特許第6070983号(P6070983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6070983-内燃機関の制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070983
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   F02D45/00 362G
   F02D45/00 362B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-232541(P2012-232541)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-84749(P2014-84749A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】友定 仁
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−003902(JP,A)
【文献】 特開平03−003945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの回転角を所定角度単位で検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号と、カムシャフトが一回転する間に少なくとも一回カム角センサから出力されるカム角信号とを参照して内燃機関を制御する制御装置において、
クランク角信号を受信できない場合に、
カム角信号ラインを介して受信した今回の信号と、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号との間の経過時間を求め、
なおかつ、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号と、前々回の正規のカム角信号との間の経過時間を求めて、
前者の経過時間と後者の経過時間との比を、正規のカム角信号列を基に推測される機関の回転速度の高低に応じて設定される判定値と比較することにより、今回の信号が正規のカム角信号であるかノイズであるかを判別するものであり、
また、カム角信号ラインを介して信号を受信した直後から開始されるマスク期間にあっては、当該信号とマスク閾値とを比較し、当該信号の大きさがマスク閾値未満であるときには当該信号を無視することとし、そのマスク期間の長さが内燃機関の回転速度が低い場合の方が長くなる
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を備える4ストローク内燃機関では、各気筒が現在どの行程にあるのかを知得して、燃料噴射制御及び点火制御を実施する必要がある。
【0003】
内燃機関のクランクシャフトには、その回転角度及びエンジン回転数を検出するためのクランク角センサが付設されている。クランク角センサは、クランクシャフトに固定されたロータの回転を、例えば10°CA(クランク角度)毎にセンシングする。
【0004】
各気筒の吸気バルブまたは排気バルブを開閉駆動するカムシャフトにも、カム角センサが付設されている。カム角センサは、カムシャフトに固定されたロータの回転を、例えば一回転を気筒数で割った角度、三気筒エンジンであれば120°(クランク角度に換算すれば、240°CA)毎にセンシングする。
【0005】
内燃機関の運転制御を司るECU(Electronic Control Unit)は、クランク角信号及びカム角信号を受信し、両信号を参照して各気筒の行程を把握、気筒における燃料噴射タイミングや点火タイミングを決定する(以上、下記特許文献1を参照)。
【0006】
ところで、極めて稀ではあるが、クランク角センサとECUとの間の伝送路が断線し、あるいはセンサ自体が故障して、ECUがクランク角信号を受信できなくなることがある。そのような場合のフェイルセーフとして、ECUには予め、カム角信号のみに基づいて内燃機関の運転を維持する機能が備わっている(下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−207394号公報
【特許文献2】特開2001−234795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ECUがカム角信号を受信する信号ラインには、時としてノイズが乗る。クランク角信号を受信できる状況では、カム角信号ラインを介して受信されるパルスが正規のカム角信号であるのかノイズであるのかを判別することは比較的容易である。しかしながら、クランク角信号が不在である場合、本来であればありえないタイミングで受信されたノイズであったとしても、正規のカム角信号と誤認する可能性が高まる。
【0009】
本発明は、正規のカム角信号とノイズとを精度良く判別できるようにすることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、クランクシャフトの回転角を所定角度単位で検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号と、カムシャフトが一回転する間に少なくとも一回カム角センサから出力されるカム角信号とを参照して内燃機関を制御する制御装置において、クランク角信号を受信できない場合に、カム角信号ラインを介して受信した今回の信号と、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号との間の経過時間を求め、なおかつ、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号と、前々回の正規のカム角信号との間の経過時間を求めて、前者の経過時間と後者の経過時間との比を、正規のカム角信号列を基に推測される機関の回転速度の高低に応じて設定される判定値と比較することにより、今回の信号が正規のカム角信号であるかノイズであるかを判別するものであり、また、カム角信号ラインを介して信号を受信した直後から開始されるマスク期間にあっては、当該信号とマスク閾値とを比較し、当該信号の大きさがマスク閾値未満であるときには当該信号を無視することとし、そのマスク期間の長さが内燃機関の回転速度が低い場合の方が長くなることを特徴とする内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正規のカム角信号とノイズとを精度良く判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関の全体構成を示す図。
図2】同実施形態の内燃機関の制御装置が実行するカム角信号の判別処理の内容を説明する図。
図3】同実施形態の内燃機関の制御装置が実行するカム角信号のノイズ除去処理の内容を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0014】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0015】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0016】
本実施形態の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0017】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ(または、シフトポジションスイッチ)から出力されるシフトレンジ信号h等が入力される。
【0018】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k等を出力する。
【0019】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミングといった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、kを出力インタフェースを介して印加する。
【0020】
カム角信号gに関して補足する。カム角センサは、カムシャフトに固定されカムシャフトと一体となって回転するロータの回転角度をセンシングするものである。そのロータには、カムシャフトの一回転を気筒数で割った角度毎に、歯または突起が形成されている。三気筒エンジンであれば、歯または突起が120°(クランク角度に換算すれば、240°CA)毎に配置される。カム角センサは、ロータの外周に臨み、個々の歯または突起が当該センサの近傍を通過することを検知して、その都度カム角信号gとしてパルス信号を発信する。ECU0は、カム角信号ラインを介してカム角センサと接続しており、このカム角信号ラインを通じてカム角信号gたるパルスを受信する。
【0021】
カム角信号gは、何れかの気筒1が所定の行程に至ったことを表す信号である。例えば、吸気カムシャフトにカム角センサが付随しており、そのカム角センサが出力する信号gは各気筒1における吸気行程の開始を示唆している、というようにである。加えて、いわゆる位相変化型の可変バルブタイミング機構が付随している内燃機関にあっては、カム角信号gが当該機構により調節されるバルブタイミングをも表す。
【0022】
通常、ECU0は、クランク角信号b及びカム角信号gの双方を参照して各気筒1の現在の行程を知得し、各気筒1で適切な燃料噴射タイミングにて燃料を噴射し、また適切な点火タイミングにて混合気への点火を行う。
【0023】
しかし、ECU0がクランク角信号bを受信できなくなった場合には、カム角信号gのみを以て各気筒1の現在の行程を知得し、燃料噴射タイミング及び点火タイミングを決定する必要がある。その際、カム角信号ラインを介して受信されるパルス信号が、正規のカム角信号gであるのか、ノイズであるのかを精確に判別することが極めて重要となる。
【0024】
図2は、本実施形態のECU0が実行する、カム角信号gとノイズとを判別する手法を説明する図である。ECU0は、カム角信号ラインを介して受信された信号Giが正規のカム角信号gであるかノイズであるか判別するにあたり、今回の信号Giと、カム角信号ラインを介して受信され正規のカム角信号であると判別された前回のカム角信号Gi-1との間の経過時間Tiを計測する。並びに、ECU0は、前回のカム角信号Gi-1と、カム角信号ラインを介して受信され正規のカム角信号であると判別された前々回のカム角信号Gi-2との間の経過時間Ti-1を計測する。
【0025】
そして、ECU0は、両経過時間の比Ti/Ti-1を算出し、この比Ti/Ti-1を判定値と比較する。比Ti/Ti-1が判定値よりも大きいならば、今回受信された信号Giが正規のカム角信号であるとの判断を下す。逆に、比Ti/Ti-1が判定値以下であるならば、今回受信された信号Giは正規のカム角信号ではなくノイズであるとの判断を下す。
【0026】
上記の判定値は、現在の内燃機関(のクランクシャフトまたはカムシャフト)の回転速度の高低に応じて設定する。判定値は、機関の回転速度が低い(遅い)ほど大きく、高い(速い)ほど小さい値とする。ECUは、少なくとも、前回の正規のカム角信号Gi-1と前々回の正規のカム角信号Gi-2との間の経過時間Ti-1を参照して、現在の機関の回転速度を推測する。そして、推測された回転速度に対応した判定値を求め、上記の比Ti/Ti-1と比較する。例えば、ECU0のメモリに予め、機関の回転速度と判定値との関係を規定したマップデータを格納しておき、推測された回転速度をキーとして当該マップを検索することで、比Ti/Ti-1と比較するべき判定値を知得する。
【0027】
現在の機関の回転速度の推測では、前々回の正規のカム角信号Gi-2と前々々回の正規のカム角信号Gi-3との間の経過時間Ti-2や、さらに過去の正規のカム角信号g間の経過時間を参照してもよい。さすれば、機関の回転速度の加速傾向または減速傾向をも加味した上で現在の回転速度を推測することが可能となる。
【0028】
信号Giがノイズであると判別された場合において、その次にカム角信号ラインを介して受信される信号Gi+1が正規のカム角信号gであるかノイズであるかを判別するためには、今回の信号Gi+1と前回の正規のカム角信号Gi-1との間の経過時間Ti+1を計測し、この経過時間Ti+1と先の経過時間Ti-1との比Ti+1/Ti-1を算出する。しかして、この比Ti+1/Ti-1を、推測された機関の回転速度の高低に応じた判定値と比較する。比Ti+1/Ti-1が判定値よりも大きければ信号Gi+1は正規のカム角信号であり、判定値以下であれば信号Gi+1はノイズであると判断する。
【0029】
因みに、上記の判定値は、カム角信号ラインを介して受信される信号からノイズを除去するためのマスク期間の長さでもある。図3は、ECU0が実行する、カム角信号gに重畳するノイズを除去するためのマスク処理の手法を説明する図である。図3中、実線は正規のカム角信号gの波形である。また、破線は機関の回転速度が比較的高い場合におけるマスク閾値の推移を表し、鎖線は機関の回転速度が比較的低い場合におけるマスク閾値の推移を表している。ECU0は、正規のカム角信号gのパルスが受信されると思しきタイミングt0の直後から、ノイズのマスクを開始する。即ち、カム角信号ラインを介して受信される信号の大きさがマスク閾値未満であるとき、その信号をノイズとして無視することで、正規のカム角信号gのみを抽出する。
【0030】
マスク閾値は、上記の基準タイミングt0から時間が経過するに従って逓減し、最終的に0となる。図3に示しているように、機関の回転速度が低い場合のマスク閾値は、機関の回転速度が高い場合のそれと比較して、基準タイミングt0における値の大きさが小さい。その一方で、マスク閾値の減衰の速さは、機関の回転速度が低い場合の方が遅い。故に、マスク期間、即ち基準タイミングt0からマスク閾値が0となるまでの期間もまた、機関の回転速度が低い場合の方が長くなる。
【0031】
本実施形態では、クランクシャフトの回転角を所定角度単位で検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号bと、カムシャフトが一回転する間に少なくとも一回カム角センサから出力されるカム角信号gとを参照して内燃機関を制御する制御装置0において、クランク角信号bを受信できない場合に、カム角信号ラインを介して受信した今回の信号Giと、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号Gi-1との間の経過時間Tiを求め、なおかつ、同ラインを介して受信した前回の正規のカム角信号Gi-1と、前々回の正規のカム角信号Gi-2との間の経過時間Ti-1を求めて、前者の経過時間Tiと後者の経過時間Ti-1との比Ti/Ti-1を、正規のカム角信号g列を基に推測される機関の回転速度の高低に応じて設定される判定値と比較することにより、今回の信号Giが正規のカム角信号gであるかノイズであるかを判別することを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0032】
本実施形態によれば、クランク角信号bが不在であったとしても、正規のカム角信号gとノイズとの判別を精度良く行うことが可能となる。ひいては、クランク角信号bを受信できない状況におけるフェイルセーフの信頼性が増す。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
0…制御装置(ECU)
b…クランク角信号
g…カム角信号
図1
図2
図3