(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  人工歯根を用いた歯科補綴物は、顎骨に一端側が埋設される人工歯根と、この人工歯根に一端側が固定され、他端側が口腔内側に突出するように配置されるアバットメントと、該アバットメントの突出する端部に被せられるように配置されて人工歯として機能する人工歯冠と、を具備している。
【0003】
  ここで、アバットメントは、人工歯根と人工歯冠とを連結して保持するので、ある程度以上の強度、耐久性及び生体への適合性が必要とされている。かかる観点からアバットメントを構成する材料としてチタン合金が用いられることが多かった。
  しかしながら、チタン合金はその色彩が黒色に近いことから、アバットメントの端部に人工歯冠を被せたときに人工歯冠を透けてアバットメントの黒色が見えて外観が好ましくないことがあった。
【0004】
  これに対して例えば特許文献1にはアバットメントを構成する材料としてジルコニア等のセラミックを用いた技術が開示されている。これによれば、白色のセラミックにより上記したような外観の不具合を解消することができるとしている。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  しかしながら、このようなセラミックによるアバットメントでは、その性質上靱性が低く、割れやすいという問題がある。色彩についてもさらに自然歯に近づけることによる審美性の向上が望まれている。
  また、アバットメントに限らず人工歯根についてもその一部が外観から視認されることがあるため同様の問題がある。
【0007】
  そこで本発明は、強度及び審美性に優れる、人工歯根を用いた歯科補綴物を構成する部材である歯科補綴物用部材を提供することを課題とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0008】
  以下、本発明について説明する。ここでは分かり易さのため、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
  請求項1に記載の発明は、人工歯根(12)を具備する歯科補綴物(10)を構成
し、人工歯冠の内側に配置される歯科補綴物用部材(12、13)であって、Zr−14Nb合金により構成され、その表面にZrO
2を主成分とする層である表面層が
20μm以上80μm未満の厚さで形成されており、表面層の表面が日本色研配色体系201系に準じたカラーシートの
Gy8.0以上である、歯科補綴物用部材により前記課題を解決する。
【0011】
  請求項
2に記載の発明は、人工歯根(12)を具備する歯科補綴物(10)を構成
し、人工歯冠の内側に配置される請求項1に記載の歯科補綴物用部材(12、13)を製造する方法であって、Zr−14Nb合金により構成された歯科補綴物用部材となるべき部材に酸化処理をする工程を含み、前記工程では、酸素濃度が4%〜20%の雰囲気で、次の(1)乃至(3)のいずれかの条件で前記酸化処理をする、歯科補綴物用部材の製造方法である。
(1)700℃以上800℃未満で10時間
(2)800℃以上850℃未満で1時間以上2時間未満
(3)850℃以上900℃未満で0.5時間以上2時間未満
 
【発明の効果】
【0012】
  本発明によれば、強度及び審美性に優れる、人工歯根を用いた歯科補綴物を構成する部材である歯科補綴物用部材を提供することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0014】
  本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
 
【0015】
  図1は1つの実施形態を説明する図で、歯科補綴物10についてその構成を模式的に表す分解図である。歯科補綴物10は、人工歯冠11、人工歯根12、及びアバットメント13を有している。
 
【0016】
  人工歯冠11は、歯列の欠損部を実質的に補う部位である。従って、人工歯冠11はその外観が歯牙を模した形状を有しており、歯牙の形状及び質感が再現されている。人工歯冠11は容器状に形成されており、その内側に後述するアバットメント13を挿入し、受け部11aでアバットメントと連結するように構成されている。人工歯冠としては公知のものを適用することができる。
 
【0017】
  人工歯根12は、本発明における歯科補綴物用部材の1つであり、インプラント、フィクスチャーとも呼ばれ、歯槽骨に埋められて歯科補綴物10を口腔内に適切に固定するための部材である。人工歯根12の形状は公知のものを適用することができる。
 
【0018】
  アバットメント13は、本発明における歯科補綴物用部材の1つであり、人工歯冠11と人工歯根12との間に配置され、これらを連結して人工歯冠11を保持する部材である。より詳しくは、アバットメント13の一端側が人工歯根12に形成された孔12aに差し込まれるようにして固定され、アバットメント13の他端側が人工歯冠11の内側に挿入され、受け部11aに差し込まれるようにして固定される。アバットメント13の形状は公知のものを適用することができる。
 
【0019】
  人工歯根とアバットメントとの連結構造は様々な形態が提案されており、例えばアバットメントに雄ネジ、人工歯根の孔に雌ネジが形成され、螺合して固定する形態や、アバットメントと人工歯根とを他のネジにより固定する形態がある。本発明はこのような形態は特に限定されることなく適用することができる。
 
【0020】
  歯科補綴物用部材である、人工歯根12及びアバットメント13は、Zr−14Nb合金により形成され、その表面にZrO
2を主成分とする80μm未満の厚さの層である表面層を有している。ここで「主成分」とは、この層を構成する全成分の50%以上を占める成分を意味する。ここで厚さの測定は特に限定されることなく公知の方法でおこなうことができる。当該表面層の厚さはほぼ均一であることから、例えばSEM等により一部の写真を撮影し、表面層の厚さを測定すればよい。
  これによれば表面層におけるひび割れを防止することができる。ここでひび割れがないとは、表面層の断面の1000倍のSEM像において目視で亀裂が生じていないことが確認できることを意味する。
  また、表面層の厚さは20μm以上であることが好ましい。これにより厚さを十分に確保することができ、歯科補綴物用部材の表面がまだら状となることをより確実に防止することができる。
 
【0021】
  また、歯科補綴物用部材は表面層によりその色が人工歯冠と同じ又はこれに近い色彩とされている。すなわち、白色か白色に近い色である。好ましくは、表面層の表面が日本色研配色体系201系に準じたカラーシートの
Gy8.0以上の白色である。
 
【0022】
  以上のような歯科補綴物用部材によれば靱性(すなわち、強度)に優れ、その色彩も天然歯に近いものとなる。これにより、審美性を有しつつも耐久性に優れ、長い間の使用にも耐え得る歯科補綴物用部材を提供できる。
 
【0023】
  次に、1つの実施形態にかかる歯科補綴物用部材の製造方法について説明する。歯科補綴物用部材の製造方法は、Zr−14Nb合金ボタン状インゴットを作製する工程と、鋳造・切断工程と、加工工程と、酸化処理工程と、を含んでいる。
 
【0024】
  Zr−14Nb合金ボタン状インゴットを作製する工程(以下「工程S1」と記載することがある。)は、高純度のZr(例えば純度99.6質量%)と、高純度のNb(例えば純度99.9質量%)とをZr−14Nbを形成することができる配分で溶解し、これを固めることにより得ることができる。この工程は公知の方法を適用することが可能であり、均質性を高めるために複数回にわたって溶解と固化とを繰り返してもよい。
 
【0025】
  鋳造・切断工程(以下「工程S2」と記載することがある。)は、工程S1で得られたインゴットを溶解し、鋳造により棒状のZr−14Nbを得て、これを所定の大きさに切断する工程である。所定の大きさとは、次に説明する加工工程において切削機械に供される材料としての大きさである。
 
【0026】
  加工工程(以下「工程S3」と記載することがる。)は、工程S2で得られた材料を加工機に設置し、切削加工により歯科補綴物用部材の形状を成形する工程である。これは例えば歯科用のCAD/CAMシステムに基づき、NC工作機械により切削することを挙げることができる。また、切削された後に研磨が行われてもよい。
 
【0027】
  酸化処理工程(以下「工程S4と記載することがある。)は、工程S3により得られた歯科補綴物用部材の形状が成形された部材を酸化処理してZrO
2を主成分とする上記表面層を形成する工程である。表面層を形成する条件は次の通りである。大気雰囲気中(すなわち酸素濃度が20%程度)で、次の(1)〜(3)のいずれかの温度と時間との関係を満たすように材料を晒す。
    (1)700℃以上800℃未満で10時間
    (2)800℃以上850℃未満で1時間以上2時間未満
    (3)850℃以上900℃未満で30分以上2時間未満
 
【0028】
  以上の条件を満たすことにより、上記したような表面層を得ることができる。なお、酸素濃度は必ずしも20%である必要はなく、4%〜20%であることが好ましく、かかる濃度雰囲気中で処理をすることができる。
 
【実施例】
【0029】
  実施例では、上記した酸化処理工程における処理温度及び処理時間を変更した場合に形成されるZrO
2層について調べた。このときの処理は大気雰囲気で行った。従って酸素濃度は概ね20%である。また、用いた試料は直径10mmの円板状のZr−14Nbである。表1に条件及びその結果を示した。ここで、「時間(h)」は、条件温度(目標温度に達してからの保持時間である。
【0030】
  結果において、「厚さ」は、SEMによる断面写真から測定し、表面層の厚さが80μm未満の場合には「○」、表面層の厚さが80μm以上の場合には「×」とした。これは後述するように表面層が80μm以上に厚くなると表面層にひびが多くなり、強度に問題が生じる可能性が高くなるからである。
  「ひび」は、表面層に生じたひびの程度により評価をおこなったものであり、SEMによる1000倍の像で亀裂が観察されない場合を「○」、亀裂が観察された場合を「×」とした。
  「色」は、試料表面の色を評価したものであり、日本色研配色体系201系に準じたカラーシートの
Gy8.0以上の白色であれば「○」、
Gy8.0より下であるものを「×」とした。
【0031】
【表1】
【0032】
  表1からわかるように、No.1〜No.6、No.9、No.10では表面層(ZrO
2層)の厚さが80μm未満でありひびが生じなかった。さらにNo.4、No.6、No.9、No.10では、色が良好であり、特に強度及び審美性に優れた表面層を具備する歯科補綴物用部材を得ることが可能となる。
  一方、No.1〜No.3、及びNo.5では色について問題が生じた。このときの表面層の厚さはいずれも20μmより薄かった。
  また、No.11〜No.14では、色は良好であったが、厚さが80μm以上となり、表面層にひびが生じ、靱性(強度)に問題が生じる結果となった。
【0033】
  以下に、上記結果について例を挙げて説明する。
  <表面層の成分>
  X線回折法により表面層の成分を調べた。
図2(a)、
図2(b)にその結果を示す。
図2(a)、
図2(b)とも横軸は2θ、縦軸は強度である。各線にはそれぞれ処理温度と処理時間を表している。
  
図2(a)、
図2(b)からわかるように、いずれの場合も一番多く含まれているのがZrO
2  monoclinicであると考えられる。その他の結晶構造のZrO
2も若干含まれている。一方、NbO、NbO
2はほとんど検出されなかった。
【0034】
  <表面層の厚さ>
  SEMによる表面層の断面写真に基づいて表面層の厚さを調べた。
図3(a)は処理温度を800℃とし、処理時間をそれぞれ変更した例である。
図3(b)は処理時間を0.5hとし、処理温度を変更した例である。それぞれのグラフの横軸は条件、及び表1に対応するNo.を表し、縦軸は表面層の厚さである。
  
図3(a)、
図3(b)からわかるように、高温であるほど、また処理時間が長いほど表面層が厚くなる傾向にあり、No.7、No.8、No.12、No.14では厚さが80μm以上になることがわかる。
【0035】
  <表面層のひび>
  表面層に発生するひびについてSEMで観察した。
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)には表面層を表面から撮影したSEMによる画像(1000倍)を表した。各図に処理条件、及び表1に対応するNo.を示した。これらからわかるように、No.3、No.5ではひびが発生することなく、No.12の例では表面層にひびが発生する。
【0036】
  また、
図5、
図6には表面層の断面を撮影したSEMによる画像を表した。
図5(a)〜
図5(d)は、処理温度を800℃とし、処理時間をそれぞれ変更した例である。
図6(a)〜
図6(d)は、処理時間を0.5hとし、処理温度を変更した例である。各図に処理条件及び表1に対応するNo.を示した。
  これら図からわかるように、表面層が80μm以上になると(No.7、No.8、No.12、No.14)ひびが発生している。
【0037】
  <色>
  
図7には、試料表面の色を比べた例を表した。各例には処理条件及び表1に対応するNo.を併せて示している。
図7からわかるように、処理時間、及び温度の観点から、表面層の厚さが薄くなるとまだら状が表れることがわかる。従って、試料の大きさや形状等の条件によってはまだらが目立つことがある。