特許第6071447号(P6071447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6071447保持器、転がり軸受および歯科用ハンドピース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071447
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】保持器、転がり軸受および歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20170123BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F16C33/38
   F16C19/06
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-247785(P2012-247785)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-95442(P2014-95442A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 辰三
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−019937(JP,A)
【文献】 特開2006−329313(JP,A)
【文献】 特開2007−010008(JP,A)
【文献】 特開2008−256152(JP,A)
【文献】 米国特許第04192560(US,A)
【文献】 特表2002−515105(JP,A)
【文献】 米国特許第07380990(US,B2)
【文献】 特公昭49−043854(JP,B1)
【文献】 独国特許出願公開第102010014482(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0193545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/30−33/66
F16C 19/00−19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された外輪および内輪を備えた輪体に配設された複数の転動体を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する環状の保持器であって、
前記保持器の外周面および内周面の少なくともいずれかには、前記保持器の回転時に前記輪体と前記保持器との間に流体動圧を発生させる動圧溝が設けられ、
前記動圧溝は、前記保持器の軸方向に沿うとともに、前記周方向に平行に並んで複数形成されており、
前記動圧溝は、
前記保持器から見て前記輪体の相対回転方向の下流側に配置された第一側面と、
前記第一側面と連続形成され、前記保持器から見て前記輪体の前記相対回転方向の上流側に配置された第二側面と、
を備え、
前記第一側面は、前記第二側面よりも面積が広く形成されるとともに、前記軸方向から見たとき、前記第二側面よりも周方向に沿うように形成されており、
前記保持器の前記外周面および前記内周面に、それぞれ第一の前記動圧溝および第二の前記動圧溝が設けられ、
前記第一の動圧溝の底部と、前記第二の動圧溝の底部とは、互いに周方向にずれた位置に形成されていることを特徴とする保持器。
【請求項2】
請求項1に記載の保持器であって、
環状のベース部と、
前記ベース部から前記軸方向の一方側に向かって立設され、前記転動体を転動自在に保持可能な複数組の一対の爪部と、
を備え、
前記動圧溝は、前記ベース部の内周面および外周面の少なくともいずれかに形成されていることを特徴とする保持器。
【請求項3】
請求項2に記載の保持器であって、
前記ベース部は、径方向の内側および外側のいずれかに張り出し形成された張出部を備え、
前記動圧溝は、少なくとも前記張出部の周面に形成されていることを特徴とする保持器。
【請求項4】
請求項1に記載の保持器を備え、
前記動圧溝は、少なくとも前記保持器の保持器案内面に形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項5】
請求項に記載の転がり軸受であって、
前記転がり軸受の使用時に、前記内輪と前記保持器との相対回転速度が前記外輪と前記保持器との相対回転速度よりも高い場合には、前記保持器の前記内周面に前記動圧溝を設け、前記外輪と前記保持器との相対回転速度が前記内輪と前記保持器との相対回転速度よりも高い場合には、前記保持器の前記外周面に前記動圧溝を設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項6】
請求項に記載の転がり軸受を備えたことを特徴とする歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持器、この保持器を備えた転がり軸受および歯科用ハンドピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に転がり軸受は、同軸上に配置された外輪および内輪と、内輪と外輪との間に配設された複数の転動体と、この転動体を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する保持器と、を備えている。
ところで、転がり軸受の保持器にあっては、高速回転する工作機械や歯科用ハンドピース等に使用される場合、耐熱性や耐焼付き性、耐摩耗性等の耐久特性を向上させることが課題となる。
【0003】
上述の課題に鑑み、耐熱性および耐摩耗性に優れた、例えばポリアミドイミド樹脂等の樹脂材料により、保持器を形成することが考えられる。
しかし、ポリアミドイミド樹脂は、一般に他の樹脂材料と比較して高価である。さらに、ポリアミドイミド樹脂は、射出成型が困難であるため、切削加工により保持器を形成する必要があり、加工費も高価である。
【0004】
そこで、例えば、耐熱性を有する射出成型可能なポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等に、ガラス繊維やカーボン繊維等を配合した樹脂材料により、保持器を射出成型する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、保持器の耐焼付き性を向上させるために、射出成型可能な樹脂材料からなる保持器の案内面に、平面視V字状の溝をヘリングボーン状に配列した動圧溝を形成した技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4962103号公報
【特許文献2】特開2008−19937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の保持器にあっては、ガラス繊維やカーボン繊維等の配合のみでは保持器の耐摩耗性等の耐久性が十分に確保できないおそれがある。
また、特許文献2に記載の保持器にあっては、溝をヘリングボーン状に配列して動圧溝を形成しているため、金型の構成が複雑なものとなり高コスト化するおそれがある。
さらに、特許文献2に記載の保持器にあっては、転動体が収納される貫通孔周辺に動圧溝が形成されていないため、保持器の回転時に保持器が変形し、外輪および内輪と保持器とが高い接触圧力で接触するおそれがある。また、動圧溝の形状が複雑であるため、保持器が精度良く形成できず、保持器の回転時に、外輪および内輪と保持器とが高い接触圧力で接触するおそれがある。したがって、保持器の耐久性が十分に確保できないおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、耐久性を確保できるとともに低コストな保持器、転がり軸受および歯科用ハンドピースの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の保持器は、同軸上に配置された外輪および内輪を備えた輪体に配設された複数の転動体を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する環状の保持器であって、前記保持器の外周面および内周面の少なくともいずれかには、前記保持器の回転時に前記輪体と前記保持器との間に流体動圧を発生させる動圧溝が設けられ、前記動圧溝は、前記保持器の軸方向に沿うとともに、前記周方向に平行に並んで複数形成されおり、前記動圧溝は、
前記保持器から見て前記輪体の相対回転方向の下流側に配置された第一側面と、
前記第一側面と連続形成され、前記保持器から見て前記輪体の前記相対回転方向の上流側に配置された第二側面と、を備え、前記第一側面は、前記第二側面よりも面積が広く形成されるとともに、前記軸方向から見たとき、前記第二側面よりも周方向に沿うように形成されており、前記保持器の前記外周面および前記内周面に、それぞれ第一の前記動圧溝および第二の前記動圧溝が設けられ、前記第一の動圧溝の底部と、前記第二の動圧溝の底部とは、互いに周方向にずれた位置に形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、保持器の外周面および内周面の少なくともいずれかに動圧溝を設けることにより、保持器の動圧溝と、動圧溝に対向し、輪体を構成する外輪および内輪の少なくともいずれかとの間に、流体動圧を発生させることができる。これにより、保持器の回転時に、保持器と、動圧溝に対向する外輪および内輪の少なくともいずれかとが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。また、動圧溝は、保持器の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで複数形成されているので、保持器の全周にわたり剛性を確保できる。したがって、保持器の回転時に保持器が変形するのを抑制し、輪体を構成する外輪および内輪と、保持器とが高い接触圧力で接触するのを抑制できる。これにより、保持器の摩耗を抑制できるので、保持器の耐久性を確保できる。
また、保持器の摩耗を抑制できるので、従来技術よりも耐熱性や耐摩耗性が低い樹脂材料を採用できる。また、例えば軸方向に金型をスライド移動させるだけで、流体動圧を発生させる複数の動圧溝を精度良く簡単に形成できる。したがって、耐久性を確保できる保持器を低コストに形成できる。
また、保持器から見て輪体の相対回転方向の下流側に配置された第一側面は、保持器から見て輪体の相対回転方向の上流側に配置された第二側面よりも面積が広く形成されているので、保持器と輪体との相対回転に伴って、下流側に配置された第一側面により所定の流体動圧を発生できる。また、保持器から見て相対回転方向の下流側に配置された第一側面は、軸方向から見たとき、保持器から見て相対回転方向の上流側に配置された第二側面よりも周方向に沿うように形成されているので、保持器から見て輪体の相対回転方向の上流側から下流側に向かって、空気を第一側面に沿わせるように移動させて空気抵抗を抑制できる。したがって、回転効率のよい転がり軸受を形成できる。
また、第一の動圧溝の底部と、第二の動圧溝の底部とが互いに周方向にずれた位置に形成されているので、保持器の径方向に肉薄な部分が形成されるのを防止できる。したがって、保持器の内周面および外周面の両面に動圧溝を設けた場合であっても、保持器の強度を確保できる。
【0010】
また、環状のベース部と、前記ベース部から前記軸方向の一方側に向かって立設され、前記転動体を転動自在に保持可能な複数組の一対の爪部と、を備え、前記動圧溝は、前記ベース部の内周面および外周面の少なくともいずれかに形成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、転動体を転動自在に保持可能な複数組の一対の爪部を備えているので、転動体を確実に保持できる。一対の爪部を備えた保持器は、いわゆる深溝玉軸受用の保持器として好適である。
【0012】
また、前記ベース部は、径方向の内側および外側のいずれかに張り出し形成された張出部を備え、前記動圧溝は、少なくとも前記張出部の周面に形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、転がり軸受を形成時に、ベース部から径方向の内側および外側のいずれかに張り出した張出部の周面を、保持器案内面とすることができる。さらに、張出部の周面である保持器案内面に動圧溝を形成することで、保持器の回転時に、保持器の張出部に形成された保持器案内面と、外輪および内輪の少なくともいずれか、とが高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、保持器の摩耗を抑制できるので、保持器の耐久性を確保できる。
【0020】
また、本発明の転がり軸受は、上述の保持器を備え、前記動圧溝は、少なくとも前記保持器の保持器案内面に形成されていることを特徴としている。
【0021】
本発明によれば、上述の保持器を備え、動圧溝が少なくとも保持器案内面に形成されているので、流体動圧が発生することにより、保持器案内面と、外輪および内輪の少なくともいずれかとが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、耐久性を確保できるとともに低コストな転がり軸受を形成できる。
【0022】
また、前記転がり軸受の使用時に、前記内輪と前記保持器との相対回転速度が前記外輪と前記保持器との相対回転速度よりも高い場合には、前記保持器の前記内周面に前記動圧溝を設け、前記外輪と前記保持器との相対回転速度が前記内輪と前記保持器との相対回転速度よりも高い場合には、前記保持器の前記外周面に前記動圧溝を設けたことを特徴としている。
【0023】
本発明によれば、内輪と保持器との相対回転速度が外輪と保持器との相対回転速度よりも高い場合には、保持器の内周面に動圧溝を設け、外輪と保持器との相対回転速度が内輪と保持器との相対回転速度よりも高い場合には、保持器の外周面に動圧溝を設けているので、外輪および内輪のうち保持器に対する相対回転速度が高いいずれかと、保持器との間に流体動圧を発生させることができる。これにより、外輪および内輪のうち保持器に対する相対回転速度が高いいずれかと保持器とが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、保持器の摩耗を抑制できるので、保持器の耐久性を確保できる。特に、高回転であるほど高い流体動圧を発生でき、保持器の摩耗を確実に抑制できるので、例えば歯科用ハンドピース等の転がり軸受に好適である。
【0024】
また、本発明の歯科用ハンドピースは、上述の転がり軸受を備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明によれば、上述の転がり軸受を備えているので、耐久性を確保できるとともに低コストな歯科用ハンドピースを形成できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、保持器の外周面および内周面の少なくともいずれかに動圧溝を設けることにより、保持器の動圧溝と、動圧溝に対向し、輪体を構成する外輪および内輪の少なくともいずれかとの間に、流体動圧を発生させることができる。これにより、保持器の回転時に、保持器と、動圧溝に対向する外輪および内輪の少なくともいずれかとが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。また、動圧溝は、保持器の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで複数形成されているので、保持器の全周にわたり剛性を確保できる。したがって、保持器の回転時に保持器が変形するのを抑制し、輪体を構成する外輪および内輪と、保持器とが高い接触圧力で接触するのを抑制できる。これにより、保持器の摩耗を抑制できるので、保持器の耐久性を確保できる。
また、保持器の摩耗を抑制できるので、従来技術よりも耐熱性や耐摩耗性が低い樹脂材料を採用できる。また、例えば軸方向に金型をスライド移動させるだけで、流体動圧を発生させる複数の動圧溝を精度良く簡単に形成できる。したがって、耐久性を確保できる保持器を低コストに形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】歯科用ハンドピースの説明図である。
図2】歯科用ハンドピースのヘッド部の中心軸を含む側面断面図である。
図3】第一実施形態に係る転がり軸受の側面断面図である。
図4】第一実施形態に係るリテーナの外観斜視図である。
図5】第一実施形態に係るリテーナを径方向の内側から見たときの説明図である。
図6】第一実施形態に係るリテーナを軸方向から見たときの説明図である。
図7】第一実施形態の変形例に係る転がり軸受を軸方向から見たときの説明図である。
図8】第二実施形態に係る転がり軸受の側面断面図である。
図9】第二実施形態に係るリテーナを径方向の内側から見たときの説明図である。
図10】第二実施形態に係るリテーナを軸方向から見たときの説明図である。
図11】動圧溝の他の形状の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、第一実施形態に係るリテーナ(請求項の「保持器」に相当)、このリテーナを備えた転がり軸受および歯科用ハンドピースについて説明をする。なお、以下では、実施形態に係る歯科用ハンドピースについて説明したあと、第一実施形態に係る転がり軸受およびリテーナの順に説明をする。
図1は、歯科用ハンドピース1の説明図である。
図1に示すように、歯科用ハンドピース1は、本体部2の先端側に設けられたヘッド部3に、例えばドリルや砥石等の各種の工具5が着脱自在に設けられている。なお、以下の説明では、歯科用ハンドピース1の工具5の回転軸を中心軸Oとして説明する。
【0029】
図2は、歯科用ハンドピース1のヘッド部3の中心軸Oを含む側面断面図である。
図2に示すように、工具5はヘッド部3内の回転軸7に装着されている。回転軸7には、一対の転がり軸受30,30の内輪36,36が、それぞれ軸方向に並んで外挿されている。一対の転がり軸受30,30の外輪31,31は、それぞれヘッド部3のハウジング8に装着されている。これにより、回転軸7および工具5は、ヘッド部3のハウジング8に、一対の転がり軸受30,30を介して回転自在に支持されている。
回転軸7の外周面には、一対の転がり軸受30,30の間にタービン翼9が設けられている。回転軸7、工具5および一対の転がり軸受30,30の内輪36,36は、タービン翼9に対して高圧の空気を噴射することにより、中心軸O回りに回転する。なお、回転軸7および工具5は、例えば一方向θ(以下、「回転方向θ」という。)にのみ回転可能となっている。また、本実施形態の歯科用ハンドピース1の工具5の回転数は、例えば300000rpm〜400000rpm程度である。
【0030】
(第一実施形態の転がり軸受)
図3は、第一実施形態に係る転がり軸受30の側面断面図である。一対の転がり軸受30,30(図2参照)は、それぞれ同一形状であるため、以下では、一方(図2における上側)の転がり軸受30についてのみ説明をし、他方(図2における下側)の転がり軸受30については説明を省略する。また、転がり軸受30の中心軸線は、歯科用ハンドピース1の工具5の中心軸Oと共通となっている。したがって、以下では、転がり軸受30の中心軸線を中心軸Oとし、転がり軸受の内輪36の回転方向をθとして説明する。また、以下では、中心軸Oに沿う方向を「軸方向」とし、中心軸Oに直交する方向を「径方向」とし、中心軸O回りに周回する方向を「周方向」として説明する。
【0031】
図3に示すように、転がり軸受30は、外輪31および外輪31の径方向の内側において外輪31と同軸上に配置される内輪36を備えた輪体20と、輪体20を構成する外輪31と内輪36との間に配設された複数の転動体35と、複数の転動体35を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持するリテーナ60と、を備えている。
【0032】
輪体20を構成する外輪31は、軸方向に所定の厚さを有する例えばステンレス等の金属材料からなる円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工等により形成されている。
外輪31の内周面32における軸方向の中間部には、外輪転動面34が形成されている。外輪転動面34は、転動体35の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。外輪転動面34の側面断面における曲率半径は、転動体35の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成されている。外輪転動面34は、外輪31の内周面32の全周にわたって形成されており、環状に配置された複数の転動体35の外表面が当接可能となっている。
【0033】
輪体20を構成する内輪36は、軸方向に外輪31と同等の厚さを有する、例えばステンレス等の金属材料からなる略円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工等により形成されている。
内輪36の外周面37における軸方向の中間部には、内輪転動面39が形成されている。内輪転動面39は、転動体35の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。内輪転動面39の側面断面における曲率半径は、転動体35の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成されている。内輪転動面39は、内輪36の外周面37の全周にわたって形成されており、環状に配置された複数の転動体35の外表面が当接可能となっている。
内輪36は、歯科用ハンドピース1の回転軸7および工具5(いずれも図2参照)とともに、中心軸O回りに高速回転する。
【0034】
転動体35は、ステンレス等の金属材料やジルコニヤ等のセラミック材料等により球状に形成されている。転動体35は、外輪31の外輪転動面34および内輪36の内輪転動面39の間に複数個(本実施形態では7個)配置されており、外輪転動面34および内輪転動面39に沿って転動するようになっている。複数の転動体35は、リテーナ60によって、転動自在に周方向に沿って環状に均等配列されている。
【0035】
(第一実施形態に係るリテーナ)
リテーナ60は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等の合成樹脂等からなる円筒状の部材である。リテーナ60は、内輪36と外輪31との間において、内輪36および外輪31と同軸上に配置されており、内輪36と外輪31との間に配設された複数の転動体35を、周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持している。リテーナ60の軸方向の長さ(厚さ)は、内輪36および外輪31の軸方向の厚さと略同一に形成されている。
【0036】
また、リテーナ60は、内輪36と外輪31との間に配置されたとき、リテーナ60の外周面62と外輪31の内周面32との離間距離が、リテーナ60の内周面61と内輪36の外周面37との離間距離よりも狭くなるように形成されている。リテーナ60は、内輪36が高速回転し、複数の転動体35が中心軸O周りに回転方向θに公転したとき、複数の転動体35の公転に伴って回転方向θに回転する。
【0037】
図4は、リテーナ60の外観斜視図である。
図4に示すように、リテーナ60の周壁60aには、径方向に貫通する貫通孔63が複数(本実施形態では、7個)形成されている。貫通孔63は、リテーナ60の軸方向の中間部において、周方向に略等間隔に形成されている。
貫通孔63の直径は、転動体35(図2参照)の直径よりも大きくなるように形成されており、転動体35を遊挿可能となっている。これにより、転動体35は、リテーナ60によって貫通孔63内に転動自在に保持可能とされている。
【0038】
図5は、リテーナ60を径方向の外側から見たときの説明図である。
図5に示すように、リテーナ60の外周面62には、流体動圧を発生させる複数本(本実施形態では14本)の動圧溝70が設けられている。動圧溝70は、外周面62が径方向の内側に凹み形成されており、リテーナ60の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで形成されている。本実施形態では、リテーナ60の外周面62は、案内輪として機能する外輪31の内周面32に面しており、外輪31との間に流体動圧を発生させるリテーナ案内面62a(請求項の「保持器案内面」に相当。)となっている。
【0039】
図6は、リテーナ60を軸方向から見たときの説明図である。
図6に示すように、動圧溝70は、リテーナ60から見て外輪31(図3参照)の相対回転方向(本実施形態では、リテーナ60が回転方向θに回転するとともに、外輪31が固定されているため、回転方向θとは反対方向に相当。)の下流側に配置された第一側面71と、リテーナ60から見て外輪31の相対回転方向の上流側に配置された第二側面72とにより、軸方向から見て略V字状に形成されている。第一側面71の面積は、第二側面72の面積よりも広くなるように形成されている。これにより、リテーナ60のリテーナ案内面62aと、外輪31の内周面32(図3参照)との間に、所定の流体動圧を発生することができる。
【0040】
ここで、径方向に沿うとともに第一側面71と第二側面72との境界を通る直線L1(図6における二点鎖線参照)と定義したとき、直線L1に対する第一側面71の傾斜角度αは、直線L1に対する第二側面72の傾斜角度βよりも大きくなるように設定されている。動圧溝70の第一側面71および第二側面72をこのように形成することで、第二側面72を第一側面71よりも径方向に沿わせるとともに、第一側面71を第二側面72よりも周方向に沿うように形成することができる。これにより、リテーナ60のリテーナ案内面62aと、外輪31の内周面32(図3参照)との間の空気を第一側面71に沿わせるように移動させて空気抵抗を抑制できる。
【0041】
また、図5に示すように、動圧溝70は、リテーナ60の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで形成されているので、動圧溝70を形成しない場合よりも、リテーナ60の軸方向に直交する断面の断面係数を向上させることができる。したがって、リテーナ60の周壁60aの全周にわたり剛性が確保される。また、動圧溝70を形成する第一側面71と第二側面72との境界となる底部70aは、貫通孔63を軸方向に沿って跨るように配置されている。したがって、リテーナ60の貫通孔63周辺においても、軸方向に直交する断面の断面係数を向上できるので、剛性が確保される。
しかも、動圧溝70をリテーナ60の軸方向に沿うように設けているので、軸方向に沿って金型をスライド移動させることにより、動圧溝70を形成できる。したがって、リテーナ60は、インジェクション成型により容易に形成が可能である。
【0042】
(第一実施形態の作用)
続いて、第一実施形態に係るリテーナ60および転がり軸受30の作用について説明する。
図2に示すように、第一実施形態の転がり軸受30は、外輪31が歯科用ハンドピース1のヘッド部3に固定されており、内輪36が歯科用ハンドピース1の回転軸7および工具5とともに、中心軸O回りに回転方向θに高速回転する。このとき、内輪36の高速回転により、複数の転動体35が中心軸O周りに回転方向θに公転する。さらに、複数の転動体35の公転に伴ってリテーナ60が回転方向θに回転する。
ここで、図4に示すように、リテーナ60の外周面62(リテーナ案内面62a)には、動圧溝70が設けられている。したがって、図3に示すように、内輪36の高速回転により、リテーナ60のリテーナ案内面62aと、外輪31の内周面32との間に、流体動圧が発生するので、リテーナ60および内輪36の回転時に、リテーナ60と外輪31との接触が抑制される。
【0043】
(第一実施形態の効果)
第一実施形態によれば、リテーナ60の外周面62に動圧溝70を設けることにより、リテーナ60の動圧溝70と、動圧溝70に対向し、輪体20を構成する外輪31との間に、流体動圧を発生させることができる。これにより、リテーナ60と、動圧溝に対向する外輪31とが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。また、動圧溝70は、リテーナ60の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで複数形成されているので、リテーナ60の全周にわたり剛性を確保できる。したがって、リテーナ60の回転時にリテーナ60が変形するのを抑制し、外輪31とリテーナ60とが高い接触圧力で接触するのを抑制できる。これにより、リテーナ60の摩耗を抑制できるので、リテーナ60の耐久性を確保できる。
また、リテーナ60の摩耗を抑制できるので、従来技術よりも耐熱性や耐摩耗性が低い樹脂材料を採用できる。また、例えば軸方向に金型をスライド移動させるだけで、流体動圧を発生させる複数の動圧溝70を精度良く簡単に形成できる。したがって、耐久性を確保できるリテーナ60を低コストに形成できる。
【0044】
また、リテーナ60から見て輪体20を構成する外輪31の相対回転方向の下流側に配置された第一側面71は、リテーナ60から見て輪体20を構成する外輪31の相対回転方向の上流側に配置された第二側面72よりも面積が広く形成されているので、リテーナ60と外輪31との相対回転に伴って、下流側に配置された第一側面71により所定の流体動圧を発生できる。また、リテーナ60から見て相対回転方向の下流側に配置された第一側面71は、軸方向から見たとき、リテーナ60から見て相対回転方向の上流側に配置された第二側面72よりも周方向に沿うように形成されているので、リテーナ60から見て外輪31の相対回転方向の上流側から下流側に向かって、空気を第一側面71に沿わせるように移動させて空気抵抗を抑制できる。したがって、回転効率のよい転がり軸受30を形成できる。
【0045】
また、リテーナ60を樹脂材料によりインジェクション成型することにより、低コストに形成できる。
【0046】
また、第一実施形態の転がり軸受30は、上述のリテーナ60を備え、動圧溝70が少なくともリテーナ案内面62a側に形成されているので、リテーナ案内面62aと、外輪31の内周面32とが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、耐久性を確保できるとともに低コストな転がり軸受30を形成できる。
【0047】
また、第一実施形態の歯科用ハンドピース1は、上述の転がり軸受30を備えているので、耐久性を確保できるとともに低コストな歯科用ハンドピース1を形成できる。
【0048】
(第一実施形態の変形例)
図7は、第一実施形態の変形例に係る転がり軸受30を軸方向から見たときの説明図である。
続いて、第一実施形態の変形例に係る転がり軸受30およびリテーナ60について説明する。
第一実施形態に係る転がり軸受30では、リテーナ60の外周面62にのみ動圧溝70が形成されていた(図3および図4参照)。
これに対して、図7に示すように、第一実施形態の変形例に係る転がり軸受30では、リテーナ60の外周面62に第一の動圧溝70が形成されているのに加えて、リテーナ60の内周面61に第二の動圧溝75が形成されている点で、第一実施形態とは異なっている。なお、第一実施形態と同様の構成部分については詳細な説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
図7に示すように、リテーナ60は、内輪36と外輪31との間に配置されたとき、リテーナ60の外周面62と外輪31の内周面32との離間距離と、リテーナ60の内周面61と内輪36の外周面37との離間距離とが、ほぼ等しくなるように形成されている。リテーナ60は、内輪36が高速回転し、複数の転動体35が中心軸O周りに回転方向θに公転したとき、複数の転動体35の公転に伴って回転方向θに回転する。
【0050】
リテーナ60の内周面61には、第二の動圧溝75が形成されている。第二の動圧溝75は、内周面61が径方向の外側に凹み形成されており、リテーナ60の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで形成されている。
第二の動圧溝75は、リテーナ60から見て内輪36(図3参照)の相対回転方向(本変形例では、リテーナ60よりも内輪36が高速回転するため、内輪36の回転方向θに相当。)の下流側に配置された第一側面76と、リテーナ60から見て内輪36の相対回転方向の上流側に配置された第二側面77とにより、軸方向から見て略V字状に形成されている。第一側面76の面積は、第二側面77の面積よりも広くなるように形成されている。これにより、リテーナ60と、内輪36の外周面37との間に、所定の流体動圧を発生することができる。
第二の動圧溝75は、第一の動圧溝70と同様に軸方向から見たとき、第一側面76が第二側面77よりも周方向に沿うように形成されている。
ここで、第一の動圧溝70の底部70aと、第二の動圧溝75の底部75aとは、互いに周方向にずれて形成されている。例えば、本実施形態においては、第一の動圧溝70の周方向における中間部に対応した位置に、第二の動圧溝75の底部75aが配置されている。これにより、第一の動圧溝70の底部70aと、第二の動圧溝75の底部75aとが、周方向において同一の位置に形成されることがないので、リテーナ60の径方向に肉薄な部分が形成されるのを抑制できる。
【0051】
(第一実施形態の変形例の作用)
図7に示すように、第一実施形態の変形例に係る転がり軸受30は、外輪31が歯科用ハンドピース1のヘッド部3(図2参照)に固定されている。また、歯科用ハンドピース1の使用時には、内輪36が歯科用ハンドピース1の回転軸7および工具5(いずれも図2参照)とともに、中心軸O回りに回転方向θに高速回転する。このとき、リテーナ60は、複数の転動体35の公転に伴って回転方向θに回転する。したがって、歯科用ハンドピース1の使用時(すなわち転がり軸受30の使用時)において、外輪31とリテーナ60との相対回転速度は、内輪36とリテーナ60との相対回転速度よりも高くなる。
ここで、第二の動圧溝75の第一側面76は、第二側面77よりも周方向に沿うように形成されているので、内輪36の高速回転時に、空気が第一側面76に沿うように移動して空気抵抗が抑制されるとともに、所定の流体動圧が発生する。さらに、外輪31の内周面32とリテーナ60の外周面62(すなわちリテーナ案内面62a)との間にも、第一実施形態と同様に所定の流体動圧が発生する。
【0052】
(第一実施形態の変形例の効果)
第一実施形態の変形例によれば、外輪31とリテーナ60との相対回転速度が内輪36とリテーナ60との相対回転速度よりも高い場合に、リテーナ60の外周面62に第二の動圧溝75を設けているので、リテーナ60に対する相対回転速度が高い外輪31とリテーナ60との間に流体動圧を発生させることができる。これにより、リテーナ60の回転時に、外輪31とリテーナ60とが高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、リテーナ60の摩耗を抑制できるので、リテーナ60の耐久性を確保できる。特に、高回転であるほど高い流体動圧を発生でき、リテーナ60の摩耗を確実に抑制できるので、例えば歯科用ハンドピース1等の転がり軸受30に好適である。
【0053】
(第二実施形態)
図8は、第二実施形態に係る転がり軸受230の側面断面図である。
続いて、第二実施形態に係る転がり軸受230およびリテーナ260について説明する。
第一実施形態に係る転がり軸受30は、リテーナ60が円筒状に形成されており、その周壁60aに、転動体35を転動自在に保持可能な貫通孔63が形成されていた(図3参照)。
これに対して、図8に示すように、第二実施形態に係る転がり軸受230は、リテーナ260が、ベース部260aと、転動体35を転動自在に保持可能な複数組の一対の爪部265,265とを備えている点で、第一実施形態とは異なっている。なお、第一実施形態と同様の構成部分については詳細な説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0054】
図9は、第二実施形態に係るリテーナ260を径方向の外側から見たときの説明図である。
図9に示すように、第二実施形態に係るリテーナ260は、ベース部260aと、ベース部260aから軸方向の一方側(図9における上側)に向かって立設され、転動体35(図8参照)を転動自在に保持可能な複数組(本実施形態では7組)の一対の爪部265,265と、を備えている。
図8に示すように、ベース部260aは、外輪31および内輪36と同軸上に配置されており、環状に形成されている。ベース部260aは、径方向に所定の厚みを有しており、径方向における外輪31と内輪36との中間部に配置される。
【0055】
ベース部260aの他方側(図8における下側)の端部は、径方向の外側に張り出し形成された張出部264となっている。
リテーナ260は、内輪36と外輪31との間に、内輪36および外輪31と同軸上に配置されたとき、リテーナ260における張出部264の外周面262と外輪31の内周面32との離間距離が、リテーナ260の内周面261と内輪36の外周面37との離間距離よりも狭くなるように形成されている。リテーナ260は、内輪36が高速回転し、複数の転動体35が中心軸O周りに回転方向θに公転したとき、複数の転動体35の公転に伴って回転方向θに回転する。
【0056】
図10は、第二実施形態に係るリテーナ260を軸方向から見たときの説明図である。
図10に示すように、リテーナ260の張出部264の外周面262には、流体動圧を発生させる複数本の動圧溝70が設けられている。すなわち、リテーナ260の外周面262は、案内輪として機能する外輪31の内周面32に面しており、外輪31との間に流体動圧を発生させるリテーナ案内面262a(請求項の「保持器案内面」に相当。)となっている。
動圧溝70は、外周面262が径方向の内側に凹み形成されており、リテーナ260の軸方向に沿うとともに、周方向に平行に並んで形成されている。なお、動圧溝70の構成は、第一実施形態と同様である。すなわち、第一側面71の面積は、第二側面72の面積よりも広くなるように形成されているとともに、第一側面71の直線L1に対する傾斜角度αは、第二側面72の直線L1に対する傾斜角度βよりも大きくなるように設定されている。したがって、本実施形態のように、リテーナ260の張出部264の外周面262に動圧溝70を形成した場合においても、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
図9に示すように、ベース部260aの軸方向の一方側(図9における上側)の端面には、7組の一対の爪部265,265が立設されている。
一対の爪部265,265は、軸方向の他方側から一方側に向かって、それぞれ互いの先端部の距離が接近するように円弧状に湾曲した状態で、軸方向に沿うように立設されている。
一対の爪部265,265間の内面は、互いに連続して弧状に形成されており、転動体35(図8参照)の直径よりもわずかに大きな曲率を有している。一対の爪部265,265間は、転動体35を転動自在に保持可能なポケット部263となっている。また、一対の爪部265,265の先端部間の開口径は、転動体35の直径よりも小径とされている。したがって、一対の爪部265,265は、転動体35を脱落させることなく、転動自在に保持できる。
【0058】
(第二実施形態の効果)
第二実施形態によれば、リテーナ260を転動自在に保持可能な複数組の一対の爪部265,265を備えているので、転動体35を確実に保持できる。また、一対の爪部265,265を備えたリテーナ260は、いわゆる深溝玉軸受用のリテーナ260として好適である。
【0059】
また、転がり軸受230を形成時に、ベース部260aにおける径方向の外側に張り出した張出部264の外周面262を、リテーナ案内面262aとすることができる。さらに、ベース部260aのリテーナ案内面262aに動圧溝70を形成することで、リテーナ260の回転時に、リテーナ260のベース部260aに形成されたリテーナ案内面262aと、外輪31とが、高い接触圧力で接触するのを抑制できる。したがって、リテーナ260の摩耗を抑制できるので、リテーナ260の耐久性を確保できる。
【0060】
なお、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0061】
第一実施形態では、歯科用ハンドピース1の工具5の転がり軸受30を例に説明をしたが、各実施形態の転がり軸受30,230の適用は歯科用ハンドピース1の工具5に限定されない。例えば、情報記録再生装置のディスクを回転させるスピンドルモータの軸受として各実施形態の転がり軸受30,230を適用してもよいし、高速回転する工作機械の工具5の軸受として各実施形態の転がり軸受30,230を適用してもよい。
【0062】
各実施形態では、外輪31が固定されて内輪36が回転するとともに、リテーナ60,260の外周面62,262と外輪31の内周面32との離間距離が、リテーナ60,260の内周面61,261と内輪36の外周面37との離間距離よりも狭い、いわゆる外輪案内方式の転がり軸受30,230を例に説明した。これに対して、内輪36が固定されて外輪31が回転するとともに、リテーナ60,260の内周面61,261と内輪36の外周面37との離間距離が、リテーナ60,260の外周面62,262と外輪31の内周面32との離間距離よりも狭い、いわゆる内輪案内方式の転がり軸受に本発明を適用してもよい。この場合においては、外輪回転となるため、リテーナの内周面に動圧溝を設けることで、相対回転速度の高い内輪とリテーナの内周面との間に大きな流体動圧を発生させることができる。さらに、この場合においてリテーナの外周面にも動圧溝を設け、外輪とリテーナの外周面との間に流体動圧を発生させてもよい。
【0063】
第二実施形態のリテーナ260は、ベース部260aの他方側(図8における下側)の端部が、径方向の外側に張り出し形成された張出部264となっていた。これに対して、例えば、張出部264を設けることなく、ベース部260aの外周面262を外輪31の内周面32に近接配置し、ベース部260aの外周面262に動圧溝70を設ける構成としてもよい。
【0064】
図11は、動圧溝70の他の形状の説明図である。
各実施形態の動圧溝70は、第一側面71と第二側面72とにより、軸方向から見て略V字状に形成されていたが、動圧溝70の形状は、各実施形態に限定されることはない。
例えば、図11に示すように、第一側面71、第二側面72、および第一側面71と第二側面72とを接続するとともに径方向に直交する底面73により、動圧溝70を形成してもよい。この場合においても、リテーナ案内面62aと外輪31の内周面32(図3参照)との間に流体動圧を発生することができるので、各実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・歯科用ハンドピース 20・・・輪体 31・・・外輪 35・・・転動体 36・・・内輪 60,260・・・リテーナ(保持器) 61,261・・・内周面 62,262・・・外周面 62a,262a・・・リテーナ案内面(保持器案内面) 70・・・(第一の)動圧溝 70a・・・底部 71・・・第一側面 72・・・第二側面 75・・・(第二の)動圧溝 75a・・・底部 260a・・・ベース部 264・・・張出部 265・・・爪部 θ・・・回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11