特許第6071601号(P6071601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイチコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許6071601-車両の制動装置 図000002
  • 特許6071601-車両の制動装置 図000003
  • 特許6071601-車両の制動装置 図000004
  • 特許6071601-車両の制動装置 図000005
  • 特許6071601-車両の制動装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071601
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】車両の制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60F 1/04 20060101AFI20170123BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B60F1/04
   B60T8/17 Z
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-20528(P2013-20528)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2014-151670(P2014-151670A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116644
【氏名又は名称】株式会社アイチコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】久保 淳
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−010467(JP,A)
【文献】 特開2013−018376(JP,A)
【文献】 特表2011−521824(JP,A)
【文献】 特表平08−500787(JP,A)
【文献】 特開2003−040095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 1/04
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有して走行可能な車体と、
前記車輪を回転駆動させる車輪駆動手段と、
前記車輪に制動力を与えるブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置の作動操作を行うブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段の操作に応じて前記ブレーキ装置を作動させ、前記ブレーキ装置により前記ブレーキ操作手段の操作量に応じた制動力を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行うブレーキ制御装置とを備え、
前記車輪駆動手段は前記車輪の自由回転を許容するように切り替え可能に構成され、
前記ブレーキ制御装置は、
前記車輪駆動手段により前記車輪を回転駆動させて走行しているときに前記ブレーキ操作手段が操作されたときには、前記車輪駆動手段の回転抵抗により生じる機関ブレーキ作用とともに、前記ブレーキ装置により前記制動力を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行い、
前記車輪駆動手段を前記車輪の自由回転を許容するように切り替えて牽引走行されているときに前記ブレーキ操作手段が操作されたときには、前記機関ブレーキ作用が前記車輪に作用しなくなる分を前記ブレーキ装置により前記車輪に与える前記制動力において増大させる制御を行い、増大させた制動力を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行うことを特徴とする車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を回転駆動させる車輪駆動手段と、車輪に制動力を与えるブレーキ装置と、ブレーキ装置によりブレーキ操作手段の操作に応じた制動力を車輪に与えて車輪を制動させる制御を行うブレーキ制御装置とを備えた車両の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧モータまたは電動モータにより車輪を回転駆動させて走行するように構成された車両が従来から知られている。例えば特許文献1に開示されている車両では、エンジンにより油圧ポンプが駆動され、この油圧ポンプからの吐出油を油圧モータに供給して油圧モータを回転駆動させる閉回路構成の車輪駆動装置を備え、この油圧モータにより車輪を回転駆動させて走行するように構成されている。また、特許文献2の車輪駆動装置では、油圧モータに接続された供給側油路と排出側油路を短絡させるバイパス油路を開放させて車輪の自由回転を許容するように切り替え可能に構成され、車輪の自由回転を許容するように切り替えて車両を牽引走行させることができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003‐326931号公報
【特許文献2】特開2009‐293689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような車両では、車輪駆動装置により車輪を回転駆動させて走行しているときにブレーキ操作手段が操作されると、車輪駆動装置の回転抵抗により生じる機関ブレーキ作用(例えばエンジンブレーキ作用等)とともに、ブレーキ装置により制動力を車輪に与えて車輪を制動させるように構成されている。しかしながら、特許文献2の車輪駆動装置のようにバイパス油路を開放させて車輪の自由回転を許容するように切り替えて牽引走行しているときには、車輪駆動装置における機関ブレーキ作用がほとんど作用しないため、ブレーキ装置による制動力のみとなり、車両の制動距離が長くなるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、牽引走行時において車輪駆動装置による機関ブレーキ作用が作用しないときに、車両の制動距離が長くなることを防止できる車両の制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両の制動装置は、車輪(例えば、実施形態における鉄輪12)を有して走行可能な車体と、前記車輪を回転駆動させる車輪駆動手段(例えば、実施形態における鉄輪走行モータ13L,13Rおよび油圧駆動装置80)と、前記車輪に制動力を与えるブレーキ装置と、前記ブレーキ装置の作動操作を行うブレーキ操作手段(例えば、実施形態におけるブレーキペダル68)と、前記ブレーキ操作手段の操作に応じて前記ブレーキ装置を作動させ、前記ブレーキ装置により前記ブレーキ操作手段の操作量に応じた制動力を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行うブレーキ制御装置(例えば、実施形態における架装部側コントローラ55)とを備え、前記車輪駆動手段は前記車輪の自由回転を許容するように切り替え可能に構成される。そして、前記ブレーキ制御装置は、前記車輪駆動手段により前記車輪を回転駆動させて走行しているときに前記ブレーキ操作手段が操作されたときには、前記車輪駆動手段の回転抵抗により生
じる機関ブレーキ作用(例えば、実施形態における機関ブレーキ力EB)とともに、前記ブレーキ装置により前記制動力(例えば、実施形態における制動ブレーキ力MB)を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行い、前記車輪駆動手段を前記車輪の自由回転を許容するように切り替えて牽引走行されているときに前記ブレーキ操作手段が操作されたときには、前記機関ブレーキ作用が前記車輪に作用しなくなる分を前記ブレーキ装置により前記車輪に与える前記制動力において増大させる制御を行い、増大させた制動力(例えば、実施形態における牽引制動ブレーキ力MB′)を前記車輪に与えて前記車輪を制動させる制御を行うように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両の制動装置によれば、車輪駆動手段を車輪の自由回転を許容するように切り替えて車両が牽引走行されているときには、車輪駆動手段における機関ブレーキ作用が車輪に作用しなくなる分をブレーキ装置により車輪に与える制動力において増大させる制御を行い、増大させた制動力を車輪に与えて車輪を制動させるように構成されている。そのため、牽引走行時において車輪駆動装置による機関ブレーキ作用が作用しないときに、車両の制動距離が長くなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る制動装置を備えた軌陸作業車の側面図である。
図2】上記軌陸作業車における制御系統を示すブロック図である。
図3】上記軌陸作業車における動力系統を示す油圧回路図である。
図4】走行モータを回転駆動させて走行しているときに制動操作されたときのブレーキ力の一例を示すグラフである。
図5】牽引走行されているときに制動操作されたときのブレーキ力の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1には本発明に係る制動装置を備えた車両の一例として軌陸作業車1を示している。軌陸作業車1は、車体2の前部に運転キャブ4を有し、車体2の前後に配設された左右一対のタイヤ車輪3(道路走行用車輪)をエンジンEの動力により駆動して道路上を走行可能なトラック車両をベースに構成されている。
【0010】
車体2の前後(各タイヤ車輪3の後側)には左右一対の鉄輪支持部材11が配設されており、各々の鉄輪支持部材11の先端部に鉄輪12が回転自在には配設されている。前側左右の鉄輪12,12はそれぞれ、左右の鉄輪走行モータ13L,13R(図3を参照)の出力軸に接続されており、鉄輪走行モータ13L,13Rの出力が減速機(図示せず)を介して伝達されることにより回転駆動されるように構成されている。鉄輪走行モータ13L,13Rは後述する油圧駆動装置80により駆動される。軌陸作業車1では、鉄輪走行モータ13L,13Rにより前側左右の鉄輪12,12を回転駆動して軌道上を走行することができるように構成されている。
【0011】
鉄輪支持部材11は、車体2に上下方向に揺動自在に取り付けられ、内部に設けられた鉄輪張出シリンダ(図示せず)の伸縮作動により上下に揺動されて鉄輪12をタイヤ車輪3より下方に張り出したり上方に格納したりできるように構成されている。鉄輪12を張り出しおよび格納するため(軌陸作業車1を軌道上へ載せ換え移動するため)、車体2の中央下部には上下に伸縮可能な転車台15が設けられている。転車台15は、内部に設けられた転車台シリンダ(図示せず)の伸縮作動により転車台15を下方に張り出して車両を持ち上げた状態(タイヤ車輪3が地面から浮いた状態)で支持することができるように構成されている。
【0012】
車体2の前後左右の4箇所には、上下方向に伸縮可能なジャッキ17が配設されている。ジャッキ17は、内部に設けられたジャッキシリンダ(図示せず)の伸長作動により下方に張り出して車両を持ち上げた状態で支持して、後述するブーム25等を用いて高所作業を行うときに車両を安定させることができるように構成されている。
【0013】
車体2における運転キャブ4後方の架装領域の前部には、旋回モータ(図示せず)により駆動されて水平旋回可能に構成された旋回台20が設けられている。この旋回台20の上部には、フートピン22によりブーム25が上下方向の揺動自在(起伏自在)に取り付けられている。
【0014】
ブーム25は、フートピン22により旋回台20に起伏自在に取り付けられた基端ブーム25aと、中間ブーム25bと、先端ブーム25cとが入れ子式に組み合わされて構成されている。ブーム25の内部には伸縮シリンダ(図示せず)が設けられており、この伸縮シリンダの伸縮作動により各ブーム25a,25b,25cを相対的に移動させてブーム25を長手方向に伸縮作動させることができるように構成されている。基端ブーム25aと旋回台20の間には起伏シリンダ27が跨設されており、この起伏シリンダ27を伸縮作動させることによりブーム25を上下面内において起伏作動させることができるように構成されている。
【0015】
先端ブーム25cの先端部には、作業台支持ブラケット28がブーム25の起伏面内(上下面内)において揺動可能に取り付けられている。作業台支持ブラケット28は、不図示のレベリング機構によりブーム25の起伏角度によらず作業台支持ブラケット28の上面が常時水平に保持されるようにレベリング制御されている。この作業台支持ブラケット28の上面に作業台30が水平旋回自在に取り付けられている。作業台支持ブラケット28の内部には首振りモータ(図示せず)が設けられており、この首振りモータを駆動させることにより作業台30を作業台支持ブラケット28に対して水平旋回(首振り作動)させることができるように構成されている。上記のように作業台支持ブラケット28の上面は常時水平に保持されるため、作業台30の床面もブーム30の起伏角度によらず水平に保持されるようになっている。
【0016】
なお、上記の鉄輪張出シリンダ、転車台シリンダ、ジャッキシリンダ、旋回モータ、伸縮シリンダ、起伏シリンダおよび首振りモータは、エンジンEからPTO機構(図示せず)を介して取り出した動力により駆動される油圧ポンプ(図示せず)から供給される作動油により駆動され、車体2および作業台30に設けられた各操作装置により作動操作が行われるようになっている。
【0017】
このような構成の軌陸作業車1では、軌道上を走行して目的地まで移動し、ブーム25の起伏、伸縮および旋回作動を行って作業台30を所望の高所位置に移動させ、作業台30に搭乗した作業者が軌道上の張架線やトロリ線等の鉄道設備の工事等を行うことができるようになっている。なお、一般道路走行時の走行操作は運転キャブ4内において行われるが、軌道上を走行するときの走行操作は運転キャブ4内のほか、作業台30上からも行うことができるようになっている。以下に、軌陸作業車1が軌道上を走行するときの走行制御を行う走行制御装置50について図2および図3を参照して説明する。
【0018】
走行制御装置50は、運転キャブ4および作業台30に設けられた走行操作装置60と、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rを駆動させる油圧駆動装置80と、走行操作装置60から入力される指令信号に応じて油圧駆動装置80を制御する架装部側コントローラ55と、走行操作装置60のアクセルペダル67から入力される指令信号に応じてエンジンEを制御する車両側コントローラ56とを有して構成される。
【0019】
走行操作装置60は、図2に示すように、電源スイッチ61と、速度設定ダイヤル62と、走行モード切替スイッチ63と、牽引モード切替スイッチ64と、進行方向切替レバー66と、アクセルペダル67と、ブレーキペダル68と、駐車ブレーキ操作レバー69とを有して構成される。電源スイッチ61をON操作すると、電源ON信号が架装部側コントローラ55に入力され、走行操作装置60が電源側と電気的に接続されて作業者による操作が可能となるように構成されている。速度設定ダイヤル62は、所定の範囲内で捻り操作可能に構成された操作手段であり、捻り操作位置に対応した最高速度設定信号を架装部側コントローラ55に出力し、架装部側コントローラ55において軌道走行時の最高速度を設定するように構成されている。
【0020】
走行モード切替スイッチ63は、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに作動油を直列に供給して鉄輪走行モータ13L,13Rを回転駆動させる高速走行モードと、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに作動油を並列に供給して鉄輪走行モータ13L,13Rを回転駆動させる低速走行モードとを切り替えることが可能に構成されている。走行モード切替スイッチ63が切替操作されると、走行モード切替信号が架装部側コントローラ55に入力され、架装部側コントローラ55において高速走行モードもしくは低速走行モードが設定されるようになっている。牽引モード切替スイッチ64は、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rを自由回転可能な状態にさせる牽引モードに切り替えることが可能に構成されている。牽引モード切替スイッチ64がON操作されると、牽引モード切替信号が架装部側コントローラ55に入力され、架装部側コントローラ55において牽引モードが設定されるようになっている。
【0021】
進行方向切替レバー66は、前後方向に傾動操作可能に構成され、軌道走行時の進行方向を切り替えることが可能に構成されている。進行方向切替レバー66が前方へ傾動操作されると、前進走行指令信号が架装部側コントローラ55に入力され、架装部側コントローラ55において進行方向が前進走行に設定される。一方、進行方向切替レバー66が後方へ傾動操作されると、後進走行指令信号が架装部側コントローラ55に入力され、架装部側コントローラ55において進行方向が後進走行に設定されるようになっている。
【0022】
アクセルペダル67は、上下方向に踏み込み操作可能に構成され、軌道走行時の目標速度を調整可能に構成されている。アクセルペダル67が踏み込み操作されると、目標速度設定信号が車両側コントローラ56に入力され、その踏み込み操作量が大きいときほど車両側コントローラ56において目標速度が大きい値に設定されるようになっている。ただし、アクセルペダル67により設定される目標速度は、速度設定ダイヤル62により設定された最高速度以下の範囲内で設定されるようになっている。
【0023】
ブレーキペダル68は、上下方向に踏み込み操作可能に構成され、減速時の制動力を調整可能に構成されている。ブレーキペダル68が踏み込み操作されると、制動指令信号が架装部側コントローラ55に入力され、その踏み込み操作量が大きいときほど後述するブレーキ装置86により大きな制動力を発生させるようになっている。駐車ブレーキ操作レバー69は、鉄輪走行モータ13L,13Rの駆動軸を回転しないようにロックする後述の駐車ブレーキ装置87の作動操作を行うための操作レバーであり、駐車ブレーキ操作レバー69が操作されると、駐車ブレーキ作動指令信号が架装部側コントローラ55に入力され、駐車ブレーキ装置87により鉄輪走行モータ13L,13Rの回転をロックさせるもしくはこのロックを解除させるようになっている。
【0024】
なお、作業台30に設けられる走行操作装置60は、上記アクセルペダル67の代わりに、前後方向に傾動操作可能に構成された走行操作レバー65を有し、この走行操作レバー65の中立位置からの傾動操作量に応じて目標速度を調整できるように構成されている
【0025】
油圧駆動装置80は、図3に示すように、エンジンEからPTO機構(図示せず)を介して取り出した動力により駆動される走行用ポンプ81と、走行用ポンプ81から吐出される作動油を左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに直列に供給するか並列に供給するかを切り替える流路切替バルブ82とを有して構成され、これらが油路91〜96により連結されて油圧閉回路を形成している。なお、これらの油路91〜96は、具体的には、走行用ポンプ81の前進側ポート81aに繋がる前進側ポンプ油路91、前進側ポンプ油路91から分岐して左鉄輪走行モータ13Lの前進側ポート13Laに繋がる前進側左モータ油路92、左鉄輪走行モータ13Lの後進側ポート13Lbに繋がる後進側左モータ油路93、走行用ポンプ81の後進側ポート81bに繋がる後進側ポンプ油路94、右鉄輪走行モータ13Rの前進側ポート13Raに繋がる前進側右モータ油路95、後進側ポンプ油路94から分岐して右鉄輪走行モータ13Rの後進側ポート13Raに繋がる後進側右モータ油路96である。
【0026】
走行用ポンプ81は、斜板式可変容量型の油圧ポンプであり、その斜板の傾転方向および傾転角度の制御は傾転角制御アクチュエータ83により行われる。傾転角制御アクチュエータ83は、架装部側コントローラ55から出力される作動制御信号に基づいて作動が制御される電磁比例制御式のアクチュエータであり、走行用ポンプ81の吐出方向および吐出量を制御するように構成されている。
【0027】
流路切替バルブ82は、電磁制御式のバルブであり、架装部側コントローラ55から出力される作動制御信号に基づいて作動が制御される。流路切替バルブ82は、非励磁状態のときには図3に示すように下動した位置に切り替えられ、前進側ポンプ油路91に前進側右モータ油路95を接続させるとともに、後進側ポンプ油路94に後進側左モータ油路93を接続させて、走行用ポンプ81から吐出される作動油を左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに並列に供給させる。一方、励磁されて上動した位置に切り替えられたときには、後進側左モータ油路93と前進側右モータ油路95を接続させて、走行用ポンプ81から吐出される作動油を左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに直列に供給させるように構成されている。
【0028】
また、油圧駆動装置80は、前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94を繋ぐリリーフ油路97に設けられたリリーフバルブ84と、リリーフ油路97よりも鉄輪走行モータ13L,13R側において前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94を繋ぐバイパス油路98に設けられた牽引切替バルブ100とを有して構成されている。リリーフバルブ84は、前進側ポンプ油路91内の油圧が所定圧以上になると後進側ポンプ油路94側へ作動油をリリーフさせる前進側リリーフバルブ84aと、後進側ポンプ油路94内の油圧が所定圧以上になると前進側ポンプ油路91側へ作動油をリリーフさせる後進側リリーフバルブ84bとを有して構成されている。
【0029】
牽引切替バルブ100は、架装部側コントローラ55からの作動制御信号に基づいて作動が制御される電磁制御式のバルブであり、バイパス油路98を閉止して前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94の間での作動油の流れを遮断する閉止状態と、バイパス油路98を開放して前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94の間での作動油の流れを許容する開放状態とに切替可能に構成されている。牽引切替バルブ100が開放状態に切り替えられると、流路切替バルブ82が非励磁状態(鉄輪走行モータ13L,13Rに作動油が並列に供給される状態)のときには、鉄輪走行モータ13L,13Rにおける前進側ポート13La,13Raと後進側ポート13Lb,13Rbとが、後進側左右モータ油路93,96、後進側ポンプ油路94、バイパス油路98、前進側ポンプ油路91および前進側左右モータ油路92,95を介して連通されるようになっている。一方、流路切
替バルブ82が励磁状態(鉄輪走行モータ13L,13Rに作動油が直列に供給される状態)のときには、左鉄輪走行モータ13Lの前進側ポート13Laと後進側ポート13Lbとが、後進側左モータ油路93、前進側右モータ油路95、後進側右モータ油路96、後進側ポンプ油路94、バイパス油路98、前進側ポンプ油路91および前進側左モータ油路92を介して連通されるようになっている。
【0030】
さらに、油圧駆動装置80は、走行用ポンプ81と同様にエンジンEからPTO機構を介して取り出した動力により駆動されるブレーキ用ポンプ85を有して構成されている。ブレーキ用ポンプ85から吐出される作動油は、4つの鉄輪12の近傍にそれぞれ設けられた4つのブレーキ装置86と、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの内部にそれぞれ設けられた駐車ブレーキ装置87,87とに供給されるようになっている。
【0031】
ブレーキ装置86は、シリンダ86aと、シリンダ86a内に張出格納自在に設けられたピストン86bと、ピストン86bの先端に設けられたパッド86cと、シリンダ86a内に設けられてピストン86bを格納方向に付勢するピストンバネ86dとを有して構成されている。ブレーキ用ポンプ85から吐出された作動油がブレーキ油路99を介してシリンダ86aのシリンダ室内に供給されると、ピストン86bがピストンバネ86dの付勢力に抗して張出方向に移動し、パッド86cを鉄輪12に設けられたディスクに押圧させて鉄輪12の制動を行うようになっている。
【0032】
ブレーキ油路99からそれぞれ分岐して油タンクTに繋がるブレーキ圧制御油路111、ブレーキ解放油路112には、ブレーキ圧制御バルブ88、ブレーキ解放バルブ89がそれぞれ設けられている。ブレーキ圧制御バルブ88は、架装部側コントローラ55からの作動制御信号に基づいて作動が制御される電磁制御式の比例バルブであり、非励磁状態のときにはブレーキ圧制御油路111を完全に開放し、架装部側コントローラ55からの作動制御信号により励磁されると、その作動制御信号に応じてブレーキ圧制御油路111を絞るように構成されている。ブレーキ圧制御バルブ88は、このようにブレーキ圧制御油路111を絞ることにより、ブレーキ油路99を介してブレーキ装置86に供給される作動油圧、すなわちブレーキ装置86により発生させる制動力を制御するように構成されている。また、ブレーキ圧制御バルブ88は、ブレーキ圧制御油路111を完全に閉止した状態において、ブレーキ油路99内の油圧が所定圧以上になるとブレーキ圧制御油路111を開いてブレーキ油路99内の作動油を油タンクTにリリーフさせるように構成されている。
【0033】
ブレーキ解放バルブ89は、架装部側コントローラ55からの作動制御信号に基づいて作動が制御される電磁制御式のバルブであり、非励磁状態のときには図3に示すように下動した位置に切り替えられてブレーキ解放油路112におけるブレーキ油路99側から油タンクT側への作動油の流れを遮断し、励磁されて上動した位置に切り替えられたときにはブレーキ解放油路112を開放してブレーキ油路99内の作動油を油タンクTにリリーフさせるように構成されている。
【0034】
駐車ブレーキ装置87は、シリンダ87aと、シリンダ87a内に張出格納自在に設けられたピストン87bと、ピストン87bの先端に設けられたディスク87cと、シリンダ87a内に設けられてピストン87bを張出方向(図3における右方)に付勢するピストンバネ87dとを有して構成されている。駐車ブレーキ装置87は、作動油が供給されていないときには、ピストン87aがピストンバネ87dに押されて張出方向に移動し、ディスク87cが鉄輪走行モータ13L(13R)の内部に設けられた多板ブレーキ(図示せず)を押圧して、鉄輪走行モータ13L(13R)の鉄輪駆動軸を回転しないようにロックするように構成されている。一方、ブレーキ用ポンプ85から吐出された作動油がブレーキ油路99から分岐した駐車ブレーキ油路113,114を介してシリンダ87a
のシリンダ室内に供給されると、ピストン87bがピストンバネ87dの付勢力に抗して格納方向(図3における左方)に移動し、ディスク87cが多板ブレーキから離れて鉄輪走行モータ13L(13R)の鉄輪駆動軸のロックが解除されるように構成されている。
【0035】
駐車ブレーキ油路113,114の間には駐車切替バルブ105が設けられている。駐車切替バルブ105は、架装部側コントローラ55からの作動制御信号に基づいて作動が制御される電磁制御式のバルブであり、非励磁状態のときには図3に示すように左動した位置に切り替えられ、駐車ブレーキ装置87に繋がる駐車ブレーキ油路114を油タンクTに繋がるタンク油路115に接続して、駐車ブレーキ装置87に作動油が供給されない状態とするように構成されている。一方、励磁されて右動した位置に切り替えられたときには、駐車ブレーキ油路113,114を接続してブレーキ用ポンプ85から吐出された作動油を駐車ブレーキ装置87,87に供給するように構成されている。
【0036】
このような構成の走行制御装置50において、運転キャブ4内に乗車した作業者が走行操作装置60を操作して軌道上を走行するときには、まず、駐車ブレーキ操作レバー69を操作して駐車ブレーキ装置87,87による左右の鉄輪走行モータ13L,13Rのロックを解除する。駐車ブレーキ操作レバー69をロック解除方向に操作すると架装部側コントローラ55に駐車ブレーキ解除信号が入力され、架装部側コントローラ55は駐車切替バルブ105に作動制御信号を出力して駐車ブレーキ油路113,114を接続させるように駐車切替バルブ105を切り替える。駐車ブレーキ油路113,114が接続されると、ブレーキ用ポンプ85から吐出された作動油がブレーキ油路99および駐車ブレーキ油路113,114を介して駐車ブレーキ装置87,87に供給されて鉄輪走行モータ13L,13Rの鉄輪駆動軸のロックが解除される。
【0037】
次に、進行方向切替レバー66を操作して車両の進行方向を設定する。進行方向切替レバー66を前進方向に操作すると架装部側コントローラ55に前進走行指令信号が入力され、架装部側コントローラ55は、傾転角制御アクチュエータ83に作動制御信号を出力して走行用ポンプ81が前進側ポンプ油路91側へ作動油を吐出するように傾転角制御アクチュエータ83により走行用ポンプ81の吐出方向を制御する。前進側ポンプ油路91に吐出された作動油は、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの前進側ポート13La,13Raに供給され、鉄輪走行モータ13L,13Rが前進方向に回転駆動される。すなわち、鉄輪走行モータ13L,13Rにより鉄輪12,12が前進方向に回転駆動されて、車両が前進走行される。
【0038】
一方、進行方向切替レバー66を後進方向に操作すると架装部側コントローラ55に後進走行指令信号が入力され、架装部側コントローラ55は、傾転角制御アクチュエータ83に作動制御信号を出力して走行用ポンプ81が後進側ポンプ油路94側へ作動油を吐出するように傾転角制御アクチュエータ83により走行用ポンプ81の吐出方向を制御する。後進側ポンプ油路94に吐出された作動油は、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの後進側ポート13Lb,13Rbに供給され、鉄輪走行モータ13L,13Rが後進方向に回転駆動される。すなわち、鉄輪走行モータ13L,13Rにより鉄輪12,12が後進方向に回転駆動されて、車両が後進走行される。
【0039】
車両の走行速度はアクセルペダル67の踏み込み量を変化させることにより制御される。アクセルペダル67を踏み込み操作すると、その踏み込み量に応じた速度指令信号が車両側コントローラ56に入力され、車両側コントローラ56はアクセルペダル67の踏み込み量に応じた回転数となるようにエンジンEの回転数を制御する。すわなち、アクセルペダル67の踏み込み量を変化させてエンジンEの回転数を変化させることにより、このエンジンEにより駆動される走行用ポンプ81から吐出され鉄輪走行モータ13L,13Rに供給される作動油量を変化させ、これにより車両の走行速度が制御されるようになっ
ている。ただしこのとき、アクセルペダル67の踏み込み量に応じて制御される車両の走行速度は、速度設定ダイヤル62により設定された最高速度以下の範囲内で制御されるようになっている。
【0040】
このように軌道上を走行するときには、走行モード切替スイッチ63により高速走行モードと低速走行モードを切り替えることが可能になっている。走行モード切替スイッチ63を低速走行モードに切替操作すると、架装部側コントローラ55に低速走行モード切替信号が入力され、架装部側コントローラ55は、流路切替バルブ82に作動制御信号を出力せずに(流路切替バルブ82を非励磁状態として)、前進側ポンプ油路91と前進側右モータ油路95を接続させるとともに、後進側左モータ油路93と後進側ポンプ油路94を接続させるように流路切替バルブ82を切り替える。このように流路切替バルブ82が切り替えられると、走行用ポンプ81から吐出された作動油が左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに並列に供給され、鉄輪走行モータ13L,13Rが高トルク低速回転駆動されて、車両が高トルク低速走行される。
【0041】
一方、走行モード切替スイッチ63を高速走行モードに切替操作すると、架装部側コントローラ55に高速走行モード切替信号が入力され、架装部側コントローラ55は、流路切替バルブ82に作動制御信号を出力して、後進側左モータ油路93と前進側右モータ油路95を接続させるように流路切替バルブ82を切り替える。このように流路切替バルブ82が切り替えられると、走行用ポンプ81から吐出された作動油が左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに直列に供給され、鉄輪走行モータ13L,13Rが低トルク高速回転駆動されて、車両が低トルク高速走行される。
【0042】
なお、上記のように軌道上を走行するときには、牽引モード切替スイッチ64はOFF操作されており(牽引走行モードは設定されておらず)、牽引切替バルブ100によりバイパス油路98が閉止されて前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94の間での作動油の流れが遮断された状態となっている。
【0043】
そして、軌道上を走行している車両を減速、停止させるには、ブレーキペダル68を操作して各々の鉄輪12を制動させる。ブレーキペダル68を踏み込み操作すると、その踏み込み量に応じた制動指令信号が架装部側コントローラ55に入力され、架装部側コントローラ55は、傾転角制御アクチュエータ83に作動制御信号を出力して、走行用ポンプ81の吐出量がゼロとなるように走行用ポンプ81の吐出量を制御し、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rへの作動油の供給を停止させる。これにより左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに対して走行用ポンプ81およびエンジンEの回転抵抗等による機関ブレーキ力EBを作用させる(例えば図4を参照)。さらに、架装部側コントローラ55は、ブレーキ圧制御バルブ88に作動制御信号を出力して、ブレーキ圧制御バルブ88によりブレーキペダル68の踏み込み量に応じてブレーキ圧制御油路111を絞る制御を行う。この制御により、ブレーキ油路99を介して各ブレーキ装置86に供給される作動油圧、すなわち各ブレーキ装置86により発生させる制動力がブレーキペダル68の踏み込み量に応じて制御され、4つのブレーキ装置86によりブレーキペダル68の踏み込み量に応じた制動力MB(以下、制動ブレーキ力MBと称する)を発生させる(例えば図4を参照)。このようにして発生させた機関ブレーキ力EBおよび制動ブレーキ力MBにより各々の鉄輪12の制動を行って、車両を減速、停止させる。
【0044】
車両が停止すると、駐車ブレーキ操作レバー69を操作して駐車ブレーキ装置87,87により左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの鉄輪駆動軸をロックさせる。駐車ブレーキ操作レバー69をロック方向に操作すると、架装部側コントローラ55に駐車ブレーキ作動信号が入力され、架装部側コントローラ55は、駐車切替バルブ105に出力していた作動制御信号の出力を停止して駐車ブレーキ装置87,87に繋がる駐車ブレーキ油路
114とタンク油路115を接続させるように駐車切替バルブ105を切り替える。駐車ブレーキ油路114とタンク油路115が接続されると、駐車ブレーキ装置87,87に供給されていた作動油圧が低下して、ピストン87a,87aがピストンバネ87d,87dに押されて張出方向に移動し、ディスク87c,87cが鉄輪走行モータ13L,13Rの内部に設けられた多板ブレーキ(図示せず)を押圧して、鉄輪走行モータ13L,13Rの鉄輪駆動軸が回転しないようにロックされる。
【0045】
また、架装部側コントローラ55は、ブレーキ圧制御バルブ88に出力していた作動制御信号の出力を停止してブレーキ圧制御油路111を開放させるとともに、ブレーキ解放バルブ89に作動制御信号を出力してブレーキ解放油路112を開放するようにブレーキ解放バルブ89を切り替える。ブレーキ圧制御油路111およびブレーキ解放油路112が開放されると、各ブレーキ装置86に供給されていた作動油圧が低下して各ブレーキ装置86による鉄輪12の制動が解除される。なお、ブレーキ解放バルブ89への作動制御信号の出力は所定時間の経過後に停止されてブレーキ解放油路112はブレーキ解放バルブ89により閉止される。
【0046】
軌陸作業車1では、上記のように左右の鉄輪走行モータ13L,13Rを回転駆動させて軌道上を走行する場合とは別に、他の車両に連結されてその車両により牽引されて軌道上を走行する場合がある。牽引走行される場合にも、まず、駐車ブレーキ操作レバー69を操作して駐車ブレーキ装置87,87による左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの鉄輪駆動軸のロックを解除する。
【0047】
そして、牽引モード切替スイッチ64を操作して牽引モードに切り替える。牽引モード切替スイッチ64を牽引モードに切替操作すると、架装部側コントローラ55に牽引モード切替信号が入力され、架装部側コントローラ55は、牽引切替バルブ100に作動制御信号を出力して、バイパス油路98を介して前進側ポンプ油路91と後進側ポンプ油路94の間で作動油が流れるように牽引切替バルブ100を開放状態に切り替える。このように牽引切替バルブ100が切り替えられると、流路切替バルブ82が非励磁状態のときには、鉄輪走行モータ13L,13Rにおける前進側ポート13La,13Raと後進側ポート13Lb,13Rbとが、後進側左右モータ油路93,96、後進側ポンプ油路94、バイパス油路98、前進側ポンプ油路91および前進側左右モータ油路92,95を介して連通される。このように連通されるため、左右の鉄輪走行モータ13L,13R(鉄輪12,12)がともに自由回転可能となり、他の車両により牽引されて軌陸作業車1が牽引走行される。
【0048】
なお、牽引切替バルブ100が開放状態に切り替えられたときに、流路切替バルブ82が励磁状態の場合には、左鉄輪走行モータ13Lの前進側ポート13Laと後進側ポート13Lbとが、後進側左モータ油路93、前進側右モータ油路95、後進側右モータ油路96、後進側ポンプ油路94、バイパス油路98、前進側ポンプ油路91および前進側左モータ油路92を介して連通される。このように連通される場合であっても、左右の鉄輪走行モータ13L,13R(鉄輪12,12)がともに自由回転可能となる。
【0049】
このように他の車両により牽引走行されているときに、他の車両および軌陸作業車1を減速、停止させるときには、他の車両において発生させるブレーキ力だけでは制動距離が長くなる。そのため、軌陸作業車1においても、運転キャブ4内に作業者が乗車し、その作業者が走行操作装置60を操作して各ブレーキ装置86により制動ブレーキ力を発生させることが推奨されている。軌陸作業車1では、各ブレーキ装置86を作動させるため、牽引走行されるときにもエンジンEおよびブレーキ用ポンプ85が駆動された状態にされている。
【0050】
他の車両により牽引走行されている軌陸作業車1において、ブレーキペダル68を踏み込み操作すると、鉄輪走行モータ13L,13Rを回転駆動させて走行する場合と同様に、その踏み込み量に応じた制動指令信号が架装部側コントローラ55に入力される。このとき架装部側コントローラ55では、牽引モード切替信号が入力されており、牽引モードが設定されている。軌陸作業車1が牽引走行されているときには、上記のようにバイパス油路98が開放されているため、左右の鉄輪走行モータ13L,13Rに対して走行用ポンプ81およびエンジンEの回転抵抗等による機関ブレーキ力EBがほとんど作用しない。従って、架装部側コントローラ55は、牽引走行モードが設定されているときには、機関ブレーキ力EBが低減して不足する分を、4つのブレーキ装置86により発生させる制動ブレーキ力MBにおいて増大させる制御を行う。すなわち、架装部側コントローラ55は、ブレーキ圧制御バルブ88によるブレーキ圧制御油路111の絞り量を制御して、4つのブレーキ装置86により牽引制動ブレーキ力MB′(≧機関ブレーキ力EB+制動ブレーキ力MB)を発生させる(例えば図5を参照)。このように発生させた牽引制動ブレーキ力MB′により各々の鉄輪12の制動を行って、他の車両とともに軌陸作業車1を減速、停止させる。
【0051】
軌陸作業車1が停止すると、上記と同様に、駐車ブレーキ操作レバー69を操作して駐車ブレーキ装置87,87により左右の鉄輪走行モータ13L,13Rの鉄輪駆動軸をロックさせるとともに、架装部側コントローラ55によりブレーキ圧制御バルブ88に出力していた作動制御信号の出力を停止して各ブレーキ装置86による鉄輪12の制動が解除される。
【0052】
このように軌陸作業車1によれば、牽引モード切替スイッチ64により牽引モードに切り替えられて(牽引モードが設定されて)、他の車両により牽引走行されているときには、走行用ポンプ81およびエンジンEの回転抵抗等による機関ブレーキ力EBが作用しなくなる分(低減する分)を、4つのブレーキ装置86により発生させる制動ブレーキ力MBにおいて増大させる制御を行い、制動ブレーキMBよりも増大させた牽引制動ブレーキ力MB′(≧機関ブレーキ力EB+制動ブレーキ力MB)により各々の鉄輪12の制動を行って、他の車両とともに軌陸作業車1を減速、停止させるように構成されている。従って、牽引走行のために左右の鉄輪走行モータ13L,13R(鉄輪12,12)の自由回転を許容するように切り替えられて機関ブレーキ力EBが作用しなくなったときに、制動距離が長くなることを防止することができる。
【0053】
これまで本発明に係る実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示したものに限定されない。例えば、上述の実施形態では、牽引切替バルブ100が架装部側コントローラ55からの作動制御信号に基づいて制御される電磁制御式のバルブであるが、牽引切替バルブ100は、作業者の手動によりバイパス油路98を開閉させるように構成してもよい。このように牽引切替バルブ100を構成した場合には、牽引切替バルブ100の開閉をリミットスイッチ等の検出器により検出し、その検出信号に基づいて架装部側コントローラ55において牽引モードが設定されるように構成することが好ましい。
【0054】
また、上述の実施形態では、左右の鉄輪12,12が油圧モータ(鉄輪走行モータ13L,13R)により回転駆動される構成であるが、左右の鉄輪12,12を電動モータにより回転駆動させる構成としてもよい。電動モータにより鉄輪12,12を回転駆動させる構成の場合には、電動モータに電力を供給せずに電動モータが自由回転可能な状態として、他の車両により牽引走行されているときには電動モータによる回生ブレーキ力がほとんど発生されない。従って、上述の実施形態と同様に、回生ブレーキ力が作用しなくなる分を、4つのブレーキ装置86により発生させる制動ブレーキ力MBにおいて増大させる制御を行い、制動ブレーキMBよりも増大させた牽引制動ブレーキ力MB″(≧回生ブレ
ーキ力+制動ブレーキ力MB)により各々の鉄輪12の制動を行うように構成することが好ましい。
【0055】
また、上述の実施形態では、駐車ブレーキ装置87,87による左右の鉄輪走行モータ13L,13Rのロックを解除する場合に、ブレーキ用ポンプ85から吐出される作動油をブレーキ油路99、駐車切替バルブ105および駐車ブレーキ油路113,114を介して駐車ブレーキ装置87,87に供給して鉄輪走行モータ13L,13Rのロックを解除する構成であるが、駐車ブレーキ装置87,87において、ピストン87bをピストンバネ87dの付勢力に抗して格納方向に移動させることが可能なロック解除ボルトを備え、このロック解除ボルトを作業者の手動により操作することにより、駐車ブレーキ装置87,87による鉄輪走行モータ13L,13Rのロックを解除できる構成としてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、本発明に係る制動装置を備える車両の一例として軌陸作業車について説明したが、本発明は、必ずしも道路走行および軌道走行の両方を可能に構成された軌陸作業車である必要はなく、道路走行のみ可能な車両や、軌道走行のみ可能な車両であっても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 軌陸作業車
2 車体
12 鉄輪(車輪)
13L,13R 鉄輪走行モータ(車輪駆動手段)
55 コントローラ(ブレーキ制御装置)
68 ブレーキペダル(ブレーキ操作手段)
80 油圧駆動装置(車輪駆動手段)
86 ブレーキ装置
100 牽引切替バルブ
図1
図2
図3
図4
図5