特許第6071195号(P6071195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6071195超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071195
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20170123BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B23K26/348
   B23K9/16 K
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-281872(P2011-281872)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-128974(P2013-128974A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】大脇 桂
(72)【発明者】
【氏名】川口 勲
(72)【発明者】
【氏名】海老名 信一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 直幸
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−049351(JP,A)
【文献】 特開2010−240734(JP,A)
【文献】 特開昭63−076786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの被加工部にレーザビームを照射すると共にアークを生じさせて該被加工部を溶融させながら、このレーザビームの照射及びアークの発生によって溶融する前記被加工部に、前記レーザビームと同軸で超音波ビームを照射して該超音波ビームの音圧で前記被加工部の溶融金属を押圧する
ことを特徴とする超音波付加レーザ加工方法。
【請求項2】
前記超音波ビームを前記被加工部の溶融金属に照射した際の照射スポットが矩形形状を成している請求項1に記載の超音波付加レーザ加工方法。
【請求項3】
ワークの被加工部にレーザビームを照射して該被加工部を溶融させるレーザ照射部と、
前記ワークの被加工部に対するレーザビームの照射に併せてアーク溶接を行うアークトーチと、
前記レーザ照射部からのレーザビームの照射及び前記アークトーチにおけるアークの発生と同時に超音波ビームを照射して、前記レーザビームの照射及びアークの発生によって溶融する前記被加工部の溶融金属を前記超音波ビームの音圧で押圧する超音波照射部を備え
前記レーザビームと、前記超音波ビームとを同軸で且つ同時に照射するべく、前記レーザビームの光軸上に前記超音波照射部を位置させている
ことを特徴とする超音波付加レーザ加工装置。
【請求項4】
前記超音波照射部は、前記被加工部の溶融金属上における照射スポットが矩形形状を成す超音波ビームを照射する請求項に記載の超音波付加レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにレーザビームを照射して溶接や切断を行う際に、ワークの被加工部に対する超音波ビームの照射を付加する超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したように、レーザビームの照射に超音波ビームの照射を付加する加工としては、例えば、特許文献1に開示された超音波付加溶接方法がある。
この超音波付加溶接方法は、レーザビームを被溶接部に照射して溶融させた後、この溶融した被溶接部に対して超音波ビームを非接触で照射して、被溶接部の溶融部分を超音波の疎密波で均一に攪拌させながら凝固させることで、残留応力が生じない溶接を行い得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-049351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の超音波付加溶接方法において、レーザビームの照射による被溶接部の溶融部分を均一に攪拌させながら凝固させることができるものの、レーザビームの照射時における内部欠陥であるブローホールや、溶け込み不良や、スパッタ等の不具合の発生を少なく抑えることができるとは言い難いという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、レーザビームの照射による被加工部の溶融部分を超音波により均一に攪拌させることができるのは言うまでもなく、レーザビームの照射時に、ブローホールや、溶け込み不良や、スパッタ等の不具合が生じるのを極力少なく抑えることが可能である超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、ワークの被加工部にレーザビームを照射すると共にアークを生じさせて該被加工部を溶融させながら、このレーザビームの照射及びアークの発生によって溶融する前記被加工部に、前記レーザビームと同軸で超音波ビームを照射して該超音波ビームの音圧で前記被加工部の溶融金属を押圧する構成としたことを特徴としており、この超音波付加レーザ加工方法の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
本発明の請求項2に係る超音波付加レーザ加工方法は、前記超音波ビームを前記被加工部の溶融金属に照射した際の照射スポットが矩形形状を成している構成としている。
【0008】
一方、本発明の請求項に係る超音波付加レーザ加工装置は、ワークの被加工部にレーザビームを照射して該被加工部を溶融させるレーザ照射部と、前記ワークの被加工部に対するレーザビームの照射に併せてアーク溶接を行うアークトーチと、前記レーザ照射部からのレーザビームの照射及び前記アークトーチにおけるアークの発生と同時に超音波ビームを照射して、前記レーザビームの照射及びアークの発生によって溶融する前記被加工部の溶融金属を前記超音波ビームの音圧で押圧する超音波照射部を備え、前記レーザビームと、前記超音波ビームとを同軸で且つ同時に照射するべく、前記レーザビームの光軸上に前記超音波照射部を位置させている構成としたことを特徴としており、この超音波付加レーザ加工装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
本発明の請求項に係る超音波付加レーザ加工装置において、前記超音波照射部は、前記被加工部の溶融金属上における照射スポットが矩形形状を成す超音波ビームを照射する構成としている。
【0010】
本発明に係る超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置は、レーザ溶接の他にレーザ切断にも適用可能である。
【0011】
また、本発明に係る超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置において、溶融する被加工部に照射する超音波ビームの周波数は、10kHz〜10MHzとすることが望ましく、20〜100kHzとすることがより望ましい。
【0012】
本発明に係る超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置では、ワークの被加工部にレーザビームを照射するのと同時に超音波ビームを被加工部に照射して、レーザビームの照射で溶融する被加工部の溶融金属を超音波ビームの音圧で押圧するようにしているので、溶融金属の攪拌が効率良く行われることとなって、内部欠陥であるブローホールや溶け込み不良の発生が少なく抑えられ、加えて、溶融金属が超音波ビームの音圧で押さえ込まれる分だけ、スパッタ発生率の低減が図られることとなる。
【0013】
この際、レーザビームと、超音波ビームとを同軸で照射するように成せば、溶融金属の攪拌がより一層効率良く行われることになるので、ブローホールや溶け込み不良やスパッタ等の不具合の発生がより少なく抑えられることとなる。
【0014】
さらに、本発明に係る超音波付加レーザ加工方法及び超音波付加レーザ加工装置において、超音波ビームを被加工部の溶融金属に照射した際の照射スポットが矩形形状を成している場合には、超音波ビームによる溶融金属の押圧範囲を絞り込み得ることとなって、レーザ切断加工に好適なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る超音波付加レーザ加工方法及び請求項に係る超音波付加レーザ加工装置では、上記した構成としているので、レーザビームの照射による被加工部の溶融部分を超音波によって均一に攪拌させつつ、レーザビームの照射時に発生するブローホールや、溶け込み不良や、スパッタ等の不具合の低減を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0016】
また、本発明の請求項に係る超音波付加レーザ加工方法及び請求項に係る超音波付加レーザ加工装置では、上記した構成としているので、溶融金属の攪拌をより一層効率良く行うことができ、その結果、ブローホールや溶け込み不良やスパッタ等の不具合の発生をより少なく抑えることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされ、本発明の請求項に係る超音波付加レーザ加工方法及び請求項に係る超音波付加レーザ加工装置では、上記した構成としているので、超音波ビームによる溶融金属の押圧範囲を絞り込むことができ、したがって、良好にレーザ切断を行うことが可能になるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一参考形態に係る超音波付加レーザ加工装置を示す概略構成説明図である。
図2図1における超音波付加レーザ加工装置により溶接を行った際のビード幅及び溶け込み深さを比較例のビード幅及び溶け込み深さとともに示す被溶接部のビード外観写真及び断面写真である。
図3】本発明の実施形態に係る超音波付加レーザ加工装置の超音波照射部を示す側面説明図(a)及び斜視説明図(b)である。
図4図3における超音波付加レーザ加工装置から照射される超音波ビームの照射スポットの変形例を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る超音波付加レーザ加工装置の一参考形態を説明する図であり、この参考形態では、本発明に係る超音波付加レーザ加工装置がレーザアークハイブリッド溶接装置である場合を例に挙げて説明する。
【0019】
図1に示すように、この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1は、ベッド2に載置したワークWの被加工部WaにレーザビームLを照射してこの被加工部Waを溶融させるレーザヘッド(レーザ照射部)3と、被加工部Waに対するレーザビームLの照射に併せてアーク溶接を行うアークトーチ4と、レーザヘッド3からのレーザビームLの照射と同時に超音波ビームSを照射して、レーザビームLの照射によって溶融する被加工部Waの溶融金属Wmを超音波ビームSの音圧で押圧する超音波コーン(超音波照射部)5を備えており、この超音波コーン5は、被加工部Waの溶融金属Wm上における照射スポットが円形形状を成す超音波ビームSを照射するようになっている。
【0020】
この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1において、レーザヘッド3と、アークトーチ4と、超音波コーン5は、いずれも図示しない枠に固定されており、ワークWに対して一体的に矢印方向に移動するようになっている。
【0021】
この際、溶融する被加工部Waに照射する超音波ビームSの周波数は、10kHz〜10MHzとすることが望ましく、20〜100kHzとすることがより望ましい。
また、レーザビームLに対する超音波ビームSの照射角度θは、超音波ビームSの音圧で溶融金属Wmを効率的に押さえ込み得る角度、すなわち、0〜45°とすることが望ましい。
【0022】
この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1では、ワークWの被加工部Waに対してレーザヘッド3からレーザビームLを照射すると共にアークトーチ4からアークを生じさせ、これと同時に超音波コーン5から超音波ビームSを被加工部Waに照射しつつ、レーザヘッド3,アークトーチ4及び超音波コーン5をワークWに対して適宜溶接速度で一体的に移動させてレーザアークハイブリッド溶接を行う。
【0023】
この溶接の間、レーザビームLの照射及びアークの発生により溶融する被加工部Waの溶融金属Wmを超音波コーン5からの超音波ビームSの音圧で押圧するようにしているので、溶融金属Wmの攪拌が効率良く行われることとなり、その結果、内部欠陥であるブローホールや溶け込み不良の発生が少なく抑えられるうえ、溶融金属Wmが超音波ビームSの音圧で押さえ込まれる分だけ、スパッタ発生率の低減が図られることとなる。
【0024】
そこで、この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1により、レーザパワーを8.3kW、レーザ焦点はずし距離を5mm、溶接速度を1.2m/min、アーク電流及び電圧をそれぞれ300A及び27V、アークシールドガス(Ar+5%O2)の注入量を25l/min、バックシールドガス(Ar)の注入量を20l/min、フィラーワイヤ径を1.2φ、超音波ビームSの周波数を28kHz、レーザビームLに対する超音波ビームSの照射角度θを45°として、レーザアークハイブリッド溶接を行った際のビード幅及び溶け込み深さを調べたところ、図2に示す結果を得た。なお、図2において、超音波を付加しないでレーザアークハイブリッド溶接を行った際のビード幅及び溶け込み深さを比較例として併せて記載した。
【0025】
図2に示す結果から、この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1では、超音波を付加しないでレーザアークハイブリッド溶接を行った場合と比較して、ブローホールや溶け込み不良やスパッタの発生を少なく抑えつつ、ビード幅をほとんど増すことなく、溶け込み深さを大きくし得ることが実証できた。
【0026】
図3は、本発明の実施形態による超音波付加レーザ加工装置を示しており、この実施形態による超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置11が先の参考形態による超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置1と相違するところは、レーザビームLと、超音波ビームSとを同軸で且つ同時に照射するべく、すなわち、レーザビームLに対する超音波ビームSの照射角度θを0°とするべく、レーザビームLの光軸LL上に超音波コーン15を配置した点にあり、他の構成は先の参考形態による超音波付加レーザ加工装置1と同じである。
【0027】
図3に部分的に示すように、この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置11の超音波コーン15は、レーザビームLの光軸LLと直交する方向で且つ互いに相反する側から光軸LLに向けて入射する超音波SSを光軸LL上に乗せる変換体15aと、光軸LL上に乗った超音波SSの振幅を拡大するブースタホーン15bと、振幅が拡大した超音波SSを超音波ビームSとして照射する振動子15cとを一体で有している。
【0028】
この超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置11では、レーザビームLと、超音波ビームSとを同軸で照射するようにしているので、溶融金属Wmの攪拌がより一層効率良く行われることになり、ブローホールや溶け込み不良やスパッタ等の不具合の発生がより少なく抑えられることとなる。
【0029】
本発明に係る超音波付加レーザ加工装置の構成は、上記した実施形態における超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置11の構成に限定されるものではなく、他の構成として、超音波照射部が、図4に示すように、被加工部Waの溶融金属Wm上における照射スポットSPが矩形形状を成す超音波ビームを照射するものであってもよく、この場合には、超音波ビームによる溶融金属Wmの押圧範囲を絞り込み得ることとなって、レーザ切断に好適なものとなる。
【0030】
なお、上記した実施形態では、本発明に係る超音波付加レーザ加工装置としての超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置を例に挙げてしたが、これに限定されるものではなく、レーザ溶接装置の他にレーザ切断装置であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
11 超音波付加レーザアークハイブリッド溶接装置(超音波付加レーザ加工装置)
3 レーザヘッド(レーザ照射部
15 超音波コーン(超音波照射部)
L レーザビーム
LL レーザビームの光軸
S 超音波ビーム
SP 照射スポット
W ワーク
Wa 被加工部
Wm 溶融金属
図1
図3
図4
図2