特許第6070937号(P6070937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070937てんぷ、時計用ムーブメント及び機械式時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070937
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】てんぷ、時計用ムーブメント及び機械式時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   G04B17/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-31415(P2013-31415)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2014-160037(P2014-160037A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】川内谷 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】新輪 隆
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 正洋
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 久
(72)【発明者】
【氏名】新家 学
【審査官】 藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】 スイス国特許発明第00381614(CH,A)
【文献】 米国特許第00510202(US,A)
【文献】 米国特許第02880570(US,A)
【文献】 スイス国特許発明第00705238(CH,A5)
【文献】 国際公開第2012/010410(WO,A1)
【文献】 実公昭29−004350(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06,18/00
G04C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸中心に回動するてん真と、
前記てん真に連結され、複数のガイド孔が形成されたてん輪と、
前記ガイド孔に沿って移動可能とされた錘部と、を備え、
前記ガイド孔は、前記てん真の回動軸の径方向に延びると共に、該回動軸回りに間隔をあけて配置され、
前記錘部は、前記てん輪の厚さ方向から、前記ガイド孔内に少なくとも一部分が収納された状態で、前記ガイド孔に沿って前記回動軸の径方向に移動可能に保持され
前記錘部及び前記ガイド孔のうちの少なくともいずれか一方には、前記錘部の移動に抵抗を付与する抵抗付与部が設けられ、
前記抵抗付与部は、前記錘部から前記ガイド孔の内壁面に向けて突出し、前記錘部を前記ガイド孔の内壁面に対して付勢する弾性体であることを特徴とするてんぷ。
【請求項2】
請求項に記載のてんぷにおいて、
前記錘部及び前記ガイド孔のうちの少なくともいずれか一方には、前記ガイド孔に対して前記てん輪の厚さ方向への前記錘部の位置を規制する規制部が設けられていることを特徴とするてんぷ。
【請求項3】
請求項に記載のてんぷにおいて、
前記規制部は、
前記ガイド孔の内壁面から前記厚さ方向に直交する方向に突出すると共に、前記ガイド孔に沿って形成された凸条部と、
前記錘部の外周面に、該錘部の移動方向に沿って凹み形成され、前記凸条部に対して係合する係合溝と、を備えていることを特徴とするてんぷ。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のてんぷにおいて、
前記ガイド孔は、前記回動軸の径方向に沿って直線状に延びていることを特徴とするてんぷ。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のてんぷにおいて、
前記ガイド孔は、湾曲しながら前記回動軸の径方向に延びていることを特徴とするてんぷ。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載のてんぷにおいて、
前記錘部は、前記ガイド孔の内部に全体が収納されていることを特徴とするてんぷ。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載のてんぷにおいて、
前記錘部は、第1錘部と、該第1錘部とは異なる質量の第2錘部と、を備えていることを特徴とするてんぷ。
【請求項8】
動力源を有する香箱車と、
前記香箱車の回転力を伝達する輪列と、
前記輪列の回転を制御する脱進機構と、
前記脱進機構を調速する請求項1に記載のてんぷと、を備えていることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項9】
請求項に記載の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんぷ、時計用ムーブメント及び機械式時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の調速機としては、一般的にてんぷ及びひげぜんまいで構成されている。このうちてんぷは、てん真の回転軸回りに周期的に正逆回転して振動する部材であり、その振動周期は予め決められた規定値内に設定されていることが重要とされている。仮に、振動周期が規定値からずれてしまうと、機械式時計の歩度(時計の遅れ、進みの度合い)が変化するためである。ところが、上記振動周期は各種の原因によって変化し易く、機械式時計を組み立てるにあたって、その調整作業が必要とされている。
ここで、上記振動周期Tは、次式(1)で表される。
【0003】
【数1】
【0004】
上記式(1)において、Iは「てんぷの慣性モーメント」、Kは「ひげぜんまいのばね定数」を示す。従って、てんぷの慣性モーメント、又はひげぜんまいのばね定数を調整することで、てんぷの振動周期を調整することが可能とされている。このうち、ひげぜんまいのばね定数を調整する方法として、例えば緩急針を利用してひげぜんまいの長さを変化させることで調整する方法が知られている。
【0005】
一方、てんぷの慣性モーメントを変化させることで振動周期を変化させ、それにより時計の歩度を調整する機構として、フリースプラングが知られている。
【0006】
このフリースプラングの1つとして、例えば図18に示すように、てん輪を構成する環状のリム部200に対して、錘となるチラねじ210及びマススクリュー211を周方向に間隔を開けて複数螺着させ、各マススクリュー211の捩じ込み量を調整する(径方向に出し入れさせる)方法が知られている。
また、マススクリュー211を用いず、図示しないワッシャを挟んでチラねじ210を取り付け、そのワッシャの枚数を変えることでチラねじ210の径方向の位置を変化させる方法も知られている。
さらに、図19に示すように、錘となるC型のリング部材220をリム部200の周方向に間隔を開けて複数取り付け、各リング部材220を回転させることで、その開口向きを変化させる方法が知られている。
上記した各方法は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0007】
上記した各方法によれば、マススクリュー211やチラねじ210の径方向の位置が変化、又はリング部材220の重心位置が変化するので、回転軸Oからの距離を変化させることができ、それにより慣性モーメントを調整することが可能になる。
【0008】
また、フリースプラングの1つとして、例えば図20に示すように、環状のリム部230A、及びてん真230Bとリム部230Aとを連結するアルキメデススパイラル形状のレール部230Cでてん輪230を構成し、てん真230Bに回転自在に取り付けられた回転針部240を回転させることで、回転針部240に取り付けられた2つの錘部250をレール部230Cに沿って移動させる方法も知られている(特許文献1参照)。
この方法によれば、レール部230Cに沿って2つの錘部250を同時に径方向に移動させることができるので、同様に回転軸Oからの距離を変化させることができ、それにより慣性モーメントを調整することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hans Jendritzki 著、「Watch Adjustment」、2006年再版(1970年初版)、p6〜p8
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2880570号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のマススクリュー、チラねじやリング部材を利用した慣性モーメントの調整方法では、マススクリュー、チラねじ、リング部材の調整作業に手間がかかり、該調整に時間がかかり易い。しかも、慣性モーメントの調整範囲が小さく、改善の余地があった。仮に、その調整範囲を大きくしようとした場合には、マススクリュー、チラねじ、リング部材を数多く設ける必要があり、作業性がさらに低下してしまう。
【0012】
一方、レール部に沿って2つの錘部を同時に移動させる方法では、錘部を径方向に大きく移動させることができるので、慣性モーメントの調整範囲を大きく確保し易い。しかしながら、レール部がアルキメデススパイラル形状に延在しているので、全長がどうしても長くなり、剛性が低下してしまう。そのため、例えば落下等による外部衝撃を受けた際にレール部が変形する可能性があった。
加えて、レール部、錘部及び回転針部が軸方向に重なる、いわゆる3層構造であるので、ひげぜんまいの設置スペースが削られ易かった。
【0013】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を行うことができると共に、一定の剛性を確保し、且つ軸方向の厚みを抑制してひげぜんまいの設置スペースへの影響を抑えることができるてんぷ、これを具備する時計用ムーブメント及び機械式時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係るてんぷは、軸中心に回動するてん真と、前記てん真に連結され、複数のガイド孔が形成されたてん輪と、前記ガイド孔に沿って移動可能とされた錘部と、を備え、前記ガイド孔は、前記てん真の回動軸の径方向に延びると共に、該回動軸回りに間隔をあけて配置され、前記錘部は、前記てん輪の厚さ方向から、前記ガイド孔内に少なくとも一部分が収納された状態で、前記ガイド孔に沿って前記回動軸の径方向に移動可能に保持され、前記錘部及び前記ガイド孔のうちの少なくともいずれか一方には、前記錘部の移動に抵抗を付与する抵抗付与部が設けられ、前記抵抗付与部は、前記錘部から前記ガイド孔の内壁面に向けて突出し、前記錘部を前記ガイド孔の内壁面に対して付勢する弾性体であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るてんぷによれば、ガイド孔に沿って錘部を移動させることで、錘部の位置をてん真の回動軸の径方向に変化させることができるので、回動軸からのてんぷ全体の重心位置までの距離を変化させることができる。これにより、てんぷの慣性モーメントを調整することができ、てんぷの振動周期を変化させて歩度の調整を行うことができる。
特に、ガイド孔が回動軸の径方向に延びる長尺な孔であるので、錘部をガイド孔に沿って径方向に大きく移動させることができ、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を行える。また、錘部を移動させるだけで済むので、慣性モーメントの調整作業を簡便に行える。さらに、錘部の位置を微調整することで、慣性モーメントを微細に調整することも可能である。
【0016】
また、従来のレール部に沿って錘部を移動させるものとは異なり、てん輪に形成されたガイド孔を利用するので、てん輪自体の剛性低下を招き難く、一定の剛性を確保できる。従って、外部衝撃等を受けたとしても、一度調整した慣性モーメントの調整量が変化し難く、高性能のてんぷとすることができる。
さらに、少なくとも錘部の一部分がてん輪の厚さ方向(回動軸の軸方向)からガイド孔内に収納されているので、てん輪及び錘部の全体の厚みを抑制できる。従って、ひげぜんまいの設置スペースに与える影響を抑制できる。
【0018】
また、錘部の移動に抵抗を付与できるので、錘部が不意に径方向に移動してしまうことを抑制でき、径方向への錘部の位置を規定し易い。従って、慣性モーメントの調整作業をより簡便且つ正確に行うことができると共に、一度調整した慣性モーメントが錘部の意図しない移動によって変更されてしまうことを防止できる。
【0020】
また、弾性体による付勢力を利用して、錘部をガイド孔の内壁面に対して押し付けることができるので、錘部とガイド孔の内壁面との間の摩擦抵抗を増加させることができる。これにより、錘部の移動に抵抗を付与することができる。
このように、錘部に弾性体を設けるだけの簡便な構成で、該錘部の移動に抵抗を付与できるので、構成の簡略化を図り易い。また、ガイド孔内における錘部のがたつきも抑制できるので、てんぷを良好なバランスで回動させることができる。
【0021】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記錘部及び前記ガイド孔のうちの少なくともいずれか一方には、前記ガイド孔に対して前記てん輪の厚さ方向への前記錘部の位置を規制する規制部が設けられていることが好ましい。
【0022】
この場合には、ガイド孔に沿った径方向への錘部の移動を許容しつつ、ガイド孔に対するてん輪の厚さ方向への錘部の位置を規制できるので、ガイド孔内からの錘部の抜けを防止できる。従って、錘部をガイド孔に沿って径方向に安定して移動させることができ、慣性モーメントの調整作業を行い易い。また、厚さ方向への錘部のがたつきも防止できるので、てんぷを良好なバランスで回動させることができる。
【0023】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記規制部は、前記ガイド孔の内壁面から前記厚さ方向に直交する方向に突出すると共に、前記ガイド孔に沿って形成された凸条部と、前記錘部の外周面に、該錘部の移動方向に沿って凹み形成され、前記凸条部に対して係合する係合溝と、を備えていることが好ましい。
【0024】
この場合には、ガイド孔側の凸条部と錘部側の係合溝との係合によって、ガイド孔に沿った径方向への錘部の移動を許容しつつ、ガイド孔に対するてん輪の厚さ方向への錘部の位置を確実に規制することができる。
【0025】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記ガイド孔は、前記回動軸の径方向に沿って直線状に延びていることが好ましい。
【0026】
この場合には、ガイド孔が径方向に沿って直線状に延びているので、錘部の位置を効率良く径方向に変化させることができ、慣性モーメントの調整作業を効率良く行い易い。
【0027】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記ガイド孔は、湾曲しながら前記回動軸の径方向に延びていることが好ましい。
【0028】
この場合には、ガイド孔が湾曲しながら、例えばアルキメデススパイラル等の螺旋状で湾曲しながら径方向に延びているので、ガイド孔に沿って錘部を移動させたとしても、径方向への移動量については小さくし易い。従って、錘部の移動距離あたりの慣性モーメントの変化量を抑制でき、より微細な慣性モーメントの調整作業を行うことができる。
【0029】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記錘部は、前記ガイド孔の内部に全体が収納されていることが好ましい。
【0030】
この場合には、錘部の全体がガイド孔の内部に完全に収納されているので、ひげぜんまいの設置スペースに与える影響をさらに抑制できる。また、錘部をガイド孔内に完全に収納できるので、てんぷの回動時における空気の粘性摩擦抵抗を抑制でき、回動性能を向上できる。
【0031】
)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記錘部は、第1錘部と、該第1錘部とは異なる質量の第2錘部と、を備えていることが好ましい。
【0032】
この場合には、重量の異なる第1錘部及び第2錘部を有しているので、例えば両錘部のうち、重い方の錘部を移動させることで慣性モーメントを最初に粗く(大きく)調整でき、その後、軽い方の錘部を移動させることで慣性モーメントを微細(小さく)に調整するといった使い分けを行える。従って、第1錘部及び第2錘部の使い分けを行うことで、より微細な慣性モーメントの調整作業を精度良く行うことができる。
【0033】
)本発明に係る時計用ムーブメントは、動力源を有する香箱車と、前記香箱車の回転力を伝達する輪列と、前記輪列の回転を制御する脱進機構と、前記脱進機構を調速する上記本発明に係るてんぷと、を備えていることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る時計用ムーブメントによれば、上述したように広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を容易且つ簡便に行うことができるてんぷを具備しているので、歩度の誤差が少ない高品質な時計用ムーブメントとすることができる。
【0035】
)本発明に係る機械式時計は、上記本発明に係る時計用ムーブメントを備えることを特徴とする。
【0036】
本発明に係る機械式時計によれば、上記した時計用ムーブメントを具備しているので、歩度の誤差の少ない高品質な機械式時計とすることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を容易且つ簡便に行うことができ、振動周期を狙い通りに変化させて、歩度の調整を容易且つ正確に行うことができる。また、一定の剛性を確保して品質を維持できるうえ、軸方向への厚みを抑制してひげぜんまいの設置スペースへの影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係る第1実施形態を示す図であって、機械式時計のムーブメントの構成図である。
図2図1に示すムーブメントを構成するてんぷの斜視図である。
図3図2に示すA−A断面図である。
図4図2に示すてんぷを構成するてん輪の斜視図である。
図5】本発明に係る第2実施形態を示す図であって、ガイド孔内に収納された錘部の周辺を示す拡大断面図である。
図6】第2実施形態の変形例を示す図であって、てん輪の斜視図である。
図7】本発明に係る第3実施形態を示す図であって、てん輪の斜視図(一部断面図)である。
図8図7に示す錘部の拡大斜視図である。
図9】本発明に係る第4実施形態を示す図であって、てん輪の斜視図(一部断面図)である。
図10図9に示す錘部周辺の拡大斜視図であって、蓋体及び錘部を取り外した状態を示す。
図11図9に示す錘部周辺の拡大斜視図である。
図12】第3実施形態の変形例を示す図であって、ガイド孔が形成された連結ブリッジの縦断面図である。
図13】本発明に係る第5実施形態を示す図であって、てん輪の斜視図(一部断面図)である。
図14図13に示す錘部周辺の拡大斜視図であって、錘部を組み立てる前の状態を示す。
図15図13に示す錘部周辺の拡大斜視図である。
図16】本発明に係る変形例を示す図であって、ガイド孔が湾曲しながら径方向に延びるように形成されたてん輪の斜視図である。
図17】本発明に係る変形例を示す図であって、重量の異なる錘部を有するてん輪の斜視図である。
図18】従来のてんぷの一例を示す平面図である。
図19】従来のてんぷの別の一例を示す平面図である。
図20】従来のてんぷのさらに別の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
〔機械式時計、時計用ムーブメント、てんぷの構成〕
図1に示すように、本実施形態の機械式時計1は、例えば腕時計であって、ムーブメント(時計用ムーブメント)10と、このムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
【0040】
(ムーブメントの構成)
このムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。この地板11の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント10の表側に組み込まれる輪列を表輪列28と称し、ムーブメント10の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
上記地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。この巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
【0041】
このような構成のもと、巻真12が、例えば回転軸方向に沿ってムーブメント10の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真12を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車17が回転する。そして、このきち車17が回転することにより、これと噛合う丸穴車20が回転する。そして、この丸穴車20が回転することにより、これと噛合う角穴車21が回転する。更に、この角穴車21が回転することにより、香箱車22に収容された図示しないぜんまい(動力源)を巻き上げる。
【0042】
ムーブメント10の表輪列28は、上記香箱車22の他に、二番車25、三番車26及び四番車27により構成されており、香箱車22の回転力を伝達する機能を果している。また、ムーブメント10の表側には、表輪列28の回転を制御するための脱進機構30及び調速機構31が配置されている。
【0043】
二番車25は、香箱車22に噛合う歯車とされている。三番車26は、二番車25に噛合う歯車とされている。四番車27は、三番車26に噛合う歯車とされている。
脱進機構30は、上記した表輪列28の回転を制御する機構であって、四番車27と噛み合うがんぎ車35と、このがんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル36と、を備えている。
調速機構31は、上記脱進機構30を調速する機構であって、てんぷ40を具備している。
【0044】
(てんぷの構成)
てんぷ40は、図2及び図3に示すように、軸線(回動軸)Oを中心に回動する(軸中心に回動する)てん真41と、てん真41に取り付けられ、複数のガイド孔50が形成されたてん輪42と、ガイド孔50に沿って移動可能とされた錘部51と、ひげぜんまい43(てんぷばね)と、を備え、ひげぜんまい43から伝えられた動力によって、軸線O回りに一定の振動周期で正逆回転させられる部材とされている。
【0045】
なお、本実施形態では、軸線Oに直交する方向を径方向、軸線Oを周回する方向を周方向、軸線Oに沿う方向を軸方向という。また、軸方向のうち、ひげぜんまい43側を上方、その反対方向を下方とする。
【0046】
てん真41は、軸線Oに沿って上下に延在した回転軸体であり、上端部及び下端部が上記したムーブメント10を構成する図示しない地板やてんぷ受等の部材によって軸支されている。てん真41における上下方向の略中間部分は、径が最も大きい大径部41aとされている。また、このてん真41には、大径部41aの下方に位置する部分に筒状の振り座45が軸線Oと同軸に外装されている。この振り座45は、径方向の外側に向けて突設された環状の鍔部45aを有しており、該鍔部45aに上記アンクル36を揺動させるための振り石46が固定されている。
【0047】
ひげぜんまい43は、例えば一平面内で渦巻状に巻かれた平ひげであって、ひげ玉47を介してその内端部がてん真41における大径部41aの上方に位置する部分に固定されている。そして、このひげぜんまい43は、四番車27からがんぎ車35に伝えられた動力を蓄え、上述したように該動力をてん輪42に伝える役割を果たしている。
【0048】
てん輪42は、図4に示すように、軸線Oと同軸に配置され、てん真41を径方向の外側から囲む環状のリム部55と、このリム部55とてん真41とを径方向に連結する連結部材56と、を備えている。
【0049】
連結部材56は、径方向に延在すると共に、周方向に間隔をあけて配置された4つの連結ブリッジ56Aを備えている。図示の例では、4つの連結ブリッジ56Aは、平面視十字状に配置されるように、軸線Oを中心として周方向に90度の間隔をあけて配置されている。これにより、各連結ブリッジ56Aは、それぞれ軸線Oを挟んで径方向の反対側に対向し合うように配置されている。
また、各連結ブリッジ56Aは、径方向外端部がそれぞれリム部55の内周部に対して一体に連結され、径方向内端部が互いに接続されて一体となっている。そして、各連結ブリッジ56Aの径方向内端部が接続されて一体となった部分には、軸線Oと同軸とされた軸孔57が形成されている。
【0050】
そして、てん輪42は、上記軸孔57を介しててん真41の大径部41aに例えば圧入等により固定されることで、てん真41に対して一体に取り付けられる(図3参照)。
【0051】
上記ガイド孔50は、てん輪42を構成する連結部材56の各連結ブリッジ56Aにそれぞれ形成されている。具体的には、ガイド孔50は、軸線Oの径方向に沿って直線状に延びるように形成されており、連結ブリッジ56Aにおける周方向の中心(幅方向中心)に位置している。
なお、図示の例では、ガイド孔50は、連結ブリッジ56Aにおいて径方向の中間部からリム部55との接続部分に至る領域に形成されているが、軸孔57に近い位置まで径方向の内側に向かって延びるように形成しても構わない。また、ガイド孔50は連結ブリッジ56Aを軸方向に貫通する貫通孔とされている。
【0052】
上記錘部51は、ガイド孔50の内部に全体が収納された状態で、ガイド孔50に沿って径方向に移動可能に保持されている。
図示の例では、錘部51は、径方向の長さL1がガイド孔50の長さの略1/3程度の長さとされ、横幅L2がガイド孔50の内壁面50aに圧接する程度の長さとされた、径方向に長い平面視長円状に形成されたブロック体とされている。なお、錘部51の厚みはてん輪42の厚みと同じ厚みとされている。
そして、このような形状とされた錘部51は、ガイド孔50内に例えば圧入によって押し込まれることで、ガイド孔50内に移動可能に保持されている。
【0053】
〔慣性モーメントの調整方法〕
次に、上記したてんぷ40を利用した慣性モーメントの調整方法について説明する。
この場合には、図2に示すように、軸線Oを挟んで径方向の反対側に位置し合っている錘部51を、それぞれガイド孔50に沿って同方向(径方向内側又は径方向外側)に同量、同時に移動させることで、錘部51の位置を径方向に同じように変化させることができるので、軸線Oからのてんぷ40全体の重心位置までの距離を変化させることができる。これにより、てんぷ40の慣性モーメントを調整することができ、てんぷ40の振動周期を変化させて歩度の調整を行うことができる。
【0054】
特に、ガイド孔50が径方向に沿って直線状に延びる長尺な孔であるので、錘部51をガイド孔50に沿って径方向に効率良く大きく移動させることができ、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を行える。また、錘部51を移動させるだけで済むので、慣性モーメントの調整作業を簡便に行える。さらに、錘部51の位置を微調整することで、慣性モーメントを微細に調整することも可能である。
【0055】
また、従来のレール部に沿って錘部を移動させるものとは異なり、てん輪42における連結ブリッジ56Aに形成されたガイド孔50を利用している。そのため、4つの連結ブリッジ56A及び環状のリム部55によって、てん輪42自体の剛性を確保することができ、ガイド孔50を形成したとしても、てん輪42の過度な剛性低下を招き難く、一定の剛性を確保できる。従って、例えば落下等により外部衝撃を受けたとしても、一度調整した慣性モーメントの調整量が変化し難く、高性能のてんぷ40とすることができる。
【0056】
なお、上記したように、てん輪42の剛性を確保できるので、例えば脆性材料であるシリコン等のセラミックス材料でてん輪42を形成したとしても、必要な剛性を確保し易い。よって、半導体製造技術(フォトリソグラフィ技術や、エッチング加工技術等)を利用して、より効率良く且つ微細にてん輪42を製造できるうえ、軽量化を図ることが可能となる。
【0057】
さらに、錘部51がガイド孔50内に完全に収納されているので、錘部51の厚みをてん輪42の厚みで吸収してあたかもなくすことができるので、てん輪42だけの厚みで済む。従って、ひげぜんまい43の設置スペースに与える影響を抑制することができる。加えて、錘部51をガイド孔50内に収納できるので、てんぷ40の回動時における空気の粘性摩擦抵抗を抑制でき、回動性能を高めることができる。
【0058】
また、本実施形態のムーブメント10によれば、上述したように、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を容易且つ簡便に行うことができる、てんぷ40を具備しているので、歩度の誤差が少ない高品質なムーブメントとすることができる。
さらに、このムーブメント10を具備する本実施形態の機械式時計1によれば、同様に歩度の誤差の少ない高品質な時計となる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、ガイド孔50内に錘部51が収納されていただけであったが、第2実施形態では錘部51の移動に抵抗を付与している。
【0060】
(てんぷの構成)
図5に示すように、本実施形態のてんぷ60は、錘部51に、該錘部51の移動に抵抗を付与する抵抗付与部61が設けられている。
具体的には、錘部51からガイド孔50の一方の内壁面50aに向けて突出し、この突出方向とは周方向の反対に位置する錘部51の外周面をガイド孔50の他方の内壁面50aに対して押し付けるように、錘部51を付勢する板ばね(弾性体)62が、錘部51に一体に設けられている。
【0061】
図示の例では、板ばね62は、平面視円弧状に形成されており、錘部51に連結されている基端部62aと自由端である先端部62bとの間の中間部62cが、ガイド孔50の一方の内壁面50aに対して接触して、付勢力(ばね力)を与えている。よって、この板ばね62が上記抵抗付与部61として機能する。
【0062】
(作用効果)
このように構成された本実施形態のてんぷ60によれば、板ばね62による付勢力(ばね力)を利用して、錘部51をガイド孔50の内壁面50aに対して押し付けることができるので、錘部51とガイド孔50の内壁面50aとの間の摩擦抵抗を増加させることができる。これにより、錘部51の移動に抵抗を付与することができる。
従って、錘部51が不意に径方向に移動してしまうことを抑制でき、径方向への錘部51の位置を規定し易い。よって、慣性モーメントの調整作業をより簡便且つ正確に行うことができると共に、一度調整した慣性モーメントが錘部51の意図しない移動によって変更されてしまうことを防止できる。
【0063】
また、錘部51に板ばね62を設けるだけの簡便な構成で、該錘部51の移動に抵抗を付与できるので、構成の簡略化を図り易い。また、ガイド孔50内における錘部51のがたつきも抑制できるので、てんぷ60を良好なバランスで回動させることができる。
なお、弾性体としては、板ばね62に限定されるものではなく、例えば軟質ゴムやスポンジ等の弾性ブロック等を採用しても良い。
【0064】
(変形例)
なお、上記第2実施形態では、抵抗付与部61の一例として、錘部51に設けた板ばね62を利用した場合を例に挙げて説明したが、錘部51に設ける場合に限定されるものではなく、ガイド孔50側に抵抗付与部を設けても構わない。
【0065】
例えば、図6に示すてんぷ70では、各連結ブリッジ56Aに、ガイド孔50に沿って径方向に延びる2つのスリット孔71が形成されている。これらスリット孔71は、ガイド孔50の周方向の両側に位置するように形成され、且つガイド孔50から周方向に僅かに離間した位置に形成されている。これにより、スリット孔71とガイド孔50との間に、ばね性を有する板ばね状の弾性壁部72を形成することが可能である。
【0066】
そして、この弾性壁部72を利用して、ガイド孔50の内壁面50aを錘部51の外周面に押し付けることができ、錘部51を周方向の両側から挟み込んで、該錘部51の移動に抵抗を付与することができる。
従って、この場合であっても、弾性壁部72を抵抗付与部73として機能させることができ、板ばね62を利用した場合と同様の作用効果を奏功することができる。
また、この弾性壁部72と、先に説明した板ばね62とを組み合わせても構わない。
【0067】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態では、錘部51の移動に抵抗を付与したが、第3実施形態では、軸方向への錘部51の位置をさらに規制している。
【0068】
(てんぷの構成)
図7及び図8に示すように、本実施形態のてんぷ80は、ガイド孔50に対して軸方向への錘部51の位置を規制する規制部81が設けられている。具体的には、この規制部81は、ガイド孔50側に設けられた凸条部82と、錘部51側に設けられた係合溝83と、で構成され、凸条部82と係合溝83との係合によって上記規制を行っている。
【0069】
凸条部82は、ガイド孔50の内壁面50aから、ガイド孔50の内側に向けて突出(軸方向に直交する周方向に向けて突出)すると共に、ガイド孔50に沿って径方向に延びている。なお、凸条部82は、縦断面視V字状に突出するように形成されている。
一方、錘部51には、板ばね62が設けられた側とは周方向の反対側の外周面に、該錘部51の移動方向に沿って凹み形成され、上記凸条部82に対して係合する係合溝83が形成されている。図示の例では、係合溝83は、凸条部82の形状に対応して縦断面視V字状に凹み形成されている。
【0070】
(作用効果)
このように構成された本実施形態のてんぷ80によれば、第2実施形態で説明した作用効果を奏功することができることに加え、ガイド孔50側の凸条部82と錘部51側の係合溝83との係合によって、ガイド孔50に沿った径方向への錘部51の移動を許容しつつ、ガイド孔50に対する軸方向のいずれの方向(上方及び下方)に対しても錘部51の位置を規制できるので、ガイド孔50内からの錘部51の脱落(落下)や飛び出し等を防止できる。
従って、錘部51をガイド孔50に沿って径方向に安定して移動させることができ、慣性モーメントの調整作業を行い易い。また、軸方向への錘部51のがたつきも防止できるので、てんぷ80をさらに良好なバランスで回動させることができる。
【0071】
<第4実施形態>
次に、本発明に係る第4実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第4実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態では、錘部51の移動に抵抗を付与したが、第4実施形態では、軸方向への錘部51の位置をさらに規制している。
なお、第3実施形態においても、軸方向への錘部51の位置を規制した一例を示したが、第3実施形態ではガイド孔50側の凸条部82と錘部51側の係合溝83とで規制部81を構成したのに対し、第4実施形態ではガイド孔50側だけに規制部を設けている。
【0072】
図9図11に示すように、本実施形態のてんぷ90は、ガイド孔50を下方側から閉塞する底壁部91が連結ブリッジ56Aに一体に形成されている。これにより、本実施形態のガイド孔50は、上方に開口した径方向に長い、平面視長円状の溝部とされている。従って、ガイド孔50内に収納された錘部51は、底壁部91によって下方から安定に支持されながら、径方向に移動自在とされる。
【0073】
さらに、各連結ブリッジ56Aの上面には、ガイド孔50の開口に沿って凹み形成された環状の段差部92が形成されている。そして、ガイド孔50を上方から覆う蓋体93が、段差部92に例えば嵌合固定等によって各連結ブリッジ56Aに取り付けられている。これにより、ガイド孔50内に収納された錘部51は、底壁部91及び蓋体93との間に挟まれた状態となり、軸方向のいずれの方向(上方及び下方)に対しても移動が規制されている。つまり、ガイド孔50内からの錘部51の脱落(落下)及び飛び出しを防止している。
従って、本実施形態では、底壁部91及び蓋体93が上記規制部94として機能する。
【0074】
なお、蓋体93は、段差部92の形状に対応した径方向に長い平面視長円状に形成されており、径方向に沿って延びたスリット状の調整窓93aが形成されている。そして、錘部51には、この調整窓93aに対応した位置に調整穴51aが形成されており、調整窓93aを通じて上方に露出している。これにより、蓋体93を取り外すことなく、図示しない治具を介して調整穴51aを通じて錘部51を径方向に移動させることが可能とされている。
【0075】
(作用効果)
このように構成された本実施形態のてんぷ90であっても、ガイド孔50に沿った径方向への錘部51の移動を許容しつつ、ガイド孔50に対する軸方向への錘部51の位置を規制できるので、第3実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0076】
(変形例)
なお、上記第4実施形態では、ガイド孔50内からの錘部51の脱落を底壁部91で防止し、ガイド孔50内からの飛び出しを蓋体93で防止した構成としたが、蓋体93は必須なものではない。例えば、図12に示すように、蓋体93を備えず、底壁部91だけを備える構成としても構わない。この場合であっても、ガイド孔50内の錘部51の脱落を防止でき、軸方向への錘部51の位置を規制することができる。従って、この場合には、
底壁部91が規制部95として機能する。
【0077】
<第5実施形態>
次に、本発明に係る第5実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第5実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、ガイド孔50内に錘部51が収納されていただけであったが、第5実施形態では、錘部51の移動に抵抗を付与しつつ、さらに軸方向への錘部51の移動を規制している。
【0078】
図13図15に示すように、本実施形態のてんぷ100は、ガイド孔50の内壁面50aに、周方向に向かい合った状態でガイド孔50に沿って径方向に延びる一対の凸条壁101が、ガイド孔50の内側に向けて(軸方向に直交する周方向に向けて)突出して形成されている。よって、これら一対の凸条壁101の間には、径方向に長い第2のガイド孔102が画成されている。
【0079】
一方、本実施形態の錘部51は、下方側錘部51Aと、この下方側錘部51Aに対して軸方向に分離可能に連結される上方側錘部51Bと、で構成される。
【0080】
下方側錘部51Aは、連結ブリッジ56Aの下方側からガイド孔50内に収納可能な円板部104と、この円板部104から上方に向けて突設され、第2のガイド孔102内に下方側から挿入可能な突起部105と、を備える。突起部105は、径方向に長い平面視長円状に形成されており、外周面が凸条壁101内壁面101aに接触するので、第2のガイド孔102内において回転が規制されている。従って、下方側錘部51Aは、突起部105と内壁面101aとの接触によって回り止めがなされる。
また、突起部105には上方に開口するねじ孔105aが上端面の中心に形成されている。
【0081】
上方側錘部51Bは、連結ブリッジ56Aの上方側からガイド孔50内に収納可能な円板部106と、この円板部106から下方に向けて突設され、上記ねじ孔105aに螺合するねじ軸107と、を備える。
従って、上方側錘部51Bのねじ軸107を下方側錘部51Aのねじ孔105aに螺合させることで、一対の凸条壁101を上下から挟み込むように、上方側錘部51B及び下方側錘部51Aを互いに組み合わせることができる。特に、下方側錘部51Aは上記したように回り止めがなされているので、上方側錘部51B及び下方側錘部51Aを容易に組み合わせることができる。
なお、上方側錘部51Bにおける円板部106の上面には、上記螺合作業を容易に行うための回転用溝部106aが形成されている。
【0082】
(作用効果)
このように構成された本実施形態のてんぷ100によれば、下方側錘部51Aに対する上方側錘部51Bの捩じ込み量を調整することで、一対の凸条壁101を挟み込む締め付け力を調整できるので、一対の凸条壁101と錘部51との摩擦抵抗を増加させることができる。これにより、錘部51の移動に抵抗を付与することができる。従って、錘部51が不意に径方向に移動してしまうことを抑制でき、径方向への錘部51の位置を規定し易い。
特に、本実施形態の場合には、一対の凸条壁101を強固に挟み込むことで、径方向への錘部51の移動を規制でき、径方向への錘部51の位置を任意の位置で位置決めすることも可能である。
【0083】
さらに、下方側錘部51A及び上方側錘部51Bからなる錘部51は、一対の凸条壁101を挟み込んでいるので、軸方向のいずれの方向(上方及び下方)に対しても錘部51の移動を規制できる。従って、ガイド孔50内からの錘部51の脱落(落下)及び飛び出しを防止することもできる。
【0084】
上述したように、本実施形態では、一対の凸条壁101、下方側錘部51A及び上方側錘部51Bが、錘部51の移動に抵抗を付与する抵抗付与部として機能し、且つ軸方向に錘部51の位置を規制する規制部としても機能する。
【0085】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0086】
例えば、上記各実施形態では、ガイド孔50内に錘部51の全体を収納させたが、この場合に限定されるものではない。少なくとも、てん輪42の厚さ方向である軸方向から、ガイド孔50内に錘部51の一部分が収納されていれば良い。この場合であっても、てん輪42及び錘部51の全体の厚みを抑制できるので、ひげぜんまい43の設置スペースに影響を与え難い。
なお、この場合には、錘部51をひげぜんまい43が設置される側とは、てん輪42の反対方向から取り付けることが好ましい。
【0087】
また、各実施形態では、ガイド孔50を径方向に沿って直線状に形成したが、この場合に限定されるものではなく、径方向に延びていればその形状は自由に設計して構わない。
例えば、図16に示すように、円弧状に湾曲しながら径方向に延びたガイド孔110としても構わない。
【0088】
なお、この場合のてん輪120は1枚の円板部材で構成されている。
つまり、本発明に係るてん輪は、各実施形態で示した環状のリム部55と、複数の連結ブリッジ56Aを有する連結部材56と、から構成されるものに限定されるものではなく、上記のように1枚の円板部材から構成されるものであっても良い。いずれにしても、てん真41に一体に連結され、てん真41と共に軸線O回りを回動可能とされていれば良く、その形状は適宜変更して構わない。
【0089】
このように、ガイド孔110を湾曲させながら径方向に延ばすことで、ガイド孔110に沿って錘部51を移動させたとしても、径方向への移動量については小さくし易い。従って、錘部51の移動距離あたりの慣性モーメントの変化量を抑制でき、より微細な慣性モーメントの調整作業を行うことができる。
なお、ガイド孔110を湾曲させる場合には、円弧状に限られず、例えばアルキメデススパイラル状等の螺旋状で湾曲させても構わない。
【0090】
また、上記各実施形態では、錘部51を1種類としたが、重量の異なる錘部を複数利用しても構わない。
例えば、図17に示すように、第1錘部130と、この第1錘部130よりも軽い第2錘部131で錘部51を構成しても構わない。このようにすることで、例えば第1錘部130を移動させることで、慣性モーメントを最初に粗く(大きく)調整でき、その後、軽い第2錘部131を移動させることで、慣性モーメントを微細(小さく)に調整するといった使い分けを行える。
このように、第1錘部130及び第2錘部131の使い分けを行うことで、より微細な慣性モーメントの調整作業を精度良く行うことが可能である。
【符号の説明】
【0091】
O…軸線(回動軸)
1…機械式時計
10…ムーブメント(時計用ムーブメント)
22…香箱車
28…表輪列(輪列)
30…脱進機構
40、60、70、80、90、100…てんぷ
41…てん真
42、120…てん輪
50、110…ガイド孔
50a…ガイド孔の内壁面
51…錘部
61、73…抵抗付与部
62…板ばね(弾性体)
81、94、95…規制部
82…凸条部
83…係合溝
130…第1錘部
131…第2錘部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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図19
図20