【0055】
ハメット数σ
pが正の電子求引基としては、アルキニル基(例えばプロパルギル基、σ
p =0.23)、ハロアルキル基(例えばトリフルオロメチル基、σ
p =0.53)、ハロアリール基(例えば4-フルオロフェニル基、σ
p =0.06)、シアノ基(σ
p =0.71)、ニトロ基(σ
p =0.81)、ホルミル基(σ
p =0.42)、ヒドロキシカルボニル基(σ
p =0.45)、アルキルカルボニル基(例えばメチルカルボニル基、σ
p =0.47)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、σ
p =0.45)、ハロゲン原子(例えばブロモ基、σ
p=0.23)等が挙げられる。なお、これらの数値は、「Chemical Reviews, 1991, vol.91, No.2」のp165-195から引用したものである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例I群>
実施例I−1〜6は、ナフトールのナフタレン環の3〜8位の臭素置換体(ナフトール誘導体)と、1,1−ジフェニル−2-プロピン−1−オール(プロパギルアルコール誘導体)とを反応させて、生成物であるナフトピラン化合物を合成した例である(表2−1参照)。
【0063】
なお、各実施例のナフトピラン化合物の合成は、慣用の方法で行うことができる。実施例I−1を例にとると、具体的には下記の如く合成する。
【0064】
「3-ブロモ-2-ナフトール101.2mg(0.45 mmol)と1,1−ジフェニル−2-プロピン−1−オール99.7mg (0.48mmol)をトルエン3 mlに溶解し、p-トルエンスルホン酸10.8 mg (0.06mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。反応後、溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、次いでジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒で再結晶することで、123.4mg (0.3mmol)の固体(生成物)を収率65.8%で得た。」
【0065】
各実施例のナフトピラン化合物について、NMR分光法で分析をした結果、表2-1に示す各実施例(合成物)の構造式と同一の5〜10位臭素置換の構造を有することが確認できた。
【0066】
【表2-1】
【0067】
<実施例群II>
実施例II-1〜6は、表2-2に示す如く、ナフトール誘導体を実施例群I−1〜6に対応したものとするとともに、プロパギルアルコール誘導体を1,1−ビス(p−メトキシフェニル)-2-プロピン-1-オールとして、実施例群I-1と同様にして合成したものである。
【0068】
各生成物について、NMR分光法で分析をした結果、表2−2に示す合成物の構造式と同一のそれぞれ5〜10位臭素置換の構造を有することが確認できた。
【0069】
【表2-2】
【0070】
<実施例群III>
実施例群III-1,2は、表2−3に示す如く、ナフトール誘導体を4-クロロ-2-ナフトールとし、プロパギルアルコール誘導体を1,1‐ジフェニル-2-プロピン-1-オール又は1,1-ビス(p‐メトキシフェニル) -2-プロピン-1-オール として、実施例I-1と同様にして、合成したものである。
【0071】
各合成物について、NMR分光法で分析をした結果、表2−3に示す合成物の構造式と同一の、それぞれ6位塩素置換の構造を有することが確認できた。
【0072】
<実施例群IV>
実施例群IV-1,2は、表2−3に示す如く、ナフトール誘導体を4-ブロモ-1-ナフトールとし、プロパギルアルコール誘導体を1,1‐ジフェニル-2-プロピン-1-オール又は1,1-ビス(p‐メトキシフェニル) -2-プロピン-1-オールとして、実施例I-1と同様にして、合成したものである。
【0073】
【表2-3】
【0074】
<比較例群I>
比較例I-1は東京化成工業株式会社から販売されているものを使用した。比較例I-2は、2-ナフトールと、1,1−ビス(p-メトキシフェニル)-2-プロピン-1-オールとを用いて、実施例I-1と同様にして、合成したものである。
【0075】
また、比較例IV-1,2は、1-ナフトールと1,1−ジフェニル-2-プロピン-1-オール又は1,1−ビス(p-メトキシフェニル)-2-プロピン-1-オールとを用いて、実施例I-1と同様にして、合成したものである。
【0076】
各合成物について、NMR分光法で分析をした結果、表3に示す生成物の構造式と同一の構造を有することが確認できた。
【0077】
【表3】
【0078】
<試験結果及び評価>
上記実施例群I・II・III・IV及び比較例群I・IVで得られた各合成物をベンゼンに溶解し、5×10
-5 Mの濃度に調製した。この溶液を、光路長10 mmの石英セルに入れて試料とした。これに25℃の環境条件で、UV-LED 365 nmを照射して発色させ、前記試料のフォトクロミック特性を下記各項目について、測定し評価をした。
【0079】
(a)極大吸収波長(λmax) :
Ocean Optics社製の分光光度計(ファイバマルチチャンネル分光器USB4000)により測定した、発色後の可視光領域(420〜700 nm)における極大吸収波長。
【0080】
(b)発色体の半減期(t1/2):
紫外光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長における吸光度が半分の値になるまで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0081】
試験結果を表4にまとめて示す。なお、表4の実施例1〜6の番号の後の括弧内は、表1−2におけるものに対応する。
【0082】
極大吸収波長(λmax)は、比較例・実施例ともに、500〜420nmの範囲にあり、赤〜黄色系の着色が可能であることが分かる。
【0083】
表4−1,2の結果から、ナフタレン環に臭素や塩素等のハロゲン基を導入した場合、格段に半減期が短縮されることが分かる(比較例I-1に対する実施例I-1〜6,III-1、比較例I-2に対する実施例II-1〜6,III-2、比較例IV-1に対する実施例IV-1、比較例IV−2に対する実施例IV-2)。また、ハロゲンの場合、置換基定数σ
pが大きい方が半減期がより短縮されることが確認できた(例えば、実施例III-1に対する実施例I-2)。さらに、フェニル基のパラ位にアルコキシ基(例えば、メトキシ基)のような電子供与基が導入されたナフトピラン化合物は、半減期が短縮されることは公知であるが、ナフタレン環にハロゲンを導入することでさらに半減期が短縮されることが確認できた(例えば、実施例I-1に対する実施例II-1)。また、色調に関しては大きな変化は見られないため、ハロゲンを導入することで色調を変えずに消色速度を変えることが可能である。
【0084】
また、2H−ナフトピランの場合、半減期は長いが、臭素等のハロゲンを導入した場合、半減期が短縮され(比較例IV−1に対する実施例IV−1)、また、フェニル基の双方にメトキシ基を導入して半減期が短縮されたものに、ナフタレン環には臭素等のハロゲンを導入した場合、さらに半減期が短縮されることが確認できた。
【0085】
【表4-1】
【0086】
【表4-2】