(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2系列の編組織が、互いに対象形のジグザグ形状に形成されるアトラス組織であり、それぞれのアトラス組織が糸抜き部を有し、糸抜き部以外が正四辺形部を形成していることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性生地。
2系列の編組織で形成されるトリコット編地が、穴目を有するネット組織で形成され、穴目の中央縦方向に線状補強部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性生地。
【背景技術】
【0002】
各種ファッション衣料やスポーツ衣料、更には一部の寝具等に使用される素材に要求される機能の一つに透湿防水性機能がある。
透湿防水性機能とは、雨などの水は通さず、水蒸気は通過させる機能である。
例えば、登山用ヤッケ等には、外部からの雨や露を透過せず、身体から発散する水蒸気状態の汗は外部に透過、放出させる機能が求められる。
【0003】
また、昨今では、中綿を用いるダウンウェアーや羽布団、寝袋等にも透湿防水性機能が求められている。
このような要求機能に応える素材として多くの提案がなされてきた。
例えば特許文献1に見られるように、ミクロポーラスフィルムにポリエステル織物のような布帛を接着した衣料等に用いられる2層構造の透湿防水性布帛が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、織物や編物に薄膜状に押し出した透湿性樹脂をラミネートする2層構造の透湿防水性シートの製造方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、極細繊維から成る繊維構造体を織物や編物などの基材に積層し、且つ、該繊維構造体の表面に織物や編物、不織布から成る保護層を設けた耐水性、透湿性、ストレッチ性を有する透湿防水性生地の提案がなされている。
【0006】
そして、特許文献4では、表地であるシェル布帛と裏地であるトリコット編地と、その間に設けられる防水膜とで構成される3層構造の防水通気性布地が提案されている。
【0007】
また、特許文献5では、ダウンウエアーやダウンを使用した寝袋、布団等に使用される吹き出し防止を目的とした織物が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、透湿防水性生地については多くの提案がなされてきた。
しかし、これらの透湿防水性生地は一定の透湿防水機能は有しているものの、使用者、更には製造者の立場から見ると、スポーツ衣料やファッション衣料、一部の寝具用等の製造に供されるこれらの素材に対して未だに解決されてない要求機能がある。
【0010】
それは、一つに、最近のスポーツ衣料やファッション衣料に求められる機能性には、今まで以上に薄地で軽量の素材機能が求められている。
例えば、ダウンウエアーやウインドブレーカー等には透湿防水機能と、薄手、軽量であることが求められてきた。
併せて、これらの要求機能を満足する衣料等製品を製造するために供される素材には、これをそのまま裁断、縫製加工して製品を得ることができる簡便性が求められている。
これらの要求を満足する素材が提供されれば、製造工程の簡略化、製造時間の短縮、強いては生産コストの低減化も可能となる。
【0011】
一方、一部の衣類や布団等の寝具類にダウンが使用されているが、これらの製造に提供される素材には、透湿防水性機能と併せて、表地や裏地、つまり、側地からダウンが抜け出ることを防止する機能が求められる。
そして、布団等には、使用によってダウン等の中綿の移動や偏りが発生することを防止する機能も求められる。
【0012】
上記ダウンの抜け出しを防止するために、織物の経糸や緯糸の密度を高くさせる手段があるが、密度が高すぎると抜け出し防止には一定の効果は見られるものの通気性が低下する問題や、硬くなって使い心地が悪くなる等の問題が発生する。
そして、ダウンの移動、偏りを防止するために布団の内部に隔壁を設けているが、隔壁の存在によりごわごわする等、布団の使用感にも問題を起こす。
【0013】
このような要求の観点から従来技術を見てみると、例えば、特許文献1における透湿防水性布帛では、ミクロポーラスフィルムと織物等の布帛を積層、貼り合わせたものであり、安価で寸法安定性を主眼とした布帛を提供することとしている。
しかし、この透湿防水性布帛においては、布帛の薄手、軽量化、更には製造工程の簡略化等についての配慮は見られない。また、これをそのまま、裁断、縫製してスポーツ衣料等を製造するには無理がある。
【0014】
また、特許文献2に示される透湿防水性シートにおいても特許文献1で示されるものと構造的に同様であり、織物や編物、不織布等の基材に透湿性樹脂をラミネートした構造のものであり、中間素材としての要求性能を備えているものとは言い難い。
【0015】
更に、特許文献3で示される透湿防水性生地は、表地と見るべき保護素材と裏地と見るべき基材に織物や編物が使用され、その間に透湿防水性の繊維構造体が設けられ、そのまま裁断縫製して製品を得ることが可能な構造となっている。
しかし、使用されている織物や編物について、薄手、軽量化の要求機能への配慮がなされているとは言い難い。
【0016】
そして、特許文献4においても、表地、透湿防水膜、裏地の3層構造でなる透湿防水性生地が提案されているものの、表地や裏地のトリコット編地にはサーフィン等の激しい衝撃に耐え得る強度が主張されていて、少なくとも昨今求められている薄地、軽量化に対する技術的手段が提案されているものではない。
【0017】
また、特許文献5では、中綿を使用する衣料に供される素材として織物が提案され、ダウン等の抜け出し防止には一定の効果は得ているものと思われるが、透湿防水性機能に配慮された素材ではない。
【0018】
このように、従来技術においては、透湿防水性の機能を有し、織物や編物との積層、貼り合わせ構造を有する生地、シートに関する一定の提案はなされてきた。
しかし、これらの提案は、今日、求められている軽量、薄手化への配慮や、そのまま裁断縫製に供し得る簡便性、更には中綿を使用したダウンウエアー等における抜け出し防止等に対する技術的手段がなされているものとは言い難いものであった。
【0019】
本発明は、以上のような諸事情を背景になされたものである。
すなわち、本発明の目的とするところは、薄地、軽量で、スポーツ衣料や寝具等の素材として有すべき機能性や意匠を有していて、そのまま裁断縫製して製品化することが可能である透湿防水性生地を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、鋭意、研究した結果、発明者等は、表部材と裏部材と、その間に設けられる透湿防水性部材とからなり、表部材と裏部材、又はそのいずれか一方に、衣料等の表地、裏地としての機能性やその機能性に裏付けされた意匠を有すると共に透湿防水性部材に対する保護機能を有し、且つ、透湿防水性部材の性能を妨げない薄手、軽量の特殊なトリコット編地を採用し、そのまま裁断縫製に供して製品とすることができる透湿防水性生地を開発したものである。
【0021】
即ち、本発明は、(1)、表部材と裏部材と、該表部材と裏部材の間に設けられ
、水は通さず、水蒸気は通過させる機能を有する透湿防水性部材とからなり
、表部材、裏部材、透湿防水性部材が互いにラミネートされて
おり、表部材と裏部材、又はそのいずれか一方が、2系列の編組織で形成されるトリコット編地であり、トリコット編地が、5dtex〜12dtexの合成繊維を編成糸として編成される地編部と、5dtex〜12dtexの合成繊維を編成糸として地編部に重ねて編成される重ね編部とで形成され、地編部が二目編み組織であり、重ね編部が、地編部のみが存在する糸抜き部を一定周期で有するジグザグ形状のアトラス編み組織であり、該糸抜き部は薄地部を形成し、該糸抜き部以外は厚地部を形成し、一定の範囲で曲折した際、その曲折線上に薄地部と厚地部が混在している透湿防水性生地に存する。
【0024】
即ち、本発明は、(
2)、2系列の編組織が、互いに対象形のジグザグ形状に形成されるアトラス組織であり、それぞれのアトラス組織が糸抜き部を有し、糸抜き部以外が正四辺形部を形成している上記(1)記載の透湿防水性生地に存する。
【0026】
即ち、本発明は、(
3)、2系列の編組織で形成されるトリコット編地が、穴目を有するネット組織で形成され、穴目の中央縦方向に線状補強部が形成されている上記(1)記載の透湿防水性生地に存する。
【0027】
即ち、本発明は、(
4)、編成糸に、ポリウレタン素材と熱融着素材で形成された熱融着性ポリウレタン糸が使用されている上記(1)記載の透湿防水性生地に存する。
【0028】
即ち、本発明は、(
5)、編成糸に、割繊糸が使用されている上記(1)記載の透湿防水性生地に存する。
【0029】
即ち、本発明は、(
6)、
トリコット編地の厚みが0.05mm〜0.15mmで目付が13g/m
2以下である
上記(1)記載の透湿防水性生地に存する。
【0030】
なお、本発明の目的に沿ったものであれば上記(1)〜(
6)を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の透湿防水性生地は、表部材と裏部材、又はそのいずれか一方に使用するトリコット編地が、5dtex〜12dtexの合成繊維を編成糸として用いたトリコット編地であるので、厚みが0.05mm〜0.15mmで目付が13g/m
2以下に収まり、該トリコット編地をラミネートした本透湿防水性生地は、従来にない極めて薄手で軽量なものとなる。
【0032】
そして、本発明の透湿防水性生地に用いるトリコット編地は、極めて細い編成糸で形成されているので通気性に優れ、これを透湿防水性部材にラミネートした場合、透湿防水性部材の透湿防水性機能を阻害することなく、その表面を保護することができる。
【0033】
そして、本発明の透湿防水性生地に用いるトリコット編地が2系列の編組織により、地編部と地編部に重ねて編成される重ね編部とで形成され、前記重ね編部が糸抜き部を有している場合には、該糸抜き部には地編部のみが存在することとなり、より通気性が良くなり、透湿防水性部材の透湿性機能が更に発揮される。
【0034】
そして、本トリコット編地の地編部が二目編み組織である場合には、その編成原理によりニードルループが2重になると共に、互いに隣接する2つの編目がシンカーループにより横方向に繋がった状態となり、より安定した編地となる。
【0035】
そして、重ね編部が糸抜き部を有するジグザグ形状のアトラス編み組織である場合には、糸抜き部の箇所はジグザグ形状の地編部となって、より通気性がまして透湿防水性部材の透湿性機能が発揮される。
そして、重ね編部もジグザグ形状の帯状となり、透湿防水性生地が使用中に一定の範囲で折れても、その折れ線上には必ず、重ね編部が存在し、地編部が表出して透湿防水性部材が損傷を受けることが回避でき、透湿防水性部材の良好な状態が維持できる。
【0036】
そして、本トリコット編地の2系列の編組織がアトラス組織であり、それぞれのアトラス組織が糸抜き部を有し、糸抜き部以外が正四辺形の重ね編部を形成している場合には、本透湿防水性生地が使用中に外部からの摩擦、擦過を受けた場合でも、重ね編部の存在が、糸抜き部への摩擦、擦過を回避して糸抜き部の透湿防水性部材が損傷を受けることがない。
また、正四辺形の重ね編部が意匠効果をもたらす利点がある。
【0037】
そして、本トリコット編地が、円形状の穴目を有するネット組織で形成されるネット状トリコット編地であり、円形状の穴目の中央縦方向に線状補強部が形成されている場合には穴目により透湿防水性部材の透湿性機能が充分に発揮される。
そして、穴目から露出、表出する透湿防水性部材を線状補強部が補強しているので透湿防水性部材に損傷が生じない。
更に線状補強部は穴目の延びを適度に押さえるので形態安定性の良いネット状トリコット編地を得ることができる。
【0038】
そして、本発明の透湿防水性生地に用いるトリコット編地の編成糸に、ポリウレタン素材と熱融着素材で形成された熱融着性ポリウレタン糸が使用されている場合には、編成の後、熱処理により熱融着性ポリウレタン糸の表面の熱融着素材が溶融固化して編成糸同士が融着し編地の形態維持性が向上すると共にカット端や糸切れ箇所等から解れることがない。
【0039】
そして、本発明の透湿防水性生地に用いるトリコット編地の編成糸に、割繊糸が使用されている場合には、編成後、アルカリ処理を施すことにより例えば1本の糸が7本のフィラメントに分割されて適度な柔軟性とソフトな風合いを有するトリコット編地が得られ、このトリコット編地をラミネートした透湿防水性生地の表面風合いの向上が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0042】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、
図1の説明図(矢印方向にラミネート)に示すように、表部材11と裏部材13、そしてこれらの間に設けられる透湿防水性部材12とで構成される透湿防水性生地1について示す。
表部材11としては、織物、トリコット編地、丸編地などの布帛を用いることが可能であるが、本実施の形態では衣料用トリコット編地を用いている。
裏部材13には本発明に係るトリコット編地Tを使用している。
そして透湿防水性部材12には、エントラントフィルム(商品名)を用いている。
【0043】
裏部材11のトリコット編地Tは、
図2の説明図(一部省略)に示すように、28ゲージのトリコット機Wにより2枚オサ(オサL1、オサL2)を使用して編成される。
ここで、ゲージとは1インチ(2.54cm)間に配列される編針Nの本数であり、また、オサとは、トリコット機Wに装備される部材であり、このオサの動きにより編成糸Yを制御してトリコット編地Tの組織が編成される。
よって、2枚オサ、つまり2枚のオサでは、2系列の組織が編成される。
【0044】
本実施の形態では、裏部材13のトリコット編地Tは、
図3の組織図に示すようにオサL1で組織C1(2−0/1−3)により地編部Gを、オサL2で組織C2(1−0/2−3/4−5/6−7/8−9/7−6/5−4/3−2)により重ね編部Dを形成している。
組織C1は二目編み(ふためあみ)である。
【0045】
二目編みは、一度に2本のニードルに編成糸をかけてニードルループを形成するのでその編成原理上、
図4(一部を太線で示す)の組織実体図に示すように編み上がった編地のニードルループNLは2重(ニードルループNL1、NL2)になると共に、互いに隣接する2個のニードルループNL1、NL1がシンカーループS1で横方向に繋がった状態となる。
同様にニードルループNL2、NL2もシンカーループS2で繋がった状態になる。
このことにより横方向の伸びが適度に抑えられ安定した編地が得られる特徴がある。
【0046】
そして、組織C2はアトラス編みである。アトラス編みは、
図3に示すように、ジグザグ状に編成される組織である。
本実施の形態では6本の編成糸毎に3本の編成糸を抜いて糸抜き部Fを形成しているので、重ね編部Dは、6本の編成糸による一定の幅をもったジグザグ形状の帯状となり、これが糸抜き部Fを挟んで横方向に繰り返して形成される。
糸抜き部Fには地編部Gのみが存在する。
よって、糸抜き部Fは重ね編部Dが存在する箇所に比べて、薄地で通気性の良い特徴を持つ。
【0047】
また、重ね編部Dが地編部G上にジグザグ形状の帯状となって存在するので、透湿防水性生地が使用中に一定の範囲で折れても、その折れ線上には必ず、重ね編部が存在するので、この重ね編部Dが地編部Gへの外部からの接触を回避して透湿防水性部材が損傷を受けることがない。
そして、組織C1を形成する編成糸Y1、並びに組織C2を形成する編成糸Y2には、いずれも8dtexのナイロン糸を用いている。
【0048】
通常、トリコット編機においてはそのゲージに見合った太さの編成糸が用いられる。
例えば、28ゲージのトリコット機においては、その編成に適合した編成糸の太さ、つまり、適合繊度は70〜100dtexである。
これに対し、本実施の形態で裏部材13の編成に用いた編成糸Y1、Y2の太さは、それぞれ8dtexであり極めて細い。
この結果、ニードルループNL同士が互いに滑り、編地形態が不安定となる。
この問題を防ぐためにフィルム形状の透湿防水性部材12とラミネートして形態安定性を得ている。
【0049】
形成された裏部材13は、その目付が、約11g/m
2、厚みが、約0.07mmであり、薄地、軽量のトリコット編地Tとなる。
この裏部材13とトリコット編地Tの表部材11の間に透湿防水性部材12を挟み込み、接着剤によりラミネートして透湿防水性生地1を得る。
上記のごとく裏部材13が薄地、軽量であるので従来技術によって製造される3層構造の透湿防水性生地の厚み、重量に比べて飛躍的に薄くて軽い透湿防水性生地1が得られる。
【0050】
透湿防水性部材12そのものは、例えば、エントラントフィルム(商品名)の場合、厚みが20μの薄い素材であり、直接的な接触には損傷を受けやすい。
そこで、これを他の素材で保護することが求められるが、本トリコット編地Tは充分な通気性と強度を有していて透湿防水性部材12の透湿防水性能を妨げることなく、透湿防水性部材12を保護することができる。
【0051】
本透湿防水性生地1は、表部材11のトリコット編地がスポーツ衣料等の表地としての強度、柔軟性、風合い、デザイン等を有している。
そして裏部材13のトリコット編地Tがスポーツ衣料等の裏地としての機能を有している。
本透湿防水性生地1の裏地としての機能は、一つには、透湿防水性能を阻害することなく透湿防水性部材12を被覆する機能、一つには、裏地としての強度、風合い、デザインを有していることが挙げられる。
本透湿防水性生地1は上記のような特徴を有しているので、本透湿防水性生地1のみでヤッケや、ウインドブレーカ等のスポーツ衣料を構成、製造することができ、製造工程の簡略化を可能とする。
【0052】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、裏部材13のトリコット編地Tは、
図5の組織図(一部を太線で示す)に示すようにオサL1で組織C1(5−6/5−4/5−6/4−3/4−5/3−2/3−4/2−1/2−3/1−0/1−2/1−0/2−3/2−1/3−4/3−2/4−5/4−3)を、オサL2で組織C2(1−0/1−2/1−0/2−3/2−1/3−4/3−2/4−5/4−3/5−6/5−4/5−6/4−3/4−5/3−2/3−4/2−1/2−3)を編成する。組織C1、C2は互いに対称形のジグザグ形状のアトラス組織である。
それぞれが13イン3アウトを1リピートとして繰り返してオサに通糸し、オサ位置を適宜、調整して編成する。
【0053】
こうして編成されたトリコット編地Tは、
図6の組織概要図に示すように、オサL1、オサL2の糸抜き部(3アウトの部分)が互いに対称的なジグザグ形状の薄地部Uを形成する。
そして、この薄地部Uで取り囲まれた部分が正四辺形(理解のため周囲を太線で示す)の厚地部Aを形成する。
本トリコット編地Tを裏部材13として使用した透湿防水性生地1が使用中に外部からの摩擦、擦過を受けた場合でも、上記厚地部Aの存在が、薄地部への外部からの摩擦や擦過等を防ぐことが可能となり、薄地部の透湿防水性部材12が損傷を受けることがない。
また、正四辺形の厚地部Aがダイア柄調の意匠効果をもたらす利点がある。
【0054】
ここで、上記、第1の実施の形態と第2の実施の形態におけるトリコット編地Tは、編組織の観点からは、アトラス組織と糸抜きを応用したトリコット編地Tとなる。
そして、本トリコット編地Tを形成する2系列の編組織の内、その一方、又はいずれもが一定周期の糸抜き部Fを有していて、該糸抜き部Fは、組織C1、又は組織C2のいずれかのみで薄地部Uを形成し、薄地部U以外は組織C1と組織C2の重なりにより厚地部Aを形成し、トリコット編地Tが、一定の長さ、一定の範囲で曲折した際、その曲折線上には必ず薄地部Uと厚地部Aが混在することとなるので、薄地部Uにある透湿防水性部材12は、厚地部Aの厚みにより外部から損傷を受けることが少なくなり、延いては透湿防水性生地1自体の耐久性を向上させる特徴を有する。
【0055】
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態で説明したように、裏部材13の編成に用いる編成糸Y1、Y2の太さは、それぞれ8dtexであり極めて細い。
このように適合繊度に比較して細い編成糸を使用しているので、編目がルーズな状態となり互いに滑り易くなる特徴がある。
そこで、本実施の形態では、その裏部材13の編成糸Y2に熱融着性ポリウレタン糸を採用している。熱融着性ポリウレタン糸は、中心部長手方向にポリウレタン素材が位置し、これを熱融着素材が取り巻いている形態(図示しない)の糸である。
本実施の形態ではモビロン(商品名)を採用している。
【0056】
熱融着性ポリウレタン糸は、編成後の熱処理によって表面側の熱融着素材が溶融して、編成糸Y1、Y2によって形成されたニードルループNL同士が互いに融着されて編目の互いの滑りを防止する。
その結果、メッシュ調の通気性の良い安定したトリコット編地Tが形成され、カット端や糸切れ箇所からの解れを防止できる。
熱処理された熱融着性ポリウレタン糸は適度な柔軟性を維持して融着されるので、編地の風合い等に悪影響を及ぼすことなくトリコット編地特有の伸縮性が維持される。
【0057】
本実施の形態では、編成糸Y2として熱融着性ポリウレタン糸を採用しているが、編成糸Y1,Y2のいずれか一方、更には両方に熱融着性ポリウレタン糸を使用することができる。
他の構成については、第1の実施の形態と同様である。
また、本実施の形態で用いた熱融着性ポリウレタン糸はモビロン(商品名)であり、22dtexのものを採用している。
編成にあたっては延伸した状態で使用するので実際には15dtex以下の細さとなっていて、本発明の5〜15dtexの範囲内に充分に入るものである。
【0058】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、裏部材13の編成糸Y1、編成糸Y2の両方、或いはいずれか一方に割繊糸(ユニチカ)を用いている。
割繊糸は、数本のポリエステル糸をナイロンで固めてあるもので、後加工でナイロン部分を除去することにより細いポリエステル糸のみが残り、ソフトな風合いを得ることができる。
編成糸Y1、Y2に割繊糸を用いることでより柔軟な風合いのトリコット編地を得ることができる。本実施の形態に用いた割繊糸は11dtexで7フィラメントに割繊される。
他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
また、本割繊糸と第2の実施の形態に用いた熱融着性ポリウレタン糸とを併用することも当然可能である。
【0059】
(第5の実施の形態)
本実施の形態では、表部材11と裏部材13とを、いずれも第1の実施の形態における裏部材13、或いは第2の実施の形態における裏部材13、或いは第3の実施の形態における裏部材13の構成と同様のものとする。
このような構成とすることで、極めて薄く、軽量の透湿防水性生地1を得ることができる。
本透湿防水性生地1を羽布団の側地や隔壁等に用いることで羽毛の抜け出し防止や羽布団の使用感の向上に繋がる。
また、シューズの内張や衣料等の裏地として多方面に使用可能で製品品質の向上を図ることができる。
【0060】
(第6の実施の形態)
本実施の形態では、裏部材13に用いるトリコット編地の組織を穴目を有するネット組織とする。
2枚オサで編成されるもので、
図7(一部を太線で示す)の組織図に示すように、オサL1の編組織を組織C1(5−6/5−4/5−6/5−4/5−6/5−4/5−6/5−4/3−2/1−0/1−2/1−0/1−2/1−0/1−2/1−0/1−2/3−4)とし、オサL2の編組織を組織C2(1−0/1−2/1−0/1−2/1−0/1−2/1−0/1−2/3−4/5−6/5−4/5−6/5−4/5−6/5−4/5−6/5−4/3−2)として編成する。
オサL1、L2には、それぞれ編成糸Y1、Y2を1イン1アウト5イン1アウトを1リピートとして繰り返して通糸し、オサ位置を適宜、調整して編成する。
【0061】
こうして編成されたトリコット編地は、縦、横方向に適宜、張力を加えた熱セットの後、
図8の実体説明図に示すように円形状の穴目Hが形成され、その中央部縦方向に線状補強部Rを有するネット状トリコット編地T1となる。
この線状補強部Rは、2ウエールの編組織で形成されていて、本ネット状トリコット編地T1をフィルム状の透湿防水性部材12にラミネートした際、穴目Hから表出する透湿防水性部材12を補強する。
【0062】
また、線状補強部Rは、ネット組織の穴目Hが縦方向に延びすぎる現象を防止し、円形状の穴目Hを有する安定したネット状トリコット編地T1の形成を可能としている。
穴目だけの従来のトリコット編地に比較して、穴目Hに線状補強部Rを有する本ネット状トリコット編地においては、穴目Hによる良好な通気性に加えて、良好な通気性に支障をきたさない細い線状補強部Rが存在するので、透湿防水性部材12の保護と本ネット状トリコット編地T1自体の形態安定性とを可能としている。
【0063】
以上、本発明をその実施の形態を例に説明したが、本発明は、その本質に変更のない限り、実施の形態のみに限定されるものではなく多様な変形例が可能である。
例えば、その構造面において常に3層構造である必要はなく、用途、目的に応じて他の部材を挟み込んだ4層、5層等と多層であっても良い。
また、用途によっては、極細繊維で形成される表部材11、或いは裏部材13と透湿防水性部材12で形成される2層構造の透湿防水性生地1であっても良い。
また、表部材11、裏部材13の組織や編成糸の糸種についても、上記、実施の形態に限定されるものではなく、多様な組織展開、糸使いが可能である。