(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メタルの後端に形成されたフランジと当接することで、前記メタルを軸方向で位置決めする前記ハウジングの額部に、前記第1油供給通路として、軸方向と直交する方向に延びる額部油溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載のインパクト工具。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態のインパクト工具は、ビットやソケット等の先端工具により、ボルトやナット、ねじを締結するインパクトドライバ1である。インパクトドライバ1は、
図1を参照すると、外形を形成する外枠であるハウジングを備えている。ハウジングは、前後方向に延びる略円筒形の胴体部2aと、胴体部2aに側面視略T字状を成すように連接されたハンドル部2bと、ハンマケース53とで構成されている。ハウジングの胴体部2aの内部には、駆動源であるモータ3と、モータ3の回転を減速させる減速機構部として機能する遊星歯車機構4が収容され、ハンマケース53には、遊星歯車機構4によって減速させたモータ3の回転を回転打撃力に変換して不図示の先端工具に伝達する打撃機構5が収容されている。モータ3と、遊星歯車機構4と、打撃機構5とは、同軸上に並んで配置されており、本実施の形態では、モータ3、遊星歯車機構4及び打撃機構5が並んでいる軸方向においてモータ3側を後側として前後方向と定義する。
【0010】
ハウジングのハンドル部2bには、上部にトリガ6を有するスイッチ7が、下部にバッテリ受け部8がそれぞれ設けられている。ハンドル部2bの下端には、充電可能な電源であるバッテリBTがバッテリ受け部8に着脱可能に装着される。
【0011】
インパクトドライバ1において、作業者がトリガ6をON操作すると、スイッチ7がONされ、モータ3が起動する。モータ3が起動すると、モータ3の出力軸3aの回転は、遊星歯車機構4によって減速される。
【0012】
遊星歯車機構4は、スピンドル41と、リングギヤ42と、複数の遊星ギヤ43とから構成されている。スピンドル41は、遊星ギヤ43を複数支承する遊星キャリアであり、ベアリングを介して回転可能に支承されている。またスピンドル41には、ハンマ51が前後方向へと移動可能に環装されていると共に、スピンドル41とハンマ51とは、カム機構により連結されている。スピンドル41とハンマ51とを連結するカム機構は、スピンドル41の外周面に軸方向に対して斜めに形成された一対のスピンドルカム溝41aと、一対のスピンドルカム溝41a内にそれぞれ挿入されたボール41bとで構成されている。
【0013】
スピンドル41の前端には、前方に向けて開口する嵌合穴41cが形成されている。また、アンビル52の前端には、先端工具が着脱可能に装着される装着穴52aが形成されていると共に、アンビル52の後端には、嵌合軸52bが突出して形成されている。そして、スピンドル41の嵌合穴41cにアンビル52の嵌合軸52bが嵌合され、アンビル52がスピンドル41によって同軸回転可能に支承されている。
【0014】
打撃機構5は、前述のハンマ51及びアンビル52と、メタル54と、スプリング55とを備え、ハウジングの一部であるハンマケース53に収納されている。ハンマケース53は、
図2に示すように、前端が窄まった円筒状を成しており、後端部分でハウジングの胴体部2aにモータ3と同軸的に接続されている。なお、
図2において、(a)は、ハンマケース53を後端側から見た図であり、(b)は、(a)に示すX−X断面図であり、(c)は、(a)に示すY−Y部分断面図である。
【0015】
メタル54は、
図3に示すように、後端にフランジ54aが形成された円筒状を成しており、窄まったハンマケース53の前端部分の内周面53aに嵌合されている。そして、アンビル52は、メタル54の内周に嵌合され、回転可能に支承されている。なお、
図3において、(a)は、メタル54の側面図であり、(b)は、(a)に示すX−X断面図であり、(c)は、(b)に示すY−Y断面図であり、(d)は、(b)に示すZ−Z断面図である。
【0016】
ハンマ51は、スプリング55によって常に先端方向(前方)に付勢されており、最も先端側に位置する静止時には、ボール41bとスピンドルカム溝41aとの係合によって、アンビル52の後端面と所定の隙間を隔てた位置にある。そして、ハンマ51とアンビル52との相対向する回転平面上の2箇所には、爪部51aと羽根部52cとそれぞれ対称位置に形成されている。
【0017】
スピンドル41が所定の速度で回転駆動されると、スピンドル41の回転は、カム機構を介してハンマ51に伝達され、ハンマ51が半回転しないうちに、ハンマ51の爪部51aがアンビル52の羽根部52cに係合して、アンビル52が回転されるが、そのときの係合反力によってハンマ51とスプリング55との間に相対回転が生じると、ハンマ51は、カム機構のスピンドルカム溝41aに沿ってスプリング55を圧縮しながらモータ3側へと後退動を始める。
【0018】
ハンマ51の後退動によって、ハンマ51の爪部51aがアンビル52の羽根部52cを乗り越えて両者の係合が解除される。すると、ハンマ51は、スピンドル41の回転力に加えて、スリング55に蓄積された弾性エネルギーとカム機構の作用とによって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、スプリング55の付勢力によって前方、すなわちアンビル52側へと移動され、ハンマ51の爪部51aがアンビル52の羽根部52cに再び係合して一体的に回転し始める。このとき、強力な回転打撃力がアンビル52に加えられ
るため、アンビル52に装着された先端工具を介して不図示のねじ等に回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具からねじ等に回転打撃力が間欠的に繰返し伝達され、ねじ等が木材等の不図示の被締付材にねじ込まれる。
【0019】
インパクトドライバ1では、上述のように、スピンドル41の嵌合穴41cと、アンビル52の嵌合軸52bとの嵌合により、アンビル52がスピンドル41によって同軸回転可能に支承されている。従って、アンビル52側にスピンドル41と嵌合する嵌合穴が形成されていないため、アンビルとメタルとが摺動面に潤滑油であるグリスを供給する、アンビル52の嵌合穴を経由しない油供給通路が形成されている。
【0020】
図2を参照すると、ハンマケース53における内周面53aの後端側には、全周に亘って額部53bが形成され、額部53bと内周面53aとは、傾斜面53cによって接続されている。また、
図3を参照すると、メタル54の後端側には、フランジ54aが形成されており、ハンマケース53の額部53bにメタル54のフランジ54aの前面側が当接することで、ハンマケース53の内周面53aにメタル54が軸方向に位置決めされて嵌合される。また、額部53bと内周面53aとの間に傾斜面53cを形成することで、傾斜面53cと、メタル54におけるフランジ54aの前面側の付け根部分との間に油だまりとなる間隙が形成される。
【0021】
ハンマケース53の額部53bには、軸方向の直交する方向に2本の額部油溝53dが形成されていると共に、フランジ54aの直径は、ハンマケース53における額部53bの直径よりも小さく設定されている。これにより、
図4に示すように、ハンマケース53とメタル54におけるフランジ54aの外周との間隙と、ハンマケース53の額部53bに形成された額部油溝53dとが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、ハンマケース53の傾斜面53cと、メタル54におけるフランジ54aの前面側の付け根部分との間隙に供給される。
【0022】
さらに、
図3を参照すると、アンビル52と摺動面であるメタル54の内周面54bの軸方向のほぼ中央には、リング状の内周油溝54cが形成されていると共に、メタル54の外周面54dには、フランジ54aの前面側の付け根部分から軸方向前方に向けて2本の外周油溝54eが形成されている。そして、メタル54の胴体部には、内周油溝54cと、2本の外周油溝54eをそれぞれ連通する2本の油穴54fが軸方向の直交する方向に形成されている。これにより、
図4に示すように、外周油溝54eと、油穴54fとが油供給通路となり、ハンマケース53の傾斜面53cと、メタル54におけるフランジ54aの前面側の付け根部分との間隙に供給されたグリスが、さらに内周油溝54cに供給され、アンビル52とメタル54との摺動面の潤滑が確保される。第1の実施の形態では、外周油溝54eを軸方向に形成することで、油穴54fを軸方向の直交する方向にすることができ、油穴54fの穴あけ加工を容易に行うことが可能になっている。なお、油穴54fを斜めに形成しても良い場合には、外周油溝54eを形成することなく、ハンマケース53の傾斜面53cとメタル54におけるフランジ54aの前面側の付け根部分との間隙と、内周油溝54cとを油穴54fで直接連通するように構成しても良い。
【0023】
なお、第1の実施の形態では、ハンマケース53の額部53bに形成された額部油溝53dと、メタル54の外周油溝54c及び油穴54fの本数や断面積は、メタル54の内周油溝54cへの必要とするグリスの供給量に応じて適宜設定することができる。
【0024】
また、第1の実施の形態では、油供給通路として、ハンマケース53の額部53bに額部油溝53dを形成するように構成したが、ハンマケース53とメタル54におけるフランジ54aの外周との間隙と、メタル54の外周油溝54cとを連通する油供給通路として、メタル54のフランジ54a前面にメタル54の外周油溝54cと連通する油溝を形成するようにしても良い。
【0025】
以上説明したように、第1の実施の形態は、モータ3によって回転するスピンドル41と、スピンドル41によって同軸回転可能に支承されていると共に、ハンマケース53に嵌合された軸受けであるメタル54によって回転可能に支承されている、前端に先端工具が装着される装着穴52aが形成されたアンビル52と、スピンドル41の回転を回転打撃力としてアンビル52に伝達する打撃機構5とを備えたインパクトドライバ1であって、スピンドル41の前端に形成された嵌合穴41cと、アンビル52の後端に突出して形成された嵌合軸52bとの嵌合により、アンビル52がスピンドル41によって同軸回転可能に支承され、メタル54には、アンビル52との摺動面にリング状の内周油溝54eが形成されていると共に、メタル54の後端側から内周油溝54cにグリスを供給する油供給通路が形成されている。
この構成により、メタル54とアンビル52との摺動面を潤滑するグリスの供給経路として、アンビル52にスピンドル41との嵌合穴を形成する必要がなく、アンビルの全長を短くすることができ、小型化することができる。また、アンビル52にグリスの供給経路を形成する必要がないため、回転部品であるアンビル52へ加工を最小限に留めることができ、部品精度を向上させることができる。
【0026】
さらに、第1の実施の形態によれば、油供給通路は、メタル54とハンマケース53との間に形成された第1油供給通路(ハンマケース53の額部油溝53d、メタル54の外周油溝54e)と、メタル54の胴体に形成された第2油供給通路(油穴54f)とで構成されている。
この構成により、メタル54の外周面54dから内周油溝54cにグリスが直接供給されるため、メタル54とアンビル52との摺動面の軸方向に油供給通路を形成する必要がなく、油供給通路の角部によってメタル54とアンビル52との摺動面が傷つくことを防止することができる。
【0027】
さらに、第1の実施の形態によれば、第1油供給通路であるハンマケース53の額部油溝53dは、メタル54の後端に形成されたフランジ54aと当接することで、メタル54を軸方向で位置決めするハンマケース53の額部53bに、軸方向と直交する方向に延びて形成されている。
この構成により、メタル54のフランジ54aに加工を施すことなく、グリスをメタル54の外周面54dまで供給することができる。
【0028】
さらに、第1の実施の形態によれば、第1油供給通路であるメタル54の外周油溝54eは、ハンマケース53との嵌合面であるメタル54の外周面54dに、軸方向に延びて形成されている。
この構成により、外周面54dに供給されたグリスを内周油溝54cと対向する位置まで軸方向に運ぶことができ、メタル54の胴体に形成する油穴54fを軸方向と直交させることができる。これにより、油穴54fの穴あけ加工を容易に行うことが可能になる。
【0029】
さらに、第1の実施の形態によれば、ハンマケース53には、メタル54との嵌合面(内周面53a)と額部53bとの間に傾斜面53cが形成されており、額部油溝53dと外周油溝54eとは、傾斜面53cとメタル54との間に形成された油だまりとなる間隙を介して連通している。
この構成により、ハンマケース53とメタル54との嵌合において、ハンマケース53の額部油溝53dとメタル54の外周油溝54eとがずれていても、内周油溝54cに至る油供給通路が確保されるため、ハンマケース53とメタル54との嵌合作業を容易に行うことができる。
【0030】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のインパクトドライバ11では、
図5を参照すると、メタル541のみに油供給通路が形成されている点で第1の実施の形態と異なっている。なお、
図5(a)は、インパクトドライバ11の内部構造を示す側断面図であり、(b)は、メタル541を後方から見た正面図である。インパクトドライバ11では、メタル541のみに油供給通路が形成されているため、額部53bに額部油溝53dが形成されていないハンマケース531が用いられる。
【0031】
メタル541のフランジ54aの後面側には、外周から内側に向かって延びるフランジ油溝54gが形成されていると共に、メタル541の胴体部には、フランジ油溝54gと、内周の内周油溝54cとを連通する油穴54hが形成されている。これにより、フランジ油溝54gと、油穴54hとが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。なお、第2の実施の形態では、油穴54hが軸方向に延びる穴と軸方向と直交する方向に延びる穴とで構成され、油穴54hの穴あけ加工を容易に行うことが可能になっている。
【0032】
以上説明したように、第2の実施の形態によれば、油供給通路は、メタル54の後端側から内周油溝54cに向けて、メタル54の胴体に形成された油穴54fで構成されている。
この構成により、ハンマケース53とメタル54との嵌合面にグリスがもれないため、メタル54の供回りを確実に防止することができる。
【0033】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態のインパクトドライバ12では、
図6を参照すると、メタル542の内周面54bに油供給通路が形成されている点で第2の実施の形態と異なっている。なお、
図6(a)は、インパクトドライバ12の内部構造を示す側断面図であり、(b)は、メタル542を後方から見た正面図である。
【0034】
メタル542の内周面54bには、後端側から軸方向前方に向けて延びる内周縦油溝54iが形成されている。内周縦油溝54iは、少なくとも内周油溝54cまで到達しており、これにより、内周縦油溝54iが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。なお、第3の実施の形態では、アンビル52とメタル542との間の摺動面に油供給通路が形成されているため、アンビル52とメタル542との間の摺動面へのグリスの供給効率が優れている。また、
図6に示すように、内周縦油溝54iをアンビルとメタルとの間の摺動面の軸方向全域(後端から前端近傍まで)にわたって形成することもでき、この場合には、内周縦油溝54iから摺動面全域にグリスを供給することが可能になり、内周油溝54cを廃することも可能である。
【0035】
以上説明したように、第3の実施の形態によれば、油供給通路は、メタル54のアンビル52との摺動面である内周面54bに、後端側から軸方向前方に向けて延びる内周縦油溝54iで構成されている。
この構成により、内周縦油溝54iからも、メタル54とアンビル52との摺動面にグリスが供給されるため、メタル54とアンビル52との摺動面全域の潤滑を容易に行うことができる。
【0036】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態のインパクトドライバ13では、
図7を参照すると、アンビル521に油供給通路が形成されている点でこれまでの実施の形態と異なっている。なお、
図6(a)は、インパクトドライバ13の内部構造を示す側断面図であり、(b)は、アンビル521を後方から見た正面図である。インパクトドライバ13では、アンビル521に油供給通路が形成されているため、額部53bに額部油溝53dが形成されていないハンマケース531が用いられると共に、油供給通路が形成されていないメタル543が用いられる。
【0037】
アンビル521には、嵌合軸52bの後端面から軸方向前方に延びる油穴52dがアンビル521の軸心に形成されていると共に、油穴52dからメタル543の内周油溝54cに対向するアンビル521の摺動面に向かって斜めに延びる油穴52eとが形成されている。これにより、油穴52dと油穴52eとが油供給通路となり、油だまり室として機能する嵌合軸52bとスピンドル41の嵌合穴との間隙に充填されているグリスが、メタル543の内周油溝54cに供給される。
【0038】
以上説明したように、第4の実施の形態によれば、アンビル52に、嵌合軸52bの後端側からメタル54の内周油溝54cに油を供給する油供給通路が形成されている。油供給通路は、嵌合軸52bの後端面から軸方向前方に延びる油穴52dと、油穴52dからメタル54の内周油溝54cに向かって斜めに延びる油穴52eとで構成されている。
この構成により、アンビル52の回転に伴う遠心力を用いて、メタル54とアンビル52との摺動面にグリスを効率良く供給することができる。
【0039】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態のインパクトドライバ14では、
図8を参照すると、アンビル522に大径の油だまり穴52fが第4の実施の形態の油穴52dの代わりに形成されている。油だまり穴52fは、アンビル521の軸心に形成され、嵌合軸52bの後端面から軸方向前方に延び、メタル543の内周油溝54cに対向するアンビル521の摺動面に向かって斜めに延びる油穴52eと連通している。これにより、油穴52eとが油供給通路となり、油だまり穴52fに充填されたグリスが、メタル543の内周油溝54cに供給される。
【0040】
さらに、第5の実施の形態によれば、嵌合軸52bの後端面から軸方向前方に延びる油だまり穴52fは、油穴52dからメタル54の内周油溝54cに向かって斜めに延びる第2の油穴52eより大径である。
この構成により、グリスだまりの体積を確保することができ、メタル54とアンビル52との摺動面への供給に用いるグリス量を増加させることができ、耐久性を向上させることができる。
【0041】
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態のインパクトドライバ15では、
図9を参照すると、油だまり室として機能する嵌合軸52bとスピンドル41の嵌合穴との間隙と、メタル543の内周油溝54cとを直線で連通する油穴52gがアンビル523に形成されている点で第4の実施の形態と異なっている。油穴52gは、嵌合軸52bの後端面から前方に向けて、軸方向に対して斜めに、アンビル523の軸心と交差するように形成されている。これにより、油穴52gによって、嵌合軸52bの後端面とメタル543の内周油溝54cとを直線で連通することができる。
【0042】
さらに、第4の実施の形態によれば、油供給通路は、嵌合軸52dの後端面からメタル54の内周油溝54cに向かって直線状にアンビル52の軸心と交差して延びる油穴52gである。
この構成により、嵌合軸52dの直径を最大限に活用することができるため、油穴52gを直線状に形成することが可能になり、油穴52gの穴あけ加工を一工程にすることが可能になる。
【0043】
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態では、
図10を参照すると、メタル544の内周面54bに複数本の油供給通路が形成されている点で第3の実施の形態と異なっている。なお、
図10(a)は、メタル544を後方から見た正面図であり、(b)は、(a)に示すZ−Z断面図である。
【0044】
メタル544の内周面54bには、後端側から軸方向前方に向けて延びる4本の内周縦油溝54iが形成されている。4本の内周縦油溝54iは、全てが少なくとも内周油溝54cまで到達しており、これにより、4本の内周縦油溝54iが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。第7の実施の形態では、アンビル52とメタル544との間の摺動面に複数本の油供給通路が形成されているため、アンビル52とメタル544との間の摺動面へのグリスの供給量を増加させることができる。また、4本の内周縦油溝54iを全てもしくは一部をアンビル52とメタル544との間の摺動面の軸方向全域(後端から前端近傍まで)にわたって形成することもでき、この場合には、内周縦油溝54iから摺動面全域にグリスを供給することが可能になり、内周油溝54cを廃することも可能である。
【0045】
以上説明したように、第7の実施の形態によれば、油供給通路は、メタル544のアンビル52との摺動面である内周面54bに、後端側から軸方向前方に向けて延びる複数本の内周縦油溝54iで構成されている。
この構成により、アンビル52とメタル544との間の摺動面へのグリスの供給量を増加させることができる。
【0046】
(第8の実施の形態)
第8の実施の形態では、
図11を参照すると、メタル545の内周面54b全域に亘って複数本の油供給通路が形成されている点で第7の実施の形態と異なっている。なお、
図11(a)は、メタル545を後方から見た正面図であり、(b)は、(a)に示すZ−Z断面図である。
【0047】
メタル545において、内周油溝54cよりも後側の内周面には、後端側から軸方向前方に向けて延びる複数の内周縦油溝54iが全周に亘って連続的に形成されている。第8の実施の形態では、20本の内周縦油溝54iが形成され、全てが少なくとも内周油溝54cまで到達している。これにより、20本の内周縦油溝54iが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。第8の実施の形態では、メタル545の内周面54b全域に亘って20本の内周縦油溝54iが形成されているため、内周縦油溝54iの1本当たりの断面積を小さくすることができる共に、内周縦油溝54iの形成箇所に偏りがないため、内周縦油溝54iを形成しても十分なメタル545の強度を確保することができる。
【0048】
(第9の実施の形態)
第9の実施の形態では、
図12を参照すると、メタル546の内周面54bに形成されている油供給通路が軸方向に対して斜め、すなわち渦巻き状である点で第3の実施の形態と異なっている。なお、
図12(a)は、メタル546を後方から見た正面図であり、(b)は、(a)に示すZ−Z断面図である。
【0049】
メタル546の内周面54bには、内周斜め油溝54jが後端側から軸方向に対して斜めに、すなわち渦巻き状に形成されている。内周斜め油溝54jは、内周油溝54cまで到達しており、これにより、内周斜め油溝54jが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。
図13(a)は、メタル546の内周面展開図である。内周斜め油溝54jは軸方向に対して斜めに形成されているため、アンビル52の回転方向が、
図13(a)に矢印で示すアンビル回転方向である場合に、内周斜め油溝54j内のグリスを前方に向けて搬送する力が作用する。これにより、内周油溝54cへのグリスの供給を効率良く行うことができる。また、内周斜め油溝54jに代えて、
図13(b)に示すように、階段状の内周斜め油溝54kを形成するようにしても良い。さらに、
図13(c)に示すように、アンビル52とメタル546との間の摺動面の軸方向全域(後端から前端近傍まで)にわたって内周斜め油溝54lを形成するようにしても良い。この場合には、内周斜め油溝54lから摺動面全域にグリスを供給することが可能になり、内周油溝54cを廃することも可能である。すなわち、内周斜め油溝54j、54k、54lは、グリスの入口(内周油溝54c側と反対側の部分)と出口(内周油溝54c側)が周方向においてずれており、特に、出口を入口よりも周方向の前方(回転方向における前側)に配置することにより、内周斜め油溝内のグリスを前方に向けて搬送する力が作用する。これにより、内周油溝54cへのグリスの供給を効率良く行うことができる。なお、内周斜め油溝54jや54lは直線ではなく湾曲していても良い。
【0050】
また、
図14(a)に示すように、内周斜め油溝54jに加えて、内周斜め油溝54jとは異なる向きに傾いて、後端側から内周油溝54cまで到達している内周斜め油溝54j’をメタル546の内周面54bに形成しても良い。異なる方向に傾いている一対の内周斜め油溝54jと内周斜め油溝54j’とを形成することで、アンビル52がいずれの方向に回転しても、内周斜め油溝54jと内周斜め油溝54j’とのいずれか一方内のグリスが前方側に搬送され、他方内のグリスが後方側に搬送される。また、内周斜め油溝54jと内周斜め油溝54j’とは、内周油溝54cを介して前方側で接続されている。従って、内周斜め油溝54jと内周斜め油溝54j’とを通るグリスの流れが形成され、アンビル52とメタル546との間の摺動面にグリスが潤沢に供給される。
【0051】
また、
図14(a)に示す例では、内周斜め油溝54jと内周斜め油溝54j’とを内周油溝54cを介して前方側で接続するように構成したが、
図14(b)に示すように、内周油溝54cを廃して、後端側から前端近傍に向けて軸方向に対して斜めに形成された内周斜め油溝54mと、内周斜め油溝54mとは異なる向きに傾いて、後端側から前端近傍に向けて軸方向に対して斜めに形成された内周斜め油溝54m’とを前方側で直接接続するようにしても良い。さらに、
図14(c)、(d)に示すように、内周斜め油溝54mと内周斜め油溝54m’とを前方側で接続する接続油溝54nをメタル546の内周面54bに形成するようにしても良い。接続油溝54nは、任意の形状に形成することができる。すなわち、内周斜め油溝におけるグリスの入口と出口を周方向にずらして形成するようにすれば良い。
【0052】
(第10の実施の形態)
第10の実施の形態では、
図15を参照すると、メタル54と摺動するアンビル524の外周面52hに油供給通路が形成されている。
【0053】
アンビル524の外周面52hには、外周斜め油溝52iが後端側から軸方向に対して斜めに、すなわち渦巻き状に形成されている。外周斜め油溝52iは、メタル54の内周面54bに形成されている内周油溝54cの位置まで到達しており、これにより、外周斜め油溝52iが油供給通路となり、遊星歯車機構4及び打撃機構5に充填されているグリスが、内周油溝54cに供給される。
図16(a)は、アンビル524の外周面展開図である。外周斜め油溝52iは軸方向に対して斜めに形成されているため、アンビル52の回転方向が、
図16(a)に矢印で示すアンビル回転方向である場合に、外周斜め油溝52i内のグリスを前方に向けて搬送する力が作用する。これにより、内周油溝54cへのグリスの供給を効率良く行うことができる。また、外周斜め油溝52iに代えて、
図16(b)に示すように、階段状の外周斜め油溝52jを形成するようにしても良い。さらに、
図16(c)に示すように、アンビル524とメタル54との間の摺動面の軸方向全域(後端から前端近傍まで)にわたって外周斜め油溝52kを形成するようにしても良い。この場合には、外周斜め油溝52kから摺動面全域にグリスを供給することが可能になり、メタル54の内周油溝54cを廃することも可能である。すなわち、外周斜め油溝におけるグリスの入口と出口を周方向にずらして形成するようにすれば良い。
【0054】
また、
図17(a)に示すように、外周斜め油溝52iに加えて、外周斜め油溝52iとは異なる向きに傾いて、後端側から内周油溝54cの位置まで到達している外周斜め油溝52i’をアンビル524の外周面52hに形成しても良い。異なる方向に傾いている一対の外周斜め油溝52iと外周斜め油溝52i’とを形成することで、アンビル524がいずれの方向に回転しても、外周斜め油溝52iと外周斜め油溝52i’とのいずれか一方内のグリスが前方側に搬送され、他方内のグリスが後方側に搬送される。また、外周斜め油溝52iと外周斜め油溝52i’とは、内周油溝54cを介して前方側で接続されている。従って、外周斜め油溝52iと外周斜め油溝52i’とを通るグリスの流れが形成され、アンビル524とメタル54との間の摺動面にグリスが潤沢に供給される。
【0055】
また、
図17(a)に示す例では、外周斜め油溝52iと外周斜め油溝52i’とを内周油溝54cを介して前方側で接続するように構成したが、
図17(b)に示すように、内周油溝54cを廃して、後端側から前端近傍に向けて軸方向に対して斜めに形成された外周斜め油溝52lと、外周斜め油溝52lとは異なる向きに傾いて、後端側から前端近傍に向けて軸方向に対して斜めに形成された外周斜め油溝52l’とを前方側で直接接続するようにしても良い。さらに、
図17(c)、(d)に示すように、外周斜め油溝52lと外周斜め油溝52l’とを前方側で接続する接続油溝52mをアンビル524の外周面52hに形成するようにしても良い。接続油溝52mは、任意の形状に形成することができる。
【0056】
(第11の実施の形態)
第11の実施の形態は、
図18を参照すると、スピンドル411の前端に形成された嵌合軸41dと、アンビル525の後端に形成された嵌合穴52oとの嵌合により、アンビル525がスピンドル411によって同軸回転可能に支承されているタイプのインパクトドライバ16であり、第3の実施の形態のメタル542によってアンビル525が回転可能に支承されている。
【0057】
第3の実施の形態のメタル542の内周縦油溝54iのように、メタル542とアンビル525との摺動面に後端側から前方に向けて油供給通路が形成されている実施の形態(第7〜第10の実施の形態)は、スピンドル411の嵌合軸41dとアンビル525の嵌合穴52oとを嵌合するタイプのインパクトドライバ16に適用しても、メタル542とアンビル525との摺動面に対してグリスを好適に供給することができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。本実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。