【実施例】
【0044】
以下に示す実施例において、本発明を具体的且つ更に詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
1.本発明の蛍光標識複合体を用いた均一系蛍光免疫測定法の確立
(発現ベクターの構築)
1)シングルラベルFab型複合体
ヒトオステオカルシン(human Bone Gla Protein;BGP)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にProX(商標名)タグ(9番目のアミノ酸に対応する塩基配列はTTTであり、翻訳されるとMSKQIEVNFSNET;配列番号1)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ。またBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(9番目のアミノ酸に対応する塩基配列はTAGであり、翻訳されるとMSKQIEVNXSNET(Xは蛍光標識アミノ酸);配列番号2)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ(
図5)。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグ(翻訳されるとVHは標識され、VLは非標識)が、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0046】
ビスフェノールA(bisphenol A)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号7)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にProXタグ(配列番号1)及びGGGS5スペーサー(GGGSGGGSGGGSGGGSGGGS;配列番号8)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ。またビスフェノールAに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号9)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(配列番号2)及びGGGS5スペーサー(配列番号8)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ(
図5)。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグ(翻訳されるとVHは標識され、VLは非標識)が、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0047】
血清アルブミン(SA)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にProXタグ(配列番号1)及びGGGS2スペーサー(GGGSGGGS;配列番号11)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ。また血清アルブミン(SA)に対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(配列番号2)及びGGGS5スペーサー(配列番号8)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ(
図5)。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグ(翻訳されるとVHは標識され、VLは非標識)が、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0048】
2)同色ダブルラベルFab型複合体
BGPに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ。またBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグ(アンバー)が、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0049】
血清アルブミン(SA)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)及びGGGS2スペーサー(配列番号11)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ。またSAに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1; 配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)及びGGGS2スペーサー(配列番号11)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグ(アンバー)が、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0050】
3)異色ダブルラベルFab型複合体
BGPに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にCGGG4塩基コドンを含むProXタグ(9番目のアミノ酸に対応する塩基配列はCGGGであり、翻訳されると配列番号2)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ。またBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ(
図5)。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグが、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0051】
血清アルブミン(SA)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にCGGG4塩基コドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)及びGGGS2スペーサー(配列番号11)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びFLAGタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクター(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)へ組み込んだ。またSAに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドをコードするDNA配列に、N末端にアンバーコドンを含むProXタグ(翻訳されると配列番号2)及びGGGS2スペーサー(配列番号11)のDNA配列を、C末端にリンカー(配列番号14)及びHisタグのDNA配列を付与した遺伝子を、pIVEX2.3dベクターへ組み込んだ。これらの構築した発現ベクターは、挿入したVL又はVHのN末端にProXタグが、C末端にHisタグ又はFLAGタグが、それぞれ付加されるよう設計されている。
【0052】
(蛍光標識Fab型複合体の合成)
RYTS(商品名)大腸菌無細胞合成キット(プロテイン・エクスプレス社製)を用いて、無細胞翻訳系による抗体可変領域含有ペプチド及び/又は抗体可変領域含有ペプチドのN末端領域への蛍光標識アミノ酸の導入を行った。
【0053】
1)シングルラベル又は同色ダブルラベルFab型複合体
反応液(60μL)は、3μLのEnzyme Mix、0.6μLのMethionine、30μLの2×Reaction Mix、20μLのE-coli Lysate、2μLの2種類のplasmid DNA(各200ng)、3μLの蛍光標識アミノアシル−tRNAamber(480pmol)、1.4μLのNuclease Free Waterを加えた。蛍光標識タンパク質を作製するための蛍光標識アミノアシル−tRNA(TAMRA−X−AF−tRNAamber、CR110−X−AF−tRNAamber、及びATTO655−X−AF−tRNAamber)は、CloverDirect(商標名)tRNA Reagents for Site-Directed Protein Functionalization(プロテイン・エクスプレス社製)を用いた。反応液は、20℃、2時間で静置して反応させタンパク質合成を行なった後、さらに、4℃、16時間の反応により複合化形成を完成させた。反応終了後、反応液0.5μLを用いてSDS−PAGE(15%)を行い、蛍光イメージアナライザー(FMBIO-III;日立ソフトウェアエンジニアリング社製)でタンパク質発現を観察した。さらに、抗Hisタグ抗体又は抗FLAGタグ抗体を用いてウエスタンブロットを行い、目的の蛍光標識抗体可変領域含有ペプチドが合成されていることを確認した。
【0054】
2)異色ダブルラベルFab型複合体
反応液(60μL)は、3μLのEnzyme Mix、0.6μLのMethionine、30μLの2xReaction Mix、20μLのE-coli Lysate、2μLの2種類のplasmid DNA(各200ng)、1.5μLの2種類の蛍光標識アミノアシル−tRNAamber及びCGGG(各々480nmol)、1.4μLのNuclease Free Waterを加えた。蛍光標識タンパク質を作製するための蛍光標識アミノアシル−tRNA(TAMRA−X−AF−tRNAamber又はCGGG、CR110−X−AF−tRNAamber又はCGGG、及びATTO655−X−AF−tRNAamber又はCGGG)は、CloverDirect(商標名)tRNA Reagents for Site-Directed Protein Functionalization(プロテイン・エクスプレス社製)を用いた。VH領域含有ポリペプチドやVL領域含有ポリペプチドの標識には、それぞれtRNAamber、tRNACGGGが使用される。反応液は、20℃,2時間で静置して反応させタンパク質合成を行なった後、さらに、4℃、16時間の反応により複合化形成を完成させた。反応終了後、反応液0.5μLを用いてSDS−PAGE(15%)を行い、蛍光イメージアナライザー(FMBIO-III;日立ソフトウェアエンジニアリング社製)でタンパク質発現を観察した。さらに、抗Hisタグ抗体又は抗FLAGタグ抗体を用いてウエスタンブロットを行い、目的の蛍光標識抗体可変領域含有ペプチドが合成されていることを確認した。
【0055】
3)一方が蛍光色素、他方が該蛍光色素を消光するクエンチャーにより標識されたFab型複合体
蛍光色素としてTAMRA,クエンチャーとしてNBD−X,SE(Anspec社)を使用した。NBD−X−AF-tRNACGGGは阿部らの方法(Abe R, et al., J. Biosci. Bioeng. 110(1):32-38 (2010))のTAMRA−X,SEをそれぞれNBD−X,SE(Anspec社)に変えて合成した。反応液(60μL)は、3μLのEnzyme Mix、0.6μLのMethionine、30μLの2xReaction Mix、20μLのE-coli Lysate、2μLの2種類のplasmid DNA(各200ng)、1.5μLのTAMRA−X−AF−tRNAamber及びNBD−X−AF-tRNACGGG(各々480nmol)、1.4μLのNuclease Free Waterを加えた。VH領域含有ポリペプチドやVL領域含有ポリペプチドの標識には、それぞれtRNA
amber、tRNA
CGGGが使用される。反応液は、20℃,2時間で静置して反応させタンパク質合成を行なった後、さらに、4℃、16時間の反応により複合化形成を完成させた。反応終了後、反応液0.5μLを用いてSDS−PAGE(15%)を行い、蛍光イメージアナライザー(FMBIO-III;日立ソフトウェアエンジニアリング社製)にてタンパク質発現を観察した。さらに、抗Hisタグ抗体又は抗FLAGタグ抗体を用いてウエスタンブロットを行い、目的の蛍光標識抗体可変領域含有ペプチドが合成されていることを確認した。
【0056】
(蛍光標識Fab型複合体の精製)
合成した蛍光標識Fab型複合体は、抗FLAG M2アフィニティーゲル(シグマアルドリッチ社製)やHis-Spin Trap Column(GEヘルスケア社製)により精製を行った。上記反応液(60μL)を、抗FLAG M2アフィニティーゲルを入れたカラムへアプライし、室温で15分間インキュベートした後にWash buffer(20mM Phosphate buffer(pH7.4)/0.5M NaCl/0.1%Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)で3回洗浄を行った。次に200μLのElute buffer(20mM Phosphate buffer(pH7.4)/0.5M NaCl/100μg FLAG peptide/0.1%Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)で3回溶出させた。次に溶出液は、His-Spin Trap Columnへアプライした。室温で15分間インキュベートした後にWash buffer(20mM Phosphate buffer(pH7.4)/0.5M NaCl/60mM imidazole/0.1%Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)で3回洗浄を行った。次に200μLのElute buffer(20mM Phosphate buffer(pH7.4)/0.5M NaCl/0.5Mimidazole/0.1%Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)で3回溶出させた。さらに溶出液は、アミコンウルトラ−0.5遠心式フィルター10kDa(ミリポア社製)を使用し、PBS(+0.05%Tween20)でバッファー交換、濃縮を行った。精製後のサンプルの濃度は、蛍光イメージアナライザー(FMBIO-III;日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いて測定した。
【0057】
(Q−bodyの作製)
TAMRAで標識した抗BGP抗体のVHとVL(VHを標識しVLは未標識)、及びTAMRAで標識した抗BGP抗体と抗ビスフェノールA抗体のVHとVLとをリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)により結合させた一本鎖抗体(scFv)の作製は、国際公開公報WO2011/061944に記載の方法によった。
【0058】
[実施例2]
2.本発明の蛍光標識複合体を用いた均一系蛍光免疫測定法による測定
(シングルラベルFab型複合体を用いた蛍光スペクトル測定)
実施例1で作製した、BGP(ヒトオステオカルシン)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRA蛍光で標識したBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる、TAMRAシングルラベル抗BGP抗体Fab型複合体、又はTAMRA標識抗BGP抗体scFv、又はTAMRA標識抗BGP抗体VH+抗BGP抗体VLを用いて、BGP濃度を測定した。TAMRAシングルラベル抗BGP抗体Fab型複合体、又はTAMRA標識抗BGPscFv(70nM、6.25μL)、又はTAMRA標識抗BGP抗体VH+抗BGP抗体VL(70nM/mL、6.25μL)と、抗原であるBGP−C7(配列番号13)(0、1、3、10、25、100、又は1,000nM)とを、1%BSAを含むPBS(+0.05%Tween20)で計50μLになるように調製した。この溶液を25℃、70分間放置した後に、蛍光分光光度計(FluoroMax−4;ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いて蛍光スペクトル測定を行った。543nmのHe−Neレーザーを用い、励起波長は530nmにセットし580nmでの蛍光強度を測定した。抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を
図6左上のグラフに、BGP−C7が1,000nMの場合の蛍光強度の比を
図6左下の表に示す。同様にして、TAMRA蛍光で標識したビスフェノールAに対する抗体のVL(配列番号7)とCκ(配列番号4)を含むポリペプチドと、ビスフェノールAに対する抗体のVH(配列番号9)とCH1(配列番号6)を含むポリペプチドからなる、TAMRAシングルラベル抗ビスフェノールA抗体Fab型複合体又は、TAMRA標識抗ビスフェノールA抗体scFvと、ビスフェノールA(0、1、3、10、30、100、又は1,000nM)とを反応させ、蛍光強度を測定した。抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を
図6右上のグラフに、ビスフェノールAが1,000nMの場合の蛍光強度の比を
図6右下の表に示す。蛍光色素の種類や抗原濃度によらず、本発明のシングルラベルFab型複合体は、従来のscFv型Q−bodyやVH+VL型Q−bodyと比較して高い蛍光強度比を得ることができ、高感度に低分子化合物及びタンパク質を検出及び定量できることが確認できた。本発明のFab型複合体は、scFv型Q−bodyやVH+VL型Q−bodyと比較してその構成要素であるポリペプチド同士が互いに近い距離となる複合体を形成するため、抗体の可変領域のトリプトファンによる蛍光色素のクエンチング効果が効果的に起こるものと考えられる。
【0059】
[実施例3]
(同色ダブルラベルFab型複合体を用いた蛍光スペクトル測定)
実施例1で作製した、CR110、TAMRA、又はATTO655の蛍光色素で標識したBGPに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、同じ色素で標識されたBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる、同色ダブルラベルFab型複合体(70nM、6.25μL)と、抗原であるBGP−C7(0〜10,000nM)とを、1%BSAを含むPBS(+0.05%Tween20)で計50μLになるように調製した。コントロールとして、BGPに対する抗体VL(配列番号5)とCκ(配列番号4)を含むポリペプチド又はBGPに対する抗体VH(配列番号3)とCH
1(配列番号6)を含むポリペプチドのいずれか一方が蛍光標識されたシングルラベルFab型複合体のサンプルを用意した。これらの溶液を25℃、70分間放置した後に、蛍光分光光度計(FluoroMax−4;ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いて蛍光スペクトル測定を行った。CR110蛍光色素標識同色ダブルラベルFab型複合体を使用した場合は、励起波長(Ex)は480nmにセットし、蛍光波長(Em)530nmでの蛍光強度を測定した。TAMRA蛍光色素標識同色ダブルラベルFab型複合体を使用した場合は、励起波長は530nmにセットし、蛍光波長580nmでの蛍光強度を測定した。ATTO655蛍光色素標識同色ダブルラベルFab型複合体を使用した場合は、励起波長は630nmにセットし、蛍光波長680nmでの蛍光強度を測定した。抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を蛍光強度比とし、
図7のグラフに示す。BGP−C7が1,000nM、又は10,000nMの場合の蛍光強度の比を
図7の表に示す。
【0060】
また同様にして、血清アルブミン(SA)に対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、同じ色素で標識されたSAに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体と、抗原であるHSA(0〜100μM)を反応させ、蛍光強度を測定した。蛍光強度比を
図8のグラフに、HSAが100μMの場合の蛍光強度の比を
図8の表に示す。以上の結果から、蛍光色素や抗原の種類によらず、本発明の同色ダブルラベルFab型複合体は、シングルラベルFab型複合体よりも高い蛍光強度比で抗原量を測定することができると確認できた。同色ダブルラベルFab型複合体では、抗体の可変領域のトリプトファンによる蛍光色素のクエンチング効果に加え、蛍光色素間でのクエンチング効果(H-dimer)が加わることで、バックグラウンドを低減することができ、ダイナミックレンジが増強されると考えられる。
【0061】
[実施例4]
(異色ダブルラベルFab型複合体を用いた蛍光スペクトル測定)
実施例1で作製した、CR110、TAMRA、又はATTO655の蛍光色素で標識したBGPに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、前記と異なる色素で標識したBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる、BGP抗体の異色ダブルラベルFab型複合体(70nM、6.25μL)と、抗原であるBGP−C7(0〜1,000nM)とを、1%BSAを含むPBS(+0.05%Tween20)で計50μLになるように調製した。コントロールとして、同色ダブルラベルFab型複合体のサンプルを用意した。実施例3と同様に蛍光強度を想定し、抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を得た。なお、CR110及びTAMRAを用いた場合は、励起波長は480nmにセットし、蛍光波長530nmでの蛍光強度を測定した(
図9左グラフ)。CR110、TAMRA、及びATTO655を用いた場合は、励起波長は530nmにセットし、蛍光波長580nmでの蛍光強度を測定した(
図9中央グラフ)。TAMRA及びATTO655を用いた場合は、励起波長は630nmにセットし、蛍光波長680nmでの蛍光強度を測定した(
図9右グラフ)。BGP−C7が1,000nMの場合の蛍光強度の比を
図9の各表に示す。
【0062】
また同様にして、実施例1で作製した、CR110、TAMRA、又はATTO655の蛍光色素で標識したSAに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドと、前記と異なる色素で標識されたSAに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドからなる、SA抗体の異色ダブルラベルFab型複合体と、抗原であるHSA(0〜100μM)とを反応させ、蛍光強度を測定した。抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を蛍光強度比とし、
図10のグラフに示す。HSAが100μMにおける蛍光強度比を
図10の表に示す。
【0063】
さらに、CR110で標識した抗SA抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号12)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識した抗SA抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号10)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドからなる、抗SA抗体の異色ダブルラベルFab型複合体(CR110_TAMRAとも表記する。)と、抗原であるHSA(1×10
−4、1×10
−5、1×10
−6、1×10
−7M)とを反応させ、波長480nm(
図11左上グラフ)又は波長530nm(
図11右上グラフ)の励起光を照射し、蛍光スペクトルを測定した。また、CR110で標識した抗SA抗体VH(配列番号12)とCH
1(配列番号6)を含むポリペプチドと、抗SA抗体VL(配列番号10)とCκ(配列番号4)を含むポリペプチドからなる、抗SA抗体のCR110シングルラベルFab型複合体(CR110_no)と、抗原であるHSA(1×10
−4、1×10
−5、1×10
−6、1×10
−7M)とを反応させ、波長480nmの励起光を照射し、蛍光スペクトルを測定した(
図11左下グラフ)。抗SA抗体VH(配列番号12)とCH
1(配列番号6)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識した抗SA抗体VL(配列番号10)とCκ(配列番号4)を含むポリペプチドからなる、SA抗体のTAMRAシングルラベルFab型複合体(no_TAMRA)と、抗原であるHSA(1×10
−4、1×10
−5、1×10
−6、1×10
−7M)とを反応させ、波長530nmの励起光を照射し、蛍光分光光度計(FluoroMax-4)を用いて蛍光スペクトルを測定した(
図11右下グラフ)。グラフにおける曲線は、上側からHSA濃度が1×10
−4M、1×10
−5M、1×10
−6M、1×10
−7M、0Mのサンプルのデータである。
【0064】
この結果から、異色ダブルラベルFab型複合体CR110_TAMRAでは、波長480nmの励起光を照射した場合に抗原非存在下での約530nmの波長の蛍光がFRET効果により抑えられており、そのため約530nmの波長において高い蛍光強度の比を得られることがわかった。また、波長530nmの励起光を照射した場合にも、蛍光色素間でのクエンチング効果により、蛍光波長約530nmにおいて、CR110_TAMRAはno_TAMRAと比べて高い蛍光強度の比を得られることがわかった。したがって、抗体の可変領域のトリプトファンによる蛍光色素のクエンチング効果に加え、蛍光色素間でのクエンチング効果、さらにFRET効果が加わることでバックグラウンドを低減することができ、ダイナミックレンジが増強されると考えられる。本実験系においてCR110_TAMRAは最大で75倍もの蛍光増加により抗原を検出することができ、本発明の有用性が示された。
【0065】
[実施例5]
(蛍光標識とクエンチャー標識からなるFab型複合体を用いた蛍光スペクトル測定)
実施例1で作製した、TAMRA標識したBGPに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号3)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)とNBDで標識したBGPに対する抗体の軽鎖可変領域(VL;配列番号5)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドからなるFab型複合体(70nM、6.25μL)と、抗原であるBGP−C7(0〜10,000nM)とを、1%BSAを含むPBS(+0.05%Tween20)で計50μLになるように調製した。この溶液を25℃、70分間放置した後に、蛍光分光光度計(FluoroMax−4;ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いて蛍光スペクトル測定を行った。励起波長は530nmにセットし、蛍光波長580nmでの蛍光強度を測定した。抗原なしの場合の蛍光強度に対する、各抗原濃度における蛍光強度の比を蛍光強度比とし、
図12のグラフに示す。BGP−C7が1,000nMの場合の蛍光強度の比を
図12の表に示す。
【0066】
この結果から、Fab型複合体TAMRA_NBDは、シングルラベルFab型複合体(TAMRA_No)(
図7)と同程度の1nMの濃度でBGPを検出でき、かつダブルラベル(TAMRA_TAMRA)(
図7)より高い27倍の蛍光増加により抗原を検出することができ、本発明の有用性が示された。
【0067】
[実施例6]
(温度安定性の測定)
実施例1で作製した抗BGP_TAMRAシングルラベルFab複合体と抗BGP_TAMRAラベルscFvの熱安定性を測定するために、サーマルシフトアッセイを行った。StepOne リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社)を用いて1分間に1℃ずつ温度を上昇させ、各温度での蛍光強度を測定した。それぞれの抗体が熱変性を起すと、その構造が崩れ消光状態が解消し蛍光強度が増加する原理に基づき、熱安定性を測定した。
図13に示すように、TAMRAラベルscFvのTm値(熱変性を起す温度)は61℃であったが、本発明であるTAMRAシングルラベルFab複合体のTm値は73℃と12℃上昇した。この熱安定性は、試薬の長期保存が可能となり流通温度、保存温度、保存期間など産業上のメリットに大きく貢献できる。
【0068】
[実施例7]
(蛍光ラベルFab型複合体によるクレンブテロールの測定)
実施例1に示した方法で合成したクレンブテロールに対する抗体のCR110で標識された軽鎖可変領域(VL;配列番15)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたクレンブテロールに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号16)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる異色ダブルラベルFab型複合体と、抗原であるクレンブテロール(0〜16μg/mL)を反応させ、実施例4の方法で蛍光強度を測定した。クレンブテロールが16μg/mLの場合の蛍光強度の比を表1に示す。この結果、16μg/mLのクレンブテロールを測定することができた。
【0069】
【表1】
【0070】
[実施例8]
(蛍光ラベルFab型複合体によるラクトパミン、コチニンの測定)
実施例1に示した方法で、ラクトパミンに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号17)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたラクトパミンに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号18)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。また、コチニンに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号19)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたコチニンに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号20)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。次いで、それぞれ抗原であるラクトパミン3.4μg/mLまたはコチニン3.5μg/mLを反応させ、実施例4の方法で蛍光強度を測定した。その結果を表2に示す。表2に示すように、蛍光増加比蛍光強度比を2.3および1.9で測定することができた。
【0071】
【表2】
【0072】
[実施例9]
(蛍光ラベルFab型複合体によるインフルエンザA型ウィルスヘマグルチニン(HA)の測定)
実施例1に示した方法で合成したインフルエンザA型H5N1,H1N1のヘマグルチニン(HA)に対する抗体のCR110で標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号21)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたインフルエンザA型H5N1,H1N1のヘマグルチニン(HA)に対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号22)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる異色ダブルラベルFab型複合体と、それぞれの抗原30μg/mLを反応させ、実施例4の方法で蛍光強度を測定した。その結果を表3に示す。表3に示すように、H5N1 HA、及びH1N1 HAそれぞれの抗原に対し、蛍光増加比はそれぞれ6.1及び7.1で測定することができた。
【0073】
【表3】
【0074】
[実施例10]
(蛍光ラベルFab型複合体によるモルヒネ類、メタンフェタミン類、コカインの測定)
実施例1に示した方法で合成したモルヒネに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号23)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたモルヒネに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号24)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。同様に、メタンフェタミンに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号25)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたメタンフェタミンに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号26)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体、コカインに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号27)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたコカインに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号28)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。また、実施例1に従い、TAMRAで標識した抗モルヒネ抗体のVLとVHとをリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)により結合させた一本鎖抗体(scFv)と、抗メタンフェタミン抗体のVHとVLとをリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)により結合させた一本鎖抗体(scFv)を作製した。構築したTAMRAダブルラベルFab複合体およびTAMRAラベルscFvと種々のモルヒネ類、メタンフェタミン類、コカイン、ケタミンを反応させ、実施例3または実施例1の方法で蛍光強度を測定した。その結果を表4に示す。3種類の蛍光標識Fab複合体は特異的にそれぞれの抗原を認識し、かつ蛍光標識モルヒネFab複合体とscFvの比較、蛍光標識メタンフェタミンFab複合体とscFvの蛍光増加比は、いずれもFab複合体が高く、ダイナミックレンジが大きく増大した。
【0075】
【表4】
【0076】
[実施例11]
(蛍光ラベルFab型複合体による大麻成分THCとケタミンの測定)
実施例1に示した方法で、大麻成分THCに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号29)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識された大麻成分THCに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号30)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。同様に、ケタミンに対する抗体のTAMRAで標識された軽鎖可変領域(VL;配列番号31)と抗体軽鎖定常領域(Cκ;配列番号4)を含むポリペプチドと、TAMRAで標識されたケタミンに対する抗体の重鎖可変領域(VH;配列番号32)と抗体重鎖定常領域(CH
1;配列番号6)を含むポリペプチドからなる同色ダブルラベルFab型複合体を合成した。次いで、それぞれ抗原であるTHC(100μg/mL)またはケタミン(1.0mg/mL)を反応させ、実施例4の方法で蛍光強度を測定した。表5に示すように、蛍光増加比蛍光強度比を1.3および2.0で測定することができた。
【0077】
【表5】