特許第6071725号(P6071725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071725
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】電気自動車の駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-90051(P2013-90051)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-217099(P2014-217099A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】長村 謙介
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−050158(JP,A)
【文献】 特開2007−020244(JP,A)
【文献】 特開2006−223073(JP,A)
【文献】 特開2012−175770(JP,A)
【文献】 特開2013−060175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00−3/12
7/00−13/00
15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車を駆動する駆動モータのモータ回転速度を検出するモータ回転速度検出手段と、
バッテリの最大放電電力を推定するバッテリ最大放電電力推定手段と、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度と前記アクセル開度検出手段で検出したアクセル開度とに基づいて駆動モータの目標トルク基本値を算出する目標トルク基本値算出手段と、
前記バッテリ最大放電電力推定手段で推定した最大放電電力を、前記モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度で除算して、最大放電電力相当モータトルクを演算する最大放電電力相当モータトルク演算手段と、
前記目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値と前記最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクとに基づいて、前記目標トルク基本値の上限を制限して駆動モータの目標トルクとする目標トルク設定手段と、
を備えた電気自動車の駆動力制御装置において、
前記目標トルク設定手段は、前記アクセル開度と前記目標トルクとの関係を表すグラフ上で、前記制限された目標トルクを発生するアクセル開度を、該アクセル開度より大きなアクセル開度側へ移動し、前記制限された目標トルクを発生するアクセル開度より小さいアクセル開度領域では前記目標トルク基本値より小さい目標トルクとなるように、前記目標トルク基本値を補正する目標トルク基本値補正手段を有する、
ことを特徴とする電気自動車の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気自動車の駆動力制御装置において、
前記制限された目標トルクを発生するアクセル開度の移動先を、フルアクセル開度位置とした、
ことを特徴とする電気自動車の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気自動車の駆動力制御装置において、
前記目標トルク基本値補正手段は、
前記モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度に基づいて前記駆動モータで発生可能な最大モータトルクを算出する最大モータトルク算出手段と、
該最大モータトルク算出手段で算出した最大モータトルクで、前記最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクを除算してトルク比を得、該トルク比の上限を1以下に抑えた補正係数を演算する補正係数演算手段と、
を備え、
該補正係数演算手段で演算した補正係数を、前記目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値に乗算して目標トルクを得る、
ことを特徴とする電気自動車の駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電気自動車の駆動力制御装置において、
前記目標トルク基本値補正手段は、
前記モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度に基づいて前記駆動モータで発生可能な最大モータトルクを算出する最大モータトルク算出手段と、
該最大モータトルク算出手段で算出した最大モータトルクで、前記最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクを除算してトルク比を得、該トルク比に1より大きい近傍値を乗算して得た値の上限を1以下に抑えた補正係数を演算する補正係数演算手段と、
を備え、
該補正係数演算手段で演算した補正係数を、前記目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値に乗算した値と前記最大放電電力相当モータトルクとのうちの小さい値の方を目標トルクとする、
ことを特徴とする電気自動車の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの最大放電電力を考慮して出力トルクを制限するようにした電気自動車の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気自動車の駆動力制御装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。
この従来の電気自動車の駆動力制御装置は、進歩セルモデル予測技術を用いてバッテリパックの最大放電電力を推定し、この推定値にもとに駆動モータの最大出力を制限するようにしている。
最大放電電力の推定にあっては、バッテリの電圧限度および放電状態限度に基づいてバッテリの最大放電電流を計算し、このバッテリの電流限度に基づいてバッテリの最大放電電流を計算する。最大放電電圧は、電圧限度に基づいて計算された最大放電電流、放電状態限度に基づいて計算された最大放電電流および電流限度に基づいて計算された上記最大放電電流から選ばれた放電電流の最小値から計算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−517190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の電気自動車の駆動力制御装置には、以下に説明するような問題がある。
上記従来技術の駆動制御装置の構成を、ブロック図で表すと、図5に示すようになる。
すなわち、最大放電電力演算部101で計算された最大放電電力と、モータ回転速度検出部102で検出された駆動モータの回転速度とは、除算器104に入力されて前者が後者で除算されて、最大放電電力相当モータトルクが算出される。この最大放電電力相当モータトルクは、セレクトロー部106に入力される。
【0005】
一方、モータ回転速度センサ102で検出された駆動モータの回転速度と、アクセル開度検出部103で検出されたアクセル開度とは、目標モータトルク算出部105に入力される。
目標モータトルク算出部105は、駆動モータ回転速度と目標モータトルクとの関係をアクセル開度の大きさに応じて設定したデータマップを有しており、アクセル開度および駆動モータの回転速度に応じて目標モータトルクを決定し、この目標モータトルクをトルク基本値とする。この値は、セレクトロー部106に入力される。
【0006】
セレクトロー部106では、除算器104から入力された最大放電電力相当モータトルクと目標モータトルク算出部105から入力された目標トルク基本値とのうち、小さい方を選択して駆動モータの目標トルクとして出力する。
【0007】
したがって、その駆動モータ回転速度と目標モータトルクとアクセル開度との関係は、たとえば図6(a)に示すようになる。同図において、一点鎖線は最大放電電力を表すラインを示す。
すなわち、最大放電電力ラインより上方にある部分では、目標トルク基本値が最大放電電力相当モータトルクより大きくなるため、セレクトロー部104にて目標トルク基本値が最大放電電力相当モータトルクの大きさに制限されてしまうことを意味している。逆に下方であれば、目標トルク基本値がそのまま目標トルクとなる。
【0008】
言い換えれば、駆動モータがある回転速度(図6(a)中に縦方向の点線で示す)で回転しているとすると、この回転速度線と最大放電電力ラインとの交点(○で示す)でのアクセル開度が上記目標トルクの選択での分岐点になる。
したがって、上記回転速度にあっては、駆動モータはアクセル開度の大きさに目標モータトルクは変わるが、○で示す交差点でのアクセル開度以下のアクセル開度での目標モータトルク基本値は、T5、T4、T3などの大きさとなって、これらはそのまま目標トルクとなるが、○で示す交差点でのアクセル開度より大きいアクセル開度では、目標モータトルク基本値がT2、T1などとなっても、目標トルクT3に抑えられることになる。
なお、ある回転速度の線と代表的な各アクセル開度での目標トルクを表す線との交点は、●で表してあり、図6(a)の各交点は、以下で説明する図6(b)の交点に一致する。
【0009】
この結果、図6(b)に示すように、アクセル開度が○で示す上記アクセル開度より小さいときは、目標トルクが目標トルク基本値と同じ値であって、アクセル開度が増えて行くにしたがって目標トルクも増加していく。
ところが、アクセル開度が上記○で示すアクセル開度(図6では、4/8開度と5/8開度の間)以上となると、目標トルクはT3に制限されてしまい、アクセル開度のさらなる増大に応じて目標トルク基本値が増大して行っても、目標トルクはT3で飽和したままで増加しないことになる。
【0010】
したがって、加速時等に、アクセルペダルを半分強の踏み込み量分踏み込むと、この時点で目標トルク基本値が最大電力相当モータトルクに到達してしまい、目標トルクとしては最大放電電力相当トルクが選択されて出力が制限されてしまうことになる。このため、ドライバがさらにアクセルペダルを踏み増ししても、実際に発生するトルクはもはや増大しない。
この結果、ドライバの意思が実際のトルクに反映されず、運転性が悪化し、このためドライバに違和感を生じさせてしまうといった問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、ドライバのアクセルペダル操作と駆動モータが実際に発生する出力トルクとの間に違和感が生じるのを減じるようにした電気自動車の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため本発明による電気自動車の駆動力制御装置は、
電気自動車を駆動する駆動モータのモータ回転速度を検出するモータ回転速度検出手段と、
バッテリの最大放電電力を推定するバッテリ最大放電電力推定手段と、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度とアクセル開度検出手段で検出したアクセル開度とに基づいて駆動モータの目標トルク基本値を算出する目標トルク基本値算出手段と、
バッテリ最大放電電力推定手段で推定した最大放電電力を、モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度で除算して、最大放電電力相当モータトルクを演算する最大放電電力相当モータトルク演算手段と、
目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値と最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクとに基づいて、目標トルク基本値の上限を制限して駆動モータの目標トルクとする目標トルク設定手段と、
を備えた電気自動車の駆動力制御装置において、
目標トルク設定手段は、アクセル開度と目標トルクとの関係を表すグラフ上で、制限された目標トルクを発生するアクセル開度を、このアクセル開度より大きなアクセル開度側へ移動し、制限された目標トルクを発生するアクセル開度より小さいアクセル開度領域では目標トルク基本値より小さい目標トルクとなるように、目標トルク基本値を補正する目標トルク基本値補正手段を有している、
ことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、制限された目標トルクを発生するアクセル開度の移動先を、フルアクセル開度位置とした、
ことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、制限された目標トルクを発生するアクセル開度の移動先を、フルアクセル開度位置としたことを特徴とする。
【0015】
また、好ましくは、目標トルク基本値補正手段は、
モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度に基づいて駆動モータで発生可能な最大モータトルクを算出する最大モータトルク算出手段と、
最大モータトルク算出手段で算出した最大モータトルクで、最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクを除算してトルク比を得、このトルク比に1より大きい近傍値を乗算して得た値の上限を1以下に抑えた補正係数を演算する補正係数演算手段と、
を備え、
補正係数演算手段で演算した補正係数を、目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値に乗算した値と最大放電電力相当モータトルクとのうちの小さい値の方を目標トルクとする、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気自動車の駆動力制御装置にあっては、目標トルク基本値補正手段により目標トルク基本値の上限が制限されるアクセル開度を大きいアクセル開度側へ移動させることで、アクセル開度を増大させていく場合、フルアクセル開度あるいはこの近傍まで目標トルク、したがって駆動モータが発生する出力トルクを増大させていくことが可能となり、この結果、ドライバのアクセルペダル操作と駆動モータが実際に発生する出力トルクとの間に違和感が生じるのを減じることができる。
【0017】
また、制限された目標トルクを発生するアクセル開度の移動先を、フルアクセル開度位置としたので、フルアクセル開度まで駆動モータの出力トルクが飽和することなく増大し続けるようにすることができ、良好な運転性を得ることができるようになる。
【0018】
また、目標トルク基本値補正手段が、モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度に基づいて駆動モータで発生可能な最大モータトルクを算出する最大モータトルク算出手段と、最大モータトルク算出手段で算出した最大モータトルクで、最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクを除算してトルク比を得、このトルク比に1より大きい近傍値を乗算して得た値の上限を1以下に抑えた補正係数を演算する補正係数演算手段と、を備え、補正係数演算手段で演算した補正係数を、目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値に乗算して目標トルクを得るようにしたので、簡単な構成で、アクセル開度の増大に応じて駆動モータの出力トルクの自然な増大を得ることができる。
【0019】
また、目標トルク基本値補正手段が、モータ回転速度検出手段で検出したモータ回転速度に基づいて駆動モータで発生可能な最大モータトルクを算出する最大モータトルク算出手段と、最大モータトルク算出手段で算出した最大モータトルクで、最大放電電力相当モータトルク演算手段で演算した最大放電電力相当モータトルクを除算してトルク比を得、このトルク比に1より大きい近傍値を乗算して得た値の上限を1以下に抑えた補正係数を演算する補正係数演算手段と、を備え、補正係数演算手段で演算した補正係数を、目標トルク基本値算出手段で算出した目標トルク基本値に乗算した値と最大放電電力相当モータトルクとのうちの小さい値の方を目標トルクとするようにしたので、簡単な構成で、アクセル開度の増大に応じて駆動モータの出力トルクが増大するようにできる。この場合、フルアクセル開度近傍では、駆動モータの出力トルクの飽和が見られるものの、違和感はないかほとんどないに等しい上、低、中アクセル開度領域にあっても駆動モータの出力トルクをより大きくすることが可能となり、良好な運転性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1に係る電気自動車の駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】(a)は実施例1の電気自動車の駆動力制御装置での駆動モータ回転速度と目標モータトルクとの関係を示す図、(b)はそのアクセル開度と目標モータトルクとの関係を示す図である。
図3】本発明の実施例2に係る電気自動車の駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】(a)は実施例2の電気自動車の駆動力制御装置での駆動モータ回転速度と目標モータトルクとの関係を示す図、(b)はそのアクセル開度と目標モータトルクとの関係を示す図である。
図5】従来技術による電気自動車の駆動力制御装置の構成を示すブロック図である。
図6】(a)は図5の従来の電気自動車の駆動力制御装置での駆動モータ回転速度と目標モータトルクとの関係を示す図、(b)はそのアクセル開度と目標モータトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
なお、全実施例において実質的に同じ部分については、同じ番号を付し、それらの説明は省略する。
【実施例1】
【0022】
まず、実施例1の電気自動車の駆動力制御装置の全体構成を説明する。
図1に示すように、実施例1の電気自動車の駆動力制御装置は、最大放電電力演算部1と、モータ回転速度検出部2と、アクセル開度検出部3と、除算部4と、最大モータトルク算出部5と、目標モータトルク算出部6と、補正係数演算部7と、乗算部8と、を備えている。
【0023】
最大放電電力演算部1は、図示しない車載のバッテリの最大放電電力を演算するもので、例えば上記で挙げた従来技術と同様に演算を行うものである。ここで演算して得られた最大放電電力は、除算部4に入力される。
なお、最大放電電力演算部1は、本発明のバッテリ最大放電電力推定手段に相当する。
【0024】
モータ回転速度検出部2は、車載されて電気自動車を駆動走行させる駆動モータ(図示せず)の回転速度を検出するもので、ここで検出された駆動モータの回転速度は、除算器4と最大モータトルク算出部5と目標モータトルク算出部6とにそれぞれ入力される。
なお、モータ回転速度検出部2は、本発明のモータ回転速度検出手段に相当する。
【0025】
アクセル開度検出部3は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度を検出するもので、ここで検出されたアクセル開度は、目標モータトルク算出部6に入力される。
なお、アクセル開度検出部3は、本発明のアクセル開度検出手段に相当する。
【0026】
除算部4は、最大放電電力演算部1から入力された最大放電電力を、モータ回転速度検出部2から入力された駆動モータの回転速度で除算して最大放電電力相当モータトルクを得、これを補正係数演算部7に入力する。
なお、除算部4は、本発明の最大放電電力相当モータトルク演算手段に相当する。
【0027】
最大モータトルク算出部5は、駆動モータの回転速度とこの回転速度で駆動モータが発生可能な最大モータトルクとの関係のデータをマップで記憶しており、モータ回転速度検出部2で検出された駆動モータの回転速度に対応する最大モータトルクを得、これを補正係数演算部7に入力する。
なお、最大モータトルク算出部5は、本発明の最大モータトルク算出部手段に相当する。
【0028】
目標モータトルク算出部6は、駆動モータの回転速度と目標モータトルクとの関係データをマップで記憶しており、モータ回転速度検出部2で検出された駆動モータの回転速度およびアクセル開度検出部3で検出されたアクセル開度に対応する目標モータトルクを得、これを目標トルク基本値として乗算器8に入力する。
なお、 目標モータトルク算出部6は、本発明の 目標トルク基本値算出手段に相当する。
【0029】
補正係数演算部7は、除算器7aとリミッタ7bとを有している。除算器7aは、除算器4から入力された最大放電電力相当モータトルクを、最大モータトルク算出部5で算出した最大モータトルクで除算して、トルク比を得、これをリミッタ7bに入力する。
リミッタ7bは、除算器7aで演算したトルク比が1以下である場合は、そのまま出力し、トルク比が1より大きい場合にはすべて1として出力する。すなわち、リミッタ7bからは、上限値を1で抑えられたトルク比が補正係数として出力されて、乗算器8に入力される。
なお、補正係数演算部7は、本発明の補正係数演算手段に相当する。
【0030】
乗算器8は、目標モータトルク算出部6で算出された目標トルク基本値に、補正係数演算部7で演算された補正係数を乗算して目標トルクを得る。この目標トルクは、図示しないモータ制御部に入力されて、この目標トルクを発生するように駆動モータが制御される。
なお、最大モータトルク算出部5、乗算器、8および補正係数演算部7は、本発明の目標トルク設定手段、および目標トルク基本値補正手段に相当する。
【0031】
ここで、上記のように構成された駆動力制御装置では、目標トルクは図2に示すようして決定される。
すなわち、図2(a)は、図6(a)の場合と同じであり、同図に示すように、ある駆動モータ回転速度にあっては、○で示す制限アクセル開度(4/8と5/8との間、すなわち半分強の開度)以上の領域では目標トルク基本値が最大放電電力相当モータトルク以上の大きさとなる。
しかしながら、実施例1の駆動力制御装置では、補正係数演算部7が、最大モータトルクで最大放電電力相当モータトルクを除算し、さらにこの値の上限値が1以下に抑えられるようにした補正係数を演算し、この補正係数を乗算器8が目標トルク基本値に乗算するようにして、制限されるアクセル開度がより大きな開度となるように補正している。
【0032】
この結果、図2(b)に示すように、アクセル開度に対する目標トルクは、目標トルク基本値に補正係数を乗算した分だけ全体にわたって目標トルク基本値より小さな値となり、かつ最大アクセル開度であるフルアクセル開度(8/8開度)の位置で目標トルクが最大放電電力相当モータトルクに一致するようになる。
これにより、全領域にわたって目標トルク基本値が制限されることがなくなり、ドライバがアクセル開度を踏みまして行くにしたがって駆動モータが発生する実際の駆動トルクもフルアクセル開度まで順次増大していくので、アクセルペダルの踏み込み量に対する駆動モータの発生トルクについて違和感を生じることがなくなる。
【0033】
以上、説明したように、実施例1の電気自動車の駆動力制御装置にあっては、ドライバのアクセルペダル操作と駆動モータが実際に発生する出力トルクとの間に違和感が生じるのを減じることができる。
しかも、補正係数を目標トルク基本値に乗算するといった簡単な構成で、アクセル開度全体にわたって、駆動モータで発生する出力トルクがアクセル開度の増大に応じて自然に増大していくようにすることができるようになる。
【実施例2】
【0034】
本発明に係る実施例2の電気自動車の駆動力制御装置は、図3に示すように、補正係数演算手段9の構成、およびセレクトロー部10が新たに追加される点が、実施例1と異なる。
なお、セレクトロー部10は、本発明の目標トルク基本値補正手段に相当する。
【0035】
すなわち、補正係数演算手段9は、除算器9aと、係数乗算器9bと、リミッタ9cとを有している。
除算器9aは、実施例1の除算器7aの場合と同様に、除算器4から入力された最大放電電力相当モータトルクを、最大モータトルク算出部5で算出した最大モータトルクで除算して、トルク比を得、これを係数乗算器9bに入力する。
係数乗算器9bは、除算器9aで得たトルク比に係数1.1を乗算し、補正トルク比を得、これをリミッタ9cに入力する。ここで、係数の値は、1より大きいが1の近傍値であるように設定する。すなわち、1から大きくかけ離れた値に設定すると、従来技術と変わらなくなるので、これを避ける値とする。
リミッタ9cは、係数乗算器9bで演算した補正トルク比が1以下である場合は、そのまま出力し、実施例1のリミッタ7bの場合と同様に、係数を乗算されたトルク比が1以上となる場合には、すべて1として出力する。すなわち、リミッタ9cからは、上限値を1で抑えられた補正係数が出力されて、乗算器8に入力される。
【0036】
乗算器8は、実施例1の場合と同様に、目標モータトルク算出部6から入力された目標トルク基本値に、補正係数演算手段9で得られた補正係数を乗算して目標トルク補正値を得、これをセレクトロー部10に入力する。
【0037】
セレクトロー部10は、除算器4から入力された最大放電電力相当モータトルクと乗算器8から入力された目標トルク補正値とのうち小さな値の方を目標トルクとして出力する。この目標トルクは、図示しないモータ制御部に入力されて、この目標トルクを発生するように駆動モータが制御される。
なお、その他の構成は、実施例1のものと同じである。
【0038】
ここで、上記のように構成された駆動力制御装置では、目標トルクは図4に示すようして決定される。
すなわち、図4(a)は、図2(a)と同じであり、アクセル開度ごとの駆動モータ回転速度と目標モータトルクとの関係、およびある駆動モータ回転速度上での目標モータトルクを表している。
実施例2では、図4(b)に示すように、フルアクセル開度近くの手前(実施例2では、7/8開度の少し手前)側より大きいアクセル開度の領域では目標トルクが制限されて飽和するが、この目標トルク基本値が制限されるアクセル開度は、従来技術でのアクセル開度(従来技術では、4/8開度強以上の領域で制限され、飽和した状態となる)より大きい。このように出力トルクはフルアクセル開度より手前で制限されるものの、フルアクセル開度に近いので、ドライバにとって違和感はないか、あるいは非常に少なくなる。
【0039】
一方、上記アクセル開度より小さいアクセル開度の領域では、アクセル開度の増大に応じて目標トルクも順次増大していく。
この場合、補正係数演算部9では、トルク比に1より大きい係数を乗算するようにしているので、アクセル開度が低、中開度においては、トルク基本値を補正した値と目標トルクとの乖離を少なくでき(すなわち、この低、中開度における目標トルクは実施例1の場合より大きくなる)、低、中開度における運転性を改善する。
【0040】
以上、説明したように、実施例2の電気自動車の駆動力制御装置にあっては、実施例1と同様の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
すなわち、アクセル開度の低、中開度における運転性を改善しながら、ドライバの違和感を減少させることができる。
【0041】
以上、本発明を上記実施例に基づき説明してきたが、本発明は上記実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 最大放電電力演算部(バッテリ最大放電電力推定手段)
2 モータ回転速度検出部(モータ回転速度検出手段)
3 アクセル開度検出部(アクセル開度検出手段)
4 除算部(最大放電電力相当モータトルク演算手段)
5 最大モータトルク算出部(最大モータトルク算出手段、目標トルク基本値補正手段)
6 目標モータトルク算出部(目標トルク基本値算出手段)
7 補正係数演算部(補正係数演算手段、目標トルク基本値補正手段)
7a 除算部(補正係数演算手段)
7b リミッタ(補正係数演算手段)
8 乗算部(目標トルク設定手段、目標トルク基本値補正手段)
9 補正係数演算部(補正係数演算手段、目標トルク基本値補正手段)
9a 除算部(補正係数演算手段)
9b 係数乗算部(補正係数演算手段)
9c リミッタ(補正係数演算手段)
10 セレクトロー部(目標トルク基本値補正手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6