(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(全体構成)
本実施形態に係る複合粒子は、母粒子と、当該母粒子表面に形成された被覆層とを備える。複合粒子は、実際に計測した比表面積(S
1)が、複合粒子を球状とみなした場合に複合粒子の密度及び直径から算出される比表面積(S
0)よりも大きい。すなわち複合粒子は、細孔や凹凸を有しているといえる。当該細孔や凹凸は、水分の吸着サイトとなり得るので、複合粒子はより高い吸湿性を有する。実際上、複合粒子は、S
1/S
0が3.0以上であり、14wt%以上の飽和吸水率(後述する)を得ることができる。なお、複合粒子を球状とみなした場合、比表面積S、密度P、複合粒子の直径Rの関係は、S=6/(PR)で表される。
【0012】
母粒子は、直径が10nm以上2μm以下であるのが好ましい。母粒子は、第1の無機物からなる第1の無機酸化物で形成され、好ましくはシリカで形成される。第1の無機酸化物としてはシリカに限定されず、例えば酸化チタン、ジルコニア、酸化バリウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化ハフニウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウムなどを用いることができる。
【0013】
母粒子はゾルゲル法の湿式法で製造されるのが好ましい。ゾルゲル法で製造された母粒子は、CVD法や他法による粒子に比較し粒度分布が狭く、粒子表面の残留水酸基量が多いので、水を優先的に吸着させることに優れた表面が得られる。またゾルゲル法で製造された母粒子は、純度が高く溶出成分による影響を少なくすることができる。
【0014】
被覆層は、母粒子との体積比が、1.0以上となるように形成されるのが好ましい。上記体積比が得られるように被覆層を形成することにより、複合粒子は、比表面積がさらに大きくなる。体積比は、母粒子の粒径と、被覆層を形成後の複合粒子の粒径とから算出することができる。
【0015】
被覆層は、母粒子と異なる第2の無機物からなる第2の無機酸化物で形成され、好ましくは酸化チタンで形成される。第2の無機酸化物としては酸化チタンに限定されず、例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナ、酸化バリウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化ハフニウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウムなどを用いることができる。
【0016】
(製造方法)
次に、本実施形態に係る複合粒子の製造方法について説明する。複合粒子は、母粒子を生成し、母粒子を分散液に分散させ、母粒子表面に被覆層を形成することにより製造される。母粒子を形成する第1の無機酸化物としてシリカを用い、被覆層を形成する第2の無機酸化物として酸化チタンを用いる場合について、以下説明する。
【0017】
母粒子としてのシリカ粒子は、ゾルゲル法で形成することができる。すなわち母粒子は、第1の無機物を含む化合物として例えばシリコンアルコキシドを、水、アンモニアおよびアルコールからなる反応液中において加水分解および脱水・縮合させることにより生成することができる。
【0018】
上記のように得られた母粒子を分散させる分散液は、アルコール系溶媒が用いられる。アルコール系溶媒は、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなとの炭素数4〜10の中級アルコールが好適に用いられる。
【0019】
好ましくは、分散液中において母粒子に対し活性化処理をしてもよい。活性化処理は、アルカリが母粒子の表面に作用することにより、母粒子表面のシラノール基からのプロトン脱離を促進するための処理である。この活性化処理を行なうことにより、母粒子と被覆層の密着性を向上することができる。活性化処理は、分散液にアルカリ水溶液を添加して行う。アルカリ水溶液としては、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などを含有した水溶液が用いられるが、特にアンモニア水溶液を用いるのが好ましい。
【0020】
母粒子表面に形成される被覆層は、加水分解により第2の無機酸化物粒子を析出させ、乾燥・焼成処理することにより形成される。加水分解は、分散液に第2の無機物を含む化合物を混合して行う。これにより母粒子表面に第2の無機酸化物粒子が析出し、被覆層が形成される。
【0021】
本実施形態の場合、第2の無機物を含む化合物は、チタンアルコキシドまたはその部分加水分解物が用いられる。チタンアルコキシドとしては、一般式Ti(OR)
4又はTi(R’)n(OR)
4−n(式中、RおよびR’はアルキル基もしくはアシル基、特に炭素数1〜5のアルキル基もしくは炭素数2〜6個のアシル基であり、nは1〜3の整数である)で示されるチタンのアルコキシドが挙げられる。
【0022】
またチタンのアルコキシドの部分加水分解物としては、上記一般式で示されるチタンのアルコキシドのアルコキシ基を部分的に加水分解したものが挙げられる。
【0023】
チタンのアルコキシドまたはその加水分解物の加水分解、脱水・縮合は、通常のゾルゲル法で用いる条件で行なわれる。
【0024】
次いで、加水分解中の分散液に反応停止剤を加えて反応を終結させるのが好ましい。反応停止剤としては、イソプロピルアルコール及びアンモニア水を用いることができる。
【0025】
次いで、得られた分散液を濃縮乾燥させることにより、被覆層が形成された母粒子を得ることができる。濃縮乾燥は、例えばエバポレーターを用いて行う。
【0026】
最後に、被覆層が形成された母粒子を200℃〜800℃の温度条件で、2時間〜48間にて適宜焼成条件を設定して、焼成を行う。焼成条件が200℃で2時間の場合、複合粒子中に水や溶媒が残留するため、吸水率は下がる。また焼成条件が800℃で48時間以上の場合も、母粒子表面に形成され細孔や凹凸が焼結して比表面積が小さくなるため、吸水率は下がる。
【0027】
(作用及び効果)
上記のように形成された複合粒子は、母粒子と当該母粒子表面に形成された被覆層とを備え、測定された前記複合粒子の比表面積S
1と、前記複合粒子を球状とみなした場合に密度及び粒径から算出された前記複合粒子の比表面積S
0とが、S
1/S
0>3の関係を有することにより、細孔や凹凸を有するといえるので、より高い吸湿性を有する。
【0028】
本実施形態の場合、母粒子はゾルゲル法で形成されている。ゾルゲル法においては、得られる粒子の内部や表面に未反応のアルコキシル基が残存するなどで、例えばシリカ粒子の場合、完全なSiO
2を形成してはおらず、結合の欠損を持つ。この結合欠損に由来する細孔や凹凸が水分の吸着サイトとなる。したがって、200℃〜800℃の焼成温度の制御により吸水性を有する母粒子を作製することができ、その細孔や凹凸の量は粒子の比表面積を測定することにより相対的に比較することができる。
【0029】
この母粒子の表面に、第2の無機酸化物で被覆層を形成することにより更に比表面積を増大させることができる。すなわち被覆層は、母粒子表面に、ナノレベルサイズの第2の無機酸化物粒子が母粒子表面に堆積して形成されることにより、複合粒子全体の比表面積を増大させることができる。したがって上記のように形成された複合粒子は、母粒子単体よりも比表面積が大きいので、高純度でより吸湿性を向上することができる。
【0030】
(実施例)
(複合粒子の製造)
無機酸化物を含む分散液として宇部日東化成ハイプレシカAS(粒子径50nm、水分散スラリー固形分濃度10wt%)を6000g、イソプロパノールを2000g加え固形分濃度7.5wt%以下の溶液を、室温下で調製した。そして、80℃30mbarの条件で固形分濃度15wt%以上になるまで濃縮した後、イソプロパノールで希釈して再度7.5wt%以下の溶液とする作業を3回繰り返した。その後、固形分濃度15wt%以上になるまで濃縮し、その液中に1−ブタノールを加えた固形分濃度7.5wt%以下の溶液を濃縮した後、1−ブタノールで希釈して再度7.5wt%以下の溶液とする作業を2回繰り返した。さらに1−ブタノールで希釈することで、10wt%のシリカ粒子1−ブタノール分散液を調製した。
【0031】
上記のようにして得られた分散液6000gに、25%アンモニア水150gを添加し、25℃に温調しながら1時間撹拌し、活性化処理を行った。
【0032】
次いで、第2の無機物を含む化合物としてチタンテトライソプロポキシド450gと、1−ブタノール5550gを混合した液を600g/minの速度で滴下し、25℃に温調したまま1時間撹拌して、加水分解を行った。
【0033】
続いて反応停止剤として、イソプロピルアルコール2143g、イオン交換水840g、25%アンモニア水17gを混合した液を添加し、温度を60℃にし、24時間撹拌し、反応を終結させた。
【0034】
最後にスラリーをエバポレーターで乾固させ、150℃のオーブンで24時間以上乾燥した。乾燥した粉体を取り出し、表1に示す焼成温度(焼成時間は24時間)で焼成し、酸化チタンで形成された被覆層を備える複合粒子(実施例1〜3)を製造した。
【0035】
またジルコニアで形成された被覆層を備える複合粒子(実施例4)を製造した。実施例4に係る複合粒子は、第2の無機物を含む化合物としてジルコニウムテトラターシャリーブトキシドを用いて加水分解を行った以外は、上記実施例1〜3と同じ構成で製造した。
【0036】
さらに比較例として被覆層と母粒子との体積比が1.0未満の試料(比較例1,2,7)、被覆層が形成されていない試料(比較例3〜6)を、表1に示す焼成温度(焼成時間は24時間)で焼成し製造した。被覆層と母粒子との体積比が1.0未満の試料は、被覆成分の添加量を減らすことにより製造した。製造した複合粒子について各特性を確認した。製造した実施例及び比較例の各特性を表1に示す。
【0037】
(粒径)
粒径は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、JOEL社製JSM−6700F)を用い、100,000倍の画像を撮影し、画像解析ソフトSmile view(ver.2.2)にて、50個の粒径を測定し、平均値を粒径とした。
【0038】
(比表面積)
比表面積は、流動式比表面積自動測定装置(島津製作所製フローソーブII2300)を用いて、ガス吸着法によりBET法にて比表面積を測定した。
【0039】
(比重)
比重は、複合粒子を150℃で3時間乾燥した後にアキュピック法にてヘリウムガスを用いることによってBET比表面積(m
2/g)を測定し比重を算出した。因みにBET比表面積の値は、測定した複合粒子表面の凹凸が少ない程小さくなり、複合粒子表面の凹凸が多い程大きくなる。
【0040】
(吸水率)
吸水率は、下記手順により測定した。まず複合粒子をガラス製シャーレに入れ、150℃のオーブンで1時間以上乾燥した後、デシケーターの中で室温まで放冷する。その後、電子天秤で15g程度試料を秤量する。試料を秤量したシャーレを150℃で3時間乾燥し、直ちに五酸化リンの入ったデシケーター中で冷却する。室温まで冷却した後、試料の重量を秤量する。このときを測定開始点とする。試料を30℃、90%RHに設定した恒温恒湿チャンバーに放置し、吸水させる。24時間の吸水率が0.5%以下になったところで、測定を終了した。吸水率は(1)式
【0041】
【数1】
で算出される。1つの試料について3回測定を行い、その平均値を飽和吸水率とした。
【0042】
表1に示す通り、実施例1〜3は、S
1/S
0>3であるため、いずれも飽和吸水率が14%以上であった。これに対し比較例1〜6は、飽和吸水率が13%以下であった。これは、比較例1,2,7の場合、被覆層と母粒子との体積比が1.0未満であること、比較例3〜6の場合、被覆層が形成されていないことにより、S
1/S
0≦3となったためであると考えられる。
【0043】
(屈折率)
試験管に、0.0100〜0.0110gの複合粒子を量りとり、そこへブロモナフタレン(屈折率1.658)とIPA(屈折率1.375)で作製した屈折率の分かっている液を、マイクロピペットで1.5ml添加し、ハンドホモジナイザーで撹拌しながら、超音波を20秒かけた。ハンドホモジナイザーの撹拌をやめて、さらに10秒超音波をかけ脱気して屈折率調整液を得た。得られた屈折率調整液は、脱気後なるべくすぐに光線透過率を測定した。光線透過率の測定は、APEL社製 分光光度計PD−303を使用した。屈折率調整液の評価は、ATAGO社製 NAR−1Tにおいて、25℃に温調して測定を行った。透過率が最も高くなった時の、屈折率調整液の屈折率を複合粒子の屈折率とした。
【0045】
(透明性評価)
得られた複合粒子を10wt%の割合でクラレ製 PMMA樹脂に混練した。混練は、東洋精機製作所製LABO PLASTOMILL 30C150を用い、230℃において70rpmで3分間行った。混練後、複合粒子を含む樹脂を取り出し粉砕してペレット化した。このペレットを、東洋精機製作所製MINI TEST PRESS・10にて、成形用の型に入れ、上部は開放したまま230℃で30分間加熱した。その後、成形用の型のフタをして、230℃に保ったまま0MPaで5分間加熱した後、10MPaまで加圧して5分間プレスし、厚み2mmの板を作製した。得られた成型板の可視光線透過率(Tt)を日本分光(株)製の「紫外可視近赤外分光光度計V−670」を用い、可視光領域の波長で測定した。測定結果を表2に示す。表2から明らかなように、本実施例に係る複合粒子は、屈折率を適宜調整することができ、これにより混練して形成された樹脂板の構成透過率を向上できることが確認できた。
【0047】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。