(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極芯体の表面に正極活物質層が形成された方形状の正極極板と、負極芯体の表面に負極活物質層が形成された方形状の負極極板とをセパレータを介して積層した積層型電極体を非水電解質と共に外装体に収納した非水電解質二次電池であって、
前記正極極板の幅及び高さがそれぞれ100mm以上であり、前記負極極板の幅及び高さがそれぞれ100mm以上であり、前記積層型電極体は10枚以上の前記正極極板と10枚以上の前記負極極板をセパレータを介して積層したものであり、
前記正極活物質層は、正極活物質としてLia(NibCocMnd)MeO2(ここで、1.05≦a≦1.20、0.3≦b≦0.6、b+c+d=1、0≦e≦0.05、M=Ti、Nb、Mo、Zn、Al、Sn、Mg、Ca、Sr、Zr、Wよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、
前記非水電解質は非水溶媒及び電解質塩を含有し、前記非水溶媒に含有される鎖状カーボネートの割合が前記非水溶媒に対して50体積%以上であり、前記鎖状カーボネートに含有されるジエチルカーボネートの割合が前記鎖状カーボネートに対して70体積%以上である非水電解質二次電池。
前記鎖状カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びメチルエチルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源として、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が多く使用されている。更に、原油価格の高騰や環境保護運動の高まりを背景として、非水電解質二次電池を用いた電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、電動バイク等の電動車両の開発が活発に行われている。また、深夜電力や太陽光発電の電力を貯蔵することを目的とした大型蓄電システムに用いられる二次電池として中大型の非水電解質二次電池の開発が進められている。
【0003】
このような電動車両や大型蓄電システム等に用いられる非水電解質二次電池については、高容量、高エネルギー密度であることが求められると共に、急速充電や高負荷放電を行う必要上、大電流で充放電を行った場合の電池特性(負荷特性)の向上が強く求められる。また、電動車両や大型蓄電システム等に用いられる非水電解質二次電池では、要求される電池寿命は小型携帯機器用の二次電池に比べて長く、充放電サイクルが進んでも電池特性が低下しないことが重要となる。
【0004】
高容量、高エネルギー密度の非水電解質二次電池としては、大面積の正極極板及び負極極板をセパレータを介して積層した積層型電極体を備えた非水電解質二次電池が有効である。しかしながら、大面積の正極極板及び負極極板をセパレータを介して積層した積層型電極体を備えた非水電解質二次電池では、電解液の分解等により発生したガスが電極体の内部から外部に抜け難くなる。そのため、充放電反応が不均一となり、充放電サイクルに伴う電池性能の劣化が加速するという課題が生じる。
【0005】
長尺状の正極極板及び負極極板をセパレータを介して巻回した巻回型電極体の場合は、充放電に伴う電極体の膨張・収縮により、電極体に緩みや撓みが生じ易く、電極体内部で発生したガスは電極体外部に抜け易い。これに対して、積層型電極体の場合は、各部にかかる構成圧が略均一であるため、充放電により電極体が膨張・収縮しても電極体に緩みや撓みが生じ難く、電極体内部からガスが抜け難い。したがって、大面積の極板からなる積層型電極体を用いた非水電解質二次電池は、巻回型電極体を用いた非水電解質二次電池に比べ、充放電サイクルに伴う電池性能の劣化が顕著である。
【0006】
一方、負荷特性に優れた非水電解質二次電池を得るためには、遷移金属に対してリチウムリッチな条件で合成したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることが好ましい。なお、遷移金属に対してリチウムリッチな条件で合成したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることを開示した先行技術として、例えば特許文献1及び特許文献2がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、遷移金属に対してリチウムリッチな条件で合成したチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた場合、残存のリチウム酸化物の分解や、残存のリチウム酸化物の電気抵抗に起因する不均一反応によりガス発生が顕著化するため、各極板が大面積である積層型電極体を備えた非水電解質二次電池では良好な電池特性を得難く、特に高温条件下での充放電サイクル特性(高温サイクル特性)が低下するという課題が生じた。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するものであり、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の非水電解質二次電池は、正極芯体の表面に正極活物質層が形成された方形状の正極極板と、負極芯体の表面に負極活物質層が形成された方形状の負極極板とをセパレータを介して積層した積層型電極体を非水電解質と共に外装体に収納した非水電解質二次電池であって、前記正極極板の幅及び高さがそれぞれ100mm以上であり、前記負極極板の幅及び高さがそれぞれ100mm以上であり、前記積層型電極体は10枚以上の前記正極極板と10枚以上の前記負極極板をセパレータを介して積層したものであり、前記正極活物質層は、正極活物質としてLi
a(Ni
bCo
cMn
d)M
eO
2(ここで、1.05≦a≦1.20、0.3≦b≦0.6、b+c+d=1、0≦e≦0.05、M=Ti、Nb、Mo、Zn、Al、Sn、Mg、Ca、Sr、Zr、Wよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、前記非水電解質は非水溶媒及び電解質塩を含有し、前記非水溶媒に含有される鎖状カーボネートの割合が前記非水溶媒に対して50体積%以上であり、前記鎖状カーボネートに含有されるジエチルカーボネートの割合が前記鎖状カーボネートに対して70体積%以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明によると、幅及び高さがそれぞれ100mm以上の方形状の正極極板と幅及び高さがそれぞれ100mm以上の方形状の負極極板とを、セパレータを介してそれぞれ10枚以上積層した積層型電極体を備えた、高容量の非水電解質二次電池が得られる。更に、正極活物質層として、Li
a(Ni
bCo
cMn
d)M
eO
2(ここで、1.05≦a≦1.20、0.3≦b≦0.6、b+c+d=1、0≦e≦0.05、M=Ti、Nb、Mo、Zn、Al、Sn、Mg、Ca、Sr、Zr、Wよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用い、非水溶媒に含有される鎖状カーボネートの割合を前記非水溶媒に対して50体積%以上とし、前記鎖状カーボネートに含有されるジエチルカーボネートの割合を前記鎖状カーボネートに対して70体積%以上とすることにより、大面積の正極極板及び負極極板を用いた積層型電極体を備えた非水電解質二次電池であっても、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0012】
なお、本発明では、各極板において集電タブが設けられた辺の長さを「幅」とし、集電タブが設けられた辺と垂直な辺の長さを「高さ」とする。また、「幅」及び「高さ」は、極板において活物質層が形成されている領域の長さとする。
【0013】
また、本発明では、正極極板と負極極板をそれぞれ10枚以上積層した積層型電極体を用いることにより、耐変形強度が向上し、衝撃に対して安定な非水電解質二次電池が得られる。
【0014】
本発明では、鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びメチルエチルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
本発明では、正極活物質として、Li
a(Ni
bCo
cMn
d)M
eO
2(ここで、1.05≦a≦1.20、0.3≦b≦0.6、0<c、0<d、b+c+d=1、0≦e≦0.05、M=Ti、Nb、Mo、Zn、Al、Sn、Mg、Ca、Sr、Zr、Wよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。
【0016】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の構造内に過剰Liが存在するとともにCo及びMnが存在するため、結晶構造が安定化し、サイクル特性がより優れた非水電解質二次電池が得られる。また、リチウム遷移金属複合酸化物の構造内にTi、Nb、Mo、Zn、Al、Sn、Mg、Ca、Sr、Zr、Wよりなる群から選択される少なくとも1種の元素が存在すると、よりサイクル特性が優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0017】
本発明では、前記負極活物質層が、ゴム系結着材を含有することが好ましい。負極活物質層における結着材としてポリフッ化ビニリデンを用いることも考えられる。しかし、ポリフッ化ビニリデンは、結着性及び膨潤性が低いため、負極活物質中のポリフッ化ビニリデンの含有量を多くする必要があり、大面積の極板からなる積層型電極体を用いる非水電解質二次電池においては、充放電反応が不均一となり易く、サイクル特性が向上し難い。これに対して、ゴム系結着材は結着性及び膨潤性に優れるため、負極活物質層における結着材としてゴム系結着材を用いることによりサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。ゴム系結着材としては、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリレート等を用いることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記非水電解質が、ビニレンカーボネートを前記非水溶媒に対して0.5〜4.0質量%含有することが好ましい。
【0019】
これにより、負極極板表面に良好な被膜が形成され、電解液の分解によるガス発生を抑制できる。したがって、より高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0020】
本発明では、前記外装体は金属箔の両面に樹脂層が形成されたラミネート材からなり、前記外装体が減圧状態で封止されていることが好ましい。
【0021】
これにより、積層電極体が均一に加圧されるため、充放電反応が均一に起こり易くなり、よりサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の最良の形態を詳細に説明するが、本発明はこの最良の形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
まず、本発明の実施例に係る非水電解質二次電池として、ラミネート外装体を備えたリチウムイオン電池20を、
図1〜
図3に基づいて説明する。
【0025】
図1に示すように、リチウムイオン電池20は、ラミネート外装体1の内部に積層型電極体10が非水電解液とともに収容され、ラミネート外装体1の溶着封止部1’から、正極集電タブ4及び負極集電タブ5にそれぞれ接続された正極端子6及び負極端子7が突出している。ラミネート外装体1の溶着封止部1’において、正極端子6及び負極端子7とラミネート外装体1の間には、それぞれ正極タブ樹脂8、負極タブ樹脂9が配置されている。
【0026】
正極極板2は
図2Aに示すように、正極芯体の両面に正極活物質層2aが形成されており、一方の端部からは正極活物質層2aが形成されていない正極芯体が正極集電タブ4として突出している。負極極板3は
図2Bに示すように、負極芯体の両面に負極活物質層3aが形成されており、一方の端部からは負極活物質3aが形成されていない負極芯体が負極集電タブ5として突出している。
【0027】
積層型電極体10は、
図3に示すように、正極極板2と負極極板3とがセパレータを介して交互に積層され、最外側両面に負極極板3が配置されている。そして、その外側両面には、さらに絶縁シート12が配置され、絶縁テープ11により固定されている。積層型電極体10では、正極集電タブ4及び負極集電タブ5が同じ方向に突出して、正極集電タブ4及び負極集電タブ5がそれぞれ積層される。積層された正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極端子6及び負極端子7に超音波溶接により接続される。
【0028】
この積層型電極体10が、積層型電極体10を収納できるようにカップ成形されたラミネートフィルムとシート状のラミネートフィルムの間に挿入される。そして、正極集電タブ4及び負極集電タブ5がラミネート外装体1の溶着封止部1’から突出するように周囲3辺が熱溶着される。その後、ラミネート外装体1における熱溶着されていない開口部から非水電解液が注液された後、ラミネート外装体1の開口部が溶着されることによりリチウムイオン電池20が作製される。
【0029】
次に、本発明に係るリチウムイオン電池20の製造方法を実施例1を用いて説明する。
【0030】
[実施例1]
〔正極極板の作製〕
正極活物質としてのLi
1.10(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2を94質量%と、導電剤としてのカーボンブラックを3質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量%と、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを混合して正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを、正極芯体としてのアルミニウム箔(厚み:20μm)の両面にドクターブレード法により塗布した。その後、加熱することにより溶剤を除去し、ローラーで厚み0.2mmにまで圧縮した後、
図2Aに示すように幅L1=150mm、高さL2=150mmになるように切断して、両面に正極活物質層2aを有する正極極板2を作製した。この際、正極極板2の端部から幅L3=30mm、高さL4=20mmの正極活物質層2aが形成されていない正極芯体を延出させて正極集電タブ4とした。
【0031】
〔負極極板の作製〕
負極活物質としての黒鉛を98質量%と、カルボキシメチルセルロース(CMC)を1質量%と、スチレンブタジエンゴム(SBR)を1質量%と、水とを混合することにより負極合剤スラリーを得た。その後、この負極合剤スラリーを、負極芯体としての銅箔(厚み:10μm)の両面にドクターブレード方により塗布した。その後、加熱することにより水を除去し、ローラーで厚み0.2mmにまで圧縮した後、
図2Bに示すように、幅L6=155mm、高さL6=155mmになるように切断して、両面に負極活物質層3aを有する負極極板3を作製した。この際、負極極板の端部から幅L7=30mm、高さL8=20mmの負極活物質層3aが形成されていない負極芯体を延出させて負極集電タブ5とした。
【0032】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比で30:70の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、ビニレンカーボネート(VC)を非水溶媒に対して3.0質量%添加し、非水電解液を作製した。なお、本発明における非水溶媒中の各溶媒の体積比は、25℃、1気圧の条件下における比率である。
【0033】
〔積層型電極体の作製〕
上記の方法で作製した正極極板2を20枚と、上記の方法で作成した負極極板3を21枚とを、ポリエチレン製微多孔膜セパレータ(155mm×155mm、厚さ20μm)を介して交互に積層し積層型電極体10を作製した。なお、積層型電極体10においては、最外側両面に負極極板3を配置し、さらにその外側両面に絶縁シート12を配置し、絶縁テープ11により固定した。
【0034】
〔集電端子の溶接〕
各正極極板2の正極集電タブ4を一つに束ね、幅30mm、高さ50mm、厚み0.4mmのアルミニウム板よりなる正極端子6に超音波溶接法により接合した。また、各負極極板3の負極集電タブ5を一つに束ね、幅30mm、長さ50mm、厚み0.4mmの銅板よりなる負極端子7に超音波溶接法により接合した。ここで、正極端子6及び負極端子7にはそれぞれ正極タブ樹脂8及び負極タブ樹脂9が接着されている。正極タブ樹脂8及び負極タブ樹脂9は後述するように正極端子6及び負極端子7とラミネート外装体1の間にそれぞれ介在し、正極端子6及び負極端子7とラミネート外装体1の接着性を向上させることにより、ラミネート外装体1の封止性を向上させる。
【0035】
〔外装体への封入〕
あらかじめ電極体が設置できるようにカップ状に成形したラミネート外装体1に、上記の方法で作製した積層型電極体10を挿入し、正極端子6及び負極端子7のみがラミネート外装体1より外部に突出するようにして、正極端子6及び負極端子7がある辺を除く3辺のうち1辺を残し、3辺を熱融着した。ここで、正極タブ樹脂8及び負極タブ樹脂9は、正極端子6及び負極端子7とラミネート外装体の間にそれぞれ介在する状態となる。
【0036】
〔電解液の封入、密封化〕
上記ラミネート外装体1の熱溶着していない1辺から、上記の方法で調製した非水電解液を注入した。その後、ラミネート外装体1の内部が減圧状態(90kPa)になるようにして、ラミネート外装体1における熱溶着していない1辺を熱溶着して、実施例1のリチウムイオン電池とした。
【0037】
[実施例2]
非水電解液として、ECとDECを体積比で20:80の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例2のリチウムイオン電池とした。
【0038】
[実施例3]
非水電解液として、EC、DEC、メチルエチルカーボネート(MEC)を体積比で30:49:21の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例3のリチウムイオン電池とした。
【0039】
[実施例4]
非水電解液として、EC、プロピレンカーボネート(PC)、DECを体積比で20:10:70の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例4のリチウムイオン電池とした。
【0040】
[実施例5]
非水電解液として、EC、DECを体積比で50:50の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例5のリチウムイオン電池とした。
【0041】
[比較例1]
非水電解液として、EC、DEC、MECを体積比で30:35:35の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例1のリチウムイオン電池とした。
【0042】
[比較例2]
非水電解液として、ECとDECを体積比で60:40の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例2のリチウムイオン電池とした。
【0043】
[実施例6]
正極活物質として、Li
1.20(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例6のリチウムイオン電池とした。
【0044】
[実施例7]
正極活物質として、Li
1.06(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例7のリチウムイオン電池とした。
【0045】
[実施例8]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例8のリチウムイオン電池とした。
【0046】
[実施例9]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例9のリチウムイオン電池とした。
【0047】
[実施例10]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.6Co
0.1Mn
0.3)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、実施例10のリチウムイオン電池とした。
【0048】
[比較例3]
正極活物質として、Li
1.03(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例3のリチウムイオン電池とした。
【0049】
[比較例4]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.8Co
0.2)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例3のリチウムイオン電池とした。
【0050】
[比較例5]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.8Co
0.1Mn
0.1)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例5のリチウムイオン電池とした。
【0051】
[比較例6]
正極活物質として、Li
1.10(Ni
0.2Co
0.8)O
2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、比較例6のリチウムイオン電池とした。
【0052】
[参考例1]
幅及び高さが異なることを除いて実施例1と同様の方法で作製した正極極板及び負極極板を用いて、巻回型電極体(巻回数:21)を作製し、円筒形リチウムイオン電池を作製して参考例1のリチウムイオン電池とした。正極極板は、幅及び高さがそれぞれ56mm、590mmの長尺状のものを用い、負極極板は、幅及び高さがそれぞれ60mm、600mmの長尺状のものを用いた。この円筒形リチウムイオン電池30は
図4に示すように、長尺状の正極極板14と長尺状の負極極板15とを、長尺状のセパレータ16を介して巻回した巻回型電極体を、実施例1で調整した非水電解液と共に有底筒状の外装缶13の内部に収納している。外装缶13の開口部は、封口体17により封止され、外装缶13と封口体17の間には絶縁パッキング18が介在し、外装缶13と封口体17は電気的に絶縁されている。正極極板14に接続された正極リード14aが封口体17に接続され、封口体17が正極端子の役割を果たす。また、負極極板15に接続された負極リード15aが外装缶13に接続され、外装缶13が負極端子の役割を果たす。
【0053】
[参考例2]
非水電解液として、EC、DEC、MECを体積比で30:35:35の割合で混合した非水溶媒に、LiPF
6を1.2mol/Lの濃度で溶解し、VCを非水溶媒に対して3.0質量%添加した非水電解液を用いたこと以外は参考例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、参考例2のリチウムイオン電池とした。
【0054】
[参考例3]
正極極板2の幅及び高さを150mm×75mmとし、負極極板3の幅及び高さを155mm×80mmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、参考例3のリチウムイオン電池とした。
【0055】
[参考例4]
正極極板2の幅及び高さを150mm×75mmとし、負極極板3の幅及び高さを155mm×80mmとしたこと以外は比較例1と同様の方法でリチウムイオン電池を作製し、参考例4のリチウムイオン電池とした。
【0056】
[高温サイクル試験]
実施例1〜10、比較例1〜6、参考例1〜4のリチウムイオン電池について、50℃の温度条件下で定電流充電(1C、終止電圧4.2V)‐定電圧充電(電圧4.2V、終止電流1/50C)後、電流値2Cレートで3.0Vまで放電した。これを1サイクル目の充放電とした。ついで、このような充放電を400サイクル繰り返して行い、1サイクル目の放電容量に対する400サイクル目の放電容量の比率(%)を、容量維持率(%)とした。
容量維持率(%)=(400サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0057】
実施例1〜10、比較例1〜6、参考例1〜4の高温サイクル試験の結果を表1〜4に示す。
【0059】
表1は、正極活物質がいずれも、Li
1.10(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2である実施例1〜5、比較例1及び2についての高温サイクル試験の結果を示すものである。非水溶媒中の鎖状カーボネートの割合が50体積%であり、且つ鎖状カーボネート中のDECの割合が70体積%以上である実施例1〜5では、容量維持率が84〜86%と高い値となった。これに対し、鎖状カーボネート中のDECの割合が50体積%である比較例1では、容量維持率が79%と低い値となった。また、非水溶媒中の鎖状カーボネートの割合が40体積%である比較例2では、容量維持率が79%と低い値となった。これらのことから、リチウムリッチな正極活物質を用いた非水電解質二次電池においては、非水溶媒中の鎖状カーボネートの割合を非水溶媒に対して50体積%以上とし、且つ鎖状カーボネート中のジエチルカーボネートの割合を鎖状カーボネートに対して70体積%以上とすることにより、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られることが分かる。
【0061】
表2は、非水溶媒の組成がいずれも体積比でPC:DEC=30:70である実施例1、6〜10、比較例3〜6についての高温サイクル試験の結果を示すものである。正極活物質におけるLi量(組成式中のLiのモル比)がで1.06以上であり、正極活物質におけるNi量(組成式中のNiのモル比)が0.3〜0.6である実施例1、6〜10では、容量維持率が85〜87%と高い値となった。これに対し、正極活物質におけるLi量が1.03の比較例3では、容量維持率が79%と低い値となった。また、正極活物質におけるNi量が0.2である比較例6、正極活物質におけるNi量が0.8である比較例4及び5では、容量維持率が78〜79%と低い値となった。これらのことから、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得るためには、正極活物質中のLi量を1.05〜1.20とし、正極活物質中のNi量を0.3〜0.6とする必要があると考えられる。
【0063】
表3は、正極活物質がいずれも、Li
1.10(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2である実施例1、比較例1、参考例1及び2についての高温サイクル試験の結果を示すものである。参考例1と参考例2を比較すると、巻回型電極体を用いた円筒形リチウムイオン電池では非水溶媒の組成が異なっていても、高温サイクル特性に影響がないことが分かる。また、鎖状カーボネート中のDECの割合が50体積%である参考例2でも、容量維持率が82%と比較的高い値となった。巻回型電極体では、大面積の極板を用いた積層型電極体に比べて、高温サイクルにより電極体内部で発生したガスが電極体外部に抜け易く、高温条件下での充放電サイクルによる容量低下が小さいと考えられる。このことから、高温条件下での充放電サイクルによる容量の低下は、大面積の極板を用いた積層型電極体を備えた非水電解質二次電池特有の課題で有ることが分かる。なお、巻回型電極体を用いた非水電解質二次電池では、大容量の電池を得られ難いという課題がある。
【0065】
表4は、正極活物質がいずれもLi
1.10(Ni
0.3Co
0.4Mn
0.3)O
2である実施例1、比較例1、参考例3及び4についての高温サイクル試験の結果を示すものである。表4より、負極極板の高さが80mmの場合、非水溶媒の組成は容量維持率にほとんど影響を与えないのに対し、負極極板の幅及び高さが共に155mmである場合、非水溶媒の組成は容量維持率に大きく影響することが分かる。このことから、高温条件下における充放電サイクルによる容量低下という課題は、幅及び高さが共に100mm以上の大面積の極板を用いた積層型電極体を備える非水電解質二次電池特有の課題であると考えられる。なお、極板の一辺の長さが100mmより小さくなると、大容量の二次電池を得ることは困難である。
【0066】
以上の結果より、本願発明では、特定組成のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用い、特定組成の非水溶媒を含有する非水電解質を用いることにより、大面積の正極極板と負極極板を積層した積層型電極体を備えた非水電解質二次電池であっても、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0067】
本発明において、負極活物質としては、黒鉛、黒鉛化されたピッチ系炭素繊維、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、熱分解炭素、ガラス状炭素、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、コークス、酸化スズ、珪素、酸化珪素、及びそれらの混合物等、を使用することができる。
【0068】
本発明において、非水電解質の非水溶媒としては、従来から非水電解質二次電池において一般的に使用されているカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を使用することができ、これらの非水溶媒の2種類以上を混合して用いることができる。特に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネートと、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを混合して用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解液に添加することもできる。
【0069】
本発明において、非水電解質の電解質塩としては、従来のリチウムイオン二次電池において電解質塩として一般に使用されているものを用いることができる。例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4、Li
2B
10Cl
10、Li
2B
12Cl
12、LiB(C
2O
4)
2、LiB(C
2O
4)F
2、LiP(C
2O
4)
3、LiP(C
2O
4)
2F
2,LiP(C
2O
4)F
4等及びそれらの混合物が用いられる。これらの中でも、LiPF
6が特に好ましい。また、前記非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0070】
本発明において、外装体としてラミネート外装体以外にも金属製の外装缶を用いることもできる。ラミネート外装体としては、金属シートの表面に樹脂層が形成されたものを使用することができる。例えば、金属層としてアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等を、内層(電池内側)としてポリエチレン、ポリプロピレン等を、外層(電池外側)としてナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET/ナイロンの積層膜等を、それぞれ用いて構成されるものが挙げられる。