求されている品位を満たさないガラス板の領域が増加し、ガラス板の歩留まりが悪化することになる。また、特許文献1及び特許文献2のガラス板製造装置では、トップロールが溶融錫で濡れ易いという問題も解決されていない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、トップロールの構造を工夫することで、高品質なガラス板を効率的に製造することが可能なガラス板製造装置、及びガラス板製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス板製造装置の特徴構成は、
上流側から供給された溶融ガラスを浮かべてガラスリボンを形成する溶融金属が貯留されたフロートバスと、
前記ガラスリボンの両側縁部表面に回転しながら当接し、前記ガラスリボンを幅方向両側外方に引っ張りながら下流側に搬送するトップロールと、
を備えたガラス板製造装置であって、
前記トップロールは、冷却構造が設けられた円状基部と、前記円状基部の円周を取り囲むように設けられたグラファイトを含む環状当接部とを備えることにある。
【0013】
本構成のガラス板製造装置によれば、トップロールは、冷却構造が設けられた円状基部と、円状基部の円周を取り囲むように設けられた環状当接部とを備えている。従って、円状基部が冷却されると、円状基部の冷熱により環状当接部も間接的に冷却されることになる。その結果、トップロールは全体的に適度に冷却され、トップロールからのガラスリボンの剥離性を良好に維持することができる。
また、ガラスリボンに直接当接する部位である環状当接部がグラファイトを含む材料で構成されているため、仮に円状基部が冷却され過ぎても、グラファイトの断熱効果によりガラスリボンは必要以上に冷却されない。その結果、環状当接部にガラスリボンが付着することを防止しながら、トップロールによってガラスリボンを引っ張ることにより、ガラスリボンを所望の厚みや幅に容易に調整することができる。また、グラファイトの断熱効果により、フロートバス内に局所的な低温領域が生じ難くなるため、フロートバス内の雰囲気は略一定状態に維持され、熱ロスが低減される。また、フロートバス内に局所的な低温領域が生じ難くなると、溶融錫の表面から揮発した錫化合物が凝集してガラスリボン上に落下することも防止できる。
さらに、環状当接部に用いられているグラファイトは、溶融錫に対して濡れ性が小さいという性質を有している。従って、例えば、ガラスリボンに溶融錫が付着しても、トップロールの環状当接部が溶融錫に濡れてガラスリボンを巻き込んでしまう虞はない。
このように、本構成のガラス板製造装置であれば、フロート法によるガラス板の製造時に発生し得る種々のトラブルに適切に対処しながら、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0014】
本発明に係るガラス板製造装置において、
前記円状基部の半径をRaとし、前記環状当接部の径方向の幅をRbとした場合、
Rb/(Ra+Rb)が、0.1〜0.8の範囲に設定されることが好ましい。
【0015】
本構成のガラス板製造装置によれば、円状基部のサイズと環状当接部のサイズとを上記の最適な比率に設定することで、環状当接部は円状基部から適度に冷却される。その結果、環状当接部からのガラスリボンの良好な剥離性を維持しつつ、ガラスリボンを所望の厚みや幅に容易に調整することができる。
また、上記の比率であれば、グラファイトを含む環状当接部の断熱性や溶融錫に対して濡れ性が小さいという特性がより効果的に発揮できるため、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0016】
本発明に係るガラス板製造装置において、
前記円状基部と前記環状当接部とが機械的に接合されていることが好ましい。
【0017】
トップロールを長期に亘って使用すると、環状当接部が徐々に摩耗し、ガラスリボンを引っ張り難くなることがある。この場合、ガラスリボンを所望の厚みや幅に調整することが困難となる。
これに対し、本構成のガラス板製造装置であれば、円状基部と環状当接部とが機械的に接合されているため、環状当接部が摩耗した場合は、環状当接部のみを新しいものに容易に取り替えることができる。ちなみに、トップロール全体をグラファイトで構成すると、設備コストが上昇するだけでなく、トップロールは常に過酷な環境に晒されているため、トップロール全体が脆くなり易くなるが、本構成のように、環状当接部にのみグラファイトを使用し、且つ円状基部の円周を取り囲むように環状当接部を機械的に接合すると、トップロールの強度を確保しながら環状当接部の劣化の影響を低減し、しかも比較的安価にトップロールを構成することができる。
【0018】
本発明に係るガラス板製造装置において、
前記円状基部の回転端面に断熱材が設けられていることが好ましい。
【0019】
本構成のガラス板製造装置によれば、円状基部の回転端面に断熱材が設けられているため、トップロールの冷熱がフロートバスの内部雰囲気に伝達され難い。このため、フロートバス内に局所的な低温領域が発生し難く、フロートバス内の雰囲気温度が安定し、熱ロスが低減される。
【0020】
本発明に係るガラス板製造装置において、
前記トップロールを2連設又は3連設してあることが好ましい。
【0021】
本構成のガラス板製造装置によれば、トップロールを2連設又は3連設することにより、トップロールのガラスリボンに対するグリップ力が増大し、ガラスリボンを確実に引き伸ばすことができるため、ガラスリボンを所望の厚みや幅に容易に調整することが可能となる。また、2連設又は3連設したトップロールには、ガラスリボンが過度に付着することがないため、ガラスリボンの巻き込み等のトラブルが発生せず、継続的にガラス板の製造を行うことができる。このように、トップロールを2連設又は3連設した本構成のガラス板製造装置は、ガラスリボンに対するグリップ力とガラスリボンの付着性とのバランスに優れており、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0022】
本発明に係るガラス板製造装置において、
前記円状基部を共通の基部として構成し、当該円状基部の周囲に前記環状当接部を2連設又は3連設してあることが好ましい。
【0023】
本構成のガラス板製造装置によれば、トップロールを構成するに際し、円状基部を共通の基部として構成し、当該円状基部の周囲に環状当接部を2連設又は3連設することで、比較的簡素な装置構成を維持しつつ、トップロールのガラスリボンに対するグリップ力を増大させることができる。また、トップロールへのガラスリボンの過度の付着も防止することができる。その結果、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0024】
本発明に係るガラス板製造装置において、前記環状当接部は、回転軸心方向視で、先端が山型に加工された突起部を備えており、前記突起部の先端角度が55〜105°に形成されていることが好ましい。
【0025】
本構成のガラス板製造装置によれば、回転軸心方向視における環状当接部の突起部の先端角度を55〜105°に形成することで、トップロールをガラスリボンに対して確実にグリップさせつつ、トップロールへのガラスリボンの過度の付着を防止することができる。その結果、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0026】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス板製造方法の特徴構成は、
上流側から供給された溶融ガラスをフロートバスに貯留された溶融金属に浮かべてガラスリボンを形成するガラスリボン形成工程と、
前記ガラスリボンを幅方向両側外方に引っ張りながら下流側に搬送する搬送工程と、
を包含するガラス板製造方法であって、
前記搬送工程は、冷却構造が設けられた円状基部と、前記円状基部の円周を取り囲むように設けられたグラファイトを含む環状当接部とを備えたトップロールを、前記ガラスリボンの両側縁部表面に回転しながら当接させて行われることにある。
【0027】
本構成のガラス板製造方法によれば、上述したガラス板製造装置と同様の優れた作用効果を奏し、フロート法によるガラス板の製造時に発生し得る種々のトラブルに適切に対処しながら、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のガラス板製造装置に関する実施形態を、
図1〜
図8に基づいて説明する。本発明のガラス板製造方法については、ガラス板製造装置の説明の中で併せて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0030】
〔ガラス板製造装置の全体構成〕
図1は、本発明のガラス板製造装置の内部構造を示す概略平面図である。このガラス板製造装置は、フロート法によって種々のガラス板を製造する設備の一部であり、
図1では、フロートバス10及びトップロール20を備えたガラス板成形装置100として示されている。
【0031】
〔フロートバス〕
ガラス板成形装置100の下部構造を構成するフロートバス10には、溶融錫Mが満たされている。フロートバス10の浴槽温度は、錫の融点(約232℃)以上となるように設定され、通常は、600〜1300℃に維持されている。上流側のガラス溶融炉(図示せず)からフロートバス10に溶融ガラスが供給されると、溶融錫Mの液面に溶融ガラスが広がり、板状の溶融ガラス50aが形成される。
【0032】
フロートバス10は、入口12から出口13に亘る周囲が側壁11で囲まれており、側壁11の上方は上部構造としての天井部(図示せず)が設けられている。フロートバス10の溶融錫Mの液面、側壁11、及び天井部によって囲まれた内部空間には、溶融錫Mの酸化を防止するため、不活性ガス又は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスが導入されている。不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴンが挙げられる。還元性ガスは、水素が代表的である。不活性ガス又は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスは、側壁11又は天井部に設けられた給気管(図示せず)から内部空間に導入され、同じく側壁11又は天井部に設けられた排気管(図示せず)や出口13から外部に排気される。
【0033】
ガラス板成形装置100を用いてガラス板を製造するにあたっては、フロートバス10の上流側の入口12から溶融ガラス50aを流し込み、当該溶融ガラス50aを溶融錫M上に浮遊させた状態で下流側に流動させて帯状のガラスリボン50bを形成した後(ガラスリボン形成工程)、当該帯状のガラス流(ガラスリボン)50bを冷却固化させて下流側の出口13からガラス板50cとして搬出する。このように、ガラス板成形装置100の内部において、溶融ガラス50aはガラスリボン50bを経てガラス板50cへと成形される。
【0034】
〔トップロール〕
ガラス板成形装置100の内部には、溶融錫Mの液面上に広がったガラスリボン50bを引き延ばすためのトップロール20が設けられる。トップロール20は、ガラス板成形装置100の両側の側壁11を挿通するように複数設けられる。夫々のトップロール20は、ガラスリボン50bの縁部の形状に沿うように配置される。トップロール20は、ガラスリボン50bの幅の変化に対応できるように、側壁11からの挿入距離を調節可能に構成することも可能である。トップロール20によってガラスリボン50bの引き延ばしを行う場合、
図1に示すように、トップロール20をガラスリボン50bの両側縁部表面に回転しながら当接させ、当該ガラスリボン50bをトップロール20の回転力によって幅方向両側外方に引っ張りながら下流側に搬送する(搬送工程)。この搬送工程を上述のガラスリボン形成工程に引き続いて行うことで、本発明のガラス板製造方法が実施される。搬送工程では、トップロール20は、後述する冷却構造によって全体的に適度に冷却され、且つ断熱性を有しているため、トップロール20からのガラスリボン50bの剥離性を良好に維持しつつ、ガラスリボン50bを所望の厚みや幅に容易に調整することができる。
【0035】
以下、トップロール20の具体的構成について説明する。
図2は、冷却構造を備えたトップロール20の構造を示す説明図である。
図2(a)はガラスリボンの流動方向から見たトップロール20の側面断面図であり、
図2(b)はガラスリボンの流動方向に垂直な方向から見たトップロール20の正面図である。トップロール20は、主要な構成として、円状基部21及び環状当接部22を備えている。
【0036】
<円状基部>
図2(a)に示すように、円状基部21は、その後方に回転軸部23が連結され、回転軸部23はモーター24により回転駆動される。モーター24を回転駆動すると、回転軸部23とともに円状基部21が回転する。円状基部21及び回転軸部23の内部には冷却構造としての冷却チャネル25が形成されている。冷却チャネル25の詳細については、後の「トップロールの冷却」の項目で説明する。円状基部21は、過酷な環境にあるガラス板成形装置100の内部空間に配置され、さらにモーター24からの回転駆動力を受けることで大きなトルクが作用する。このため、円状基部21は、耐熱性、耐蝕性、及び剛性を有する材料で構成することが好ましい。そのような円状基部21を構成する材質として、例えば、ステンレス鋼が挙げられ、その他、アルミニウム合金やチタン合金等の軽量金属材料を使用することも可能である。
【0037】
<環状当接部>
図2(a)に示すように、環状当接部22は、円状基部21の円周を取り囲むように設けられる。環状当接部22は円状基部21に対して機械的に接合され、別体である環状当接部22と円状基部21とが一体となって円盤状のトップロール20を構成する。環状当接部22と円状基部21との機械的接合法としては、ビス止め、ネジ止め、締結部材による固定等が挙げられる。なお、ネジ止め等の機械的接合であれば着脱が可能であるため、環状当接部22が摩耗した場合は、トップロール20から環状当接部22を取り外し、環状当接部22のみを新しいものに取り替えることができる。
【0038】
環状当接部22は、トップロール20の外周部分となってガラスリボン50bの両側縁部表面に当接する。モーター24を回転駆動させると、ガラスリボン50bはトップロール20の環状当接部22から回転作用を受けて幅方向両側外方に引っ張られ、その厚みや幅が調整される。環状当接部22の外周には、
図2(b)に示すように、先端が山型に加工された突起部(凹凸部)22aが形成されている。この突起部22aがガラスリボン50bの表面に食い込むことで、トップロール20は空転することなく、ガラスリボン50bを確実に延伸し、下流側に搬送することができる。また、環状当接部22の外周に突起部22aを形成することで、トップロール20の外周部分の表面積が大きくなるため、空冷によるトップロール20の冷却効果も若干得られ、これがトップロール20の適度な冷却となり得る。なお、突起部22aは、
図2(b)に示した山型形状の突起部の他、例えば、角型形状、台形形状等の突起部に構成することもできる。
【0039】
環状当接部22は、円状基部21と同様に過酷な環境にあるガラス板成形装置100の内部空間に配置されるため、耐熱性、耐蝕性、及び剛性が求められる。また、環状当接部22は、ガラスリボン50bに直接接触するため、ガラスリボン50bを冷やさないように断熱性が求められる。本発明では、環状当接部22はグラファイトを含む材料で構成されている。グラファイトは金属材料よりも断熱性が高いため、後述する冷却チャネル25によって冷却された円状基部21の冷熱は、環状当接部22を介してガラスリボン50bに伝わり難い。このため、トップロール20の環状当接部22をガラスリボン50bの両側縁部表面に当接させ、ガラスリボン50bを幅方向両側外方に引っ張っている途中において、ガラスリボン50bが固化することを防止し、ガラスリボン50bを所望の厚みや幅に容易に調整することができる。また、グラファイトの断熱効果により、フロートバス10内に局所的な低温領域が生じ難くなるため、溶融錫Mの表面から揮発した錫化合物が凝集してガラスリボン50b上に落下することも防止できる。さらに、グラファイトは、溶融錫に対して濡れ性が小さいという性質も有する。従って、例えば、トップロール20でガラスリボン50bを引っ張っている最中に、溶融錫Mが飛び散ってガラスリボン50bの上に付着しても、環状当接部22は溶融錫Mに濡れ難いので、トップロール20がガラスリボン50bを巻き込んでしまう虞が少ない。
【0040】
グラファイトを含む環状当接部22は、例えば、グラファイトの原料となる炭素粉を金型に充填して加圧成形し、これを熱処理して黒鉛化することにより製造される。あるいは、炭素粉の加圧成型及び黒鉛化によってブロック状のグラファイトを作製し、これを環状当接部22の形状に削り出して製造することも可能である。グラファイトの原料となる炭素粉には、補強材、添加剤、離型剤等の他の成分を含有させておくことも可能である。環状当接部22中のグラファイトの含有量が50重量%以上であれば、優れた断熱性や、溶融錫に対する低い濡れ性等のグラファイトの特性が生かされたトップロール20を実現することができる。
【0041】
<円状基部と環状当接部とのサイズ関係>
高品質なガラス板50cを高収率で且つ効率的に製造するためには、トップロール20からのガラスリボン50bの剥離性とトップロール20の断熱性とのバランスも重要となる。そこで、本発明では、トップロール20を構成する円状基部21と環状当接部22とのサイズ関係を最適化している。具体的には、円状基部21及び環状当接部22のサイズは、
図2(b)に示すように、円状基部21の半径をRaとし、環状当接部22の径方向の幅をRbとする。ここで、環状当接部22の外周には突起部22aが設けられているため、環状当接部22の径方向の幅Rbは、環状当接部22の最内部から突起部22aの最外部までの距離とする。このとき、トップロール20は、Rb/(Ra+Rb)が、0.1〜0.8の範囲となるように設定され、より好ましくは0.3〜0.7の範囲となるように設定され、さらに好ましくは0.4〜0.6の範囲となるように設定される。円状基部21と環状当接部22とのサイズ関係を上記比率に設定することで、環状当接部22は円状基部21から適度に冷却される。その結果、環状当接部22からのガラスリボン50bの良好な剥離性を維持しつつ、ガラスリボン50bを所望の厚みや幅に容易に調整することができる。また、上記の比率であれば、グラファイトを含む環状当接部22の断熱性や溶融錫Mに対して濡れ性が小さいという特性がより効果的に発揮できるため、高品質なガラス板50cを高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0042】
<トップロールの冷却>
トップロール20を冷却するために設けられる冷却構造としての冷却チャネル25は、
図2(a)に示すように、円状基部21の内部及び回転軸部23の軸方向全長に亘る内部に設けられている。冷却チャネル25は、冷却水を給水及び排水するための冷却水給排部26に接続されている。モーター24によって回転軸部23が回転駆動するとともに、
図2(a)に示すように、冷却水給排部26から回転軸部23内の冷却チャネル25に冷却水が流し込まれる。そして、冷却水は回転軸部23から円状基部21に流入し、円状基部21内を一巡する。このとき、冷却水と環状当接部22との間で熱交換が行われる。環状当接部22から熱を吸収した冷却水は、円状基部21から回転軸部23を経て冷却水給排部26に戻り、外部に排水される。
【0043】
なお、
図2(a)では、冷却構造として、回転軸部23及び円状基部21の内部を冷却水が直線的に通流する冷却チャネル25が示されているが、冷却水の通流面積を大きくするため、例えば、螺旋状に形成された冷却チャネルを採用することも可能である。この場合、冷却効率が向上するため、冷却チャネルへの通水量を低減することが可能となる。また、冷却構造として、循環式の冷却構造を構成することも可能である。例えば、冷却チャネル25に冷却水を給排水する冷却水給排部26において、給水側と排水側とを循環ポンプで接続して循環経路を構成し、その循環経路の途中に必要に応じて冷却機を設置する。この場合、ガラス板成形装置100に給排水用の配管を導く必要がないので、設備の構築が容易となる。なお、冷却チャネル25には、冷却水に代えて、冷媒としてのオイルやガスを流すことも可能である。この場合、回転軸部23及び円状基部21が水分に触れないため、トップロール20の内部からの腐蝕を防止することができる。
【0044】
<トップロールの断熱対策>
ところで、トップロール20を冷却するにあたり、円状基部21の冷却チャネル25に冷却水を通流させると、円状基部21の外周部分21aは環状当接部22によって断熱されるため、円状基部21の外周部分21aからフロートバス10の内部雰囲気に冷却水の冷熱が伝達されることは少ない。ところが、円状基部21の回転端面21bは内部雰囲気に露出しているため、円状基部21の回転端面21bからの冷熱がフロートバス10の内部雰囲気に伝達され、フロートバス10内に局所的な低温領域が生じることがある。そこで、本発明では、トップロール20に断熱対策を施している。例えば、トップロール20において、特に温度が低くなる円状基部21の回転端面21bに断熱材27を設ける。これにより、円状基部21の回転端面21bからの冷熱がフロートバス10の内部雰囲気に伝達され難くなり、フロートバス10内に局所的な低温領域が発生し難くなる。その結果、フロートバス10内の雰囲気温度が安定し、熱ロスが低減される。また、フロートバス10内に局所的な低温領域が生じ難くなると、溶融錫Mの表面から揮発した錫化合物がトップロール20に凝集してガラスリボン50b上に落下することも防止できる。
【0045】
トップロール20の断熱対策のために円状基部21の回転端面21bに設ける断熱材27としては、断熱性に優れていることは勿論であるが、耐熱性や耐蝕性にも優れた材料が好ましい。そのような断熱材27の材料として、例えば、セラミック、カーボン等が挙げられる。また、トップロールの断熱対策として、円状基部21に断熱材27を装着する代わりに、円状基部21の回転端面21bにジルコニア等の耐熱性材料を溶射することも可能である。
【0046】
<ガラスリボンの延伸試験>
本発明のガラス板成形装置100を用いてガラス板50cを製造するに際し、上述の構成を備えたトップロール20の効果を確認するため、ガラスリボン50bの延伸試験を実施した。トップロール20を当接させるガラスリボン50bを幅方向で見た場合、
図2(a)に示すように、製品として使用可能な製品有効部Aの幅をW1、トップロール20が当接して痕跡が残る痕跡部Bの幅をW2、製品有効部Aと痕跡部Bとの間にある境界領域Cの幅をW3と規定する。なお、製品有効部Aは、ガラスリボン50bの厚みが幅方向全体に亘って所定の厚みH1に形成される領域であるが、
図2(a)では製品有効部Aの一方側のみを示してある。
【0047】
図3は、
図2(a)において点線Pで囲った領域におけるガラスリボン50bの表面を幅方向で見た拡大断面図である。
図3に示すように、境界領域Cは、痕跡部Bから製品有効部Aの方向に厚みが徐々に減少する傾斜表面を有している。
図4は、境界領域Cにおけるガラスリボン50bの厚みを示すグラフ(実線)である。ここで、縦軸はガラスリボン50bの厚みを示し、横軸はトップロール20からの距離を示す。なお、
図4では、参考のため、従来のトップロールを用いて延伸を行ったガラスリボンの厚みのグラフ(破線)を併記してある。
【0048】
本発明のガラス板成形装置100では、トップロール20の環状当接部22がグラファイトを含む材料で構成されているため、グラファイトの断熱効果により、ガラスリボン50bが固化することが防止され、幅方向両側外方に十分に引っ張ることが可能となった。そのため、境界領域Cの表面の傾斜はなだらかなものとなった。
図4を詳細に見ると、本発明のトップロール20を使用したものは、境界領域Cにおけるガラスリボン50bの厚みは、トップロール20から約200mm離れた位置で略一定となった。一方、断熱効果が不十分な従来のトップロールを使用したものは、ガラスリボンの厚みが安定するのはトップロールから約300mm離れた位置であった。このように、従来のトップロールを用いて製造したガラス板は、
図3に示す製品有効部Aを大きく確保することができず、歩留まりが低いものとなった。
【0049】
また、トップロール20が当接する痕跡部B付近のガラスリボン50bへの断熱効果を、トップロール20の給水側と排水側との間における冷却水の温度変化から間接的に評価した。本発明の環状当接部22がグラファイトを含む材料で構成されたトップロール20を備えるガラス板成形装置100により、ガラスリボン50bの延伸試験を行ったところ、冷却水の温度変化は、給水側と排水側との間で6.3℃の温度差として計測された。一方、従来のガラス板成形装置で同様のガラスリボンの延伸試験を行ったところ、冷却水の温度変化は、給水側と排水側との間で10℃の温度差として計測された。本発明のガラス板成形装置100は、従来のガラス板成形装置よりも冷却水の温度差が小さいことから、断熱効果の高いグラファイトを含む環状当接部22によって、円状基部21からガラスリボン50bへの冷熱の伝達が効果的に抑えられていると推測される。なお、本発明のガラス板成形装置100では、トップロール20の外周の突起部22aにガラスリボン50bが付着していないことが目視により確認され、さらに、その突起部22aには、損傷、酸化、劣化等の異常も見られなかった。
【0050】
本発明のトップロール20を備えるガラス板成形装置100によってガラスリボン50bの延伸を行うと、ガラスリボン50bが冷え過ぎないため、上述の境界領域Cにおいて、製品有効部Aの厚みH1と略均等な厚みH2を有する領域C1(領域C1の幅をW4とする)が広がることが確認された。境界領域Cは、ガラス板50cから製品有効部Aを切り出す際の切りしろ部分として利用されるため、この切りしろ部分が十分に存在することにより、ガラス板50cから製品有効部Aを確実に切り出すことが可能となるとともに、溶融ガラス50aから製品有効部Aとして利用できない無駄な部分C2を少なくすることができる。このように、本発明によれば、フロート法において発生し得る様々な問題を解決しながら、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0051】
<環状当接部に形成する突起部の影響>
トップロール20は、ガラス板の製造効率や品質に影響を与える部材である。特に、トップロール20の環状当接部22の外周に形成される突起部22aは、ガラスリボン50bに直接接触する部位であるため、ガラス板の品質面等に大きな影響を与えることになる。本発明者らは、ガラスリボン50bに対するトップロール20のグリップ力を高めながら、トップロール20へのガラスリボン50bの付着を有効に防止するためには、突起部22aの先端角度θの設定が重要であることを突き止め、ガラス板製造における突起部22aの先端角度θの影響について検討を行った。
【0052】
図5は、突起部22aを備えたトップロール20の構造を示す説明図である。同図において、(a)はトップロール20の全体を表す正面図であり、(b)は(a)の点線円で示した領域における突起部22aの拡大図である。本検討にあたり、突起部22aの先端角度θを45°から10°刻みで115°まで変えたトップロール20を準備し、夫々のトップロール20を使用してガラスリボン50bの引き伸ばしテストを実施した。テスト結果を
図5(c)の表に示す。テスト結果より、突起部22aの先端角度θが45〜105°の範囲であれば、トップロール20は、ガラスリボン50bに対して十分なグリップ力を維持することができた。また、突起部22aの先端角度θが55〜115°の範囲であれば、トップロール20へのガラスリボン50bの過度な付着は見られなかった。これらの結果を総合的に判断すると、突起部22aの先端角度θを55〜105°に形成することで、トップロール20をガラスリボン50bに対して確実にグリップさせつつ、トップロール20へのガラスリボン50bの過度の付着を防止することができ、その結果、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となることが判明した。
【0053】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、トップロール20は、冷却チャネル25が設けられた円状基部21と、円状基部21の円周を取り囲むように設けられた環状当接部22とを備え、円状基部21と環状当接部22とを機械的に接合して一体化し、さらに、円状基部21の回転端面21bに断熱材27を設けたものとして構成されるが、環状当接部22と断熱材27とを一体化することも可能である。
図6は、環状当接部22と断熱材27とを一体化したトップロール30の構造を示す概略図である。本実施形態のトップロール30は、上記実施形態のトップロール20が備える環状当接部22及び断熱材27に代えて、グラファイトを含む材料で構成されたキャップ状当接部31を備えている。キャップ状当接部31は、円状基部21を嵌め込み可能な凹部31aを有しており、キャップ状当接部31の凹部31aに円状基部21を嵌め込むと、円状基部21の外周部分21a及び回転端面21bがキャップ状当接部31によって覆われるようになっている。キャップ状当接部31の外周部分31bは、ガラスリボン50bに当接する当接面となる。従って、本実施形態のトップロール30を用いてガラスリボン50bの延伸を行うと、キャップ状当接部31の構成材料であるグラファイトの断熱効果により、ガラスリボン50bは必要以上に冷却されないため、ガラスリボン50bを所望の厚みや幅に容易に調整することが可能となる。また、本実施形態のキャップ状当接部31は、円状基部21に対して簡単に着脱できるため、トップロール30のメンテナンスが容易となる。
【0054】
ガラスリボン50bにトップロール20を当接させながら回転させてガラスリボン50bの延伸を行うに際し、一つの回転軸部23に複数のトップロール20を設けることも可能である。この場合、
図2(a)に示したトップロール20が当接して痕跡が残る痕跡部Bの幅W2が若干広くなるが、トップロール20によってガラスリボン50bを引っ張る力が大きくなるため、ガラスリボン50bの厚みや幅の調整幅を広げることができる。一つの回転軸部23に複数のトップロールを設ける実施形態について、以下に説明する。
【0055】
図7は、複数の円状基部21と複数の環状当接部22とを備えたトップロール20の構成例の説明図である。(a)は回転軸部23に対してトップロール20A及び20Bを2連に設けたものであり、(b)は回転軸部23に対してトップロール20C、20D及び20Eを3連に設けたものである。本実施形態では、夫々のトップロール20A〜20Eを形成する円状基部21及び環状当接部22は、独立した部材として構成される。ただし、円状基部21は、冷却チャネル25を共通化しているため互いに連通している。
図7(a)及び(b)において、夫々の先端側に位置するトップロール20B及び20Eには、断熱対策として円状基部21の回転端面21bに断熱材27が設けられる。
【0056】
図7(a)又は(b)に示すように、トップロール20を2連設又は3連設することにより、トップロール20のガラスリボン50bに対するグリップ力が増大し、ガラスリボン50bを確実に引き伸ばすことができるため、ガラスリボン50bを所望の厚みや幅に容易に調整することが可能となる。また、2連設又は3連設したトップロール20には、ガラスリボン50bが過度に付着することがないことが、本発明者らにより確認された。このため、ガラスリボン50bの巻き込み等のトラブルが発生せず、継続的にガラス板の製造を行うことができる。このように、トップロール20を2連設又は3連設した本実施形態のガラス板成形装置100は、ガラスリボン50bに対するグリップ力とガラスリボン50bの付着性とのバランスに優れており、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。
【0057】
図8は、共通の円状基部21と複数の環状当接部22とを備えたトップロール20の構成例の説明図である。(a)は回転軸部23に接続された円状基部21に対して環状当接部22A及び22Bを2連に設けたものであり、(b)は回転軸部23に接続された円状基部21に対して環状当接部22C、22D及び22Eを3連に設けたものである。本実施形態では、円状基部21が共通化されているため、円状基部21の幅が周囲に取り付ける環状当接部22の個数に応じて変更される。夫々の円状基部21の回転端面21bには、断熱対策として断熱材27が設けられる。
【0058】
図8(a)又は(b)に示すように、円状基部21を共通の基部として構成した場合であっても、当該円状基部21の周囲に環状当接部22を2連設又は3連設することにより、トップロール20のガラスリボン50bに対するグリップ力を増大させることができる。さらに、本実施形態では、比較的簡素な装置構成でありながら、トップロール20へのガラスリボン50bの過度の付着を防止することにも有効である。環状当接部22を2連設又は3連設した本実施形態のガラス板成形装置100は、ガラスリボン50bに対するグリップ力とガラスリボン50bの付着性とのバランスに優れており、高品質なガラス板を高収率で且つ効率的に製造することが可能となる。