(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
真空インタラプタの接点材料は、(1)遮断容量が大きいこと、(2)耐電圧性能が高いこと、(3)接触抵抗が低いこと、(4)耐溶着性が高いこと、(5)接点消耗量が低いこと、(6)裁断電流が低いこと、(7)加工性に優れること、(8)機械強度が高いこと、等の特性を満たす必要がある。
【0003】
これらの特性のなかには相反するものがある関係上、上記の特性をすべて満足する接点材料はない。Cu−Cr電極材料は、遮断容量が大きく、耐電圧性能が高い、耐溶着性が高い等の特長を有することから、真空インタラプタの接点材料として広く用いられている。また、Cu−Cr電極材料において、Cr粒子の粒径が細かい方が、遮断電流や接触抵抗の面において優れるとの報告がある(例えば、非特許文献1)。
【0004】
近年、真空遮断器の電流消弧を行う真空インタラプタの小型化、大容量化が進んでおり、真空インタラプタの小型化に必須となる、従来より優れた耐電圧性能を有するCu−Cr系接点材料の需要が増加している。
【0005】
例えば、特許文献1では、電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性の良好なCu−Cr系電極材料として、基材として用いられるCuと電気的特性を向上させるCr及びCr粒子を微細にする耐熱元素(Mo、W、Nb、Ta、V、Zr)の各粉末を混合した後、混合粉末を型に挿入して加圧成形し、焼成体とした電極材料の製造方法が記載されている。具体的には、200〜300μmの粒子サイズを有するCrを原料としたCu−Cr系電極材料に、Mo、W、Nb、Ta、V、Zr等の耐熱元素を添加し、微細組織技術を通してCrを微細化し、Cr元素と耐熱元素の合金化を促進させ、Cu基材組織内部に微細なCr−X(耐熱元素を固溶しているCr)粒子の析出を増加させ、直径20〜60μmのCr粒子を、その内部に耐熱元素を有する形態でCu基材組織内に均一に分散させている。
【0006】
また、特許文献2においては、微細組織技術を通さず、耐熱元素の反応生成物である単一の固溶体を粉砕した粉末を、Cu粉末と混合し、加圧成形し、焼結して、電極組織内にCr、耐熱元素を含有した電極材料を製造している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載されているような耐弧金属の微細分散組織を形成することで、耐電圧性能及び遮断性能が向上するが、耐溶着性能が悪くなり、閉極時に大電流通電した際、電極間で溶着することとなる。この耐溶着性の低下が真空遮断器の大型化の要因となり、量産化への課題となっていた。
【0010】
そこで、MoCr微細分散組織を有する電極材料に低融点金属(例えば、Te等)を添加することで、優れた耐電圧性能及び耐溶着性能を有する電極材料の製造を試みた。
【0011】
しかしながら、低融点金属を添加したMoCr微細分散電極材料の焼結工程において、電極内部に空孔が発生し、電極材料の充填率が低下するおそれがあった。また、焼結炉の温度分布によって充填率にばらつきが発生するおそれがあった。電極材料に空孔が発生し、電極材料の充填率が低下すると、ロウ付け工程において電極内部の空孔へロウ材(例えば、Ag)が吸われてしまい、電極材料のロウ付けが困難となるおそれがある。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、低融点金属を含有する電極材料の充填率の向上及び電極材料の充填率のばらつきの低減に貢献する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法は、重量比でCr>耐熱元素の割合でCrと耐熱元素とを含有するCrと耐熱元素の固溶体粉末、Cu粉末、及び低融点金属粉末を混合し、得られた混合粉末を成形した成形体を1010℃以上1038℃未満で焼結することを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法は、上記電極材料の製造方法において、前記固溶体粉末は、耐熱元素粉末とCr粉末の混合粉末を焼成して得られた焼結体を粉砕したものであり、前記耐熱元素粉末のメディアン径は、10μm以下であることを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法は、上記電極材料の製造方法において、前記固溶体粉末は、耐熱元素粉末とCr粉末の混合粉末を焼成して得られた焼結体を粉砕したものであり、前記Cr粉末のメディアン径は、前記耐熱元素粉末のメディアン径より大きく、80μm以下であることを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法は、上記電極材料の製造方法において、前記Cu粉末のメディアン径は、100μm以下であることを特徴としている。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料の製造方法は、上記電極材料の製造方法において、前記固溶体粉末を粒子径が200μm以下となるように分級し、分級された固溶体粉末を、前記Cu粉末及び前記低融点金属粉末と混合することを特徴としている。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の電極材料は、重量比で、39.88〜89.96%のCuと、4.99〜47.98%のCrと、1.99〜29.99%の耐熱元素と、0.05〜0.30%の低融点金属を含有する電極材料であって、重量比でCr>耐熱元素の割合でCrと耐熱元素とを含有するCrと耐熱元素の固溶体粉末、Cu粉末、及び低融点金属粉末を混合し、得られた混合粉末を、成形し、1010℃以上1038℃未満で焼結してなることを特徴としている。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の真空インタラプタは、上記電極材料を電極接点として可動電極または固定電極に備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
以上の発明によれば、低融点金属を含有する電極材料の充填率が向上し、電極材料の充填率のばらつきが低減する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法及び電極材料並びに本発明の電極材料を有する真空インタラプタについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、特に断りがない限り、粒子径(メディアン径d50)、平均粒子径等は、レーザー回折式粒度分布測定装置(シーラス社:シーラス1090L)により測定された値を示す。また、粉末の粒子径の上限(または、下限)が定められている場合は、粒子径の上限値(または、下限値)の目開きを有する篩により分級された粉末であることを示す。
【0023】
発明者らは、本発明に先だって、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末と、Cu粉末とを用いて焼結法により電極材料を作製した(例えば、特願2015−93765)。この電極材料は、Cu基材中にMoCr合金が微細分散した組織を有し、従来のCuCr電極材料と比べて優れた耐電圧性能、及び耐溶着性を有する電極材料であった。また、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いると、重量比でCr<Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いた場合と比較して、耐溶着性が高い電極材料となった。
【0024】
真空遮断器において電極の開閉動作を行う操作機構を小型化するためには、さらに耐溶着性を向上させて電極材料が溶着した際の引き剥がし力を低減させることが望ましい。そのためには、Cu粉末とMoCr固溶体粉末の混合粉末に低融点金属を添加することが考えられる(例えば、特許文献3)。しかしながら、低融点金属を加えた場合、電極材料の充填率が下がるため、電極接点と電極棒のロウ付け性が不良となるおそれがある。
【0025】
上記事情に基づいて発明者らは鋭意検討を行い、本発明の完成に至ったものである。本発明は、Cu−Cr−耐熱元素(Mo,W,V等)−低融点金属(Te,Bi等)電極材料の組成制御技術に係る発明であって、電極材料の焼結温度を限定することにより、従来の低融点金属を含有する電極材料と比較して、電極材料の充填率を向上し、充填率のばらつきを抑制するものである。本発明の電極材料は、耐電圧性能及び耐溶着性に優れ、充填率のばらつきが少ない電極材料である。よって、本発明の電極材料によれば、真空インタラプタの歩留りが向上し、真空遮断器の小型化が可能となる。
【0026】
耐熱元素は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。特に、Cr粒子を微細化する効果が顕著であるMo、W、Ta、Nb、V、Zrを用いることが好ましい。耐熱元素を粉末として用いる場合、耐熱元素粉末のメディアン径d50を、例えば、10μm以下とすることで、電極材料にCrを含有する粒子(耐熱元素とCrの固溶体を含む)を微細化して均一に分散させることができる。耐熱元素は、電極材料に対して1.99〜29.99重量%、より好ましくは1.99〜10.00重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。
【0027】
低融点金属は、例えば、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、セレン(Se)、アンチモン(Sb)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。低融点金属は、電極材料に対して0.05〜0.30重量%含有させることで、電極材料の耐溶着性を向上させることができる。低融点金属を粉末として用いる場合、低融点金属の粒径は特に限定されるものではなく、例えば、メディアン径d50=48μmの低融点金属粉末が用いられる。
【0028】
クロム(Cr)は、電極材料に対して4.99〜47.98重量%、より好ましくは4.99〜15.99重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。Cr粉末を用いる場合、Cr粉末のメディアン径d50は、耐熱元素の粉末のメディアン径よりも大きければ特に限定されない。例えば、メディアン径が80μm以下のCr粉末が用いられる。
【0029】
銅(Cu)は、電極材料に対して39.88〜89.96重量%、より好ましくは79.76〜89.96重量%含有させることで、耐電圧性能や電流遮断性能を損なうことなく、電極材料の接触抵抗を低減することができる。Cu粉末のメディアン径d50は、例えば、100μm以下とすることで、耐熱元素とCrの固溶体粉末とCu粉末とを均一に混合することができる。なお、焼結法により作製される電極材料では、耐熱元素とCrの固溶体粉末に混合するCu粉末の量を調整することにより、Cuの重量比を任意に設定することができる。したがって、電極材料に対して添加される耐熱元素、低融点金属、Cr及びCuの合計は、100重量%を超えることはない。
【0030】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について、
図1のフローを参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明では、耐熱元素としてMoを例示し、低融点金属としてTeを例示して説明するが、他の耐熱元素及び低融点金属の粉末を用いた場合も同様である。
【0031】
Mo−Cr混合工程S1では、耐熱元素粉末(例えば、Mo粉末)とCr粉末を混合する。Mo粉末とCr粉末は、Cr粉末の重量がMo粉末の重量より多くなるように混合する。例えば、重量比率でMo/Cr=1/4〜1/1(Mo:Cr=1:1は含まず)の範囲で、Mo粉末とCr粉末とを混合する。
【0032】
焼成工程S2では、Mo粉末とCr粉末の混合粉末の焼成を行う。焼成工程S2では、例えば、混合粉末の成形体を、真空雰囲気中で900〜1200℃の温度で1〜10時間保持してMoCr焼結体を得る。混合粉末におけるCr粉末の重量がMo粉末の重量より多い場合、焼成後にMoと固溶体を形成しないCrが残存することとなる。よって、焼成工程S2では、MoへCrが固相拡散したMoCr合金と残存したCr粒子とを含有する多孔体(MoCr焼結体)が得られる。
【0033】
粉砕・分級工程S3では、焼成工程S2で得られたMoCr焼結体をボールミル等で粉砕する。MoCr焼結体を粉砕して得られるMoCr粉末は、例えば、目開き200μm、より好ましくは、目開き90μmの篩で分級し、粒子径の大きい粒を取り除く。なお、粉砕・分級工程S3における粉砕時間は、例えば、MoCr焼結体1kgあたり2時間で行う。粉砕後のMoCr粉末の平均粒子径は、Mo粉末とCr粉末の配合比によって異なることとなる。
【0034】
Cu混合工程S4では、粉砕・分級工程S3で得られたMoCr粉末と、低融点金属粉末(例えば、Te粉末)及びCu粉末との混合を行う。
【0035】
プレス成形工程S5は、Cu混合工程S4で得られた混合粉末の成形を行う。プレス金型成形にて成形体を作製すると、成形体を焼結後加工が不要であり、そのまま電極(電極接点材)とすることができる。
【0036】
本焼結工程S6は、プレス成形工程S5で得られた成形体を焼結し、電極材料を作製する。本焼結工程S6では、例えば、非酸化性雰囲気中(水素雰囲気や真空雰囲気等)で、1010℃以上1038℃未満、より好ましくは、1010℃以上1030℃以下の温度で、成形体の焼結を行う。本焼結工程S6の焼結時間は、焼結温度に合わせて適宜設定される。例えば、焼結時間は、2時間以上に設定される。
【0037】
なお、本発明の実施形態に係る電極材料を用いて真空インタラプタを構成することができる。
図2に示すように、本発明の実施形態に係る電極材料を有する真空インタラプタ1は、真空容器2と、固定電極3と、可動電極4と、主シールド10と、を有する。
【0038】
真空容器2は、絶縁筒5の両開口端部が、固定側端板6及び可動側端板7でそれぞれ封止されることで構成される。
【0039】
固定電極3は、固定側端板6を貫通した状態で固定される。固定電極3の一端は、真空容器2内で、可動電極4の一端と対向するように固定されており、固定電極3の可動電極4と対向する端部には、本発明の実施形態に係る電極材料である電極接点材8が設けられる。電極接点材8は、固定電極3の端部にロウ材(例えば、Ag−Cu系ロウ材)により接合される。
【0040】
可動電極4は、可動側端板7に設けられる。可動電極4は、固定電極3と同軸上に設けられる。可動電極4は、図示省略の開閉手段により軸方向に移動させられ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。可動電極4の固定電極3と対向する端部には、電極接点材8が設けられる。電極接点材8は、可動電極4の端部にロウ材により接合される。なお、可動電極4と可動側端板7との間には、ベローズ9が設けられ、真空容器2内を真空に保ったまま可動電極4を上下させ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。
【0041】
主シールド10は、固定電極3の電極接点材8と可動電極4の電極接点材8との接触部を覆うように設けられ、固定電極3と可動電極4との間で発生するアークから絶縁筒5を保護する。
【0042】
[比較例1]
図1に示すフローにしたがって比較例1に係る電極材料を作製した。比較例1の電極材料は、本焼結工程S6で、成形体を1058℃で2時間焼結して作製された電極材料である。比較例1の電極材料の原料として、メディアン径が10μm以下のMo粉末、メディアン径が48μmのTe粉末、メディアン径が80μm以下のテルミットCr粉末、及びメディアン径が100μm以下のCu粉末を用いた。なお、実施例1乃至3及び比較例2乃至4に係る電極材料も同様の原料を用いて電極材料を作製した。
【0043】
まず、Mo粉末とCr粉末を重量比で、Mo:Cr=1:4の割合で混合し、V型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した。
【0044】
混合終了後、このMo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空炉(非酸化性雰囲気)にて1150℃−6時間熱処理した。得られた反応生成物である多孔体を粉砕後、目開き90μmの篩で分級し、90μmアンダーのMoCr粉末を得た。
【0045】
次に、Te粉末及びCu粉末と分級したMoCr粉末とを、重量比で、Cu:MoCr=4:1、CuCrMo:Te=100:0.1の割合で混合し、V型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した。プレス金型成形にてこの混合粉末を成形し、成形体を作製した。成形体を1058℃−2時間非酸化性雰囲気中で本焼結して電極材料を得た。同じ方法で、比較例1の電極材料を3つ作製した(サンプル数N=3)。
【0047】
表1に、比較例1の電極材料の諸特性を示す。また、
図3に、焼結温度に対する電極材料の充填率をプロットした図を示す。充填率は、焼結体の密度を実測し、(実測密度/理論密度)×100(%)で算出した。また、ロウ付け性は、Ag−Cu系ロウ材で電極材料とリードとのロウ付けを行い、フィレットが形成されたか否か、及びロウ付けした電極材料をハンマーで叩いて電極材料がリードから脱落しないか否かの2点で評価を行った。つまり、ロウ付け時にロウ材(Ag)が電極材料に多量に吸われずにロウ付けされることで、フィレットが形成された良好なロウ付けが行われることとなる。
【0048】
比較例1の電極材料の充填率の平均値(N=3)は84%であった。また、充填率の標準偏差σは、5.7であった。比較例1の電極材料に対してロウ付け性を確認した結果、ロウ付けができなかった。つまり、ロウ付けを行ったときに、フィレットが形成されず、ハンマーで叩くことで、電極材料がリードから外れた(比較例2−4も同様であった)。
【0049】
図4に、比較例1の電極材料の断面顕微鏡写真を示す。
図4に示すように、比較例1の電極材料は、電極組織に空孔が多く形成されていた。このように、電極組織に空孔が多いと、電極材料の充填率が低くなる。また、ロウ材成分のAgが電極内部に吸われてしまうこととなり、電極材料のロウ付け性が低下するものと考えられる。
【0050】
[比較例2]
比較例2の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0051】
図1に示すフローにしたがって比較例2の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を1045℃で2時間焼結した。
【0052】
表1及び
図3に示すように、比較例2の電極材料の充填率の平均値(N=3)は86%であった。また、充填率の標準偏差σは、4.7であった。比較例2の電極材料に対してロウ付け性を確認した結果、ロウ付けができなかった。
【0053】
[比較例3]
比較例3の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0054】
図1に示すフローにしたがって比較例3の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を1038℃で2時間焼結した。
【0055】
表1及び
図3に示すように、比較例3の電極材料の充填率の平均値(N=3)は89%であった。また、充填率の標準偏差σは、2.4であった。比較例3の電極材料に対してロウ付け性を確認した結果、ロウ付けができなかった。
【0056】
[実施例1]
実施例1の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0057】
図1に示すフローにしたがって実施例1の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を1030℃で2時間焼結した。
【0058】
表1及び
図3に示すように、実施例1の電極材料の充填率の平均値(N=3)は91%であった。また、充填率の標準偏差σは、0.4であった。実施例1の電極材料に対してロウ付け性を確認したところ、ロウ付け性は良好であった。つまり、ロウ付けを行ったときに、フィレットが形成され、電極材料をハンマーで叩いてもリードから電極材料が取れることがなかった(実施例2,3も同様である)。
【0059】
図5に実施例1に係る電極材料の断面顕微鏡写真を示す。実施例1の電極材料では、比較例1の電極材料と比較して、電極材料組織中の空孔の発生が抑制されていることがわかる。
【0060】
[実施例2]
実施例2の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0061】
図1に示すフローにしたがって実施例2の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を1020℃で2時間焼結した。
【0062】
表1及び
図3に示すように、実施例2の電極材料の充填率の平均値(N=3)は90%であった。また、充填率の標準偏差σは、0.5であった。実施例2の電極材料に対してロウ付け性を確認したところ、ロウ付け性は良好であった。
【0063】
[実施例3]
実施例3の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0064】
図1に示すフローにしたがって実施例3の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を1010℃で2時間焼結した。
【0065】
表1及び
図3に示すように、実施例3の電極材料の充填率の平均値(N=3)は90%であった。また、充填率の標準偏差σは、0.4であった。実施例3の電極材料に対してロウ付け性を確認したところ、ロウ付け性は良好であった。
【0066】
[比較例4]
比較例4の電極材料は、本焼結工程S6における焼結温度が異なること以外は、比較例1と同様の方法で作製した電極材料である。
【0067】
図1に示すフローにしたがって比較例4の電極材料を作製した(サンプル数N=3)。本焼結工程S6では、成形体を990℃で2時間焼結した。
【0068】
表1及び
図3に示すように、比較例4の電極材料の充填率の平均値(N=3)は88%であった。また、充填率の標準偏差σは、0.5であった。
【0069】
比較例4の電極材料では、焼結温度が1000℃以下である。このような低い焼結温度では、焼結時のCrとMoの拡散反応が抑制されるため、充填率の標準偏差は小さいものの、電極材料自体の焼結が進行しないものと考えられる。その結果、充填率の平均値が実施例1の電極材料と比較して低下することとなり、ロウ付けが困難となっている。
【0070】
以上のような本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、本焼結工程の焼結温度を1010℃以上1038℃未満に限定することで、電極材料の充填率を向上させることができる。
【0071】
つまり、焼結温度を1038℃未満とすることで、焼結時のCrとMoの拡散反応を抑制することができる。このように焼結時の拡散反応を抑制することで電極材料に形成される空孔が減少し、電極材料の充填率を90%以上とすることができ、ロウ付け性能に優れた電極材料を製造することができる。
【0072】
また、焼結時の拡散反応が抑制されることで炉内温度分布による充填率のバラつき(標準偏差)を大幅に小さくすることができ、安定したろう付け性能を有する電極材料を得ることができる。電極材料の充填率のばらつきは、焼結炉の温度分布(例えば、実施例に用いた真空炉では、±15℃)に起因して発生するものと考えられるが、焼結温度範囲を限定することで、電極材料の充填率のばらつき(標準偏差)を1%以下とすることができる。充填率の標準偏差を小さくすることで、量産における歩留りの向上が可能となる。
【0073】
すなわち、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、充填率が高く、充填率のばらつきの少ない電極材料を製造することができる。この電極材料は、MoCr微細分散組織を有することによる優れた耐電圧性能と、現状のCu−Cr電極よりも高い耐溶着性能を有することで、真空インタラプタの小型化が可能となる。つまり、本発明の電極材料を、例えば、真空インタラプタ(VI)の固定電極及び可動電極の少なくとも一方に設けることで、真空インタラプタの電極接点の耐電圧性能が向上する。電極接点の耐電圧性能が向上すると、従来の真空インタラプタよりも開閉時の可動側電極と固定側電極のギャップが短くでき、さらに、電極と絶縁筒とのギャップも短くすることが可能であることから、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。また、電極材料の耐溶着性を向上することで、真空遮断器の開閉動作を行う操作機構を小型化することができ、真空遮断器の小型化に貢献する。
【0074】
Cu−Cr−耐熱元素−低融点金属系電極材料において、空孔が生じる要因としては、少なくとも次の二つの要因が考えられる。第1の要因は、残留したCrとMoが電極焼結時に固相拡散によって反応することで空孔が発生することである。固相拡散は焼結温度が高いほど拡散しやすくなるので焼結温度が高いほど拡散が進行するものと考えられる。また、第2の要因は、低融点金属を添加することによって、焼結時にCu/Cr若しくはCu/MoCr合金の粒界に低融点金属が侵入するため焼結を阻害し、粒界に空孔が発生しやすくなることである。例えば、Teの融点は445℃と低く、電極材料焼結時には溶融しているため空孔が発生しやすい。つまり、低融点金属を添加すると、そもそも焼結が進みにくく粒界に空孔が発生しやすい。したがって、低融点金属を含有する電極材料では、第1の要因だけでなく、第2の要因により電極材料における空孔の発生が顕著になるものと考えられる。そこで、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法及び電極材料のように、焼結温度を1010℃以上1038℃未満に限定することで、Mo−Cr拡散と低融点金属の揮発を抑制しつつ、充填率の高い焼結を実施することができる。
【0075】
なお、本発明の電極材料の製造方法は、本焼結時のCrとMo(すなわち、耐熱元素)の拡散反応を抑制することにより空孔を減少させ充填率を向上させるため、MoがCrに完全固溶している固溶体粉末を用いた場合は本発明の効果は得られないものと考えられる。しかしながら、重量比でCr>Moの割合で混合したMo粉末とCr粉末との固溶体において、Moの完全固溶は容易ではないため、重量比でCr>Moの割合でMo粉末とCr粉末とを混合し、MoCr固溶体を形成した場合、得られたMoCr固溶体粉末はMoとCrが完全に固溶していない固溶体粉末であるものと考えられる(他の耐熱元素も同様である)。例えば、実施例1の電極材料の焼成工程S2の処理条件では、Moは完全固溶していなかった。また、Crの比率を大きくした場合、仮焼結時にCr同士での焼結反応が起こり易いこともあり、Moの完全固溶は難しいと考えられる。
【0076】
以上、実施形態の説明では、本発明の好ましい態様を示して説明したが、本発明の電極材料の製造方法や電極材料は、実施形態に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術範囲に属する。
【0077】
例えば、MoCr固溶体粉末は、Mo粉末とCr粉末を仮焼結したものを粉砕・分級して製造されたものに限定されず、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いることができる。また、MoCr固溶体粉末は、例えば、累積50%で80μm以下の粉末を用いることで、耐電圧性能に優れた電極材料を製造することができる。