(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(親油性積層体)
本発明の親油性積層体は、樹脂製基材と、親油性樹脂層とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0014】
<樹脂製基材>
前記樹脂製基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、PC/PMMA積層体、ゴム添加PMMAなどが挙げられる。
【0015】
前記樹脂製基材は、透明性を有することが好ましい。
【0016】
前記樹脂製基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム状であることが好ましい。
前記樹脂製基材がフィルム状の場合、前記樹脂製基材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm〜1,000μmが好ましく、50μm〜500μmがより好ましい。
【0017】
前記樹脂製基材の表面には、文字、模様、画像などが印刷されていてもよい。
【0018】
前記樹脂製基材の表面には、前記親油性積層体を成形加工時、前記樹脂製基材と成形材料との密着性を高めるため、又は成形加工時の成形材料の流動圧から前記文字、前記模様、及び前記画像を保護するために、バインダー層を設けてもよい。前記バインダー層の材質としては、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、エチレンブチルアルコール系、エチレン酢酸ビニル共重合体系等の各種バインダーの他、各種接着剤を用いることができる。なお、前記バインダー層は2層以上設けてもよい。使用するバインダーは、成形材料に適した感熱性、感圧性を有するものを選択できる。
【0019】
<親油性樹脂層>
前記親油性樹脂層は、表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有する。
前記親油性樹脂層の表面のオレイン酸接触角は、10°以下である。
前記親油性樹脂層は、前記樹脂製基材上に形成されている。
【0020】
前記親油性樹脂層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含有することが好ましい。
【0021】
−微細な凸部、及び微細な凹部−
前記親油性樹脂層は、その表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有している。
前記微細な凸部及び凹部のいずれかは、前記親油性樹脂層において、前記樹脂製基材側と反対側の面に形成されている。
【0022】
ここで、微細な凸部とは、前記親油性樹脂層の表面において、隣接する凸部の平均距離が、1,000nm以下であることをいう。
ここで、微細な凹部とは、前記親油性樹脂層の表面において、隣接する凹部の平均距離が、1,000nm以下であることをいう。
【0023】
前記凸部、及び前記凹部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錐体状、柱状、針状、球体の一部の形状(例えば、半球体状)、楕円体の一部の形状(例えば、半楕円体状)、多角形状などが挙げられる。これらの形状は数学的に定義される完全な形状である必要はなく、多少の歪みがあってもよい。
【0024】
前記凸部又は前記凹部は、前記親油性樹脂層の表面に2次元配列されている。その配列は、規則的な配列であってもよいし、ランダムな配列であってもよい。前記規則的な配列としては、充填率の点から、最密充填構造が好ましい。
【0025】
隣接する前記凸部の平均距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm〜1,000nmが好ましく、10nm〜800nmがより好ましく、50nm〜500nmが特に好ましい。
隣接する前記凹部の平均距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm〜1,000nmが好ましく、10nm〜800nmがより好ましく、50nm〜500nmが特に好ましい。
隣接する前記凸部の平均距離及び隣接する前記凹部の平均距離が、前記好ましい範囲内であると、前記親油性樹脂層に付着した指紋成分が、効果的に濡れ広がる。また、指紋払拭性が高くなる。前記平均距離が、前記特に好ましい範囲内であると、指紋成分が濡れ広がる効果、及び指紋払拭性向上効果は顕著になる。
【0026】
前記凸部の平均高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、10nm〜300nmが更に好ましく、10nm〜150nmが特に好ましい。
前記凹部の平均深さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、10nm〜300nmが更に好ましく、10nm〜150nmが特に好ましい。
前記凸部の平均高さ及び前記凹部の平均深さが、前記好ましい範囲内であると、前記親油性樹脂層に付着した指紋成分が、効果的に濡れ広がる。また、指紋払拭性が高くなる。
前記平均高さ及び前記平均深さが、前記特に好ましい範囲内であると、指紋成分が濡れ広がる効果、及び指紋払拭性向上効果は顕著になる。
【0027】
前記凸部の平均アスペクト比(前記凸部の平均高さ/隣接する前記凸部の平均距離)及び前記凹部の平均アスペクト比(前記凹部の平均深さ/隣接する前記凹部の平均距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001〜1,000が好ましく、0.01〜50がより好ましく、0.04〜3.0が特に好ましい。
前記凸部の平均アスペクト比及び前記凹部の平均アスペクト比が、前記好ましい範囲内であると、前記親油性樹脂層に付着した指紋成分が、効果的に濡れ広がる。また、指紋払拭性が高くなる。前記アスペクト比が、前記特に好ましい範囲内であると、指紋成分が濡れ広がる効果、及び指紋払拭性向上効果は顕著になる。
【0028】
ここで、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)は、以下のようにして測定できる。
まず、凸部又は凹部を有する前記親油性樹脂層の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、AFMの断面プロファイルから凸部又は凹部のピッチ、及び凸部の高さ又は凹部の深さを求める。これを前記親油性樹脂層の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し行い、ピッチP1、P2、・・・、P10と、高さ又は深さH1、H2、・・・、H10とを求める。
ここで、前記凸部のピッチは、前記凸部の頂点間の距離である。前記凹部のピッチは、前記凹部の最深部間の距離である。前記凸部の高さは、前記凸部間の谷部の最低点を基準とした前記凸部の高さである。前記凹部の深さは、前記凹部間の山部の最高点を基準とした前記凹部の深さである。
次に、これらのピッチP1、P2、・・・、P10、及び高さ又は深さH1、H2、・・・、H10をそれぞれ単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)を求める。
なお、前記凸部又は凹部のピッチが面内異方性を有している場合には、ピッチが最大となる方向のピッチを用いて前記Pmを求めるものとする。また、前記凸部の高さ又は前記凹部の深さが面内異方性を有している場合には、高さ又は深さが最大となる方向の高さ又は深さを用いて前記Hmを求めるものとする。
また、前記凸部又は凹部が棒状の場合には、短軸方向のピッチを、前記ピッチとして測定する。
なお、前記AFM観察においては、断面プロファイルの凸の頂点、又は凹の底辺が、立体形状の凸部の頂点、又は凹部の最深部と一致するようにするため、断面プロファイルを、測定対象となる立体形状の凸部の頂点、又は立体形状の凹部の最深部を通る断面となるように、切り出している。
【0029】
ここで、前記親油性樹脂層の表面に形成されている微細な形状が、凸部であるか、凹部であるかは、以下のようにして判断することができる。
凸部又は凹部を有する前記親油性樹脂層の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、断面及び前記表面SのAFM像を得る。
そして、表面のAFM像を、最表面側を明るい像、深部側を暗い像にした場合、暗い像の中に、明るい像が島状に形成されている場合、その表面は、凸部を有するものとする。
一方、明るい像の中に、暗い像が島状に形成されている場合、その表面は、凹部を有するものとする。
例えば、
図1A及び
図1Bに示す表面及び断面のAFM像を有する親油性樹脂層の表面は、凸部を有している。
図1A及び
図1Bに示す表面及び断面のAFM像を有する親油性樹脂層の3次元像は、
図1Cのようになる。
図2A及び
図2Bに示す表面及び断面のAFM像を有する表面は、凹部を有している。
【0030】
隣接する前記凸部又は前記凹部は、離間していることが好ましい。前記離間の平均距離(平均離間距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜999nmが好ましく、5nm〜795nmがより好ましく、10nm〜490nmが更に好ましく、100nm〜190nmが特に好ましい。前記平均離間距離が、前記好ましい範囲内であると、前記親油性樹脂層に付着した指紋成分が、効果的に濡れ広がる。また、指紋払拭性が高まる。前記平均離間距離が、前記特に好ましい範囲内であると、指紋成分が濡れ広がる効果、及び指紋払拭性向上効果は顕著になる。
【0031】
ここで、離間する前記凸部又は前記凹部の平均離間距離(Dm)は、以下のようにして測定できる。
まず、前記親油性樹脂層の表面Sを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、表面SEM像から隣接する凸部又は凹部の離間距離を求める。前記離間距離は、前記表面Sを上面から見た場合の、隣接する凸部又は凹部の外縁間の最短距離である。前記親油性樹脂層の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し測定を行い、離間距離D1、D2、・・・、D10を求める。
次に、これらの離間距離D1、D2、・・・、D10を単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均離間距離(Dm)を求める。
例えば、
図1A及び
図1Bに示す表面及び断面のAFM像を有する親油性樹脂層のSEM写真を
図1Dに示す。
図1Dにおいて、凸部のピッチ(P)は、310nmであり、凸部の離間距離(D)は、170nmである。
【0032】
−オレイン酸接触角−
前記親油性樹脂層の表面のオレイン酸接触角は、10°以下であり、5.0°以下が好ましく、3.0°以下がより好ましい。前記オレイン酸接触角の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1.0°などが挙げられる。
前記オレイン酸接触角は、例えば、PCA−1(協和界面化学株式会社製)を用いて、下記条件で測定できる。
オレイン酸をプラスチックシリンジに入れて、その先端にテフロンコート製の針を取り付けて評価面に滴下する。
オレイン酸の滴下量:1μL
測定温度:25℃
オレイン酸を滴下して100秒経過後の接触角を、親油性樹脂層表面の任意の10か所で測定し、その平均値をオレイン酸接触角とする。
【0033】
前記親油性樹脂層の表面のオレイン酸接触角は、前記オレイン酸接触角の測定時に経時で小さくなることが好ましく、オレイン酸を滴下して20秒経過後から100秒経過後の間に、1.0°以上小さくなっていることがより好ましく、2.0°以上小さくなっていることが特に好ましい。そうすることにより、指、ティッシュ、布等による付着指紋の払拭性が良好となる。
【0034】
−活性エネルギー線硬化性樹脂組成物−
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、硬化後に形成される親油性樹脂層において、所望の前記オレイン酸接触角を達成できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多官能(メタ)アクリルモノマーと、光重合開始剤とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0035】
−−多官能(メタ)アクリルモノマー−−
前記多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、アクリレートエステル(ジオキサングリコールジアクリレート)、エトキシ化(4)ビスフェノールAジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,12−ドデカンジオールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化(6)ビスフェノールAジメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、前記多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、二官能ウレタン(メタ)アクリレート、二官能エポキシ(メタ)アクリレート、二官能ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
前記二官能ウレタン(メタ)アクリレートは、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、サートマー社製のCN940、CN963、CN963A80、CN963B80、CN963E75、CN963E80、CN982A75、CN982B88、CN983、CN985B88、CN9001、CN9011、CN902J75、CN977C70、CN999、CN1963、CN2920、ダイセル・サイテック株式会社製のEBECRYL 284、共栄社化学株式会社製のAT−600、UF−8001Gなどが挙げられる。
【0038】
前記二官能エポキシ(メタ)アクリレートは、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、サートマー社製のCN104、CN104A80、CN104B80、CN104D80、CN115、CN117、CN120、CN120A75、CN120B60、CN120B80、CN120C60、CN120C80、CN120D80、CN120E50、CN120M50、CN136、CN151、CN UVE151、CN UVE150/80、CN2100、ダイセル・サイテック株式会社製のEBECRYL 600、 EBECRYL 605、 EBECRYL 3700、 EBECRYL 3701、 EBECRYL 3702、 EBECRYL 3703、共栄社化学株式会社製の70PA、200PA、80MFA、3002A、3000Aなどが挙げられる。
【0039】
前記二官能ポリエステル(メタ)アクリレートは、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、サートマー社製のCN2203、CN2272などが挙げられる。
【0040】
前記多官能(メタ)アクリルモノマーのガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50℃以上であることが好ましい。前記Tgは、例えば、前記多官能(メタ)アクリルモノマー100質量部に対して前記重合開始剤を5質量部配合し、水銀ランプを用いて、照射量1,000mJ/cm
2の紫外線を照射して得た硬化物を試験片として用い、示差走査熱量測定装置や熱機械分析装置により求めることができる。
【0041】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記多官能(メタ)アクリルモノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15.0質量%〜99.9質量%が好ましく、50.0質量%〜99.0質量%がより好ましく、75.0質量%〜98.0質量%が特に好ましい。
【0042】
−−光重合開始剤−−
前記光重合開始剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤、光酸発生剤、ビスアジド化合物、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシグリコユリルなどが挙げられる。
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エトキシフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1−フェニル2−ヒドロキシ−2メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1,2−ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレートなどが挙げられる。
【0043】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記光重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜8質量%がより好ましく、1質量%〜5質量%が特に好ましい。
【0044】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィラーなどが挙げられる。
【0045】
前記フィラーは、前記親油性樹脂層の伸び率、硬度などを調整するために用いることがある。
前記フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化錫、酸化インジウム錫、アンチモンドープ酸化錫、五酸化アンチモンなどが挙げられる。前記シリカとしては、例えば、中実シリカ、中空シリカなどが挙げられる。
【0046】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、使用時には、有機溶剤を用いて希釈して用いることができる。前記有機溶剤としては、例えば、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルエステル系溶媒、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0047】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線が照射されることにより硬化する。前記活性エネルギー線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線等)、マイクロ波、高周波などが挙げられる。
【0048】
前記親油性樹脂層のマルテンス硬度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50N/mm
2〜300N/mm
2が好ましく、100N/mm
2〜250N/mm
2がより好ましく、150N/mm
2〜230N/mm
2が特に好ましい。前記親油性積層体を成形加工する際、例えば、ポリカーボネートの射出成形時には、親油性積層体は、290℃、200MPaで加熱加圧される。このとき、前記親油性樹脂層の表面の微細な凸部及び凹部のいずれかは変形することがある。前記変形としては、例えば、微細な凸部の高さが低くなること、微細な凹部の深さが浅くなることなどがある。耐指紋性に影響がない範囲では変形してもよいが、変形しすぎるとオレイン酸接触角が高くなり耐指紋性が低下する。前記マルテンス硬度が、50N/mm
2未満であると、前記親油性積層体を成形加工する際に前記親油性樹脂層の表面の微細な凸部及び凹部のいずれかが変形しすぎてしまい、オレイン酸接触角が高くなり耐指紋性が低下すること、及び、前記親油性積層体を製造又は成形加工する際のハンドリング及び面清掃等の、通常使用時の面清掃などで前記親油性樹脂層に傷が入り易いことがある。前記マルテンス硬度が、300N/mm
2を超えると、成形加工時、前記親油性樹脂層にクラックが発生したり、前記親油性樹脂層が剥離することがある。前記マルテンス硬度が、前記特に好ましい範囲内であると、前記親油性積層体を、耐指紋性を低下させることなく、且つ傷付き、クラック、剥離等の不良を発生させることなく、様々な三次元形状に容易に成形加工できる点で有利である。
なお、前記親油性積層体を成形加工後、前記親油性樹脂層には射出成形工程にて高温高圧が加わるため、成形加工前よりも前記親油性樹脂層のマルテンス硬度が高まることがある。
前記マルテンス硬度は、例えば、PICODENTOR HM500(商品名;フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定できる。荷重1mN/20sとし、針としてダイアモンド錐体を用い、面角136°で測定する。
【0049】
前記親油性樹脂層の鉛筆硬度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、B〜4Hが好ましく、HB〜4Hがより好ましく、F〜4Hが特に好ましい。前記鉛筆硬度が、B未満である(Bより柔らかい)と、前記親油性積層体を製造又は成形加工する際のハンドリングや面清掃等の、通常使用時の面清掃などで前記親油性樹脂層に傷が入り易い。また、前記親油性積層体を成形加工する際に前記親油性樹脂層の表面の微細な凸部及び凹部のいずれかが変形しすぎてしまい、オレイン酸接触角が高くなり耐指紋性が低下することがある。前記鉛筆硬度が、4Hを超える(4Hより硬い)と、成形加工時、前記親油性樹脂層にクラックが発生したり、前記親油性樹脂層が剥離することがある。前記鉛筆硬度が、前記特に好ましい範囲内であると、前記親油性積層体を、耐指紋性を低下させることなく、且つ傷付き、クラック、剥離等の不良を発生させることなく、様々な三次元形状に容易に成形加工できる点で有利である。
なお、前記親油性積層体を成形加工後、前記親油性樹脂層には射出成形工程にて高温高圧が加わるため、成形加工前よりも前記親油性樹脂層の鉛筆硬度が高まることがある。
前記鉛筆硬度は、JIS K 5600−5−4に従って測定する。
【0050】
前記親油性樹脂層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜100μmが好ましく、1μm〜50μmがより好ましく、1μm〜30μmが特に好ましい。
【0051】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、アンカー層、保護層、粘着層、接着層などが挙げられる。
【0052】
−アンカー層−
前記アンカー層は、前記樹脂製基材と、前記親油性樹脂層との間に設けられる層である。
前記親油性積層体に前記アンカー層を設けることにより、前記樹脂製基材と前記親油性樹脂層との接着性を向上できる。
前記アンカー層の屈折率は、干渉ムラを防止するために、前記親油性樹脂層の屈折率と近いことが好ましい。そのため、前記アンカー層の屈折率は、前記親油性樹脂層の屈折率の±0.10以内が好ましく、±0.05以内がより好ましい。または、前記アンカー層の屈折率は、前記親油性樹脂層の屈折率と前記樹脂製基材の屈折率との間であることが好ましい。
【0053】
前記アンカー層は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布することにより形成できる。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物などが挙げられる。前記ウレタン(メタ)アクリレート、前記光重合開始剤としては、例えば、前記親油性樹脂層の説明において例示した前記二官能ウレタン(メタ)アクリレート、前記光重合開始剤がそれぞれ挙げられる。前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0054】
前記アンカー層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜5μmがより好ましく、0.3μm〜3μmが特に好ましい。
【0055】
なお、前記アンカー層には、反射率低減や帯電防止の機能を付与してもよい。
【0056】
−保護層−
前記保護層としては、前記親油性樹脂層上に形成された、前記親油性積層体を製造又は成形加工する際に、前記親油性樹脂層が傷付くのを防止する層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記保護層は、前記親油性積層体を使用する際には、剥がされる。
【0057】
−粘着層、接着層−
前記粘着層及び前記接着層としては、前記樹脂製基材上に形成され、前記親油性積層体を、被加工物、被着体などに接着させる層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0058】
前記親油性積層体の伸び率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10%以上が好ましく、10%〜200%がより好ましく、40%〜150%が特に好ましい。前記伸び率が、10%未満であると、成形加工が困難になることがある。前記伸び率が、前記特に好ましい範囲内であると、成形加工性に優れる点で有利である。
前記伸び率は、例えば、以下の方法により求めることができる。
前記親油性積層体を、長さ10.5cm×幅2.5cmの短冊状にして測定試料とする。得られた測定試料の引張り伸び率を引張り試験機(オートグラフAG−5kNXplus、株式会社島津製作所製)で測定(測定条件:引張り速度=100mm/min;チャック間距離=8cm)する。測定試料を目視で観察しながら測定を行い、親油性積層体にクラックが発生する直前の伸び率を求める。これをN=5個の測定試料で求め、それらの平均値を親油性積層体の伸び率とする。なお、前記伸び率の値は、室温(25℃)又は前記樹脂製基材の軟化点で測定した際に満たしていればよい。
【0059】
前記親油性積層体は、前記親油性積層体の面内におけるX方向とY方向の加熱収縮率差が小さい方が好ましい。前記親油性積層体の前記X方向と前記Y方向とは、例えば、親油性積層体がロール形状の場合、ロールの長手方向と幅方向とに相当する。成形時の加熱工程に使用する加熱温度にて、親油性積層体におけるX方向の加熱収縮率とY方向の加熱収縮率との差は5%以内であることが好ましい。この範囲外であると、成形加工時に、前記親油性樹脂層に剥離やクラックが発生したり、樹脂製基材の表面に印刷された前記文字、前記模様、前記画像などが変形や位置ズレを起こしてしまい、成形加工が困難になることがある。
【0060】
前記親油性積層体は、インモールド成形用フィルム、インサート成形用フィルム、オーバーレイ成形用フィルムに特に適している。
【0061】
前記親油性積層体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記第1の方法、下記第2の方法、後述する本発明の親油性積層体の製造方法などが挙げられる。これらの中でも、後述する本発明の親油性積層体の製造方法が好ましい。なお、前記第2の方法は、前記親油性樹脂層と前記樹脂製基材とが一体となっている親油性樹脂体の製造方法であって、本発明は、このように、前記親油性樹脂層と前記樹脂製基材とが一体となっていてもよい。即ち、前記親油性樹脂体は、表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有し、前記表面のオレイン酸接触角が、10°以下である。
【0062】
〔第1の方法〕
前記第1の方法は、表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有する樹脂製基材を作製し、前記樹脂製基材の微細な凸部及び凹部のいずれかを有する表面上に、前記微細な凸部及び凹部のいずれかに追従する親油性樹脂層を形成する方法である。
具体的には、前記第1の方法では、例えば、溶融押し出し法、転写法などを用いることができる。前記溶融押し出し法としては、例えば、ダイから熱可塑性樹脂組成物をフィルム状などに吐出した直後に、2つのロールにてニップしてロール表面の形状を熱可塑性樹脂組成物である樹脂製基材に転写する方法が挙げられる。前記転写法としては、例えば、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する原盤の成形面を樹脂製基材に押し当てそのガラス転移点付近又はそれ以上に加熱することにより、前記原盤の成形面の形状を前記樹脂製基材の表面に転写する熱転写方法が挙げられる。
そして、表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有する樹脂製基材の表面上に、親油性樹脂層を形成するための前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布した後に、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させることで、前記微細な凸部及び凹部のいずれかの形状を追従した親油性樹脂層が形成される。
【0063】
〔第2の方法〕
前記第2の方法は、前記親油性樹脂層と前記樹脂製基材とが一体となっている親油性樹脂体の製造方法である。前記第2の方法としては、例えば、前記第1の方法における溶融押し出し法、転写法などを用いて作製した、表面に微細な凸部及び凹部のいずれかを有する樹脂製基材自体を、親油性樹脂体とする方法が挙げられる。
【0064】
(親油性積層体の製造方法)
本発明の親油性積層体の製造方法は、未硬化樹脂層形成工程と、親油性樹脂層形成工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記親油性積層体の製造方法は、本発明の前記親油性積層体を製造する方法である。
【0065】
<未硬化樹脂層形成工程>
前記未硬化樹脂層形成工程としては、樹脂製基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化樹脂層を形成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
前記樹脂製基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記親油性積層体の説明において例示した前記樹脂製基材などが挙げられる。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記親油性積層体の前記親油性樹脂層の説明において例示した前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0067】
前記未硬化樹脂層は、前記樹脂製基材上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して、必要に応じて乾燥を行うことにより形成される。前記未硬化樹脂層は、固体の膜であってもよいし、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含有される低分子量の硬化性成分によって流動性を有した膜であってもよい。
【0068】
前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0069】
前記未硬化樹脂層は、活性エネルギー線が照射されていないため、硬化していない。
【0070】
前記未硬化樹脂層形成工程においては、アンカー層が形成された前記樹脂製基材の前記アンカー層上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して前記未硬化樹脂層を形成してもよい。
前記アンカー層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記親油性積層体の説明において例示した前記アンカー層などが挙げられる。
【0071】
<親油性樹脂層形成工程>
前記親油性樹脂層形成工程としては、前記未硬化樹脂層に微細な凸部及び凹部のいずれかを有する転写原盤を密着させ、前記転写原盤が密着した前記未硬化樹脂層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化樹脂層を硬化させて前記微細な凸部及び凹部のいずれかを転写することにより、親油性樹脂層を形成する工程あれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
−転写原盤−
前記転写原盤は、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する。
前記転写原盤の材質、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記転写原盤の微細な凸部及び凹部のいずれかの形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として前記転写原盤の表面をエッチングすることにより形成することが好ましい。また、レーザーを前記転写原盤の表面に照射して前記転写原盤をレーザー加工することにより形成することが好ましい。
【0073】
−活性エネルギー線−
前記活性エネルギー線としては、前記未硬化樹脂層を硬化させる活性エネルギー線であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記親油性積層体の説明において例示した前記活性エネルギー線などが挙げられる。
【0074】
ここで、前記親油性樹脂層形成工程の具体例を、図を用いて説明する。
【0075】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として転写原盤の表面をエッチングすることにより微細な凸部及び凹部のいずれかを形成した転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程の一例である。
【0076】
まず、転写原盤及びその製造方法について説明する。
【0077】
〔転写原盤の構成〕
図3Aは、転写原盤であるロール原盤の構成の一例を示す斜視図である。
図3Bは、
図3Aに示したロール原盤の一部を拡大して表す平面図である。
図3Cは、
図3BのトラックTにおける断面図である。ロール原盤231は、上述した構成を有する親油性積層体を作製するための転写原盤、より具体的には、前記親油性樹脂層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための原盤である。ロール原盤231は、例えば、円柱状又は円筒状の形状を有し、その円柱面又は円筒面が親油性樹脂層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、複数の構造体232が2次元配列されている。
図3Cにおいて、構造体232は、成形面に対して凹状を有している。ロール原盤231の材料としては、例えば、ガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。
【0078】
ロール原盤231の成形面に配置された複数の構造体232と、前記親油性樹脂層の表面に配置された複数の凸部又は凹部とは、反転した凹凸関係にある。すなわち、ロール原盤231の構造体232の配列、大きさ、形状、配置ピッチ、高さ又は深さ、及びアスペクト比などは、前記親油性樹脂層の凸部又は凹部と同様である。
【0079】
〔ロール原盤露光装置〕
図4は、ロール原盤を作製するためのロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。このロール原盤露光装置は、光学ディスク記録装置をベースとして構成されている。
【0080】
レーザー光源241は、記録媒体としてのロール原盤231の表面に着膜されたレジストを露光するための光源であり、例えば、波長λ=266nmの記録用のレーザー光234を発振するものである。レーザー光源241から出射されたレーザー光234は、平行ビームのまま直進し、電気光学素子(EOM:Electro Optical Modulator)242へ入射する。電気光学素子242を透過したレーザー光234は、ミラー243で反射され、変調光学系245に導かれる。
【0081】
ミラー243は、偏光ビームスプリッタで構成されており、一方の偏光成分を反射し他方の偏光成分を透過する機能をもつ。ミラー243を透過した偏光成分はフォトダイオード244で受光され、その受光信号に基づいて電気光学素子242を制御してレーザー光234の位相変調を行う。
【0082】
変調光学系245において、レーザー光234は、集光レンズ246により、ガラス(SiO
2)などからなる音響光学素子(AOM:Acousto−Optic Modulator)247に集光される。レーザー光234は、音響光学素子247により強度変調され発散した後、レンズ248によって平行ビーム化される。変調光学系245から出射されたレーザー光234は、ミラー251によって反射され、移動光学テーブル252上に水平かつ平行に導かれる。
【0083】
移動光学テーブル252は、ビームエキスパンダ253、及び対物レンズ254を備えている。移動光学テーブル252に導かれたレーザー光234は、ビームエキスパンダ253により所望のビーム形状に整形された後、対物レンズ254を介して、ロール原盤231上のレジスト層へ照射される。ロール原盤231は、スピンドルモータ255に接続されたターンテーブル256の上に載置されている。そして、ロール原盤231を回転させると共に、レーザー光234をロール原盤231の高さ方向に移動させながら、ロール原盤231の周側面に形成されたレジスト層へレーザー光234を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光234の移動は、移動光学テーブル252の矢印R方向への移動によって行われる。
【0084】
露光装置は、上述した複数の凸部又は凹部の2次元パターンに対応する潜像をレジスト層に形成するための制御機構257を備えている。制御機構257は、フォーマッタ249とドライバ250とを備える。フォーマッタ249は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光234の照射タイミングを制御する。ドライバ250は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子247を制御する。
【0085】
このロール原盤露光装置では、2次元パターンが空間的にリンクするように1トラック毎に極性反転フォーマッタ信号と回転コントローラを同期させて信号を発生し、音響光学素子247により強度変調している。角速度一定(CAV)で適切な回転数と適切な変調周波数と適切な送りピッチでパターニングすることにより、六方格子パターンなどの2次元パターンを記録することができる。
【0086】
〔レジスト成膜工程〕
まず、
図5Aの断面図に示すように、円柱状又は円筒状のロール原盤231を準備する。このロール原盤231は、例えば、ガラス原盤である。次に、
図5Bの断面図に示すように、ロール原盤231の表面にレジスト層(例えば、フォトレジスト)233を形成する。レジスト層233の材料としては、例えば、有機系レジスト、無機系レジストなどが挙げられる。前記有機系レジストとしては、例えば、ノボラック系レジスト、化学増幅型レジストなどが挙げられる。前記無機系レジストとしては、例えば、金属化合物などが挙げられる。
【0087】
〔露光工程〕
次に、
図5Cの断面図に示すように、ロール原盤231の表面に形成されたレジスト層233に、レーザー光(露光ビーム)234を照射する。具体的には、
図4に示したロール原盤露光装置のターンテーブル256上にロール原盤231を載置し、ロール原盤231を回転させると共に、レーザー光(露光ビーム)234をレジスト層233に照射する。このとき、レーザー光234をロール原盤231の高さ方向(円柱状又は円筒状のロール原盤231の中心軸に平行な方向)に移動させながら、レーザー光234を間欠的に照射することで、レジスト層233を全面にわたって露光する。これにより、レーザー光234の軌跡に応じた潜像235が、レジスト層233の全面にわたって形成される。
【0088】
潜像235は、例えば、ロール原盤表面において複数列のトラックTをなすように配置されると共に、所定の単位格子Ucの規則的な周期パターンで形成される。潜像235は、例えば、円形状又は楕円形状である。潜像235が楕円形状を有する場合には、その楕円形状は、トラックTの延在方向に長軸方向を有することが好ましい。
【0089】
〔現像工程〕
次に、例えば、ロール原盤231を回転させながら、レジスト層233上に現像液を滴下して、レジスト層233を現像処理する。これにより、
図5Dの断面図に示すように、レジスト層233に複数の開口部が形成される。レジスト層233をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザー光234で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、
図5Dの断面図に示すように、潜像(露光部)235に応じたパターンがレジスト層233に形成される。開口部のパターンは、例えば、所定の単位格子Ucの規則的な周期パターンである。
【0090】
〔エッチング工程〕
次に、ロール原盤231の上に形成されたレジスト層233のパターン(レジストパターン)をマスクとして、ロール原盤231の表面をエッチング処理する。これにより、
図5Eの断面図に示すように、錐体形状を有する構造体(凹部)232を得ることができる。錐体形状は、例えば、トラックTの延在方向に長軸方向をもつ楕円錐形状又は楕円錐台形状であることが好ましい。前記エッチングとしては、例えば、ドライエッチング、ウエットエッチングを用いることができる。このとき、エッチング処理とアッシング処理とを交互に行うことにより、例えば、錐体状の構造体232のパターンを形成することができる。以上により、目的とするロール原盤231が得られる。
【0091】
〔転写処理〕
図6Aの断面図に示すような未硬化樹脂層236が形成された樹脂製基材211を用意する。
次に、
図6Bの断面図に示すように、ロール原盤231と、樹脂製基材211上に形成された未硬化樹脂層236とを密着させ、未硬化樹脂層236に活性エネルギー線237を照射し未硬化樹脂層236を硬化させて微細な凸部及び凹部のいずれかを転写し、微細な凸部及び凹部のいずれか212aが形成された親油性樹脂層212を得る。
最後に、ロール原盤231から、得られた親油性樹脂層212を剥離して、親油性積層体を得る(
図6C)。
なお、樹脂製基材211が紫外線などの活性エネルギー線を透過しない材料で構成されている場合には、活性エネルギー線を透過可能な材料(例えば、石英)でロール原盤231を構成し、ロール原盤231の内部から未硬化樹脂層236に対して活性エネルギー線を照射するようにしてもよい。なお、転写原盤は上述のロール原盤231に限定されるものではなく、平板状の原盤を用いるようにしてもよい。ただし、量産性向上の観点からすると、転写原盤として上述のロール原盤231を用いることが好ましい。
【0092】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、レーザーを転写原盤の表面に照射して前記転写原盤をレーザー加工することにより微細な凸部及び凹部のいずれかを形成した転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程の一例である。
【0093】
まず、転写原盤及びその製造方法について説明する。
【0094】
〔転写原盤の構成〕
図7Aは、板状の原盤の構成の一例を示す平面図である。
図7Bは、
図7Aに示したa−a線に沿った断面図である。
図7Cは、
図7Bの一部を拡大して表す断面図である。板状の原盤331は、上述した構成を有する親油性積層体を作製するための原盤、より具体的には、前記親油性樹脂層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための原盤である。板状の原盤331は、例えば、微細な凹凸構造が設けられた表面を有し、その表面が親油性樹脂層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、複数の構造体332が設けられている。
図7Cに示す構造体332は、成形面に対して凹状を有している。板状の原盤331の材料としては、例えば、金属材料を用いることができる。前記金属材料としては、例えば、Ni、NiP、Cr、Cu、Al、Fe、及びその合金を用いることができる。前記合金としては、ステンレス鋼(SUS)が好ましい。前記ステンレス鋼(SUS)としては、例えば、SUS304、SUS420J2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
板状の原盤331の成形面に設けられた複数の構造体332と、前記親油性樹脂層の表面に設けられた複数の凸部又は凹部とは、反転した凹凸関係にある。即ち、板状の原盤331の構造体332の配列、大きさ、形状、配置ピッチ、及び高さ又は深さなどは、前記親油性樹脂層の凸部又は凹部と同様である。
【0096】
〔レーザー加工装置の構成〕
図8は、板状の原盤を作製するためのレーザー加工装置の構成の一例を示す概略図である。レーザー本体340は、例えば、サイバーレーザー株式会社製のIFRIT(商品名)である。レーザー加工に用いるレーザーの波長は、例えば、800nmである。ただし、レーザー加工に用いるレーザーの波長は、400nmや266nmなどでもかまわない。繰り返し周波数は、加工時間と、形成される凹部又は凸部の狭ピッチ化とを考慮すると、大きいほうが好ましく、1,000Hz以上であることが好ましい。レーザーのパルス幅は短い方が好ましく、200フェムト秒(10
−15秒)〜1ピコ秒(10
−12秒)程度であることが好ましい。
【0097】
レーザー本体340は、垂直方向に直線偏光したレーザー光を射出するようになっている。そのため、本装置では、波長板341(例えば、λ/2波長板)を用いて、偏光方向を回転などさせることで、所望の方向の直線偏光又は円偏光を得るようにしている。また、本装置では、四角形の開口を有するアパーチャー342を用いて、レーザー光の一部を取り出すようにしている。これは、レーザー光の強度分布がガウス分布となっているので、その中央付近のみを用いることで、面内強度分布の均一なレーザー光を得るようにしている。また、本装置では、直交させた2枚のシリンドリカルレンズ343を用いて、レーザー光を絞ることにより、所望のビームサイズになるようにしている。板状の原盤331を加工する際には、リニアステージ344を等速で移動させる。
【0098】
板状の原盤331へ照射されるレーザーのビームスポットは、四角形形状であることが好ましい。ビームスポットの整形は、例えば、アパーチャー、シリンドリカルレンズなどによって行うことができる。また、ビームスポットの強度分布は、なるべく均一であることが好ましい。これは、型に形成する凹凸の深さなどの面内分布をなるべく均一化することが好ましいためである。一般的には、ビームスポットのサイズは、加工を行いたい面積よりも小さいため、ビームを走査することで加工を行いたい面積全てに凸凹形状を付与する必要がある。
【0099】
前記親油性樹脂層の表面の形成に用いられる原盤(型)は、例えば、SUS、NiP、Cu、Al、Fe等の金属などの基板に、パルス幅が1ピコ秒(10
−12秒)以下の超短パルスレーザー、いわゆるフェムト秒レーザーを用いてパターンを描画することにより形成される。また、レーザー光の偏光は、直線偏光であっても円偏光であっても楕円偏光であってもよい。このとき、レーザー波長、繰り返し周波数、パルス幅、ビームスポット形状、偏光、サンプルへ照射するレーザー強度、レーザーの走査速度などを適宜設定することにより、所望の凹凸を有するパターンを形成することができる。
【0100】
所望の形状を得るために変化させることが可能なパラメーターには以下のようなものが挙げられる。フルエンスは、パルス1つあたりのエネルギー密度(J/cm
2)であり、以下の式で求められるものである。
F=P/(fREPT×S)
S=Lx×Ly
F:フルエンス
P:レーザーのパワー
fREPT:レーザーの繰り返し周波数
S:レーザーの照射位置での面積
Lx×Ly:ビームサイズ
なお、パルス数Nは、1箇所に照射されたパルスの数であり、以下の式で求められるものである。
N=fREPT×Ly/v
Ly:レーザーの走査方向のビームサイズ
v:レーザーの走査速度
【0101】
また、所望の形状を得るために板状の原盤331の材質を変化させてもいい。板状の原盤331の材質によってレーザー加工される形状は変化する。SUS、NiP、Cu、Al、Fe等の金属などを用いるほかに、原盤表面に、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの半導体材料を被覆してもよい。前記原盤表面に前記半導体材料を被覆する方法としては、例えば、プラズマCVD、スパッタリングなどが挙げられる。被覆する前記半導体材料としては、DLCのほかにも、例えば、フッ素(F)を混入したDLC、窒化チタン、窒化クロムなどを使用できる。被覆して得られる被膜の平均厚みは、例えば、1μm程度とすればよい。
【0102】
〔レーザー加工工程〕
まず、
図9Aに示すように、板状の原盤331を準備する。この板状の原盤331の被加工面である表面331Aは、例えば、鏡面状態となっている。なお、この表面331Aは、鏡面状態となっていなくてもよく、例えば、表面331Aに、転写用のパターンよりも細かな凹凸が形成されていてもよいし、転写用のパターンと同等か、それよりも粗い凹凸が形成されていてもよい。
【0103】
次に、
図8に示したレーザー加工装置を用いて、以下のようにして板状の原盤331の表面331Aをレーザー加工する。まず、板状の原盤331の表面331Aに対して、パルス幅が1ピコ秒(10
−12秒)以下の超短パルスレーザー、いわゆるフェムト秒レーザーを用いてパターンを描画する。例えば、
図9Bに示したように、板状の原盤331の表面331Aに対して、フェムト秒レーザー光Lfを照射すると共に、その照射スポットを表面331Aに対してスキャンさせる。
【0104】
このとき、レーザー波長、繰り返し周波数、パルス幅、ビームスポット形状、偏光、表面331Aへ照射するレーザーの強度、レーザーの走査速度等が適宜設定されることにより、
図9Cに示すように、所望の形状を有する複数の構造体332が形成される。
【0105】
〔転写処理〕
図10Aの断面図に示すような未硬化樹脂層333が形成された樹脂製基材311を用意する。
次に、
図10Bの断面図に示すように、板状の原盤331と、樹脂製基材311上に形成された未硬化樹脂層333とを密着させ、未硬化樹脂層333に活性エネルギー線334を照射し未硬化樹脂層333を硬化させて板状の原盤331の微細な凸部及び凹部のいずれかを転写し、微細な凸部及び凹部のいずれかが形成された親油性樹脂層312を得る。
最後に、板状の原盤331から、得られた親油性樹脂層312を剥離して、親油性積層体を得る(
図10C)。
なお、樹脂製基材311が紫外線などの活性エネルギー線を透過しない材料で構成されている場合には、活性エネルギー線を透過可能な材料(例えば、石英)で板状の原盤331を構成し、板状の原盤331の裏面(成形面とは反対側の面)から未硬化樹脂層333に対して活性エネルギー線を照射するようにしてもよい。
【0106】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、アルミニウム基材にポーラスアルミナ層を形成してなる転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程の一例である。
【0107】
まず、転写原盤及びその製造方法について説明する。
【0108】
転写原盤に加工される前記アルミニウム基材としては、例えば、バルク状のアルミニウム、ガラス基材又はプラスチック基材上に下地層等を介して形成されたアルミニウム膜などが挙げられる。
【0109】
前記アルミニウム基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、円筒状、円柱状などが挙げられる。
【0110】
前記ポーラスアルミナ層は、例えば、陽極酸化、ウェットエッチング処理などによって形成される。
前記ポーラスアルミナ層は、微細な凹部を有する。前記微細な凹部の配置は、周期性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
前記ポーラスアルミナ層の形成方法としては、具体的には、例えば、特開2005−156695号公報に開示されているように、酸性電解液又はアルカリ性電解液中にアルミニウム基材を浸漬し、これを陽極として電圧を印加することによって、複数の微細な凹部を有するポーラスアルミナ層を形成する方法などが挙げられる。この陽極酸化処理と、エッチング処理による孔径拡大処理を適宜組み合せてもよい。
【0111】
製造された転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程は、例えば、前記第1の実施形態、前記第2の実施形態と同様の方法などが挙げられる。
【0112】
[第4の実施形態]
第4の実施形態としては、アルミニウム基材表面にマクロ凹凸構造を形成し、続いて、前記マクロ凹凸構造に、微細な凹部(ミクロ構造)を形成してなる転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程の一例である。
前記転写原盤の作製方法としては、例えば、特表2001−517319号公報に記載されている方法などが挙げられる。
転写原盤に、前記マクロ凹凸構造と、前記微細な凹部(ミクロ構造)とを形成することで、前記転写原盤を用いて得られる前記親油性積層体には、耐指紋性に加えて、防眩機能を付与することができる。防眩機能を付与するためのマクロ凹凸構造は、例えば、ブラスト加工(サンドブラスト加工やビーズブラスト加工等)、酸を用いたエッチング加工、或いはこれらの組合せによって、アルミニウム基材表面に付与できる。前記微細な凹部(ミクロ構造)は、陽極酸化、ウェットエッチング処理などにより形成することができる。
【0113】
製造された転写原盤を用いて行う前記親油性樹脂層形成工程は、例えば、前記第1の実施形態、前記第2の実施形態と同様の方法などが挙げられる。
この転写原盤を用いて得られる前記親油性積層体の一例を
図11に示す。
図11に示す親油性積層体は、樹脂製基材401と、樹脂製基材401上に親油性樹脂層402とを有している。親油性樹脂層402の表面には、マクロ凹凸構造と、前記マクロ凹凸構造に形成された微細な凹部とが形成されている。
【0114】
(物品)
本発明の物品は、本発明の前記親油性積層体を表面に有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タッチパネル、スマートフォン、タブレットPC、化粧品容器、アクセサリー類、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、ピアノ、建築資材などが挙げられる。
また、前記物品は、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネル、ドアトリム、インストルメントパネル、センタークラスター・センターコンソールパネル、シフトノブ、シフトノブ周り、ステアリングエンブレムなどであってもよい。これらは、インモールド成形、インサート成形、オーバーレイ成形により形成されることが好ましい。
【0115】
前記親油性積層体は、前記物品の表面の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
【0116】
前記物品の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する本発明の物品の製造方法が好ましい。
【0117】
(物品の製造方法)
本発明の物品の製造方法は、加熱工程と、親油性積層体成形工程と、射出成形工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記物品の製造方法は、本発明の前記物品の製造方法である。
【0118】
<加熱工程>
前記加熱工程としては、親油性積層体を加熱する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記親油性積層体は、本発明の前記親油性積層体である。
【0119】
前記加熱としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、赤外線加熱であることが好ましい。
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂製基材のガラス転移温度近傍若しくはガラス転移温度以上であることが好ましい。
前記加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0120】
<親油性積層体成形工程>
前記親油性積層体成形工程としては、加熱された前記親油性積層体を所望の形状に成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させて、空気圧により、所望の形状に成形する工程などが挙げられる。
【0121】
<射出成形工程>
前記射出成形工程としては、所望の形状に成形された前記親油性積層体の樹脂製基材側に成形材料を射出し、前記成形材料を成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0122】
前記成形材料としては、例えば、樹脂などが挙げられる。前記樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、液晶ポリエステル、ポリアリル系耐熱樹脂、各種複合樹脂、各種変性樹脂などが挙げられる。
【0123】
前記射出の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させた前記親油性積層体の樹脂製基材側に、溶融した前記成形材料を流し込む方法などが挙げられる。
【0124】
前記物品の製造方法は、インモールド成形装置、インサート成形装置、オーバーレイ成形装置を用いて行うことが好ましい。
【0125】
ここで、本発明の物品の製造方法の一例を、図を用いて説明する。この製造方法はインモールド成形装置を用いた製造方法である。
まず、親油性積層体500を加熱する。加熱は赤外線加熱が好ましい。
続いて、
図12Aに示すように、加熱した親油性積層体500を、第1金型501と第2金型502との間の所定の位置に配置する。このとき、親油性積層体500の樹脂製基材が第1金型501を向き、親油性樹脂層が第2金型502を向くように配置する。
図12Aにおいて、第1金型501は、固定型であり、第2金型502は、可動型である。
【0126】
第1金型501と第2金型502との間に親油性積層体500を配置した後、第1金型501と第2金型502とを型締めする。続いて、第2金型502のキャビティ面に開口されている吸引穴504で親油性積層体500を吸引して、第2金型502のキャビティ面に親油性積層体500を装着する。そうすることにより、キャビティ面が親油性積層体500で賦形される。また、このとき、図示されていないフィルム押さえ機構で親油性積層体500の外周を固定し位置決めしてもよい。その後、親油性積層体500の不要な部位をトリミングする(
図12B)。
なお、第2金型502が吸引穴504を有さず、第1金型501に圧空孔(図示せず)を有する場合には、第1金型501の圧空孔から親油性積層体500に圧空を送ることにより、第2金型502のキャビティ面に親油性積層体500を装着する。
【0127】
続いて、親油性積層体500の樹脂製基材に向けて、第1金型501のゲート505から溶融した成形材料506を射出し、第1金型501と第2金型502を型締めして形成したキャビティ内に注入する(
図12C)。これにより、溶融した成形材料506がキャビティ内に充填される(
図12D)。更に、溶融した成形材料506の充填完了後、溶融した成形材料506を所定の温度まで冷却して固化する。
【0128】
その後、第2金型502を動かして、第1金型501と第2金型502とを型開きする(
図12E)。そうすることにより、成形材料506の表面に親油性積層体500が形成され、かつ所望の形状にインモールド成形された物品507が得られる。
最後に、第1金型501から突き出しピン508を押し出して、得られた物品507を取り出す。
【実施例】
【0129】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例7〜10は、参考例に読み替える。
【0130】
<凸部の平均距離、凹部の平均距離、凸部の平均高さ、凹部の平均深さ、平均アスペクト比>
以下の実施例において、凸部の平均距離、凹部の平均距離、凸部の平均高さ、凹部の平均深さ、及び平均アスペクト比は、以下のようにして求めた。
まず、凸部又は凹部を有する親油性樹脂層の表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、AFMの断面プロファイルから凸部又は凹部のピッチ、及び凸部の高さ又は凹部の深さを求めた。これを前記親油性樹脂層の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し行い、ピッチP1、P2、・・・、P10と、高さ又は深さH1、H2、・・・、H10とを求めた。
ここで、前記凸部のピッチは、前記凸部の頂点間の距離である。前記凹部のピッチは、前記凹部の最深部間の距離である。前記凸部の高さは、前記凸部間の谷部の最低点を基準とした前記凸部の高さである。前記凹部の深さは、前記凹部間の山部の最高点を基準とした前記凹部の深さである。
次に、これらのピッチP1、P2、・・・、P10、及び高さ又は深さH1、H2、・・・、H10をそれぞれ単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)を求めた。
前記Pmと、前記Hmとから、平均アスペクト比(Hm/Pm)を求めた。
【0131】
<凸部及び凹部の離間距離>
以下の実施例において、凸部及び凹部の離間距離は、以下のようにして求めた。
まず、親油性樹脂層の表面Sを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、表面SEM像から隣接する凸部又は凹部の離間距離を求めた。前記離間距離は、前記表面Sを上面から見た場合の、隣接する凸部又は凹部の外縁間の最短距離である。前記親油性樹脂層の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し測定を行い、離間距離D1、D2、・・・、D10を求めた。
次に、これらの離間距離D1、D2、・・・、D10を単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均離間距離(Dm)を求めた。
【0132】
<オレイン酸接触角>
オレイン酸接触角は、PCA−1(協和界面化学株式会社製)を用いて、下記条件で測定した。
オレイン酸をプラスチックシリンジに入れて、その先端にテフロンコート製の針を取り付けて評価面に滴下した。
オレイン酸の滴下量:1μL
測定温度:25℃
オレイン酸を滴下して100秒経過後の接触角を、親油性樹脂層表面の任意の10か所で測定し、その平均値をオレイン酸接触角とした。
【0133】
<オレイン酸接触角変化>
前記オレイン酸接触角の測定方法において、オレイン酸の滴下後20秒後と100秒後とで、それぞれオレイン酸接触角を親油性樹脂層表面の任意の10か所で測定し、それぞれの平均値を求めた。その差(20秒後のオレイン酸接触角の平均値−100秒後のオレイン酸接触角の平均値)からオレイン酸接触角の経時変化を計算した。
なお、実施例1〜4、7、8、比較例1、及び3で得られた積層体のオレイン酸接触角の変化を示すグラフを
図21に示した。実施例11〜15、比較例4、及び5で得られた積層体のオレイン酸接触角の変化を示すグラフを
図22に示した。
【0134】
<マルテンス硬度>
親油性樹脂層のマルテンス硬度は、PICODENTOR HM500(商品名;フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定した。荷重1mN/20sとし、針としてダイアモンド錐体を用い、面角136°で測定した。
【0135】
<鉛筆硬度>
親油性樹脂層の鉛筆硬度は、JIS K 5600−5−4に従って測定した。
【0136】
<伸び率>
伸び率は、以下の方法により求めた。
親油性積層体を、長さ10.5cm×幅2.5cmの短冊状にして測定試料とする。得られた測定試料の引張り伸び率を引張り試験機(オートグラフAG−5kNXplus、株式会社島津製作所製)で測定(測定条件:引張り速度=100mm/min;チャック間距離=8cm;測定温度=190℃)した。測定試料を目視で観察しながら測定を行い、親油性積層体にクラックが発生する直前の伸び率を求めた。これをN=5個の測定試料で求め、それらの平均値を親油性積層体の伸び率とした。
前記樹脂製基材が、三菱ガス化学株式会社製のDF02U(PMMA/PC積層)(平均厚み125μm)の場合、測定温度190℃で測定した。
前記樹脂製基材が、東洋紡株式会社製ソフトシャインTA009(平均厚み125μm)の場合、測定温度25℃で測定した。
【0137】
<全光線透過率>
親油性積層体の全光線透過率は、JIS K 7361に従って、HM−150(商品名;株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて評価した。
【0138】
<ヘイズ>
親油性積層体のヘイズは、JIS K 7136に従って、HM−150(商品名;株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて評価した。
【0139】
<密着性>
親油性樹脂層の密着性は、JIS K 5400に従い、碁盤目(1mm間隔×100マス)セロハンテープ(ニチバン株式会社製、CT24)剥離試験により評価した。
【0140】
<加熱収縮率差>
親油性積層体の加熱収縮率差は、以下の方法により求めた。
まず、100mm×100mmサイズの四角の試験片を切り出した。このとき、該試験片の縦方向及び横方向がそれぞれ、樹脂製基材の長手方向及び幅方向と一致するように切り出した。次いで、これをオーブンで190℃×30分間加熱した。オーブンから取り出して室温まで自然冷却した後、縦方向と横方向の長さをそれぞれ定規で測定した。両方向について加熱前の長さ(=100mm)からの変化率をそれぞれ算出し、その差の絶対値を求めた。これをN=10個の試験片で求め、それらの平均値を親油性積層体の加熱収縮率差とした。
【0141】
(実施例1)
<微細な凸部及び凹部のいずれかを有する転写原盤(ガラスロール原盤)の作製>
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラスロール原盤の表面に以下のようにしてレジスト層を形成した。即ち、シンナーでフォトレジストを質量比で1/10に希釈し、この希釈レジストをディッピング法によりガラスロール原盤の円柱面上に平均厚み70nm程度に塗布することにより、レジスト層を形成した。次に、ガラスロール原盤を、
図4に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジスト層を露光することにより、1つの螺旋状に連なると共に、隣接する3列のトラック間において六方格子パターンをなす潜像がレジスト層にパターニングされた。具体的には、六方格子状の露光パターンが形成されるべき領域に対して、0.50mW/mのレーザー光を照射し六方格子状の露光パターンを形成した。
【0142】
次に、ガラスロール原盤上のレジスト層に現像処理を施して、露光した部分のレジスト層を溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジスト層を現像した。これにより、レジスト層が六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0143】
次に、ロールエッチング装置を用い、CHF
3ガス雰囲気中でのプラズマエッチングを行った。これにより、ガラスロール原盤の表面において、レジスト層から露出している六方格子パターンの部分のみエッチングが進行し、その他の領域はレジスト層がマスクとなりエッチングはされず、楕円錐形状の凹部がガラスロール原盤に形成された。この際、エッチング量(深さ)は、エッチング時間によって調整した。最後に、O
2アッシングにより完全にレジスト層を除去することにより、凹形状の六方格子パターンを有するガラスロール原盤を得た。
【0144】
<親油性積層体の作製>
次に、上述のようにして得られたロール原盤を用いて、UVインプリントにより親油性積層体を作製した。具体的には、以下のようにして行った。
樹脂製基材として、三菱ガス化学株式会社製のDF02U(PMMA/PC積層)(平均厚み125μm)を用いた。
前記樹脂製基材のPMMA表面に、下記組成のアンカー層用紫外線硬化性樹脂組成物を乾燥、硬化後の平均厚みが0.7μmになるように塗布した。
【0145】
−アンカー層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製) 15質量部
・A−9300−1CL(イソシアヌル酸基含有トリアクリレート) 15質量部
(新中村化学工業株式会社製)
・酢酸ブチル 68.8質量部
・イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.6質量部
・イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.6質量部
・KP323(信越化学工業株式会社製) 0.003質量部
【0146】
乾燥後、未硬化のアンカー層に、水銀ランプを用いて、照射量1,000mJ/cm
2で紫外線を照射して、紫外線硬化したアンカー層付樹脂製基材を得た。
【0147】
下記組成の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を、得られる親油性樹脂層の平均厚みが3.2μmとなるように、アンカー層付樹脂製基材のアンカー層上に塗布した。親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物が塗布されたアンカー層付樹脂製基材と、上述のようにして得られたロール原盤とを密着させ、メタルハライドランプを用いて、樹脂製基材側から照射量1,500mJ/cm
2で紫外線を照射して、親油性樹脂層を硬化させた。その後、親油性樹脂層と、ロール原盤とを剥離した。
【0148】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製) 95質量部
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0149】
以上により、親油性樹脂層の表面に微細な凸部を有する親油性積層体を得た。得られた親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図13Aに示す。
図13Aのa−a線に沿った断面図を
図13Bに示す。
図13Cに3次元AFM像を示す。
図13DにSEM像を示す。
【0150】
得られた親油性積層体について、上述の方法により、凸部の平均距離(又は凹部の平均距離)(Pm)、凸部の平均高さ(又は凹部の平均深さ)(Hm)、平均アスペクト比(Hm/Pm)、凸部間距離(Dm)、オレイン酸接触角、オレイン酸接触角変化、マルテンス硬度、鉛筆硬度、伸び率、全光線透過率、ヘイズ、密着性、及び加熱収縮率差を測定した。結果を表2に示す。
【0151】
また、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
<耐指紋性>
親油性積層体を、その評価面(親油性樹脂層表面)が上になるように黒色アクリル板(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリライト)に両面粘着シート(日東電工株式会社製、商品名:LUCIACS CS9621T)を用いて貼合した。次に、評価面に人差し指で指紋を付けて、下記方法に従って、付着指紋の目立ち難さ、指払拭性、ティッシュ払拭性を評価した。
【0152】
<<付着指紋の目立ち難さ>>
親油性樹脂層表面に人差し指で指紋を付着させ、1分間後に蛍光灯を映し込み、目視で表面を観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:指紋が濡れ広がり、指紋が見え難くなっていた。
○:指紋は濡れ広がったが、指紋が付着した領域が視認できた。
×:指紋の濡れ広がりが不十分で、指紋がその模様まではっきり見えた。
【0153】
<<指払拭性>>
親油性樹脂層表面に人差し指で20回指紋を付着させ、これを人差し指で10往復払拭後に蛍光灯を映し込み、目視で表面を観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:指紋汚れがなくなっていた。
○:指紋汚れがわずかに残っていた。
×:指紋汚れがはっきりと残っていた。
【0154】
<<ティッシュ払拭性>
親油性樹脂層表面に人差し指で20回指紋を付着させ、これをティッシュ(大王製紙株式会社製、エリエール)で10回、円を描くように払拭後に、蛍光灯を映し込み、目視で表面を観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:指紋汚れがなくなっていた。
○:指紋汚れがわずかに残っていた。
×:指紋汚れがはっきりと残っていた。
【0155】
<耐久耐指紋性>
ザブィーナMX(KBセーレン株式会社製)にニベアフォーメン UVプロテクター SPF50+ PA+++(ニベア花王株式会社製)をしみ込ませ、親油性樹脂層の表面に置き、荷重75gf/cm
2にて1,000往復摺動(摺動ストローク:3cm、摺動周波数:60Hz)した。親油性樹脂層表面を、エタノールをしみ込ませたキムワイプで洗浄した後、オレイン酸接触角を測定するとともに、下記基準で評価した。
なお、繰り返しの摺動は、指紋の拭き取りを繰り返すことの代替試験である。
〔評価基準〕
A:耐指紋性に変化がなかった。
B:耐指紋性がわずかに低下した。
C:耐指紋性が明らかに低下した。
【0156】
<成形加工>
図12A〜
図12Fに示す方法によりインモールド成形を行い、成形後の親油性樹脂層のオレイン酸接触角、成形前と比較した耐指紋性の低下、マルテンス硬度、及び鉛筆硬度を上記評価方法により評価した。また、成形品の外観を観察し、親油性樹脂層の傷付き、クラック、剥離の有無を評価した。
なお、親油性積層体を加熱する加熱工程における加熱(赤外線加熱)温度は、190℃とし、成形材料としてポリカーボネートを用いた。インモールド成形において、親油性積層体が最も伸びている部位の伸び率は、40%であった。オレイン酸接触角、及び耐指紋性の低下は、親油性積層体において10%伸びている部位で評価した。
【0157】
(実施例2)
実施例1において、ガラスロール原盤を作製する際のレジスト層の露光パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、親油性積層体を作製した。
得られた親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図14Aに示す。
図14Aのa−a線に沿った断面図を
図14Bに示す。
図14Cに3次元AFM像を示す。
図14DにSEM像を示す。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0158】
(実施例3)
実施例1において、ガラスロール原盤を作製する際のレジスト層の露光パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、親油性積層体を作製した。
得られた親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図15Aに示す。
図15Aのa−a線に沿った断面図を
図15Bに示す。
図15Cに3次元AFM像を示す。
図15DにSEM像を示す。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0159】
(実施例4)
実施例1において、ガラスロール原盤を作製する際のレジスト層の露光パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、親油性積層体を作製した。
得られた親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図16Aに示す。
図16Aのa−a線に沿った断面図を
図16Bに示す。
図16Cに3次元AFM像を示す。
図16DにSEM像を示す。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0160】
(実施例5)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
【0161】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・8UX−015A 79.2質量部
(15官能ウレタンアクリレート、大成ファインケミカル株式会社製)
・CN968 15.8質量部
(6官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製)
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0162】
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0163】
(実施例6)
実施例2において、樹脂製基材を樹脂製基材(東洋紡株式会社製、ソフトシャインTA009(平均厚み125μm)、ポリエチレンテレフタレート)に変更し、アンカー層を設けなかった以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
【0164】
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0165】
(実施例7)
<微細な凸部及び凹部のいずれかを有する転写原盤(板状の原盤)の作製>
レーザー加工装置として、
図8に示した装置を用いた。レーザー本体340としては、サイバーレーザー株式会社製のIFRIT(商品名)を用いた。レーザー波長は800nm、繰り返し周波数は1,000Hz、パルス幅は220fsとした。
まず、板状の基材(SUS)の表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)をスパッタリング法により被覆することにより、原盤を作製した。次に、この原盤のDLC膜の表面に対して、前記レーザー加工装置を用いて微細な凹部を形成した。この際、表1に示すレーザー加工条件にてレーザー加工を行った。以上により、形状転写用の板状の原盤を得た。なお、原盤のサイズは、2cm×2cmの矩形状とした。
【0166】
【表1】
【0167】
<親油性積層体の作製>
次に、上述のようにして得られた板状の原盤を用いて、UVインプリントにより親油性積層体を作製した。具体的には、以下のようにして行った。
実施例1の親油性積層体の作製において、ロール原盤を、上述のようにして得られた板状の原盤に代えた以外は、実施例1と同様にして、親油性積層体を作製した。
得られた親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図17Aに示す。
図17Aのa−a線に沿った断面図を
図17Bに示す。
図17Cに3次元AFM像を示す。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0168】
(実施例8〜10)
実施例7において、板状の原盤を作製する際の条件を、表1に示す条件に変更した以外は、実施例7と同様にして、親油性積層体を作製した。
得られた実施例8の親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図18Aに示す。
図18Aのa−a線に沿った断面図を
図18Bに示す。
図18Cに3次元AFM像を示す。
得られた実施例9の親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図19Aに示す。
図19Aのa−a線に沿った断面図を
図19Bに示す。
図19Cに3次元AFM像を示す。
得られた実施例10の親油性積層体の親油性樹脂層の表面のAFM像を
図20Aに示す。
図20Aのa−a線に沿った断面図を
図20Bに示す。
図20Cに3次元AFM像を示す。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0169】
(実施例11)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更し、得られる親油性樹脂層の平均厚みが7.0μmとなるように、アンカー層付樹脂製基材のアンカー層上に塗布した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0170】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・エポキシエステル80MFA 95質量部
(2官能エポキシアクリレート、共栄社化学株式会社製)
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0171】
(実施例12)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更し、得られる親油性樹脂層の平均厚みが1.6μmとなるように、アンカー層付樹脂製基材のアンカー層上に塗布した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0172】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・A−9300 32質量部
(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業株式会社製)
・CN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製) 32質量部
・MPEM−1000 32質量部
(メトキシポリエチレングリコール1000メタクリレート、第一工業製薬株式会社製)
・Lucirin TPO(BASF社製) 4質量部
【0173】
(実施例13)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0174】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製) 77質量部
・A−9300 18質量部
(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業株式会社製)
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0175】
(実施例14)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0176】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製) 32質量部
・CN9008(ウレタンアクリレートオリゴマー、サートマー社製) 32質量部
・SR606A(エステルジオールジアクリレート、サートマー社製) 31質量部
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0177】
(実施例15)
実施例2において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更し、得られる親油性樹脂層の平均厚みが4.0μmとなるように、アンカー層付樹脂製基材のアンカー層上に塗布した以外は、実施例2と同様にして、親油性積層体を作製した。
作製した親油性積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0178】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN9008(ウレタンアクリレートオリゴマー、サートマー社製) 64質量部
・SR606A(エステルジオールジアクリレート、サートマー社製) 31質量部
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
【0179】
(比較例1)
実施例1において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物が塗布されたアンカー層付樹脂製基材にロール原盤を密着させなかった以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0180】
(比較例2)
実施例5において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物が塗布されたアンカー層付樹脂製基材にロール原盤を密着させなかった以外は、実施例5と同様にして、積層体を得た。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0181】
(比較例3)
比較例1において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物を以下の親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物に変更し、これをアンカー層付樹脂製基材に塗布後、溶媒をドライヤーで乾燥させた以外は、比較例1と同様にして、積層体を得た。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0182】
−親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・CN985B88 92.5質量部
(2官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマー社製)
・OD−002(親油系表面改質剤、日産化学工業株式会社製) 2.5質量部
・Lucirin TPO(BASF社製) 5質量部
・メチルイソブチルケトン(溶媒) 100質量部
【0183】
(比較例4)
実施例11において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物が塗布されたアンカー層付樹脂製基材にロール原盤を密着させなかった以外は、実施例11と同様にして、積層体を得た。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0184】
(比較例5)
実施例12において、親油性樹脂層用紫外線硬化性樹脂組成物が塗布されたアンカー層付樹脂製基材にロール原盤を密着させなかった以外は、実施例12と同様にして、積層体を得た。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0185】
(比較例6)
実施例11において、ガラスロール原盤を作製する際のレジスト層の露光パターンを変更した以外は、実施例11と同様にして、積層体を作製した。
作製した積層体について、実施例1と同様の評価を行った。結果を、表2及び表3に示す。
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
実施例1〜15の親油性積層体は、耐指紋性(付着指紋の目立ち難さ、指払拭性、ティッシュ払拭性の全て)が優れていた。また、耐久試験後もオレイン酸接触角が低く、耐指紋性が優れていた。成形加工後においても、オレイン酸接触角が低く、耐指紋性の低下がなく、更に外観(傷つき、クラック、剥離)においても優れていた。実施例1〜6、12〜15では、付着指紋の目立ち難さがより優れていた。
実施例1〜4にて微細な凸部の平均距離及び平均離間距離が広がることにより、オレイン酸接触角は小さくなり、オレイン酸をより効果的に濡れ広げることができた。さらに、耐指紋性が向上した。これは、親油性樹脂層における微細な溝の体積が増え、オレイン酸及び指紋により大きな毛管力が働いたためと考えられる。
なお、マルテンス硬度が200N/mm
2を超える実施例においては、微細な凸部及び凹部のいずれかを有することで、平坦膜と比較して、耐擦傷性が向上する効果が確認された。
【0189】
一方、微細な凸部及び凹部のいずれかを有さない比較例1、2、4、5の積層体は、最表面層に同じ組成の樹脂組成物を用いたにもかかわらず、オレイン酸接触角が実施例1〜15よりも高く、かつ耐指紋性が不十分であった。成形加工後の耐指紋性も不十分であった。
比較例3の結果より、親油系表面改質剤の添加により、平坦膜でありながらオレイン酸接触角を低くし、耐指紋性を向上することができた。しかしながら、耐久試験後、親油系表面改質剤の効果は除かれてしまい、耐指紋性は劣化してしまった。
比較例6の結果より、微細な凸部を有するものの、オレイン酸接触角が11°であると、オレイン酸は効果的に濡れ広がらず、耐指紋性は不十分であった。また、オレイン酸接触角変化は、0.5°と小さかった。