特許第6071261号(P6071261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋炭素株式会社の特許一覧

特許6071261多孔質炭素材料およびその製造方法、並びにそれを用いた電気二重層キャパシタ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071261
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料およびその製造方法、並びにそれを用いた電気二重層キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20170123BHJP
   H01M 4/583 20100101ALN20170123BHJP
【FI】
   C01B31/02 101B
   !H01M4/583
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-136422(P2012-136422)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1093(P2014-1093A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年4月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行者名:公益社団法人 電気化学会 刊行物名:電気化学会第79回大会講演要旨集 発行年月日:平成24年3月29日 2.研究集会名:電気化学会第79回大会 主催者名:公益社団法人 電気化学会 開催日:平成24年3月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】曽根田 靖
(72)【発明者】
【氏名】児玉 昌也
(72)【発明者】
【氏名】森下 隆広
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013394(JP,A)
【文献】 特開2008−181950(JP,A)
【文献】 特開2001−118753(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01094478(EP,A1)
【文献】 特開2011−020907(JP,A)
【文献】 特開昭61−102023(JP,A)
【文献】 特開2001−089119(JP,A)
【文献】 特表2014−511322(JP,A)
【文献】 特開2011−111384(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/065484(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0010666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
H01M4/00−4/62
H01G9/00,11/00−11/86
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。
【請求項2】
前記全細孔容積が、1.5ml/g以上3.0ml/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素材料。
【請求項3】
前記多孔質炭素材料の比表面積が、1400〜2000m/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料をバインダ樹脂により結合してなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料を電極に用いてなることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項6】
20℃における電力量に対して、−40℃以下における電力量保持率が90%以上であることを特徴とする請求項5に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項7】
20℃における電力量に対して、−60℃以下における電力量保持率が70%以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法であって、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱する加熱工程、冷却して酸洗浄する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程が、500℃以上の保持温度までの昇温速度が1〜100℃/分であることを特徴とする請求項8に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が1〜5000分であることを特徴とする請求項8または9に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が60〜5000分であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項12】
前記冷却して酸洗浄する工程の後、表面酸素官能基を取り除く処理を行なうことを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項13】
前記表面酸素官能基を取り除く処理が、不活性雰囲気下で、500℃以上で加熱することを特徴とする請求項12に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質炭素材およびその製造方法、並びにそれを電極に用いた、極低温で作動する電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(EDLC)は、静電容量が大きく、充放電サイクル特性にも優れることから、自動車をはじめとする種々の機器にバックアップ電源として用いられている。このEDLCには活性炭をポリテトラフルオロエチレンなどのバインダ樹脂でシート状にした分極性電極が用いられる。電解液としては、テトラエチルアンモニウム塩などの4級アンモニウム塩を溶解したプロピレンカーボネート溶液が用いられる。この際、陰イオンとしては、四フッ化ホウ素が最も多く用いられている。電解液は低温において、その粘度が増加することによって、EDLCの動作の妨げとなる。換言すれば、EDLCは低温において容量が低下することによって要求される性能を発揮することが困難になる。
分極性電極に用いる活性炭の製造方法としては、有機酸マグネシウム等を原料として、これを焼成することにより炭素と酸化マグネシウム(MgO)の複合体を合成し、その酸処理によってMgOを溶出除去して多孔質炭素を合成する手法が提案されている(特許文献1参照)。この文献では、当該材料をキャパシタ電極に用いた場合でも極低温での動作については知見が得られていなかった。
EDLCの低温での挙動を改善する試みについての先行技術が見られるが、そのほとんどは電解液への添加剤の効果や、電解液あるいは電解質の代替物質の検討であり、炭素材料そのものの検討(例えば、特許文献2〜10参照)は多くないが、いずれの場合もマイナス25℃乃至マイナス30℃での低温試験を行ったものであり、それらの最低試験温度が実用上の使用下限温度に相当している。したがって、マイナス30℃より低温で作動するEDLCは知られていなかった。
EDLCの利用は急速に拡大しており、冬期の寒冷地における自動車等への搭載や、風力発電などと組み合わせて山間地に設置される場合など、マイナス30℃を下回る極低温での動作保証は喫緊の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13394号公報
【特許文献2】特開2008−184359号公報
【特許文献3】特開2008−181950号公報
【特許文献4】特開2008−181949号公報
【特許文献5】特開2008−169071号公報
【特許文献6】特開2008−141060号公報
【特許文献7】特開2007−186411号公報
【特許文献8】特開2007−088410号公報
【特許文献9】特開2005−259760号公報
【特許文献10】特開平11−297577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電極材料として優れた特性、特にマイナス30℃より低い極低温での作動を可能とする多孔質炭素材料とその製造方法、および電気二重層キャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は以下の発明により達成された。
(1)ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。
(2)前記全細孔容積が、1.5ml/g以上3.0ml/g以下であることを特徴とする(1)に記載の多孔質炭素材料。
(3)前記多孔質炭素材料の比表面積が、1400〜2000m/gであることを特徴とする(1)または(2)に記載の多孔質炭素材料。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料をバインダ樹脂により結合してなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
(5)前記(4)に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料を電極に用いてなることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
(6)20℃における電力量に対して、−40℃以下における電力量保持率が90%以上であることを特徴とする(5)に記載の電気二重層キャパシタ。
(7)20℃における電力量に対して、−60℃以下における電力量保持率が70%以上であることを特徴とする(5)または(6)に記載の電気二重層キャパシタ。
(8)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法であって、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱する加熱工程、冷却して酸洗浄する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
(9)前記加熱工程が、500℃以上の保持温度までの昇温速度が1〜100℃/分であることを特徴とする(8)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(10)前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が1〜5000分であることを特徴とする(8)または(9)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(11)前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が60〜5000分であることを特徴とする(8)〜(10)のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(12)前記冷却して酸洗浄する工程の後、表面酸素官能基を取り除く処理を行なうことを特徴とする(8)〜(11)のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(13)前記表面酸素官能基を取り除く処理が、不活性雰囲気下で、500℃以上で加熱することを特徴とする(12)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【0006】
なお、本発明における全細孔容積は、窒素もしくはアルゴンガス吸着等温線により、相対圧0.95[−]での飽和吸着量を測定したものをいい、メソ孔容積とは同ガス吸着等温線のDubinin−Radushkevich法またはHorvath−Kawazoe法によって算出されるミクロ孔容積を全細孔容積から差し引くことによって求めた容積の値をいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、クエン酸マグネシウムの熱処理によって生成するMgOを鋳型に用いることで、従来困難であった全細孔容積が大きく、かつメソ孔(直径が2〜50nmの孔)割合の大きい多孔質炭素材料を製造することが可能となった。この多孔質炭素材料は、電気二重層形成に寄与するミクロ孔(直径が2nm以下の孔)と、ミクロ孔への電解質イオンの到着を容易にするメソ孔を多量に有する。しかも、多量のメソ孔を有することにより、極低温で電解液の粘度が著しく増加した場合でも、他の活性炭にみられるようなキャパシタ容量が低下せず、優れた特性を示す。このため、本発明の多孔質炭素材料を用いた電気二重層キャパシタは、極低温において他の炭素材料には見られない高いキャパシタ容量を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<<多孔質炭素材料>>
本発明の多孔質炭素材料は、ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ全細孔容積に対するメソ孔容積の割合(メソ孔容積率)が50%以上である。
【0009】
本発明の多孔質炭素材料は、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で加熱し、その後、冷却し、酸洗浄して製造できる。この加熱時にクエン酸マグネシウムのマグネシウム(Mg)が酸化されて微細な酸化マグネシウム(MgO)が形成され、このMgO粒子のまわりに原料中のクエン酸成分に由来する炭素膜が形成される。このような生成物を、MgOを溶解可能な酸、例えば硫酸、塩酸などの溶液で洗浄してMgOを除去すると、内部にMgO粒子径に相当するメソ孔を有する炭素膜が残り、これが多孔質炭素材料となる。
【0010】
クエン酸マグネシウムは、無水物〔二クエン酸三マグネシウム無水物 Mg(C〕でも水和物〔例えば、代表的には、二クエン酸三マグネシウム九水和物 Mg(C・9HO〕でも差し支えない。
【0011】
<クエン酸マグネシウムの加熱工程>
クエン酸マグネシウムを加熱により、炭素マトリックス中に酸化マグネシウム粒子が分散した複合材料を得る工程である。
クエン酸マグネシウムを加熱する加熱温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは800〜1000℃である。このような温度に加熱することにより、原料の熱分解が進行し、メソ孔の由来となるMgOが生成し,炭素骨格中のミクロ孔の形成が進む。また、電気二重層キャパシタ用電極として好適な電気抵抗が得られ、炭素骨格中の細孔の均一化にも有利である。
上記温度への昇温速度は好ましくは1〜100℃/分、より好ましくは5〜20℃/分である。このように昇温速度を調整することで、熱分解が安定に進行し、結晶化がより良好に進行する。
上記昇温後の温度で、好ましくは1〜5000分、より好ましくは30〜300分、さらに好ましくは60〜300分保持する。この保持時間により、炭素マトリックス中の軽元素の脱離が進行するので、結果的に得られる多孔質炭素材料の比表面積と細孔容積をコントロールすることができる。
この間の反応雰囲気は、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気下で行う。
【0012】
<冷却工程>
上記で得られた燃焼試料を酸洗浄するために冷却する工程であり、室温(例えば20〜25℃)に冷却する。冷却方法は、特に制限されるものではないが、自然冷却で構わない。
【0013】
<酸洗浄工程>
上記の加熱工程で得られた炭素マトリックス中にMgO粒子が分散した複合材料から、MgO粒子を溶解除去し、多孔質炭素材料とする工程である。
MgO粒子の除去は、MgO粒子が溶解する方法、好ましくは酸、例えば硫酸、塩酸で処理することで除去できる。上記の炭素マトリックス中にMgO粒子が分散した複合材料を硫酸または塩酸水溶液に浸漬、洗浄しMgOをこの溶液に溶解する。通常、3時間以上洗浄操作を行なうことで、MgOを除去することができる。
【0014】
<水洗および乾燥工程>
上記の酸処理工程で処理した試料を純水で水洗し、酸の水溶液を完全に除去した後、乾燥する。
【0015】
<高純度化処理>
上記乾燥で得られた多孔質炭素材料をさらに不活性雰囲気下で、表面酸素官能基を取り除くために加熱による高純度化処理をすることが好ましい。
加熱温度は500℃以上が好ましく、800〜1200℃がより好ましく、900〜1100℃がさらに好ましい。またこのときの昇温速度は5℃/分が好ましく、加熱時間は1時間〜2時間が好ましい。
【0016】
本発明の多孔質炭素材料の全細孔容積は、1.5ml/g以上が好ましく、2.0ml/g以上がさらに好ましい。なお、全細孔容積の上限は特に限定されるものではないが、現実的には3.0ml/g以下である。また、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合(メソ孔容積率)は、50〜80%が好ましく、本発明では、50〜80%である
本発明の多孔質炭素材料の比表面積は、好ましくは200〜3000m/g、より好ましくは600〜2200m/g、さらに好ましくは1400〜2000m2/gである。
なお、比表面積はBET法(Brunauer−Emmett−Teller法)で求められる。
【0017】
また、本発明の多孔質炭素材料のDR法(Dubinin−Radushkevich法)で求めたミクロ孔容積は、0.40〜0.70ml/gが好ましく、HK法(Horvath−Kawazoe法)により求めたミクロ孔容積は、0.42〜0.70ml/gが好ましい。一方、メソ孔容積は0.50〜2.00ml/gが好ましい。
【0018】
<<電気二重層キャパシタ>>
本発明の多孔質炭素材料の細孔は2〜50nmのメソ孔の率が高く、このような細孔を多く持つことで、電気二重層キャパシタ用電極としたときの電解液の浸透やイオンの移動に有利であり、レート特性が良好である。また、このメソ孔の率が高いことにより、極低温でも比容量の高いキャパシタ用電極とすることができる。
本発明の電気二重層キャパシタ用電極は、上記多孔質炭素材料をバインダ樹脂で結合してシート等の形状に成形したものである。バインダ樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など通常使用されるものを用いることができる。このとき適量のカーボンブラック等を添加することができる。電極の形状は特に制限はない。
【0019】
本発明の電気二重層キャパシタは上記電気二重層キャパシタ用電極を用いた以外は、従来の電気二重層キャパシタと同様のものである。具体的には、上記電気二重層キャパシタ用電極を、セパレータを介して対向して設け、これらの電極に電解液を含浸させて、それぞれが陽極と陰極として作用するものであればよい。
【0020】
本発明の多孔質炭素材料を使用した電極を用いた電気二重層キャパシタは−30℃より低い極低温での動作が可能となる。電気二重層キャパシタの電力量(Wh/Kg)では、本発明においては、20℃における電力量(Wh/Kg)に対して、−40℃以下における電力量保持率が90%以上であることが好ましく、また20℃における電力量に対して、−60℃以下における電力量保持率が70%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0022】
(実施例1、2、比較例1)
[炭素多孔質材料の細孔特性]
(1)クエン酸マグネシウム〔二クエン酸三マグネシウム九水和物 Mg(C・9HO〕をセラミックス製ボートに充填し、横型管状電気炉中にセットし、プログラム温度調節計によって、毎分10℃の昇温速度で900℃まで加熱した。900℃で1時間保持した後、自然冷却して焼成試料を得た。この間、反応雰囲気は高純度窒素(99.9999%以上)を流通させた。
実施例1では以下の(2)の処理、実施例2では以下の(2)および(3)の処理を行なった。
【0023】
(2)上記手順により得られた焼成試料を、過剰量の希硫酸中で3時間以上処理し、純水によって洗浄濾過、乾燥を行うことによって焼成試料中のMgO粒子を除去した。
(3)上述の(2)を行なった試料を窒素気流中1000℃で熱処理し,表面酸素官能基を取り除く高純度化処理を施した。
【0024】
比較例1として、市販の有機系EDLC用途に開発された活性炭を用いた。
【0025】
これらの各試料の細孔特性を、自動窒素吸着測定装置によって測定した82Kでのアルゴン吸着等温線より、表1に記載の項目の値を求めた。
得られた結果をまとめて表1に示す。
【0026】
なお、これらの値、算出方法は以下の通りである。
比表面積は、BET法(Brunauer−Emmett−Teller法)、全細孔容積は、相対圧0.95[−]における吸着等温線から得られる吸着容量であり、ミクロ孔容量は、DR法(Dubinin−Radushkevich法)、ミクロ孔容積は、HK法(Horvath_Kawazoe法)で求め、また、メソ孔容積、メソ孔容積率は、下記式によりそれぞれ算出した。
【0027】
メソ孔容積=(全細孔容積)−(ミクロ孔容積)
メソ孔容積率(%)=(メソ孔容積)÷(全細孔容積)×100
【0028】
【表1】
【0029】
表1により、上記の手順の通り前駆体の焼成と酸処理のみで、実施例1、2では、汎用活性炭の比表面積(通常800〜1000m/g程度)以上の大きな比表面積を有する多孔質炭素材料が得られた。全細孔容積は2.15ml/gに達する著しく発達した細孔構造を有している。比較例との比較から明らかなように、ミクロ孔容積は実施例1、2と比較例1ではほぼ同程度であるのに対して、実施例1、2ではメソ孔容積が約1.6ml/gであり、比較例1の0.13ml/gと比較して著しく大きいことが明らかである。この結果、メソ孔容積率(%)は、比較例1では17%と小さいのに対し、実施例1、2では74%、73%と極めて大きな値となる。
すなわち、本発明の多孔質炭素材料は、細孔分布中のメソ孔が極めて多い。
【0030】
[電気化学評価]
上記表1に示した多孔質炭素材料の試料(実施例1、2、比較例1)を10mg秤量し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)10質量%、カーボンブラック10質量%とともにアセトンを滴下して混練し、圧延ローラーによって厚さ約0.1mmのシートを作成した。このシートから、直径10mmの円盤状に打錠した。成型した円盤状シートを作用極とし、アルミニウム集電材、参照電極として銀線を用いた三極式のラミネート型テストセルを制作した。電解液は、1mol/L テトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ素/プロピレンカーボネート(TEABF/PC)を用いた。電気化学測定は、0.2mA/cmの電流密度で2.5−0Vの範囲で定電流充放電サイクルを繰り返し、6サイクル目の放電曲線より質量比容量を求めた。測定は、20℃、0℃、−20℃、−40℃、−60℃、−80℃の各温度で10時間保持してから行った。
【0031】
定電流充放電サイクル曲線の測定はVMP2−Z(商品名、Biologic社製)を用いて行った。電気化学評価は小型超低温恒温器MC−811(商品名、エスペック株式会社製)を用いて、既定の温度に保って行った。
【0032】
この結果を下記表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例1および2の電極はいずれも、試験条件下の全ての温度において比較例1より高い容量を示しており、電気二重層キャパシタに用いたときに優れた特性を有している。
容量保持率(%)は20℃における容量に対する、各測定温度での容量の比率%である。−40℃において、実施例1は93.7%、実施例2は91.9%の容量保持率であるのに対し、比較例1は75.6%である。−60℃以下ではその差はさらに顕著となり、比較例1では32.1%であるところ、実施例1は86.1%、実施例2は82.9%となり、実施例1、2ともに優れた特性を示している。また、−60℃での容量は、実施例1が24.6F/g、実施例2が22.0F/gであり、いずれも比較例1の20℃(室温)での容量24.1F/gに相当する値であり、実施例1、2が−60℃でも作動可能であることを示している。
このことから、本発明の多孔質炭素材料を電極として用いた場合、北米、欧米などの寒冷地や、航空宇宙、深海、極地などで使用可能となることがわかる。
【0035】
また、電解液を1mol/L トリエチルメチルアンモニウム四フッ化ホウ素/プロピレンカーボネート(TEMABF/PC)に変更して、上記の電気化学評価を行なったところ、同様に、本発明の多孔質炭素材料を使用した実施例1、2は優れた特性を示し、−60℃でも作動可能であることを確認した。