(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極に用いるAl−Si合金集電体及びその製造方法、当該集電体を用いた非水電解質二次電池用正極及びその製造方法、ならびに、当該正極を用いた非水電解質二次電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非水電解質二次電池用正極に用いる集電体であって、Si:0.5〜13.0質量%を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl−Si合金からなり、初回充放電での充電状態と放電状態との容量差における当該集電体の寄与分が、集電体の単位質量当たり5mAh/g以上であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極に用いるAl−Si合金集電体。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極に用いるAl−Si合金集電体に、リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材が担持されていることを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法であって、前記Al−Si合金集電体に、リチウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む電極合材を溶媒に分散したスラリーを充填し又は付着させ、これを乾燥して溶媒を飛散・蒸発させることを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極と、リチウムの吸蔵放出が可能な負極と、これら正負極間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備えたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池は、高エネルギー密度を有する等の理由から、広く普及している。このような非水電解質二次電池は、正極‐負極間にリチウムイオンを移動させて充放電を行う原理に基づいて作動する。
【0003】
非水電解質二次電池の正極活物質として、現在、リチウム金属酸化物であるLiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiFePO
4等が実用化され、或いは、商品化が図られている。負極活物質として、炭素、特にグラファイトを主材とするものや、一部合金が用いられている。セパレータとしては微孔性薄膜を、電解質としては有機溶媒にリチウム塩を溶解した非水電解液を使用するのが一般的である。その他の電解質として、ゲル状電解液や固体電解質系も注目されている。
【0004】
正極材料や負極材料を担持する集電体(支持体)として、アルミニウム箔や銅箔のような金属箔が一般的に用いられる。高出力、高容量、長寿命化等を目的として、集電体を発泡体や不織布状などの多孔質体等の形状とすることも数多く提案されている。
【0005】
現在、非水電解質二次電池の負極活物質として、一般的に用いられているグラファイト系の材料や、近年数多く検討されている理論容量の高いSi系やSn系の材料は、一般的に初期サイクルの不可逆容量が大きい。これら負極活物質を用いた負極の不可逆容量による電池の容量低下を抑制するためには、適切な不可逆容量を有する正極と組み合わせて使用する必要がある。しかしながら、正極活物質として、現在一般的に用いられているLiCoO
2等は、Si系やSn系の材料と組み合わせて用いる上で十分な不可逆容量を有しているとは言えない。
【0006】
例えば、特許文献1には、非水電解液二次電池の正極層中に活物質とは別にLi
yNi
1−xTi
xO
2(式中、0<x<0.7であり、1≦y≦1.1である)で表される化合物を添加剤として適量含有させ、電池のカットオフ電位を4.2〜5.0Vに設定することにより不可逆容量を増加させることが提案されている。また、特許文献2には、FeとNiを含有する合金からなる正極集電体を用いることにより、従来よりも大きな放電容量を備える非水電解質電池用正極の製造方法が提案されている。更に特許文献3〜5には、三次元網目構造を有するアルミニウム多孔質焼結体の金属骨格にAl−Ti化合物が分散していることを特徴とする非水電解質二次電池用電極が提案されている。
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記先行技術には以下の問題点があることが判明した。特許文献1では、充電終止電圧を高くすることにより高容量化し、不可逆容量を増加させている。しかしながら、正極電位の上昇により電解液との反応性が加速され、高電圧充電を行うと、電解液の分解、ガス発生、活物質の劣化等の問題が生じる場合がある。特許文献2では、FeとNiを含有する合金集電体を用いることで放電容量を増大させているが、不可逆容量の増加には寄与せず、また使用可能な正極活物質が岩塩層状構造の材料に限定される。特許文献3〜5では、高強度のアルミニウム多孔質焼結体を得るために金属骨格にAl‐Ti化合物を分散させているが、Tiを含有させても不可逆容量の増加には効果が無い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.Al−Si合金集電体
以下に、本発明に係る、非水電解質二次電池用正極に用いるAl−Si合金集電体について説明する。
【0021】
A−1.Al−Si合金集電体の電流応答
本発明に係るAl−Si合金集電体は、これに活物質を含む電極合材を充填し又は付着させて作製した電極を用い、対極として金属リチウムを用い、初回充放電における充電状態と放電状態との容量差に含まれる当該集電体の寄与分が、集電体の単位質量当たり5mAh/g以上であることを特徴とする。
【0022】
ここで、充電状態とは、このAl−Si合金を集電体とする上記電極をアノード、金属リチウムをカソードとし、電解質を溶解させた電解液中でこれらが直に触れないように配置して構成された電池において、金属リチウム基準で+2.0〜+4.5Vの範囲で通電した際における電流値が0.01C未満の状態を指す。一方、放電状態とは、上記電極をカソード、金属リチウムをアノードとして放電させた際に、カソードとアノードとの間の電位が放電開始時に比べて1V以上低下した状態を指す。
【0023】
充電容量の増加に寄与する集電体の電流消費は、Al−Si合金集電体中のSiの酸化反応に起因する電流応答によるものである。集電体の寄与分が5mAh/g未満の場合は、正極の不可逆容量が小さ過ぎて負極の不可逆容量を相殺するには不十分となる。集電体の寄与分は、好ましくは5〜250mAh/gである。
【0024】
ここで、初回充放電での充電状態と放電状態との容量差における当該集電体の寄与分とは以下の通りである。本発明に係るAl−Si合金集電体に電極合材を担持させた正極を用いた初回充電容量(mAh)から初回放電容量(mAh)を差し引き、これを不可逆容量とした。そして、この不可逆容量を集電体の質量で割った値(mAh/g)を集電体の単位質量当たりの不可逆容量、すなわち、集電体の寄与分とした。
【0025】
A−2.Al−Si合金集電体の合金成分
電流応答を実現するために、Al−Si合金集電体はSiを0.5〜13.0mass%(以下、単に「%」と記す)の範囲で含有する必要がある。Si含有量が0.5%未満の場合には、Al−Si合金の酸化反応に起因する電流応答が少なく十分な正極不可逆容量が得られず、負極の不可逆容量を相殺できない。一方、Si含有量が13.0%を超える場合には正極におけるSiの析出量が増加することにより、Al−Si合金を集電体とする上記電極が脆くなる。なお、この集電体におけるSi以外の合金成分の残部は、Alと不可避的不純物からなる。
【0026】
A−3.Al−Si合金集電体の形状
本発明に係るAl−Si合金集電体は、多孔質体;有孔又は無孔の箔や板;有孔の網状体;などの形状を有する。
【0027】
(a)多孔質体
Al−Si合金集電体の多孔質体は、例えば所定の体積割合で混合したAl−Si系粉末と支持粉末の混合粉末を加圧成形した後に、その成形体を不活性雰囲気中で熱処理して焼結し、最終的に支持粉末を除去することで得られる。また、混合粉末を金属板と複合化してもよい。Al−Si系粉末としては、Siを含有するAl合金粉末;純Al粉末と
純Si粉末との混合粉末;Siを含有するAl合金粉末と
純Al粉末との混合粉末;を単独で、又は、2種以上を所定割合で混合したものが用いられ、焼結後において0.5〜13%のSi含有量のAl−Si合金となる。この多孔質体は、支持粉末が除去された空孔と、その空孔の周囲を形成するAl粉末の結合金属粉末壁とによって構成される。結合金属粉末壁には多くの微細な孔が形成されており、空孔同士がこれら微細な孔によって連結したオープンセル型の構造を有する。
【0028】
多孔質体のAl−Si合金集電体は、80〜95%の空孔率を有するのが好ましい。空孔率をこの範囲に設定することより、電極としての強度を保持しつつ、集電体の孔内に所望量の活物質を充填することができる。その結果、電池の高出力化、高容量化が可能となる。空孔率が80%未満の場合には、支持粉末が残留する場合がある。一方、空孔率が95%を超える場合には、多孔体としての形状を保てなくなる場合がある。
【0029】
(a−1)Al粉末の粒径
本発明で用いるAl粉末には、粒径が1〜50μm程度のものを用いることが好ましい。支持粉末の表面をAl粉末で満遍なく覆うためにAl粉末の粒径がより小さい方が好ましく、1〜10μmが更に好ましい。Al粉末の粒径は、レーザー回折散乱法(マイクロトラック法)で測定したメジアン径で規定する。
【0030】
(a−2)Si粉末の粒径
本発明で使用するSi粉末の粒径は、1〜50μmが好ましい。アルミニウム合金粉末、純アルミニウム粉末、支持粉末との十分な混合を図るためにより微細であるのが好ましい。粒径はアルミニウム粉末と同様にレーザー回折散乱法(マイクロトラック法)で測定したメジアン径で規定する。
【0031】
(a−3)支持粉末
本発明では支持粉末としては、Al粉末の融点よりも高い融点を有するものを用いる。また、このような支持粉末としては水溶性塩が好ましく、入手の容易性から塩化ナトリウムや塩化カリウムが好適に用いられる。支持粉末が除去されることで形成された空間が多孔質体の孔になることから、支持粉末の粒径が孔径に反映される。そこで、本発明で用いる支持粉末の粒径は、10〜1000μmとするのが好ましい。支持粉末の粒径は、ふるいの目開きで規定する。従って、分級によって支持粉末の粒径を揃えることで、孔径の揃った多孔質体のAl−Si合金集電体が得られる。
【0032】
(a−4)金属板
本発明においては、混合粉末を金属板と複合化した状態で用いてもよい。金属板とは無孔又は有孔の板や箔;有孔の金網、エキスパンドメタル、パンチングメタル及び絡み合った金属繊維などの網状体;である。金属板が支持体となり集電体の強度を向上させ、更に導電性が向上する。この集電体の強度が高いほど、電極作製工程において多孔質体が欠落することはなく、十分な電池性能を発揮することができ、また外部刺激からの衝撃に対する耐性に優れた電池の作製が可能となる。金属板の材質としては、純Al又はAl合金が好適に用いられ、Al合金としては、Al−Ti合金、Al−Mn合金、Al−Fe合金、Al−Ni合金などが好ましい。また、Al材以外として、Tiとその合金、SUSなどを用いてもよい。
【0033】
混合粉末と金属板との複合化とは、例えば金属板に金網を用いた場合には、網目の中に混合粉末を充填しつつ網全体を混合粉末で覆うような一体化状態をいう。金属板の両側に複合化した多孔質体の空孔内に正極活物質を充填する場合、金属板が有孔の網状体であれば、金属板で分けられる一方の側の多孔質体から充填すると、他方の多孔質体の空孔内にまで充填することができるため、金属板は網状体であることが好ましい。
【0034】
また、上記のような構成の集電体に活物質を充填して正極とし、金属板によって隔てられたそれぞれの多孔質体をセパレータを介して負極と対面させた、即ち正極が負極で挟まれた構成の電池を組み上げた場合を考える。この場合、金属板が網状体であれば金属板によってリチウムイオンの移動が遮られることがないため、両方の多孔質体が共に、対面していない側の負極との電池反応にも寄与できる。従って、何らかの理由で一方の負極からのリチウムイオンの正極への移動が途絶えた場合においても、他方の負極との間においてリチウムイオンのやり取りが可能なので、電極反応への影響が少ない。この点からも金属板が網状体であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明における有孔とは、金網の網目部分、パンチングメタルのパンチ部分、エキスパンドメタルの網目部分、絡み合った金属繊維の繊維と繊維との隙間部分を言う。網状体の有孔の孔径は、結合した混合粉末から支持粉末を除去して得られる孔の径より大きくても、小さくてもよいが、Al−Si多孔質体の気孔率を損なわないためにも、網状体の開孔率は大きい方が好ましい。
【0036】
(a−5)混合方法
Al粉末と支持粉末との混合割合は、Al粉末とSi粉末の体積の合計をV、支持粉末の体積をVsとしてAl粉末の体積率であるV/(V+Vs)が5〜20%となるように決めることが好ましい。ここで体積V、Vsはそれぞれの質量と比重から求めた値である。V/(V+Vs)が20%を超える場合には、支持粉末の含有率が少な過ぎるために支持粉末同士が接触することなく独立して存在することになり、支持粉末を十分に除去しきれないことがある。除去しきれない支持粉末は、多孔質体のAl−Si合金集電体の腐食の原因となる。一方、V/(V+Vs)が5%未満の場合には、多孔質体を構成する結合金属粉末壁が薄くなり過ぎることで、多孔質体の強度が不十分となり、取り扱いや形状維持が困難となることがある。
【0037】
なお、Al粉末を支持粉末と混合する混合手段としては、振動攪拌機、容器回転混合機といったものが用いられるが、十分な混合状態が得られるのであれば特に限定されるものではない。
【0038】
(a−6)複合化方法
混合粉末を成形用金型に充填する際に、混合粉末と金属板とを複合化することにより上述の複合化集電体が得られる。複合化の形態としては、混合粉末の間に金属板を挟んでも、混合粉末を金属板で挟んでも構わない。また、混合粉末と金属板の複合化を繰り返して多段にすることもできる。複合化の際にはAl粉末や支持粉末の粒径、混合割合の異なる混合粉末や、種類の異なる複数の金属板を組み合わせることもできる。
【0039】
(a−7)加圧成形方法
加圧成形時の圧力は、200MPa以上が好ましい。十分な圧力を加えて成形することでAl粉末同士が擦れ合い、Al粉末同士の接合を阻害するAl粉末表面の強固な酸化皮膜が破壊される。この酸化皮膜は融解したAlを閉じ込め、互いに接触することを妨げると共に、融解Alとの濡れ性に劣り、液体状のAlを排斥する作用がある。そのため、加圧成形の圧力が200MPa未満の場合にはAl粉末表面の酸化皮膜の破壊が不十分で、加熱時に融解したAlが成形体の外に滲み出しAlの塊が形成される。Al塊が存在する状態で電極を作製した場合、この凸状の部分がセパレータを突き破ってショートの原因となる点で弊害となる。成形圧力は使用する装置や金型が許容する限り大きい方が形成される多孔質体のAl結合粉末壁が強固になって好ましい。しかしながら、400MPaを超えると効果が飽和する傾向がある。加圧成形体の離型性を高める目的でステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸、各種ワックス、合成樹脂、オレフィン系合成炭化水素等の潤滑剤を使用することが好ましい。
【0040】
(a−8)焼結
焼結はAl−Si系粉末の融点以上、かつ、支持粉末の融点未満の温度に加熱して行う。混合粉末を金属板と複合化する場合においても、上記融点以上で、かつ、支持粉末の融点未満の温度で加熱して行う。ここで融点とは、液相が生じる温度を指す。例えば、Al−Si系粉末として純Al粉末とSi粉末の混合物を用いる場合、純Al粉末の融点は660℃であるが、Si粉末が混合されていることでAl−Si二元系の共晶温度である577℃において液相が生じ始めることから、577℃を融点とする。Al及びSi以外の元素が存在することで融点が変化するが、この場合も液相が生じる温度を融点とする。融点以上まで加熱することで、Al粉末又はAl粉末とSi粉末との混合粉末から液相が生じ、Al粉末同士、或いは、Al粉末と金属板とが金属的に結合する。加熱温度が上記融点未満の場合には、液相が存在しないために焼結が進行せず、Al粉末同士、或いは、Al粉末と金属板との結合が不十分となる。
【0041】
加熱温度が支持粉末の融点以上では支持粉末が溶融してしまうため、加熱は支持粉末の融点未満の温度で行う。支持粉末として塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの水溶性塩を用いる場合には、好ましくは700℃未満、更に好ましくは680℃未満で加熱する。支持粉末の融点以上の温度で加熱した場合には、支持粉末の融解に伴い多孔質体の形状を維持できない。また、温度が高くなるほど融解したAlの粘度が低下し、加圧成形体の外側にまで融解したAlが滲み出て、凸状のAl塊が形成される。Al塊が存在する状態で電極を作製した場合、この凸状の部分がセパレータを突き破ってショートを起こす原因となる点で弊害となる。
加熱の保持時間は、1〜60分程度が好ましい。また、焼結時に加圧成形体に荷重を掛け、加圧成形体の圧縮を行ったり、加熱と冷却の繰り返しを複数回行ったりしてもよい。
【0042】
熱処理雰囲気はAlの酸化を抑制する不活性雰囲気とし、真空;窒素、アルゴン、水素、分解アンモニア及びこれらの混合ガス;の雰囲気が好適に用いられ、真空雰囲気が好ましい。真空雰囲気は、好ましくは2×10
−2Pa以下、更に好ましくは1×10
−2Pa以下である。2×10
−2Paを超える場合、Al粉末表面に吸着した水分の除去が不十分となり、熱処理時にAl表面の酸化が進行してしまう。前述の通り、Al表面の酸化皮膜は液体状のAlとの濡れ性に劣り、その結果、融解したAlが滲み出し玉状の塊が形成される。窒素等の不活性ガス雰囲気の場合は、酸素濃度を200ppm以下、露点を−35℃以下にすることが好ましい。
【0043】
(a−9)支持粉末の除去方法
焼結体中の支持粉末の除去は、支持粉末を水に溶出させて行う方法が好適に用いられる。焼結体を十分な量の水浴又は流水浴の中に浸漬する等の方法により、支持粉末を容易に溶出することができる。支持粉末として水溶性塩を用いる場合には、これを溶出させる水は、イオン交換水や蒸留水等、不純物の少ない方が好ましいが、水道水でも特に問題は無い。浸漬時間は、通常、数時間〜24時間程度の範囲で適宜選択される。浸漬中に超音波等によって振動を与えることにより、溶出を促進することもできる。
【0044】
(b)有孔又は無孔の箔や板
この形状のAl−Si合金集電体は、常法により溶解、鋳造した鋳塊を半連続鋳造法や連続鋳造法により箔状や板状に圧延して製造される。鋳造した鋳塊は均質化処理を行った後、熱間圧延、冷間圧延(及び、箔の場合には箔圧延)することによりAl−Si合金箔やAl−Si合金板が得られる。各工程には、公知のあらゆる技術が利用できる。このようにして製造される無孔の箔や板を穿孔して有孔の箔や板としてもよい。孔の形状は、特に限定されるものではない。また、有孔又は無孔のAl−Si合金を、これと異なる金属板の少なくとも片面に重ね合わせてクラッド圧延した後に、上述の製造方法における熱間圧延以降の工程を経ることで、クラッド箔やクラッド板の複合化集電体とすることもできる。
【0045】
(c)有孔の網状体
この形状のAl−Si合金集電体は、有孔の金網、エキスパンドメタル、パンチングメタル及び絡み合った金属繊維などの網状体の形状を有する。上記Al−Si合金の箔や板と同様に製造したものを延伸することによりエキスパンドメタルを形成し、穿孔することによりパンチングメタルを形成する。また、常法により溶解、鋳造した鋳塊を半連続鋳造法や連続鋳造法により線状に圧延し、又は箔の切削により得た線を編み込んで金網とし、又は、線を絡み合わせて金属繊維を形成する。このような有孔の網状体もまた、金属板と複合化してもよい。
【0046】
B.非水電解質二次電池用正極
以下に、本発明に係る非水電解質二次電池用正極について説明する。本発明に係る非水電解質二次電池用正極は上述のAl−Si合金集電体に、少なくとも正極活物質を含有する電極合材を溶媒に分散したスラリーを充填し又は付着させた後、乾燥により溶媒を蒸発、飛散させることにより作製される。
【0047】
B−1.電極合材
電極合材は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質の他に導電助剤と結着剤を更に含有するのが好ましい。また、電極合材は、更に増粘剤や分散剤を含有していてもよい。
【0048】
(a)正極活物質
本発明に用いる正極活物質としては、非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウム金属酸化物を用いることができる。
【0049】
(b)導電助剤
本発明に用いる導電助剤は特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を用いることができる。
【0050】
(c)結着剤
本発明に用いる結着剤としては特に限定されるものではなく、公知又は市販のものを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂等用いることができる。
【0051】
B−2.電極合材の担持
Al−Si合金集電体が多孔質体の場合には、電極合材は多孔質体の空孔中に充填され担持される。Al−Si合金集電体が有孔の箔や板、ならびに、有孔の網状体の場合には、電極合材は有孔中に充填されるとともに、箔、板、網の表面に付着して担持される。Al−Si合金集電体が無孔の箔や板の場合には、電極合材は箔や板の表面に付着して担持される。このように担持される電極合材は溶媒に分散したスラリー状態で空孔中や有孔中に充填され、或いは、箔、板、網の表面に付着させ、その後、溶媒を蒸発、飛散させて、空孔中や有孔中に担持され、或いは、箔、板、網の表面に担持される。スラリー中の各成分の配合割合は集電体に担持される際の成分割合であるが、所望の作用効果が得られるように適宜選択される。電極合材全体に対する正極活物質の質量割合として、85〜97%とするのが好ましい。また、これら各成分のスラリー中の濃度も限定されるものではない。スラリーの溶媒も特に限定されるものではないが、例えば、N‐メチル‐2‐ピロリドン、水等が好適に用いられる。結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、N‐メチル‐2‐ピロリドンを溶媒に用いるのが好ましく、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等を用いる場合は、水を溶媒に用いるのが好ましい。
【0052】
Al−Si合金集電体が多孔質体の場合には、圧入法などの公知の方法によりスラリーを空孔中に充填する方法が適用される。圧入法とは、多孔質体のAl−Si合金集電体を隔膜として一方側にスラリーを配置し、他方側はスラリーの透過側とするものである。そして、他方側の透過側を減圧にしてスラリーを透過させにことによって、多孔質体のAl−Si合金集電体の空孔中に電極合材を充填するものである。減圧する方法に替えて、一方側に配置したスラリーを加圧することにより、多孔質体のAl−Si合金集電体の空孔中に電極合材を充填するものである。
【0053】
Al−Si合金集電体が無孔の箔や板の場合には、コーティング用アプリケータなどを用いて箔や板の表面にスラリーを塗布する等の方法が適用される。Al−Si合金集電体が有孔の箔や板、ならびに、有孔の網状体の場合には、上記の圧入法と塗布法のいずれも適用される。
【0054】
また、Al−Si合金集電体が、多孔質体の場合;有孔の箔や板、ならびに、有孔の網状体の場合;無孔の箔や板の場合のいずれの場合においても、上記の圧入法や塗布法に替え、スラリー中にAl−Si合金集電体を浸漬することによって、スラリーを空孔中や有孔中に拡散充填し、或いは、箔、板、網の表面に拡散付着させる方法(以下、「浸漬法」と記す)を適用してもよい。
【0055】
以上のようにしてAl−Si合金集電体に電極合材を担持した正極は、溶媒を蒸発、飛散させて乾燥されるが、乾燥条件としては、溶媒を十分に蒸発、飛散させるものであれば特に限定されるものではない。例えば、50〜200℃で1〜60分間乾燥するのが好ましい。
【0056】
このようにして得られる正極は、ロールプレス機や平板プレス機等を用いて加圧するプレス処理によって電極合材の密度を高めるのが好ましい。プレス圧力は、所望の電極合材密となるように適宜選択される。
【0057】
C.非水電解質二次電池
以下に、本発明に係る非水電解質二次電池について説明する。本発明に係る非水電解質二次電池用は、上述の非水電解質二次電池用正極と、リチウムの吸蔵放出が可能な負極と、これら正負極間に配置されたセパレータと、非水電解質とを備える。
【0058】
C−1.負極
負極としては、リチウムの吸蔵放出が可能な、すなわち、負極活物質を有する電極が用いられる。このような負極としては、負極活物質を含有する電極合材を集電体に担持したものを用いることができる。電極合材には、負極活物質の他に導電助剤と結着剤を更に加えるのが好ましく、増粘剤を更に加えてもよい。また、Si、Sn等を含む金属材料、合金材料、酸化物材料を活物質とする場合、めっきや蒸着等の手法により集電体に直接活物質層を形成し、負極としてもよい。
【0059】
(a)負極活物質
負極活物質としては非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボンやソフトカーボンなどの炭素材料;Al、Si、Sn等のリチウムと化合することができる金属材料や合金材料;チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、一酸化珪素(SiO)、二酸化珪素(SiO
2)などの酸化物材料;などを用いることができる。
【0060】
(b)結着剤、導電助剤、増粘剤
結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、コアシェルバインダー、ポリイミドやポリアミドイミドなどのイミド系樹脂などが用いられる。
【0061】
導電助剤としては正極と同様のもの、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を用いることができる。更に、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶液等を用いることができる。
集電体に担持される際の電極合材の成分割合については、所望の作用効果が得られるように適宜選択される。
【0062】
C−2.セパレータと非水電解質
正極と負極のセパレータとしては、一般的に用いられているポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの高分子膜が用いられる。また、非水電解質としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの有機溶媒に溶解させた六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)を用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1<発明例1〜8及び比較例1〜4>)
この実施例は、本発明に係る非水電解質二次電池用正極に用いるAl−Si合金集電体に関するものである。
【0065】
<発明例1>
Al―Si系粉末として、粒径3μmの純Al粉末(純度99.9%)と粒径5μmの純Si粉末(純度99.9%)を、支持粉末として粒径400μmの塩化ナトリウムを用いた。Al―Si系粉末において、純Al粉:純Si粉末=99.5:0.5の質量割合とした。次いで、Al―Si系粉末と塩化ナトリウムを混合して混合粉末とした。混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合は、10%とした。この混合粉末を30mm×12mmの穴を有する金型に充填し、400MPaで加圧成形して厚さ1mmの圧粉体を得た。この圧粉体を1×10
−2Pa以下の雰囲気下において、660℃で5分間加熱して焼結して焼結体を得た。これを冷却した後に、流水(水道水)中に6時間浸漬して支持粉末を溶出させ、多孔質体のAl−Si合金集電体1(Si含有量:0.5%、空孔率:91%)を作製した。
【0066】
(荷重維持性)
Al−Si合金集電体3に対し、
図1に示す強度測定用治具を用いてその荷重維持性を調べた。図に示すように、支持用ローラ2、2(ローラ間の長さL=25.0±0.2mm)上に載置したAl−Si合金集電体1の上に、荷重用ローラ1を押し付けて一定速度で降下させた際の荷重を測定した。折れ易い試料は、荷重が最大値に達した後に急激に荷重が低下する。そこで、最大荷重に達した点から更に荷重用ローラ1を2mm降下させた時点における荷重の最大荷重に対する割合を荷重維持率とし、これが50%以上だったものを合格、50%未満であったものを不合格とした。荷重用ローラ1の降下速度は1mm/minとした。Al−Si合金集電体1の荷重維持率は72%であった。
【0067】
<発明例2>
上記純Si粉末に替えて、34μmの粒径を有するAl−12%Si合金粉末を用い、Al―Si系粉末において、純Al粉:12%Si粉末=9:1の質量割合とし、焼結のための加熱温度を650℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体2(Si含有量:1.2%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体2の荷重維持率は76%であった。
【0068】
<発明例3>
上記純Si粉末に替えて、34μmの粒径を有するAl−12%Si合金粉末を用い、Al―Si系粉末において、純Al粉:12%Si粉末=8:2の質量割合とし、焼結のための加熱温度を630℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体3(Si含有量:2.4%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体3の荷重維持率は83%であった。
【0069】
<発明例4>
上記純Si粉末に替えて、34μmの粒径を有するAl−12%Si合金粉末を用い、Al―Si系粉末において、純Al粉:Al−12%Si合金粉末=7:3の質量割合とし、焼結のための加熱温度を620℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体4(Si含有量:3.6%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体4の荷重維持率は79%であった。
【0070】
<発明例5>
上記純Si粉末に替えて、34μmの粒径を有するAl−12%Si合金粉末を用い、Al―Si系粉末において、純Al粉:Al−12%Si合金粉末=6:4の質量割合とし、焼結のための加熱温度を610℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体5(Si含有量:4.8%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体5の荷重維持率は79%であった。
【0071】
<発明例6>
Al―Si系粉末において、純Al粉:純Si粉末=92:8の質量割合とし、焼結のための加熱温度を600℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体6(Si含有量:8.0%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体6の荷重維持率は61%であった。
【0072】
<発明例7>
Al―Si系粉末において、純Al粉:純Si粉末=87.4:12.6の質量割合とし、焼結のための加熱温度を580℃とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体7(Si含有量:12.6%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体7の荷重維持率は51%であった。
【0073】
<発明例8>
Si含有量を2%としたAl合金溶湯をDC鋳造し、面削、均質化熱処理(500℃×
5時間)、熱間圧延(460℃)を経て、厚さ5mmの熱間圧延板を作製した。次いで、冷間圧延、中間焼鈍(350℃×2時間)を行い、厚さ0.3mmの冷間圧延板を作製した。この冷間圧延板を箔圧延機で厚さ20μmに圧延し、無孔のAl−Si合金集電体8(Si含有量:2.0%)を作製した。Al−Si合金集電体8の荷重維持率は83%であった。
【0074】
<比較例1>
Al―Si系粉末において、純Al粉:純Si粉末=99.6:0.4の質量割合とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体9(Si含有量:0.4%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体9の荷重維持率は82%であった。
【0075】
<比較例2>
Al―Si系粉末において、純Al粉:純Si粉末=85:15の質量割合とした以外は発明例1と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体10(Si含有量:15%、空孔率:91%)を作製した。Al−Si合金集電体9の荷重維持率は43%であった。
【0076】
<比較例3>
発明例1において、混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を30%とした以外は、同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体11(Si含有量0.5%、空孔率:69%)を作製した。Al−Si合金集電体11の荷重維持率は57%だったが、空孔率が塩化ナトリウムの体積割合より低いことから、塩化ナトリウムの残留が確認された。
【0077】
<比較例4>
発明例1において、混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を3%とした以外は、同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体12の作製を試みたが、流水浸漬時に形状が崩れ、荷重維持率を測定できなかった。
【0078】
荷重維持性の評価結果において、発明例1〜8と比較例1、3ではいずれも合格であった。比較例2では、Si含有量が多過ぎたために集電体の構造が脆くなり、荷重維持性が不合格であった。
【0079】
(実施例2<発明例1〜8及び比較例1〜2>)
この実施例は、本発明に係る非水電解質二次電池用正極及びこれを用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【0080】
<発明例1>
(正極の作製)
正極活物質として炭素被覆リン酸鉄リチウム100質量部、導電助剤としてアセチレンブラック6.8質量部、結着剤として水分散バインダである固形分濃度40質量%のアクリル系共重合体3質量部(固形分として)、ならびに、分散剤として水溶液中の固形分濃度2質量%のカルボキシメチルセルロース2質量部(固形分として)を、溶媒であるイオン交換水5gに分散してスラリーを調製した。
【0081】
混合粉末における塩化ナトリウムの体積割合を92%とし、混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は実施例1の発明例1と同じ方法で、多孔質体のAl−Si合金集電体11(Si含有量:0.5%、空孔率:92%)を作製した。
【0082】
Al−Si合金集電体11には、前記浸漬法を用いて電極合材を充填した。具体的には、正極活物質、導電助剤及び結着剤を溶媒に分散したスラリー中にAl−Si合金集電体11を浸漬し、減圧した(−0.1MPa)。浸漬後、Al−Si合金集電体11の表裏面に付着した余剰スラリーをヘラを用いて擦り切り落とした。次いで、スラリーを充填したAl−Si合金集電体11を乾燥装置内に配置し、80℃で60分間乾燥させて溶媒を蒸発、飛散させた。更に、60MPaの圧力でプレス処理を施し正極試料1を作製した。正極における電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。
【0083】
(評価セルの作製)
上記のプレス処理した正極試料1を作用極に用いた3極式評価セルを作製した。対極及び参照極にはリチウム金属を用いた。電解液として、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比で2:5:3)にLiPF
6を1.3mol/L溶解させた非水電解液を用い、セパレータとして、微多孔質ポリエチレン膜を用いた。外装体には、ポリプロピレンブロックを加工した樹脂製容器を用い、作用極、対極及び参照極に設けた各端子の開放端部が外部露出するように電極群を収納封口した。
【0084】
(電池試験)
上記のようにして作製した評価セル電池を用いて、充放電特性の電池試験を行った。電池試験では、0.04Cの電流で4.2Vまで充電し、0.04Cの電流で2.0Vまで放電した。充電時のカットオフ電流は、0.01Cとした。初回充電容量を測定し、充電状態と放電状態の容量差に含まれる集電体の寄与分を求めた。
【0085】
具体的には、正極試料1の初回充電容量から初回放電容量を差し引き、これを正極試料の集電体の質量で割った値(mAh/g)を集電体の単位質量当たりの不可逆容量とした。この不可逆容量が、5mAh/g以上のものを合格とした。初回充電容量、初回放電容量、不可逆容量及び集電体の単位質量当たりの不可逆容量を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図2に示す。なお、図中「Potential」は「電位」を、「Capacity」は「容量」を表わし、
図3〜7において同じである。
【0086】
【表1】
【0087】
<発明例2>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を20%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体2と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体12(Si含有量:1.2%、空孔率:81%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料2を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料2は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図3に示す。
【0088】
<発明例3>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を8%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体3と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体13(Si含有量:2.4%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料3を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料3は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図4に示す。
【0089】
<発明例4>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を8%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体4と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体14(Si含有量:3.6%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料4を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料4は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図5に示す。
【0090】
<発明例5>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を8%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体5と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体15(Si含有量:4.8%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料5を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料5は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図6に示す。
【0091】
<発明例6>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を6%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体6と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体16(Si含有量:8.0%、空孔率:95%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料6を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料6は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。
【0092】
<発明例7>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を8%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体7と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体17(Si含有量:12.6%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料7を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料7は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。
【0093】
<発明例8>
上記無孔のAl−Si合金集電体8(Si含有量:2.0%)上に、コーティング用アプリケータを用いて実施例2の発明例1で用いたスラリーを塗布し、これを乾燥装置内に配置して80℃で2時間乾燥し集電体上に電極合材を付着させた。乾燥状態における電極合材の付着量は、集電体1m
2当たり154gであった。1.8/cm
3の密度となるまでプレス処理をした後、φ20mmで打ち抜いて正極試料8を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、評価セルによる電池試験を行った。結果を表1に示す。
【0094】
<比較例1>
混合粉末におけるAl―Si系粉末の体積割合を8%とし、この混合粉末をφ20mmの穴を有する金型に充填した以外は上記Al−Si合金集電体9と同じ条件で、多孔質体のAl−Si合金集電体18(Si含有量:0.4%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料9を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料9は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
参考のために、純Al集電体を用いた以外は実施例2の比較例1と同じようにして純Al集電体19(Si含有量:0%、空孔率:93%)を作製した。これを用いて実施例2の発明例1と同様に、正極試料10を作製して評価セルによる電池試験を行った。なお、正極試料10は、60MPaの圧力でプレス処理を施し、電極合材の密度は、1.8g/cm
3であった。結果を表1に示す。また、初回充放電曲線を
図7に示す。
【0096】
表1及び図に示すように、発明例1〜8では、初回充放電での充電状態と放電状態との容量差における集電体の寄与分が、その単位質量当たり5mAh/g以上と大きかった。このような充電容量が増加する要因は、初回充電時の4.0V vs. Li/Li
+付近で、正極集電体に用いたAl−Si合金に由来する酸化反応が生じるためと考えられる。このように、集電体中のSi含有量が多いほど、容量差における集電体の寄与分も大きくなった。これに対して、表1に示すように、比較例1及び比較例2では、初回充放電での充電状態と放電状態との容量差における集電体の寄与分が、その単位質量当たり5mAh/g未満と小さかった。