【文献】
PISSE, S. et al.,"Are alkane hydroxylase genes (alkB) relevant to assess petroleum bioremediation processes in chronically polluted coastal sediments?",APPL. MICROBIOL. BIOTECHNOL.,2011年11月,Vol.92, No.4,P.835-844
【文献】
WHYTE, L.G. et al.,"Gene cloning and characterization of multiple alkane hydroxylase systems in Rhodococcus strains Q15 and NRRL B-16531.",APPL. ENVIRON. MICROBIOL.,2002年12月,Vol.68, No.12,P.5933-5942
【文献】
タカラバイオ,「リアルタイムRT-PCR実験法」,[online],Internet Archive: Wayback Machine,2011年12月15日,[検索日:平成28年7月1日], インターネット,URL,http://web.archive.org/web/20111215084214/http://www.takara-bio.co.jp/prt/pdfs/prt1-2.pdf
【文献】
タカラバイオ,「プライマー設計ガイドライン 」,[online],Internet Archive: Wayback Machine,2011年12月15日,[検索日:平成28年7月1日], インターネット,URL,http://web.archive.org/web/20111215084214/http://www.takara-bio.co.jp/prt/pdfs/prt3-1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4に記載の定量方法を行って、得られた石油分解菌数が一定値以下である場合に、栄養物質及び/又は石油分解菌を投入する工程を含むことを特徴とする土壌浄化方法。
請求項4に記載の定量方法を行い、得られた栄養物質中の石油分解菌数に基づいて、投入する栄養物質の種類及び/又は量を決定する工程を更に含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
石油を運搬する際の事故や工場からの漏洩などに起因する「石油系炭化水素による土壌汚染」が従来から問題となっており、法整備や漏洩対策が進められている。石油系炭化水素汚染土壌対策の法律としては、まずアメリカが1980年に「スーパーファンド法」を制定した。この法律では土壌汚染に関わった当事者全てに浄化費用等の負担を求め、土壌中の全石油系炭化水素(TPH)濃度を1,000 mg/kg以下にすることが義務付けられている。
【0003】
日本では2002年に「土壌汚染対策法」が制定されたが、石油系炭化水素汚染への対策が十分に整っていないことを理由に石油を汚染物質の対象としていなかった。その後、2006年に「油汚染対策ガイドライン〜鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方〜」が発表され、石油系炭化水素汚染土壌の浄化では「油臭の解消」と「土壌中の油分濃度の低減」が必要となった。さらに、2010年4月からは「土壌汚染対策法」の改正により汚染土壌の運搬が制限され、出来る限り原位置で汚染土壌を浄化することが求められるようになった。
【0004】
現在、石油系炭化水素汚染土壌の浄化には主に重油を利用した焼却処理や加熱分解処理が行われている。これらの方法では、まず汚染土壌を掘り起こし、処理場まで運搬しなければならない。しかしながら、土壌汚染対策法の改正により汚染土壌の運搬が制限されることとなったため、本処理方法は適さない。また、焼却処理では汚染油分の10倍もの燃料が必要となり、石油価格によってコストが大きく変動するという課題がある。さらに、焼却後の土壌は微生物を含め有機物がなくなることから、土壌の再利用が難しい。
【0005】
そこで近年、微生物機能により汚染を浄化するバイオレメディエーション(bioremediation)の研究が進んでいる。バイオレメディエーションは焼却処理や洗浄処理に比べて省資源であり、土壌が再利用できる利点がある。さらに、原位置で土壌を浄化出来ることから、今後の土壌汚染対策法の改正で更なる普及が見込まれる。しかし、バイオレメディエーションは従来の方法と比較し、浄化に時間がかかるなどの欠点がある。
【0006】
バイオレメディエーションには、微生物の栄養分を投与して土着の微生物を活性化するバイオスティミュレーション(biostimulation)と、汚染物質の分解能を有する微生物を外部から投入するバイオオーグメンテーション(bioaugmentation)がある。
【0007】
バイオスティミュレーションでは、栄養塩を投与することで土壌中の石油分解菌を増加させ、油分分解が促進される。しかし、微生物の石油系炭化水素分解活性の維持が難しく、処理時間の短縮に課題が残る。バイオオーグメンテーションでは、外部から栄養塩と石油分解菌を投与することで、土壌に残留しやすい石油成分である長鎖直鎖状アルカン、芳香族、長鎖環状アルカンなどを分解出来る。しかし、投与する石油分解菌の安全性や有害な中間生成物の有無などを確認する必要があるため、バイオオーグメンテーションの普及に向けてはさまざまな課題が残っている。
【0008】
本発明者らは、これまでに石油汚染土壌のバイオレメディエーションの効率化のために、難分解性の炭化水素を分解できる石油分解菌の単離を行った(特許文献1)。また、石油分解菌の挙動を把握するための、ロドコッカス属又はゴルドニア属に属する石油分解菌を特異的に検出可能にするプライマーセットについても報告している(特許文献2)。さらに、土壌中の栄養成分(Total-C・Total-N・Total-P)の重量とその比を特定の範囲に調整することにより土壌微生物数を増加・維持し、油分分解を促進できることを報告している(特許文献3)。
【0009】
石油分解菌は炭化水素成分を代謝するが、その酸化にはアルカンヒドロキシラーゼ遺伝子(alkB遺伝子)が関与することが知られている。これまでに様々な細菌からalkB遺伝子が単離されてきた。これらalkB遺伝子を解析した結果、Hist-1、Hist-2、Hist-3及びHYGモチーフと呼ばれる保存された領域を有することが明らかとなっている(
図4)。今までHist-1及びHist-3保存領域を利用した石油分解菌検出プライマーが設計され、細菌のalkB遺伝子の有無を調べることが可能となっている(非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述するバイオスティミュレーション及びバイオオーグメンテーションは共に石油汚染浄化の効率が悪いという問題がある。そこで、土壌中の石油分解菌数をモニタリングすることができれば石油分解菌数を制御することが可能となるので、石油汚染浄化を効率化することができると考えられる。しかしながら、汚染土壌中の石油分解菌数を高感度で定量できる方法は知られていない。
【0013】
特許文献2に記載のプライマーセットは、特定の石油分解菌を検出するためのものであって石油分解菌全体を定量するものではない。非特許文献1に記載のプライマーは、検出感度が低い上に、増幅領域が長すぎるため、増幅効率の観点から見れば、リアルタイムPCRに適用するには不向きである。
【0014】
そこで、本発明は、石油分解菌を特異的に高感度で定量することができる、石油分解菌検出用プライマーセット、及び該プライマーセットを含むPCRキットを提供することを目的とする。更には、本発明は、上記プライマーセットを用いた土壌中の石油分解菌の定量方法、並びに該定量方法を利用した土壌中の石油分解菌の挙動解析方法及び土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、配列番号1及び2に記載される塩基配列からなるDNAを縮重プライマーとして使用しリアルタイムPCRを行うことによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。
【0016】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の石油分解菌検出用プライマーセット、PCRキット、土壌中の石油分解菌の定量方法、土壌中の石油分解菌の挙動解析方法、及び土壌浄化方法を提供するものである。
【0017】
項1. (a) 配列番号1に記載される塩基配列中の連続する12塩基以上のDNA、又は配列番号1に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなる縮重プライマー、及び
(b) 配列番号2に記載される塩基配列中の連続する12塩基以上のDNA、又は配列番号2に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなる縮重プライマー
を含む石油分解菌検出用プライマーセット。
項2.項1に記載のプライマーセットを含む石油分解菌検出用PCRキット。
項3.項1に記載のプライマーセットを含む石油分解菌検出及び定量用リアルタイムPCRキット。
項4.i) 対象土壌に含まれるDNAを抽出及び精製する工程と、
ii) このDNAを鋳型として、請求項1に記載のプライマーセットを用いてPCRを行い、増幅されたDNAを検出する工程と、
iii) 検出した値を用いて、石油分解菌数を算出する工程
を含むことを特徴とする土壌中の石油分解菌の定量方法。
項5.項4に記載の定量方法により得られた値を用いて、土壌中の石油分解菌数の経時変化を解析する工程を含むことを特徴とする土壌中の石油分解菌の挙動解析方法。
項6.項4に記載の定量方法を行って、得られた石油分解菌数が一定値以下である場合に、栄養物質及び/又は石油分解菌を投入する工程を含むことを特徴とする土壌浄化方法。
項7.項4に記載の定量方法を行い、得られた栄養物質中の石油分解菌数に基づいて、投入する栄養物質の種類及び/又は量を決定する工程を更に含むことを特徴とする、項6に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプライマーセットを用いた石油分解菌の検出方法によれば、石油分解菌を特異的に高感度で検出及び定量することが可能となる。また、本発明によれば、幅広い石油分解菌を検出することが可能である。本発明により、バイオレメディエーション中の石油分解菌の挙動を正確に把握することが可能となり、石油分解菌の追加投与のタイミングや処理内容を適切に決定することができる。これにより、バイオレメディエーションの効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
1.プライマーセット
本発明の石油分解菌検出用プライマーセットは、以下の縮重プライマーを含むことを特徴とする:
(a) 配列番号1に記載される塩基配列中の連続する12塩基以上のDNA、又は配列番号1に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなる縮重プライマー、及び
(b) 配列番号2に記載される塩基配列中の連続する12塩基以上のDNA、又は配列番号2に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなる縮重プライマー。
配列番号1:5'-AACTAYMTCGARCAYTAYGG-3' (alkB-F1)
配列番号2:5'-TGRTCKSWRTGNCGYTGVARGTG-3' (alkB-R2)
【0022】
配列番号1及び2において、Yはチミン又はシトシンを、Mはアデニン又はシトシンを、Rはグアニン又はアデニンを、Vはアデニン、グアニン又はシトシンを、Nはアデニン、グアニン、シトシン又はチミンを表す。
【0023】
本発明において縮重プライマーとは、配列中に複数の塩基を取り得る箇所(M、N、R、V及びY)を含む塩基配列において、取り得る全ての塩基配列(Yはチミン又はシトシンを、Mはアデニン又はシトシンを、Rはグアニン又はアデニンを、Vはアデニン、グアニン又はシトシンを、Nはアデニン、グアニン、シトシン又はチミン)の組み合わせを含むプライマーのことを意味する。
【0024】
(a)の縮重プライマーは、好ましくは配列番号1に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなり、より好ましくは配列番号1に記載される塩基配列を3’末端側に含む最大25塩基のDNAからなる。
【0025】
(b)の縮重プライマーは、好ましくは配列番号2に記載される塩基配列を含む最大25塩基のDNAからなり、より好ましくは配列番号2に記載される塩基配列を3’末端側に含む最大25塩基のDNAからなる。
【0026】
各プライマーは、公知のDNA合成装置等を用いて化学的に合成することができる。また、当該技術分野においてよく知られる他の方法を用いて合成することもできる。
【0027】
本発明のプライマーセットを所定のPCR条件に供することにより、特定の石油分解菌を特異的に増幅することができる。
【0028】
PCRの条件は、適宜設定し、至適化することができるが、通常、95℃・3〜10分の加熱後、95℃・15〜30秒、60℃・30〜60秒の反応を30〜40サイクル程度行う。
【0029】
本発明における石油分解菌とは、石油、特に石油に含まれる炭化水素を分解可能な細菌のことをいう。
【0030】
本発明の対象となる石油分解菌は、検出可能であれば特に限定されないが、例えば、ゴルドニア属(Gordonia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アクロモバクター属(Achromobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)等の細菌が例示される。
【0031】
2.PCRキット
本発明のPCRキットは、上記石油分解菌検出用プライマーセットを含むことを特徴とする。本発明のPCRキットは、より詳細には、石油分解菌検出用PCRキット、又は石油分解菌検出及び定量用リアルタイムPCRキットである。
【0032】
本発明の石油分解菌検出用PCRキットを用いることにより、石油分解菌を特異的に検出することができる。また、本発明の石油分解菌検出用及び定量用リアルタイムPCRキットを用いることにより、石油分解菌を特異的に検出及び定量することができる。
【0033】
本発明のキットには、上記プライマーセット以外に、増幅や検出などに必要となる公知の手段を含めることもできる。例えば、PCR用DNAポリメラーゼ、PCR用バッファー、dNTP、SYBR Green I、TaqMan(登録商標)プローブなどを含むことができる。
【0034】
3.石油分解菌数の定量方法
本発明の土壌中の石油分解菌の定量方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
i) 対象土壌に含まれるDNAを抽出及び精製する工程と、
ii) このDNAを鋳型として、上記プライマーセットを用いてPCRを行い、増幅されたDNAを検出する工程と、
iii) 検出した値を用いて、石油分解菌数を算出する工程。
【0035】
本発明のプライマーセットを用いることにより、対象土壌試料における幅広い石油分解菌を定量することができる。本発明の定量方法は、リアルタイムPCRを利用したものである。
【0036】
工程i)の土壌からDNAを抽出する方法は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、クロロホルム溶液による抽出を用いることができる。また、市販のDNA抽出試薬を用いてもよい。
【0037】
抽出したDNAの精製も公知の方法に従って行うことができ、例えば、電気泳動によるDNAの分離と切り出しを行って精製することができる。また、市販のDNA精製キットにより行うことができる。
【0038】
工程ii)のPCRにおける条件は、適宜設定し、至適化することができるが、アニーリング温度は60℃の条件とすることが好ましい。他の条件も適宜設定し得るが、通常、95℃・3〜10分の加熱後、95℃・15〜30秒、60℃・30〜60秒の反応を30〜40サイクル程度行う。
【0039】
DNAの検出方法も特に限定されず、公知の方法に従って行うことができるが、例えば、リアルタイムPCRで通常利用される蛍光検出方法を使用することができる。
【0040】
工程iii)においては、検出した値を、公知の方法に従って作成した検量線にあてはめることにより、石油分解菌数を算出することができる。
【0041】
例えば、下記式により、土壌1 g当たりの石油分解菌数を算出することができる。
石油分解菌数(cells/g-sample) = (3×10
14) × e
(-0.516×Ct値)
[式中、Ct値は実験より得られた値であり、閾値に到達したときのサイクル数(threshold cycle)を表す。]
【0042】
本発明の定量方法による石油分解菌の検出限界は1 × 10
6 cells/g-soilである。
【0043】
4.石油分解菌の挙動解析方法
本発明の土壌中の石油分解菌の挙動解析方法は、上記石油分解菌の定量方法により得られた値を用いて、土壌中の石油分解菌数の経時変化を解析する工程を含むことを特徴とする。より詳細には、本発明のプライマーセットを用いて、土壌中の石油分解菌数の定量を経時的に行い、菌数の変動をモニタリングして解析することにより、土壌中の石油分解菌数の挙動を解析する。
【0044】
解析におけるモニタリングの方法は、特に限定されず、適宜公知の方法に従って行うことができる。例えば、石油分解菌数を、更に換算させた値を用いてモニタリングしてもよい。また、適当なグラフ又は図等の表示手段を用いてモニタリングすることもできる。
【0045】
また、モニタリングは、石油分解菌数に加えて、更に1又は複数の指標を用いて行うこともできる。
【0046】
本発明の挙動解析方法においては、更に、土壌中の総バクテリア数の挙動解析や、油分濃度の挙動解析を組み合わせることもできる。土壌中の総バクテリア数の解析は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、環境DNA法や平板希釈法を用いて行うことができる。
【0047】
環境DNA法は、対象土壌から採取した試料単位重量あたりのDNA量に基づいて算出した値を用いて、土壌中の総バクテリア数を算出する方法である。単位重量が1 gの場合、その数は対象土壌(又は試料)単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。例えば、環境DNA法において、土壌バクテリア数は、対象土壌から採取した試料の単位重量あたりのDNA量(環境DNA量)を、下記式により換算することによって求めることができる。
バクテリア数(cells/g-sample) = 環境DNA量(μg/g-soil) × 4.0 × 10
9
【0048】
また、油分濃度の解析も公知の方法に従って行うことができる。例えば、適当な抽出液を用いて対象土壌から油分を抽出し、ガスクロマトグラフィーや赤外分光分析を用いて測定することにより解析することができる。
【0049】
本発明の挙動解析方法により、特定の石油分解菌の増加や減少など、土壌中の石油分解菌の動向の詳細を把握することができ、それに応じた追加処理を行うことにより、バイオレメディエーションを効率化することができる。特に効率的なバイオレメディエーションを行うためには、石油分解菌の菌数を維持すること、更に、石油分解菌を優先種とすることが重要であると考えられる。本発明の挙動解析方法を用いれば、石油分解菌の菌数の維持及び優先種とするための処理に適当なタイミングを簡便に把握することができる。
【0050】
またバイオオーグメンテーションは外来の細菌を大量に投与することから、生態系が大きく変化してしまう可能性があるが、本発明における挙動解析法は、投与菌株の土壌環境への影響を解析する上でも役立つと考えられる。
【0051】
5.土壌浄化方法
本発明の土壌浄化方法は.上記石油分解菌の定量方法を行って、得られた石油分解菌数が一定値以下である場合に、栄養物質及び/又は石油分解菌を投入する工程を含むことを特徴とする。
【0052】
本発明の土壌浄化方法によれば、土壌中の石油分解菌の動向を把握し、それに応じて栄養物質及び/又は石油分解菌を投与することで、バイオレメディエーションを効率化することができる。
【0053】
特に、効率的なバイオレメディエーションを行うためには、石油分解菌を優先種とすることが重要と考えられる。石油分解菌の定量を行い、石油分解菌数の値が一定値以下となった場合に、石油分解菌を追加投与して、石油分解菌を優先種とすることにより、バイオレメディエーションを促進することができる。
【0054】
上記一定値とは、例えば1 × 10
7 cells/g-soil〜1 × 10
9 cells/g-soilの範囲から設定される値である。このような値以下に低下したときに栄養物質及び/又は石油分解菌を追加投与するようにすることで、石油除去を効率よく促進させることができる。
【0055】
投与する栄養物質としては、土壌細菌の栄養となるものであれば、特に限定されず、対象とする土壌の種類や生息細菌の種類等により、適宜設定できる。栄養物質としては、例えば、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、海藻堆肥、稻ワラ、籾殻、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、大豆カス、魚粉、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、苦土過リン酸、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安、活性汚泥炭化物などが挙げられる。また、栄養物質の投与形態も特に限定されず、例えば、栄養物質を含む土壌等の形態で投与してもよい。
【0056】
投与する石油分解菌の種類は、石油を分解することができる細菌であれば、特に限定されず、適宜設定することができる。具体的な細菌の種類としては、前述した種類の石油分解菌が挙げられるが、石油や炭化水素系の物質が多い土壌又は水から単離されたものは、一般的に石油の分解能が高いため好適である。
【0057】
本発明の土壌浄化方法は、上記定量方法を行い、得られた栄養物質中の石油分解菌数に基づいて、投入する栄養物質の種類及び/又は量を決定する工程を更に含んでいてもよい。
【0058】
栄養物質の中には、石油分解菌を含むものもある(例えば、堆肥)。そのような栄養物質を投与する場合には、予めその中に含まれる石油分解菌数を求めておくことで、土壌中の石油分解菌数を好適な範囲内に調整することができる栄養物質の投与量を決定すること、又は石油分解菌を投与する代わりに石油分解菌を含む栄養物質を投与する場合には、好適な栄養物質の種類を決定することができる。
【0059】
更に、本発明の土壌浄化方法においては、土壌中の総バクテリア数の挙動解析や、油分濃度の挙動解析を組み合わせて行うことが好ましい。土壌バクテリア数からは、対象土壌における総合的なバクテリアの状況や土壌の特性を把握できると考えられる。一方、効率的なバイオレメディエーションを行うためには、石油分解菌を優先種とすることが重要であると考えられる。そのため、土壌バクテリア数の解析に加えて、本発明で確立した石油分解菌の挙動解析を行って、両者の相対的な関係を把握し、石油分解菌が優先種となるような手段をとることで、バイオレメディエーションをより効率化させることができると考えられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0061】
比較例1(既存の石油分解菌検出プライマー)
非特許文献1(Smits et al., Enviromental Microbiology, 1(4), 307-317, 1999)で使用されていたプライマーの配列を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
ロドコッカス・エリスロポリスNDKK6株を、土壌1 gあたり1 × 10
6、1 × 10
7、1 × 10
8及び1 × 10
9 cells/g-soilになるように滅菌土壌に添加した。50 ml容遠沈管に上記土壌1.0 gを量り取り、表2に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700μl分取し、フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を700μl加えて混和した後、16℃、13,000 rpmで10分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μl分取し、2-プロパノールを300μl加えて緩やかに混和し、16℃、13,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70%(v/v)エタノールを500μl加え16℃、13,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。
【0064】
これに表3に示すTE 10:1緩衝液(pH 8.0)を15μl加えよく溶解させ、これを環境DNA溶液とした。アガロース2.0 g、表4に示す50×TAE緩衝液(pH 8.0) 4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。環境DNA溶液15μlにローディングダイ(東洋紡、大阪) 2.0μlを混合し、全量17μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後、アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。アガロースゲルからDNAバンドを切り出し、環境DNAを精製した。
【0065】
KAPA SYBR FAST qPCR Master Mixを10μl、10μMのTS2S及びDeg1REプライマーを0.4μl、ROX highを0.4μl、精製した環境DNAを3μl含む20μlの反応液を200μl容チューブに加え、Applied Biosystems 7300 Real Time System (アプライドバイオシステムズ、USA)にセットして、リアルタイムPCRを行った。PCRの反応条件は、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜20秒、55℃・30〜60秒、72℃・45〜75秒の反応を40サイクルとした。なお、リアルタイムPCRに用いた試料のうち、KAPA SYBR、ROX highはKAPA SYBR qPCR kit (KAPA BIOSYSTEMS、大阪)のプロトコールに従って用いた。
【0066】
上記方法により滅菌土壌に添加したロドコッカス・エリスロポリスNDKK6株を定量したところ、1×10
7cells/g-soilまでしか検出できなかった(
図5)。また、本プライマーセットの増幅領域は約550 bpであり、増幅効率の観点から見れば、リアルタイムPCRに適用するには不向きである。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
実施例1
(1)石油分解菌検出のための新規プライマーの設計
石油分解菌をより高感度で特異的に検出するためのプライマーを設計した。これまでに報告されているalkB遺伝子塩基配列のアライメントを行った。その結果、HYGモチーフとHist-3モチーフがより高度に保存されていることを見いだし、本配列を利用して縮重プライマーを設計した(
図1)。HYGモチーフからは2種類(alkB-F1及びalkB-F2)、Hist-3モチーフからは3種類(alkB-R1、alkB-R2及びalkB-R3)設計した。これらプライマーを用いたPCRでは約140 bpのDNA断片が増幅されるため、リアルタイムPCRに適合する。
【0071】
(2)特異性の確認
設計したプライマーが特異的にalkB遺伝子を増幅するかを調べるために、設計したプライマーを用いてPCRを行った。鋳型には石油分解菌でalkB遺伝子を持っていることがわかっているロドコッカス・エリスロポリスNDKK6株、ゴルドニア・テラエNDKY76A株、及びシュードモナス・エルギノーサF721株全DNAを用いた。rTaq DNA polymeraseを0.2μl、10×buffer for rTaqを2μl、2 mMのdNTPsを2μl、10μMのフォワードプライマー及びリバースプライマーを1μl、鋳型DNAを50 ng含む20μlの反応液を200μl容チューブに加え、サーマルサイクラーにセットして、PCRを行った。PCRの反応条件は、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜30秒、55℃・30〜60秒、72℃・15〜30秒の反応を30サイクルとした。なお、PCRに用いた試薬のうち、rTaq DNA polymerase、10×buffer for rTaq、dNTPsはrTaq DNA polymerase(東洋紡、大阪)のプロトコールに従って用いた。PCR終了後、反応液10μlを2%アガロースで電気泳動し、DNAの増幅を調べた。
【0072】
その結果、全てのPCRプライマーでNDKK6株、NDKY76A株及びF721株のalkBを検出できた。しかし、alkB-F1/alkB-R3 (
図2C)、alkB-F2/alkB-R2 (
図2E)、及びalkB-F2/alkB-R3 (
図2F)の組み合わせでは大腸菌の全DNAを鋳型に用いた場合に非特異的な増幅が観察された。alkB-F1/alkB-R1 (
図2A)、alkB-F
1/alkB-R
2 (
図2B)、及びalkB-F2/alkB-R1 (
図2D)の組み合わせでは大腸菌の全DNAを鋳型に用いた場合においても非特異的な増幅は観察されなかった。
【0073】
(3)プライマーの検出限界
検出限界を調べるためにalkB-F1/alkB-R1、alkB-F1/alkB-R2、及びalkB-F2/alkB-R1プライマーセットを用いて、滅菌土壌に添加したロドコッカス・エリスロポリスNDKK6株(1 × 10
6から1 × 10
9 cells/g-soil)からのDNAを鋳型にリアルタイムPCRを行った。
【0074】
比較例1と同様の方法により環境DNAを精製した。KAPA SYBR FAST qPCR Master Mixを10μl、10μMのフォワードプライマー及びリバースプライマーを1μl、ROX highを0.4μl、精製した環境DNAを1〜5μl含む20μlの反応液を200μl容チューブに加え、Applied Biosystems 7300 Real Time System (アプライドバイオシステムズ、USA)にセットして、リアルタイムPCRを行った。PCRの反応条件は、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜30秒、60℃・30〜60秒の反応を40サイクルとした。なお、リアルタイムPCRに用いた試料のうち、KAPA SYBR、ROX highはKAPA SYBR qPCR kit (カパバイオシステムズ、大阪)のプロトコールに従って用いた。
【0075】
結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
alkB-F1/alkB-R1及びalkB-F2/alkB-R1プライマーセットを用いた場合では1 × 10
7 cells/g-soilのNDKK6株までしか検出することが出来なかった。一方、alkB-F1/alkB-R2プライマーセットを用いた場合では1 × 10
6 cells/g-soilまで検出できた(表5、
図3)。
【0078】
(4)まとめ
土壌環境中の石油分解菌を特異的に検出・定量するシステムを構築した。本システムは土着の石油分解菌を1 × 10
6 cells/g-soilまで検出可能である。