特許第6071083号(P6071083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6071083安定性が改善された、アリピプラゾールを含有する散剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071083
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】安定性が改善された、アリピプラゾールを含有する散剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20170123BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170123BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20170123BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   A61K31/496
   A61K47/02
   A61K9/14
   A61P25/18
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-119780(P2015-119780)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2001(P2017-2001A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593030071
【氏名又は名称】大原薬品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東郷 太一郎
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−129343(JP,A)
【文献】 特開2014−080305(JP,A)
【文献】 特開2003−212852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリピプラゾール及びpH8以上の塩基性流動化剤を含有し、散剤全重量に対して塩基性流動化剤が0.05〜5.0重量%含有され、塩基性流動化剤がケイ酸カルシウム又はタルクである、散剤。
【請求項2】
散剤全重量に対して塩基性流動化剤が0.1〜2.0重量%含有される、請求項1に記載の散剤。
【請求項3】
さらに結合剤を散剤全重量に対して0.1〜5.0重量%含有し、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、可溶性デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポビドン、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレングリコールより選ばれる、請求項1又は2に記載の散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原薬としてアリピプラゾール(日本医薬品一般名称)を含有する散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アリピプラゾールはドパミンD2 受容体部分アゴニスト作用、ドパミンD3 受容体部分アゴニスト作用、セロトニン5-HT1A 受容体部分アゴニスト作用及びセロトニン5-HT2A 受容体アンタゴニスト作用を併せ持つ薬剤である(非特許文献1参照)。アリピプラゾールと薬理学的に関連する化合物又は化合物群としては、ハロペリドール、リスペリドン、モサプラミン塩酸塩、ゾテピン、クロルプロマジン塩酸塩、オランザピン、クエチアピンフマル酸塩、ペロスピロン塩酸塩、ブロナンセリン、クロザピン等が挙げられる。
【0003】
アリピプラゾールは錠剤、散剤、内用液等の形態で医療現場に上記の治療薬として提供されている。アリピプラゾールを含有する散剤に関しては、流動化剤である軽質無水ケイ酸を含有する処方が非特許文献1で記載されている。流動化剤は、粉体の流動性改善、湿度による固結防止等のために、一般的に用いられる医薬添加剤である。
【0004】
アリピプラゾールを含有する散剤の化学的な安定性向上に関しては、特許文献1に過酸化物含有量の低いクロスポピドンを使用する技術が紹介されている。しかしながら、記載された技術だけで流動化剤を含有する散剤中のアリピプラゾールの安定性を十分問題がないレベルまで改善できるかどうかは不明であり、本発明者はそのアリピプラゾールの安定性を改善する新たな技術の開発が必要であると考えた。そこで本発明者は、前記の課題を解決するため、アリピプラゾールを含有する散剤の処方及び製造方法に関する検討を開始した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP2666464号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】医薬品インタビューフォーム「エビリファイ(登録商標)錠3mg、エビリファイ(登録商標)錠6mg、エビリファイ(登録商標)錠12mg、エビリファイ(登録商標)OD錠3mg、エビリファイ(登録商標)OD錠6mg、エビリファイ(登録商標)OD錠12mg、エビリファイ(登録商標)OD錠24mgエビリファイ(登録商標)散1重量%、エビリファイ(登録商標)内用液0.1重量%」、2015年5月(改訂第17版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アリピプラゾールを含有する散剤において、その安定性を改善し、アリピプラゾール由来の分解産物(類縁物質)の発生量を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アリピプラゾールの化学的な安定性を改善するため、アリピプラゾールを含有する散剤の処方や製造方法に関して鋭意検討を重ねた。その結果、塩基性の流動化剤を用いて製造されたアリピプラゾール含有散剤は、保存条件下でのアリピプラゾール由来の類縁物質の発生量が有意に低いことを発見した。その発見に基づいて、本発明者は更なる検討を重ね、安定性か改善された、アリピプラゾールを含有する散剤を完成させるに至った。
【0009】
本発明の具体的な構成は、下記(1)〜(5)によって記述されているものである。
(1)アリピプラゾール及びpH8以上の塩基性流動化剤を含有する散剤。
(2)塩基性流動化剤が、ケイ酸カルシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムより選ばれる、前記(1)に記載の散剤。
(3)塩基性流動化剤が、ケイ酸カルシウム又はタルクである、前記(1)に記載の散剤。
(4)散剤全重量に対して塩基性流動化剤が0.05〜5.0重量%含有される、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の散剤。
(5)さらに結合剤を散剤全重量に対して0.1〜5.0重量%含有し、結合剤がヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、可溶性デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポビドン、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレングリコールより選ばれる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の散剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アリピプラゾールを含有する散剤において、その安定性を改善し、アリピプラゾール由来の類縁物質の発生量を抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で本発明のアリピプラゾールを含有する散剤の処方及び製造方法を詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0012】
本発明において使用されているアリピプラゾールのメディアン径(光散乱法による測定値)は50μm以下のものが好ましく、より好ましくは0.1〜20μmである。必要に応じて適宜乾式又は湿式粉砕を行い、任意の粒子径に調整することも可能である。本発明の散剤において、アリピプラゾールは散剤全重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲で含有されていることが好ましい。アリピプラゾールの結晶形には、無水物結晶形態(I型又はII型)、水和物結晶形態、非晶質形態等が挙げられるが、好ましくは無水物結晶形態(I型又はII型)である。
【0013】
本発明の散剤の製造に用いられる、医薬的に許容可能な添加剤としては、通常使用されている賦形剤、結合剤、流動化剤等であり、流動化剤は塩基性であることが好ましい。
【0014】
例えば賦形剤としては、トウモロコシデンプン、乳糖水和物、結晶セルロース、D-マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、マルチトール、白糖、ショ糖、ブドウ糖等を挙げる事ができ、好ましくはトウモロコシデンプン又は乳糖水和物である。賦形剤は、散剤全重量に対して50.0〜99.5重量%、好ましくは95.0〜99.5重量%含有される。
【0015】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、可溶性デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポビドン、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレングリコール等を挙げる事ができ、好ましくはヒドロキシプロピルセルロースである。結合剤は、散剤全重量に対して0.1〜0.5重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
【0016】
流動化剤としては、ケイ酸カルシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等を挙げる事ができ、より好ましくはケイ酸カルシウム又はタルクであり、最も好ましくはケイ酸カルシウムである。流動化剤はpH8以上の塩基性であることが好ましく、散剤全重量に対して0.05〜5.0重量%、好ましくは0.1〜2.0重量%含有される。
【0017】
本発明の散剤の製造方法として具体的には、高速撹拌造粒法、流動層造粒法、乾式造粒法等が挙げられるが、好ましくは流動層造粒法である。前記の製造方法の操作法に困難はなく、常法にしたがって容易に目的の散剤を製造することができる。例えば流動層造粒法では、流動層造粒機中に投入した添加剤に結合剤及び原薬を含有する液を噴霧して造粒した造粒物を乾燥・篩過し、得られた整粒品と流動化剤を混合する、一般的な方法で行われる。
【実施例1】
【0018】
乳糖水和物883g(pharmatose(登録商標)100M/DFE Pharma製)及びトウモロコシデンプン100g(局方コーンスターチホワイト/日本コーンスターチ製)を流動層造粒機(パウレック製/MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース2g(HPC‐M/日本曹達製)を精製水198gに溶解した液にアリピプラゾール10g(メディアン径9μm、TEVA製)を分散した液を噴霧し、給気温度85℃で造粒した。引き続き給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで乾燥した後、網目30meshのステンレス製篩で篩過した。得られた整粒品497.5gをケイ酸カルシウム2.5g(フローライトRE/富田製薬製)と共に混合し散剤を得た。
【実施例2】
【0019】
乳糖水和物868g(pharmatose(登録商標)100M/DFE Pharma製)及びトウモロコシデンプン100g(局方コーンスターチホワイト/日本コーンスターチ製)を流動層造粒機(パウレック製/MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース2g(HPC‐M/日本曹達製)を精製水198gに溶解した液にアリピプラゾール10g(メディアン径9μm、TEVA製)を分散した液を噴霧し、給気温度85℃で造粒した。引き続き給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで乾燥した後、網目30meshのステンレス製篩で篩過した。得られた整粒品490gをタルク10g(クラウンタルク/松村産業製)と共に混合し散剤を得た。
【0020】
〔比較例1〕
乳糖水和物878g(pharmatose(登録商標)100M/DFE Pharma製)及びトウモロコシデンプン100g(局方コーンスターチホワイト/日本コーンスターチ製)を流動層造粒機(パウレック製/MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース2g(HPC‐M/日本曹達製)を精製水198gに溶解した液にアリピプラゾール10g(メディアン径9μm、TEVA製)を分散した液を噴霧し、給気温度85℃で造粒した。引き続き給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで乾燥した後、網目30meshのステンレス製篩で篩過した。得られた整粒品495gを軽質無水ケイ酸5g(アドソリダー(登録商標)101/フロイント産業製)と共に混合し散剤を得た。
【0021】
〔比較例2〕
乳糖水和物878g(pharmatose(登録商標)100M/DFE Pharma製)及びトウモロコシデンプン100g(局方コーンスターチホワイト/日本コーンスターチ製)を流動層造粒機(パウレック製/MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース2g(HPC‐M/日本曹達製)を精製水198gに溶解した液にアリピプラゾール10g(メディアン径9μm、TEVA製)を分散した液を噴霧し、給気温度85℃で造粒した。引き続き給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで乾燥した後、網目30meshのステンレス製篩で篩過した。得られた整粒品495gを含水二酸化ケイ素5g(カープレックス(登録商標)#80/エボニック製)と共に混合し散剤を得た。
【0022】
〔比較例3〕
乳糖水和物888g(pharmatose100M/DFE Pharma製)及びトウモロコシデンプン100g(局方コーンスターチホワイト/日本コーンスターチ製)を流動層造粒機(パウレック製/MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース2g(HPC‐M/日本曹達製)を精製水198gに溶解した液にアリピプラゾール10g(メディアン径9μm、TEVA製)を分散した液を噴霧し、給気温度85℃で造粒した。引き続き給気温度85℃で排気温度が40℃になるまで乾燥した後、網目30meshのステンレス製篩で篩過し散剤を得た。
【0023】
<試験例1>
(安定性評価試験)
実施例1及び2、比較例1〜3で得られた各散剤を用い、そのInitial(製造直後)品および60℃75%RHガラス瓶開放1週間保存品について、アリピプラゾールの類縁物質の生成量をそれぞれ調べた。類縁物質の測定は散剤を水/アセトニトリル/酢酸(100)混液(60:30:10:1)で抽出してHPLC法で行い、その詳細な試験条件は以下に示す。Initialおよび60℃75%RHガラス瓶開放1週間保存後のアリピプラゾール類縁物質含有率を測定した結果は表2に示す。
【0024】
(試験例1におけるHPLC法測定条件)
検出器 :紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム :YMC−Pack ODS−A、3μm、4.6mm i.d.×100mm (ワイエムシィ製)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相A :薄めたトリフルオロ酢酸(1→2000)/アセトニトリル混液(9:1)
移動相B :アセトニトリル/薄めたトリフルオロ酢酸(1→2000)混液(9:1)
移動相の送液 :移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制
(表1)
【0025】
試験例2(固結評価試験)
実施例1及び2比較例1〜3で調製した各散剤を用い、Initial(製造直後)品および60℃75%RHガラス瓶開放1週間保存品について、ビンを逆さまにした際に粉体が落下するか否かで固結状況を確認した。評価基準を以下に示した。固結状況(○:ほとんどが固結せずガラスビン内で粉体が容易に落下した。×:固結によりガラスビン内で粉体が容易に落下しなかった。)を確認し、表2に示した。
【0026】
(表2)
<実施例及び比較例の処方例と、其の安定性及び固結評価試験結果>
中性〜酸性の流動化剤である軽質無水ケイ酸又は含水二酸化ケイ素添加では60℃75%RHガラス瓶開放1週間保存において類縁物質の増加を認めた。また、流動化剤無添加では60℃75%RHガラス瓶開放における類縁物質の増加は認めなかったものの、湿度により固結を生じた。一方で、塩基性流動化剤であるケイ酸カルシウム又はタルク添加においては60℃75%RHガラス瓶開放1週間保存においても類縁物質の増加をほとんど認めず、湿度による固結も認めなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、アリピプラゾール含有散剤を製剤操作上一般的な方法で製造しながら、アリピプラゾール由来の類縁体の発生量が抑制された高品質なアリピプラゾール含有散剤を医療現場に提供することが可能である。