(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルコールを亜硝酸エステル製造用の反応塔の上部に供給して該反応塔の上部から下部に流下させると共に、一酸化窒素と酸素又はそれらの混合ガスを該反応塔の下部に供給して、前記一酸化窒素と前記酸素と前記アルコールとを反応させて亜硝酸エステルを生成させる、亜硝酸エステルの製造方法であって、
前記反応塔の底部から、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液を抜き出して反応器に供給すると共に、前記反応器に一酸化窒素及び/又は一酸化炭素を供給する工程と、
前記反応器中で前記塔底液と前記一酸化炭素及び/又は前記一酸化窒素とを接触させて亜硝酸エステルを生成させる工程と、
前記反応器で得られた前記亜硝酸エステルを前記反応塔に供給する工程と、
前記反応器の下部から、水と硝酸とアルコールとを含有する反応液を硝酸濃縮塔に供給する工程と、
前記硝酸濃縮塔において、前記硝酸濃縮塔の底部に生じる濃縮液中のアルコール濃度を4.0重量%未満に制御しながら、前記反応液から低沸点分を蒸留分離し、前記硝酸濃縮塔の下部から前記濃縮液を抜き出して前記反応器に導入する工程と、を有する亜硝酸エステルの製造方法。
前記反応器で得られた前記亜硝酸エステルは、前記反応塔の中間部、下部又はこれらの間に設けられた供給口から前記反応塔に供給される、請求項1に記載の亜硝酸エステルの製造方法。
前記反応塔の下部から抜き出した前記塔底液を冷却器に導入して冷却し、冷却された前記塔底液を前記反応塔の中間部に循環供給する、請求項1又は2に記載の亜硝酸エステルの製造方法。
前記反応液は、前記硝酸濃縮塔の中間部よりも上側に設けられた供給口から前記硝酸濃縮塔に供給される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の亜硝酸エステルの製造方法。
前記硝酸濃縮塔で蒸留分離された低沸点分を精製して得られるアルコールは、前記反応塔の中間部よりも上側に設けられた供給口から前記反応塔に供給される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜硝酸エステルの製造方法。
前記反応器に一酸化炭素を含むガスを供給し、前記反応器中で、前記一酸化炭素と前記反応液とを白金族触媒存在下で接触させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の亜硝酸エステルの製造方法。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法で製造した亜硝酸エステルと一酸化炭素とを触媒存在下で反応させて、シュウ酸ジアルキルを製造する工程を有するシュウ酸ジアルキルの製造方法。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法で製造した亜硝酸エステルと一酸化炭素とを触媒存在下で反応させて、炭酸ジアルキルを製造する工程を有する炭酸ジアルキルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を、場合により図面を参照して以下に説明する。各図面において、同一又は同等の要素には同一の番号を付し、場合により重複する説明を省略する。なお、以下の実施形態は、本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の亜硝酸エステルの製造方法は、一酸化炭素による硝酸還元プロセスによって亜硝酸エステルを製造する方法である。この亜硝酸エステルの製造方法は、シュウ酸ジエステルの製造方法及び炭酸ジエステルの製造方法に好適に適用することができる。
【0017】
図1は、本実施形態の亜硝酸エステルの製造方法を行う亜硝酸エステル製造装置を示す図である。
図1の亜硝酸エステル製造装置100において、液状のアルコールは、アルコール供給ライン11(以下、「配管11」ともいう)から亜硝酸エステル製造用の反応塔1(以下、「反応塔1」ともいう)の上部に供給される。
【0018】
本明細書における反応塔1の上部とは、反応塔1の上下方向における中間部よりも上側の部分をいう。本明細書における反応塔1の中間部とは、反応塔1の高さを100としたとき、40〜60の高さの区間をいう。本明細書における反応塔1の下部とは、反応塔1の上下方向における中間部よりも下側の部分をいう。
【0019】
反応塔1の上部には、アルコールを供給するための供給口が設けられている。当該供給口に配管11が接続されている。配管11を流通してこの供給口から反応塔1の上部に供給されたアルコールは、反応塔1の上部から下方に流下する。
【0020】
反応塔1の中間部よりも下側には、反応塔1に一酸化窒素を供給するための供給口が設けられている。この供給口には原料ガス供給ライン12(以下、「配管12」ともいう)が接続されている。配管12を流通した一酸化窒素は、この供給口から反応塔1の下部に供給される。反応塔1の下部に供給された一酸化窒素は、反応塔1の下部から上方に上昇する。
【0021】
酸素供給ライン15(以下、「配管15」ともいう)は、配管12に接続されている。配管15は、反応塔1の下部に接続されていてもよく、反応塔1の下部と配管12の両方に接続されていてもよい。酸素は、配管15を通って、配管12及び/又は反応塔1の下部に供給される。これらのうち、反応効率の点から、酸素は配管12に供給されることが好ましい。この場合、反応塔1の下部には、一酸化窒素と酸素との混合ガスが供給される。
【0022】
反応塔1に供給された、アルコールと一酸化窒素と酸素とが反応塔1の内部で反応して、亜硝酸エステルが生成する。このときの反応としては、例えば下記式(1)が挙げられる。反応塔1の塔頂部には、第1反応ガス抜き出しライン13(以下、「配管13」ともいう)が接続されている。下記式(1)等によって生成した亜硝酸エステルを含有する第1反応ガスは、配管13を用いて反応塔1から抜き出すことによって得られる。なお、反応塔1では、下記式(1)の他に、下記式(2)で表される反応が進行してもよい。式(1)、(2)中、Rはアルキル基を示す。
2NO+2ROH+1/2O
2 → 2RONO+H
2O (1)
NO+3/4O
2+1/2H
2O → HNO
3 (2)
【0023】
反応塔1の塔底液は、少なくとも水と未反応のアルコールと硝酸とを含有する。この塔底液は、反応塔1の下部から、塔底液抜き出しライン14(以下、「配管14」ともいう)を用いて抜き出され、硝酸変換用反応器2(以下、「反応器2」ともいう)に供給される。配管14は、反応塔1の下部の反応液が抜き出せる位置に接続されていればよく、具体的には、反応塔1の底部に接続されていることが好ましい。配管14が反応器2に接続される位置は特に限定されず、反応器2への塔底液の供給のしやすさの点から、反応器2の上部に接続されていることが好ましい。
【0024】
配管14を経由して反応器2に供給された塔底液は、一酸化炭素及び/又は一酸化窒素と接触して、例えば式(3)及び(4)に表される反応によって、亜硝酸エステルを生成する。すなわち、硝酸とアルコールと一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とが反応し、亜硝酸エステルが生成される。なお、式(3)及び(4)中、Rはアルキル基を示す。
HNO
3+2NO+3ROH → 3RONO+2H
2O (3)
HNO
3+CO+ROH → RONO+H
2O+CO
2 (4)
【0025】
反応器2で生成した亜硝酸エステルを含有する第2反応ガスは、第2反応ガス抜き出しライン18(以下、「配管18」ともいう)から抜き出され、反応塔1に供給される。配管18は、
図1に示すように、反応塔1の上下方向の中間部よりも上方に設けられた供給口に接続されている。これによって、第2反応ガスは、反応塔1の上部に供給される。
【0026】
反応器2において、塔底液と接触させるガスとして、一酸化炭素を用いる場合には、反応効率を向上させる点から、触媒の存在下で塔底液と一酸化炭素とを接触させることが好ましい。ここで用いる触媒としては、白金族金属を含む触媒が好ましく、パラジウムを含む触媒がより好ましい。白金族金属を含む触媒としては、白金族金属が担体に担持された触媒が好ましい。また、反応器2中の反応液は、10〜60℃に制御することが好ましい。
【0027】
このような触媒における白金族金属の担持量としては、担体に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.2〜2重量%であることがより好ましい。触媒を構成する担体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻土、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の不活性担体が挙げられる。これらの中でもアルミナが好ましく、α−アルミナが特に好ましい。
【0028】
反応器2に一酸化炭素を供給する場合には、
図1に示すように、一酸化炭素は一酸化炭素供給ライン16(以下、「配管16」ともいう)を用いて反応器2に供給される。一酸化炭素の反応効率の点から、配管16は、反応器2の下部に接続されていることが好ましい。すなわち、配管16は、反応器2の上下方向の中間部よりも下方に設けられた供給口に接続されることが好ましい。また、反応器2に一酸化炭素を供給する場合には、
図1に示すように、配管18は反応塔1の高さ方向の中間部に接続されていることが好ましい。これにより、第2反応ガス中の一酸化炭素の酸化を低減することができる。
【0029】
本明細書における反応器2の上部とは、反応器2の上下方向における中間部よりも上側の部分をいう。本明細書における反応器2の中間部とは、反応器2の高さを100としたとき、40〜60の高さの区間をいう。本明細書における反応器2の下部とは、反応器2の上下方向における中間部よりも下側の部分をいう。
【0030】
配管16を経由して反応器2に供給される一酸化炭素と、後述する第2一酸化炭素供給ライン32を用いて供給される一酸化炭素とは、同じ一酸化炭素源から供給されるものであってもよく、異なる一酸化炭素源から供給されるものであってもよい。
【0031】
図2は、亜硝酸エステルの製造方法を行う亜硝酸エステル製造装置の別の実施形態を示す図である。
図3は、亜硝酸エステルの製造方法を行う亜硝酸エステル製造装置のさらに別の実施形態を示す図である。
図2に示す亜硝酸エステル製造装置101及び
図3に示す亜硝酸エステル製造装置102では、反応器2に一酸化窒素供給ライン17(以下、「配管17」ともいう)が接続されている。反応器2に一酸化窒素を供給する場合は、
図2及び
図3に示すように、一酸化窒素は配管17を用いて、反応器2に供給される。一酸化窒素の反応効率の点から、配管17は、反応器2の下部に接続されていることが好ましい。また、反応器2に一酸化窒素を供給する場合には、
図2及び
図3に示すように、配管12を流通する一酸化窒素含有ガスを、配管17を用いて反応器2に供給してもよい。また、一酸化窒素は、一酸化窒素ガスタンク等から、別の配管を用いて反応器2に供給してもよい。
【0032】
反応器2に一酸化窒素を供給する場合は、
図2に示すように、第2反応ガスを第2反応ガス抜き出しライン31(以下、「配管31」ともいう)を用いて、配管12に戻すことができる。この場合、第2反応ガスを、酸素を供給する配管15と配管12の接続部分よりも上流側の位置に戻すことによって、第2反応ガス中の一酸化窒素をより効率よく反応させることができる。
【0033】
一方、
図3に示すように、第2反応ガスを、配管18を用いて、反応塔1に供給することもできる。この場合、第2反応ガスを反応塔1の中間部に供給することにより、第2反応ガスから亜硝酸エステルをより効率よく生成させることができる。
【0034】
亜硝酸エステル製造装置100,101,102において、反応塔1の下部から配管14を用いて抜き出された塔底液は、その一部又は全部を塔底液循環ライン19(以下、「配管19」ともいう)と冷却器4を経由して反応塔1に循環させることができる。これは、反応塔1中での反応温度を制御する必要がある場合に行うことが好ましい。反応塔1における反応温度は、0〜100℃であることが好ましく、5〜80℃であることがより好ましく、10〜60℃であることがさらに好ましい。配管19を流通する循環液は、反応塔1の中間部に供給されることが好ましい。
【0035】
反応器2から反応液抜き出しライン21(以下、「配管21」ともいう)を用いて抜き出された反応液は、硝酸濃縮塔3に供給される。配管21は、反応器2の反応液が抜き出せる位置に接続されていればよい。配管21は、反応液を抜き出す効率の点から、反応器2の下部に接続されていることが好ましく、底部に接続されていることがより好ましい。
【0036】
配管21は、硝酸濃縮塔3へ反応液を供給できる位置に接続されていればよい。配管21は、反応液の濃縮効率の点から、硝酸濃縮塔3の上部に接続されていることが好ましい。本明細書における硝酸濃縮塔3の上部とは、硝酸濃縮塔3の上下方向における中間部よりも上側の部分をいう。本明細書における硝酸濃縮塔3の中間部とは、反応塔1の高さを100としたとき、40〜60の高さの区間をいう。本明細書における硝酸濃縮塔3の下部とは、硝酸濃縮塔3の上下方向における中間部よりも下側の部分をいう。
【0037】
反応液を硝酸濃縮塔3の上部に供給することによって、反応液が硝酸濃縮塔の底部に到達するまでに、反応液に含まれるアルコールを留去することができる。これによって、反応液が、アルコール濃度が高い状態で、硝酸濃度が高い濃縮液に接触するのを抑制することが可能となり、硝酸アルキルの生成を抑制することができる。硝酸アルキルは、爆発性液体であることから、工程内で蓄積する量を低減することが好ましい。
【0038】
硝酸濃縮塔3では、少なくとも水とアルコールと硝酸とを含有する反応液を加熱濃縮し、低沸物である水やアルコールの一部又は全部を留出液として留出させる。これによって、硝酸が濃縮された濃縮液を得ることができる。硝酸濃縮塔3では、硝酸濃縮塔3の底部に生じる濃縮液中のアルコール濃度を4.0重量%未満に制御する。これによって、硝酸濃縮塔3の底部で硝酸とアルコールとが反応して、硝酸エステルが生成することを抑制することができる。硝酸エステルは、爆発性液体であることから、工程内で蓄積する量を低減することが好ましい。硝酸濃縮塔3では、硝酸濃縮塔3の底部に生じる濃縮液中のアルコール濃度を3.6重量%未満に制御することが好ましい。
【0039】
硝酸濃縮塔3の底部に生じる濃縮液中のアルコール濃度は、硝酸濃縮塔3の大きさや底部の温度、圧力、理論段数、濃縮液の抜き出し量などを調整することによって、制御することができる。
【0040】
濃縮液中のアルコール濃度は、例えば、配管22で抜き出された濃縮液をサンプリングして、ガスクロマトグラフ法蒸留試験を行って測定してもよいし、オンラインアナライザを用いて測定してもよい。オンラインアナライザを用いる場合、オンラインアナライザでのアルコール濃度の検出結果の入力信号に基づいて、硝酸濃縮塔3の圧力、底部の温度、圧力及び濃縮液の抜き出し量を調整する出力信号を発信する制御部を備えていてもよい。すなわち、制御部は、オンラインアナライザからのアルコール濃度に関する信号に基づいて、硝酸濃縮塔3の運転状態を変更する制御処理(例えば、硝酸濃縮塔3に供給するアルコール流量の制御、硝酸濃縮塔3内の温度の制御、又は冷却器4の冷却効率の制御など)を行うものとすることができる。このように濃縮液のアルコール濃度を自動で制御することによって、運転効率を高くすることができる。
【0041】
硝酸濃縮塔3内の圧力は、特に制限されず、減圧されて大気圧未満であることが好ましい。減圧下で反応液を濃縮することにより、濃縮液中のアルコール濃度を一層低くすることができる。硝酸濃縮塔3内の圧力は、例えば、6〜70kPaであってもよく、10〜50kPaであってもよい。硝酸濃縮塔3内の底部の温度は、例えば30〜90℃であってもよく、40〜85℃であってもよい。硝酸濃縮塔3の底部の温度を下げることで硝酸メチルの生成を抑制することができる。
【0042】
留出液は、硝酸濃縮塔3の上部に接続された留出液抜き出しライン24(以下、「配管24」ともいう)から抜き出される。配管24から抜き出された留出液を蒸留して分離されるアルコールを再利用することも可能である。再利用されるアルコールは、必要に応じてアルコール用タンクに一時的に貯蔵し、反応塔1の上部に接続された配管11などから反応系内に供給することができる。
【0043】
アルコールを再利用する場合には、留出液中の硝酸エステルがアルコール中に蓄積していく傾向にある。このため、留出液中の硝酸エステル濃度を低減することによって、アルコール中に蓄積する硝酸エステルの量を低減することができる。留出液を中和した後に、留出液を蒸留してアルコールを分離すれば、再利用するアルコール中の硝酸エステル濃度を一層低減することができる。留出液における硝酸エステルの濃度は、好ましくは50重量ppm未満であり、より好ましくは30重量ppm未満であり、さらに好ましくは20重量ppm未満である。
【0044】
硝酸濃縮塔3で濃縮された濃縮液は、濃縮液抜き出しライン22(以下、「配管22」ともいう)及び濃縮液循環ライン23(以下、「配管23」ともいう)を用いて、反応器2に供給される。配管22は、硝酸濃縮塔3の下部に接続されていることが好ましく、底部に接続されていることがより好ましい。配管23は、反応器2の上部に接続されていることが好ましく、頂部に接続されていることがより好ましい。濃縮液の一部は、廃液抜き出しライン25(以下、「配管25」ともいう。)を用いて、廃液として処理することもできる。本実施形態の廃液は、硝酸濃度が十分に低減されていることから、廃液として処理しても、原料として用いる一酸化窒素などの窒素源を十分に低減することができる。
【0045】
硝酸濃縮塔3には、規則充填物や不規則充填物等の充填材を充填し、蒸留の理論段数を向上させることが好ましい。硝酸濃縮塔3の理論段数は1以上が好ましく、5以上であることがより好ましい。硝酸濃縮塔3の理論段数は、例えば1〜20であってもよく、5〜10であってもよい。
【0046】
反応系内の圧力を調整するため、パージライン20(以下、「配管20」ともいう)を用いて、反応ガス等の一部を反応系外にパージすることもできる。各実施形態では配管13にパージライン20を接続している。ただし、このような態様に限定されるものではなく、パージラインは、ガスが流通する配管であれば、どこに接続してもよい。
【0047】
亜硝酸エステルの製造装置100,101,102は、いずれも、反応器2からの反応液から低沸点分を留去して、硝酸分を濃縮する硝酸濃縮塔を備えている。そして、この硝酸濃縮塔からの硝酸濃縮液におけるアルコール濃度を4質量%以下に維持することによって、低沸点分に混入する硝酸アルキル等の硝酸分を十分に低減することができる。これによって、廃液処理される硝酸分の量を十分に低減することができる。そして、硝酸濃縮液は、反応器2に循環することによって、硝酸成分を有効に利用している。したがって、原料として用いられる一酸化窒素を十分に低減することができる。
【0048】
図4は、本実施形態のシュウ酸ジエステルの製造方法又は炭酸ジエステルの製造方法が適用される製造装置の概略構成を示す図である。
図5は、別の実施形態のシュウ酸ジエステルの製造方法又は炭酸ジエステルの製造方法が適用される製造装置の概略構成を示す図である。
図4に示すシュウ酸ジエステル又は炭酸ジエステルの製造装置200は、
図1に示す亜硝酸エステルの製造装置100を備えている。
図5に示すシュウ酸ジエステル又は炭酸ジエステルの製造装置201は、
図2に示す亜硝酸エステル製造装置101を備えている。
【0049】
図4,5に示すように、配管13から抜き出された亜硝酸エステルを含有する第1反応ガスを用いて、シュウ酸ジエステル及び炭酸ジエステルの製造を行うこともできる。これらの場合、配管13は、シュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステル製造用の反応器5(以下「反応器5」ともいう)に接続されている。第1反応ガスは、配管13を経由して反応器5(以下「反応器5」ともいう)に供給される。反応器5の上流側において、配管13には、一酸化炭素供給ライン32(以下、「配管32」ともいう。)が接続されている。配管13を流通する第1反応ガスは、配管32から供給される一酸化炭素とともに、反応器5に供給される。反応器5において、下記式(5)及び/又は(6)に示すとおり、第1反応ガスに含まれる亜硝酸エステルと一酸化炭素とが反応して、シュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルを生成する。式(5)、(6)中、Rはアルキル基を示す。
CO+2RONO → ROC(=O)OR+2NO (5)
2CO+2RONO → (RCO
2)
2+2NO (6)
【0050】
一酸化炭素供給ライン(配管16及び32)を用いて供給される一酸化炭素は純粋なものでもよく、窒素などの不活性ガスで希釈されていてもよく、水素ガス又はメタンガスを含んでいてもよい。
【0051】
反応器5は、特に制限されず、単管式又は多管式の熱交換器型反応器が好ましい。反応器5中では、亜硝酸エステルと一酸化炭素とを、シュウ酸ジエステル製造用触媒及び/又は炭酸ジエステル製造用触媒存在下で反応させることが好ましい。シュウ酸ジエステル製造用触媒や炭酸ジエステル製造用触媒は、パラジウム等の公知の触媒を用いることができ、アルミナ等の担体に担持させた触媒を用いてもよい。反応器5における反応温度や圧力についても、公知の条件を採用することができる。
【0052】
本実施形態の製造方法で製造するシュウ酸ジエステルは、好ましくはシュウ酸ジアルキルである。シュウ酸ジアルキル分子中の2つのアルキル基は、同一でも、異なっていてもよい。シュウ酸ジアルキルとしては、例えば、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジイソプロピル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、シュウ酸ジヘキシル、シュウ酸ジヘプチル、シュウ酸ジオクチル、シュウ酸ジノニル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸エチルプロピル等のシュウ酸ジアルキルが挙げられる。シュウ酸ジアルキルの中でも、エステル交換反応の反応速度及び副生成するアルキルアルコールの除去しやすさの観点から、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するシュウ酸ジアルキルが好ましく、シュウ酸ジメチル又はシュウ酸ジエチルがより好ましい。
【0053】
本実施形態の製造方法で製造する炭酸エステルは、好ましくは炭酸ジアルキルである。炭酸ジアルキル分子中の2つのアルキル基は、同一でも異なっていてもよい。炭酸ジアルキルとしては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、炭酸ジペンチル、炭酸ジヘキシル、炭酸ジヘプチル、炭酸ジオクチル、炭酸ジノニル、炭酸エチルメチル、炭酸エチルプロピル等の炭酸ジアルキルが挙げられる。
【0054】
炭酸ジアルキルの中でも、エステル交換反応の反応速度及び副生成するアルキルアルコールの除去のしやすさの観点から、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する炭酸ジアルキルが好ましく、炭酸ジメチル又は炭酸ジエチルがより好ましい。
【0055】
反応器5で得られたシュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルを含有する第3反応ガスは、第3反応ガス抜き出しライン26(以下、「配管26」ともいう)を経由して、吸収塔6に供給される。吸収塔6には、配管26の他に、吸収液供給ライン27(以下、「配管27」ともいう)が接続されている。吸収塔26には、配管27から、第3反応ガス中のシュウ酸ジエステル又は炭酸ジエステルを吸収するための吸収液が供給される。
【0056】
配管26は吸収塔6の下部に接続されており、配管27は吸収塔6の上部に接続されている。このような構成とすることによって、吸収塔6内でのシュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルの吸収効率を向上させることができる。吸収液は、アルコール及び/又はシュウ酸ジエステルであることが好ましい。
【0057】
吸収塔6で吸収液に吸収されたシュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルは、吸収液と共に、吸収塔6の底部に接続された凝縮液抜き出しライン28(以下、「配管28」ともいう。)から抜き出される。吸収塔6から抜き出されたシュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルを含む吸収液は、蒸留等の精製工程によって精製される。これによって、シュウ酸ジエステル及び/又は炭酸ジエステルが得られる。
【0058】
一方、吸収塔6で吸収液に吸収されなかったガス成分は、吸収塔6の上部に接続された原料ガス供給ライン12を経由して、原料ガスとして、反応塔1に供給される。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、製造装置200,201において、炭酸ジエステルとシュウ酸ジエステルとを別々に製造してもよく、第1反応ガス中における一酸化炭素と亜硝酸エステルとの含有割合を調整することによって、炭酸ジエステルとシュウ酸ジエステルとを同時に製造してこれらの混合物を得てもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明の内容をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
図1に示すような反応器2及び硝酸濃縮塔3を備える装置を用いて、蒸留プロセスを行った。硝酸濃縮塔3は、以下のような構成を有する連続蒸留装置とした。すなわち、硝酸濃縮塔3の底部をなす約100mlの球状部分と、該球状部分の上部の開口に連結された、直径25mm、高さ275mmの円筒状部分とからなる容器を準備した。円筒状部分には、充填材として、スルーザーラボパッキングEX(商品名、住友重機械工業社製)を5個充填した。容器の球状部分を、加熱用のオイルバスで加熱可能な構成とした。円筒状部分の充填材の上側(硝酸濃縮塔3の上部)には配管21を接続し、円筒状部分の上端、すなわち塔頂には配管24を接続した。また、球状部分の下部には配管22を接続した。
【0062】
反応器2から、以下の組成を有する反応液を、199.2g/hの流量で、配管21を介して硝酸濃縮塔3の上部に連続的に供給した。
反応液の組成:メタノール30.8重量%、硝酸1.6重量%、水61.7重量%、その他5.9重量%
【0063】
硝酸濃縮塔3において、300Torr(約40kPa)、底部温度78℃、塔頂温度69℃の条件下で、反応液の加熱濃縮を行った。硝酸濃縮塔3の塔頂部からは、配管24によって169.4g/hの留出量で留出液を抜き出した。硝酸濃縮塔3の底部からは、配管22によって29.8g/hの抜き出し量で濃縮液を抜き出した。
【0064】
この時、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は0.2重量ppmであった。留出液及び濃縮液の組成は、ガスクロマトグラフ法蒸留試験によって分析した。
留出液の組成:メタノール36.2重量%、水57.6重量%、その他6.2重量%
濃縮液の組成:メタノール0.006重量%、硝酸10.7重量%、水85.0重量%、その他残余(約4.3重量%)
【0065】
実施例1の結果を表1に纏めて示す。実施例1では、留出液中の硝酸メチル濃度を十分に低減することができた。すなわち、実施例1では、従来廃液に含まれていた硝酸化合物(硝酸メチル)を、反応器2に循環して再利用することができるようになった。これによって、装置内に供給される窒素分を有効利用することが可能となった。
【0066】
(実施例2)
反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を200.1g/h、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を17.8g/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして蒸留プロセスを行った。実施例2の結果を表1に纏めて示す。
【0067】
硝酸濃縮塔3の底部の温度は80℃であり、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、0.6重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール33.8重量%、水60.1重量%、その他6.1重量%
濃縮液の組成:メタノール0.105重量%、硝酸18.0重量%、水78.0重量%、その他残余(約3.9重量%)
【0068】
(実施例3)
硝酸濃縮塔3の円筒状部分に充填するスルーザーラボパッキングEXの個数を1個にしたこと、反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を199.8g/hにしたこと、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を17.8g/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして蒸留プロセスを行った。実施例3の結果を表1に纏めて示す。
【0069】
硝酸濃縮塔3の底部の温度は81℃であり、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、8重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール33.7重量%、水60.3重量%、その他6.0重量%
濃縮液の組成:メタノール0.9重量%、硝酸18.0重量%、水76.0重量%、その他5.1重量%
【0070】
(実施例4)
配管21の接続位置を、硝酸濃縮塔3の上部から硝酸濃縮塔3の下部に変更した。具体的には、硝酸濃縮塔3における充填材の充填位置よりも下側(硝酸濃縮塔3の下部)に配管21を接続した。これによって、反応器2からの反応液を硝酸濃縮塔3の下部に連続的に供給した。この変更点に加えて、硝酸濃縮塔3の圧力を100Toor(約13kPa)としたこと、反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を200.2g/h、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を20.0g/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして蒸留プロセスを行った。実施例4の結果を表1に纏めて示す。
【0071】
硝酸濃縮塔3の底部の温度は51℃であり、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、2重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール33.8重量%、水60.2重量%、その他6.0重量%
濃縮液の組成:メタノール3.6重量%、硝酸16.0重量%、水75.0重量%、その他5.4重量%
【0072】
(実施例5)
実施例4と同様に、反応液を硝酸濃縮塔3の下部に連続的に供給したこと、反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を199.9g/h、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を32.0g/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして蒸留プロセスを行った。実施例5の結果を表1に纏めて示す。
【0073】
硝酸濃縮塔3の底部の温度は76℃であり、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、13重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール36.1重量%、水57.6重量%、その他6.3重量%
濃縮液の組成:メタノール2.9重量%、硝酸10.0重量%、水83.0重量%、その他4.1重量%
【0074】
(比較例1)
反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を201.0g/h、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を20.1g/hとしたこと以外は、実施例5と同様にして行った。比較例1の結果を表1に纏めて示す。
【0075】
硝酸濃縮塔の底部の温度は78℃であり、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、500重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール33.8重量%、水60.2重量%、その他6.0重量%
濃縮液の組成:メタノール4.0重量%、硝酸16.0重量%、水75.0重量%、その他5.0重量%
【0076】
(比較例2)
硝酸濃縮塔3内の圧力を常圧としたこと、反応器2から硝酸濃縮塔3に供給する反応液の流量を199.5g/h、硝酸濃縮塔3からの濃縮液の抜き出し量を31.9g/hとしたこと以外は、実施例5と同様にして蒸留プロセスを行った。比較例2の結果を表1に纏めて示す。
【0077】
硝酸濃縮塔の底部の温度は98℃で、留出液及び濃縮液の組成は以下のとおりであった。留出液中の硝酸メチル濃度は、150重量ppmであった。
留出液の組成:メタノール35.5重量%、水58.2重量%、その他6.3重量%
濃縮液の組成:メタノール6.2重量%、硝酸10.0重量%、水80.0重量%、その他3.8重量%
【0078】
【表1】
【0079】
濃縮液中のメタノール濃度を4.0重量%未満に制御した実施例1〜5では、留出液中の硝酸メチル濃度が十分に低く、窒素分の損失が少ないことが分かる。また、実施例1と実施例5とを比較すると、硝酸濃縮塔への供給位置が上部である場合、供給位置が下部である場合に比べて、留出液中の硝酸メチルの濃度が低くなることが分かる。さらに、実施例1と実施例3を比較すると、理論段数が約5である実施例1の方が、理論段数が約1である実施例3よりも留出液中の硝酸メチルの濃度が低くなることが分かる。