【実施例1】
【0013】
図1ないし
図4は本発明の実施例1に係る自動車用フード装置の衝撃緩和構造を説明するための図であり、本実施例において、前,後,左,右とは、車室内から車両前方を見た状態での前,後,左,右を意味している。
【0014】
図において、1は自動車であり、該自動車1の車体2の前部にはエンジンルーム3が形成され、該エンジンルーム3の側部は車体静止側部材としてのカウルサイドメンバ4で構成されている。このカウルサイドメンバ4は、上壁4aと該上壁4aの内縁から下方に折り曲げ成形された縦壁4bとを有し、該カウルサイドメンバ4の外方はフェンダパネル5で覆われている。また前記エンジンルーム3の上部開口6はフード装置7のフード8により開閉可能となっている。該フード装置7は、前記フード8と、該フード8の後端部を支持する左,右一対のフードヒンジ9,9とを備えている。
【0015】
前記フード8はフードアウタ8aとフードインナ8bとの周囲をヘミング加工等で一体的に結合してなる平面視略矩形状の板金製のものである。前記フードインナ8bにはヒンジリインホース8cが固定されている。
【0016】
前記フードヒンジ9は、前記フード8を支持するヒンジアーム10と、該ヒンジアーム10を軸支するヒンジブラケット11とを備えている。
【0017】
前記ヒンジブラケット11は比較的厚板で形成された板金製のものであり、前記ヒンジアーム10を軸支するアーム支持部11aと、該アーム支持部11aの下端部から車幅方向外側に向けて折り曲げ形成されたフランジ部11bとを有し、車両正面視で略L字形状をなしている。
【0018】
前記フランジ部11bは前記カウルサイドメンバ4の上壁4aにボルト12aと該上壁4aの裏面に固定されたナット部材12a′とで締め付け固定されている。
【0019】
前記アーム支持部11aの上部に前記ヒンジアーム10の後端部10aが車幅方向に向けて挿入配置され、かしめ加工により固定されたた軸支ピン13により回動自在に支持されている。
【0020】
前記ヒンジアーム10は、比較的厚板で形成された板金製のものであり、前記後端部10aから下方に凸の円弧状をなして前方に延びる基部10bと、該基部10bに続いて略直線状に前方に延びるフード支持部10cとを有する。このヒンジアーム10は、横断面で見ると、横辺部10dと、該横辺部10dの車幅方向外縁から下方に折り曲げ形成された縦辺部10eとを有する鉤形状をなしている。
【0021】
前記フード支持部10cの横辺部10dに前記フードインナ8bの後端部が前記ヒンジリインホース8cを介在させてボルト12bとヒンジリインホース8cの内面に固定されたナット部材12b′とで締め付け固定されている。
【0022】
ここで前記ヒンジアーム10の縦辺部10eには、車両正面視で、下方にいくほど車幅方向内側に位置するように傾斜するヒンジアーム側傾斜面10e′が前記基部10bからフード支持部10cに渡るように形成されている。その結果、前記基部10b及びフード支持部10cは横断面で見たとき、前記横辺部10d,縦辺部10e及びヒンジアーム側傾斜面10e′により大略コ字形状をなしている。また前記ヒンジアーム側傾斜面10e′の鉛直線aに対する傾斜角度はθ1となっている。
【0023】
また前記カウルサイドメンバ4の上壁4aの前記ヒンジアーム側傾斜面10e′の下方に位置する部分には、車幅方向内側にいくほど車両下方に位置するように傾斜する車体側傾斜面4a′が形成されている。この車体側傾斜面4a′の鉛直線aに対する傾斜角度はθ2となっている。
【0024】
さらにまた前記ヒンジブラケット11のアーム支持部11aには、車両上方にいくほど車幅方向内側に位置するように傾斜するヒンジブラケット側傾斜面11a′が形成されている。このヒンジブラケット側傾斜面11a′の鉛直線aに対する傾斜角度はθ3となっている。
【0025】
ここで、ヒンジアーム側傾斜面10e′の傾斜角度θ1と、車体側傾斜面4a′の傾斜角度θ2とは、θ1<θ2の関係になるように設定されている。
【0026】
本実施例によれば、車両正面衝突時に何らかの被衝突物、例えば歩行者がフード8上に落下突入する等により上方から大きな衝撃荷重がフード8に作用した場合の衝撃力は以下のようにして緩和される。
【0027】
まず、突入初期においては、フード8がヒンジアーム10と共に下方に変形することにより衝撃の一部が吸収される。
【0028】
突入中期においてはヒンジアーム側傾斜面10e′が車体側傾斜面4a′に当接することでヒンジアーム側傾斜面10e′が傾斜角θ1を増す方向に変形するとともに、ヒンジブラケット11のアーム支持部11aがブラケット側傾斜面11a′の傾斜角度θ3が増す方向に変形し(
図2及び
図4(a)参照)、これにより衝撃荷重の他の一部が吸収される。
【0029】
ここでヒンジアーム側傾斜面10e′の傾斜角度θ1を車体側傾斜面4a′の傾斜角度θ2より小さく設定しているので、ヒンジアーム側傾斜面10e′が角度差の分だけ確実に変形し、これにより衝撃を吸収することができる。また、ヒンジブラケット11のブラケット側傾斜面11a′に傾斜角度θ3を持たせたので、前記衝撃荷重によるヒンジブラケット11の変形を誘発することとなり、この点からも衝撃荷重を吸収できる。
【0030】
突入後期においては、ヒンジアーム側傾斜面10e′が車体側傾斜面4a′の傾斜角度θ2に略一致するように変形した状態で該車体側傾斜面4a′上を大きな摩擦力を持って滑り落ちて行き、滑り落ちるに伴ってヒンジブラケット11のアーム支持部11aがヒンジブラケット側傾斜角度θ3をさらに増す方向に変形し、この滑り落ち及びアーム支持部11aの変形により衝撃荷重のさらに他の一部が吸収される。
【0031】
このように、例えば歩行者の突入による上方からの衝撃荷重を、時系列に沿って段階的に吸収するようにしたので、何れの段階の吸収量を大きく、あるいは小さくするか等衝撃荷重の吸収特性のコントロールが容易であり、その結果、歩行者保護性能を向上できる。
【0032】
また前記衝撃緩和に係る効果を、ヒンジアーム10,カウルサイドメンバ4,ヒンジブラケット11に傾斜面10e′,4a′,11a′を形成するだけで実現できるので、部品点数が少なくて済み、構造が簡単であり、コスト,重量増加の問題を回避でき、生産性を改善できる。
【0033】
また前記ヒンジアーム10にヒンジアーム側傾斜面10e′を形成したので、ヒンジアーム10の横断面が大略コ字形状をなすこととなり、ヒンジアーム10の剛性を高める効果が得られ、フード8をスムーズに開閉でき、商品価値を向上できる。