特許第6070735号(P6070735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070735
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】鍵盤楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/34 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   G10H1/34
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-20121(P2015-20121)
(22)【出願日】2015年2月4日
(65)【公開番号】特開2016-142973(P2016-142973A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉村 美智子
【審査官】 冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−080218(JP,A)
【文献】 特開2008−026577(JP,A)
【文献】 特開2011−197176(JP,A)
【文献】 特開2014−059534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
G10C 3/16−3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、
前記鍵の押下操作により前記鍵によって直接的または間接的に駆動されて往方向に動作する変位部材と、
前記変位部材の動作方向が往方向から復方向に遷移したことを検知する検知手段と、
前記検知手段により前記変位部材の動作方向が往方向から復方向に遷移したことが検知されたタイミングに基づいて発音タイミングを決定する決定手段と、を有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記検知手段は、前記変位部材が往方向の動作範囲における所定位置より深い位置にあるときにだけオン状態を維持する第1の検知部を有し、
前記決定手段は、前記第1の検知部がオンとなった後にオフとなったタイミングを発音タイミングとして決定することを特徴とする請求項1記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記決定手段は、前記第1の検知部がオンとなってからオフとなるまでの時間差に基づいて押鍵ベロシティを決定することを特徴とする請求項2記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記鍵が押下されたことを検知する鍵検知部を有し、
前記決定手段は、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第1の検知部がオンとなるまでの時間差、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した時点から前記第1の検知部がオンからオフへと変化した時点までの時間差(Δt3)、または前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した後における前記第1の検知部がオンとなってからオフとなるまでの時間差の、少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定することを特徴とする請求項2記載の鍵盤楽器。
【請求項5】
前記検知手段は、前記変位部材が所定位置を往方向または復方向に通過するごとにオンとなる第2の検知部を有し、
前記決定手段は、一定時間内に前記第2の検知部が2回続けてオンとなった場合における2回目のオンとなったタイミングを発音タイミングとして決定することを特徴とする請求項1記載の鍵盤楽器。
【請求項6】
前記決定手段は、前記第2の検知部の1回目のオンから一定時間内における2回目のオンまでの時間差に基づいて押鍵ベロシティを決定することを特徴とする請求項5記載の鍵盤楽器。
【請求項7】
前記鍵が押下されたことを検知する鍵検知部を有し、
前記決定手段は、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第2の検知部が1回目のオンとなるまでの時間差、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第2の検知部が2回目のオンとなるまでの時間差、または前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した後における前記第2の検知部の1回目のオンから一定時間内における2回目のオンまでの時間差の、少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定することを特徴とする請求項5記載の鍵盤楽器。
【請求項8】
前記変位部材の往方向の動作終了位置は規制部材によって規制され、前記所定位置は、往方向の動作範囲における前記動作終了位置よりも動作開始位置に近い側の位置であって、前記動作終了位置から30%の範囲内にあることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の鍵盤楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押離鍵操作により往復変位する変位部材を有する鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍵の押下操作により鍵によって直接的または間接的に駆動されて往方向に変位(動作)するハンマ等の変位部材を有した鍵盤楽器が知られている。この種の楽器において、鍵または変位部材の動作を検知し、その検知結果に基づき楽音を制御する鍵盤楽器も知られている。例えば、下記特許文献1の楽器では、押鍵操作に応じて順次オンする接点部を3つ以上設け、指定した演奏形態に対応する2つの接点部が順次オンすることにより押鍵ベロシティや発音タイミングを制御するようにしている。
【0003】
一般に、鍵に連動するハンマのような変位部材の動作を楽音制御に利用する楽器においては、変位部材は、あらゆる演奏形態において鍵に対して変位部材がほぼ正確に連動するという暗黙の前提の下に制御がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−160263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし実際には、例えば鍵とハンマとは必ずしも正確に連動せず、押鍵強さや押鍵深さ、離鍵のタイミング等、様々な押離鍵の態様によって、鍵とハンマとの相対的な関係は複雑なものとなる。例えば、鍵は往方向に移動しているのに、ハンマは弦やストッパに当接して跳ね返り、復方向に移動している場合がある。このような場合に、ハンマが往方向において特定の場所に達したことを検知した結果だけに基づき楽音を制御したとすると、必ずしも正確な楽音制御ができない場合がある。例えば、奏者にとって、押鍵と発音とのタイミングが合わない、あるいは押鍵強さと発音音量とが一致しない、等の違和感が生じる場合がある。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、発音タイミングを適切に決定することができる鍵盤楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤楽器は、鍵と、前記鍵の押下操作により前記鍵によって直接的または間接的に駆動されて往方向に動作する変位部材(11、67等)と、前記変位部材の動作方向が往方向から復方向に遷移したことを検知する検知手段(SW7、SW8等)と、前記検知手段により前記変位部材の動作方向が往方向から復方向に遷移したことが検知されたタイミングに基づいて発音タイミングを決定する決定手段(45)と、を有することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記検知手段は、前記変位部材が往方向の動作範囲における所定位置より深い位置にあるときにだけオン状態を維持する第1の検知部(SW7、SW8等)を有し、前記決定手段は、前記第1の検知部がオンとなった後にオフとなったタイミングを発音タイミングとして決定する(請求項2)。
【0009】
好ましくは、前記決定手段は、前記第1の検知部がオンとなってからオフとなるまでの時間差(ΔT1)に基づいて押鍵ベロシティを決定する(請求項3)。好ましくは、前記鍵が押下されたことを検知する鍵検知部(SW5またはSW6等)を有し、前記決定手段は、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第1の検知部がオンとなるまでの時間差(Δt1)、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した時点から前記第1の検知部がオンからオフへと変化した時点までの時間差(Δt3)、または前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した後における前記第1の検知部がオンとなってからオフとなるまでの時間差(Δt2)の、少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定する(請求項4)。
【0010】
好ましくは、前記検知手段は、前記変位部材が所定位置を往方向または復方向に通過するごとにオンとなる第2の検知部(SW7b)を有し、前記決定手段は、一定時間内に前記第2の検知部が2回続けてオンとなった場合における2回目のオンとなったタイミングを発音タイミングとして決定する(請求項5)。好ましくは、前記決定手段は、前記第2の検知部の1回目のオンから一定時間内における2回目のオンまでの時間差(ΔT2)に基づいて押鍵ベロシティを決定する(請求項6)。好ましくは、前記鍵が押下されたことを検知する鍵検知部(SW5等)を有し、前記決定手段は、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第2の検知部が1回目のオンとなるまでの時間差(Δt11)、前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知してから前記第2の検知部が2回目のオンとなるまでの時間差(Δt13)、または前記鍵検知部が前記鍵の押下を検知した後における前記第2の検知部の1回目のオンから一定時間内における2回目のオンまでの時間差(Δt12)の、少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定する(請求項7)。
【0011】
好ましくは、前記変位部材の往方向の動作終了位置は規制部材(60、82)によって規制され、前記所定位置は、往方向の動作範囲(ST0)における前記動作終了位置よりも動作開始位置に近い側の位置であって、前記動作終了位置から30%の範囲内(ST1)にある(請求項8)。
【0012】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1によれば、発音タイミングを適切に決定することができる。
【0014】
請求項2によれば、例えば、打弦に相当するタイミングを発音トリガとすることができる。請求項3、6によれば、押鍵ベロシティを適切に決定することができる。請求項4、7によれば、最低限2つの検知部を用いて、押鍵ベロシティを適切に決定することができる。請求項5によれば、通過方向を検知できない検知部を用いた場合であっても、発音タイミングを適切に決定することができる。請求項8によれば、発音タイミングをより適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤楽器の縦断面図である。
図2】1つのアクション機構及びその周辺要素の側面図である。
図3】検知部の構成を示す断面図(図(a)、(c))、検知状態を示す図(図(b)、(d))である。
図4】鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図(図(a))、レジスタに記憶される検知部における検知結果の情報を示す概念図(図(b))である。
図5】メイン処理(図(a))、各鍵の消音処理(図(b))を示すフローチャートである。
図6】各鍵の発音処理を示すフローチャートである。
図7】第1の実施の形態の変形例の各鍵の発音処理を示すフローチャート(図(a))、検知部の動作検知状態を示すタイムチャート(図(b))である。
図8】各鍵の発音処理を示すフローチャートである。
図9】第2の実施の形態の変形例の各鍵の発音処理を示すフローチャート(図(a))、検知部の動作検知状態を示すタイムチャート(図(b))である。
図10】アップライトピアノのアクション機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤楽器の縦断面図である。図1では主に、1つの鍵Kとそれに対応するアクション機構ACT等の構成を示している。
【0018】
この鍵盤楽器はグランドピアノ型の電子鍵盤楽器として構成され、白鍵及び黒鍵である鍵Kが複数並列に配列される。鍵Kの後端部の上方に、各鍵Kに対応してアクション機構ACTが設けられる。各鍵Kは各々、鍵支点部70におけるバランスピン74近傍の部分を支点として図1の時計及び反時計方向に回動自在に配設される。図1の右側が奏者側であって前方、左側が後方である。鍵Kの前部が押離操作される。
【0019】
この鍵盤楽器はハンマ11による弦19の打撃によって発音することができると共に、アクション機構ACT等における構成要素の移動や位置を検知して電子的に発音することも可能となっている。なお、消音用ストッパ60が、鍵盤筬を含むベース部76に対して位置を可変に取り付けられ、不図示の操作子の操作により消音用ストッパ60の位置を切り替えできるようになっている。通常の発弦による演奏を行う場合は、ハンマ11が当接しない位置に消音用ストッパ60を位置させ、消音モードで演奏するときには、消音用ストッパ60をハンマ11と当接する位置に位置させてハンマ11が弦19に当接しないようにすることができる。
【0020】
鍵Kの前部下部にフロントブッシングクロス64A、64Bが設けられている。ベース部76には、フロントブッシングクロス64A、64Bの位置に対応して、フロントパンチングクロス63A、63Bが配設されている。押鍵操作によって、フロントパンチングクロス63A、63Bにフロントブッシングクロス64A、64Bが当接することで、鍵Kの回動終了位置(エンド位置)が規制される。フロントピン75A、75Bによって、押鍵操作時に各鍵Kの前部の鍵並び方向への移動が規制される。
【0021】
鍵Kの後部の下部に導電部66が設けられている。ベース部76には、導電部66に対応して、バックレールアンダーフェルトを介してバックレールクロス65が配設されている。鍵Kの後部の下面がバックレールクロス65に当接することで導電部66がバックレールクロス65に当接し、非押鍵状態における鍵Kの初期位置、すなわち回動開始位置(レスト位置)が規制される。
【0022】
ベース部76に対して電気回路基板61が固定的に配設される。また、アクションブラケット77に対して電気回路基板62が固定的に配設される。電気回路基板はこの他にも存在するが、それらの図示は省略する。
【0023】
図2は、1つのアクション機構ACT及びその周辺要素の側面図である。
【0024】
鍵Kの後端部上面には、キャプスタンスクリュ4が植設されている。鍵Kの後端部上部には、バックチェック35が設けられる。鍵Kの後方にあるダンパレバーフレンジ78にダンパレバー67が軸支される。また、ダンパブロック69にダンパレバー67が軸支され、ダンパブロック69にダンパ79が固定される。
【0025】
アクション機構ACTは、ウィッペン5、ジャック6、レペティションレバー8等を主に備える。ウィッペン5は、その後端部5aの回動支点23が、サポートレール3に固定されたサポートフレンジ2に軸支され、自由端である前端5bが、回動支点23を中心として上下方向に回動自在にされている。ウィッペン5の回動支点23側の上面には、ハンマシャンクストップフェルト20が配設される。ウィッペン5の前半部上部には、ジャックストップ33が突設されている。
【0026】
ウィッペン5の前後方向中央においてレペティションレバーフレンジ7が上方に突設される。レペティションレバー8は、レペティションレバーフレンジ7の上端部の回動支点7aを中心に、同図時計及び反時計方向に回動自在に支持される。ジャック6は、略上方に延びた垂直部6aと略水平方向前方に延びたジャック小6bとを有して側面視略L字形を呈する。ジャック6は、ウィッペン5の前端5bの回動支点36に、図2の時計及び反時計方向に回動自在に配設される。
【0027】
ジャックストップ33は、ジャックボタンスクリュ32と、ジャックボタンスクリュ32の後端部に設けられたジャックボタン31とを有している。非押鍵状態(離鍵状態)においては、ジャックボタン31にジャック6が当接して、ジャック6の初期位置が規制され、その初期位置は、ジャックボタンスクリュ32で調節することができる。
【0028】
シャンクレール10にはシャンクフレンジ9が固定されている。シャンクレール10に取り付けられたレギュレーティングレール100に対して、レギュレーティングボタン25が高さ調節自在に設けられている。シャンクフレンジ9の下部には、レペティションスクリュ34が設けられている。ハンマ11は、レペティションレバー8の上方に配設される。ハンマ11のハンマシャンク16の前端部が、シャンクフレンジ9に対して、回動中心13を中心として上下方向に回動自在に枢支される。ハンマシャンク16の後端である自由端にハンマウッド17が取り付けられている。ハンマウッド17の上端にハンマフェルト18が取り付けられている。ハンマシャンク16の前端部近傍にハンマローラ14が設けられる。
【0029】
非押鍵状態において、レペティションレバー8は、その前端部上面にてハンマローラ14を下方より受け止め、該ハンマ11を初期位置に規制する。一方、レペティションレバー8の後端部にはレペティションレバーボタン15が高さ調整自在に配設されている。このボタン15はウィッペン5の後端部5aの上面に当接し、これによってレペティションレバー8の反時計方向への回動が規制され、レペティションレバー8が初期位置に規制される。
【0030】
レペティションレバー8の前端部には、長孔21が形成されている。ジャック6の垂直部6aが長孔21内に挿通され、垂直部6aの頂端面22がレペティションレバー8の上面とほぼ面一になっている。
【0031】
かかる構成において、非押鍵状態から鍵Kが押鍵操作される通常の押鍵往行程においては、キャプスタンスクリュ4の上昇によってウィッペン5が突き上げられ、回動支点23を中心として往方向である反時計方向に回動する。ウィッペン5が突き上げられることにより、レペティションレバー8及びジャック6がウィッペン5と一緒に上方に回動する。これらの回動に伴い、まず、レペティションレバー8及びジャック6の垂直部6aが、ハンマローラ14を回転乃至摺動させながら、ハンマローラ14を介してハンマ11を押し上げ、上方に回動させる。
【0032】
一方、鍵Kの往方向への回動に伴い、鍵Kの後端部上部に設けられたダンパレバークッション68がダンパレバー67の前端部を押し上げる。するとダンパブロック69を介してダンパ79が上昇し、やがて弦19からダンパ79(厳密にはダンパ79の下部に設けられたダンパフェルト)が離間する。
【0033】
次いで、レペティションレバー8がレペティションスクリュ34に当接係合することにより、レペティションレバー8の反時計方向への変位(上限位置)が規制されると、ジャック6の垂直部6aの頂端面22がレペティションレバー8の長孔21を通じて突出し、ハンマローラ14が頂端面22によって駆動されて、ハンマ11が突き上げられる。
【0034】
ウィッペン5がさらに往方向に回動すると、その回動途中でジャック6のジャック小6bがレギュレーティングボタン25(厳密にはレギュレーティングボタンパンチング)の下面に当接してその上昇が阻止される。しかしウィッペン5自身はなおも回動するので、ジャック6は回動支点36を中心に時計方向に回動する。そのため、ジャック6の垂直部6aの頂端面22がハンマローラ14の下方から前方に抜けて、脱進する。これにより、ハンマ11は、ジャック6との係合を解かれ、自由回動状態で弦19を打弦する。ハンマ11は、打弦後は、自重と弦19の反撥力とによって回動復帰する。なお、消音モード時には、ハンマ11のハンマシャンク16が消音用ストッパ60によって回動を規制され、弦19には当接しない。
【0035】
押鍵終了後、その押鍵状態が維持されているときは、弦19で跳ね返ったハンマ11は、そのハンマウッド17がバックチェック35(厳密にはバックチェッククロス35a)に受け止められ、静止している。鍵Kが離鍵され、バックチェック35とハンマ11との係合が解かれると、レペティション付勢部12bの付勢力によって、レペティションレバー8が反時計方向に回動すると共に、ハンマローラ14がレペティションレバー8に支えられる。
【0036】
また、ジャック6は、打弦動作後、ウィッペン5の回動復帰に伴ってレギュレーティングボタン25から解放され、ジャック付勢部12aの付勢力により反時計方向に回動復帰して、初期位置に戻る。ジャック6の垂直部6aの頂端面22がハンマローラ14の下側位置に速やかに復帰することによって、鍵Kが非押鍵位置まで完全に戻らなくても、再押鍵による次の打弦動作が行えるようになる。つまり、速い連弾が可能となる。
【0037】
ところで、本鍵盤楽器において、係合関係となる対象に対する係合状態が押離鍵動作の行程において変化し得る構成要素を「構成体」と称する。構成体には、部品単体だけでなく、一体として構成される部品構成体、あるいは一体として可動する構成体が含まれる。例えば、鍵K(鍵体)、ハンマ11(ハンマ体)のほか、鍵Kからハンマ11までの系に介在する構成要素、あるいは、鍵Kやハンマ11の回動動作開始位置や回動動作終了位置を規制する構成要素が該当する。具体的には、これらのほか、符号で挙げると、構成要素5、6、7、8、9、11、15、19、20、25、31、34、35、60、63、65、79等が、構成体に該当し得る。なお、構成要素64、66、68は鍵Kの一部として把握してもよい。構成要素14、16、17、18はハンマ11の一部として把握してもよい。可動する構成体のうち鍵Kを除くものは変位部材に該当し得る。構成体はこれら例示したものに限定されるものではない。
【0038】
本鍵盤楽器は、検知部SW7を含む複数の検知部SW(検知部SW2〜SW8)を、鍵Kに対応して複数備える。検知部SWは、鍵Kや変位部材の動作を検知するか、または係合関係となり得る構成体同士の係合状態を検知するものである。検知部SW7は消音用ストッパ60の下面に配設される。従って、消音モード時には、ハンマ11は、検知部SW7に当接し、検知部SW7を介して消音用ストッパ60に間接的に当接する。
【0039】
本実施の形態では、押鍵操作により鍵Kによって直接的または間接的に駆動されて往方向に変位(動作)すると共に、鍵Kの離操作により復方向に動作する「変位部材」に着目して、押鍵ベロシティを含む楽音情報を生成すると共に、発音タイミングを決定する。変位部材として、まずはハンマ11を例にとって考える。ハンマ11の動作方向(ベクトル)が往方向から復方向に遷移したことを検知部SW7で検知し、その検知結果に基づいて発音タイミングの決定等を行う。検知部SW2〜SW8の全てが必要ではなく、変位部材の動作方向が往方向から復方向に遷移したことを検知できる検知部SWであれば、本発明を適用できる。
【0040】
図3(a)は、検知部SW7の構成を示す断面図である。なお、図3(c)に示す構成は、後述する第2の実施の形態で用いるもので、ここでは言及せず後述する。図3(a)に示すように、検知部SW7は、押下ストロークを少し有するメイクスイッチとして構成され、下方にドーム状に膨出した被駆動部87を有する。被駆動部87がハンマ11によって駆動されると、可動接点85が、消音用ストッパ60の下面に設けられた固定接点86に当接し、電気的にONとなる。ドーム内には、非押鍵状態において可動接点85よりも消音用ストッパ60の下面から離れているストッパ部88が設けられる。
【0041】
消音モード時におけるハンマ11の動作範囲である回動の全ストロークST0の始点は、ハンマ11がレペティションレバー8に当接することで規制される。一方、全ストロークST0の終点は、ストッパ部88が消音用ストッパ60の下面に対して当接関係となることで規制される。ハンマ11の往方向のストロークにおいて、可動接点85が固定接点86に当接する位置(所定位置)からストッパ部88が消音用ストッパ60の下面に当接するまでのストロークST1は、全ストロークST0の30%以内の位置にある。この30%は、復方向に変位するハンマ11がバックチェック35に受け止められる位置を想定したものである。検知部SW7は、ハンマ11が所定位置より深い位置にあるときにだけON(オン)状態を維持する「第1の検知部」となる。
【0042】
検知部SW8(図2)も検知部SW7と同様の構成となっている。検知部SW8は、ストップレール81の下部に配置される。検知部SW8は、ダンパレバー67が往方向の回動ストロークにおける後半の30%以内の位置にあるときときにだけON状態を維持する第1の検知部となり得る。
【0043】
検知部SW2〜SW6については、鍵Kや変位部材の動作を検知できる構成であればよく、配置の場所に合わせた構成を採用できる。例えば、検知部SW5、SW6(図1)は、鍵支点部70の前方に配置され、いずれも、押下操作される鍵Kに押下されるとONとなる。検知部SW5の方が検知部SW6よりも突出しており、押鍵往行程において先にONとなる。
【0044】
検知部SW2〜SW4については、接触または圧力変化によりONとなる一般的なスイッチ構成を採用してもよいが、本実施の形態では、一例として、構成体同士の間の電気的な導通の状態により、両者の係合状態を検知する構成としている。具体的には、構成体における相互に係合する係合部の各々を、導電性を有する構成とし、CPU45(図4(a))は、両者が当接すれば導通、離間すれば非導通となることを利用して、両者の係合状態を検知する。
【0045】
このような導通構成を簡単に実現するためには、例えば、係合部の、互いが係合する領域に導電材を施す。導電材としては、黒鉛、導電性ゴム、導電不織布、銅板、導電塗装(導電性グリス)等を、係合する領域の少なくとも表面や係合面に施す。クロス等に適用する場合は、クロス全体を導電材で構成してもよい。あるいは、可動構成体及び対応構成体の、全体または少なくとも各々の係合部を導電体や導電部材で構成してもよい。例えば、構成体の全体または係合部を導電樹脂で成形する。導電性を持たせるための構成は、可動構成体と対応構成体とで異なっていてもよい。
【0046】
いくつか代表例として挙げると、検知部SW2では、鍵K(のダンパレバークッション68)とダンパレバー67(の当接部67a)をいずれも導電体で構成する。検知部SW3では、レギュレーティングボタン25とジャック6をいずれも導電体で構成する。検知部SW4では、バックレールクロス65と鍵K(の導電部66)をいずれも導電体で構成する。これら以外の構成体同士にも同様の構成を適用可能である。ジャック6とハンマローラ14とをいずれも導電体で構成してもよい。
【0047】
導電性を有した導電部は、電気回路基板に対して電気的に接続されている。図2では電気回路基板の図示を省略している。図1に示すように、例えば、ジャック6の導電部がフレキシブルリード等の配線72で電気回路基板62に接続され、ハンマローラ14も配線73で電気回路基板62に接続される。また、電気回路基板61には、フロントブッシングクロス64A、64Bが配線71で接続されると共に、フロントパンチングクロス63A、63Bも不図示の配線によって接続される。他の係合部の導電部についても、電気回路基板61、62または不図示の電気回路基板に対して適宜、配線接続されている。
【0048】
検知部SWは、導通となると電気的にON、非導通となると電気的にOFF(オフ)となる。しかし本実施の形態では、変位部材に関する検知部SWについては、押鍵の往行程において、変位部材が、ある位置よりも往方向に位置したことを検知した場合を「動作検知状態」と称することとする。例えば、検知部SW7、SW8については、電気的にONとなった状態が動作検知状態に該当する。
【0049】
一方、検知部SW4のように、バックレールクロス65と鍵Kの導電部66とは、少しでも押鍵がされると離間し、検知部SW4が電気的にはOFFとなる。このように、非押鍵状態で電気的にONとなっている検知部については、電気的にOFFとなることで押鍵操作が検知されることになるので、電気的にOFFになったことを「動作検知状態」と称する。
【0050】
図4(a)は、鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図である。本鍵盤楽器は、検出回路43、検出回路44、ROM46、RAM47、タイマ48、表示装置49、外部記憶装置50、各種インターフェイス(I/F)51、音源回路53及び効果回路54が、バス56を介してCPU45にそれぞれ接続されて構成される。
【0051】
さらに、検出回路44には、検知部SWが接続される。各種操作子41には、鍵K等の演奏操作子も含まれる。CPU45にはタイマ48が接続され、音源回路53には効果回路54を介してサウンドシステム55が接続されている。
【0052】
検出回路43は各種操作子41の操作状態を検出する。検出回路44は検知部SWにおける導通状態を検知し、その検知結果をCPU45に供給する。CPU45は、本装置全体の制御を司る。ROM46は、CPU45が実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶する。RAM47は、演奏データ、テキストデータ等の各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算結果等を一時的に記憶する。タイマ48は、タイマ割り込み処理における割り込み時間や各種時間を計時する。各種I/F51には、MIDI−I/Fや通信I/Fが含まれる。音源回路53は、各種操作子41から入力された演奏データや予め設定された演奏データ等を楽音信号に変換する。効果回路54は、音源回路53から入力される楽音信号に各種効果を付与し、DAC(Digital-to-Analog Converter)やアンプ、スピーカ等のサウンドシステム55は、効果回路54から入力される楽音信号等を音響に変換する。
【0053】
図4(b)は、レジスタに記憶される検知部SWにおける検知結果の情報を示す概念図である。検知部SWにおける検知結果の情報は、ONかOFFかを示す導通状態と、ONとOFFとが切り替わった変化時刻とを示す情報であり、全ての検知部SWについて、鍵KごとにRAM47のレジスタに記憶される。なお、検知情報が利用されない検知部SWについては記憶する必要はない。
【0054】
図5(a)は、メイン処理を示すフローチャートである。この処理は、所定時間(例えば、100μ秒ごと)間隔で実行される。まず、CPU45は、各鍵Kにおける検知部SWを走査して、走査結果(ONかOFFか)をレジスタに鍵Kごとに記憶する(ステップS101)。次に、CPU45は、各検知部SWにおいて状態変化、すなわちONとOFFとの変化が生じた場合はその変化時刻も記憶する(ステップS102)。これにより、検知結果の情報(図4(b))が鍵Kごとに記憶され、随時更新される。なお、各検知部SWの走査の処理と状態をレジスタに記憶する処理とは、ハードウェアで逐次自動的に行うようにしてもよい。
【0055】
次に、CPU45は、各鍵Kの発音処理を実行し(ステップS103)、次に、各鍵Kの消音処理(図5(b))を実行して(ステップS104)、図5(a)の処理を終了させる。
【0056】
楽音制御は、複数の検知部SWの検知結果に基づいて行える。また、それらの検知部SWの検知結果は、楽音制御に限られず、演奏を楽音制御用の演奏データとして記録することにも利用できる。楽音制御や演奏データの記録に用いる検知部SWに限定はない。すなわち、発音トリガや押鍵ベロシティを決定する楽音情報生成用の検知部SWには、いずれの検知部SWを採用してもよい。また、発音した楽音を消音する消音対応の検知部SWには、いずれの検知部SWを採用してもよい。
【0057】
本実施の形態では、代表として、検知部SW7を用いて発音処理と消音処理の双方を行う例を説明する。本実施の形態では、変位部材としてのハンマ11の動作方向が往方向から復方向に遷移したことを発音トリガとし、楽音を生成する。
【0058】
図5(b)は、図5(a)のステップS104で実行される各鍵Kの消音処理を示すフローチャートである。図6は、図5(a)のステップS103で実行される各鍵Kの発音処理を示すフローチャートである。
【0059】
まず、図6のステップS301では、CPU45は、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)であるか否かを判別する。この判別は、検知結果の情報(図4(b))を参照することでなされ、以降でも同様である。その判別の結果、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)でない(動作非検知状態(OFF)である)場合は、ハンマ11の回動位置が所定位置より浅く、発音すべきタイミングでないので、発音がなされることなく図6の処理は終了する。
【0060】
一方、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)である場合は、ハンマ11の回動位置が所定位置より深くなっていると判断できるので、CPU45は、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)から動作非検知状態(OFF)へと変化したか否かを判別する(ステップS302)。その判別の結果、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)から変化していない場合は、ハンマ11が跳ね返ったこと、すなわち、往方向から復方向に遷移したことが未だ確認できず、発音すべきタイミングでないので、発音がなされることなく図6の処理は終了する。
【0061】
一方、検知部SW7の状態が動作検知状態(ON)から動作非検知状態(OFF)へと変化した場合は、ハンマ11の動作方向が往方向から復方向に遷移したと判断できるので、CPU45は、楽音情報を生成する(ステップS303)。この楽音情報の生成においては、CPU45は、検知部SW7の状態がONになってからOFFとなるまでの時間差ΔT1(図3(b)参照)に基づき押鍵ベロシティを決定する。例えば、時間差ΔT1の逆数に係数を乗じたものを押鍵ベロシティとする。そしてCPU45は、生成した楽音情報に基づき発音を開始する(ステップS304)。すなわち、CPU45は、今回処理の対象となっている鍵Kの音高の楽音を、当該鍵Kに対応して現在決定されているベロシティで発音するよう、音源回路53及び効果回路54等を制御する。従って、ハンマ11の動作方向が往方向から復方向に遷移したタイミングが発音開始タイミングとなる。その後、図6の処理が終了する。
【0062】
図5(b)の各鍵Kの消音処理において、ステップS201では、CPU45は、消音対応の検知部SW(検知部SW7)の状態がOFFであるか否かを判別する。その判別の結果、検知部SW7の状態がONである場合は、CPU45は、消音を開始することなく図5(b)の処理を終了させる。一方、検知部SW7の状態がOFFである場合は、CPU45は、処理をステップS202に進め、今回処理の対象の鍵Kに対応する音高が発音中か否かを判別する。その判別の結果、CPU45は、発音中でない場合は図5(b)の処理を終了させる一方、発音中である場合は、発音中の楽音の消音を開始する(ステップS203)。
【0063】
なお、消音対応の検知部SWとして、検知部SW7に代えて、例えば、検知部SW2、SW5、SW6のいずれかを用いてもよく、その方が適切な消音制御ができる場合がある。例えば、消音対応の検知部SWとして検知部SW2を採用すれば、ダンパレバークッション68とダンパレバー67(の当接部67a)との離間が消音タイミングとなる。この場合、弦19に対してダンパ79が離間するタイミングと略一致するので、より自然な消音となる。
【0064】
本実施の形態によれば、変位部材(ハンマ11)の動作方向が往方向から復方向に遷移したことが検知されたときに楽音情報を生成して発音を開始するので、発音タイミングを適切に決定して発音することができる。特に、第1の検知部(SW7)は、ハンマ11が往方向のストロークにおける所定位置(30%)より深い位置にあるときにだけオン状態を維持するので、打弦に相当するタイミングを発音トリガとすることができる。しかも、検知部SW7のONからOFFまでの時間差ΔT1に基づき押鍵ベロシティを決定するので、最低限1つの検知部SWを使用して、押鍵ベロシティを適切に決定し、楽音情報を生成することができる。
【0065】
なお、第1の検知部(検知部SW7)は、ハンマ11が往方向のストロークにおける所定位置より深い位置にあるときにだけオン状態となるとした。しかし、ここでいう「オン状態」は、電気的に導通することに限定されない。従って、電気的な導通状態をオフと見なすと共に電気的な非導通状態をオンと見なし、往方向のストロークにおける所定位置より深い位置にあるときにだけ電気的な非導通状態(すなわち、オン状態)となるような検知部を採用してもよい。
【0066】
なお、楽音情報生成用の検知部SWとして、検知部SW7に代えて検知部SW8を用いたとしても、十分に適切な発音タイミングを決定できる。この場合、ダンパレバー67が変位部材となる。なお、変位部材によっては、動作方向が往方向から復方向に遷移する際、必ずしもストッパ等で跳ね返ることに限らず、重力により復方向に遷移する場合もある。その場合であっても、楽音情報生成用の検知部SWによる検知結果から復方向への遷移が判断されれば、適切な楽音情報を生成することは可能である。
【0067】
次に、図7で、第1の実施の形態の変形例を説明する。この変形例では、楽音情報生成用の検知部SWとして2つの検知部SW(検知部SW5、SW7)を使用する。説明の例示として、第1の検知部として検知部SW7を採用し、鍵Kが押下されたことを検知する鍵検知部として検知部SW5を採用する。従って、図6に代えて図7(a)を用いると共に、図3(b)に代えて図7(b)を用いて第1の実施の形態の変形例を説明する。また、消音対応の検知部SWとしては検知部SW5を採用する。従って、図5(a)のステップS201では、検知部SW5がOFFか否かが判別される。
【0068】
図7(a)は、変形例における図5(a)のステップS103で実行される各鍵Kの発音処理を示すフローチャートである。図7(a)では、図6に対して一部のステップの図示を省略しているが、図6のステップS303に代えてステップS311が実行される。ステップS301、S302、S304については図6と同じである。
【0069】
ステップS311では、CPU45は、検知部SW5のON、検知部SW7のONとOFFに基づいて楽音情報を生成する。図7(b)は、検知部SW5、SW7の動作検知状態を示すタイムチャートである。検知部SW5がONとなった時点(鍵検知部が鍵Kの押下を検知した時点)をt1、検知部SW7がONとなった時点をt2、検知部SW7がONからOFFへと変化した時点をt3とする。時点t1〜時点t2の時間差をΔt1、時点t2〜時点t3の時間差をΔt2、時点t1〜時点t3の時間差をΔt3とする。
【0070】
CPU45は、時間差Δt1、Δt2、Δt3の少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定する。その手法について限定はないが、例えば、時間差Δt1、Δt2、Δt3のうちいずれか1つ(例えば、最も短いもの)を選択し、その逆数に係数を乗じたものを押鍵ベロシティとする。あるいは、時間差Δt1、Δt2、Δt3のうち2つまたは3つに、それぞれ予め定めた係数を乗算した値に基づき、算出式により押鍵ベロシティを算出する。
【0071】
このように、変形例によれば、第1の検知部(SW7)と鍵検知部(SW5)を併用し、時間差Δt1、Δt2、Δt3の少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定するので、最低限2つの検知部SWを用いて、押鍵ベロシティを適切に決定することができる。
【0072】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、楽音情報生成用に、変位部材(ハンマ11)の動作方向が往方向から復方向に遷移したことを検知する第1の検知部(検知部SW7)を用いた。これに対し、本発明の第2の実施の形態では、変位部材(ハンマ11)が所定位置を往方向または復方向に通過するごとにONとなる「第2の検知部」を用いる。従って、図3(a)、(b)、図6図7に代えて、図3(c)、(d)、図8図9を用いて第2の実施の形態を説明する。
【0073】
図3(c)は、第2の実施の形態における検知部の構成を示す正面図である。この検知部SW7bが第2の検知部となる。検知部SW7bは、発光部83と受光部84との対からなるフォトインタラプタ型の光学センサとして構成される。発光部83から受光部84までの光路をハンマ11が通過したときに検知部SW7bは動作検知状態(ON)となる。発光部83及び受光部84は同じ高さにあり、消音用ストッパ60の下面よりも下に位置する。ハンマ11が発光部83の位置よりもさらに往方向に回動して光路から外れると、検知部SW7bは動作非検知状態(OFF)となる。従って、検知部SW7bは、光路をハンマ11が通過したことは検知できるが、通過方向までは検知できない。ハンマ11の往方向のストロークにおいて、発光部83から消音用ストッパ60の下面までのストロークST1は、ハンマ11の全ストロークST0の30%以内の位置にある。
【0074】
まず、検知部SW7bを用いて発音処理と消音処理の双方を行う例を説明する。図8は、図5(a)のステップS103で実行される各鍵Kの発音処理を示すフローチャートである。
【0075】
CPU45は、タイムカウントTcntが有効範囲内であるか否かを判別する(ステップS401)。ここで、タイムカウントTcntは、ステップS408でカウントが開始される。タイムカウントTcntのカウントをしていないかまたはTcnt≧0のいずれかである場合に、タイムカウントTcntが有効範囲内であると判別される。
【0076】
その判別の結果、タイムカウントTcntが有効範囲内でない場合は、CPU45は、ステップS407に進んで、カウント中のタイムカウントTcntについてはカウントを終了して、図8の処理を終了させる。一方、タイムカウントTcntが有効範囲内である場合は、CPU45は、検知部SW7bの状態が動作検知状態(ON)となったか否かを判別する(ステップS402)。その判別の結果、検知部SW7bの状態が動作検知状態(ON)となっていない(動作非検知状態(OFF)である)場合は、ハンマ11の回動位置が所定位置より浅く、発音すべきタイミングでないので、発音がなされることなく図8の処理は終了する。
【0077】
一方、検知部SW7bの状態が動作検知状態(ON)となった場合は、CPU45は、現在、タイムカウントTcntのカウント中か否かを判別する(ステップS403)。その判別の結果、タイムカウントTcntのカウント中でない場合は、タイムカウントTcntに初期値を設定してカウントダウンを開始し(ステップS408)、図8の処理を終了させる。一方、タイムカウントTcntのカウント中である場合は、ハンマ11の動作方向が往方向から復方向に遷移したと判断できるので、CPU45は、楽音情報を生成する(ステップS404)。
【0078】
この楽音情報の生成においては、CPU45は、検知部SW7bの1回目のONから2回目のONまでの時間差ΔT2(図3(d)参照)に基づいて押鍵ベロシティを決定する。タイムカウントTcntが有効範囲内でないと、ステップS404に移行することはないから、楽音情報の生成がなされるのは、検知部SW7bの1回目のONの後、タイムカウントTcntに設定される初期値で決まる一定時間内に2回目のONがあった場合に限られる。
【0079】
次に、CPU45は、生成した楽音情報に基づき発音を開始する(ステップS405)。すなわち、CPU45は、今回処理の対象となっている鍵Kの音高の楽音を、当該鍵Kに対応して現在決定されているベロシティで発音するよう、音源回路53及び効果回路54等を制御する。従って、ハンマ11の動作方向が往方向から復方向に遷移したタイミングが発音開始タイミングとなる。その後、CPU45は、タイムカウントTcntのカウントを終了させてから(ステップS406)、図8の処理を終了させる。
【0080】
本実施の形態によれば、一定時間内に第2の検知部(検知部SW7b)が2回続けてオンとなった場合における2回目のオンとなったタイミングを発音タイミングとするので、通過方向を検知できない検知部を用いた場合であっても、発音タイミングを適切に決定することができる。また、打弦に相当するタイミングを発音トリガとすること、押鍵ベロシティを適切に決定すること、及び、最低限1つの検知部SWを使用して楽音情報を生成することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0081】
なお、検知部SW7bと同様の構成を検知部SW8に適用すれば、楽音情報生成用の検知部SWとして、検知部SW8を用いたとしても、十分に適切な発音タイミングを決定できる。この場合、ダンパレバー67が変位部材となる。
【0082】
次に、図9で、第2の実施の形態の変形例を説明する。この変形例では、楽音情報生成用の検知部SWとして2つの検知部SW(検知部SW5、SW7b)を使用する。説明の例示として、第2の検知部として検知部SW7bを採用し、鍵Kが押下されたことを検知する鍵検知部として検知部SW5を採用する。従って、第2の実施の形態において図8に代えて図9(a)を用いると共に、図3(d)に代えて図9(b)を用いて第2の実施の形態の変形例を説明する。また、消音対応の検知部SWとしては検知部SW5を採用する。従って、図5(a)のステップS201では、検知部SW5がOFFか否かが判別される。
【0083】
図9(a)は、変形例における図5(a)のステップS103で実行される各鍵Kの発音処理を示すフローチャートである。図9(a)では、図8に対して一部のステップの図示を省略しているが、図8のステップS404に代えてステップS411が実行される。ステップS401〜S403、S405〜S408については図8と同じである。
【0084】
ステップS411では、CPU45は、検知部SW5のON、検知部SW7bのONとOFFに基づいて楽音情報を生成する。図9(b)は、検知部SW5、SW7bの動作検知状態を示すタイムチャートである。検知部SW5がONとなった時点(鍵検知部が鍵Kの押下を検知した時点)をt11、検知部SW7bが1回目にONとなった時点をt12、検知部SW7bが1回目にONとなった後において2回目にONとなった時点をt13とする。時点t11〜時点t12の時間差をΔt11、時点t12〜時点t13の時間差をΔt12、時点t11〜時点t13の時間差をΔt13とする。
【0085】
CPU45は、時間差Δt11、Δt12、Δt13の少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定する。その手法について限定はなく、図7のステップS311と同様に考えることができる。
【0086】
このように、変形例によれば、第2の検知部(SW7b)と鍵検知部(SW5)を併用し、時間差Δt11、Δt12、Δt13の少なくともいずれか1つに基づいて、押鍵ベロシティを決定するので、最低限2つの検知部SWを用いて、押鍵ベロシティを適切に決定することができる。
【0087】
なお、第1の実施の形態において、第1の検知部として検知部SW7を例示したが、これに限られない。変位部材(ハンマ11等)が所定位置より深い位置にあるときにだけON状態を維持する構成であればよいので、第1の検知部は、リーフスイッチでもよいし、変位部材の回動途中から回動終了までずっとONとなるような配置とした光学センサであってもよい。一方、第2の実施の形態において、第2の検知部として検知部SW7bを例示したが、これに限られない。変位部材(ハンマ11等)が所定位置を往方向または復方向に通過するごとにONとなる構成であればよいので、第2の検知部には、磁気方式や振動検出方式等を採用してもよい。
【0088】
なお、第2の実施の形態において、第2の検知部として、変位部材(ハンマ11等)が所定位置を往方向または復方向に通過するごとにOFFとなる構成のものを採用してもよい。その場合は、一定時間内に第2の検知部が2回続けてオフとなった場合における2回目のオフとなったタイミングを発音タイミングとすればよい。
【0089】
なお、第1、第2の実施の形態の各変形例において、鍵検知部として検知部SW5を例示したが、鍵Kが押下されたことを検知できればよいので、他の検知部SW(検知部SW6等)であってもよい。
【0090】
なお、第1、第2の実施の形態において、楽音情報の生成の際に、時間差ΔT1、ΔT2、時間差Δt1、Δt2、Δt3、Δt11、Δt12、Δt13に基づいて、押鍵ベロシティを決定するだけでなく、音色を決定するようにしてもよい。
【0091】
上記各実施の形態では、グランドピアノ型のアクション機構ACTを有する鍵盤楽器への本発明の適用を例示したが、このような構成に限られない。すなわち、押離鍵操作により往方向及び復方向に変位(動作)する変位部材を有すればよく、アクション機構を有しなくてもよい。
【0092】
また、図10に示すようなアップライト型のアクション機構ACTを有する鍵盤楽器にも本発明を適用可能である。
【0093】
図10は、アップライトピアノのアクション機構ACT2の側面図である。通常の押鍵操作においては、鍵Kを押下操作すると、ウイペン112が突き上げられて回動し、ジャック120を上昇させる。また、ジャック120が上昇すると、バット126はジャック120によって突き上げられてハンマ130を図10の反時計方向に回動させる。ジャック120は上昇回動し、その途中でレギュレーティングボタン140に当接して時計方向に回動することによりバット126の下部から一時的に脱進する。また、ウイペン112が上昇回動すると、ダンパースプーン156はダンパレバー152を時計方向に回動させてダンパ155を弦19から離間させる。
【0094】
そして、ダンパ155が弦19から離間した後、ハンマ130が弦19を打撃し、ハンマ130は、跳ね返ってキャッチャ133がバックチェック144に弾性的に受け止められる。ジャック120は、離鍵操作に伴うウイペン112の回動下降によりレギュレーティングボタン140から解放されることにより回動復帰して、その上端が再びバット126の下部に入り込む。それにより、同一鍵Kによる次の打弦動作が可能になる。
【0095】
棚板106に対して固定的に、キーバックレールクロス165が配設され、鍵Kの後部の下部に導電部166が設けられている。消音用ストッパ82は、消音用ストッパ60と同様に、消音モード時用に位置を切り替えできるようになっている。
【0096】
かかる構成において、例えば消音用ストッパ82に、検知部SW7(または検知部SW7b)を設けてもよい。ハンマ130の往方向のストロークにおいて、検知部SW7がONとなる位置の設定については、第1の実施の形態で説明したのと同様であり、ハンマ130の全ストロークST0の30%以内の位置にある。また、バット126とジャック120との間、レギュレーティングボタン140とジャック120との間、鍵Kの下面(の導電部166)とキーバックレールクロス165との間、等に、検知部SWを設けてもよい。
【0097】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
SW5 検知部(検知手段、鍵検知部)、 SW7、SW8 検知部(検知手段、第1の検知部)、 SW7b 検知部(検知手段、第2の検知部)、 ST0 全ストローク(動作範囲)、 11 ハンマ(変位部材)、 45 CPU(決定手段)、 67 ダンパレバー(変位部材)、 60、82 消音用ストッパ(規制部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10