特許第6070720号(P6070720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070720光学素子作製用金型の製造方法、及び光学素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070720
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】光学素子作製用金型の製造方法、及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/38 20060101AFI20170123BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20170123BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20170123BHJP
【FI】
   B29C33/38ZNM
   B29C59/02 B
   G02B1/118
【請求項の数】3
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-552072(P2014-552072)
(86)(22)【出願日】2013年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2013083250
(87)【国際公開番号】WO2014092132
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-272227(P2012-272227)
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】大 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 啓
(72)【発明者】
【氏名】八田 嘉久
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/001670(WO,A1)
【文献】 特開2009−175401(JP,A)
【文献】 特開2009−034630(JP,A)
【文献】 特開2012−028067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/38,33/42,
G02B 1/11,5/18,
H01L 21/027,51/50,
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレスからなる母材の表面に無機膜を製膜する製膜工程と、前記無機膜の表面に、複数の粒子を単一層で配列させる粒子配列工程と、前記複数の粒子をエッチングマスクとして前記無機膜をドライエッチングし、当該無機膜上に凹凸構造を形成するエッチング工程と、を有し、
前記無機膜を、下記(A2)および(B2)〜(D2)のうち、少なくとも1種を含む材料により形成する、光学素子作製用金型の製造方法
(A2)Cr,W,Ti、またはCr,W,Ni,Tiを2種以上含む合金からなる金属、
(B2)Cr,W,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物、
(C2)Cr,W,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物、
(D2)Cr,W,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。
【請求項2】
前記粒子配列工程は、水の液面上に単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、前記単粒子膜を、前記無機膜の表面に移行させる移行工程とを有する、請求項に記載の光学素子作製用金型の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光学素子作製用金型の製造方法によって光学素子作製用金型を得、得られた前記光学素子作製用金型を用い、ナノプリント又は射出成形によって光学素子を作製する、光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止体等の光学素子を作製する際に使用される金型及びその金型の製造方法、並びに光学素子に関する。
本願は、2012年12月13日に、日本に出願された特願2012−272227号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)や発光ダイオード等の発光デバイスにおいては、光の取り出し効率を向上させるために、微細な凹凸を有する反射防止体等の光学素子を光取り出し面に取り付けることがある。
光学素子を製造する方法としては、金型を用いて樹脂を成形する方法が広く採用されている。光学素子作製用の金型としては、母材の表面に、微細な凹凸を有する凹凸層が設けられたものが使用されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−252936号公報
【特許文献2】特開2001−121582号公報
【特許文献3】特開2004−268331号公報
【特許文献4】特開2009−292703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の金型を用いて得た光学素子はいずれも、回折光の指向性が高くなる傾向にあった。例えば反射防止体において、回折光の指向性が高いと、見る角度によってはカラーシフトが生じ、透過する光が白色の場合には、反射防止体を通過した光が有色に見え、透過する光が有色の場合には、反射防止体を通過した光が本来の色とは異なる色に見えることがあった。また、例えば有機EL等に用いる目的で、反射防止体の凹凸構造を格子構造とする場合は、格子構造によって生じる回折光がXY面内方向に関して異方性を持つようになるため、発光デバイスとして均一な光学効果を得ることが難しかった。
回折光の指向性を低下させるためには、微細な格子構造の凹凸をランダムな配置の凹凸にすればよい。しかし、ランダムな凹凸では、凹凸のピッチを調整できず、目的の光学的機能を得ることが困難である。
本発明は、回折光の指向性を低減できる光学素子を容易に作製でき、しかも凹凸のピッチを調整可能な光学素子作製用金型及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、回折光の指向性を低減できる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]母材と、前記母材の表面に形成された凹凸層とを備え、前記凹凸層の凹凸構造は、隣接する7つの凸部の中心点が正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係で連続して整列しているエリアを複数備え、該複数のエリアの面積、形状および結晶方位がランダムである、光学素子作製用金型。
すなわち、母材と、前記母材の表面上に形成され、凹凸構造を有する凹凸層とを備え、前記凹凸構造は、隣接する7つの凸部の中心点が正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係で連続して整列しているエリアを複数備え、前記複数のエリアの面積、形状および結晶方位がランダムである、光学素子作製用金型。
[2]前記凹凸層が、下記(A1)および(B)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成されている、[1]に記載の光学素子作製用金型:
(A1)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ti、またはこれら元素を2種以上含む合金からなる金属、(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物、(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物、及び(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。
または、前記凹凸層が、下記(A)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成されている、[1]に記載の光学素子作製用金型。
(A)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Ti、またはSi,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiを2種以上含む合金からなる金属、(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物、(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物、(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。
[3]前記母材の前記表面は、平板状である[1]または[2]に記載の光学素子作成用金型。
[4]前記母材の前記表面は、凹曲面または凸曲面を有する[1]または[2]に記載の光学素子作成用金型。
[5]母材の表面に無機膜を製膜する製膜工程と、前記無機膜の表面に、複数の粒子を単一層で配列させる粒子配列工程と、前記複数の粒子をエッチングマスクとして前記無機膜をドライエッチングするエッチング工程と、を有する、光学素子作製用金型の製造方法。
[6]粒子配列工程は、水の液面上に単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、前記単粒子膜を、前記無機膜の表面に移行させる移行工程とを有する、[5]に記載の光学素子作製用金型の製造方法。
[7]前記無機膜を、下記(A1)および(B)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成されている、[4]または[5]に記載の光学素子作製用金型の製造方法:
(A1)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ti、またはSi,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiを2種以上含む合金からなる金属、(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物、(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。
または、前記無機膜を、下記(A)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成する、[5]または[6]に記載の光学素子作製用金型の製造方法。
(A)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Ti、またはこれら元素を2種以上含む合金からなる金属(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。
[8][1]〜[4]のいずれか一項に記載の光学素子作製用金型を用いたナノインプリントまたは射出成形によって作製された光学素子。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学素子作製用金型及びその製造方法によれば、回折光が生じるような微細なピッチの凹凸を設けるにもかかわらず、回折光の指向性を低減できる光学素子を容易に作製でき、しかも凹凸のピッチの調整も可能である。
本発明の光学素子によれば、回折光の指向性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の光学素子作製用金型の第1の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図1の光学素子作製用金型を構成する凹凸層を示す拡大断面図である。
図3図1の光学素子作製用金型を構成する凹凸層を示す拡大平面図である。
図4】単粒子膜形成工程で配列された粒子を模式的に示す平面図である。
図5A】LB法を利用した粒子配列工程における移行工程開始前の状態を示す説明図である。
図5B】LB法を利用した粒子配列工程における移行工程中の状態を示す説明図である。
図6A図1の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、粒子配列工程後の状態を示す図である。
図6B図1の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、エッチング工程の途中の状態を示す図である。
図6C図1の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、エッチング工程後の状態を示す図である。
図7】実施例の光学素子において、光学素子から出射したレーザー光の回折光を投影させた回折像である。
図8】比較例の光学素子において、光学素子から出射したレーザー光の回折光を投影させた回折像である。
図9】本発明の光学素子作製用金型の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
図10】本発明の光学素子作製用金型の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
図11A図9の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、粒子配列工程後の状態を示す図である。
図11B図9の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、エッチング工程の途中の状態を示す図である。
図11C図9の光学素子作製用金型の製造方法の説明図であって、エッチング工程後の状態を示す図である。
図12】本発明の光学素子作製用金型の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
図13】本発明の光学素子作製用金型の第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
<光学素子作製用金型>
本発明の光学素子作製用金型(以下、「金型」と略す。)の一実施形態を示す。
図1に、本実施形態の金型を示す。本実施形態の金型10は、表面11aが平面の板状体からなる母材11と、母材11の表面11aに設けられた凹凸層12とを備える。
【0009】
金型の大きさは、該金型によって作製する光学素子に応じて適宜選択される。たとえば、光学素子が有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子である場合、母材11の表面11aの面積が30mm×30mm〜1100mm×1300mm、好ましくは200mm×200mm〜400mm×500mmである。
【0010】
(母材)
母材11の材質としては特に制限されず、例えば、鉄、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、クロム、銅、モリブデン、コバルト、タングステン、チタン、タングステンカーバイド、サーメット等を用いることができる。母材11の表面11aの面積は、該金型によって作製する光学素子の面積に応じて適宜選択される。母材11の厚さは、金型10としての強度を保持できれば特に限定されないが、たとえば0.1mm〜100mmであってよく、好ましくは0.3mm〜10mmである。
【0011】
母材11の形状は、平板状体である。表面11aの表面粗さ(Ra)は0.1nm〜50nmであり、好ましくは0.1nm〜10nmである。表面11a上には、凹凸層12が形成される。
【0012】
(凹凸層)
凹凸層12は、光学素子の材料と接する面が凹凸面12aとされた層である。本実施形態では、多数の円錐形の凸部E(nは1以上の正数)を有している。
凹凸層12は、硬度が高く、製膜性に優れることから、下記(A)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成されていることが好ましい。
(A)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Ti、またはこれら元素を2種以上含む合金からなる金属。合金の場合、例えば、Cr−Mo、Cr−W、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Ti、Ni−Cr、Ni−Cr−Mo、Ti−Ta、Ti−W、W−Mo等が挙げられる。
(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物。前記金属酸化物としては、SiO、Cr、MoO、WO、Ta、NiO、TiO等が挙げられる。
(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物。該金属窒化物としては、例えば、SiN、TiN、CrN、TaN(Ti、Cr)N、WN等が挙げられる。
(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。該金属炭化物としては、例えば、SiC,WC、TiC、Cr等が挙げられる。
これらのうちでも、より製膜しやすいことから、Cr、Mo、W、Ti、Ta、SiO、TiO、SiN、TiN、SiC、WCが好ましい。
【0013】
凹凸層12は、下記(A1)および(B)〜(D)の少なくとも1種を含む材料により形成されていることがより好ましい。
(A1)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ti、またはSi,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiを2種以上含む合金からなる金属。合金の場合、例えば、Cr−Mo、Cr−W、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Ti、Ni−Cr、Ni−Cr−Mo、Ti−Ta、Ti−W、W−Mo等が挙げられる。
(B)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属酸化物。前記金属酸化物としては、SiO、Cr、MoO、WO、Ta、NiO、TiO等が挙げられる。
(C)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属窒化物。該金属窒化物としては、例えば、SiN、TiN、CrN、TaN(Ti、Cr)N、WN等が挙げられる。
(D)Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の金属炭化物。該金属炭化物としては、例えば、SiC,WC、TiC、Cr等が挙げられる。
これらのうちでも、より製膜しやすいことから、Cr、Mo、W、Ti、Ta、SiO、TiO、SiN、TiN、SiC、WCが好ましい。また後述するエッチング工程に用いられるエッチングガスに対するエッチング速度の観点から、Cr、W、SiN、TiN、SiCであることがさらに好ましい。
【0014】
母材11の材料と凹凸層12の材料の組み合わせは、母材11上に凹凸層12を製膜する際の密着性や、強度などを考慮して決定することができる。例えば、母材11としてステンレスを用いた場合は、凹凸層12はTi、Cr、W、Niを含むことが好ましい。
【0015】
光学素子の用途によって微細な凹凸の最頻ピッチと最頻高さおよび形状は決定される。例えば、該金型によって反射防止体を製造する場合、微細な凹凸の最頻ピッチは使用する光の波長に合わせて調整することが好ましい。この場合、波長が400nm〜750nm程度の可視光を使用するので、50nm以上300nm以下のピッチの凹凸が好ましい。さらに、微細な凹凸のピッチが50nm以上150nm以下であれば、可視光領域での回折光を減少させることができる。波長750nm程度〜10000nm以下の赤外領域を使用する場合、500nm以上5000nm以下の最頻ピッチの凹凸が好ましい。
凹凸面における凸部Eの最頻ピッチPは、具体的には次のようにして求められる。
まず、凹凸面12aにおける無作為に選択された領域で、一辺が最頻ピッチPの30〜40倍の正方形の領域について、AFMイメージを得る。例えば、最頻ピッチが300nm程度の場合、9μm×9μm〜12μm×12μmの領域のイメージを得る。そして、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像(高速フーリエ変換像)を得る。次いで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求める。こうして求められた距離の逆数がこの領域における最頻ピッチPである。このような処理を無作為に選択された合計25カ所以上の同面積の領域について同様に行い、各領域における最頻ピッチを求める。こうして得られた25カ所以上の領域における最頻ピッチP〜P25の平均値が最頻ピッチPである。なお、この際、各領域同士は、少なくとも1mm離れて選択されることが好ましく、より好ましくは5mm〜1cm離れて選択される。
【0016】
光学素子の用途によって微細な凹凸の最適なアスペクト比は決定される。例えば、該金型によって有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子を製造する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.1〜1.0が好ましい。例えば、該金型によって反射防止体を製造する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.5〜4.0であることがより好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.0であることが好ましい。
ここで、アスペクト比は、最頻高さH/最頻ピッチPで求められる値である。
最頻高さHは、具体的には次のようにして求められる。
まず、AFMイメージから、任意の方向と位置における長さ1mmの線に沿った凸部Eの頂点を通り、基板に垂直な断面、即ち図2のような断面を得る。この断面の凸部Eが30個以上含まれる任意の部分を抽出し、その中に含まれる各凸部Eについて、その頂点の高さと、当該凸部Eに隣接する凸部Eとの間の平坦部における最も低い位置の高さとの差を求め、得られた値を有効桁数2桁で丸め各凸部Eの高さとし、その最頻値を最頻高さHとする。
該金型によって有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子を製造する場合、凸部の最頻高さHは、10nm〜500nmの間であることが好ましく、15nm〜150nmであることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、有機ELや薄膜デバイスの光取り出し効率が向上するという効果が得られる。また、該金型によって可視光を対象とする反射防止体を製造する場合、凸部の最頻高さHは、25nm〜1200nmの間であることが好ましく、120nm〜500nmであることが更に好ましい。また、該金型によって赤外光を対象とする反射防止体を製造する場合、凸部の最頻高さHは、250nm〜10000nmの間であることが好ましく、750nm〜10000nm〜であることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、反射防止性能が向上するという効果が得られる。
【0017】
凹凸層12の凹凸面12aは、図3に示すように複数のエリアC〜Cを有する。各エリアC〜Cは、隣接する7つの凸部の中心点が正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係で連続して整列している領域である。なお、図3では、各凸部の中心点の位置を、便宜上、その中心点を中心とする円uで示している。
隣接する7つの凸部の中心点が正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係とは、具体的には、以下の条件を満たす関係をいう。
まず、1つの中心点t1(図2参照)から、隣接する中心点t2の方向に長さが最頻ピッチPと等しい長さの線分L1を引く。次いで中心点t1から、線分L1に対して、60゜、120゜、180゜、240゜、300゜の各方向に、最頻ピッチPと等しい長さの線分L2〜L6を引く。中心点t1に隣接する6つの中心点が、中心点t1と反対側における各線分L1〜L6の終点から、各々最頻ピッチPの15%以内の範囲にあれば、これら7つの中心点は、正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係にある。
【0018】
各エリアC〜Cの最頻面積Q(各エリア面積の最頻値)は、以下の範囲であることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm未満の時、10mm×10mmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.026μm〜6.5mmであることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm以上1μm未満の時、10mm×10mmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.65μm〜26mmであることが好ましい。
最頻ピッチPが1μm以上の時、50mm×50mmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、2.6μm〜650mmであることが好ましい。
最頻面積Qが好ましい範囲内であれば、光のカラーシフトをより抑制しやすい。
【0019】
また、各エリアC〜Cは、図3に示すように、面積、形状および結晶方位(粒子配列がつくる六方格子の方位)がランダムである。ここでいうエリアC〜Cの格子方位とは、基板の上面から見た場合、同一エリア内で近接する凸部の頂点を結んで得られる基本並進ベクトル(三角格子の場合は2つ存在する)の方向であるともいえる。各エリアC〜Cの面積、形状および結晶方位がランダムであることにより、回折光を平均化して指向性を低減でき、該金型から得るものが反射防止体である場合には、カラーシフトを抑制でき、該金型から得るものが、有機EL等に用いる格子構造体である場合には、格子の効果の異方性を低減できる。
面積のランダム性の度合いは、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、ひとつのエリアの境界線が外接する最大面積の楕円を描き、その楕円を下記式(α)で表す。
/a+Y/b=1・・・・・・(α)
最頻ピッチPが500nm未満の時、10mm×10mmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、0.08μm以上であることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm以上1000nm未満の時、10mm×10mmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、1.95μm以上であることが好ましい。
最頻ピッチPが1000nm以上の時、50mm×50mmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、8.58μm以上であることが好ましい。
πabの標準偏差が好ましい範囲内であれば、回折光の平均化の効果が優れる。
【0020】
また、各エリアC〜Cの形状のランダム性の度合いは、具体的には、前記式(α)におけるaとbの比、a/bの標準偏差が0.1以上であることが好ましい。
また各エリアC〜Cの結晶方位のランダム性は、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、任意のエリア(I)における任意の隣接する2つの凸部の中心点を結ぶ直線K0を画く。次に、該エリア(I)に隣接する1つのエリア(II)を選択し、そのエリア(II)における任意の凸部と、その凸部に隣接する6つの凸部の中心点を結ぶ6本の直線K1〜K6を画く。直線K1〜K6が、直線K0に対して、いずれも3度以上異なる角度である場合、エリア(I)とエリア(II)との結晶方位が異なる、と定義する。
エリア(I)に隣接するエリアの内、結晶方位がエリア(I)の結晶方位と異なるエリアが2以上存在することが好ましく、3以上存在することが好ましく、5以上存在することがさらに好ましい。
【0021】
(作用効果)
上記光学素子作製用金型10を構成する凹凸層12の凹凸は、適度にランダムになっている。そのため、回折光が生じるような微細なピッチの凹凸を設けるにもかかわらず、回折光の指向性を低下させることができ、カラーシフトを抑制することができる。
また、凹凸層12の凹凸は、完全なランダムなものではなく、各エリアC〜Cの範囲内では一定の秩序を有している。そのため、凹凸のピッチを容易に調整でき、目的の光学的機能を容易に得ることができる。
【0022】
<金型の製造方法>
上記金型10の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、製膜工程と粒子配列工程とエッチング工程とを有する。
【0023】
(製膜工程)
製膜工程は、母材11の表面11aに後に凹凸層12となる無機膜を製膜する工程である。
製膜工程における無機膜の製膜方法としては、スパッタリングや真空蒸着等の物理気相蒸着法(PVD法)、化学気相蒸着法(CVD法)、めっき法(電解、無電解)のいずれであってもよいが、製膜性の点から、スパッタリングが好ましい。構造的な特徴として、スパッタリングで成膜した無機膜は、CVD法やめっき法で成膜した場合と比較して母材との密着強度が強い特徴がある。CVD法で成膜した無機膜は、スパッタリングやめっき法で成膜した場合と比較して成膜の結晶性が良好な特徴がある。めっき法で成膜した無機膜は、スパッタリングやCVD法で成膜した場合と比較して緻密な層形成が可能という特徴がある。
スパッタリングによる無機膜の製膜方法としては、該製造方法によって形成する凹凸層12と同じ成分のターゲットに、アルゴンガス等の不活性ガスを衝突させ、これによりターゲットから飛び出した原子を表面11aに堆積させる方法を適用することができる。
凹凸層12を、前記(B)の酸化物または前記(C)の窒化物により形成する場合には、スパッタリングの方法として、酸素および窒素の少なくとも一方を含む雰囲気中、Si,Cr,Mo,W,Ta,Ni,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むターゲットに不活性ガスを衝突させ、これによりターゲットから飛び出した前記元素と雰囲気中の酸素および窒素原子の少なくとも一方とを表面11aに堆積させることができる。
また、凹凸層12を、前記(B1)の酸化物または前記(C1)の窒化物により形成する場合には、スパッタリングの方法として、酸素および窒素の少なくとも一方を含む雰囲気中、Si,Cr,Mo,W,Ta,Tiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むターゲットに不活性ガスを衝突させ、これによりターゲットから飛び出した前記元素と雰囲気中の酸素および窒素原子の少なくとも一方とを表面11aに堆積させることができる。
この場合、雰囲気中の酸素の濃度によって、無機膜中の酸素原子含有量を調整できる。また、雰囲気中の窒素の濃度によって、無機膜中の窒素原子含有量を調整できる。
【0024】
スパッタリングとしては公知のものを特に制限なく利用できるが、製膜性に優れることから、マグネトロンスパッタリングが好ましい。
スパッタリング条件としては特に制限されないが、通常は、温度を25.0℃〜250℃とし、絶対圧力を0.1Pa〜3.0Paとする。
また、スパッタリングにおいては、無機膜の厚さが0.1μm〜10.0μmとなるように、スパッタリング時間を調整する。
【0025】
(粒子配列工程)
粒子配列工程は、製膜工程で得た無機膜の表面に、複数の粒子を単一層で配列させる工程である。
本実施形態における粒子配列工程は、いわゆるラングミュア−ブロジェット法(LB法)の考え方を利用した方法により行う。具体的に、本実施形態における粒子配列工程は、滴下工程と単粒子膜形成工程と移行工程と必要に応じて固定工程とを有して、単粒子膜をマスクとして無機膜上に配置する。
滴下工程は、水槽内の水の液面に水よりも比重が小さい溶剤中に粒子が分散した分散液を滴下する工程である。
単粒子膜形成工程は、溶剤を揮発させることにより前記粒子からなる単粒子膜を水の液面上に形成する工程である。
移行工程は、前記単粒子膜を無機膜に移行させる工程である。
固定工程は、移行した単粒子膜を無機膜に固定する工程である。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0026】
[滴下工程および単粒子膜形成工程]
まず、水よりも比重が小さい溶剤中に、粒子Mを加えて分散液を調製する。一方、水槽(トラフ)を用意し、これに、その液面上で粒子Mを展開させるための水(以下、下層水という場合もある。)を入れる。
粒子Mは、表面が疎水性であることが好ましい。また、溶剤としても疎水性のものを選択することが好ましい。疎水性の粒子Mおよび溶剤と下層水とを組み合わせることによって、後述するように、粒子Mの自己組織化が進行し、2次元的に最密充填した単粒子膜が形成される。
【0027】
粒子Mの材料は、有機粒子、有機無機複合粒子、無機粒子からなる群から選択される1種類以上の粒子である。有機粒子を形成する材料は、例えば、ポリスチレン、PMMA等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン類からなる群から選択される少なくとも1種類である。有機無機複合粒子を形成する材料は、例えば、SiC、炭化硼素からなる群から選択される少なくとも1種類である。
これらのうちで、粒子Mの材料は、無機粒子であることが好ましい。無機粒子を形成する材料は、例えば、無機酸化物、無機窒化物、無機硼化物、無機硫化物、無機セレン化物、金属化合物、金属からなる群から選択される少なくとも1種類である。
【0028】
無機酸化物は、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、酸化亜鉛、酸化スズ、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)からなる群から選択される少なくとも1種類である。無機窒化物は、例えば、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素からなる群から選択される少なくとも1種類である。無機硼化物は、例えば、ZrB、CrBからなる群から選択される少なくとも1種類である。無機硫化物は、例えば、硫化亜鉛、硫化カルシウム、硫化カドミウム、硫化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも少なくとも1種類である。無機セレン化物は、例えば、セレン化亜鉛、セレン化カドミウムからなる群から選択される少なくとも1種類である。金属粒子は、Si、Ni、W、Ta、Cr、Ti、Mg、Ca、Al、Au、Ag、および、Znからなる群から選択される少なくとも1種類の粒子である。
【0029】
なお、粒子Mを形成する材料は、構成元素の一部が、それとは異なる他元素によって置換されてもよい。例えば、粒子Mを形成する材料は、シリコンとアルミニウムと酸素と窒素からなるサイアロンであってもよい。また、粒子Mは、互いに異なる材料からなる2種類以上の粒子の混合物であってもよい。また、粒子Mは、互いに異なる材料からなる積層体であってもよく、例えば、無機窒化物からなる無機粒子が、無機酸化物によって被覆された粒子であってもよい。また、粒子Mは、無機粒子の中にセリウムやユーロピウムなどの付活剤が導入された蛍光体粒子であってもよい。なお、上述した材料のなかでも、粒子Mの形状が安定している点で、粒子Mを形成する材料は、無機酸化物であることが好ましく、そのなかでもシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアがさらに好ましい。
溶剤は、また、高い揮発性を有することも重要である。揮発性が高く疎水性である溶剤としては、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの1種以上からなる揮発性有機溶剤が挙げられる。
【0030】
粒子Mが無機粒子である場合、通常その表面は親水性のため、疎水化剤で疎水化して使用することが好ましい。疎水化剤としては、例えば界面活性剤、金属アルコキシシランなどが使用できる。
粒子Mの疎水化は、特開2009−162831号公報に記載された疎水化剤と同様の界面活性剤、金属アルコキシシランなどを用い、同様の方法で行うことができる。
【0031】
また、形成する単粒子膜の精度をより高めるためには、液面に滴下する前の分散液をメンブランフィルターなどで精密ろ過して、分散液中に存在する凝集粒子(複数の1次粒子からなる2次粒子)を除去することが好ましい。このようにあらかじめ精密ろ過を行っておくと部分的に2層以上となった箇所や、粒子が存在しない欠陥箇所が生じにくく、精度の高い単粒子膜が得られやすい。仮に、形成された単粒子膜に、数μm〜数十μm程度の大きさの欠陥箇所が存在したとすると、詳しくは後述する移行工程において、単粒子膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、単粒子膜を液面方向に圧縮する可動バリアとを備えたLBトラフ装置を使用したとしても、このような欠陥箇所は表面圧の差として検知されず、高精度な単粒子膜を得ることは難しくなる。
【0032】
以上説明した分散液を、下層水の液面に滴下する(滴下工程)。すると、分散媒である溶剤が揮発するとともに、粒子Mが下層水の液面上に単層で展開し、2次元的に最密充填した単粒子膜を形成することができる(単粒子膜形成工程)。
下層水に滴下する分散液の粒子濃度は、分散液全体に対して1質量%〜10質量%とすることが好ましい。また、滴下速度を0.001ml/秒〜0.01ml/秒とすることが好ましい。分散液中の粒子Mの濃度や滴下量がこのような範囲であると、粒子が部分的にクラスター状に凝集して2層以上となる、粒子が存在しない欠陥箇所が生じる、粒子間のピッチが広がるなどの傾向が抑制され、各粒子が高精度で2次元に最密充填した単粒子膜がより得られやすい。
【0033】
単粒子膜形成工程では、粒子Mの自己組織化によって単粒子膜が形成される。その原理は、粒子が集結すると、その粒子間に存在する分散媒に起因して表面張力が作用し、その結果、粒子M同士はランダムに存在するのではなく、2次元的最密充填構造を自動的に形成するというものである。このような表面張力による最密充填は、別の表現をすると横方向の毛細管力による配列化ともいえる。
特に、例えばコロイダルシリカのように、球形であって粒径の均一性も高い粒子Mが、水面上に浮いた状態で3つ集まり接触すると、粒子群の喫水線の合計長を最小にするように表面張力が作用し、図4に示すように、3つの粒子Mは図中Tで示す正三角形を基本とする配置で安定化する。
【0034】
単粒子膜形成工程は、超音波照射条件下で実施することが好ましい。下層水から水面に向けて超音波を照射しながら分散液の溶剤を揮発させると、粒子Mの最密充填が促進され、各粒子Mがより高精度で2次元に最密充填した単粒子膜が得られる。この際、超音波の出力は1W〜1200Wが好ましく、50W〜600Wがより好ましい。
また、超音波の周波数には特に制限はないが、例えば28kHz〜5MHzが好ましく、より好ましくは700kHz〜2MHzである。振動数が高すぎると、水分子のエネルギー吸収が始まり、水面から水蒸気または水滴が立ち上る現象が起きるため好ましくない。一方、振動数が低すぎると、下層水中のキャビテーション半径が大きくなり、水中に泡が発生して水面に向かって浮上してくる。このような泡が単粒子膜の下に集積すると、水面の平坦性が失われるため不都合である。
超音波照射によって水面に定常波が発生する。いずれの周波数でも出力が高すぎたり、超音波振動子と発信機のチューニング条件によって水面の波高が高くなりすぎたりすると、単粒子膜が水面波で破壊されるため注意が必要である。
【0035】
以上のことに留意して超音波の周波数および出力を適切に設定すると、形成されつつある単粒子膜を破壊することなく、効果的に粒子の最密充填を促進することができる。効果的な超音波照射を行うためには、粒子の粒径から計算される固有振動数を目安にするのが良い。しかし、粒径が例えば100nm以下など小さな粒子になると固有振動数は非常に高くなってしまうため、計算結果のとおりの超音波振動を与えるのは困難になる。このような場合は、粒子2量体から20量体程度までの質量に対応する固有振動を与えると仮定して計算を行うと、必要な振動数を現実的な範囲まで低減させることができる。粒子の会合体の固有振動数に対応する超音波振動を与えた場合でも、粒子の充填率向上効果は発現する。超音波の照射時間は、粒子の再配列が完了するのに充分であればよく、粒径、超音波の周波数、水温などによって所要時間が変化する。しかし通常の作成条件では10秒間〜60分間で行うのが好ましく、より好ましくは3分間〜30分間である。
超音波照射によって得られる利点は粒子の最密充填化(ランダム配列を6方最密化する)の他に、ナノ粒子の分散液調製時に発生しやすい粒子の軟凝集体を破壊する効果、一度発生した点欠陥、線欠陥、または結晶転位(粒子配列の乱れから生じる単位格子の局所的な歪み)などもある程度修復する効果がある。
【0036】
単粒子膜形成工程では、下記式(1)で定義される配列のずれD(%)が15%以下となるように、無機膜に複数の粒子Mを単一層で配列させることが好ましい。
D[%]=|B−A|×100/A・・・(1)
但し、式(1)中、Aは粒子Mの平均粒径、Bは粒子M間の最頻ピッチである。また、|B−A|はAとBとの差の絶対値を示す。
ずれDは、10%以下であることがより好ましく、1.0%〜3.0%であることがさらに好ましい。
【0037】
ここで粒子Mの平均粒径Aとは、単粒子膜を構成している粒子Mの平均一次粒径のことであって、粒子動的光散乱法により求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから常法により求めることができる。
一方、粒子M間のピッチとは、隣り合う2つの粒子Mの頂点と頂点の距離であり、最頻ピッチBとはこれらの最頻値である。なお、粒子Mが球形で隙間なく接していれば、隣り合う粒子Mの頂点と頂点との距離は、隣り合う粒子Mの中心と中心の距離と等しい。
【0038】
粒子M間の最頻ピッチBは、具体的には次のようにして求められる。
まず、単粒子膜における無作為に選択された領域で、一辺が粒子M間の最頻ピッチBの30〜40倍の正方形の領域について、原子間力顕微鏡イメージを得る。例えば粒径300nmの粒子Mを用いた単粒子膜の場合、9μm×9μm〜12μm×12μmの領域のイメージを得る。そして、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像(高速フーリエ変換像)を得る。次いで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求める。こうして求められた距離の逆数がこの領域における最頻ピッチBである。このような処理を無作為に選択された合計25カ所以上の同面積の領域について同様に行い、各領域における最頻ピッチB〜B25を求める。こうして得られた25カ所以上の領域における最頻ピッチB〜B25の平均値が式(1)における最頻ピッチBである。なお、この際、各領域同士は、少なくとも1mm離れて選択されることが好ましく、より好ましくは5mm〜1cm離れて選択される。
また、この際、FFT像のプロファイルにおける1次ピークの面積から、各イメージについて、その中の粒子M間のピッチのばらつきを評価することもできる。
【0039】
この配列のずれDは、粒子Mの最密充填の度合いを示す指標である。すなわち、粒子の配列のずれDが小さいことは、最密充填の度合いが高く、粒子の間隔が制御されており、その配列の精度が高いことを意味する。
配列のずれD(%)を15%以下とするために、粒子Mの粒径の変動係数(標準偏差を平均値で除した値)は、0.1%〜20%であることが好ましく、0.1%〜10%であることがより好ましく、0.1〜5.0%であることがさらに好ましい。
【0040】
粒子M間の最頻ピッチは、凹凸層の凹凸の最頻ピッチと同等となる。粒子Mの配列は、細密充填の度合いが高いため、粒子Mの平均粒径Aを適切に選択することにより、粒子間の最頻ピッチを調整でき、凹凸の最頻ピッチを調整することができる。
【0041】
[移行工程]
単粒子膜形成工程により液面上に形成された単粒子膜を、次いで、単層状態のまま無機膜に移し取る(移行工程)。
単粒子膜を無機膜に移し取る具体的な方法には特に制限はなく、例えば、母材に設けた無機膜の表面を単粒子膜に対して略垂直な状態に保ちつつ、上方から降下させて単粒子膜に接触させ、ともに疎水性である単粒子膜と無機膜との親和力により、単粒子膜を無機膜に移行させ、移し取る方法;単粒子膜を形成する前にあらかじめ水槽の下層水内に、母材に設けた無機膜を略垂直方向に配置しておき、単粒子膜を液面上に形成した後に液面を徐々に降下させることにより、無機膜に単粒子膜を移し取る方法などがある。
上記各方法によっても、特別な装置を使用せずに単粒子膜を無機膜に移し取ることができるが、より大面積の単粒子膜であっても、その2次的な最密充填状態を維持したまま無機膜に移し取りやすい点で、以降工程においては、いわゆるLBトラフ法を採用することが好ましい(Journal of Materials and Chemistry, Vol.11, 3333 (2001)、Journal of Materials and Chemistry, Vol.12, 3268 (2002)など参照。)
【0042】
図5Aおよび図5Bは、LBトラフ法の概略を模式的に示すものである。なお、図5Aおよび図5Bでは、説明の便宜上、粒子Mを極端に拡大している。
この方法では、水槽V内の下層水Wに、母材11に無機膜12bを設けた被加工体Sを、無機膜12bの表面が略鉛直方向になるようにあらかじめ浸漬しておき、その状態で上述の滴下工程と単粒子膜形成工程とを行い、単粒子膜Fを形成する(図5A)。そして、単粒子膜形成工程後に、被加工体Sを、無機膜12bの表面が鉛直方向のまま上方に引き上げることによって、単粒子膜Fを無機膜12bの表面に移し取ることができる(図5B)。
なお、この図では、被加工体Sの両端面に単粒子膜Fを移し取る状態を示しているが、凹凸構造は、被加工体Sの一方の端面Xのみに形成すればよい。被加工体Sの一方の端面Xと反対側の面(裏面)を厚板で遮蔽することによって、端面X側から裏面への粒子Mの回り込みを防止した状態で端面Xのみに単粒子膜Fを移し取れば、より精密に単粒子膜Fを移し取れるので好ましい。しかし、両面に移し取っても何ら差し支えない。
【0043】
ここで単粒子膜Fは、単粒子膜形成工程により液面上ですでに単層の状態に形成されているため、移行工程の温度条件(下層水の温度)や被加工体の引き上げ速度などが多少変動しても、移行工程において単粒子膜Fが崩壊して多層化するなどのおそれはない。なお、下層水の温度は、通常、季節や天気により変動する環境温度に依存し、ほぼ10℃〜30℃程度である。
【0044】
また、この際、水槽Vとして、単粒子膜Fの表面圧を計測する図示略のウィルヘルミープレート等を原理とする表面圧力センサーと、単粒子膜Fを液面に沿う方向に圧縮する図示略の可動バリアとを具備するLBトラフ装置を使用すると、より大面積の単粒子膜Fをより安定に無機膜12bに移し取ることができる。このような装置によれば、単粒子膜Fの表面圧を計測しながら、単粒子膜Fを好ましい拡散圧(密度)に圧縮でき、また、無機膜12bの方に向けて一定の速度で移動させることができる。そのため、単粒子膜Fの液面から無機膜12bへの移行が円滑に進行し、小面積の単粒子膜Fしか無機膜12bに移行できないなどのトラブルが生じにくい。好ましい拡散圧は、5mNm−1〜80mNm−1であり、より好ましくは10mNm−1〜40mNm−1である。このような拡散圧であると、各粒子がより高精度で2次元に最密充填した単粒子膜Fが得られやすい。また、被加工体Sを引き上げる速度は、0.5mm/分〜20mm/分が好ましい。下層水Wの温度は、先述したように、通常10℃〜30℃である。なお、LBトラフ装置は、市販品として入手することができる。
【0045】
このように、各粒子が、できるだけ高精度で2次元に最密充填した単粒子膜Fの状態で無機膜12bに移し取ることが好ましいが、どのように慎重に作業を行っても100%完全な最密充填とはならず、無機膜12bに移し取られた粒子は、多結晶状態となる。ここで多結晶状態とは、粒子Mの格子方位が各エリアC11〜C1nの内では揃っているが、巨視的には揃っていない状態のことを意味する。これにより、後述の各工程を経て、最終的には、隣接する7つの凸部の中心点が正六角形の6つの頂点と対角線の交点となる位置関係で連続して整列しているエリアを複数備える凹凸構造を無機膜12b上に形成することが可能となる。
【0046】
(固定工程)
移行工程により、無機膜12bに粒子Mの単粒子膜Fを移行させることができるが、移行工程の後には、移行した単粒子膜Fを無機膜12bに固定するための固定工程を行ってもよい。移行工程だけでは、エッチング工程中に粒子Mが無機膜12b上を移動してしまう可能性がある。
単粒子膜を無機膜12bに固定する固定工程を行うことによって、粒子Mが無機膜12b上を移動してしまう可能性が抑えられ、より安定かつ高精度にエッチングすることができる。
【0047】
固定工程の方法としては、バインダーを使用する方法や焼結法がある。
バインダーを使用する方法では、単粒子膜が形成された無機膜12bにバインダー溶液を供給して単粒子膜を構成する粒子Mと無機膜12bとの間にこれを浸透させる。
バインダーの使用量は、単粒子膜の質量の0.001〜0.02倍が好ましい。このような範囲であれば、バインダーが多すぎて粒子M間にバインダーが詰まってしまい、単粒子膜の精度に悪影響を与えるという問題を生じることなく、充分に粒子を固定することができる。バインダー溶液を多く供給してしまった場合には、バインダー溶液が浸透した後に、スピンコーターを使用したり、被加工体を傾けたりして、バインダー溶液の余剰分を除去すればよい。
バインダーとしては、先に疎水化剤として例示した金属アルコキシシランや一般の有機バインダー、無機バインダーなどを使用でき、バインダー溶液が浸透した後には、バインダーの種類に応じて、適宜加熱処理を行えばよい。金属アルコキシシランをバインダーとして使用する場合には、40℃〜80℃で3分間〜60分間の条件で加熱処理することが好ましい。
【0048】
焼結法を採用する場合には、単粒子膜が形成された無機膜を加熱して、単粒子膜を構成している各粒子Mを無機膜に融着させればよい。加熱温度は粒子Mの材質と無機膜の材質に応じて決定すればよいが、粒径が1000nm以下の粒子Mはその物質本来の融点よりも低い温度で界面反応を開始するため、比較的低温側で焼結は完了する。加熱温度が高すぎると、粒子の融着面積が大きくなり、その結果、単粒子膜の形状が変化するなど、精度に影響を与える可能性がある。
また、加熱を空気中で行うと、無機膜や各粒子Mが酸化する可能性があるため、焼結法を採用する場合には、このような酸化の可能性を考慮して、条件を設定することが好ましい。
【0049】
[エッチング工程]
エッチング工程は、複数の粒子Mをエッチングマスクとして無機膜をドライエッチングする工程である。
エッチング工程では、まず、図6Aに示すように、単粒子膜Fを構成している各粒子Mの隙間をエッチングガスが通り抜けて無機膜12bの表面に到達し、その部分に溝が形成され、各粒子Mに対応する位置にそれぞれ円柱12cが現れる。引き続きエッチングを続けると、各円柱12c上の粒子Mも徐々にエッチングされて小さくなり、同時に、無機膜12bの溝もさらに深くなっていく(図6B)。そして、最終的には各粒子Mはエッチングにより消失し、無機膜12bの片面に多数の円錐状の凸部Eが形成される(図6C)。
【0050】
ドライエッチングに使用するエッチングガスとしては、例えば、Ar、SF、F、CF、C、C、C、C、C、CHF、CH、CHF、C、Cl、CCl、SiCl、BCl、BCl、BC、Br、Br、HBr、CBrF、HCl、CH、NH、O、H、N、CO、COなどが挙げられ、単粒子膜マスクを構成する粒子や無機膜の材質などに応じて、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0051】
ドライエッチングを行うエッチング装置としては、反応性イオンエッチング装置、イオンビームエッチング装置などの異方性エッチングが可能なものが使用される。エッチング装置は、最小で20W程度のバイアス電場を発生できれば、プラズマ発生の方式、電極の構造、チャンバーの構造、高周波電源の周波数等の仕様には特に制限ない。
【0052】
エッチング条件は、得ようとする凹凸のアスペクト比に応じて適宜選択すればよい。エッチング条件としては、バイアスパワー、アンテナパワー、ガスの流量と圧力、エッチング時間等が挙げられる。
【0053】
こうして得られた微細な凹凸について、先に述べた単粒子膜エッチングマスクにおける粒子間の平均ピッチBを求める方法と同様にして、その凹凸の配列の平均ピッチCを求めると、この平均ピッチCは、使用した単粒子膜エッチングマスクの平均ピッチBとほぼ同じ値となる。また、配列の平均ピッチCは、凹凸の底面の直径dの平均値に相当する。さらに、この微細な凹凸について、下記式(2)で定義される配列のずれD'(%)を求めると、その値も10%以下となる。
D'[%]=|C−A|×100/A・・・(2)
ただし、式(2)中、Aは使用した単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子の平均粒径である。
【0054】
(作用効果)
上記製膜工程と粒子配列工程とエッチング工程とを有する光学素子作製用金型の製造方法によれば、複数のエリアの面積、形状および結晶方位がランダムな凹凸が形成された金型を製造できる。
また、上記製造方法は、電鋳によって凹凸を転写させる方法ではなく、母材の表面に設けた無機膜に凹凸を直接形成する方法であるため、金型の製造を簡略化できる。また、上記製造方法によれば、射出成形の金型表面にも微細な凹凸を形成することができ、両面に凹凸が形成された板状の光学素子を製造することも可能である。
【0055】
<光学素子の作製方法>
上記金型を用いた光学素子の製造方法としては、ナノインプリント法、プレス成形法、射出成形法、電鋳法等を適用することができる。これらの方法を適用すれば、高精度に周期格子構造が形成されて視野角制限機能の発現に好適な形状転写体(複製品)を再現性良く、大量に生産することができる。
上記光学素子の製造方法の中でも、微細な凹凸の転写に特に適していることから、ナノインプリント法、射出成形法が好ましい。
【0056】
上記実施形態の金型を用いたナノインプリント法によって光学素子を作製する具体的な方法としては、例えば、下記(a)〜(c)の方法が挙げられる。
(a)金型10の凹凸面12aに、未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布する工程と、活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂を硬化させた後、硬化した塗膜を金型10から剥離する工程とを有する方法(光インプリント法)。ここで、活性エネルギー線とは、通常、紫外線または電子線のことであるが、本明細書においては、可視光線、X線、イオン線等も含むものとする。
(b)金型10の凹凸面12aに、未硬化の液状熱硬化性樹脂、または未硬化の液状無機材料を塗布する工程と、加熱して前記液状熱硬化性樹脂または液状無機材料を硬化させた後、硬化した塗膜を金型10から剥離する工程とを有する方法。
(c)金型10の凹凸面12aに、シート状の熱可塑性樹脂を接触させる工程と、該シート状の熱可塑性樹脂を凹凸面12aに押圧しながら加熱して軟化させた後、冷却する工程と、その冷却したシート状の熱可塑性樹脂を金型10から剥離する工程とを有する方法(熱インプリント法)。
【0057】
(a)の光インプリント法では、例えば、金型を光硬化性樹脂に押圧するためのプレス手段と、光硬化性樹脂に活性エネルギー線を照射する照射手段とを備える光インプリント装置を用いることができる。
(a)の方法の具体例について説明する。まずシート状の金型10の凹凸面12aに、未硬化の液状活性エネルギー線硬化性樹脂を厚さ0.5μm〜20μm、好ましくは1.0μm〜10μm塗布する。
次いで、該硬化性樹脂を塗布した金型10を、一対のロール間に通すことにより押圧して、前記硬化性樹脂を金型10の凹凸内部に充填する。その後、活性エネルギー線照射装置により活性エネルギー線を10mJ〜5000mJ、好ましくは100mJ〜2000mJ照射して、硬化性樹脂を架橋および/または硬化させる。そして、硬化後の活性エネルギー線硬化性樹脂を金型10から剥離させることにより、光学素子を製造することができる。
【0058】
(a)の方法において、金型10の凹凸面12aには、離型性を付与する目的で、未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂塗布前に、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等からなる層を1nm〜10nm程度の厚さで設けてもよい。
未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート、エポキシ化油アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニル/アクリレート、ポリエン/アクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエン、ポリスチリルメチルメタクリレート等のプレポリマー、脂肪族アクリレート、脂環式アクリレート、芳香族アクリレート、水酸基含有アクリレート、アリル基含有アクリレート、グリシジル基含有アクリレート、カルボキシ基含有アクリレート、ハロゲン含有アクリレート等のモノマーの中から選ばれる1種類以上の成分を含有するものが挙げられる。未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂は、酢酸エチルやメチルエチルケトン、トルエンなどの溶媒等で適宜希釈して使用することが好ましい。
また、未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂には、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等を添加してもよい。
未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂を紫外線により硬化する場合には、未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂にアセトフェノン類、ベンゾフェノン類等の光重合開始剤を添加することが好ましい。
また、未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂には、硬化後の硬度を上昇させる目的で、多官能(メタ)アクリレートモノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方を使用してもよい。また、反応性無機酸化物粒子および/または反応性有機粒子を含有してもよい。
【0059】
未硬化の液状活性エネルギー線硬化性樹脂を塗布した後には、樹脂、ガラス等からなる貼合基材を貼り合わせてから活性エネルギー線を照射してもよい。活性エネルギー線の照射は、貼合基材、金型10の活性エネルギー線透過性を有するいずれか一方から行えばよい。
【0060】
硬化後の活性エネルギー線硬化性樹脂のシートの厚みは0.1μm〜100μmとすることが好ましい。硬化後の活性エネルギー線硬化性樹脂のシートの厚みが0.1μm以上であれば、充分な強度を確保でき、100μm以上であれば、充分な可撓性を確保できる。
【0061】
(b)の方法において、液状熱硬化性樹脂としては、例えば、未硬化の、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。液状熱硬化性樹脂の特性に応じて加熱条件を適宜に定めることができ、中でもエポキシ樹脂を使用した場合、加熱温度が150℃〜200℃、加熱時間が3分〜10分であることが好ましい。また、液状無機材料としては、例えば、未硬化の、酸化ケイ素系ゾルゲル材料、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサン等が挙げられる。液状無機材料の特性に応じて加熱条件を適宜に定めることができ、酸化ケイ素系ゾルゲル材料を使用した場合、加熱温度が100℃〜500℃、加熱時間が20分〜60分であることが好ましい。また、ポリジメチルシロキサンを使用した場合、加熱温度が100℃〜200℃、加熱時間が10分〜60分であることが好ましい。
【0062】
(c)の熱インプリント法では、例えば、金型を熱可塑性樹脂に押圧するためのプレス手段と、熱可塑性樹脂の温度を制御する温度制御手段とを備える熱インプリント装置を用いることができる。
(c)の方法において、熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。
シート状の熱可塑性樹脂を2次工程用成形物に押圧する際の圧力は1MPa〜100MPaであることが好ましい。押圧時の圧力が1MPa以上であれば、凹凸を高い精度で転写させることができ、100MPa以下であれば、過剰な加圧を防ぐことができる。
熱可塑性樹脂の特性に応じて加熱条件を適宜に定めることができ、加熱温度が120℃〜200℃、押圧時間が1分〜5分であることが好ましい。
加熱後の冷却温度としては、凹凸を高い精度で転写させることができることから、熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満であることが好ましい。
【0063】
(a)〜(c)の方法の中でも、加熱を省略でき、簡便であることから、活性エネルギー線硬化性樹脂を使用する(a)の方法が好ましい。
【0064】
射出成形法によって光学素子を作製する際には、キャビティを形成する射出成形用金型の一部に上記実施形態の金型を用いる。すなわち、キャビティの内面に上記の金型を配置する。
具体的に、射出成形法による光学素子の作製方法では、まず、射出成形用金型を取り付けた射出成形機を用い、熱可塑性樹脂を溶融させる。次いで、その溶融させた熱可塑性樹脂を射出成形用金型のキャビティ内に高圧で射出流入させた後、射出成形用金型を冷却する。そして、射出成形用金型を開いて、得られた光学素子を取り出す。
射出成形法で成形する熱可塑性樹脂としては、上記熱インプリント法で使用する熱可塑性樹脂と同様のものを使用することができる。
【0065】
上記金型を用いて製造することができる光学素子として、具体的には光学素子が有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子や、反射防止体などが挙げられる。
上述の方法で形成された光学素子が回折格子である場合、少なくとも光が外部へと射出する面に金型10に対応する凹凸を有する光射出面を有する。
用途としては、光学素子が回折格子である場合、有機EL照明等の基板として使用される。また、光学素子が反射防止体である場合、光学機器に使用されるレンズや画像表示装置の全面版として使用される。
【0066】
すなわち、上述の方法で形成された光学素子の光射出面の微細な凹凸の最頻ピッチと最頻高さおよび形状は、光学素子の用途によって決定される。光学素子が反射防止体である場合、微細な凹凸の最頻ピッチは反射防止体に入射する光の波長に合わせて調整することが好ましい。例えば、波長が400nm〜750nm程度の可視光を使用する場合、50nm以上300nm以下のピッチの凹凸が好ましい。さらに、微細な凹凸のピッチが50nm以上150nm以下であれば、可視光領域での回折光を減少させることができる。波長750nm程度〜10000nm以下の赤外領域を使用する場合、500nm以上5000nm以下の最頻ピッチの凹凸が好ましい。
【0067】
光学素子の用途によって微細な凹凸の最適なアスペクト比は決定される。例えば、該金型によって製造した光学素子を有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子として使用する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.1〜1.0が好ましい。例えば、該金型によって製造した光学素子を反射防止体として使用する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.5〜4.0以上であることがより好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.0であることが好ましい。
該金型によって製造した光学素子を有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子として使用する場合、凸部の最頻高さHは、10nm〜500nmの間であることが好ましく、15nm〜150nmであることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、有機ELや薄膜デバイスの光取り出し効率が向上するという効果が得られる。また、該金型によって製造した光学素子を可視光を対象とする反射防止体に使用する場合、凸部の最頻高さHは、25nm〜1200nmの間であることが好ましく、120nm〜500nmであることが更に好ましい。また、該金型によって製造した光学素子を赤外光を対象とする反射防止体に使用する場合、凸部の最頻高さHは、250nm〜10000nmの間であることが好ましく、750nm〜10000nmであることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、反射防止性能が向上するという効果が得られる。
【0068】
(作用効果)
上記光学素子の凹凸は、適度にランダムになっている。そのため、回折光が生じるような微細なピッチの凹凸を設けるにもかかわらず、回折光の指向性を低下させることができ、カラーシフトを抑制することができる。
また、光学素子の凹凸は、完全なランダムなものではなく、金型10の各エリアC〜Cに対応する範囲内では一定の秩序を有している。そのため、光学素子の凹凸のピッチを容易に調整でき、目的の光学的機能を容易に得ることができる。
【0069】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では母材11の形状は平面の板状体であった。本実施形態における金型20Aは、凸曲面を有する母材21A含む。本実施形態における金型20Bは、凹曲面を有する母材21B含む。以下、図9図13を参照して、本実施形態を詳細に説明する。
【0070】
<光学素子作製用金型>
本実施形態の金型20Aは、図9に示すように表面23Aが凸曲面を有する母材21Aと、母材21Aの表面23Aに設けられた凹凸層22Aとを備える。
本実施形態の金型20Bは、図10に示すように表面23Bが凹曲面を有する母材21Bと、母材21Bの表面23Aに設けられた凹凸層22Bとを備える。
【0071】
(母材)
母材21Aおよび21Bの材質としては特に制限されず、例えば、第1の実施形態に記載の材料を用いることができる。
【0072】
表面23Aは、凸曲面を有している。凸曲面は、放物面でもよく、球面でもよい。表面24Aに垂直な方向から見た場合の凸曲面の形状は、必ずしも円である必要はなく、円を一軸または複数の軸にそって伸長した形状であってもよい。凸曲面の長軸の長さは、30mm〜1300mmであってよく、好ましくは200mm〜500mmである。長軸に沿った断面における曲率半径は30mm〜3000mmであってよく、好ましくは50mm〜1000mmである。
表面23Aの形状は、例えば、母材21Aの表面をプレス法、切削および研磨法などの方法により加工することで得られる。
表面23Aと反対に位置する表面24Aは、平坦面であってもよい。
【0073】
表面23Bは、凹曲面を有している。凹曲面は、放物面でもよく、球面でもよい。表面24Bに垂直な方向から見た場合の凹曲面の形状は、必ずしも円である必要はなく、円を一軸または複数の軸にそって伸長した形状であってもよい。凹曲面の長軸の長さは、30mm〜1300mmであってよく、好ましくは200mm〜500mmである。長軸に沿った断面における曲率半径は30mm〜3000mmであってよく、好ましくは50mm〜1000mmである。
表面23Bと反対に位置する表面24Bは、平坦面であってもよい。
表面23Bの形状は、表面23Aと同様にプレス法、切削および研磨法などの方法により母材21Bの表面を加工することで得られる。
【0074】
(凹凸層)
凹凸層22Aは、光学素子の材料と接する面が凹凸面25Aとされた層である。凹凸層22Bは、光学素子の材料と接する面が凹凸面25Bとされた層である。凹凸層22Aおよび22Bは、凸曲面または凹曲面を有する表面23Aまたは23Bに形成されているという点を除いては、第1実施形態に記載の凹凸層12と同じである。
図9および図10に示すように、凸曲面または凹曲面を有する表面23Aまたは23Bの曲率が面積に対して相対的に大きい場合、表面に形成される凹凸面25Aまたは25Bの凹部および凸部の軸方向は、表面23Aまたは23Bの法線方向に近くなる。
反対に、図12および図13に示すように、凸曲面または凹曲面を有する表面23Aまたは23Bの曲率が面積に対して相対的に小さい場合、表面に形成される凹凸面25Aまたは25Bの凹部および凸部の軸方向は、表面24Aまたは表面24B(凹凸層22Aまたは22Bが表面24Aまたは24Bと接する面)に垂直な方向に近くなる。
【0075】
(作用効果)
本実施形態の光学素子作製用金型20Aおよび20Bは、後述する凹凸層22Aおよび22Bの作成方法により形成することにより、母材21Aおよび21Bのように表面に凹凸を有する場合においても凹凸のピッチを容易に調整でき、目的の光学的機能を容易に得ることができる。そのため、回折光が生じるような微細なピッチの凹凸を設けるにもかかわらず、回折光の指向性を低下させることができ、カラーシフトを抑制することができる。
【0076】
<金型の製造方法>
上記金型20Aおよび20Bの製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、第1の実施形態と同様に製膜工程と粒子配列工程とエッチング工程とを有する。第1の実施形態と同じ工程については、説明を省略する。なお、以下の説明においては、一例として金型20Aを作成する方法について説明する。
【0077】
(製膜工程)
製膜工程は、母材21Aの表面23Aに後に凹凸層22Aとなる無機膜を製膜する工程である。
製膜工程における無機膜の製膜方法としては、スパッタリングや真空蒸着等の物理気相蒸着法(PVD法)、化学気相蒸着法(CVD法)、めっき法(電解、無電解)のいずれであってもよいが、凸面を有する表面23Aに対する製膜性の点から、スパッタリングが好ましい。
成膜工程におけるその他の条件については、第1の実施形態と同じである。
【0078】
(粒子配列工程、固定工程)
粒子配列工程および固定工程についても、第1の実施形態と同じである。
【0079】
[エッチング工程]
エッチング工程は、複数の粒子Mをエッチングマスクとして無機膜をドライエッチングする工程である。エッチング工程の具体的な方法は、第1の実施形態と同じである。
エッチング工程では、まず、図11Aに示すように、単粒子膜Fを構成している各粒子Mの隙間をエッチングガスが通り抜けて無機膜12bの表面に到達し、その部分に溝が形成され、各粒子Mに対応する位置にそれぞれ円柱12cが現れる。引き続きエッチングを続けると、各円柱12c上の粒子Mも徐々にエッチングされて小さくなり、同時に、無機膜12bの溝もさらに深くなっていく(図11B)。そして、最終的には各粒子Mはエッチングにより消失し、無機膜12bの片面に多数の円錐状の凸部Eが形成される(図11C)。
【0080】
ドライエッチングに使用するエッチングガスとしては、第1の実施形態と同じものを用いることができる。ドライエッチングを行うエッチング装置およびエッチング条件についても、第1の実施形態と同様である。
【0081】
(作用効果)
上記製膜工程と粒子配列工程とエッチング工程とを有する光学素子作製用金型の製造方法によれば、複数のエリアの面積、形状および結晶方位がランダムな凹凸が形成された金型を製造できる。
また、上記製造方法は、電鋳によって凹凸を転写させる方法ではなく、母材の表面に設けた無機膜に凹凸を直接形成する方法であるため、金型の製造を簡略化できる。また、上記製造方法によれば、射出成形の金型表面にも微細な凹凸を形成することができ、両面に凹凸が形成された板状の光学素子を製造することも可能である。
さらに上記製造方法では、粒子Mをエッチングマスクとして用いるため、母材21Aおよび21Bのように表面に凹凸を有する場合においても、エッチングマスクの厚さをほぼ一定とすることができる。よって、凹凸層における凹凸のピッチを目的とする値に調整できる。
【0082】
<光学素子の作製方法>
上記金型を用いた光学素子の製造方法としては、ナノインプリント法、プレス成形法、射出成形法、電鋳法等を適用することができる。これらの方法を適用すれば、高精度に周期格子構造が形成されて視野角制限機能の発現に好適な形状転写体(複製品)を再現性良く、大量に生産することができる。
上記光学素子の製造方法の中でも、微細な凹凸の転写に特に適していることから、ナノインプリント法、射出成形法が好ましい。
【0083】
上記実施形態の金型を用いたナノインプリント法によって光学素子を作製する具体的な方法としては、第1の実施形態に記載の方法が挙げられる。
【0084】
本実施形態の金型を用いることにより、凹レンズまたは凸レンズの表面に微細な凹凸を形成した光学素子を作成することが可能である。
【0085】
すなわち、上述の方法で形成された光学素子の光射出面の微細な凹凸の最頻ピッチと最頻高さおよび形状は、光学素子の用途によって決定される。光学素子が反射防止体である場合、微細な凹凸の最頻ピッチは使用する光の波長に合わせて調整することが好ましい。例えば、波長が400nm〜750nm程度の可視光を使用する場合、50nm以上300nm以下のピッチの凹凸が好ましい。さらに、微細な凹凸のピッチが50nm以上150nm以下であれば、可視光領域での回折光を減少させることができる。波長750nm程度〜10000nm以下の赤外領域を使用する場合、500nm以上5000nm以下の最頻ピッチの凹凸が好ましい。
【0086】
光学素子の用途によって微細な凹凸の最適なアスペクト比は決定される。例えば、該金型によって有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子を製造する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.1〜1.0が好ましい。例えば、該金型によって反射防止体を製造する場合、凹凸における凸部Eのアスペクト比は0.5〜4.0であることがより好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.0であることが好ましい。
該金型によって有機ELや薄膜デバイスに用いる回折格子を製造する場合、凸部の最頻高さHは、10nm〜500nmの間であることが好ましく、15nm〜150nmであることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、有機ELや薄膜デバイスの光取り出し効率が向上するという効果が得られる。また、該金型によって可視光を対象とする反射防止体を製造する場合、凸部の最頻高さHは、25nm〜1200nmの間であることが好ましく、120nm〜500nmであることが更に好ましい。また、該金型によって赤外光を対象とする反射防止体を製造する場合、凸部の最頻高さHは、250nm〜10000nmの間であることが好ましく、750nm〜10000nmであることが更に好ましい。最頻高さHが好ましい範囲内であれば、反射防止性能が向上するという効果が得られる。
【0087】
(作用効果)
上記光学素子の凹凸は、適度にランダムになっている。そのため、回折光が生じるような微細なピッチの凹凸を設けるにもかかわらず、回折光の指向性を低下させることができ、カラーシフトを抑制することができる。
また、光学素子の凹凸は、完全なランダムなものではなく、金型20A及び20Bの各エリアC〜Cに対応する範囲内では一定の秩序を有している。そのため、光学素子の凹凸のピッチを容易に調整でき、目的の光学的機能を容易に得ることができる。
さらに、本実施形態の金型を用いることにより、凹レンズまたは凸レンズの表面に微細な凹凸を形成した光学素子を作成することが可能である。
【0088】
<他の実施形態>
なお、本発明の金型は、上記第1および第2の実施形態に限定されない。
例えば、母材の形状は特に制限されず、円柱体であってもよい。また、第2の実施形態では母材21Aの一方の表面23Aだけが凸曲面を有する例について説明したが、両方の表面が凸曲面を有していてもよい。第2の実施形態では母材21Bの一方の表面23Bだけが凹曲面を有する例について説明したが、両方の表面が凹曲面を有していてもよい。
また、第2の実施形態では、母材21Aが一つの凸曲面を有する例について説明したが、母材21Aが二以上の凸曲面を有していてもよい。同様に第2の実施形態では、母材21Bが一つの凹曲面を有する例について説明したが、母材21Bが二以上の凹曲面を有していてもよい。
また、第2の実施形態における微細な凹凸を有する金型自体を、反射防止体や回折格子等の光学素子として使用することも可能である。第2の実施形態では母材21Aの一方の表面23Aだけに凸曲面を有する例について説明したが、金型自体を、反射防止体や回折格子等の光学素子として使用する場合は、両方の表面が凸曲面を有していてもよい。同様に、第2の実施形態では母材21Bの両方の表面が凹曲面を有していてもよい。
【0089】
以上の本発明において、本発明の金型を使用して光学素子の製造を行った際に、微細な凹凸面が経時的に劣化していってしまう。
【0090】
本発明の金型は、母材上に設けられた凹凸層を有する構造であるため、ドライエッチングにより経時劣化した凹凸層を除去し、新たに凹凸層を各実施形態と同条件で加工して作成することにより、母材を再利用し同一の金型を再作製することが可能である。
このように母材を再利用する場合は、母材と凹凸層のエッチングレートの比率が100〜10000、好ましくは1000〜10000であることが好ましい。
【実施例】
【0091】
[実施例1]
平均粒径が400.7nmで、粒径の変動係数が3.3%である球形コロイダルシリカの13.4質量%水分散液(分散液)を用意した。なお、平均粒径および粒径の変動係数は、Malvern Instruments Ltd社製Zetasizer Nano−ZSによる粒子動的光散乱法で求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから求めた。
次いで、この分散液を孔径1.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、メンブランフィルターを通過した分散液に濃度0.8質量%のヘキシルトリメトキシシランの加水分解物水溶液を加え、約40℃で4時間30分反応させた。この際、フェニルトリエトキシシランの質量がコロイダルシリカ粒子の質量の0.02倍となるように分散液と加水分解水溶液とを混合した。
次いで、反応終了後の分散液に、この分散液の体積の4倍の体積のメチルイソブチルケトンを加えて充分に攪拌して、疎水化されたコロイダルシリカを油相抽出した。
【0092】
母材としてステンレス板(両面鏡面研磨)を用意し、母材表面にWをスパッタリングし、無機膜を製膜して、被加工体を得た。
油層抽出した疎水化コロイダルシリカ分散液を、単粒子膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、単粒子膜を液面に沿う方向に圧縮する可動バリアとを備えた水槽(LBトラフ装置)中の液面(下層水として水を使用、水温25℃)に滴下速度0.01ml/秒で滴下した。なお、水槽の下層水には、あらかじめ、被加工体を略鉛直方向に浸漬しておいた。
その後、超音波(出力50W、周波数1500kHz)を下層水中から水面に向けて10分間照射して粒子が2次元的に最密充填するのを促しつつ、分散液の溶剤であるメチルイソブチルケトンを揮発させて、水面に単粒子膜を形成させた。
次いで、この単粒子膜を、可動バリアにより拡散圧が30mNm−1になるまで圧縮し、浸漬しておいた被加工体を5mm/分の速度で引き上げ、被加工体の無機膜面上に単粒子膜を移し取った。
次いで、単粒子膜が形成された被加工体にバインダーとして1質量%モノメチルトリメトキシシランの加水分解液を浸透させ、その後、加水分解液の余剰分をスピンコーター(3000rpm)で1分間処理して除去した。その後、これを100℃で10分間加熱してバインダーを反応させ、コロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスク付きの被加工体を得た。
【0093】
上記単粒子膜エッチングマスクについて、10μm×10μmの領域を無作為に1カ所選択して、その部分の原子間力顕微鏡イメージを得て、次いで、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像を得た。次いで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求め、さらにその逆数を求めた。この逆数がこの領域における粒子間の最頻ピッチBである。
このような処理を合計25カ所の10μm×10μmの領域について同様に行い、各領域における最頻ピッチB〜B25を求め、これらの平均値を算出し、式(1)における最頻ピッチBとした。なお、この際、隣り合う各領域同士が5mm程度離れるように各領域を設定した。算出された最頻ピッチBは412.3nmであった。
そこで、粒子の平均粒径A=400.7nmと、最頻ピッチB=412.3nmを式(1)に代入したところ、この例の単粒子膜エッチングマスクにおける粒子の配列のずれDは2.9%であった。
【0094】
次いで、単粒子膜エッチングマスク付きの被加工体に対して、SF:BCl=25:75〜75:25の混合ガスにより気相エッチングを行って微細な凹凸を形成した。エッチング条件は、アンテナパワー1500W、バイアスパワー1500〜2000W、ガス流量30〜50sccmとした。
エッチング後、原子間力顕微鏡イメージから実測した微細な凹凸の平均高さhは887.4nmで、単粒子膜エッチングマスクについて実施した方法と同じ方法で求めた微細な凹凸の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は410.8nmで、これらから算出されるアスペクト比は2.16であった。この微細な凹凸に対して、式(2)による微細な凹凸の配列のずれD'を求めたところ、2.46%であった。
【0095】
このようにして作製された微細な凹凸付き金型を、微細な凹凸面が露出するように、30mm×30mmのステンレス板(両面鏡面研磨)の中央に貼り付けた。ステンレス板に貼り付けた金型を、ピックアップ用フィルム(テトロンフィルム、厚さ50μm、帝人製)に塗布した紫外線硬化樹脂(PAK−01CL、東洋合成工業製)に対して2.4MPaの圧力で押圧しつつ2.0Jの紫外線で露光して紫外線硬化樹脂を硬化させた。次に、硬化した樹脂を緩やかにモールドから、次いでピックアップ用フィルムから剥離して、厚さ約1.0mmのナノインプリント品の光学素子を取り出した。この光学素子の凹凸構造面と反対側の面は、平坦であった。
【0096】
回折光の面内異方性を確認するため、作製した光学素子の凹凸形状を有する面に対して垂直に点光源からのレーザー光を入射させて、構造面から出射する回折光をスクリーン上に投影させた。光学素子に入射した光は回折格子の結晶軸方向(結晶内で設定される座標軸。三角格子であるため、a軸とb軸が形成する角度が60°である)に依存して回折する。本実施例では、三角格子を含むエリアの結晶軸方向がランダムに配列する構造を持つため、スクリーン上には、図7に示すように、レーザー光の回折角(Z軸方向)は一定であるが、X、Y方向は等方的に結晶配向していることを示すリング状の明線が投影された。これより、本実施例による方法では、回折光の指向性がほぼないことが確認された。
【0097】
[実施例2]
平均粒径が120.2nmで、粒径の変動係数が6.5%である球形コロイダルシリカの7.2質量%水分散液(分散液)を用意した。なお、平均粒径および粒径の変動係数は、Malvern Instruments Ltd社製Zetasizer Nano−ZSによる粒子動的光散乱法で求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから求めた。
次いで、この分散液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過した後、メンブランフィルターを通過した分散液に濃度0.8質量%のヘキシルトリメトキシシランの加水分解物水溶液を加え、約40℃で2時間分反応させた。この際、フェニルトリエトキシシランの質量がコロイダルシリカ粒子の質量の0.02倍となるように分散液と加水分解水溶液とを混合した。
次いで、反応終了後の分散液に、この分散液の体積の4倍の体積のメチルイソブチルケトンを加えて充分に攪拌して、疎水化されたコロイダルシリカを油相抽出した。
【0098】
母材として曲率半径45mm、直径30mmの凹面球加工されたステンレス板(両面鏡面研磨)を用意し、母材表面にCrを1.0μm厚さでスパッタリングして無機膜とし、被加工体を得た。
油層抽出した疎水化コロイダルシリカ分散液を、単粒子膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、単粒子膜を液面に沿う方向に圧縮する可動バリアとを備えた水槽(LBトラフ装置)中の液面(下層水として水を使用、水温25℃)に滴下速度0.01ml/秒で滴下した。なお、水槽の下層水には、あらかじめ、被加工体を略鉛直方向に浸漬しておいた。
その後、超音波(出力50W、周波数1500kHz)を下層水中から水面に向けて10分間照射して粒子が2次元的に最密充填するのを促しつつ、分散液の溶剤であるメチルイソブチルケトンを揮発させて、水面に単粒子膜を形成させた。
次いで、この単粒子膜を、可動バリアにより拡散圧が30mNm−1になるまで圧縮し、浸漬しておいた被加工体を5mm/分の速度で引き上げ、被加工体の無機膜面上に単粒子膜を移し取った。
次いで、単粒子膜が形成された被加工体にバインダーとして1質量%モノメチルトリメトキシシランの加水分解液を浸透させ、その後、加水分解液の余剰分をスピンコーター(3000rpm)で1分間処理して除去した。その後、これを100℃で10分間加熱してバインダーを反応させ、コロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスク付きの被加工体を得た。
【0099】
上記単粒子膜エッチングマスクについて、10μm×10μmの領域を無作為に1カ所選択して、その部分の原子間力顕微鏡イメージを得て、次いで、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像を得た。次いで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求め、さらにその逆数を求めた。この逆数がこの領域における粒子間の最頻ピッチBである。
このような処理を合計25カ所の10μm×10μmの領域について同様に行い、各領域における最頻ピッチB〜B25を求め、これらの平均値を算出し、式(1)における最頻ピッチBとした。なお、この際、隣り合う各領域同士が5mm程度離れるように各領域を設定した。算出された最頻ピッチBは121.8nmであった。
そこで、粒子の平均粒径A=120.2nmと、最頻ピッチB=121.8nmを式(1)に代入したところ、この例の単粒子膜エッチングマスクにおける粒子の配列のずれDは1.3%であった。
【0100】
次いで、単粒子膜エッチングマスク付きの被加工体に対して、Cl:O:CHF=15:5:1〜25:15:10の混合ガスにより気相エッチングを行って微細な凹凸を形成した。エッチング条件は、アンテナパワー1500W、バイアスパワー200〜800W、ガス流量30〜50sccmとした。
エッチング後、原子間力顕微鏡イメージから実測した微細な凹凸の平均高さhは330.4nmで、単粒子膜エッチングマスクについて実施した方法と同じ方法で求めた微細な凹凸の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は118.8nmで、これらから算出されるアスペクト比は2.78であった。この微細な凹凸に対して、式(2)による微細な凹凸の配列のずれD'を求めたところ、1.16%であった。
【0101】
このようにして作製された微細な凹凸付き凹部が設けられた金型を、レンズ本体部用金型を組み合わせ、レンズの型を有する空隙を設ける。そして、この金型を射出成形機に取り付け、この空隙内に高温で流動性をもったアクリル樹脂(PMMA)を注入し、その後冷却する。次いで、成形品である微細構造体付きレンズを取り出した。この微細構造体付きレンズの凹凸構造面と反対側の面は、平坦であった。
【0102】
光学素子の反射防止性能を確認するため、垂直入射反射率をOcean Optics社製USB2000で測定したところ、可視光表面反射率は0.3%程度で波長依存性もないことが確認された。
【0103】
[比較例1]
干渉露光法によってシリコン板(厚さ0.3mm、サイズ30×30mm)に、ピッチ460nm、高さ200nm、三角格子配列の微細な凹凸を形成して金型を得た。次いで、ステンレス板に貼り付けた金型を、ピックアップ用フィルム(テトロンフィルム、厚さ50μm、帝人製)に塗布した紫外線硬化樹脂(PAK−01CL、東洋合成工業製)に対して2.4MPaの圧力で押圧しつつ2.0Jの紫外線で露光して紫外線硬化樹脂を硬化させた。次に、硬化した樹脂を緩やかにモールドから、次いでピックアップ用フィルムから剥離して、厚さ約1.0mmのナノインプリント品の光学素子を取り出した。
【0104】
実施例1と同様に、点光源からのレーザー光を、凹凸形状を有する面に対して垂直に入射させ、回折光がどのようにスクリーンに現れるか調べた。干渉露光法で単結晶性の微細な凹凸を形成した比較例では、光学素子に入射した光は回折して、スクリーン上に、図8に示すような、三角格子に依存した正六角形の頂点に対応する明点が現れた。これより、干渉露光法で作製した微細な凹凸は、回折光の指向性が高いことが確認された。
【0105】
[比較例2]
母材として曲率半径45mm、直径30mmの凹面球加工されたステンレス板(両面鏡面研磨)を用意し、エッチング層を設けない以外は実施例2と同じ方法で粒子マスク法による微細加工を行い、微細な凹凸の平均高さhは18.6nmで、微細な凹凸の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は115.7nmで、これらから算出されるアスペクト比が0.16の微細構造体付きレンズを得た。光学素子の反射防止性能を確認したところ、可視光表面反射率は5.2%程度であった。
【符号の説明】
【0106】
10 金型 11 母材 12 凹凸層 12a 凹凸面 12b 無機膜 12c 円柱 M 粒子 S 被加工体 V 水槽 W 下層水 X 端面
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図7
図8