特許第6071230号(P6071230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジタの特許一覧

<>
  • 特許6071230-放射暖房システム 図000002
  • 特許6071230-放射暖房システム 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071230
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】放射暖房システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 1/00 20110101AFI20170123BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F24F1/00 346
   F24F5/00 101B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-80752(P2012-80752)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-210142(P2013-210142A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】小野 幹治
【審査官】 田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−094111(JP,A)
【文献】 特開平08−261515(JP,A)
【文献】 特開平01−312338(JP,A)
【文献】 特開平07−055205(JP,A)
【文献】 特開2008−014556(JP,A)
【文献】 特開平08−166156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/00
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井材の裏側に画成された天井裏空間と、この天井裏空間の空気を加温する空調機と、前記天井材に設けられて前記天井裏空間の加温空気を居室空間の上層部へ水平方向に噴き出し可能な複数の噴き出し口と、前記天井材に設けられて前記居室空間の上層部の空気を前記天井裏空間へ取り込む風量調節可能なファンを有する吸気口を備え、前記空調機によって加温された空気を、前記噴き出し口と前記吸気口を介して前記天井裏空間と前記居室空間の上層部を循環させるものであって、前記噴き出し口の開放を選択的に行うことが可能であることを特徴とする放射暖房システム。
【請求項2】
天井裏空間を画成するスラブの下面に断熱材が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の放射暖房システム。
【請求項3】
空調機からの加温空気を吐出するダクトが、天井裏空間に旋回流を生じるように配設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射暖房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に天井材を加温して室内の暖房を行う天井放射暖房システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
居室空間の温湿度環境を快適にするための空調機は、空調空気を居室空間へ噴き出すものが一般的である。このような空気噴流式の空調機によれば、居室空間に気流が発生し、その気流が人体に直接当たることで不快を感じることがある。また、空気の温度と密度との関係により、冷気は下へ暖気は上へ移動する対流によって上下温度分布が発生し、頭熱足寒の環境となりやすい。そこで、不快な気流感や、居室空間の上下温度分布が発生しにくい放射暖房システムが注目されている。
【0003】
放射暖房システムとして、天井裏空間を空気調和機で加温し、居室天井面を放射面として居室を放射空間とする天井チャンバー方式が知られている。しかしながら、天井チャンバー方式の天井放射暖房システムにおいては、直接、空気の温度を調節する対流式空調に比較して、空調立ち上げ時に目標設定温度に到達させるのに必要な時間が長いことが課題となっている。そこで従来、天井チャンバー内の加温空気を室内に流入させることにより、空調立ち上がり時間の短縮を図る技術が提案されている。
【0004】
例えば下記の特許文献に記載された放射暖房システムは、図2に示すように、居室空間S1の熱負荷が小さい時には空調機101によって天井裏空間(天井チャンバー)S2を空調し、天井材102を熱放射面としたものであり、居室空間S1の熱負荷が大きい時には天井材102に設けられたダンパー103を開いて、天井裏空間S2の空調空気を居室空間S1に送り込むことで、居室空間S1の空調立ち上がり時間の短縮と、熱負荷変動時の制御を可能とし、短時間で快適性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−258377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のシステムのように、天井裏空間S2の空調空気の大量放出によって居室空間S1の空調立ち上がり時間の短縮を図ろうとすると、居室空間S1内の室温と、天井裏空間S2から供給される空調空気の温度差が大きいため、上下温度分布差を生じやすくなる。特に冬季には、居室空間S1内の室温と供給される空調空気の温度差が大きくなるため、居室空間S1内の上下温度分布差が生じやすくなる。また、効率的に室温を制御するためには居室空間S1下層になるべく加温空気を到達させようとするため、空調立ち上がり時においては、居住者の滞在空間に気流感を及ぼす可能性もある。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、放射による居室空間の暖房を行うシステムにおいて、天井面からの放射による暖房の立ち上がりの悪さを改善すると共に、居室空間での気流感の改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る放射暖房システムは、天井材の裏側に画成された天井裏空間と、この天井裏空間の空気を加温する空調機と、前記天井材に設けられて前記天井裏空間の加温空気を居室空間の上層部へ水平方向に噴き出し可能な複数の噴き出し口と、前記天井材に設けられて前記居室空間の上層部の空気を前記天井裏空間へ取り込む風量調節可能なファンを有する吸気口を備え、前記空調機によって加温された空気を、前記噴き出し口と前記吸気口を介して前記天井裏空間と前記居室空間の上層部を循環させるものであって、前記噴き出し口の開放を選択的に行うことが可能であることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、空調機を駆動させることによって、天井裏空間の空気が加温され、それによる熱が天井材を介して居室空間へ放射されることによって放射暖房が行われる。また、天井裏空間で加温された空気は、噴き出し口から居室空間の上層部へ水平方向に噴き出されるので、天井材の下面に沿った加温空気の流れによって、天井材の両面が効率的に加温され、その結果、天井材から居室空間への熱放射が促進される。しかも天井材の下面に沿った加温空気の流れは、居室空間内に適度な対流を生じさせるので、対流による熱伝達も促される。
【0011】
また、天井裏空間で加温された空気が噴き出し口から居室空間の上層部へ水平方向に噴き出される一方、居室空間の上層部の空気が吸気口から天井裏空間へ取り込まれることにより、天井裏空間と居室空間上層のみで加温空気が循環するので、例えば居住者の身長よりも低い位置に顕著な温度差や不快な気流を生じさせないようにすることができる。
【0012】
請求項2の発明に係る放射暖房システムは、請求項1に記載の構成において、天井裏空間を画成するスラブの下面に断熱材が設けられたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明に係る放射暖房システムは、請求項1又は2に記載の構成において、空調機からの加温空気を吐出するダクトが、天井裏空間に旋回流を生じるように配設されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る放射暖房システムによれば、天井材が天井裏空間側及び居室空間側の両面から加温されるので、天井材から居室空間への熱放射が促され、放射暖房の立ち上がりの悪さを改善することができる。また、天井材からの熱放射が促されることによって、床面も効率よく加温されるので、天井放射暖房でも不快な頭熱足寒状態を解消又は低減することができる。
【0015】
しかも、天井裏空間と居室空間上層の間のみで加温空気を循環させることによって、人の身長より高い位置に熱溜まりをつくることができるので、人の生活空間内での上下温度分布差や気流による不快感を解消又は低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る放射暖房システムの好ましい実施の形態を示す概略構成説明図である。
図2】従来の技術による放射暖房システムの一例を示す概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る放射暖房システムの好ましい実施の形態について、図1を参照しながら説明する。
【0018】
図1において、参照符号1は鉄骨・鉄筋コンクリート造りの建築物の躯体であって、11,12はスラブ、13は躯体側壁である。上階側のスラブ12の下側には不図示の吊りボルトや格子状に組まれた天井下地材などを介して天井材2が取り付けられ、天井材2の下側が居室空間S1、天井材2の裏側すなわち天井材2と上階側のスラブ12の間が天井裏空間S2となっている。
【0019】
天井裏空間S2に面する上階側のスラブ12の下面は断熱材14で覆われており、この断熱材14によって、天井裏空間S2は適度に断熱されている。なお、図示してはいないが、スラブ12の上面や、天井裏空間S2に面する側壁13を断熱材で覆うことも好ましい。
【0020】
参照符号3は天井裏空間S2内に設置されたヒートポンプ式の空調機(室内機)で、その吸気口3aから天井裏空間S2内の空気を取り込んで加温し、ダクト3bを介して加温空気WAを天井裏空間S2へ吐出するものである。なお、ダクト3bは、天井裏空間S2に顕著な旋回流を生じるように配設することによって、天井裏空間S2(天井材2)の温度ムラが極力生じないようにすることが好ましい。
【0021】
天井材2には噴き出し口4と吸気口5が開設されている。このうち噴き出し口4は一カ所以上開設されていて、ダンパー4aによって開閉可能となっており、またこのダンパー4aは、噴き出し口4の下側に設けられていて、平板状あるいはフラップ状に形成されているため、天井裏空間S2内から噴き出し口4を通過した空気が水平方向へ噴き出すように案内する機能を有するものである。
【0022】
吸気口5には居室空間S1の上層部の空気を天井裏空間S2へ取り込むための風量調節可能なファン6が設けられている。また、噴き出し口4に、天井裏空間S2の空気を居室空間S1へ噴き出すためのファンを設けても良い。
【0023】
居室空間S1内を放射暖房の環境とするには、居室空間S1の温度と天井材2の表面温度の温度差をある程度保つ必要があるため、天井材2は、熱抵抗が0.2m・K/W以下のものが採用され、例えば石膏ボードからなるものが好適に用いられる。また、噴き出し口4から居室空間S1への風量は、床面積当たり0.01m/s以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、空調機3、ファン6及びダンパー4aの駆動は、例えば壁面などに着脱可能な不図示のリモコン装置の操作によって制御可能とすることができる。
【0025】
以上のように構成された実施の形態の放射暖房システムによれば、冬季の暖房においては、例えばユーザーがリモコン装置を操作することによって空調機3を運転させると、まず天井裏空間S2へ加温空気WAが供給され、すなわち天井裏空間S2の空気が加温される。天井裏空間S2は断熱材14によって適度に断熱されているため、天井裏空間S2の空気の加温が効率良く行われる。そして天井裏空間S2内の温度が上昇して行くにつれて、天井裏空間S2内の加温空気WAとの熱交換によって天井材2も加温されるので、この天井材2から居室空間S1への熱放射によって放射暖房が行われる。
【0026】
ここで、天井材2に開設された複数の噴き出し口4のうち、任意の噴き出し口4のダンパー4aを開放すると共に吸気口5のファン6を駆動させると、居室空間S1の上層部(好ましくは人間の身長hより高いゾーン)S1aの空気が吸気口5から天井裏空間S2へ取り込まれると共に、空調機3によって加温された天井裏空間S2内の空気が、ダンパー4aを開放した噴き出し口4から居室空間S1の上層部S1aへ噴き出される。
【0027】
そして、居室空間S1の上層部S1aへ噴き出された加温空気は比重が小さいことに加え、噴き出し口4の下側にあるダンパー4aが噴き出し口4からの加温空気を水平方向へ噴き出すように案内する機能を有するため、噴き出された加温空気は天井材2の下面に沿って流れ、吸気口5のファン6によって天井裏空間S2へ還流することになる。このため天井材2は、天井裏空間S2内の加温空気と、居室空間S1の上層部S1aを天井材2の下面に沿って流れる加温空気によって、天井材2の両面が効率的に加温される。このため天井材2から居室空間S1への熱放射が促進される。
【0028】
しかも、天井材2の下面に沿った加温空気の流れは、居室空間S1の中・下層部S1bに適度な対流を生じさせるので、対流による中・下層部S1bへの熱伝達も促される。
【0029】
したがって、天井材2からの熱放射による居室空間S1の放射暖房の立ち上がりの悪さが改善されると共に、居室空間S1の中・下層部S1bでは、天井材2からの熱放射が促されることによって、床面11aが効率よく加温されるので、頭熱足寒となるような不快な温度分布を解消又は低減することができる。詳しくは、図1に温度分布を濃淡(濃いほど高温)及び線図で示すように、居室空間S1では、上層部S1aには天井材2と接する部分(上端)が最も高温となる顕著な温度勾配を生じるが、中・下層部S1bではほぼ温度が一様で、天井材2からの熱放射により加温された床面11aに接する最も下層部では温度が高くなるので、頭寒足熱の温度分布を創出することができる。
【0030】
そして、天井裏空間S2に旋回流が形成されるようにすれば、天井裏空間S2の温度分布が一様になり、天井材2に温度ムラができにくくなるので、天井材2から居室空間S1への熱放射の均一化を図ることができる。
【0031】
また、空調機3によって加温された空気が天井裏空間S2と居室空間S1の上層部S1aのみで循環するので、人間の身長hより高いゾーンに熱溜まりをつくることができるので、居室空間S1の中・下層部S1bに顕著な温度差や不快な気流を生じさせないようにすることができる。
【0032】
さらに、ダンパー4aを開放する噴き出し口4の選択によって、加温空気の循環領域を任意に調整することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 建築物の躯体
11,12 スラブ
11a 床面
14 断熱材
2 天井材
3 空調機
4 噴き出し口
4a ダンパー
5 吸気口
6 ファン
S1 居室空間
S1a 上層部
S1b 中・下層部
S2 天井裏空間
WA 加温空気
図2
図1