(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071458
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】容器入り根菜類の製造方法及び容器入り根菜類の変色防止方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/153 20060101AFI20170123BHJP
A23L 3/3526 20060101ALI20170123BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20170123BHJP
【FI】
A23B7/156
A23L3/3526 501
A23L19/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-253361(P2012-253361)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100084(P2014-100084A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】510115247
【氏名又は名称】株式会社ハウス食品分析テクノサービス
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100147588
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】前田 理
(72)【発明者】
【氏名】須田 恭子
【審査官】
原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−075265(JP,A)
【文献】
特開昭56−088750(JP,A)
【文献】
特開2002−306061(JP,A)
【文献】
特開2012−120509(JP,A)
【文献】
特開2002−142667(JP,A)
【文献】
特開2002−218905(JP,A)
【文献】
特開2008−263849(JP,A)
【文献】
特開2005−080656(JP,A)
【文献】
特開2011−244807(JP,A)
【文献】
特開平08−266245(JP,A)
【文献】
特開平07−289163(JP,A)
【文献】
特開昭57−202248(JP,A)
【文献】
特開2003−310208(JP,A)
【文献】
特開2009−148197(JP,A)
【文献】
特開2006−158293(JP,A)
【文献】
特開平06−276931(JP,A)
【文献】
特開2001−037409(JP,A)
【文献】
特開平05−336879(JP,A)
【文献】
特開2001−061406(JP,A)
【文献】
特開昭63−209539(JP,A)
【文献】
特開2000−287620(JP,A)
【文献】
特開2007−175039(JP,A)
【文献】
特開2012−125234(JP,A)
【文献】
特開昭61−047138(JP,A)
【文献】
特開2003−047397(JP,A)
【文献】
特開2002−065198(JP,A)
【文献】
特開平11−243853(JP,A)
【文献】
特表平06−500917(JP,A)
【文献】
特開昭59−006836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−9/00
A23L 3/00−3/3598
5/40−5/49
19/00−19/20
31/00−33/29
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイコン及び調味液を容器に収容した、保存中におけるダイコンの青色への変色が防止された容器入りダイコンの製造方法であって、
ダイコンを、以下に示す第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を含まないアミノ酸溶液と接触させる工程と、
その後、ダイコンを、第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに、容器に収容する工程とを有する容器入りダイコンの製造方法:
[第1群のアミノ酸類]メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びこれらの塩;
[第2群のアミノ酸類]グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びこれらの塩;
[第3群のアミノ酸類]アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びこれらの塩。
【請求項2】
ダイコンをアミノ酸溶液と接触させる際に、第1群のアミノ酸類のみからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含むアミノ酸溶液と接触させる、請求項1に記載の容器入りダイコンの製造方法。
【請求項3】
ダイコンをアミノ酸溶液と接触させる際のアミノ酸溶液の濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下である、請求項1又は2に記載の容器入りダイコンの製造方法。
【請求項4】
ダイコンをアミノ酸溶液に浸漬することによりアミノ酸溶液と接触させる、請求項1から3のいずれかに記載の容器入りダイコンの製造方法。
【請求項5】
ダイコンをアミノ酸溶液と接触させる前に、又は接触させた状態で、ダイコンを煮沸処理する、請求項1から4のいずれかに記載の容器入りダイコンの製造方法。
【請求項6】
調味液がグルタミン酸及び/又はその塩を含む、請求項1から5のいずれかに記載の容器入りダイコンの製造方法。
【請求項7】
調味液とともに容器に収容された容器入りダイコンの、保存中におけるダイコンの青色への変色を防止する変色防止方法であって、ダイコンを、以下に示す第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに容器に収容する前に、以下に示す第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を含まないアミノ酸溶液と接触させる容器入りダイコンの変色防止方法:
[第1群のアミノ酸類]メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びこれらの塩;
[第2群のアミノ酸類]グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びこれらの塩;
[第3群のアミノ酸類]アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びこれらの塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、根菜類の保存中における変色を防止可能な、容器入り根菜類の製造方法及び容器入り根菜類の変色防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアなどでも人気を博しているおでんの具材には、例えば、ダイコン等の根菜類も用いられている。店舗で調理された状態で販売されるおでん用の根菜類は、1人前にカットされた後、調味液とともにトレイ状の容器に収容され、密封された後必要に応じて加熱殺菌処理を施される。加熱殺菌処理がなされた容器入り根菜類は、常温や冷蔵で数ヶ月から1年程度の保存性を有しており、状況により、斯かる期間保存された後に、実際に店舗に陳列され、おでんの具材として販売されている。
ここで、ダイコン等の容器入り根菜類を保存する際、保存中に根菜類が青色に変色することが判明した。ダイコン等が青色に変色することは、色調として品質上好ましくない。
食品の変色を防止するための発明としては、従来、以下のような発明が知られていた。例えば、特許文献1には、ポリリジンとエチルアルコールを配合してなる野菜類の色防止及び鮮度保持用調味液が開示されている。特許文献1に記載の色防止及び鮮度保持用調味液によれば、ポリリジンとエチルアルコールの配合物が、野菜のカット面での変色を特に阻害し、加えて、食酢で起こりがちなしおれの問題も解決するとされている。
また、特許文献2には、ポリフェノールオキシダーゼ活性阻害剤、及び可食性フィルムコーティング剤を含有することを特徴とする果物及び野菜の変色防止剤が開示されている。特許文献2に記載の変色防止剤によれば、味やテクスチャー等をほとんど損なうことなく、しかも簡便な方法で果物や野菜の変色を数日間遅らせることができるとされる。
更に、特許文献3には、コウジ酸と含硫アミノ酸を有効成分とする生鮮物の変色防止剤が開示されている。特許文献3に記載の変色防止剤によれば、コウジ酸と含硫アミノ酸を含有する、優れた変色防止作用を有する、生鮮物の変色防止剤が提供されるものとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−276931号公報
【特許文献2】特開平07−289163号公報
【特許文献3】特開平08−266245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1から3のいずれに記載の方法も、空気中の酸素による酸化や、未調理の食品中における酵素の作用による食品の変色を防止する方法であって、調味液とともにダイコン等の根菜類を容器に収容した容器入り食品の保存中における変色を防止する方法ではない。つまり、先行技術の発明は、主に食品の変色に作用する酵素の活性阻害を意図するものである。一方、前述の本発明者らが遭遇した保存中に根菜類が青色に変色する問題は、容器入り根菜類に加熱殺菌処理を施し、酵素の活性を失活させた場合にも生起し、先行技術の変色に係る課題とは別異のものである。
従って、本発明は、調味液とともに容器に収容した根菜類の保存中における青色等への変色を防止可能な、容器入り根菜類の製造方法及び容器入り根菜類の変色防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、容器入り根菜類が保存中に青色に変色する原因が、調味液中に特定のアミノ酸類(すなわち、下記する第2群のアミノ酸類)が含まれているためであることを見出した。そして、根菜類を上記特定のアミノ酸類とは異なる他のアミノ酸類(すなわち、下記する第1群及び第3群のアミノ酸類)を含む所定のアミノ酸溶液と接触させる工程と、その後、上記調味液とともに、容器に収容する工程とを有する製造方法によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
本発明の第一の態様は、根菜類及び調味液を容器に収容した容器入り根菜類の製造方法であって、根菜類を、以下に示す第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる工程と、その後、根菜類を、第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに、容器に収容する工程とを有する容器入り根菜類の製造方法である:
[第1群のアミノ酸類]メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びこれらの塩;
[第2群のアミノ酸類]グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びこれらの塩;
[第3群のアミノ酸類]アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びこれらの塩。
本発明の第二の態様は、調味液とともに容器に収容された容器入り根菜類の変色防止方法であって、根菜類を、第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに容器に収容する前に、以下に示す第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる容器入り根菜類の変色防止方法である:
[第1群のアミノ酸類]メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びこれらの塩;
[第2群のアミノ酸類]グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びこれらの塩;
[第3群のアミノ酸類]アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びこれらの塩。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、容器入り根菜類を製造するに当たり、根菜類を調味液とともに容器に収容するに先立って、上記第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、上記第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させるので、容器入り根菜類の保存中における、根菜類の青色への変色を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
<容器入り根菜類の製造方法>
本発明の容器入り根菜類の製造方法においては、根菜類を、以下に示す第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる工程(以下、「アミノ酸溶液接触工程」ともいう)と、その後、根菜類を、第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに、容器に収容する工程(以下、「容器収容工程」ともいう)とを有する。
(第1群のアミノ酸類)
メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びそれらの塩
(第2群のアミノ酸類)
グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びそれらの塩
(第3群のアミノ酸類)
アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びそれらの塩
【0008】
[アミノ酸溶液接触工程]
容器入り根菜類の製造方法における、アミノ酸溶液接触工程においては、根菜類を、上記第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、上記第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる。
上述したとおり、本発明の発明者らは、容器入り根菜類の保存中における青色への変色が、容器入り根菜類が、調味液中に含まれる上記第2群のアミノ酸類と接触することによるものであることを見出した。本発明は、如何なる理論にも拘束されるものではないが、根菜類を調味液と接触させる前に、第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類と接触させることにより、おそらくは根菜類中に含まれる着色を引き起こす成分のアミノ酸類との反応性が低下し、根菜類が第2群のアミノ酸類を含む調味液と接触することによる根菜類の変色を防止することができるものと考えられる。
なお、本発明のアミノ酸溶液接触工程においては、根菜類を上記第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、上記第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる。ここで、第1群のアミノ酸類のみからなる群から選ばれるアミノ酸類を含むアミノ酸溶液と根菜類とを接触させた場合、容器収容工程を経て保存中に、当該根菜類は、より白色が強まる傾向がある(ダイコン等の白色の根菜類の場合に有効である)。第3群のアミノ酸類のみからなる群から選ばれるアミノ酸類を含むアミノ酸溶液と根菜類とを接触させた場合、保存中に当該根菜類は、やや赤みを帯びたものとなる傾向がある。このため、本発明においては、根菜類をアミノ酸溶液と接触させる際に、根菜類を第1群のアミノ酸類のみからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含むアミノ酸溶液と接触させることが好ましい。アミノ酸溶液接触工程をこのように実施することにより、青色への変色が防止され、より白みを帯びた容器入り根菜類を製造することができる。
アミノ酸溶液接触工程において、根菜類を第1群及び第3群のアミノ酸類を組合せて含むアミノ酸溶液と接触させる場合、保存中に根菜類が白色乃至赤みを帯びる傾向を実験的に確認した上で、求める根菜類の性能に応じて、組合せるアミノ酸類の種類及び配合量・比率等を決定することができる。
【0009】
上記アミノ酸溶液を根菜類と接触させる際の態様については、本発明の目的を損なわない範囲内であれば、特に限定されるものではないが、上記アミノ酸溶液は、アミノ酸濃度が0.01質量%以上8.00質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下であることが更に好ましい。アミノ酸溶液中のアミノ酸類の濃度が上記の範囲内のものであることにより、本発明の根菜類の製造方法において製造される根菜類の変色を効果的に防止することができる。
また、上記アミノ酸溶液を根菜類と接触させる場合、根菜類をアミノ酸溶液に浸漬させることによりアミノ酸溶液と接触させることが好ましい。根菜類をアミノ酸溶液に浸漬させることにより、根菜類にアミノ酸溶液中に含まれるアミノ酸類を十分に浸透させることができる。更に、同様の理由から、根菜類を上記アミノ酸溶液と接触させる場合には、根菜類をアミノ酸溶液と接触させる前に、又は根菜類をアミノ酸溶液と接触させた状態で、根菜類を煮沸処理することが好ましい。根菜類を煮沸処理した場合、煮沸液や煮沸された根菜類と接触する溶液中の各種成分が根菜類中に浸透しやすくなるため、アミノ酸溶液接触工程をより、効果的なものとすることができる。
なお、アミノ酸溶液接触工程において、根菜類をアミノ酸溶液と接触させる際には、4℃以上30℃以下の温度で24時間以上5日以下、アミノ酸溶液と接触させることが好ましく、4℃以上30℃以下の温度で36時間以上10日以下、アミノ酸溶液と接触させることが更に好ましい。アミノ酸溶液接触工程において、根菜類を煮沸処理する場合、煮沸処理の時間としては特に限定されないが、5分間以上1時間以下とすることが好ましく、5分間以上0.5時間以下とすることが更に好ましい。
【0010】
[容器収容工程]
容器入り根菜類の製造方法における容器収容工程においては、アミノ酸溶液接触工程の後、根菜類を第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに、容器に収容するものである。
なお、容器収容工程においては、調味液とともに根菜類を容器に収容するが、その際、必要に応じて容器を密封し、加熱殺菌処理を施しても良い。密封し、加熱殺菌処理を施すことにより、容器入り根菜類を比較的長期間の間、保存することができる。
加熱殺菌処理としては、チルド用の中温域の加熱殺菌処理や、レトルト用の加圧加熱殺菌処理を挙げることができる。加熱殺菌処理の条件としては、密封容器に充填して、60℃以上120℃以下の温度で、20分以上1時間以下加熱する条件を挙げることができる。前記の煮沸処理及び加熱殺菌処理の条件を調整することで、変色に作用する酵素の失活させることも有効である。
(調味液)
調味液としては、上記第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれるアミノ酸類を含むものであれば、特に限定されないが、例えば、だし汁に、食塩、醤油、味醂、砂糖、酒等を適宜混合したものを用いることができる。
上記調味液に含まれる第2群のアミノ酸類としては、特に限定されるものではないが、グルタミン酸ナトリウム、ヒスチジン、グリシン、及びアラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、グルタミン酸ナトリウムであることが更に好ましい。一般に、グルタミン酸ナトリウムは、旨味調味料として使用されるため、調味液にグルタミン酸ナトリウムを含有させることにより、呈味の良好な容器入り根菜類を提供することができる。なお、本発明においては、上記調味液に、第2群のアミノ酸類以外のアミノ酸類が含まれていてもよい。
調味液にグルタミン酸ナトリウムを含有させる場合、その含有量は、0.05質量%以上8質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。上記含有量でグルタミン酸ナトリウムを、調味液に含有させることにより、呈味の良好な容器入り根菜類を提供することができる。
【0011】
(根菜類)
なお、本発明の容器入り根菜類の製造方法において、容器に収容される根菜類としては、特に限定されるものではなく、任意の根菜類を使用することができる。具体的には、ダイコン、ニンジン、ジャガイモ、ゴボウ、カブ、エシャロット、クワイ、サツマイモ、サトイモ、ショウガ、タケノコ、タマネギ、ニンニク、ヤマイモ、ラッキョウ、レンコン等を挙げることができるが、これらの中でも、ダイコン、ニンジン、及びゴボウを使用することが好ましく、ダイコンを使用することがより好ましい。
【0012】
[アミノ酸類]
なお、上述したが、本発明のアミノ酸類には、第1群のアミノ酸類、第2群のアミノ酸類、及び第3群のアミノ酸類が含まれる。なお、本発明において、「アミノ酸類」とは、アミノ酸及び/又はその塩を指す。
(第1群のアミノ酸類)
第1群のアミノ酸類には、メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、トリプトファン、及びそれらの塩が含まれる。これらのアミノ酸類を、他のアミノ酸類と接触していないダイコン等の根菜類と接触させることにより、根菜類の青色への変色を防止することができ、根菜類がより白味を帯びたものとなる。
(第2群のアミノ酸類)
第2群のアミノ酸類には、グルタミン酸、チロシン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、フェニルアラニン、及びそれらの塩が含まれる。これらのアミノ酸類を、他の群のアミノ酸類と接触していないダイコン等の根菜類と接触させた場合は、根菜類が青色に変色する。この青色への変色は、根菜類を予め、上記第1群のアミノ酸類、又は下記第3群のアミノ酸類と接触させることにより防止することができ、上記第1群のアミノ酸類と根菜類とを予め接触させた場合、ダイコン等の根菜類はより白味を帯びたものとなる。
(第3群のアミノ酸類)
第3群のアミノ酸類には、アルギニン、システィン、スレオニン、リジン、バリン、ヒスチジン、セリン、及びそれらの塩が含まれる。これらのアミノ酸類を、他のアミノ酸類と接触していないダイコン等の根菜類と接触させることにより、根菜類の青色への変色を防止することができる。
(アミノ酸の塩)
上記第1群から第3群のアミノ酸の塩には、これらのアミノ酸の可食性の塩が挙げられる。可食性の塩としては、特に限定されるものではないが、ナトリウム塩、カリウム塩、及び塩酸塩を挙げることができる。これらの塩の中でも、ナトリウム塩が好ましい。
【0013】
<容器入り根菜類の変色防止方法>
本発明は、調味液とともに容器に収容された容器入り根菜類の変色防止方法であって、根菜類を、上記第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに容器に収容する前に、上記第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる容器入り根菜類の変色防止方法にも関する。上述したとおり、第1群のアミノ酸類及び第3群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と、ダイコン等の根菜類とを接触させることにより、その後、ダイコン等の根菜類を第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに容器に収容した場合であっても、ダイコン等の根菜類が青色に変色することを防止できる。
なお、本発明の容器入り根菜類の変色防止方法においては、上記アミノ酸溶液が上記第1群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含むアミノ酸溶液であることが好ましく、上記方法が、根菜類を、上記第2群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含む調味液とともに容器に収容する前に、上記第1群のアミノ酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸類を含み、第2群のアミノ酸類を実質的に含まないアミノ酸溶液と接触させる容器入り根菜類の変色防止方法であることが更に好ましい。当該方法によれば、ダイコン等の根菜類の青色への変色を防止できると同時に、ダイコン等の根菜類の白色をより強めることができる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0015】
<実施例1>
根菜類としてダイコンの皮を剥ぎ、約1.5cm幅に輪切りにした。輪切りにしたダイコン(120g相当)と、0.1%プロリン溶液(第1群;アミノ酸溶液)を容器に収容して密閉し、13分間煮沸することにより加熱殺菌した後、冷却し、4℃で5日間保存した(アミノ酸溶液接触工程)。アミノ酸溶液接触工程の後のダイコンと、グルタミン酸ナトリウム(第3群)を含む常法により調製した調味液80gとを、合成樹脂製のトレイに収容して密封し、15分間煮沸することにより加熱殺菌して(容器収容工程)、容器入り根菜類である容器入りダイコンを製造した。上記容器入りダイコンを、遮光された温度4℃の室内で4週間保存した。
保存後のダイコンを目視により観察したところ、青色への変色は認められず、製造直後より白味を帯びたものとなっていた。
【0016】
<実施例2から11、比較例1から6>
アミノ酸溶液を、以下の表1に示すアミノ酸を0.1%含有する0.1%アミノ酸溶液とした点以外は、実施例1と同様にしてアミノ酸溶液接触工程及び容器収容工程を実施して、容器入りダイコンを得た。
実施例1と同様の条件で保存した後のダイコンを目視により観察した際のダイコンの呈色の様子を同様に表1に示す。
表1
【0017】
表1から明らかなように、第1群のアミノ酸類を含む溶液を、第2群のアミノ酸類と接触していないダイコンと接触させ、その後、ダイコンをグルタミン酸ナトリウムを含む調味液と接触させることにより、ダイコンが青色に変色することはなく、ダイコンがより白味を帯びたものとなった(実施例2〜4)。
第3群のアミノ酸類を含む溶液を、第2群のアミノ酸類と接触していないダイコンと接触させ、その後、ダイコンをグルタミン酸ナトリウムを含む調味液と接触させることにより、ダイコンが青色に変色することはなかった。実施例1〜4のものに比べると、ダイコンがやや赤みを帯びたものになった(実施例5〜11)。
一方、第2群のアミノ酸類を含む溶液を、他の群のアミノ酸類と接触していないダイコンと接触させることにより、ダイコンは青色に変色した。第2群のアミノ酸類を含む溶液により接触工程を行っても、根菜類の青色への変色を防止することができなかった。
よって、根菜類を予め、上記第1群のアミノ酸類、又は上記第3群のアミノ酸類を含む溶液と接触させることにより、第2群のアミノ酸類を含む調味液と根菜類を接触させた際における青色への変色を防止することができ、特に、上記第1群のアミノ酸類を含む溶液と根菜類とを予め接触させた場合、ダイコン等の根菜類はより白味を帯びたものとなることが分かった。
なお、ダイコンの変色については、ダイコンの部位により変色の度合いに違いが見られ、ダイコンの上部の部位よりも、中央部や下部の部位のほうがより変色の度合いが強かった。
【0018】
<実施例12>
根菜類としてダイコンの皮を剥ぎ、約1.5cm幅に輪切りにした。輪切りにしたダイコンを半分に切って、半月状にし、0.1%チロシン溶液(第2群)とともに容器に収容して密閉し、15分間煮沸することにより加熱殺菌した後、冷却し、4℃で14日間保存した。その結果、ダイコンは青色に変色した。
このため、同様に、皮を剥いて輪切りにし、半月状にしたダイコンを、0.1%メチオニン溶液(第1群;アミノ酸溶液)とともに容器に収容して密閉し、15分間煮沸することにより加熱殺菌した後、冷却して、4℃で14日間保存した。その後、ダイコンを取り出して1.0%チロシン溶液(第2群;調味液)とともに容器に収容して密閉し、15分間煮沸することにより加熱殺菌した後、冷却し、4℃で14日間保存した。その結果、アミノ酸溶液としてメチオニン溶液を用いたダイコンでは、ダイコンが青色に変色することはなく、ダイコンの白味が増していた。
<実施例13>
アミノ酸溶液を、0.1%ヒスチジン溶液(第3群;アミノ酸溶液)とした点以外は、実施例12と同様にしてアミノ酸溶液接触工程及び容器収容工程を実施して、容器入りダイコンを得て保存した。このものは、ダイコンがやや赤みを帯びたが、青色に変色することはなかった。