(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
本発明に係る実施例1のカーボンナノチューブシートの製造方法について、
図1を用いて、詳細に説明する。
【0015】
一般に、カーボンナノチューブシートはカーボンを主材料とすることから、熱伝導性を利用した伝熱材料、電磁波吸収性を利用した電磁波吸収材料、及び導電性を利用した導電材料、又はそれらの複合性能を有する材料等として種々の用途に活用できることが知られている。また、微細構造を活かしたガス選択透過膜やセンサとしての利用も検討されている。
【0016】
本実施例のカーボンナノチューブの製造方法は、垂直配向性を有するカーボンナノチューブ層を用いたカーボンナノチューブシートの製造方法であって、
図1(a)に示すように、化学気相成長法により基板1上にカーボンナノチューブ2を垂直に配向させて形成する際に原料ガス3とともに酸素4を供給するカーボンナノチューブ層形成工程と、
図1(b)に示すように、カーボンナノチューブ層5の先端部を、鏡面研磨された金属製シート6を介してプレスローラ28により押圧することによって、膜状にする膜状工程とを備える。また、
図1(c)に示すように、膜状工程の後に、膜状工程により膜状にされたカーボンナノチューブ層5が形成された基板1(以下、便宜上、これを基板1aと称する。)と、カーボンナノチューブ層形成工程により形成されたカーボンナノチューブ層5を有する他の基板1bとを、カーボンナノチューブ層5を向かい合わせて基板1b側からゴム製のプレスローラ29aを用いて押圧することによって、2つのカーボンナノチューブ層5を一体化して膜状にする一体化膜形成工程を備える。さらに、
図1(d)に示すように、一体化膜形成工程の後、膜状にされたカーボンナノチューブ層5を基板1(1a,1b)から剥離し、カーボンナノチューブシート9を得る回収工程を有する。
【0017】
本実施例において、カーボンナノチューブ層形成工程は、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition method:CVD法)を用いて行われる。CVD法は、一般に、基板1に触媒7を担持させて、所望の層の成分を含む原料ガス3を不活性のキャリアガスとともに供給し、基板1の表面あるいは気相での化学反応によりカーボンナノチューブ2を基板1に生成する方法である。このCVD法によって、垂直配向性を有するカーボンナノチューブ層5をおよそ400μmの厚みとなるように形成する。ここで、本発明において、「カーボンナノチューブ層5」とは、基板1に形成された複数のカーボンナノチューブ2を指す。なお、本実施例においては、基板1及び原料ガス3を加熱する熱化学気相成長法(熱CVD法)を用いている。
【0018】
なお、基板1としては、金属板(金属箔)、シリコンプレートなどの公知のものから適宜選択されればよいが、本実施例では、金属板(ここでは、薄いステンレス鋼板)が用いられる。また、触媒7としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、コバルト(Co)などの公知のものから適宜選択されればよいが、本実施例では、鉄が用いられる。
【0019】
そして、本実施例においては、
図1(a)に示すように、まず原料ガス3及びキャリアガス(図示せず)とともに、酸素4を供給する。このとき、酸素4は酸化剤として機能するため、基板1とカーボンナノチューブ2との境界部分を酸化し、基板1とカーボンナノチューブ2との接着を弱めることができる。また、これと同時に、触媒7と反応しなかった原料ガス3がカーボンナノチューブ2の表面にアモルファスカーボンとなって付着することを抑制することができる。
【0020】
なお、原料ガス3としては、例えば、アセチレンガス(C
2H
2)、メタンガス(CH
4)、若しくはこれらのガスに不活性ガスである窒素ガス(N)が混合されたもの、又はヘリウムガス(He)若しくは窒素ガス(N)などの不活性ガス(キャリアガス)にメタノール(CH
4O)やエタノール(CH
3CH
2OH)などのアルコール類が希釈された混合ガスが用いられる。本実施例においては、アセチレンガスを用いている。
【0021】
また、酸素4の供給量としては、原料ガス3の量に対して微量、具体的にはppmのオーダーであればよい。
次に、膜状工程において、
図1(b)に示すように、上述の方法にて基板1上に形成されたカーボンナノチューブ層5の先端部を、表面を鏡面研磨された金属製シート6を介して基板1に近づく方向に押圧する。具体的には、基板1上に形成された400μmの厚みのカーボンナノチューブ層5に、鏡面研磨された金属製シート6を載せ、さらに金属製シート6の上に厚さ1mmのシリコンゴムシート8を載せて、5MPaの圧力でロールプレスにより押圧する。カーボンナノチューブ2の先端部に金属製シート6を配置して押圧することにより、プレスロール28とカーボンナノチューブ2の先端部とが接着されることを抑制することができる。また、シリコンゴムシート8を介してプレスロール28により押圧することによって、シリコンゴムシート8が弾性変形をするため均一に加圧することができる。したがって、カーボンナノチューブ層5をより厚みの均一な膜状にすることができる。
【0022】
ここで、圧力の大きさについては、一辺が50mmの基板1に対して2MPa以上の大きさであることが良い。また、押圧時には、鏡面研磨された金属製シート6の代わりにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シートを用いてもよい。このとき、膜状工程により膜状にされたカーボンナノチューブ層5の厚みは30μmであり、これは膜状工程を行う前のカーボンナノチューブ層5の厚みの約0.075倍である。
【0023】
膜状工程の後に、
図1(c)に示すように、膜状工程により膜状にされたカーボンナノチューブ層5を有する基板1aと、カーボンナノチューブ層形成工程により形成されたカーボンナノチューブ層5を有する他の基板1bとを、カーボンナノチューブ層5を向かい合わせて少なくとも一方の基板側(本実施例においては基板1b側)からゴム製のプレスロール29aにより押圧することによって、2つのカーボンナノチューブ層5を一体化して膜状にする一体化膜形成工程を行う。なお、この一体化膜形成工程により、第2基板1b上のカーボンナノチューブ層5は、自然に第2基板1bから剥離され、第1基板1aのカーボンナノチューブ層5と一体化する。ここで、押圧の際にゴム製のプレスロール29aを用いることによって、プレスロール29aの表面が弾性変形するため、カーボンナノチューブ層5を均一に加圧することができる。
【0024】
一体化膜形成工程の後、
図1(d)に示すように、膜状にされたカーボンナノチューブ層5を基板1(1a,1b)から剥離し、カーボンナノチューブシート9を得る回収工程を行う。
【0025】
一体化膜形成工程を行うことによって、カーボンナノチューブ層5の厚みすなわち形成されたカーボンナノチューブシート9の厚みをより大きくすることができる。
また、この一体化膜形成工程を複数回繰り返し行うことにより、比較的大きな厚みのカーボンナノチューブシート9を形成することができる。
【0026】
さらに、一体化膜形成工程において、2つのカーボンナノチューブ層5には互いに厚みが異なるものを用いることにより、1つのカーボンナノチューブシート9における空隙率を部分的に異ならせることができる。したがって、例えばカーボンナノチューブシート9をガス透過膜として用いる場合に、1つのカーボンナノチューブシート9において、ガス透過率を異ならせることができる。
【0027】
ここで、一般的に基板上に形成されたカーボンナノチューブ層を、電極や伝熱部材として利用する場合、カーボンナノチューブ層を基板から別の支持体に移し替える工程、又はカーボンナノチューブ層を基板から剥離して樹脂やバインダ等により固定する工程が必要となる。したがって、製造工程が簡略化されたカーボンナノチューブの製造方法、及び扱いやすいカーボンナノチューブシートが求められる。
【0028】
これに対して、本実施例に係るカーボンナノチューブシートの製造方法によれば、CVD法により形成される際に、原料ガス3とともに酸素4を供給することにより、基板1とカーボンナノチューブ2との接着を弱めるとともに、アモルファスカーボンの生成を抑制し、膜状工程におけるカーボンナノチューブ2同士を絡めやすくして、支持体、樹脂及びバインダによる固定を要しない自立型のカーボンナノチューブシート9を製造することができる。
【0029】
以下、本実施例に係る製造方法により製造されたカーボンナノチューブシート9について
図2及び
図3を用いて説明する。カーボンナノチューブシート9は、端的に述べれば、CVD法により基板1上に形成した垂直配向性のカーボンナノチューブ層5の先端部を、鏡面研磨された金属製シート6を介して押圧することによって、カーボンナノチューブ層5を膜状にしたものであり、CVD法によるカーボンナノチューブ層5の形成の際に、原料ガス3とともに酸素4を供給することにより得られる。
【0030】
このカーボンナノチューブシート9の断面を、走査型電子顕微鏡により、加速電圧20.0kV、倍率3500倍で撮影したものを
図2に示す。
図2から、本実施例に係るカーボンナノチューブシート9は、膜状にされたカーボンナノチューブ層5を基板1から剥離した状態で自立し得る、自立型のカーボンナノチューブシートであることが確認できる。具体的には、
図3(a)及び
図3(c)に示すように、カーボンナノチューブシート9の上部(X部分)及び下部(Z部分)はカーボンナノチューブ2が傾いているが、
図3(b)に示すように、少なくともカーボンナノチューブシート9の中間部(Y部分)についてはカーボンナノチューブ2が互いに絡まっていることが確認できる。このように、カーボンナノチューブ2同士の絡まりとファンデルワールス力による結合とによって、カーボンナノチューブシート9は、樹脂やバインダ等を用いなくとも、自立している。
【0031】
ここで、例えば、一般的なカーボンナノチューブ層を放熱部材に適用する場合を考えると、樹脂に含浸させて個々のカーボンナノチューブを固定する必要があり、このときカーボンナノチューブの端部を樹脂から露出させなければ、性能を十分に発揮することができない。これに対して、本発明に係る自立型のカーボンナノチューブシート9は、基板1から剥離して、対象部材に接着性の樹脂(接着剤)にて直接接着し得るので、より確実にカーボンナノチューブ2の端部と対象部材とを接合することが可能で、より良好な放熱部材として用いることができる。
【0032】
また、一般的なカーボンナノチューブ層を、燃料電池、キャパシタやリチウムイオン電池等の電極として利用する場合、可能な限り高密度なカーボンナノチューブ層であることが望ましい。これに対して、本実施例に係るカーボンナノチューブシート9では、カーボンナノチューブ2同士が絡まることにより、本数密度を変化させずとも見かけ密度が大きくなる。したがって、本実施例に係るカーボンナノチューブシート9は、上述の各種電極としてもそれ自体で十分に高性能なものとして用いることができる。
【0033】
以下、本実施例に係るカーボンナノチューブシート9の製造装置について、
図4を用いて説明する。なお、本実施例に係るカーボンナノチューブシート9の製造装置は、帯状の第1基板1aに形成されたカーボンナノチューブシート9を連続的に得るための連続式製造装置に用いられたものとして説明する。本発明において、「連続式」とは、例えば、コンベヤ式やロール・トゥ・ロール方式のように、第1基板1aを介して垂直配向性カーボンナノチューブ2を所定方向に移動させながら各製造工程を順次行う方式を指す。本実施例においては、第1基板1aが水平方向に移動される場合を例にして説明する。なお、本明細書において、「所定方向」とは、第1基板1aの移動方向が予め規定されていることを意味するにすぎず、水平方向に限定されるものではない。
【0034】
この製造装置には、
図4に示すように、カーボンナノチューブシート9を形成するための細長い処理用空間部が設けられて成る真空チャンバー20が具備されており、処理用空間部は、所定間隔おきに配置された区画壁21により、複数の例えば7つの部屋に区画されている。
図4において左から順に4つの部屋がカーボンナノチューブ層形成工程に用いられるものであり、次の1つの部屋がカーボンナノチューブ膜状工程を行う膜状室であり、その次の1つの部屋が一体化膜形成室であり、最後の1つの部屋が回収工程に用いられる回収室である。また、第1基板1aは、第1基板供給室24の第1巻出しロール24から回収室30の第1基板巻取りロール30bへ向かって水平方向に移動される。そして、各区画壁21には、第1基板1aが通過可能で水平方向のスリット22が設けられている。
【0035】
具体的には、第1基板1aは移動経路に沿って、予め金属粒子等の触媒7が塗布されたステンレス鋼板(第1基板1a)が巻かれた第1巻出しロール24aが配置された第1基板供給室24と、第1基板1を導き、第1基板1a上の触媒7を微粒化する前処理室25と、微粒化された触媒7が付された第1基板1aを導き、その表面にカーボンナノチューブ2を層状に形成する形成室26とが具備され、形成室26によりカーボンナノチューブ層5が形成された第1基板1aを導き、カーボンナノチューブ層5に冷却などの処理を行う後処理室27が具備される。これらは、カーボンナノチューブ層形成工程に用いられる。そして、第1基板1aの移動経路に沿って、形成室26にて形成されたカーボンナノチューブ層5を有する第1基板1aを導き、カーボンナノチューブ層5を押圧するプレスローラ28a及び第1基板1aを支持するプレス台28bが配置された膜状室28と、膜状室28にて膜状にされたカーボンナノチューブ層5を有する第1基板1aを導き、他の第2基板1bのカーボンナノチューブ層5とを重ねて押圧するプレスローラ29a及び第1基板1aを支持するプレス台29bが配置された、2つのカーボンナノチューブ層5を一体化して膜状にする一体化膜形成室29と、カーボンナノチューブシート9を巻き取る回収ロール30a及びカーボンナノチューブ層5が剥離された第1基板1aを回収する第1基板巻取りロール30bが配置された回収室30が具備される。
【0036】
第1基板1aの表面には、上述のように予め触媒7として鉄粒子が塗布される。なお、第1基板1aの表面に触媒7を塗布する前に、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)などの保護膜(金属酸化膜)が形成されても構わない。
【0037】
前処理室25では、前処理として、第1基板1aに塗布された触媒7が微粒化される。具体的には、
図4に示すように、前処理室25内の第1基板1aの上方に配置されて第1基板1aの表面に触媒微粒化ガス25aを供給するための箱状の触媒微粒化ガス供給ノズル25bと、この触媒微粒化ガス供給ノズル25bに触媒微粒化ガス供給管25cを介して触媒微粒化ガス25aを供給する触媒微粒化ガス供給源25d(ガスボンベなど)と、前処理室25内の第1基板1aの下方に配置されて第1基板1aを加熱するための複数の棒状発熱体25e及びその発熱用電源(図示せず)とから構成されている。触媒微粒化ガスとしては、水素ガスに不活性ガス(例えば窒素)を混合したものや、アセチレンガスが用いられる。
【0038】
また、形成室26には、
図4に示すように、第1基板1aの表面に垂直配向性の多数のカーボンナノチューブ2を、層状に生成するためのアセチレンガスなどの原料ガス3及び酸素4から成る反応ガスを供給するための箱状の反応ガス供給ノズル26aと、この反応ガス供給ノズル26aに反応ガス供給管26bを介して原料ガス3を供給する原料ガス供給源26c(ガスボンベなど)と、この反応ガスノズル26aに反応ガス供給管26bを介して酸素4を供給する酸素供給源26dと、この反応ガス供給ノズル26aの上方に配置されて、反応ガス供給ノズル26a内の反応ガスを加熱するための複数の棒状発熱体26e及びその発熱用電源(図示せず)から成る反応ガス用加熱手段と第1基板1aの下方に配置されて第1基板1aを加熱するための複数の棒状発熱体26e及びその発熱用電源(図示せず)から成る基板用加熱手段とから構成されている。
【0039】
後処理室27には、形成室26にて加熱された第1基板1a及びカーボンナノチューブ2を冷却する構成(図示せず)を具備しても構わない。
次に、本実施例に係る製造装置の要旨である膜状室28、一体化膜形成室29及び回収室30について説明する。
【0040】
膜状室28において、第1基板1aの上方に配置されて第1基板1a上のカーボンナノチューブ層5の先端部を押圧するプレスローラ28aと、第1基板1aの下方に配置されて第1基板1aを支持するプレス台28bとを備える。プレスローラ28aとプレスローラ28aよりも径の小さい2つの補助ローラ28c,28cとが各頂点として三角形状に配置される。プレスローラ28a及び補助ローラ28c,28cには、シリコンゴムシート8を無端状にしたベルトに鏡面研磨された金属製シート6が重ねられたものが巻き張りされ、各ローラ28a,28c,28cの回転によって移動される。膜状室28に移動された第1基板1aは鏡面研磨された金属製シート6とプレス台28bとに狭持され、第1基板1a上のカーボンナノチューブ層5が押圧され、膜状にされる。このように、第1基板1aの先端部に鏡面研磨された金属製シート6を介して押圧することにより第1基板1aの先端部がプレスローラ28aに接着されることを抑制し、且つ金属製シート6とプレスローラ28aとの間にシリコンゴム8を配することによりカーボンナノチューブ層5をシリコンゴム8が弾性変形するため均一に加圧することができる。したがって、カーボンナノチューブ層5をより厚みの均一な膜状にすることができる。
【0041】
膜状工程の後、連続して一体化膜形成工程を行うため、
図4に示すように、膜状室28から第1基板1aを導きカーボンナノチューブ層5を一体化して膜状に形成する一体化膜形成室29を具備する。膜状室28にて膜状にされたカーボンナノチューブ層5を有する第1基板1aを下側に、予め他の製造装置にてカーボンナノチューブ層形成工程を行ってカーボンナノチューブ層5が形成された第2基板1bを上側に、カーボンナノチューブ層5が互いに向かい合うように配置する。
図4に示すように、第2基板1bはロール・トゥ・ロール方式により第1基板1aと同一方向に移動される。ゴム製のプレスローラ29aとプレス台29bとが、それらにより第2基板1b及び第1基板1aを狭持するように配置される。すなわち、第1基板1aの下方にプレス台29bを位置させ、第2基板1bの上方にプレスローラ29aを位置させる。より具体的には、第2基板1bを巻き出す第2巻出しロール29c及び第2基板1bを巻き取る第2基板巻取りロール29dの間に、プレスローラ29aを配置させて、第2基板1bをV字形状に移動させる。したがって、一体化膜形成室29において、第1基板1a上の膜状にされたカーボンナノチューブ層5に第2基板1b上のカーボンナノチューブ層5が重ねられるとともに、プレスローラ29aによって押圧され、第1基板1a上のカーボンナノチューブ層5と第2基板1b上のカーボンナノチューブ層5は、一体化して膜状にされる。このとき、当然、第2基板1b上のカーボンナノチューブ層5は、第2基板1bから剥離され、第2基板1bは第2基板巻取ロール29dに回収される。ここで、押圧の際にゴム製のプレスローラ29aを用いることによって、プレスローラ29aの表面が弾性変形するため金属製のプレスローラを用いる場合と比較してより均一に加圧することができる。したがって、カーボンナノチューブ層5をより厚みの均一な膜状にすることができる。
【0042】
一体化膜にされたカーボンナノチューブ層5,5は、第1基板1aを介して回収室30へ移動される。回収室30には、カーボンナノチューブ層5を第1基板1aから剥離したカーボンナノチューブシート9を巻き取り回収する、回収ロール30aを具備する。具体的には、回収ロール30aによる巻取りにより、カーボンナノチューブ層5を第1基板1aから剥離する。本実施例においては、回収ロール30a側に粘着テープを設け、粘着テープに膜状にされたカーボンナノチューブ層5の一部を接着し、回収ロール30aを回転させるとともに上方へ移動させて、カーボンナノチューブ層5を第1基板1aから剥離するとともに巻き取る。本実施例においては、
図4に示すように、回収ロール30aに、カーボンナノチューブシート9を巻き取る際、カーボンナノチューブ層5同士が接着してしまわないように、間紙(保護用シート)が巻きつけられたロール30cをさらに具備する。そして、カーボンナノチューブ層5が剥離された第1基板1aは、第1基板巻取りロール30bに巻き取られる。
【0043】
本実施例に係るカーボンナノチューブシート9の製造方法を用いた製造装置によれば、支持体、樹脂及びバインダによる固定を要しない自立型のカーボンナノチューブシート9を製造することができる。すなわち、形成室26にて原料ガス3とともに供給される酸素4によって、アモルファスカーボンの生成が抑制されるため、膜状室28にてカーボンナノチューブ2同士が良好に絡まりファンデルワールス力によって膜状にされたカーボンナノチューブ層5を形成できる。そして、上記酸素4によって、カーボンナノチューブ層5と第1基板1aとの接着力が弱くなるため、上記膜状にされたカーボンナノチューブ層5は回収室にて第1基板1aから良好に剥離され、自立型のカーボンナノチューブシート9を得ることができる。
【0044】
また、本実施例のようにロール・トゥ・ロール装置に適用することで連続したカーボンナノチューブシート9を製造することが可能で、製造コストを低減することもでき、経済的である。
[実施例2]
以下、本発明に係るカーボンナノチューブシート9の製造方法の実施例2について、
図5及び
図6を用いて説明する。なお、実施例1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
実施例2に係るカーボンナノチューブシート9の製造方法は、垂直配向性のカーボンナノチューブ層5を用いたカーボンナノチューブシート9の製造方法であって、化学気相成長法により基板1上にカーボンナノチューブ2を垂直に配向させて形成する際に原料ガス3とともに酸素4を供給するカーボンナノチューブ層形成工程と、カーボンナノチューブ層形成工程により形成されたカーボンナノチューブ層5をそれぞれ有する2枚の基板1a,1bを、カーボンナノチューブ層5を向かい合わせて少なくとも一方の基板側から押圧することによって、2つのカーボンナノチューブ層5,5を合体した膜状にする合体膜形成工程とを備える。
【0046】
本実施例において、
図5(a)に示すように、カーボンナノチューブ層5を有する第1基板1a及び第2基板1bを、実施例1と同一の方法、すなわちカーボンナノチューブ層形成工程によって2枚形成する。それらを
図5(b)に示すように、カーボンナノチューブ層5を有する第1基板1a及び第2基板1bを、向かい合わせになるように配置する。そして、
図5(c)に示すように、ゴム製のプレスローラ31aを用いたロールプレスにより少なくとも一方の基板側(本実施例においては第2基板1b側)から押圧することにより2つのカーボンナノチューブ層5,5を合体させて膜状にする。このとき、ゴム製のプレスローラ31aを用いて押圧することにより、プレスローラ31aの表面が弾性変形するため、より確実にカーボンナノチューブ層5を均一に加圧することができる。したがって、カーボンナノチューブ層5をより厚みの均一な膜状にすることができる。
【0047】
最後に実施例1と同様に
図5(d)に示すように回収工程により膜状にされた2つのカーボンナノチューブ層5,5を基板1a,1bから剥離し、カーボンナノチューブシート9を得る。
【0048】
このように、合体膜形成工程を行うことによって、形成されたカーボンナノチューブシート9の厚みをより大きくすることができる。
以下、実施例2に係るカーボンナノチューブシート9の製造装置について
図6を用いて説明する。実施例1と同様に、真空チャンバー20において、第1基板1aの移動経路に沿って、予め金属粒子等の触媒7が塗布されたステンレス鋼板(第1基板1a)が巻かれた第1巻出しロール24aが配置された第1基板供給室24と、第1基板1aに予め形成された触媒7を微粒化する前処理室25と、微粒化された触媒7が付された第1基板1aを導き、その表面にカーボンナノチューブ2を層状に形成する形成室26とが具備され、形成室26によりカーボンナノチューブ層5が形成された第1基板1aを導き、カーボンナノチューブ層5に冷却などの処理を行う後処理室27が具備される。
【0049】
さらに、
図6に示すように、後処理室27からカーボンナノチューブ層5を有する基板1bを導き合体膜形成工程を行う合体膜形成室31が具備される。具体的な構成は、実施例1における一体化膜形成室29と同一である。すなわち、第2基板1bを巻き出す第2巻出しロール31c及び第2基板1bを巻き取る第2基板巻取りロール31dの間に、プレスローラ31aを配置させて、第2基板1bをV字形状に移動するように構成されている。また、第1基板1aの下方に、第1基板1aを支持するプレス台31bを具備する。この合体膜形成室31を有することによって、形成されたカーボンナノチューブシート9の厚みをより大きくすることができる。
[実験例]
本発明に係る実験例、及び比較例について
図7を用いて説明する。
【0050】
実験例1として、カーボンナノチューブ層形成工程により、複数の基板1に厚み0〜1mmの範囲でカーボンナノチューブ層5を形成して膜状工程を行って基板1から剥離して、複数のカーボンナノチューブシート9を得た。カーボンナノチューブ層5の厚み(平均値)とカーボンナノチューブシート9の厚み(平均値)との関係を調べるとともに、カーボンナノチューブ層5の第1基板1aからの剥離限界値を求めた。その結果を
図7に示す。
図7に破線で示すように、カーボンナノチューブ層5の厚みが180μm未満のものについては、膜状工程を行った場合、カーボンナノチューブシート9の厚みが極めて薄くなり、基板1から剥離されにくくなることが確認された。したがって、カーボンナノチューブ層形成工程において、カーボンナノチューブ層5の厚みを180μm以上1mm以下にすることが好ましい。
【0051】
また、実験例2として、一体化膜形成工程において、膜状工程を行って400μmのカーボンナノチューブ層5が膜状に形成された基板1aと、この基板1aとは別にカーボンナノチューブ層形成工程により400μmのカーボンナノチューブ層5が形成された基板1bとをカーボンナノチューブ層5同士を向かい合わせに配置して、基板1b側から互いに近づく方向に押圧し、回収工程により、一体化して膜状となったものを基板1a,1bから剥離し、55μmの厚みのカーボンナノチューブシート9を得た。この厚みは、実施例1のカーボンナノチューブシート9の厚み30μmのおよそ2倍である。
【0052】
これらの結果から、カーボンナノチューブシート9の厚みは、カーボンナノチューブ層5の厚み、すなわちカーボンナノチューブ2の生成の長さによって、制御可能であることが確認できた。
【0053】
なお、一体化膜形成工程においては、カーボンナノチューブ層5の厚みの範囲を上述のように180μm以上1mm以下としても構わないが、特にこれに限定されない。なぜならば、2つのカーボンナノチューブ層5,5が一体化して膜状となるため、カーボンナノチューブ層5,5の厚みの合計が180μm以上であれば、一体化して膜状にされたカーボンナノチューブ層5は基板1a,1bから容易に剥がれて、良好なカーボンナノチューブシート9が形成されるからである。なお、合体膜形成工程も同様である。
【0054】
また、比較例として、酸素を供給せずにCVD法により形成されたカーボンナノチューブ層を、膜状工程を行わず、単に第1基板1aから剥離することにより得られたものを作製した。実験例1のカーボンナノチューブシート9の単位面積当りの厚み方向での抵抗値を測定したところ、約0.015Ωであり、同様に比較例の単位面積当りの厚み方向での抵抗値を測定したところ、約0.1Ωであった。実験例1のほうが比較例よりも抵抗値が小さくなっていることがわかる。これは、実験例1では、カーボンナノチューブ層5が押圧によって膜状にされてカーボンナノチューブ2同士が絡まるため、カーボンナノチューブシート9における見かけ密度が大きくなることによる。また、カーボンナノチューブ2同士が絡まり密集することにより、熱伝導率が向上する。これらのことから、このカーボンナノチューブシート9は、特に導電性部材や伝熱部材に有効に利用し得ることが確認された。
[変形例]
実施例1においては、膜状工程により膜状にされたカーボンナノチューブ層5及びカーボンナノチューブ層形成工程により形成されたカーボンナノチューブ層5を一体化して膜状にする一体化膜形成工程を行ったが、一体化膜形成工程の代わりに、2つのカーボンナノチューブ層が、ともに膜状工程により膜状にされたカーボンナノチューブ層を積層して膜状にする積層膜形成工程を備えても構わない。すなわち、その製造方法としては、実施例1において説明した膜状工程の後に、カーボンナノチューブ層形成工程及び膜状工程を行うことにより形成されたカーボンナノチューブ層をそれぞれ有する2つの基板を、カーボンナノチューブ層を向かい合わせて少なくとも一方の基板側から押圧することによって、2つのカーボンナノチューブ層を積層して膜状にする積層膜形成工程を行うものである。なお、当然ながら、実施例1と同様に、積層膜形成工程において、2つのカーボンナノチューブ層に互いに厚みが異なるものを用いても構わない。
【0055】
また、実施例1及び実施例2においては、一体化膜状工程(一体化膜形成室29)及び合体化膜状工程(合体膜形成室31)の後に回収工程(回収室30)を具備する態様を示したが、一体化膜状工程及び合体化膜状工程を行わない場合には、当然、膜状工程(膜状室28)の後に回収工程(回収室30)を具備する。
【0056】
そして、実施例1及び実施例2においては、連続式の製造装置を例示したため、基板1にCVD法により垂直配向性を有するカーボンナノチューブ層5を形成した後に、同一装置内でカーボンナノチューブシート9の形成を完結させる態様を示したが、これに限定されない。例えば、他の装置によってカーボンナノチューブ層形成工程を行って、形成されたカーボンナノチューブ層5を有する基板1を、炉内に配置して、還元雰囲気下で加熱しながら押圧しても、製造されたカーボンナノチューブシート9が奏する効果は同じである。