特許第6071241号(P6071241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6071241非水電解質二次電池用正極、当該非水電解質二次電池用正極の製造方法、ならびに、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池
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  • 特許6071241-非水電解質二次電池用正極、当該非水電解質二次電池用正極の製造方法、ならびに、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071241
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極、当該非水電解質二次電池用正極の製造方法、ならびに、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20170123BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170123BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20170123BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20170123BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M4/66 A
   H01M4/80 A
   H01M4/70 Z
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-102659(P2012-102659)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232295(P2013-232295A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】田中祐一
(72)【発明者】
【氏名】兒島洋一
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−195501(JP,A)
【文献】 特開2001−023643(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152280(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/013756(WO,A1)
【文献】 特開平08−170126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材を含有する非水電解質二次電池用正極であって、
アルミニウム粉末が焼結した焼結金属壁を骨格とし、当該焼結金属壁によって画成された空孔同士が焼結金属壁に開いた小孔によって連通した三次元多孔質アルミニウム焼結体を集電体とし、
前記空孔中に前記電極合材が充填されており、前記焼結金属壁と電極合材とが導電助剤と高分子結合剤とから形成される塗膜を介して接触しており、
前記高分子結合剤が、メタクリル酸又はその誘導体と、極性基含有アクリル系化合物の1種以上のモノマーと、からなるアクリル共重合体であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記三次元多孔質アルミニウムの単位体積当たりの前記塗膜の質量が、0.001〜0.07g/cmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記塗膜における高分子結合剤に対する導電助剤の固形分としての質量比率が20〜80%である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記三次元多孔質アルミニウムが金属板と複合化されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムにおける、下記で示す電極合材の電極密度向上率が110〜500%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
ここで、電極において活物質を含む電極合材が占める体積をV(cm)とし、電極合材の質量をW(g)とし、電極合材が充填された直後における電極合材の電極密度を(W/V)be(g/cm)とし、プレス処理等により緻密にした後の電極密度を(W/V)afとした際に、電極密度向上率(%)={(W/V)af/(W/V)be}×100で示される。
【請求項6】
アルミニウム粉末と支持粉末の混合粉末を200MPa以上の圧力で加圧成形し、この加圧成形体を不活性雰囲気中でアルミニウム粉末の融点以上で、かつ、支持粉末の融点未満の温度での熱処理により焼結させ、その後、支持粉末を除去することにより、金属壁によって画成された空孔を有する三次元多孔質アルミニウムの集電体を製造する工程と;導電助剤、高分子結合剤及び分散媒を含む懸濁液を前記三次元多孔質アルミニウムの集電体の内部に含浸させる工程であって、前記高分子結合剤が、メタクリル酸又はその誘導体と、極性基含有アクリル系化合物の1種以上のモノマーと、からなるアクリル共重合体である工程と;前記懸濁液を内部に含浸させた三次元多孔質アルミニウムを乾燥して分散媒を飛散・蒸発させ、前記導電助剤と高分子結合剤とを含む塗膜を金属壁上に形成する工程と;リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材を溶媒に分散したスラリーを、前記塗膜が金属壁上に形成された三次元多孔質アルミニウムの内部に含浸させる工程と;前記スラリーを内部に含浸させた三次元多孔質アルミニウムを乾燥して溶媒を飛散・蒸発させ、前記塗膜を介して金属壁に接触するように電極合材を空孔中に充填する工程と;空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムの集電体をプレス処理する工程と;を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項7】
前記懸濁液において、高分子結合剤の固形分100質量部に対する導電助剤の固形分の比率が20〜80質量部である、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末が金属板と複合化されている、請求項6又は7に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項9】
前記プレス処理する工程によって、前記空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムにおける電極合材の電極密度向上率を110〜500%とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、これら正負極間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備えたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池やリチウムイオンポリマー二次電池に適した三次元多孔質アルミニウム集電体を用いた非水電解質二次電池の正極、当該非水電解質二次電池用正極の製造方法、ならびに、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度を有する等の理由から非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池やリチウムイオンポリマー二次電池の普及が拡大し、ハイブリッド型自動車や電気自動車にも用いられるようになり、更なる高出力化、高エネルギー密度化が要求されている。このような非水電解質二次電池は、一般に、リチウムを挿入脱離可能な正極と負極、微多孔性のセパレータ及びリチウム塩を含む非水電解質溶液によって構成される。
【0003】
正極材料や負極材料を担持する集電体(支持体)としては、アルミニウム箔や銅箔のような金属箔が一般的に用いられる。このような金属箔として、電極容量を大きくする目的で多孔質アルミニウム集電体が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、特徴的な金属骨格断面形状を有する多孔質アルミニウムに活物質を充填した高エネルギー密度の電極が記載されている。この多孔質アルミニウムは、アルミニウムと低融点の共晶合金を形成する金属皮膜を発泡樹脂の骨格に形成し、その上にアルミニウム粉末を付着させた後に、発泡樹脂を焼失させると共に金属同士を焼結させることによって得られる。
特許文献2には、高出力化及び高容量化のための電極として、不織布状ニッケルをクロマイジング処理しクロム含有率を25質量%以上とした不織布状ニッケルクロムの多孔質集電体が記載されている。
また、特許文献3には、チタンを焼結助剤とし、スラリー発泡法により作製した多孔質アルミニウムに微細炭素繊維を付着させた高エネルギー密度の集電体が記載されている。
【0005】
しかしながら、従来の多孔質アルミニウムを利用した電極では、活物質の体積変化を伴う充放電サイクルを繰り返した際に活物質が脱落し、電極容量が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−170126号公報
【特許文献2】特開2009−176517号公報
【特許文献3】特開2010−272427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、充放電サイクルを繰り返した際における正極活物質の脱落を抑制し、電極容量の低下を防止した非水電解質二次電池用正極、当該非水電解質二次電池用正極の製造方法、ならびに、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、上記課題は集電体と活物質との密着力に起因することを突き止めた。そこで、本発明者等は更に検討を重ね、正極活物質を含む電極合材を内包する三次元多孔質アルミニウムの空孔を画成する金属壁表面に、導電助剤と高分子結合剤の混合物からなる塗膜を形成し、この塗膜を介して正極活物質を含む電極合材を空孔内に配置することで、充放電サイクルを重ねても正極活物質が脱落せず、高い電極容量を維持できる電極が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は請求項1において、リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材を含有する非水電解質二次電池用正極であって、
アルミニウム粉末が焼結した焼結金属壁を骨格とし、当該焼結金属壁によって画成された空孔同士が焼結金属壁に開いた小孔によって連通した三次元多孔質アルミニウム焼結体を集電体とし、
前記空孔中に前記電極合材が充填されており、前記焼結金属壁と電極合材とが導電助剤と高分子結合剤とから形成される塗膜を介して接触しており、
前記高分子結合剤が、メタクリル酸又はその誘導体と、極性基含有アクリル系化合物の1種以上のモノマーと、からなるアクリル共重合体であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極とした。
【0010】
本発明は請求項2では請求項1において、前記三次元多孔質アルミニウムの単位体積当たりの前記塗膜の質量を0.001〜0.07g/cmとした。本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記塗膜における高分子結合剤に対する導電助剤の固形分としての質量比率を20〜80%とした。また、本発明は請求項4では請求項1〜3のいずれか一項において、前記三次元多孔質アルミニウムが金属板と複合化されているものとした。更に、本発明は請求項5では請求項1〜4のいずれか一項において、電極において活物質を含む電極合材が占める体積をV(cm)とし、電極合材の質量をW(g)とし、電極合材が充填された直後における電極合材の電極密度を(W/V)be(g/cm)とし、プレス処理等により緻密にした後の電極密度を(W/V)afとした際に、電極密度向上率(%)={(W/V)af/(W/V)be}×100で示されるところの、前記空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムにおける電極合材の電極密度向上率が110〜500%であるものとした。
【0011】
本発明は請求項において、アルミニウム粉末と支持粉末の混合粉末を200MPa以上の圧力で加圧成形し、この加圧成形体を不活性雰囲気中でアルミニウム粉末の融点以上で、かつ、支持粉末の融点未満の温度での熱処理により焼結させ、その後、支持粉末を除去することにより、金属壁によって画成された空孔を有する三次元多孔質アルミニウムの集電体を製造する工程と;導電助剤、高分子結合剤及び分散媒を含む懸濁液を前記三次元多孔質アルミニウムの集電体の内部に含浸させる工程であって、前記高分子結合剤が、メタクリル酸又はその誘導体と、極性基含有アクリル系化合物の1種以上のモノマーと、からなるアクリル共重合体である工程と;前記懸濁液を内部に含浸させた三次元多孔質アルミニウムを乾燥して分散媒を飛散・蒸発させ、前記導電助剤と高分子結合剤とを含む塗膜を金属壁上に形成する工程と;リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材を溶媒に分散したスラリーを、前記塗膜が金属壁上に形成された三次元多孔質アルミニウムの内部に含浸させる工程と;前記スラリーを内部に含浸させた三次元多孔質アルミニウムを乾燥して溶媒を飛散・蒸発させ、前記塗膜を介して金属壁に接触するように電極合材を空孔中に充填する工程と;空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムの集電体をプレス処理する工程と;を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法とした。
【0012】
本発明は請求項では請求項において、前記懸濁液において、高分子結合剤の固形分100質量部に対する導電助剤の固形分の比率を20〜80質量部とした。また、本発明は請求項8では請求項6又は7において、前記混合粉末が金属板と複合化されているものとした。更に、本発明は請求項9では請求項6〜8のいずれか一項において、前記プレス処理する工程によって、前記空孔中に電極合材が充填された三次元多孔質アルミニウムにおける電極合材の電極密度向上率を110〜500%とするものとした。
【0013】
本発明の請求項10に係る発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、これら正負極間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備えたことを特徴とする非水電解質二次電池とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極では、三次元多孔質アルミニウム集電体の金属壁によって画成された空孔中に正極活物質を含む電極合材が充填されている。この電極合材は、導電助剤と結着剤とから形成される塗膜を介して金属壁と接触しつつ、この金属壁に包み込まれるように保持される。これによって、三次元多孔質アルミニウム集電体と電極合材との導電性が確保され、高電極容量が達成される。また、当該集電体による正極活物質の保持力が補強されるので正極活物質の脱落が抑制され、良好な充放電サイクル特性が達成される。更に、当該非水電解質二次電池用正極を用いることによって、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に用いる三次元多孔質アルミニウムの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.非水電解質二次電池用正極
本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、金属壁によって画成された空孔を有する三次元多孔質アルミニウムを集電体とする。そして、三次元多孔質アルミニウムの空孔中にリチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材が充填されており、金属壁と電極合材とが導電助剤と高分子結合剤とから形成される塗膜を介して接触していることを特徴とする。
【0017】
1.三次元多孔質アルミニウム
図1に示すように、本発明に用いる三次元多孔質アルミニウムは、空孔1の周囲に金属粉末が焼結してできた壁を骨格とする多孔質焼結体である。空孔1同士はアルミニウムで構成される金属壁2(気泡膜面)によって隔てられ、金属壁2に開いた小孔3によって空孔1同士が連通している。空孔1内に充填される正極活物質を含む電極合材は、金属壁2によって包み込まれるように保持される。金属壁2の表面には、導電助剤と高分子結合剤とから成る塗膜が形成され、金属壁2と電極合材はこの塗膜を介して接触する。正極活物質を含む電極合材は、塗膜の密着力によって三次元多孔質アルミニウムに更に強固に保持される。また、塗膜を介して金属壁2と電極合材とが接触することで、塗膜を介した三次元多孔質アルミニウムと電極合材との電子電導に基づく導電性が確保される。
【0018】
1−1.形状
三次元多孔質アルミニウムの形状は、電極形状によってシート状や筒状などの任意の形状とすることができる。厚さは200μm〜2mm程度が好ましく、空孔径は10μm〜1mm程度が好ましい。ここで、空孔径とは、三次元多孔質アルミニウムの断面を観察さした際に、断面に現れた空孔の最大径をいうものとする。
【0019】
1−2.気孔率
三次元多孔質アルミニウムの気孔率は、80〜95%が好ましい。ここで、三次元多孔質アルミニウムの気孔率p(%)は、下記式(1)によって算出される。
p=[{hv−(hw/2.7)}/hv]×100 (1)
ここで、hv:三次元多孔質アルミニウムの全体積(cm
hw:三次元多孔質アルミニウムの質量(g)
2.7:アルミニウム材の密度(g/cm)である。
【0020】
2.塗膜
三次元多孔質アルミニウムの金属壁表面に設けられる塗膜は、三次元多孔質アルミニウムと電極合材との間の導電性を付与するための導電助剤と、電極合材の保持力を付与するための高分子結合剤の混合物から形成される。
【0021】
2−1.塗膜量
塗膜量については、全塗膜量を三次元多孔質アルミニウムの全体積で割った値、すなわち、三次元多孔質アルミニウムの単位体積当たりの塗膜量として0.001〜0.07g/cmであるのが好ましい。この塗膜量により、塗膜を介した三次元多孔質アルミニウム集電体と電極合材との導電性、ならびに、正極活物質を含む電極合材の保持力を向上させることが出来る。塗膜量が、0.001g/cm未満では電極合剤の保持力が不十分となり、電池において充放電サイクルを繰り返した際に電極合剤の脱落が生じて電極容量が低下する場合がある。一方、塗膜量が、0.07g/cmを超えると、三次元多孔質アルミニウムの金属壁の小孔が塗膜によって閉塞する可能性が高くなり、三次元多孔質アルミニウムの空孔に電極合剤を充填することが困難になって電池容量が低下する場合がある。
【0022】
2−2.導電助剤
本発明において用いる導電助剤としては、炭素粉末、金属粉末などが用いられるが、その中でも炭素粉末が好適に用いられる。炭素粉末としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらの中でも、高ストラクチャーで、添加量が少量でも導電性を向上させることが可能なアセチレンブラックを用いるのが好ましい。導電助剤の高分子結合剤に対する混合割合は、高分子結合剤の固形分100質量部に対して、20〜80質量部とするのが好ましい。20質量部未満では塗膜の電気抵抗が高くなり、80質量部を超えると塗膜の電極合材に対する密着性が低下し活物質を含む電極合材に対する保持力が低下する。
【0023】
2−3.高分子結合剤
本発明において用いる高分子結合剤としては、電極に用いた際に活物質、電解質、電解液などと反応することなく、また、電池動作中の電位のかかった状態において電気化学的に酸化され難い材質であるのが好ましい。具体的には、アクリル酸若しくはメタクリル酸、又はこれらの誘導体を主成分とするアクリル系樹脂;セルロースや硝化綿、キトサン等の高分子多糖類;などを好適に用いることができる。
【0024】
アクリル系樹脂では、モノマー中のアクリル成分の割合は、例えば50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であるが、上限は特に限定されるものではなく、モノマーが実質的にアクリル成分のみで構成されていてもよい。また、アクリル系樹脂のモノマーは、アクリル成分一種を単独で又は二種以上を含んでいてもよい。アクリル系樹脂の中でも、メタクリル酸又はその誘導体と;極性基含有アクリル系化合物の1種以上のモノマーと;からなるアクリル共重合体が好ましい。このようなアクリル共重合体を用いることにより、ハイレート特性を更に向上させることができる。
【0025】
メタクリル酸又はその誘導体としては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル等が挙げられる。極性基含有アクリル系化合物としてはアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。極性基含有アクリル系化合物の中でも、アミド基を有するアクリル化合物が好ましい。アミド基を有するアクリル化合物としては、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等が好適に用いられる。
【0026】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、30000以上、200000以下であるのが好ましい。重量平均分子量が30000未満では、塗膜の柔軟性が不十分でクラック発生により電極容量が低下する場合がある。一方、重量平均分子量が200000を超えると、塗膜と電極合材の密着性が低下して塗膜の電極合材に対する保持力が低下し電極合材が脱落し易くなる場合がある。このような重量平均分子量は、アクリル系樹脂を適当な溶媒に分散してGPCを用いることにより測定することができる。
【0027】
高分子多糖類については、同種又は異種同士の混合物を用いてもよいが、他の高分子成分と併用することもできる。例えば、高分子多糖類としての硝化綿にメラミン系樹脂を添加することにより、導電性を更に向上させることができる。
【0028】
3.電極合材
本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、リチウムを吸蔵放出可能な活物質を含む電極合材を含有する。電極合材は、上記塗膜を介して金属壁に接触しつつ、三次元多孔質アルミニウムの空孔中に充填された状態で担持されている。電極合材は、活物質に加えて導電助剤と結着剤とを含んでいてもよい。
【0029】
3−1.正極活物質
正極活物質としては、非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウム金属酸化物を挙げることができる。
【0030】
3−2.導電助剤
電極合材に導電助剤を加えることにより、電極合材における導電性も向上する。導電助剤としては、上記塗膜に用いるのと同様のものを用いることができる。
【0031】
3−3.結着剤
電極合材に結着剤を加えることにより、結着剤を介しての成分の結合、すなわち正極活物質同士、導電助剤同士、正極活物質と導電助剤との結合が強固になって、集電体からの活物質の脱落がより起こり難くなる。用いる結着剤としては特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0032】
通常は、電極合材に導電助剤と結着剤とが加えられるが、この場合には、全電極合材(正極活物質+導電助剤+結着剤)に占める正極活物質の割合は、85〜95重量%とするのが好ましい。この割合が85重量%未満では正極活物質が不足して、高電極容量化が達成できない場合がある。一方、この割合が95重量%を超えると、正極全体としての導電性が低下し、また各成分同士や成分間における十分な結合が得られず、これまた高電極容量化が達成できない。
【0033】
B.非水電解質二次電池用正極の製造方法
本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、まず、アルミニウム粉末と支持粉末の混合粉末を用いて三次元多孔質アルミニウムを作製する。次いで、導電助剤、高分子結合剤及び分散媒を含む懸濁液を、三次元多孔質アルミニウムの集電体の内部に含浸させ、これを乾燥して分散媒を飛散・蒸発させ、導電助剤と高分子結合剤とを含む塗膜を金属壁上に形成する。更に、電極合材を溶媒に分散したスラリーを、塗膜が形成された三次元多孔質アルミニウムの内部に含浸させ、これを乾燥して溶媒を飛散・蒸発させ、塗膜を介して金属壁に接触するように電極合材を空孔中に充填する。最後に、電極合材を充填した三次元多孔質アルミニウムをプレス処理する。
【0034】
1.三次元多孔質アルミニウムの製造方法
三次元多孔質アルミニウムは、アルミニウム粉末と支持粉末の混合粉末を所定の圧力で加圧成形した後、この加圧成形体を不活性雰囲気中でアルミニウム粉末の融点以上で、かつ、後述の支持粉末の融点未満の温度域での熱処理により焼結させ、その後、支持粉末を除去して製造する。
【0035】
1−1.アルミニウム粉末
本発明で用いるアルミニウム粉末には、純アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末又はこれらの混合物が用いられる。使用環境下において合金成分が耐食性劣化の原因となるような場合には、純アルミニウム粉末を用いるのが好ましい。純アルミニウムとは、純度99.0mass%以上のアルミニウムである。
【0036】
一方、より高い強度を得たいといった場合には、アルミニウム合金粉末又はこれと純アルミニウム粉末の混合物を用いるのが好ましい。アルミニウム合金としては、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金が用いられる。
【0037】
アルミニウム粉末の粒径は1〜50μmが好ましい。多孔質アルミニウム集電体の製造において支持粉末の表面を満遍なくアルミニウム粉末で覆うためには、アルミニウム粉末の粒径はより小さい方が好ましく、1〜10μmが更に好ましい。アルミニウム粉末の粒径は、レーザー回折散乱法(マイクロトラック法)で測定したメジアン径で規定する。
【0038】
1−2.添加元素粉末
純アルミニウム粉末に添加元素粉末を加えた混合物を用いてもよい。このような添加元素には、マグネシウム、珪素、チタン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等から選択される単独又は二以上の任意の組み合わせからなる複数の元素が好適に用いられる。このような混合物は、熱処理によりアルミニウムと添加元素との合金を形成する。また、添加元素の種類によっては、アルミニウムと添加元素との金属間化合物が更に形成される。このようなアルミニウムの合金や金属間化合物の含有により、様々な効果が得られる。例えば、珪素や銅などの添加元素とアルミニウムとのアルミニウム合金では、アルミニウム粉末の融点が低下し、熱処理に必要な温度を下げることができるので製造に必要なエネルギーを削減できると共に、合金化によって強度が向上する。また、アルミニウムとニッケルなど添加元素との金属間化合物が形成される際に発熱が起こって焼結が促進されると共に、金属間化合物が分散した組織が形成されることで高強度化が図れる。
【0039】
アルミニウム合金粉末に添加元素粉末を加えてもよく、アルミニウム合金粉末と純アルミニウム粉末との混合物に、添加元素粉末を加えてもよい。これらの場合には、新たな合金系や金属間化合物が形成される。更に、添加元素粉末として、複数の添加元素粉末同士を合金化した添加元素合金粉末を用いてもよい。
【0040】
アルミニウム合金粉末や純アルミニウム粉末に対する添加元素粉末や添加元素合金粉末の添加量は、形成される合金や金属間化合物の化学式量に基づいて適宜決定される。
また、添加元素粉末の粒径は、1〜50μmが好ましい。純アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末、支持粉末との十分な混合を図るためにより微細であるのが好ましく、少なくとも支持粉末より細かいものが用いられる。添加元素粉末の粒径は、アルミニウム粉末と同様にレーザー回折散乱法(マイクロトラック法)で測定したメジアン径で規定する。
【0041】
1−3.支持粉末
本発明では支持粉末としては、アルミニウム粉末の融点よりも高い融点を有するものを用いる。また、混合粉末を金属板と複合化する場合には、アルミニウム粉末と金属板の低い方の融点よりも高い融点を有するものを用いる。このような支持粉末としては水溶性塩が好ましく、入手の容易性から塩化ナトリウムや塩化カリウムが好適に用いられる。支持粉末が除去されることで形成された空間が多孔質アルミニウムの孔になることから、支持粉末の粒径が孔径に反映される。そこで、本発明で用いる支持粉末の粒径は、10〜1000μmとするのが好ましい。支持粉末の粒径は、ふるいの目開きで規定する。従って、分級によって支持粉末の粒径を揃えることで、孔径の揃った多孔質アルミニウムが得られる。
【0042】
1−4.金属板
本発明においては、混合粉末を金属板と複合化した状態で用いてもよい。金属板とは無孔の板や箔及び、有孔の金網、エキスパンドメタル、パンチングメタル等の網状体である。金属板が支持体となり多孔質アルミニム集電体の強度が向上し、更に導電性が向上する。金属板としては熱処理時に蒸発又は分解しない素材、具体的にはアルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅等の金属やその合金製のものが好適に利用できる。
【0043】
混合粉末と金属板との複合化とは、例えば金属板に金網を用いた場合には、網目の中に混合粉末を充填しつつ網全体を混合粉末で覆うような一体化状態をいう。金属板の両側に結合金属粉末壁を設けた多孔質アルミニウムに例えば触媒や活物質を充填する場合、金属板が有孔の網状体であれば金属板で分けられる領域の片側からの充填であっても、もう一方の領域にまで充填することができるため、金属板は網状体であることが好ましい。ここで、有孔とは、金網の網目部分、パンチングメタルのパンチ部分、エキスパンドメタルの網目部分、金属繊維の繊維と繊維との隙間部分を言う。
網状体の有孔の孔径は、接合した混合粉末から支持粉末を除去して得られる孔の径より大きくても、小さくてもよい。
網状体の有孔の開口率は、多孔質アルミニウム集電体の気孔率を損なわないためにも大きい方が好ましい。
【0044】
1−5.混合方法
アルミニウム粉末と支持粉末の混合割合は、それぞれの体積をVal、Vsとしてアルミニウム粉末の体積率であるVal/(Val+Vs)が5〜20%とするのが好ましく、より好ましくは5〜10%である。ここで体積Val、Vsはそれぞれの質量と比重から求めた値である。アルミニウム粉末の体積率が20%を超える場合には、支持粉末の含有率が少な過ぎるために支持粉末同士が接触することなく独立して存在することになり、支持粉末を十分に除去しきれない。除去しきれない支持粉末は、多孔質アルミニウムの腐食の原因となる。一方、アルミニウム粉末の体積率が5%未満の場合には、多孔質アルミニウムを構成する壁が薄くなり過ぎることで、多孔質アルミニウムの強度が不十分となり、取り扱いや形状維持が困難となる。
また、支持粉末をアルミニウム粉末で十分に覆れた状態を達成するために、アルミニウム粉末の粒径(dal)が支持粉末の粒径(ds)に比べて十分に小さいこと、例えば、dal/dsが0.1以下であることが好ましい。
【0045】
なお、アルミニウムを支持粉末と混合する混合手段としては、振動攪拌機、容器回転混合機といったものが用いられるが、十分な混合状態が得られるのであれば特に限定されるものではない。
【0046】
1−6.複合化方法
混合粉末を成形用金型に充填する際に、混合粉末と金属板とを複合化してもよい。複合化の形態としては、混合粉末の間に金属板を挟んでも、混合粉末を金属板で挟んでも構わない。また、混合粉末と金属板の複合化を繰り返して多段にすることもできる。複合化の際にはアルミニウム粉末や支持粉末の粒径、混合割合の異なる混合粉末や、種類の異なる複数の金属板を組み合わせることもできる。
【0047】
1−7.加圧成形方法
加圧成形時の圧力は、200MPa以上とするのが好ましい。十分な圧力を加えて成形することでアルミニウム粉末同士が擦れ合い、アルミニウム粉末同士の焼結を阻害するアルミニウム粉末表面の強固な酸化皮膜が破壊される。この酸化皮膜は融解したアルミニウムを閉じ込め、互いに接触することを妨げると共に、融解アルミニウムとの濡れ性に劣り、液体状のアルミニウムを排斥する作用がある。そのため、加圧成形の圧力が200MPa未満の場合にはアルミニウム粉末表面の酸化皮膜の破壊が不十分で、加熱時に融解したアルミニウムが成形体の外に滲み出し玉状のアルミニウムの塊が形成される場合がある。アルミニウム塊が存在する状態で電極を作製した場合、この玉状のアルミニウム塊がセパレータを突き破ってショートの原因となる点で弊害となる。成形圧力は使用する装置や金型が許容する限り大きい方が形成される三次元多孔質アルミニウムの壁が強固になって好ましい。しかしながら、400MPaを超えると効果が飽和する傾向がある。加圧成形体の離型性を高める目的でステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸、各種ワックス、合成樹脂、オレフィン系合成炭化水素等の潤滑剤を使用することが好ましい。
【0048】
1−8.熱処理方法
熱処理は使用するアルミニウム粉末の融点以上で、かつ、支持粉末の融点未満の温度で行う。混合粉末を金属板と複合化する場合には、アルミニウム粉末の融点以上で、かつ、支持粉末の融点未満の温度で熱処理を行う。また、アルミニウム粉末の融点とは、純アルミニウム又はアルミニウム合金の液相が生じる温度であり、金属板の融点とは、同様に液相が生じる温度である。液相が生じる温度まで加熱することで、アルミニウム粉末及び金属板から液相が滲み出し、液相同士が接触することでアルミニウム粉末同士、アルミニウム粉末と金属板が金属的に結合する。
【0049】
熱処理温度が上記融点未満の場合には、アルミニウムが融解しないためにアルミニウム粉末同士、アルミニウム粉末と金属板との結合が不十分となる。また、上記融点以上に加熱すると、焼結体の最表面に位置する支持粉末の表面を覆っていたアルミニウムが除去され、開口率が大きな表面を有する焼結体が形成される。焼結体の開口率が大きいと、集電体に適用した際に活物質を充填するのに有利である。
【0050】
加熱温度が支持粉末の融点以上では支持粉末が融解してしまうため、加熱は支持粉末の融点未満の温度で行う。支持粉末として塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの水溶性塩を用いる場合には、好ましくは700℃未満、更に好ましくは680℃未満で熱処理を行う。支持粉末の融点以上の温度で加熱した場合には、支持粉末の融解に伴い有孔体の形状を維持できない。また、温度が高くなるほど融解したアルミニウムの粘度が低下し、加圧成形体の外側にまで融解したアルミニウムが滲み出て、凸状のアルミニウム塊が形成される。アルミニウム塊が存在する状態で電極を作製した場合、この凸状の部分がセパレータを突き破ってショートを起こす原因となる点で弊害となる。熱処理における加熱保持時間は、1〜60分程度が好ましい。また、熱処理時に加圧成形体に荷重を掛け、加圧成形体の圧縮を行ったり、加熱と冷却の繰り返しを複数回行ってもよい。
【0051】
熱処理を行う不活性雰囲気はアルミニウムの酸化を抑制する雰囲気であり、真空;窒素、アルゴン、水素、分解アンモニア及びこれらの混合ガス;の雰囲気が好適に用いられ、真空雰囲気が好ましい。真空雰囲気は、好ましくは2×10−2Pa以下、更に好ましくは1×10−2Pa以下である。2×10−2Paを超える場合、アルミニウム粉末表面に吸着した水分の除去が不十分となり、熱処理時にアルミニウム表面の酸化が進行する。前述のとおりアルミニウム表面の酸化皮膜は液体状のアルミニウムとの濡れ性に劣り、その結果、融解したアルミニウムが滲み出し玉状の塊が形成される。窒素等の不活性ガス雰囲気の場合は、酸素濃度を200ppm以下、露点を−35℃以下にすることが好ましい。
【0052】
1−9.支持粉末の除去方法
焼結体中の支持粉末の除去は、支持粉末を水に溶出させて行う方法が好適に用いられる。焼結体を十分な量の水浴または流水浴に浸漬する等の方法により、支持粉末を容易に溶出することができる。支持粉末として水溶性塩を用いる場合には、これを溶出させる水は、イオン交換水や蒸留水等、不純物の少ない方が好ましいが、水道水でも特に問題は無い。浸漬時間は、通常、数時間〜24時間程度の範囲で適宜選択される。浸漬中に超音波等によって振動を与えることにより、溶出を促進することもできる。
【0053】
2.塗膜の形成方法
2−1.塗膜用懸濁液の調製
上記のようにして作製した三次元多孔質アルミニウムの金属壁の表面に、導電助剤と高分子結合剤とから成る塗膜を形成する。まず、導電助剤、高分子結合剤及び分散媒から成る懸濁液を調製する。導電助剤と高分子結合剤は上述のものが用いられる。高分子結合剤を分散又は溶解させた分散媒に導電助剤を添加することにより、導電助剤、高分子結合剤及び分散媒から成る懸濁液を調製する。高分子結合剤の固形分100質量部に対して、導電助剤を固形分で20〜80質量部の割合で添加するのが好ましい。分散媒としては、水やアルコールの他、NMP等の有機溶剤を用いることもできる。また、懸濁液の粘度を調整する目的で、塗膜の性能を損なわない範囲でCMC等の増粘剤を加えてもよい。なお、懸濁液中の導電助剤と高分子結合剤との含有量(濃度)は、懸濁液の粘度等を考慮して適宜決定される。また、分散方法は特に限定されるものではなく、ボールミルやホモジナイザー等の既知の分散方法を適用できる。
【0054】
2−2.塗膜形成
三次元多孔質アルミニウムの空孔内面も含めた内部全体に、上記懸濁液を接触させこれを含浸させる。次いで、含浸しきれなかった余分の懸濁液を除去し、更に乾燥によって分散媒を飛散・蒸発させる。三次元多孔質アルミニウムに懸濁液を接触させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、懸濁液に三次元多孔質アルミニウムを浸漬する方法、固定した三次元多孔質アルミニウム中において懸濁液を透過させる方法などが用いられる。三次元多孔質アルミニウムに懸濁液を接触させる直前、又は接触させている最中に、三次元多孔質アルミニウムを減圧状態に保持することによって懸濁液との接触を妨げる原因となる三次元多孔質アルミニウム中の空気を除去してもよい。更に、三次元多孔質アルミニウムに対する懸濁液の濡れ性を高めるために、三次元多孔質アルミニウムに懸濁液を接触させる直前に、懸濁液の分散媒と親和性の溶剤で三次元多孔質アルミニウム全体を処理してもよい。
【0055】
三次元多孔質アルミニウムからの余分な懸濁液の除去方法は、特に限定されるものではない。例えば、三次元多孔質アルミニウムを鉛直方向に沿って垂下し、重力で余分な懸濁液を自然落下させる方法;三次元多孔質アルミニウムを分散媒が染み込み易い材料と接触させて余分な懸濁液を吸い取る方法;三次元多孔質アルミニウム中に気体を透過させることにより、余分な懸濁液を内部から追い出す方法;などを用いることができ、これら方法を二つ以上組み合わせてもよい。余分な懸濁液を除去した後の乾燥条件は特に限定されるものではないが、50〜250℃の温度で1〜60分間保持するのが好ましい。
【0056】
3.電極合材の充填方法
3−1.充填用スラリーの調製
上記のようにして塗膜を形成した三次元多孔質アルミニウムの空孔内に、塗膜を介して金属壁に接触するように電極合材を充填する。
電極合材は正極活物質を含み、導電助剤及び結着剤を更に含んでいるのが好ましい。正極活物質、導電助剤及び結着剤のスラリー中の濃度は限定されるものではなく、スラリー粘度などの観点から適宜選択すれば良い。また、粘度調整に増粘剤を加えても良く、良好な分散状態とするために分散剤を加えても良い。スラリーの溶媒も特に限定されるものではないが、例えば、N‐メチル‐2‐ピロリドン、水等が好適に用いられる。結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、N‐メチル‐2‐ピロリドンを溶媒に用いるのが好ましく、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いる場合は、水を溶媒に用いるのが好ましい。
【0057】
3−2.電極合材の充填
正極活物質、導電助剤及び結着剤(必要に応じて、増粘剤及び/又は分散剤)の成分を溶媒に分散したスラリーは、例えば、圧入法などの公知の方法により多孔質アルミニウム中に充填される。圧入法としては、多孔質アルミニウムを隔膜として一方側にスラリーを配置し、他方側はスラリーの透過側とするものである。そして、他方側の透過側を減圧にしてスラリーを透過させるにことによって、多孔質アルミニウムの空孔中に上記各成分を充填するものである。これに替わって、一方側に配置したスラリーを加圧することにより、多孔質アルミニウムの孔中に上記各成分を充填してもよい。
また、圧入法に替えて、上記各成分を溶媒に分散したスラリー中に多孔質アルミニウムを浸漬し、上記各成分を多孔質アルミニウムの空孔中に拡散させる方法(以下、「浸漬法」と称する)を採用してもよい。
以上のようにして上記各成分が充填された正極は溶媒を飛散・蒸発させて乾燥されるが、乾燥条件としては、50〜200℃で1〜60分間保持するのが好ましい。
【0058】
4.プレス処理
このようにして作製される非水二次電池用正極は、ロールプレス機や平板プレス機等を用いて加圧するプレス処理によって活物質を含む電極合材の電極密度が調整される。特に、平板プレス機を用いてプレス処理するのが望ましい。このようなプレス処理により、電極合材の電極密度向上率を110〜500%とすることが好ましい。電極密度向上率が110%未満では、プレス処理が不十分であり、塗膜を介して電極合材と三次元多孔質アルミニウムの金属壁との十分な接触が図れず電気抵抗が増大する場合がある。一方、電極密度向上率が500%を超えると、過剰なプレス処理により電極内部に電解液が染み込み難くなり、リチウムイオンの拡散が阻害されて電池特性が低下する場合がある。
【0059】
ここで、電極合材の電極密度とは、電極において活物質を含む電極合材が占める体積をV(cm)とし、電極合材の質量をW(g)とした際に、W/V(g/cm)で表わされるものとする。また、電極密度向上率とは、電極合材が充填された直後の電極密度(W/V)beに対する、プレス処理等により緻密にした後の電極密度(W/V)afの比を%で表わしたもの、すなわち、{(W/V)af/(W/V)be}×100(%)で示されるものである。
【0060】
C.非水電解質二次電池
本発明に係る非水電解質二次電池は、上記非水電解質用正極と、リチウムの吸蔵放出が可能な負極と、正負極間に配置されたセパレータと、非水電解質とを用いて組み立てられる。
【0061】
1.負極
負極にも、正極と同様の多孔質アルミニウム集電体を用い、その孔中に負極活物質を含む電極合材を充填してもよく、この電極合材にも、正極と同様の導電助剤と結着剤を用いてもよい。これに代えて、負極集電体と、負極活物質を含む電極合材を溶媒に分散したスラリーを負極集電体上に塗布することにより形成した電極合材層とから負極を用いてもよい。この場合にも、電極合材に導電助剤と結合剤を含有させてもよい。
【0062】
負極活物質としては非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボンやソフトカーボンなどの炭素材料;Al、Si、Sn等のリチウムと化合することができる金属材料や合金材料;チタン酸リチウム(LiTi12)などの酸化物材料;を用いることができる。
【0063】
2.セパレータと非水電解質
正極と負極のセパレータとしては、一般的に用いられているポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの高分子膜が用いられる。また、非水電解質としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの有機溶媒に溶解させた六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)を用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下に発明例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
発明例1〜7及び比較例1〜5
(三次元多孔質アルミニウムの作製)
アルミニウム粉末としてアルミニウム純度99.9%、粒径3μmの純アルミニウム粉末(融点:660℃)を、支持粉末として篩目開きで300〜500μmの塩化ナトリウム粉末(融点:800℃)を用いた。これらアルミニウム粉末と支持粉末を、体積比でアルミニウム粉末:支持粉末=1:9の割合で混合して混合粉末を調製した。
【0066】
上記混合粉末を直径13mmの穴を有する金型に充填し、400MPaで加圧成形した。混合物の充填量は加圧成形体の厚さが1mmとなる重量とした。この加圧成形体を最大到達圧力が1×10−2Pa以下、670℃の雰囲気下において5分間保持する熱処理を施して焼結体を作製した。得られた集電体を冷却後、20℃の流水(水道水)中に6時間浸漬して支持粉末を溶出させ、三次元多孔質アルミニウム試料(直径13mm×厚さ1mm)を作製した。作製した三次元多孔質アルミニウム試料について、上記式(1)から気孔率を求めた。
【0067】
(塗膜の形成)
上記のようにして作製した三次元多孔質アルミニウムの金属壁上に、導電助剤と高分子結合剤とを含む塗膜を形成した。なお、比較例1では、塗膜を形成しなかった。
【0068】
高分子結合剤のモノマーとして、メタクリル酸エチル、ブチルアクリレート、メチルメタクリレートを用い、この順に10:70:20の質量比でこれらモノマーを配合し、重量平均分子量が90000〜120000の範囲のアクリル共重合体を重合して、高分子結合剤とした。次いで、界面活性剤を用いて上記高分子結合剤を分散媒である水に分散させて分散液を調製した。この分散液に高分子結合剤の固形分100質量部に対して表1に示す質量部で導電助剤としてアセチレンブラックを添加し、ボールミルにて8時間分散して塗膜形成用の懸濁液を調製した。
【0069】
【表1】
【0070】
上記懸濁液100ミリリットルと上記三次元多孔質アルミニウム試料を密閉された容器に入れ、この容器を5分間ロータリーポンプで減圧した。減圧した状態で懸濁液中に三次元多孔質アルミニウム試料を浸漬させ、容器内を大気圧に戻したところで三次元多孔質アルミニウムを懸濁液から引き上げた。懸濁液から引き上げた各三次元多孔質アルミニウム試料を、濾紙を敷いたブフナロート上に置き、吸引濾過により各三次元多孔質アルミニウムに付着している余分な懸濁液を除去した。次いで、吸引濾過した各三次元多孔質アルミニウムを150℃の乾燥装置内で10分間乾燥し、各三次元多孔質アルミニウムの金属壁上に塗膜を形成した。
【0071】
各三次元多孔質アルミニウム試料の単位体積当たりの塗膜質量(g/cm)を、表1に示す。この塗膜質量は、塗膜形成後の三次元多孔質アルミニウム試料の質量から塗膜形成前の質量を差し引いた全塗膜質量(g)を、塗膜形成前の三次元多孔質アルミニウム試料の体積で割ったものである。
【0072】
(電極合材の充填)
正極活物質としてリン酸鉄リチウム100重量部、導電助剤としてアセチレンブラック5.0重量部、結着剤としてPVDF5.5重量部を用い、これらを200重量部のNMPに分散して電極合材のスラリーを調製した。
【0073】
前記浸漬法を用いて、正極活物質、導電助剤及び結着剤を溶媒に分散したスラリー中に塗膜を設けた各三次元多孔質アルミニウムを密閉された容器に入れ、ロータリーポンプで5分間減圧した後、三次元多孔質アルミニウムをスラリー中に浸漬した。浸漬後、容器内を大気圧に戻し、スラリーから引き上げた多孔質アルミニウムの表裏面に付着した余分のスラリーを、ヘラを用いて擦り切り落とした。
【0074】
次いで、スラリーを充填した各三次元多孔質アルミニウム試料を120℃の乾燥装置内で60分間乾燥させ、正極の電極合材を充填した各三次元多孔質アルミニウム試料を作製した。最後に、これら試料を平板プレス機により圧力0.50トン/cmでプレス処理して各非水電解質二次電池用正極試料とした。
【0075】
(評価セルの作製)
上記のプレス処理した正極試料を作用極とし、対極及び参照極にリチウム金属を用い、これらの電極間にポリプロピレン製マイクロポーラスセパレータを挟んで電池ケースに収めてコイン型電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比でEC:EMC=3:7)にLiPFを1mol/L溶解させた非水電解液を用いた。
【0076】
(放電レート特性)
上述のように作製した電池を用いて、充放電特性の評価試験を行った。充放電試験は0.2Cの電流で4.0Vまで充電し、0.2Cと5Cの電流で放電させ、このときの0.2C放電時と5C放電時の初期放電電圧の差を測定した。ここで、1Cはその電池の電流容量(Ah)を1時間(h)で取り出す時の電流値(A)である。初期放電電圧の差が0.65V以下のものを○、0.65Vより高く0.70V以下であるものを△、0.70Vを超えるものを×とし、○及び△を合格、×を不合格とした。結果を表1に示す。
【0077】
(0.2C放電容量)
また、0.2Cで放電した時の容量を電極中の活物質の質量で割った0.2C放電容量を求めた。これが120mAh/g以上のものを○、それ未満のものを×とし、○を合格、×を不合格とした。結果を表1に示す。
【0078】
(500サイクル試験後における正極活物質の脱落)
0.2Cの電流で4Vまで充電し、0.2Cで2.0Vまで放電させる充放電試験を1サイクルとして、この充放電試験の500サイクル後に正極試料から正極活物質が脱落したか否かを目視観察により評価した。正極活物質の脱落がなかったものを○、正極活物質の脱落が若干見られたものを△、正極活物質の脱落が顕著に見られたものを×とし、○及び△を合格、×を不合格とした。結果を表1に示す。
【0079】
(総合評価)
上記の放電レート特性、0.2C放電容量、ならびに、500サイクル試験後の正極活物質の脱落有無の評価において、全て○の場合を総合評価が○、○と△で構成されている場合を総合評価が△、一つ以上の×が含まれている場合を総合評価が×とし、○及び△を総合評価が合格、×を総合評価が不合格とした。結果を表1に示す。
【0080】
発明例1〜7では、三次元多孔質アルミニウム試料の単位体積当たりの塗膜質量及び正極活物質の質量がそれぞれ、本発明で規定する範囲内であった。その結果、放電レート特性、0.2C放電容量、ならびに、500サイクル試験後の正極活物質の脱落有無の評価がいずれも合格であり、総合評価も合格となった。
【0081】
比較例1では、導電助剤と高分子結合剤の混合物から成る塗膜を形成しなかったために、三次元多孔質アルミニウムにおける正極活物質の保持力が不十分となり、500サイクル試験後における正極活物質の脱落が顕著であった。また、電極合材と三次元多孔質アルミニウム集電体との電気的な接触が不十分となる部分が生じることで、放電レート特性が不合格であった。その結果、総合評価も不合格となった。
【0082】
比較例2では、三次元多孔質アルミニウムに形成された塗膜質量が少な過ぎたために、三次元多孔質アルミニウムにおける正極活物質の保持力が不十分となり、500サイクル試験後の正極活物質の脱落が顕著に見られた。その結果、総合評価も不合格となった。
【0083】
比較例3では、三次元多孔質アルミニウムに形成された塗膜質量が多過ぎたために、塗膜によって三次元多孔質アルミニウムの小孔が一部塞がれた状態となり、空孔内に十分な正極活物質を充填できなかった。また、小孔が一部塞がれたことでイオン導電率が低下して0.2C放電容量が不合格となり、総合評価も不合格となった。
【0084】
比較例4では、三次元多孔質アルミニウムに形成された塗膜質量が多過ぎたために、塗膜によって三次元多孔質アルミニウムの小孔が一部塞がれた状態となり、空孔内に十分な正極活物質を充填できなかった。また、小孔が一部塞がれたことでイオン導電率が低下して0.2C放電容量が不合格となった。また、三次元多孔質アルミニウムに形成された塗膜の導電助剤の割合が少な過ぎたために、三次元多孔質アルミニウムと活物質との電気的導通が不十分となり、放電レート特性が不合格であった。これらの結果、総合評価も不合格となった。
【0085】
比較例5では、三次元多孔質アルミニウムに形成された塗膜質量が少な過ぎ、かつ、この塗膜における高分子結合剤の割合が少な過ぎたために、三次元多孔質アルミニウムにおける正極活物質の保持力が不十分となり、500サイクル試験後の活物質の脱落が顕著に見られた。その結果、総合評価も不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、充放電サイクルを繰り返した際における活物質の脱落が抑制され、電極容量の低下も防止される。更に、当該非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池によって、電池性能として高エネルギー密度が達成される。
【符号の説明】
【0087】
1・・空孔
2・・金属壁
3・・小孔
図1