(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記冷却生成ガス分離工程において供給される吸収溶媒の量がn−ブテン及び1,3−ブタジエンの合計量に対し5質量倍以上100質量倍以下であり、かつ、この吸収溶媒の温度が0℃以上40℃以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の1,3−ブタジエンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明のブタジエンの製造方法の実施の形態について詳説する。
【0021】
本発明のブタジエンの製造方法は、
金属酸化物触媒(以下、単に「触媒」ともいう)の存在下、n−ブテンを含む原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応により1,3−ブタジエンを含む生成ガスを得る工程(以下、「反応工程」ともいう)、
上記生成ガスを冷却する工程(以下「冷却工程」ともいう)、及び
吸収溶媒への選択的吸収により上記冷却生成ガスを分子状酸素及び不活性ガス類とその他のガスとに粗分離する工程(以下、「粗分離工程」ともいう)
を有し、
上記生成ガス中のN
2濃度が35体積%以上90体積%以下、H
2O濃度が5体積%以上60体積%以下、1,3−ブタジエン濃度が2体積%以上15体積%以下であり、
上記吸収溶媒がアセトニトリルを主成分として含む。
【0022】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態のブタジエンの製造方法を、
図1を用いて説明する。本実施形態のブタジエンの製造方法は、反応工程、冷却工程、粗分離工程及び脱溶工程を有する。以下、各工程を詳述する。
【0023】
<反応工程>
本工程では、金属酸化物触媒の存在下、n−ブテンを含む原料ガス(以下、「原料ガス」ともいう)と分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応により1,3−ブタジエンを含む生成ガスを得る。まず、原料ガスと共に、分子状酸素含有ガスとしての空気、必要に応じて不活性ガス(イナートガス)及び水(水蒸気)を予熱器(図示せず)で200℃〜300℃程度に加熱した後、これらを
図1に示すように配管100より金属酸化物触媒が充填された反応器1に供給する。原料ガス、不活性ガス、空気、及び水(水蒸気)は反応器1に直接別々の配管から供給してもよいが、予め均一に混合した状態で反応器1に供給するのが好ましい。これは、反応器1内で不均一な混合ガスが部分的に爆鳴気を形成する事態を防ぐことが出来る等の理由による。
【0024】
(分子状酸素含有ガス)
分子状酸素含有ガスは、通常、分子状酸素を10体積%以上含むガスであり、分子状酸素を15体積%以上含むことが好ましく、分子状酸素を20体積%以上含むことがより好ましい。分子状酸素含有ガスとしては、空気が好ましい。また、分子状酸素含有ガスは、本発明の効果を阻害しない範囲で、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、CO、CO
2、水等の任意の不純物を含んでいても良い。この不純物の量は、窒素の場合、通常90体積%以下であり、85体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましい。窒素以外の成分の量は、通常10体積%以下であり、1体積%以下が好ましい。この不純物の量が多すぎると、反応に必要な酸素を供給するのが難しくなる傾向にある。
【0025】
(不活性ガス(イナートガス))
不活性ガス(イナートガス)は、n−ブテンを含む原料ガス及び分子状酸素含有ガスと共に反応器1に供給されることが好ましい。この不活性ガスを加えることで、上記混合ガスが反応器1中において、爆鳴気を形成しないようにブテン等の可燃性ガスと酸素の濃度を調整することができる。上記不活性ガスとしては窒素、アルゴン、CO
2等が挙げられ、これらの中でも、経済的観点から窒素が好ましい。
【0026】
(水(水蒸気))
反応器1には、水(水蒸気)が供給されることが好ましい。水(水蒸気)は、上記不活性ガスと同様に原料ガスと酸素の濃度を調整することができ、また金属酸化物触媒のコーキングを低減することができる。
【0027】
(原料ガス)
原料ガスは、1,3−ブタジエンの原料を、気化器(
図1で図示せず)でガス化したガス状物をいう。上記原料は炭素数4のモノオレフィンであるn−ブテンである。n−ブテンとしては、例えばナフサ分解で副生するC
4留分からブタジエン及びi−ブテンを分離して得られるn−ブテン(1−ブテン及び2−ブテン)を主成分とする留分(ラフィネート2)や、n−ブタンの脱水素又は酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することができる。また、エチレンの2量化により得られる高純度の1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン又はこれらの混合物を含有するガスを使用することもできる。さらには、石油精製プラントなどで原油を蒸留した際に得られる重油留分を、流動層状態で粉末状の固体触媒を使って分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)から得られる炭素原子数4の炭化水素類を多く含むガス(以下、FCC−C4と略記することがある)をそのまま原料ガスとする、又はFCC−C4からリンなどの不純物を除去したものを原料ガスとして使用することもできる。上記原料ガスにおけるn−ブテンの濃度は通常40体積%以上であり、60体積%以上が好ましく、75体積%以上がより好ましく、99体積%以上が特に好ましい。
【0028】
また、上記原料ガスは、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいてもよい。この不純物としては、具体的には、i−ブテン等の分岐型モノオレフィン;プロパン、n−ブタン、i−ブタン等の飽和炭化水素等が挙げられる。また、上記原料ガスは、不純物として反応の目的物である1,3−ブタジエンが含んでいてもよい。これらの不純物の量は、通常、原料ガス全量に対し60体積%以下であり、40体積%以下が好ましく、25体積%以下がより好ましく、1体積%以下が特に好ましい。この量が多すぎると、主原料である1−ブテンや2−ブテンの濃度が低下して反応が遅くなったり、副生物が増える傾向にある。
【0029】
(混合ガスの組成)
上記混合ガス中のn−ブテンの濃度は、ブタジエンの生産性の観点で、2体積%以上が好ましく、金属酸化物触媒への負荷を抑える観点で30体積%以下が好ましい。より好ましくは3〜25体積%、更に好ましくは5〜20体積%である。上記混合ガスの組成としては、原料ガス100体積部に対し、O
2が50〜120体積部、N
2が400〜1,000体積部、H
2Oが0〜900体積部が好ましく、O
2が70〜110体積部、N
2が500〜800体積部、H
2Oが100〜300体積部がより好ましい。原料ガスに対するO
2の比率がこの範囲を逸脱すると、反応温度を調整しても、反応器1出口におけるO
2濃度を調整しづらくなる傾向がある。また、N
2やH
2Oの比率が大きくなるほど、原料ガスが薄くなるので効率が悪くなる傾向があり、一方、比率が小さくなるほど、混合ガスが爆発組成に入ったり、除熱が困難になる傾向がある。
【0030】
(混合ガスの爆発範囲)
上記混合ガスは、酸素と可燃性の原料ガスとの混合物であることから、爆発範囲に入らないように各々のガス(原料ガス、空気、及び必要に応じて不活性ガスと水(水蒸気))を供給する配管に設置された流量計(図示せず)にて、流量を監視しながら、反応器1入口の組成制御を行い、上述した混合ガス組成に調整される。
【0031】
なお、ここでいう爆発範囲とは、混合ガスが何らかの着火源の存在下で着火するような組成を持つ範囲のことである。原料ガスの濃度がある値より低いと着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発下限界という。また原料ガスの濃度がある値より高いとやはり着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発上限界という。各々の値は酸素濃度に依存しており、一般に酸素濃度が低いほど両者の値が近づき、酸素濃度がある値になったとき両者が一致する。このときの酸素濃度を限界酸素濃度と言い、酸素濃度がこれより低ければ原料ガスの濃度によらず混合ガスは着火しない。
【0032】
本工程の酸化脱水素反応を開始するときは、最初に反応器1に供給する分子状酸素含有ガス、不活性ガス及び水蒸気の量を調整して、反応器1入口の酸素濃度が限界酸素濃度以下になるようにしてから原料ガスの供給を開始し、次いで、原料ガス濃度が爆発上限界よりも濃くなるように原料ガス及び空気等の分子状酸素含有ガスの供給量を増やしていくとよい。
【0033】
原料ガスと分子状酸素含有ガスの供給量を増やしていくときに、水蒸気の供給量を減らすことにより、混合ガスの供給量を一定となるようにしてもよい。このようにすると、配管や反応器1におけるガス滞留時間が一定に保たれ、圧力の変動を抑えることができる。
【0034】
[酸化脱水素反応の条件]
上記反応器1には、後述する金属酸化物触媒が充填されており、この触媒下で、上記原料ガスが酸素と反応し、1,3−ブタジエンを含むガスが生成する。
【0035】
この酸化脱水素反応において、生成ガス中にアクロレイン、アクリル酸、メタクロレイン、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の炭素原子数3〜4の不飽和カルボニル化合物が発生し得る。この不飽和カルボニル化合物の濃度が高いと、後述する粗分離工程で循環する吸収溶媒及び抽出蒸留工程で循環する抽出溶媒に、この不飽和カルボニル化合物が溶解して蓄積していき、不純物の生成を誘発させやすくなる。
【0036】
上記不飽和カルボニル化合物濃度を一定の範囲内とする条件としては、酸化脱水素反応時における反応温度を調整する方法が挙げられる。この酸化脱水素反応は発熱反応であり、反応により温度が上昇する。反応温度の下限としては通常300℃であり、320℃が好ましい。一方、反応温度の上限としては、通常400℃であり、380℃が好ましい。反応温度を上記範囲内とすることにより、触媒のコーキングを抑制することができると共に、上記炭素原子数3〜4の不飽和カルボニル化合物濃度を、一定範囲内とすることが可能となる。反応温度が300℃未満だと、n−ブテンの転化率が低下するおそれがある。一方、反応温度が400℃より高いと、上記炭素原子数3〜4の不飽和カルボニル化合物濃度が高くなり、吸収溶媒や抽出溶媒における不純物が蓄積や、触媒のコーキングが生じる傾向がある。
【0037】
なお、反応器1は、例えば熱媒体(ジベンジルトルエンや亜硝酸塩など)による除熱を行うことにより、適宜冷却して、触媒層の温度を一定に制御することが好ましい。
【0038】
反応器1の圧力としては、特に限定されないが、下限としては、通常0MPaGであり、0.02MPaGが好ましく、0.05MPaGがより好ましい。一方、上限としては0.5MPaGが好ましく、0.3MPaGがより好ましい。
【0039】
上記酸化脱水素反応における気体時空間速度(GHSV)としては、500hr
−1以上5,000hr
−1以下が好ましく、800hr
−1以上3,000hr
−1以下がより好ましく、1000hr
−1以上2,500hr
−1以下がさらに好ましい。このような気体時空間速度とすることで、効率的な反応を進めることができる。気体時空間速度(GHSV)は、下記式により求められる。
GHSV[hr
−1]=ガス流量[Nm
3/hr]÷触媒層体積[m
3]
上記式中、「触媒層体積」とは、空隙を含む全体の体積(見かけ体積)をいう。
【0040】
[生成ガス中の各成分の濃度]
上記酸化脱水素反応により生じた生成ガス中のN
2濃度は35体積%以上90体積%以下であり、H
2O濃度は5体積%以上60体積%以下であり、ブタジエンの濃度は2体積%以上15体積%以下である。生成ガス中の各成分の濃度を上記範囲とすることで、ブタジエン精製工程の効率を向上させ、かつ、精製工程で起こるブタジエンの副反応を抑制することができ、これにより、ブタジエンを製造する際のエネルギー消費量を低減することができる。生成ガス中のN
2濃度としては45体積%以上80体積%以下が好ましく、H
2O濃度としては8体積%以上40体積%以下が好ましく、n−ブテン濃度としては0体積%以上2体積%以下が好ましく、ブタジエン濃度としては3体積%以上10体積%以下が好ましい。
【0041】
(金属酸化物触媒)
次に、本工程で用いられる金属酸化物触媒について説明する。上記触媒は、原料ガスの酸化脱水素触媒として機能するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができるが、例えばモリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、及び鉄(Fe)を少なくとも有する金属酸化物を含有するものが挙げられる。上記金属酸化物としては、下記式(1)で表される複合金属酸化物が好ましい。
【0042】
Mo(a)Bi(b)Fe(c)X(d)Y(e)Z(f)O(g)・・・ (1)
【0043】
なお、式(1)中、XはNi及びCoの中から選ばれる少なくとも1種以上の元素を表す。YはLi、Na、K、Rb、Cs、及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。ZはMg、Ca、Ce、Zn、Cr、Sb、As、B、P、及びW、からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e、f、gは各元素の原子比率を表わし、a=12のとき、b=0.1〜8、c=0.1〜20、d=0〜20、e=0〜4、f=0〜2であり、gは上記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子数である
【0044】
上記金属酸化物触媒は、分子状酸素を用いて、酸化的に脱水素してブタジエンを製造する方法において、高活性かつ高選択性であり、さらに寿命安定性に優れている。
【0045】
触媒の調製法としては、特に限定されず各元素の原料物質を用いた蒸発乾固法、スプレードライ法、酸化物混合法等の公知の方法を採用することができる。上記各元素の原料物質としては、特に限定されず、例えば成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アルコキシド等が挙げられる。上記触媒を不活性な担体に担持させて使用してもよく、担体種としてはシリカ、アルミナ、シリコンカーバイト等が挙げられる。
【0046】
<冷却工程>
本工程では、反応器1からの生成ガスを冷却する。この冷却工程は、急冷塔2による冷却と熱交換器3による冷却とを含む。
【0047】
(急冷塔2)
反応器1からの生成ガスは、配管101より急冷塔2に送給される。この急冷塔2上部からは、配管102より冷却溶媒が導入され、この冷却溶媒と上記送給された生成ガスとを向流接触させる。そして、この向流接触で生成ガスを30℃〜99℃程度に冷却する。冷却溶媒としては、水、アルカリ水溶液が挙げられる。冷却した溶媒は、配管103より排出される。導入する冷却溶媒の温度は、反応生成ガスの冷却温度に依存するが、通常は10℃〜90℃であり、20℃〜70℃が好ましく、20℃〜40℃がより好ましい。
【0048】
急冷塔2内の圧力は、特に限定されないが、通常0MPaG〜0.5MPaGであり、0MPaG〜0.2MPaGが好ましい。急冷塔2内の温度は、通常0℃〜100℃であり、20℃〜80℃が好ましい。
【0049】
急冷塔2出口における生成ガス中の各成分の濃度としては、N
2は30体積%以上80体積%以下が好ましく、40体積%以上70体積%以下がより好ましい。H
2Oは、5体積%以上60体積%以下が好ましく、10体積%以上45体積%以下がより好ましい。ブタジエンは、2体積%以上15体積%以下が好ましく、3体積%以上10体積%以下がより好ましい。
【0050】
(熱交換器3)
急冷塔2で冷却された生成ガスは急冷塔2の塔頂から流出され、配管104より熱交換器3を経て室温(10℃〜30℃)程度に冷却され、冷却生成ガスを得る。
【0051】
熱交換器3出口における冷却生成ガスの各成分の濃度としては、N
2は、60体積%以上94体積%以下が好ましく、70体積%以上85体積%以下がより好ましい。H
2Oは、1体積%以上30体積%以下が好ましく、1体積%以上3体積%以下がより好ましい。ブタジエンは2体積%以上15体積%以下が好ましく、3体積%以上10体積%以下がより好ましい。冷却生成ガスの各成分の濃度を上記範囲とすることで、冷却生成ガス中のブタジエン濃度を上記範囲に制御でき、これにより、次工程で吸収溶媒への吸収効率を高めることができる。
【0052】
<粗分離工程(吸収工程)>
本工程では、吸収溶媒への選択的吸収により上記冷却生成ガスを分子状酸素及び不活性ガス類とその他のガスとに粗分離する。ここで、「その他のガス」とは、少なくとも吸収溶媒に吸収されるブタジエン及び未反応のn−ブテンを含むガスをいう。
【0053】
上記冷却工程で得られる冷却生成ガスは、必要に応じて、圧縮機4による加圧や熱交換器5により冷却される。冷却生成ガスは、配管105から吸収塔6に送給される。吸収塔6の上部からは、熱交換器112を経て温度調節された吸収溶媒が配管106より導入され、この吸収溶媒と上記送給された冷却生成ガスとを向流接触させる。これにより、上記冷却生成ガス中のその他のガス(ブタジエン及び未反応のn−ブテンを含むガス)が吸収溶媒に吸収され、分子状酸素及び不活性ガス類とその他のガスは粗分離される。
【0054】
吸収塔6内の圧力としては、特に限定されないが、通常、0.1MPaG〜1.5MPaGであり、0.2MPaG〜1.0MPaGが好ましい。この圧力が大きいほど、吸収効率を高めることができ、小さいほど吸収塔6へのガス導入時の昇圧に要するエネルギーを削減できる。
【0055】
また、吸収塔6内の温度は、特に限定されないが、通常0℃〜60℃であり、10℃〜50℃が好ましい。この温度が高いほど、酸素や窒素等が溶媒に吸収されにくいというメリットがあり、低いほどブタジエン等の炭化水素の吸収効率が良くなるというメリットがある。
【0056】
(吸収溶媒)
本工程で用いる吸収溶媒は、アセトニトリルを主成分として含む。ここで「主成分」とは、供給時の吸収溶媒におけるアセトニトリルの含有量が、50質量%以上であることをいう。吸収溶媒が、沸点の比較的低いアセトニトリルを主成分として含むことで、後述の脱溶工程及び分離工程(抽出蒸留工程)において、この吸収溶媒に吸収させた成分と溶媒とを分離する際のエネルギー消費量を低減することができる。上記吸収溶媒におけるアセトニトリルの含有量は、55質量%以上90質量%以下であることが好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。比較的低沸点のアセトニトリルの含有量を上記範囲とすることで、吸収溶媒に吸収させた成分と溶媒とを分離する際のエネルギー消費量を、より効果的に低減することができる。
【0057】
上記吸収溶媒は、水及びアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。上記吸収溶媒が水をさらに含有することで吸収溶媒の選択性を高めることができるが、水の含有量が高くなりすぎると、吸収溶媒中のアセトニトリルに炭化水素類が溶解しきれなくなり二相に分離してしまう。そこで、上記吸収溶媒が水に加えてアルコールをさらに含有することで、水の含有量を高くしてもアセトニトリルへの炭化水素類(その他のガス)の溶解性が低下せず吸収溶媒中の水の含有量を高めることができる。
【0058】
上記アルコールとしては、炭化水素類と水との親和性の観点から、例えば炭素数8以下のものが挙げられる。これらのうち、アセトニトリルと沸点が近似する炭素数5以下のアルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール等の脂肪族飽和アルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール等の脂肪族不飽和アルコール、シクロペンタノール等の脂環式アルコールがより好ましく、エチルアルコールが特に好ましい。
【0059】
上記吸収溶媒における水の含有量としては、5質量%以上35質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましい。水の含有量を上記範囲とすることで、吸収溶媒の選択性を効果的に高めることができる。
【0060】
上記吸収溶媒におけるアルコールの含有量としては、5質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。アルコールの含有量を上記範囲とすることで、水の含有量を高くしてもアセトニトリルへの炭化水素類(その他のガス)の溶解性が低下せず、吸収溶媒中の水の含有量を高めることができる。
【0061】
上記吸収溶媒は、アセトニトリル、アルコール及び水以外のその他の溶媒を含んでいてもよい。
【0062】
粗分離工程での吸収溶媒の使用量は、特に制限はないが、反応器1から供給される生成ガス中のブタジエン及び未反応n−ブテンの合計流量に対して、通常、1質量倍以上100質量倍以下であり、5質量倍以上50質量倍以下が好ましい。吸収溶媒の使用量を上記範囲とすることで、ブタジエン等の吸収効率を向上することができる。吸収溶媒の使用量が多すぎると、不経済となる傾向にあり、少なすぎると、ブタジエン等の吸収効率が低下する傾向にある。
【0063】
吸収溶媒の温度としては、通常0℃以上60℃以下であり、0℃以上40℃以下が好ましい。吸収溶媒の温度を上記範囲とすることで、ブタジエン等の炭化水素の吸収効率をより向上させることができる。従って、熱交換器112のような装置で温度を調節することが好ましい。
【0064】
吸収溶媒に吸収されなかった成分(分子状酸素及び不活性ガス類)は吸収塔6の塔頂から排出され、配管107より水洗塔7に送給される。この分子状酸素及び不活性ガス類は水洗塔7の配管110より供給される水で洗浄され、これにより分子状酸素及び不活性ガス類に混合する(同伴する)吸収溶媒が除去され、除去された吸収溶媒は配管108より回収される。洗浄された分子状酸素及び不活性ガス類は、配管109より反応工程に送り、循環使用してもよい。
【0065】
水洗塔7内の圧力としては、特に限定されないが、通常0.05MPaG〜1.5MPaGであり、0.05MPaG〜1.0MPaGが好ましい。水洗塔7内の温度としては、特に限定されないが、通常0℃〜80℃であり、10℃〜60℃が好ましい。
【0066】
<脱溶工程>
本工程では、ブタジエンを含む吸収溶媒から溶媒を分離し、ブタジエンを含むガス流を得る。吸収塔6の底部から得られるブタジエンを含む吸収溶媒を、配管111より脱溶塔8に供給する。脱溶塔8において、蒸留分離を行い、塔頂よりブタジエンを含むガス流を得る。分離された溶媒は塔底より抜き出され、吸収塔6の吸収溶媒として循環使用されるが、一部を溶媒再生塔9に供給し、溶媒中の不純物を分離した後に吸収塔6に循環使用する。
【0067】
脱溶塔8内の圧力としては、特に限定されないが、通常0.03MPaG〜1.0MPaGであり、0.2MPaG〜0.6MPaGが好ましい。
【0068】
また、脱溶塔8の塔底温度としては、80℃〜160℃が好ましく、100℃〜140℃がより好ましい。本発明で用いる吸収溶媒が比較的低沸点のアセトニトリルを主成分として含むので、脱溶塔8内の温度を上記範囲のように比較的低くしても、吸収溶媒から溶媒とブタジエンを含むガス流とに分離することができ、エネルギー消費量を低減できる。
【0069】
溶媒再生塔9内の圧力としては、特に限定されないが、通常0MPaG〜0.5MPaGであり、0MPaG〜0.3MPaGが好ましい。
【0070】
本工程では、比較的純度が高いブタジエンが得られるが、これを蒸留すること(例えば後述する分離工程)により、さらに高純度のブタジエンを得ることもできる。
【0071】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態のブタジエンの製造方法は、第1実施形態の粗分離工程の後かつ脱溶工程の前に分離(抽出蒸留)工程をさらに有する。第2実施形態のブタジエンの製造方法を、
図2を用いて説明する。反応工程、冷却工程、粗分離工程及び脱溶工程については、上述の
図1の第1実施形態での説明を適用できるので省略する。以下、分離(抽出蒸留)工程について説明する。
【0072】
<分離工程(抽出蒸留工程)>
第1実施形態のブタジエンの製造方法と同様に反応工程、冷却工程、粗分離工程を経て得られたその他のガス(ブタジエンを含むガス)は、本工程において、抽出溶媒への選択的吸収により1,3−ブタジエンと未反応のn−ブテン及びブタン類とに分離される。
【0073】
吸収塔36の底部から得られるその他のガスを含む吸収溶媒は、配管201より抽出蒸留塔38に送給される。抽出蒸留塔38の塔底はリボイラで加熱されているため、吸収溶媒に吸収されていたガス及び吸収溶媒の一部はガス化される。このガスと抽出蒸留塔38上部の配管202から供給される抽出溶媒及び塔頂のコンデンサで凝縮された液とを向流接触させる。これにより、1,3−ブタジエンは選択的に抽出溶媒に吸収される。抽出溶媒への選択的吸収とは、その他のガスを含む吸収溶媒が、抽出蒸留塔38において蒸発と溶媒への吸収を繰り返し、結果としてブタジエンが抽出溶媒に選択的に吸収される態様も含む概念である。吸収されなかった未反応のn−ブテン及びブタン類は塔頂から配管203を通って排出されるが、一部を反応工程に送り、循環使用してもよい。
【0074】
上記抽出溶媒としては、上述の粗分離工程(吸収工程)における吸収溶媒の例示を適用できる。これにより、吸収溶媒及び抽出溶媒のそれぞれの溶媒に対する溶媒再生工程、脱溶塔等が不要となり、比較的簡単なプロセスで効率的にブタジエンを製造することができる。
【0075】
抽出蒸留塔38内の圧力としては、特に限定されないが、通常、0.1MPaG〜1.0MPaGであり、0.2MPaG〜0.8MPaGが好ましい。
【0076】
また、抽出蒸留塔38の塔底温度としては、60℃〜160℃が好ましく、80℃〜140℃がより好ましい。
【0077】
抽出蒸留塔38の底部から得られるブタジエンを含む抽出溶媒は、配管204より脱溶塔39に供給される。脱溶塔39で行われる<脱溶工程>以降は、上述の第1実施形態の<脱溶工程>以降の説明を適用できる。
【実施例】
【0078】
当該ブタジエンの製造方法の具体的実施例を以下説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
なお、以下実施例内に記載したガス組成分析については、下記表1に示す条件でガスクロマトグラフィーを用いて行った。H
2Oに関しては、ガスサンプリングの際の氷冷トラップにより得られた水分量を加算することで算出した。
【0080】
【表1】
【0081】
また、以下実施例内に記載の溶液組成分析については、下記表2に示す条件でガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0082】
【表2】
【0083】
[実施例1]
実施例1は、上述の第1実施形態のブタジエンの製造方法である。以下、実施例1を
図1を参照しつつ説明する。
【0084】
<反応工程>
(a)触媒
Mo
12Bi
5Fe
0.5Ni
2Co
3K
0.1Cs
0.1Sb
0.2の組成式で表される酸化物を球状のシリカに触媒総体積の20%の割合で担持させた触媒を使用した。
【0085】
上記(a)の触媒を触媒長4,000mmで充填した
図1の反応器1(内径21.2mm、外径25.4mm)に、n−ブテンを含む原料ガス/空気/水蒸気/窒素を1.0/4.3/1.2/3.4の体積割合で混合した混合ガスを1,000hr
−1の気体時空間速度(GHSV)にて供給し、320℃〜330℃で反応させ、1,3−ブタジエンを含む生成ガスを得た。
【0086】
<冷却工程>
反応器1から抜き出した生成ガスを急冷塔2において水と接触させて76℃に急冷した後、熱交換器3で室温(30℃)まで冷却した。急冷塔2出口における生成ガス中の各ガス成分の割合は、1,3−ブタジエン/未反応n−ブテン/N
2/H
2O/O
2/COxが6.8/1.4/59/29/2.2/1.6の体積割合であった。また、熱交換器3出口における冷却生成ガスの組成は、1,3−ブタジエン/未反応n−ブテン/N
2/H
2O/O
2/COxが9.3/1.9/81/2.8/3.1/2.1の体積割合であった。
【0087】
<粗分離工程(吸収工程)>
上記冷却工程で得られた冷却生成ガスを圧縮機4で0.4MPaGまで加圧し、熱交換器5で50℃まで冷却した。冷却後のガスを外径6インチ、高さ7,800mm、材質SUS304で内部に規則充填物を配置した吸収塔6の底部より供給し、塔上部より、アセトニトリル/水/エタノールを75/15/10(質量%)の割合で含む吸収溶媒を10℃で供給した。吸収溶媒に吸収させようとする1,3−ブタジエン及び未反応のn−ブテンに対し、供給した吸収溶媒の量は15質量倍であった。
【0088】
吸収溶媒に吸収されず、塔頂より抜き出されたガスには、N
2が93体積%、O
2が4体積%、COx等の不純物が3体積%の割合で含まれていた。塔頂から得られたガスは、水洗塔7に送られ、ガス中に含まれる少量の溶媒を除去後、一部を反応工程へ送り、循環使用した。
【0089】
<脱溶工程>
吸収塔6の底部から得られた1,3−ブタジエンを含む溶媒を外径8インチ、高さ6,600mm、材質SS400で内部に充填物を配置した脱溶塔8に供給し、塔頂より実質的に溶媒を含まないガス流を得た。脱溶塔8の塔頂より得られたガスには、1,3−ブタジエンが80体積%、n−ブテンが17体積%、COxや溶媒等の不純物が3体積%の割合で含まれていた。
【0090】
脱溶塔8の底部から抜き出された実質的に1,3−ブタジエンを含まない溶媒は、熱交換器で冷却された後、吸収塔6へ供給され循環使用したが、一部は溶媒再生塔9へ供給され、不純物を分離後に吸収塔6へ循環使用した。
【0091】
[実施例2]
実施例2は、上述の第2実施形態のブタジエンの製造方法である。すなわち、実施例2においては、上述の実施例1における<粗分離工程(吸収工程)>の後<脱溶工程>の前に、さらに<分離工程(抽出蒸留工程)>を有する以外は、実施例1と同様に操作(反応工程、冷却工程、粗分離工程を実施例1と同一条件のもとで行った)して、1,3−ブタジエンを得た。以下、実施例2の<分離工程(抽出蒸留工程)>以降について
図2を参照しつつ説明する。
【0092】
<分離工程(抽出蒸留工程)>
吸収塔36の底部から得られた1,3−ブタジエンを含む溶媒を、外径12インチ、高さ8,200mm、材質SUS304で内部に規則充填物を配置した抽出蒸留塔38に供給し、塔上部よりアセトニトリル/水/エタノールを75/15/10の質量割合で含む抽出溶媒を30℃で供給した。供給した抽出溶媒は、溶媒に吸収させようとする目的の成分に対し3質量倍であった。
【0093】
抽出溶媒に吸収されず、塔頂から抜き出されたガスにはn−ブテンが80体積%、ブタン類が1体積%、N
2が9体積%、溶媒等の不純物が10体積%の割合で含まれていた。この抜き出されたガスは、n−ブテンを精製する工程で更にn−ブテン濃度を高めた後、反応工程へと戻し、原料ガスの一部として使用した。
【0094】
<脱溶工程>
上記抽出蒸留塔38の底部から得られた1,3−ブタジエンを含む溶媒を外径8インチ、高さ6600mm、材質SS400で内部に規則充填物を配置した脱溶塔39に供給し、塔頂より溶媒を大幅に低減した1,3−ブタジエンを主成分とするガス流を得た。脱溶塔39の塔頂から得られたガスには、1,3−ブタジエンが90体積%、溶媒等が9体積%、COx等の不純物が1体積%の割合で含まれていた。
【0095】
脱溶塔39の底部から抜き出された実質的に1,3−ブタジエンを含まない溶媒は、熱交換器205又は熱交換器206で冷却された後、吸収塔36及び抽出蒸留塔38へ供給され、循環使用したが、一部は溶媒再生塔40へ供給され、不純物を分離後に吸収塔36及び抽出蒸留塔38へ循環使用した。