特許第6071835号(P6071835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071835
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】キャスト塗工紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/36 20060101AFI20170123BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   D21H19/36 A
   D21H19/44
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-213858(P2013-213858)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74864(P2015-74864A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越紀州製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】目黒 章久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 喜仁
(72)【発明者】
【氏名】沓名 稔
(72)【発明者】
【氏名】野田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】恩田 有里子
(72)【発明者】
【氏名】江口 恭兵
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−189185(JP,A)
【文献】 特開平03−193994(JP,A)
【文献】 特開平02−080693(JP,A)
【文献】 特開2004−300273(JP,A)
【文献】 特開平08−003895(JP,A)
【文献】 特開2001−026677(JP,A)
【文献】 特開平11−247094(JP,A)
【文献】 特開平11−279987(JP,A)
【文献】 特開平05−140890(JP,A)
【文献】 特開平07−090798(JP,A)
【文献】 特開平05−125690(JP,A)
【文献】 特開2005−054308(JP,A)
【文献】 米国特許第04515833(US,A)
【文献】 特開平05−148795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に顔料と結着剤とを主成分とするキャスト塗工層を設け、該キャスト塗工層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ドラムに圧接して強光沢仕上げするキャスト塗工紙において、
前記キャスト塗工層が、耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有し、更に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と、(B)ポリエチレンエマルジョンとを含有することを特徴とするキャスト塗工紙。
【請求項2】
前記キャスト塗工層中の(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョンとの合計含有量が1.0g/m以下であることを特徴とする請求項1に記載のキャスト塗工紙。
【請求項3】
前記キャスト塗工層がカゼインを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のキャスト塗工紙。
【請求項4】
支持体上に顔料と結着剤とを主成分とするキャスト塗工層を設け、乾燥させた後に、前記キャスト塗工層の表面に処理液を塗布して再湿潤させ、前記キャスト塗工層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ドラムに圧接して強光沢仕上げする、再湿潤キャスト法によるキャスト塗工紙の製造方法おいて、
前記キャスト塗工層の塗料に耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させ、前記再湿潤用の処理液に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上を含有させ、前記キャスト塗工層の塗料又は前記再湿潤用の処理液のいずれか一方又はその両方に離型剤として(B)ポリエチレンエマルジョンを含有させることを特徴とするキャスト塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスト塗工紙及びその製造方法に関し、特にキャスト塗工紙のインキ着肉性及び耐水性に優れ、かつ、白紙光沢に優れたキャスト塗工紙及びそのキャスト塗工紙を効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャスト塗工紙は、その表面の強光沢性、高平滑性を利用して、ポスター、カタログ、パンフレット、書籍の表紙、食品などのラベル、高級紙器などの高級印刷用紙として使用されている。最近は特にラベル用途に使用されることも多くなっている。ラベル用途としては、キャスト塗工紙の光沢面にデザインやバーコードなどを印刷して使用することが多い。この印刷方式としては、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷などを挙げることができる。最近、その印刷効率の高さから凸版印刷の一種である樹脂凸版印刷で印刷を行うケースも多い。しかし樹脂凸版印刷においては、高速で版が回転し、かつ版を紙表面に僅かに接地させるため、印刷スピードを上げすぎるとインキの着肉性が悪く、白抜けが発生する場合がある。このような着肉不良トラブルは、特に高平滑性で、高光沢なキャスト塗工紙に顕著である。特にバーコード印刷で白抜けが発生すると読み込み不可となって、その機能を果たさなくなり、深刻なトラブルとなる。
【0003】
また、ラベル用途のキャスト塗工紙としては、一般の塗工紙に要求される物性、例えば、印刷強度、インキ着肉性、インキセット性に加えて光沢表面の耐水性が極めて重要な品質特性の1つとなっている。耐水性が特に求められる用途として例えば食品ラベルがある。食品ラベルに使用される場合は、食品を包装材で包装した後に貼付して使用される。その後、冷凍保存、冷蔵保存された状態で積み重ねて店頭に陳列される。この時、ラベル表面に水分が付着したままラベルと包装材が、あるいはラベル同士が密着した状態に置かれると、ラベル表面が包装材と、あるいはラベル同士でくっついて、ブロッキングトラブルが発生することがある。このようなブロッキングトラブルは、特に高平滑性で、高光沢なキャスト塗工紙に顕著である。
【0004】
キャスト塗工紙の製造方法としては、顔料及び結着剤を主成分とするキャスト塗工液を支持体に塗工した後、塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラム(キャストドラム)の表面に圧着(圧接)、乾燥させて光沢仕上げするウェットキャスト法、湿潤状態のキャスト塗工層を一旦乾燥した後、再湿潤液によって可塑化させた後、加熱ドラム面に圧接、乾燥させて仕上げる再湿潤キャスト法(リウェットキャスト法ともいう。)、さらに湿潤状態のキャスト塗工層をゲル状態にして加熱ドラム面に圧接、光沢仕上げするゲル化キャスト法などが一般に知られている。
【0005】
このキャスト塗工紙のインキ着肉性を改善する方法として、例えば、キャスト塗工層表面の濡れ性をコントロールして改善する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−096190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の記載の技術の場合においては、インキ着肉性がまだ不十分であり、前述した樹脂凸版印刷においてはインキ着肉不良による白抜けが発生してしまう。よって、従来の技術では、ますます効率性の高い印刷方式に対応可能なキャスト塗工紙を供給することが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、顔料及び結着剤を主成分とするキャスト塗工層のインキ着肉性を改善するとともに、高い白紙光沢を有し、且つ優れた耐水性を有するキャスト塗工紙及びそのキャスト塗工紙を効率良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、キャスト塗工層に、耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させ、更に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と、(B)ポリエチレンエマルジョンを含有されることによって、キャスト塗工紙のインキ着肉性、光沢度、耐水性が大幅に改善されることを見出し、本発明に至った。具体的には、本発明に係るキャスト塗工紙は、支持体上に顔料と結着剤とを主成分とするキャスト塗工層を設け、該キャスト塗工層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ドラムに圧接して強光沢仕上げするキャスト塗工紙において、前記キャスト塗工層が、耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有し、更に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と、(B)ポリエチレンエマルジョンとを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るキャスト塗工紙では、前記キャスト塗工層中の(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョンとの合計含有量が1.0g/m以下であることが好ましい。本発明の研究の結果、キャスト塗工層中の離型剤が多くなると、キャスト塗工層表面に対するインキの食いつきが悪くなって着肉不良となり、白抜けの原因となる。よって、キャスト塗工層中の離型剤の合計含有量を最小限度にすることによって、更にインキ着肉性に優れたものにすることが可能である。
【0011】
本発明に係るキャスト塗工紙では、更に前記キャスト塗工層がカゼインを含有することが好ましい。更に耐水性に優れる。
【0012】
本発明に係るキャスト塗工紙の製造方法は、支持体上に顔料と結着剤とを主成分とするキャスト塗工層を設け、乾燥させた後に、前記キャスト塗工層の表面に処理液を塗布して再湿潤させ、前記キャスト塗工層が湿潤状態にある間に加熱された鏡面ドラムに圧接して強光沢仕上げする、再湿潤キャスト法によるキャスト塗工紙の製造方法おいて、前記キャスト塗工層の塗料に耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させ、前記再湿潤用の処理液に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上を含有させ、前記キャスト塗工層の塗料又は前記再湿潤用の処理液のいずれか一方又はその両方に離型剤として(B)ポリエチレンエマルジョンを含有させることを特徴とする。離型剤を最小限度の添加量にすることが可能であり、インキ着肉性をより優れたものにすることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のキャスト塗工紙及びその製造方法は、前記キャスト塗工層中に、耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させ、更に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョンを含有させることによって、キャスト塗工紙のインキ着肉性、光沢度、耐水性を大幅に改善することができる。また、本発明によるキャスト塗工紙は有版式印刷用紙に適しており、更に、特に高いインキ着肉性と高い耐水性を要求されるラベル紙用途のキャスト塗工紙に適している。また、従来、再湿潤キャスト法は製造効率に優れる一方で、他のキャスト方式と比較してインキ着肉性に劣るという欠点を有しており、その改善も本発明では為されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
(1)支持体
本実施形態に係るキャスト塗工紙の支持体は紙支持体が好ましい。紙支持体に使用するパルプ繊維はLBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、TMP(サーモメカニカルパルプ)、GP(砕木パルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びコットン、ケナフ、竹、バガスなどの非木材パルプである。これらは、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することができる。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境保全の観点から、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプを含有することが好ましい。
【0016】
紙支持体に使用する填料としては、例えば、タルク、カオリン、焼成クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレーである。紙中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、1〜25質量部であることが好ましい。より好ましくは2〜20質量部である。さらに好ましくは、3〜18質量部である。1質量部未満では白色度向上、不透明度向上などの効果が得られない場合がある。25質量部を超えると紙自体の強度が不足し印刷・加工に耐えられず実質使用することが出来ない場合がある。
【0017】
紙支持体に使用するパルプ、填料以外には内添サイズ剤、湿潤紙力増強剤などの内添紙力増強剤、ピッチコントロール剤、蛍光増白剤、着色染料、着色顔料、蛍光消色剤、などの各種助剤を、各製品に合わせて好適に配合することが可能である。内添サイズ剤は、各種公知のものが使用でき、特に限定されず、例えば、AKD、ASA、強化ロジンサイズ剤、弱酸性ロジンサイズ剤、酸性ロジンサイズ剤、である。前記内添紙力増強剤としては、従来公知の紙力増強剤を使用することが可能であり、例えば、澱粉系紙力増強剤、ポリビニルアルコール系紙力増強剤、ポリアクリルアミド系紙力増強剤である。
【0018】
紙支持体を抄紙する方法は、特に限定されるものではなく、ツインワイヤー抄紙機、長網抄紙機、円網多層抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機などの各種装置で製造できる。
【0019】
前記抄紙方法で得られる製紙を支持体として表面サイズ液を塗布しても良い。表面サイズ液としてポリビニルアルコール、澱粉、ポリアクリルアミドなどの公知の水溶性高分子などが挙げられるが特に限定されない。紙支持体の坪量は、特に限定されないが、通常40〜500g/mである。
【0020】
本実施形態に係るキャスト塗工紙では、支持体の片面又は両面には顔料と結着剤を主体とした塗工液を塗工して設けられるアンダー層を塗工しても何ら差し支えなく、このアンダー層を塗工した後の支持体をキャスト塗工用の支持体として用いることができる。
【0021】
(2)キャスト塗工層
顔料としては、一般に印刷用塗工紙に使用されている公知の白色顔料が例示できる。例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン(クレーを含む)、水酸化アルミニウム、焼成クレー、酸化チタン、プラスチックピグメントなどの有機高分子微粒子などであり、これらの中から目的に応じて1種あるいは2種以上が適宜選択して使用される。
【0022】
結着剤としては、エステル化澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エーテル化澱粉、両性澱粉、カチオン性澱粉、などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレンブタジエンラテックスなどの合成樹脂類などが例示できる。これらの中から目的に応じて1種あるいは2種以上が適宜選択して使用される。特に印刷用塗工紙で一般に用いられるスチレンブタジエンラテックスがキャスト塗工層の塗工層強度及びコスト抑制の観点から好ましい。また、スチレンブタジエンラテックスを第1のバインダーとし、第2のバインダーとしてカゼインを使用することが耐水性強化の観点から好ましい。キャスト塗工層にカゼインと炭酸亜鉛のアンモニア錯体とが共存することによって、更に耐水性が強化される。カゼインの添加量が顔料100質量部に対して0.5〜20質量部の範囲が耐水性の観点から好ましい。より好ましくは0.7〜18質量部の範囲であり、さらに好ましくは1〜15質量部の範囲である。カゼインが0.5質量部未満では耐水性に劣る場合があり、20質量部を超える場合は塗料の粘度が高すぎて塗工適性に劣る場合がある。
【0023】
結着剤の配合量は特に限定されないが、全顔料100質量部に対し3〜50質量部とすることが好ましく、5〜40質量部とすることがより好ましい。配合量が3質量部未満であると塗工層が脱落する恐れがあり、50質量部を超えると、離型性が悪化して、キャストドラムが汚れて効率が低下する場合がある。
【0024】
また、本発明においては、耐水性強化の観点から、キャスト塗工層に耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させる必要がある。炭酸亜鉛のアンモニア錯体は、結着剤一般と反応して、キャスト塗工層の耐水性の向上に寄与する。特に、結着剤がカゼイン、大豆蛋白などの蛋白質を含むとき、炭酸亜鉛のアンモニア錯体が、カゼイン、大豆蛋白などの蛋白質を含む結着剤と架橋構造を形成することによってキャスト塗工層の耐水性がさらに強くなると推測される。炭酸亜鉛のアンモニア錯体の添加量としては、顔料100質量部に対して0.01〜2.0質量部(亜鉛換算)が耐水性の観点から好ましく、0.03〜1.5質量部(亜鉛換算)がより好ましく、0.05〜1.0質量部(亜鉛換算)がさらに好ましい。炭酸亜鉛のアンモニア錯体の添加量が0.01質量部(亜鉛換算)未満では耐水性に劣る場合があり、2.0質量部(亜鉛換算)を超える場合はキャスト塗工層の塗料の粘度が高すぎて塗工適性に劣る場合があり、かつ離型性が悪くなって白紙面感に劣る場合がある。また、前記耐水化剤として、炭酸亜鉛のアンモニア錯体以外の亜鉛化合物を用いた場合は、耐水性に劣るか、または離型性が悪くなって白紙面感に劣る。
【0025】
本実施形態ではキャスト塗工層中に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と、(B)ポリエチレンエマルジョンが含有されていることが必要である。これらの離型剤を組み合わせることによって、離型剤の添加量を最小限度に抑制することが可能となり、インキの着肉性を向上することが可能となる。更にキャスト塗工層中の離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョンの合計含有量が1.0g/m以下であることが好ましい。更にインキ着肉性に優れ、白抜けを改善することが可能となる。更に好ましくは0.8g/m以下である。(A)と(B)の合計含有量の下限は、0.001g/mであることが好ましく、0.005g/mであることがより好ましい。
【0026】
(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸などの各種脂肪酸、及びそれら脂肪酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩など)を挙げることができる。更に前記脂肪酸及び前記脂肪酸塩の誘導体(クロロ誘導体、チオ誘導体など)も使用することが可能である。これら脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸誘導体、脂肪酸塩誘導体を目的に応じて2種以上混合することも可能である。これらキャスト塗工層中への添加量は、0.001〜0.40g/mが好ましい。0.001g/m未満では離型性に劣る場合があり、0.40g/mを超える場合はインキ着肉性に劣る場合がある。更に好ましくは、0.003〜0.30g/mである。
【0027】
(B)ポリエチレンエマルジョンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどの各種ポリエチレンのエマルジョンを使用することが可能である。離型剤としてポリエチレンエマルジョンを使用することでインキ着肉性を良好にすることが可能である。これらキャスト塗工層中への添加量は、0.01〜0.80g/mが好ましい。0.01g/m未満では離型性に劣る場合があり、0.80g/mを超える場合はインキ着肉性に劣る場合がある。更に好ましくは、0.03〜0.70g/mである。
【0028】
キャスト塗工液を塗工する塗工装置としては、特に限定するものではなく、キャスト塗工紙分野で一般的に使用されているカーテンコーター、ダイコーター、エアーナイフコーター、フレキシブル、ロールアプリケーション、ファウンテンアプリケーション、ショートドゥエルなどのベベルタイプやベントタイプのブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ロッドブレードコーター、チャンプレックスコーター、ゲートロールコーターなどの公知の塗工装置が適宜使用できる。また、キャスト塗工層の絶乾塗工量は2〜40g/mの範囲が好ましく、3〜35g/mの範囲がより好ましい。絶乾塗工量が2g/m未満では所望の白紙光沢を得ることが困難となる場合があり、40g/mを超える場合はキャストドラムが汚れやすく、効率が落ちてコスト的に不利となる場合がある。
【0029】
(3)再湿潤液
本実施形態によるキャスト塗工紙の製造方法としては、前記再湿潤キャスト法が製造効率の観点から好ましい。再湿潤液とは、一旦乾燥したキャスト塗工層を膨潤させ、キャストドラムに塗工層を適度に密着させる作用のある再湿潤用の処理液(水溶液)のことをいう。例えば、蟻酸などの酸、ヘキサメタリン酸塩などのリン酸塩、クエン酸塩などのヒドロキシ酸塩、硫酸亜鉛、ジシアンジアミド、尿素などの、可塑剤としての機能を有する化合物の中から選ばれる1種以上の水溶液である。本実施形態においては、再湿潤液に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上を添加することが好ましい。離型剤の添加量を最小限度にすることが可能であり、インキ着肉性を向上させることが可能である。離型剤(A)の再湿潤液への添加量は0.001〜1.0%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.8%であり、さらに好ましくは、0.007〜0.5%である。0.001%未満では離型性に劣る場合があり、1.0%を超える場合はインキ着肉性に劣る場合がある。
【0030】
(4)その他
キャスト塗工層に耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させるために、キャスト塗工層の塗料に炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させることが好ましい。再湿潤用の処理液に炭酸亜鉛のアンモニア錯体を含有させると、添加量を最小限にできるところ、キャスト塗工層の塗料に含有させることで、キャストドラム汚れ防止の点で有利である。また、離型剤(A)は、再湿潤用の処理液に含有させることが好ましい。再湿潤用の処理液に含有させることで、キャストドラム汚れ防止の点で有利である。さらに、離型剤(B)は、キャスト塗工層の塗料又は再湿潤用の処理液のいずれか一方又はその両方を含有させる。すなわち、離型剤(B)をキャスト塗工層の塗料にのみ含有させる形態、再湿潤用の処理液のみに含有させる形態、キャスト塗工層の塗料及び再湿潤用の処理液の両方に含有させる形態があるが、この中でキャスト塗工層の塗料にのみ含有する形態が好ましい。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り固形質量部および固形質量%を示す。
【0032】
(実施例1)
サイズプレスにて酸化澱粉を表面処理した坪量80g/mの上質紙を紙支持体とした。次いで、顔料としてカオリン(ウルトラコート:エンゲルハード社製)75部と軽質炭酸カルシウム(タマパールTP−123CS、奥多摩工業製)25部、結着剤として顔料100質量部に対してカゼイン7質量部、大豆タンパク2部、スチレン・ブタジエン系ラテックス(スマーテックスPA−9176、日本エイアンドエル社製)15質量部、炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液(ハードナーA12、旭化成ケミカルズ社製)を亜鉛換算で0.5質量部、離型剤としてポリエチレンエマルジョン(SNコート287、サンノプコ社製)0.5質量部からなる固形分濃度50%のキャスト用塗工液を調製した。次いでこのキャスト用塗工液をエアーナイフコーターにて前記紙支持体の片面に絶乾塗工量20g/mとなるように塗工して乾燥した。次いで、クエン酸ナトリウム0.1%、離型剤として脂肪酸塩であるオレイン酸カリウム0.1%、からなる固形分濃度0.2%の再湿潤液(水溶液)をキャスト塗工層表面にウェット塗布量30g/mとなるように塗布した後、塗布面が湿潤状態にあるうちにキャストドラムに圧接し、乾燥後キャストドラムから剥離してキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0033】
(実施例2)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンを2.0部とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.35g/mであった。)
【0034】
(実施例3)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンを4.0部とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.65g/mであった。)
【0035】
(実施例4)
実施例1において、オレイン酸カリウムを1.0%とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.38g/mであった。)
【0036】
(実施例5)
実施例1において、オレイン酸カリウムを0.01%とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.083g/mであった。)
【0037】
(実施例6)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンを0.1部、オレイン酸カリウムを0.01%とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.019g/mであった。)
【0038】
(実施例7)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンを2.0部、オレイン酸カリウムを1.0%とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.62g/mであった。)
【0039】
(実施例8)
実施例1において、再湿潤液の離型剤をオレイン酸アンモニウムに変更した以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0040】
(実施例9)
実施例1において、キャスト塗工層の離型剤として、ポリエチレンエマルジョンを0.5部、オレイン酸カリウムを0.2部とし、再湿潤液の離型剤を無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0041】
(実施例10)
実施例1において、キャスト塗工層の炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液の添加量を0.03質量部(亜鉛換算)とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0042】
(実施例11)
実施例1において、キャスト塗工層の炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液の添加量を1.0質量部(亜鉛換算)とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0043】
(実施例12)
実施例1において、カゼインを無添加、大豆タンパクを9質量部とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0044】
(実施例13)
実施例1において、キャスト塗工層の炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液の添加量を0.01質量部(亜鉛換算)とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0045】
(実施例14)
実施例1において、キャスト塗工層の炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液の添加量を2.0質量部(亜鉛換算)とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0046】
(実施例15)
実施例1において、オレイン酸カリウムをラウリン酸ナトリウムに変更した以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0047】
(実施例16)
実施例1において、再湿潤液の離型剤をオレイン酸カリウム0.1%、ポリエチレンエマルジョン0.27%に変更し、キャスト塗工層の塗料のポリエチレンエマルジョンを無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0048】
(比較例1)
実施例1において、オレイン酸カリウムを無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.080g/mであった。)
【0049】
(比較例2)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンを無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.030g/mであった。)
【0050】
(比較例3)
実施例1において、ポリエチレンエマルジョンをパラフィンワックスエマルジョン(ダイジットEY、互応化学社製)とし、再湿潤液の離型剤を無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.080g/mであった。)
【0051】
(比較例4)
実施例1において、炭酸亜鉛のアンモニア錯体水溶液を無添加とした以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0052】
(比較例5)
実施例1において、耐水化剤として、炭酸亜鉛のアンモニア錯体を硝酸亜鉛に変更した以外は実施例1と同様にしてキャスト塗工紙を得た。(この時のキャスト塗工層中の離型剤の合計含有量は0.11g/mであった。)
【0053】
得られたキャスト塗工紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1及び表2及び表3に示す。
【0054】
(1)白紙光沢
JIS−Z8741−1997「鏡面光沢度−測定方法」に準じ、60度光沢度計を用いて測定を行った。数値が高い方が高級感に優れていて好ましい。65%以上が好ましい。
【0055】
(2)インキ着肉性
得られたキャスト塗工紙の光沢面の反対面をタック加工してラベル紙を作成した。このラベル紙の光沢面に樹脂凸版印刷機(SANJYO NS−250、三條機械製作所社製)にて高速でバーコード印刷を行い、着肉不良による白抜けを目視で評価した。
◎:白抜けが全くなく、実用できる。
○:白抜けが僅かにあるが、実用できる。
△:白抜けがあり、実用不可。
×:白抜けが著しくあり、実用不可。
【0056】
(3)耐水性
キャスト塗工紙のキャスト面に0.05ccの水を滴下し、さらに同じ種類のキャスト塗工紙をキャスト面同士が対向するように重ね、その上に一定量の重り(200g/cm)を載せ、24時間放置したのち、両キャスト塗工紙を剥がし、一方のキャスト塗工紙のキャスト面の状態を以下の基準にて、目視判定した。
◎:キャスト塗工紙の塗工層の剥離付着が全く認められず、実用できる。
○:キャスト塗工紙の塗工層の剥離付着が僅かに認められるが、実用できる。
△:キャスト塗工紙の塗工層の剥離付着が認められ、実用不可。
×:キャスト塗工紙の塗工層の剥離付着が著しく認められ、実用不可。
【0057】
(4)白紙面感
キャスト塗工層表面の白紙面感を目視評価した。キャストドラムからの離型性が悪い場合は、キャスト塗工層表面に剥離ムラが発生する。
◎:離型性すこぶる良好。剥離ムラがなく、実用できる。
〇:離型性良好。剥離ムラがごく僅かにあるが目立たず、実用できる。
△:離型性やや不良。剥離ムラが目立ち、実用不可。
×:離型性不良。剥離ムラが著しく目立ち、実用不可。
【0058】
【表1】
【0059】

【表2】
【0060】

【表3】
【0061】
表1、2、3から明らかなように、実施例1〜16は、比較例1〜5に比べて白紙光沢度、インキ着肉性、耐水性、白紙面感に優れている。
【0062】
比較例1、2は、キャスト塗工層に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョン、の両方を含有せず、いずれか一方しか含有していないために白紙面感に劣った。比較例3はキャスト塗工層に離型剤として(A)脂肪酸及びその塩、及びそれらの誘導体から選ばれる1種以上と(B)ポリエチレンエマルジョン、とは異なる他の離型剤しか含有していないためにインキ着肉性に劣った。比較例4はキャスト塗工層に耐水化剤である炭酸亜鉛のアンモニア錯体を添加しなかったために耐水性に劣った。比較例5はキャスト塗工層に耐水化剤として炭酸亜鉛のアンモニア錯体以外の亜鉛化合物を使用したため、白紙面感に劣った。