特許第6070928号(P6070928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070928リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070928
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20170123BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20170123BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01F37/00 A
   H01F37/00 M
   H01F27/24 K
   H01F27/24 D
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-253689(P2012-253689)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2013-211515(P2013-211515A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-47098(P2012-47098)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和宏
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−032917(JP,A)
【文献】 特開2011−165977(JP,A)
【文献】 特開2011−181747(JP,A)
【文献】 特開2011−071485(JP,A)
【文献】 特開2012−146753(JP,A)
【文献】 特開2008−117978(JP,A)
【文献】 特開2009−224759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/24
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを備えるリアクトルであって、
前記磁性コアは、
前記コイルの内側に配置される内側コア部と、
前記内側コア部以外の箇所に配置されて、前記内側コア部と組み合わされるコア部とを備え、
前記内側コア部は、
磁性粉末と樹脂とを含む複合材料からなる複合コア部と、
前記樹脂により前記複合コア部の端面に一体にされているギャップとを有し、
前記複合材料中の前記磁性粉末の含有量が、30体積%以上75体積%以下であり、
前記複合コア部における前記ギャップとの接合面近傍の前記樹脂内に界面を有していないリアクトル。
【請求項2】
前記複合コア部は、磁性粉末と液状樹脂とを含む複合材料の樹脂を硬化させて形成されてなる請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記複合コア部は、前記樹脂として、ミラブル型シリコーンゴムを含む請求項1に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記内側コア部は、
コイル軸方向に連続する一体の複合コア部と、
この複合コア部の両端面に配置されるギャップとを備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記コア部の少なくとも一部が圧粉成形体で構成されている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記コア部が、磁性粉末と樹脂とを含む複合材料で構成されている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリアクトル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のリアクトルを備えるコンバータ。
【請求項8】
請求項に記載のコンバータを備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などの車両に搭載される車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品などに利用されるリアクトル、このリアクトルを備えるコンバータ、及びこのコンバータを備える電力変換装置に関するものである。特に、製造性に優れ、磁気飽和を抑制し易いリアクトルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1は、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータに利用されるリアクトルとして、一対のコイル素子を有するコイルと、コイルが配置され、閉磁路を構成する環状の磁性コアとを備えるものを開示している。
【0003】
この磁性コアは、各コイル素子内に配置されるコイル配置部(内側コア部)と、コイルの両端に内側コア部を挟むように配置される露出部(外側コア部)とを備える。そのうち、内側コア部は、リアクトルのインダクタンスを調整するため、アルミナなどの非磁性材料からなるギャップが組み合わされることがある。例えば、圧粉成形体の複数のコア片の間にギャップを介在して内側コア部を構成する。このギャップは、例えば接着剤により各コア片と一体にされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-33055号公報(図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のリアクトルでは、その製造性に改善の余地がある。上記の技術では、圧粉成形体のコア片を作製する工程とは別に、このコア片とギャップとを接着剤により貼り合わせる工程が必要になる。そのため、磁性コア部にギャップを有するリアクトルにおいて、より高い製造性のリアクトルが求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、製造性に優れるリアクトルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、このリアクトルを備えるコンバータ、このコンバータを備える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリアクトルは、コイルと、コイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを備える。このリアクトルにおいて、磁性コアは、磁性粉末と樹脂とを含む複合材料からなる複合コア部と、ギャップとを有する。そして、このギャップは上記樹脂により上記複合コア部と一体にされていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、磁性コアの少なくとも一部を複合材料で構成し、その複合材料に含まれる樹脂でギャップを一体化することにより、複合コア部の作製に伴ってギャップを複合コア部と一体化することができ、リアクトルの製造性を高めることができる。また、ギャップを有する磁性コアとすることで、特に大電流がコイルに通電された場合でも、磁気飽和を抑制し易い。
【0009】
本発明のリアクトルの一形態として、上記磁性コアは、コイルの内側に配置される内側コア部を有する形態が挙げられる。その場合、この内側コア部を上記複合コア部で構成することが挙げられる。本発明のリアクトルにおける「コイルの内側に配置される内側コア部」とは、少なくとも一部がコイルの内部に配置されている内側コア部を意味する。例えば、内側コア部の中央部分がコイルの内部に配置され、内側コア部の端部付近がコイルの外側に位置するような場合も「コイルの内側に配置される内側コア部」に含まれる。
【0010】
この構成によれば、内側コア部を複合コア部で構成することにより、内側コア部の製造性を改善することができる。それにより、リアクトルの製造性を高めることができる。
【0011】
本発明のリアクトルの一形態として、上記複合コア部は、磁性粉末と液状樹脂とを含む複合材料の樹脂を硬化させて形成されてなることが挙げられる。
【0012】
この構成によれば、液状樹脂が硬化する際にギャップを一体化することができ、複合コア部とギャップの一体化を容易に実現できる。硬化した液状樹脂は、ギャップと高い接合強度を確保し易い。
【0013】
本発明のリアクトルの一形態として、上記複合コア部は、上記樹脂として、ミラブル型シリコーンゴムを含むことが挙げられる。
【0014】
この構成によれば、ミラブル型シリコーンゴムが硬化する際にギャップを一体化することができ、複合コア部とギャップの一体化を容易に実現できる。また、ミラブル型シリコーンゴムは、硬化後においても適度な弾性を有するため、複合材料がリアクトルの振動を吸収して、振動による騒音を低減することができる。加えて、その弾性により、磁性粉末やギャップとゴムとの間で熱膨張係数差が生じても、ゴムが変形することにより、複合材料にクラックやギャップとの剥離が生じることを防止できる。特に、ミラブル型シリコーンゴムであれば、耐熱性が高く、高温でも劣化し難い。
【0015】
本発明のリアクトルの一形態として、上記内側コア部は、コイル軸方向に連続する一体の複合コア部と、この複合コア部の両端面に配置されるギャップとを備えることが挙げられる。
【0016】
この構成によれば、内側コア部を一連の複合コア部で構成することにより、複数のコア片を接合したりする必要がなく、高い製造性にてリアクトルを製造できる。また、複合コア部の両端面にギャップを備えることで、ギャップの配置バランスがよく、かつ複合材料の樹脂の硬化前において、複合コア部になる複合材料とギャップとの相互の配置も容易にできる。
【0017】
本発明のリアクトルの一形態として、複合材料中の磁性粉末の含有量が、30体積%以上75体積%以下であることが挙げられる。
【0018】
複合材料を100%とするとき、磁性粉末の含有量が30体積%以上であることで、飽和磁束密度などの磁気特性を確保し易い。一方、磁性粉末の含有量が75体積%以下であることで、樹脂(例、液状のエポキシ樹脂やミラブル型シリコーンゴム)との混合が行い易く、製造性を高めることができ、また、磁性粉末を均一に分散させ易い。より好ましい磁性粉末の含有量は、40体積%以上65体積%以下である。複合材料中の樹脂の含有量は、25体積%以上70体積%以下が好ましく、より好ましくは35体積%以上60体積%以下である。
【0019】
本発明のリアクトルの一形態として、上記磁性コアのうち、上記内側コア部以外の箇所の少なくとも一部が圧粉成形体で構成されていることが挙げられる。
【0020】
この構成によれば、内側コア部以外の少なくとも一部を圧粉成形体で構成することで、磁束の漏れを抑制し易い。圧粉成形体は、一般に、磁性粉末と樹脂との複合材料からなる複合コア部に比べて比透磁率が高く、特に、内側コア部を複合コア部で構成し、この内側コア部を両端部から挟んでコイルの外側に配置される外側コア部を圧粉成形体で構成すれば、磁束の漏れを抑制し易い。
【0021】
本発明のリアクトルの一形態として、内側コア部が複合コア部で構成され、さらに上記磁性コアのうち上記内側コア部以外の箇所が、磁性粉末と樹脂とを含む複合材料で構成されていることが挙げられる。
【0022】
この構成によれば、内側コア部を含む磁性コアの全てが複合材料で構成され、磁性コア全体の磁気特性や、磁性コアの各部の磁気特性を磁性粉末の種類や含有量を調整することで変化させることができる。
【0023】
本発明のコンバータは、上記した本発明のリアクトルを備える。コンバータとしては、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを備え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換する形態が挙げられる。
【0024】
本発明の電力変換装置は、上記した本発明のコンバータを備える。電力変換装置としては、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを備え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動する形態が挙げられる。
【0025】
本発明コンバータや本発明電力変換装置は、磁気飽和し難く、製造性の高い本発明のリアクトルを備えることで、このリアクトルの特徴を備えるコンバータや電力変換装置として、車載部品などに利用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のリアクトルは、磁性コアの製造性に優れることに伴い、リアクトル自体も高い製造性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態1に係るリアクトルの概略斜視図である。
図2】ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す概略構成図である。
図3】本発明のコンバータを備える本発明の電力変換装置の一例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。各図において、同一部材には同一符号を付している。
【0029】
[実施形態1]
〔リアクトルの概要〕
図1を参照して、実施形態1に係るリアクトル1を説明する。このリアクトル1は、一対のコイル素子2A,2Bを備えるコイル2と、コイル2の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コア3との組合体10を備える。磁性コア3は、各コイル素子2A,2Bの内側に配置される内側コア部31と、各コイル素子2A,2Bから露出される外側コア部32とを備える。このリアクトル1の特徴とするところは、内側コア部31が複合コア部31mとギャップ31gとで構成され、その複合コア部31mが磁性粉末と樹脂の複合材料で形成されて、その樹脂により複合コア部31mとギャップ31gとが一体化されていることにある。以下、このリアクトル1の各構成を詳細に説明する。
【0030】
〔コイル〕
コイル2は、一対のコイル素子2A,2Bと、両コイル素子2A,2Bを連結する連結部2rとを備える。各コイル素子2A,2Bは、互いに同一の巻数、同一の巻回方向で中空筒状に形成され、各軸方向が平行するように横並びに並列されている。また、連結部2rは、コイル2の他端側(図1において紙面右側)において両コイル素子2A,2Bを繋ぐU字状に屈曲された部分である。このコイル2は、本例のように、接合部の無い一本の巻線2wを螺旋状に巻回して形成しても良いし、各コイル素子2A,2Bを別々の巻線により作製し、各コイル素子2A,2Bの巻線の端部同士を半田付けや圧着などにより接合することで形成しても良い。
【0031】
コイル2は、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる平角線や丸線などの導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を備える被覆線を好適に利用できる。本例では、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用し、各コイル素子2A,2Bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルである。また、各コイル素子2A,2Bの端面形状を長方形の角部を丸めた形状としているが、端面形状は、円形状など適宜変更することができる。
【0032】
コイル2の両端部2a,2bは、ターン形成部分から引き延ばされて、図示しない端子部材に接続されている。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0033】
〔磁性コア〕
磁性コア3は、各コイル素子2A,2Bの内部に配置される一対の内側コア部31,31と、コイル2から露出されている一対の外側コア部32,32とを組み合わせて環状に形成される。コイル2を励磁した際、この磁性コア3に閉磁路が形成される。
【0034】
{内側コア部}
内側コア部31は、磁性粉末と樹脂とを含む複合材料からなる複合コア部31mと、ギャップ31gとを有する。
【0035】
(磁性粉末)
磁性粉末の材質としては、Fe,Co,Niなどの鉄族金属(例えば、Fe及び不可避的不純物からなる純鉄)、Feを主成分とする鉄合金(例えばFe-Si系合金,Fe-Ni系合金,Fe-Al系合金,Fe-Co系合金,Fe-Cr系合金,Fe-Si-Al系合金など)といった鉄基材料、希土類金属、フェライトなどの軟磁性材料が挙げられる。また、これらの磁性粉末の混合粉末を用いてもよい。さらにこれら軟磁性粉末の外周にリン酸塩被膜などの絶縁被膜を備える被覆粉末を用いても良い。
【0036】
磁性粉末の平均粒径は、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下が挙げられる。磁性粉末は、平均粒径が異なる複数種の粉末を含んでいてもよい。微細な粉末と粗大な粉末とを混合した磁性粉末を複合材料の原料に用いた場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルが得られ易い。複合コア部31mにおける磁性粉末と複合材料の原料に用いる粉末とは、その大きさが実質的に同じであり(維持されており)、平均粒径が上記範囲を満たす磁性粉末を原料に用いると、流動性が高く、複合材料中に磁性粉末を均一に分散させ易い。
【0037】
磁性粉末の複合材料に占める含有量は、複合材料を100%とするとき、体積割合で30体積%以上75体積%以下が望ましい。磁性粉末が30体積%以上であることで、磁性コア3全体の飽和磁束密度といった磁気特性を確保し易い。磁性粉末が75体積%以下であると、樹脂との混合が行い易い。磁性粉末の組成や複合材料中の含有量などを調整することで、複合コア部31mの磁気特性を調整できる。より好ましい磁性粉末の含有量は、40体積%以上65体積%以下である。特に磁性粉末が鉄あるいはFe-Si合金のような材料であれば、磁性粉末の含有量を30体積%以上とすることで飽和磁束密度を0.6T以上にしやすくなり、40体積%以上とすることで飽和磁束密度を0.8T以上にしやすくなる。また、磁性体粉末の含有量を65体積%以下とすることで、磁性粉末などと樹脂との混合物がさらに流動し易くなり、さらに製造性に優れる。本例では、磁性粉末として、平均粒径75μm以下の鉄基材料(純鉄)からなる粒子の表面に絶縁被覆を備える被覆粉末を用い、複合材料中の磁性粉末の含有量を45体積%としている。
【0038】
(樹脂)
複合コア部31mを構成する樹脂は、リアクトル1の磁性コア3として利用できる耐熱性を備える各種樹脂(ゴムを含む)が利用できる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が好適に利用できる。熱硬化性樹脂を用いた場合、複合材料を成形用金型に充填し、加熱して樹脂を熱硬化する。本例では、硬化前には液状のエポキシ樹脂を用いている。或いは、樹脂には、常温硬化性樹脂、或いは低温硬化性樹脂を用いることができる。この場合、成形用金型に充填した複合材料を常温〜比較的低温に放置して樹脂を硬化する。さらに、樹脂には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂も利用できる。その他、BMC(Bulk molding compound)なども樹脂として利用できる。
【0039】
内側コア部31(複合コア部31m)は、一般に非磁性材料である上記の樹脂を比較的多く含むため、同じ磁性粉末を用いた圧粉成形体よりも飽和磁束密度が低く、かつ比透磁率も低くなり易い。複合コア部31mの比透磁率は、複合コア部31mに含まれる磁性粉末の含有量や材質を調整することで変えられる。複合コア部31mの比透磁率は、5以上50以下が好ましく、5以上35以下がさらに好ましく、10以上30以下が特に好ましい。複合コア部31mの飽和磁束密度は、0.6T以上が好ましく、0.8T以上がさらに好ましく、1.0T以上が特に好ましい。
【0040】
(ギャップ)
ギャップ31gは、コア片間に配置されて、インダクタンスを調整するための部材であり、その構成材料には、複合コア部31mよりも比透磁率が低い材料を利用できる。代表的な構成材料は、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどの非磁性材料が挙げられる。
【0041】
或いは、ギャップ31gの構成材料として、比透磁率の小さい磁性材料も利用できる。具体的には、磁性粉末(Fe粉末、Fe-Si粉末、センダスト(Fe-Si-Al合金)粉末、フェライト粉末など)と、非磁性樹脂(不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂など)からなる樹脂粉末との混合材料を用いても良い。その場合、この混合材料を板状に成形してギャップ31gとすることができる。上記混合材料における磁性粉末の含有量を調整することで、ギャップ31gの構成材料の比透磁率を調整することができる。この場合、ギャップ31gの構成材料の比透磁率は1超10以下とすることが好ましく、さらに好ましくは1超2以下で、特に好ましくは1.1以上1.4以下である。ギャップ31gの構成材料の比透磁率は、小さい方がギャップ31gの厚さを薄くすることができるためである。
【0042】
内側コア部31に設けるギャップ31gの数と厚みは、リアクトル1が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。また、内側コア部31におけるギャップ31gの位置も適宜選択できる。本例では、2枚のアルミナ板からなるギャップ31gを一つの複合コア部31mの各端面に一体化しているが、内側コア部の途中にギャップが形成されていても良い。さらに、複合コア部31mの形状やギャップ31gの形状も適宜選択することができる。ここでは、ギャップ31gは、複合コア部31mの形状に対応させて矩形板状としている。
【0043】
(フィラー)
複合材料には、磁性粉末及び樹脂に加えてフィラー、代表的には、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種の非磁性材料の粉末を混合してもよい。セラミックスなどの熱伝導性に優れるフィラーを混合することで、放熱性の向上に寄与することができる。フィラーの含有量は、複合材料を100質量%とするとき、0.2質量%以上、更に0.3質量%以上、特に0.5質量%以上とすると、放熱性の向上効果を得易く、20質量%以下、更に15質量%以下、特に10質量%以下とすると、磁性粉末や樹脂の割合の低下を抑制できる。フィラーは、磁性粉末よりも微粒にすると磁性粒子間に介在させ易く、当該フィラーの含有による磁性粉末の割合の低下を抑制し易い。
【0044】
{外側コア部}
一方、外側コア部32は、磁性コア3のうち、内側コア部31以外の箇所を構成する。本例では、並列された一対の内側コア部31を挟み込み、当該内側コア部31の各端面をつなぐようにコイル2の外側に配置されるコア片で外側コア部32を構成している。より具体的には、外側コア部32は、平面視した際に、台形状のブロック片である。この平面視した際の外側コア部32の形状は、台形以外に半ドーム状などであっても良い。
【0045】
本例の外側コア部32は、その上面が内側コア部31の上面と面一になっているが、下面は内側コア部31の下面よりも下方に突出している。つまり、外側コア部32の下面もコイル2の下面と共に、リアクトル1の設置対象側の面を構成する。リアクトル1は、冷却ベースなどの設置対象に取り付けられるため、コイル2だけでなく、外側コア部32も設置対象側の面を構成することで、放熱性に優れる。さらに、外側コア部32の上面を内側コア部31の上面から突出させても良い。
【0046】
この外側コア部32は、磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体、又は複数の電磁鋼板を絶縁して積層した積層鋼板などで構成することができる。通常、圧粉成形体や積層鋼板は、複合材料を用いた成形硬化体よりも高い比透磁率を有する。本例では、圧粉成形体で外側コア部32を構成している。外側コア部32を圧粉成形体とすれば、内側コア部31の比透磁率が外側コア部32の比透磁率より小さくなるため、磁束が外部に漏れ難い。
【0047】
圧粉成形体を構成する磁性粉末には、上記複合材料で用いる磁性粉末や、この磁性粉末に絶縁被覆を形成した被覆粉末が好適に利用できる。この絶縁被膜には、シリコーン樹脂やリン酸塩などの被膜が利用できる。絶縁被膜を有する磁性粉末を用いて圧粉成形体を構成すれば、磁性粉末の粒子同士を絶縁することができ、低損失な磁性コア3を構築することができる。このような磁性粉末を用いて圧粉成形体を作製するには、例えば、磁性粉末にバインダとなる樹脂粉末を混合し、その混合粉末材料を成形後、成形体に所定の熱処理を施す。バインダには、熱可塑性樹脂の他、非熱可塑性樹脂を利用することができる。
【0048】
〔インシュレータ〕
コイル2と磁性コア3との間には、両者の間を絶縁するインシュレータ5が介在されている。インシュレータ5は、内側コア部31とコイル2との絶縁を確保する周壁部(図示略)と、各コイル素子2A,2Bの端面と外側コア部32との絶縁を確保する枠板部52とを備える。周壁部は、内側コア部31の外周を取り囲む筒状のものや、この筒状体を2分割した半円筒状のものや、内側コア部31の上面側と下面側に被せられる一対の[型片などが挙げられる。枠板部52には、各内側コア部31がそれぞれ挿通可能な一対の開口部(貫通孔)を有するB字状の平板部材が好適に利用できる。
【0049】
インシュレータ5の構成材料には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの絶縁性材料が利用できる。インシュレータ5の形成には、射出成形などの成形方法が好適に利用できる。
【0050】
〔ケース〕
リアクトル1は、図示しないケースを備え、コイル2と磁性コア3との組合体10がケースに収納された形態としてもよい。ケースは、収納物である組合体10を保護する機能を有する他、放熱経路として利用することができる。そのため、ケースの材料には、熱伝導性に優れる材料、好ましくは鉄などの磁性粉末よりも熱伝導率が高い材料、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金といった金属を好適に利用できる。アルミニウムやマグネシウム、その合金は、軽量であることから、リアクトルの軽量化に寄与する。また、アルミニウムやマグネシウム、その合金は、非磁性材料かつ導電性材料であることから、ケース外部への漏れ磁束も効果的に防止できる。金属から構成される場合、ケースは、鋳造や切削加工、塑性加工などにより、容易に製造できる。
【0051】
特に、特開2011-243943号公報に示されるように、ケース1は、組合体が載置される底板部と、底板部に載置された組合体を取り囲む周壁部とを備え、底板部と周壁部とが独立した部材であることが好ましい。その場合、底板部と周壁部の双方を金属又は樹脂で構成することの他、底板部を金属とし、周壁部を樹脂としたり、逆に底板部を樹脂とし、周壁部を金属とすることが挙げられる。通常、ケースの底板部がリアクトルの設置対象である冷却ベースなどに取り付けられる。
【0052】
〔接合層〕
ケースを用いた場合、組合体10とケースの内底面(即ち、コイル素子2A,2Bの下面、および外側コア部32の下面)の間に接合層を設け、組合体10とケース内底面と接合させることが好ましい。
【0053】
接合層の具体例としては、コイル2とケース内底面との絶縁を確保するための絶縁シートと、その絶縁シート上に組合体10を接着するための接着シートとを備えるものが挙げられる。絶縁シートは接着剤などでケースの内底面に貼り付けられる。一方、接着シートは、その両面が粘着質で柔らかく、複雑な凹凸形状を有する組合体10を絶縁シートに強固に密着させる。
【0054】
絶縁シートには所定の耐電圧特性の他、コイル2で発生した熱を効果的にケース内底面に伝達できるように、優れた熱伝導性を有することが好ましい。例えば、熱伝導率は、0.1W/m・K以上、好ましくは0.15W/m・K以上、より好ましくは0.5W/m・K以上、さらに好ましくは1W/m・K以上、特に好ましくは2.0W/m・K以上である。
【0055】
上記絶縁シートの厚さは、ケース内底面と組合体10との間に要求される絶縁特性を満たすように、適宜選択することができる。この絶縁シートの厚さは、絶縁シートの材質に何を用いるかによって変化するが、概ね10μm以上とすれば十分である。例えば、絶縁シートの熱伝導率が高ければ(例えば、エポキシ樹脂の絶縁シート=0.7W/m・K)、絶縁シートは厚め(例えば、100〜300μm)として良いが、熱伝導率が低ければ(例えば、ポリイミド樹脂の絶縁シート=0.16W/m・K)、コイル2とケース内底面との間で絶縁を確保できる範囲で、絶縁シートを薄くする(例えば、10〜50μm)。
【0056】
一方、接着シートには、コイル2とケース内底面との間を十分に絶縁可能な程度の絶縁特性と、リアクトル1の使用時における最高到達温度に対して軟化しない程度の耐熱性が求められる。例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性の絶縁性樹脂が接着シートに好適に利用できる。この絶縁性樹脂には、上述したフィラーが含有されていても良い。それにより、接着シートの絶縁性および放熱性を向上させることができる。接着シートの熱伝導率は、0.1W/m・K以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15W/m・K以上、さらに好ましくは0.5W/m・K以上、特に好ましくは1W/m・K以上、最も好ましくは2.0W/m・K以上である。
【0057】
〔封止樹脂〕
ケースを用いた場合、ケースと組合体10との間には、必要に応じて封止樹脂(図示略)を充填し、硬化させることが好ましい。封止樹脂により、組合体を電気的・機械的に保護することができる。封止樹脂の具体的材質としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。上述した絶縁性及び熱伝導性に優れるフィラーを含有する樹脂を封止樹脂に利用すると、絶縁性及び放熱性を更に高められる。
【0058】
〔内側樹脂部〕
その他、コイル2を予め内側樹脂部(図示略)でモールドし、コイル2を保形したコイル成形体としておいても良い。このようなコイル成形体とすれば、コイル2が伸縮することもなく、コイル2のハンドリングが容易に行え、リアクトル1の製造性の向上に資することができる。内側樹脂部には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性の絶縁性樹脂が好適に利用できる。
【0059】
〔外側樹脂部〕
上記ケースと封止樹脂を用いる代わりに、組合体10の外周の少なくとも一部を外側樹脂部(図示略)で覆っても良い。外側樹脂部により組合体10を電気的・機械的に保護することができる。外側樹脂部には、内側樹脂部と同様の樹脂が好適に利用できる。外側樹脂部を用いる場合、冷却ベースに設置されるリアクトルの底面側は外側樹脂部で覆わず、コイル2や外側コア部32を露出させることが放熱上好ましい。
【0060】
〔用途〕
上記構成を備えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0061】
〔リアクトルの製造方法〕
上記のリアクトルは、コイル2、内側コア部31及び外側コア部32を用意し、それらを組み合わせることで製造されるが、そのうち、主として内側コア部31の製造方法を以下に説明する。この内側コア部31(コア部材)の製造方法は、磁性粉末と樹脂との複合材料を用意する準備工程と、成形型内の所定位置にギャップ31gを配置するギャップ配置工程と、ギャップ31gの配された成形型内に上記複合材料を充填し、硬化させる成形工程と、得られた成形体を成形型内から抜き出す脱型工程とを備える。
【0062】
まず、上述した磁性粉末と硬化前の樹脂とを用意し、これらを混合して複合材料とする。その際、磁性粉末と樹脂とが均一に混合されるようにする。必要に応じて、フィラーも合わせて混合する。
【0063】
一方、この複合材料が充填される成形型の所定位置に、ギャップ31gを位置決めしておく。本例では、成形型における直方体状のキャビティの両端部に対向するように一対のギャップ31gを配置しておく。ギャップ31gが配置された成形型内に上記複合材料を充填し、樹脂を硬化させて複合コア部31mを作製する。
【0064】
この成形は、代表的には、射出成形、注型成形により形成できる。射出成形は、磁性粉末と流動性のある状態の樹脂(液状の樹脂)とを混合し、この混合物(スラリー状混合物)を、所定の圧力をかけて、所定の形状の成形型に流し込んで成形した後、上記樹脂を硬化する。なお、使用する樹脂は一般に粘性を有している。注型成形は、射出成形と同様の混合物を得た後、この混合物を、圧力をかけることなく成形型に注入して成形・硬化する。このような樹脂の硬化により、ギャップ31gは複合コア部31mと一体化される。
【0065】
樹脂が硬化したら、成形型から成形体を脱型し、その成形体を内側コア部31とする。
【0066】
内側コア部31が作製できたら、予め用意しておいたコイル2の各コイル素子内に内側コア部31を配置し、さらに、これら内側コア部31の端面に外側コア部32を接着剤などで取り付けて、組合体10を構成する。
【0067】
得られた組合体10には、必要に応じて、ケースに収納したり、外側樹脂部を施したりする。
【0068】
〔作用効果〕
上記のリアクトルによれば、内側コア部31を複合材料で構成し、その複合材料に含まれる樹脂を硬化する際にギャップ31gも一体化させることで、複合コア部31mの製造に伴ってギャップ31gも適正位置に固定することができ、リアクトルの製造性を改善することができる。
【0069】
また、上記の内側コア部31を用いれば、ギャップ31gを有する磁性コア3を構成でき、磁気飽和し難いリアクトル1を容易に構築できる。
【0070】
[実施形態2]
次に、内側コア部を構成する樹脂をミラブル型シリコーンゴムとした実施形態2を説明する。本例のリアクトルは、複合材料に含まれる樹脂が異なる点を除き、他の構成は実施形態1と同様である。以下の説明は、実施形態1との相違点を中心に行う。
【0071】
〔構成〕
ミラブル型シリコーンゴムは、硬化後の伸び率100%以上の弾性を有するゴム(高分子ポリマー)であり、室温(25℃)でのヤング率が0.1〜50MPa程度である。この範囲を満たすことで、複合材料としての形状を保持しながら、振動吸収効果やクラック防止効果が得られる。これに対し、従来の複合材料に用いられている樹脂は、硬化後のヤング率が、エポキシ樹脂の場合、3.0〜30GPa程度であり、シリコーン樹脂の場合、0.1〜50MPa程度である。また、硬化後のミラブル型シリコーンゴムは、重合度3000〜10000の線状ポリマーを主成分とし、他方、従来の硬化後のシリコーン樹脂は、重合度100〜2000の線状ポリマーを主成分とする。
【0072】
複合材料は、磁性粉末と硬化前のミラブル型シリコーンゴムとを配合し、混練することにより得られる。また、鎖状高分子間を架橋して弾性や強度を向上させるために、硬化剤(加硫剤)を添加し、加熱することにより硬化させる。加硫剤としては、例えばパーオキサイド系の加硫剤を用いることができる。硬化温度は、通常、150〜200℃、硬化時間は、通常、5〜60分間である。ただし、加硫剤を添加した場合は、硬化後に低分子シロキサンがゴム成分内に残留することから、低分子シロキサンを除去するために、硬化後に熱処理を施すことが好ましい。低分子シロキサンは、接点障害の原因となることが知られており、複合材料に低分子シロキサンが残留していると、複合材料から低分子シロキサンが発生し、リアクトルの周囲に配置された電子部品などに接点障害などを生じさせる虞がある。そこで、複合材料の低分子シロキサン量を低減することで、低分子シロキサンの発生を抑制し、接点障害などの不具合を回避することができる。また、熱処理により、架橋を促進させることができ、強度をより高めることができる。
【0073】
ミラブル型シリコーンゴムを用いた複合コア部の比透磁率は、複合コア部に含まれる磁性粉末の含有量や材質を調整することで変えられる。複合コア部の比透磁率は、5以上50以下が好ましく、5以上35以下がさらに好ましく、10以上30以下が特に好ましい。複合コア部の飽和磁束密度は0.6T以上が好ましく、0.8T以上がさらに好ましく、1.0T以上が特に好ましい。
【0074】
〔製造方法〕
本例の複合材料を用いて内側コア部31を成形するには、例えば、成形型の所定の位置にギャップ31gを配置した状態で、磁性粉末とミラブル型シリコーンゴムとを混合した複合材料を充填し、上記ゴムを硬化させることでギャップ31gが一体化された内側コア部31を構成する。
【0075】
或いは、複合材料を成形型に充填して複合コア部31mの前駆体を成形しておいてもよい。この前駆体は、ミラブル型シリコーンゴムが硬化されていない。その成形方法には、コンプレッション成形、インジェクション成形、トランスファー成形や、押出成形なども利用することができる。上記前駆体は、後にギャップ31gが所定位置に配置された成形型内に配置され、硬化されることでギャップ31gが一体化されて内側コア部31を構成する。
【0076】
ミラブル型シリコーンゴムの硬化後の内側コア部31に対して、熱処理を施すことが好ましい。例えば、150℃以上220℃以下に加熱した状態で30分以上4時間以下に保持することが挙げられる。加熱温度を150℃以上及び保持時間を30分以上とすることで、複合材料に残存する低分子シロキサンを低減する効果が得られ易い。また、加熱温度を220℃以下とすることで、不必要な加熱を抑制できる。一方、製造効率の観点から、保持時間は4時間以下とすることが好ましい。
【0077】
〔作用効果〕
複合材料の樹脂がミラブル型シリコーンゴムであるため、硬化前では流動性が低く、従来用いられていた液状樹脂に比較して高い粘性を有しており、磁性粉末と上記樹脂(ゴム)とを混練した後に磁性粉末が沈降などし難く、複合材料中に磁性粉末を均一に分散させた状態を維持することができる。よって、設計値通りのインダクタンスを実現し易い。勿論、複合コア部とギャップとが一体化された内側コア部を構成できるため、リアクトルの製造性に優れる。また、複合材料における樹脂がゴムであり、硬化後であっても弾性を有し、軟らかいため、複合材料が振動を吸収して、振動による騒音を低減することができると共に、磁性粉末やギャップと樹脂との間で熱膨張係数差が生じても、樹脂が変形することにより、複合材料にクラックが生じることを防止できる。さらに、ミラブル型シリコーンゴムであれば、耐熱性が高く、高温でも劣化し難い。
【0078】
[実施形態3]
次に、外側コア部を磁性粉末と樹脂とを含む複合材料で構成した実施形態3を説明する。本発明のリアクトルは、外側コア部の材質が異なる点を除き、他の構成は実施形態1や2と同様である。以下の説明は、実施形態1や2との相違点を中心に説明する。
【0079】
〔構成〕
外側コア部の材質は、例えば、実施形態1の内側コア部と同様の複合材料(成形硬化体)とすることや、実施形態2の内側コア部と同様の磁性粉末とミラブル型シリコーンゴムとを含む複合材料とすることができる。
【0080】
外側コア部の材質は、内側コア部と異なる複合材料とすることもできる。例えば、磁性粉末の材質を両コア部で同じとする場合、複合材料に含まれる磁性粉末の含有量を変更することが挙げられる。また、磁性粉末の含有量を両コア部で同じとする場合、複合材料に含まれる磁性粉末の材質を変更することが挙げられる。このように、複合材料に含まれる磁性粉末の含有量や材質を変更することで、外側コア部の比透磁率を調整できる。具体的には、前者の場合、内側コア部よりも磁性粉末の含有量を高めることで、内側コア部よりも比透磁率の高い外側コア部とでき、内側コア部よりも磁性粉末の含有量を減らすことで、内側コア部よりも比透磁率の低い外側コア部とできる。一方、後者の場合、内側コア部よりも比透磁率の高い磁性粉末を用いることで、内側コア部よりも比透磁率の高い外側コア部とでき、内側コア部よりも比透磁率の低い磁性粉末を用いることで、内側コア部よりも比透磁率の低い外側コア部とできる。
【0081】
外側コア部を構成する複合材料の比透磁率は、5以上50以下が好ましく、5以上35以下がさらに好ましく、10以上30以下がさらに好ましい。複合材料の飽和磁束密度は、0.6T以上が好ましく、0.8T以上がさらに好ましく、1.0T以上が特に好ましい。そして、磁性コア全体の比透磁率は10以上50以下とすることが好ましく、10以上35以下が特に好ましい。
【0082】
[実施形態4]
次に、いわゆるポットコアタイプの磁性コアを備える実施形態4に係るリアクトルを説明する(図示略)。本例においても、実施形態1〜3との相違点を中心に説明する。
【0083】
〔構成〕
このリアクトルは、一つのコイルと、コイルの内側に配置される内側コア部と、コイルの外周に配置される外周コア部と、内側コア部と外周コア部の端面間をつなぐ連結コア部とを備える。このようなポットコアタイプのリアクトルは、例えば、特開2009-33051号公報に示されている。
【0084】
本例では、コイルの端面形状を円形とし、このコイル内に配置される丸棒状の内側コア部を実施形態1や2と同様の複合材料を用いて構成する。つまり、丸棒状の内側コア部は、磁性粉末と樹脂とを含む複合材料で構成された複合コア部と、その複合コア部の両端面に複合材料の樹脂で一体化されたギャップとを備える。一方、外周コア部は、コイルを収納する中空円筒体であり、連結コア部は、外周コア部とほぼ同径の円盤体である。これら外周コア部と連結コア部は、圧粉成形体で構成されている。
【0085】
〔作用効果〕
本例のポットコアタイプのリアクトルにおいても、内側コア部の作製過程で複合コア部とギャップとを一体化させることができ、製造性に優れたリアクトルを容易に構築できる。
【0086】
[実施形態5]
上記した本発明に係る実施形態1〜4のリアクトルは、例えば、車両などに搭載されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0087】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、図2に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを備える。なお、図2では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態であってもよい。
【0088】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0089】
コンバータ1110は、図3に示すように、複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET、IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態1〜4のリアクトルを備える。振動による騒音を低減することが可能なリアクトル1を備えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110は静粛性に優れる。
【0090】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150の中には、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態1〜3のリアクトルなどと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態1〜4のリアクトルなどを利用することもできる。
【0091】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。例えば、複合材料の配合(磁性粉末及び樹脂の含有量など)、磁性粉末の材質や粒径、コイル及び磁性コアの形状やサイズなどを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のリアクトルは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車といった車両に搭載されるDC-DCコンバータや空調機のコンバータといった電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 リアクトル
10 組合体
2 コイル 2A、2B コイル素子 2a、2b 端部 2r 連結部 2w 巻線
3 磁性コア
31 内側コア部 31m 複合コア部 31g ギャップ
32 外側コア部
5 インシュレータ 52 枠板部
1100 電力変換装置 1110 コンバータ 1111 スイッチング素子
1112 駆動回路 L リアクトル 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ 1160 補機電源用コンバータ
1200 車両 1210 メインバッテリ 1220 モータ 1230 サブバッテリ
1240 補機類 1250 車輪
図1
図2
図3