(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一形態について説明する。なお、以下の説明では上、下、右、左などの方向を示す用語を用いるが、これは本発明を何ら限定するものではない。また、造影剤と生理食塩水を区別することなく、単に「薬液」または「液体」と称するこことがある。
【0013】
図1に示す本実施形態の液体回路システム200は、例えば、心臓カテーテル検査に利用されるものである。このシステム200は、液体回路キット201(詳細下記)と、それに接続される造影剤チャンバ221、生理食塩水チャンバ223、トランスデューサ270、およびシリンジ251を備えている。液体回路システム200は、また、シリンジ251を保持して薬液の吸引・押出しを行う注入ヘッド260(一部のみを図示する)も備えている。
【0014】
図1の液体回路キット201は、具体的には、シリンジ251に接続されるシリンジライン204と、造影剤チャンバ221に接続される造影剤ライン205と、生理食塩水チャンバ223に接続される生理食塩水ライン206と、トランスデューサ270に接続されるトランスデューサライン207と、カテーテル(不図示)を介して患者に接続される患者ライン208と、それら各ラインが接続されるベースライン部210と、を備えている。
【0015】
各ライン204〜208を構成するチューブの材質や、長さおよび径については、そのチューブに加わる圧力等を考慮して適宜選択すればよい。心臓カテーテル検査においては、比較的高圧で薬液が注入されることとなるため、高い圧力がかかる部分に関しては、高耐圧のチューブで構成されていることが好ましい。同様に、後述するデュアルチェックバルブ215A、215Bおよびリリースバルブ202A、202B等も高耐圧のものであることが好ましい。
【0016】
「ベースライン部210」とは、
図1に示すように、上記各ライン204〜208が接続される部分のことを指し、チューブ、バルブおよびコネクタ等で構成されている。この例では、ベースライン部210の上流側にシリンジライン204が接続されるとともに、下流側に患者ライン208が接続されている。ベースライン部210の中間部には、上流側から順に、造影剤ライン205、生理食塩水ライン206、およびトランスデューサライン207が接続される。これらのライン205〜207はそれぞれ、ベースライン部210に対してT字状に接続されている。
【0017】
本実施形態では、造影剤ライン205および生理食塩水ライン206は、それぞれ、デュアルチェックバルブ215A、215Bによってベースライン部210に接続されている。2つのデュアルチェックバルブ215A、B(詳細下記)は、一例として、同一のものを利用してもよいし、または、機能が異なる別々のものを利用してもよい。
図1では、一例として、同一のものが利用されている。
【0018】
デュアルチェックバルブ215A、215Bは、下記のような機能を有する弁である(
図2Aも参照):
(i)液体がベースライン部210の上流側(すなわち、シリンジ251側)に向かって引かれた場合には、液体がその方向に流れるのを許容する。
(ii)一方、デュアルチェックバルブ215Aに関しては、液体がベースライン部210の上流側から下流側に向けて押された場合には、該バルブ215Aを通過して下流側へと液体が流れる。デュアルチェックバルブ215Bに関しては、同様に液体が下流側に向けて押された場合、もしくは、生理食塩水ライン206側から該バルブ215B側に向けて押された場合に、それらの方向に液体が流れる。
【0019】
また、デュアルチェックバルブ215A、215Bは、
図2Aに示すように、下流側から上流側への流れ、およびライン205、206側に向う流れ、を制限する。
【0020】
なお、
図1では、デュアルチェックバルブ215Bの上流にもう1つのバルブ215Aが配置されておりこのバルブ215Aによって液体の上流側への流れは制限されているため、この回路では、生理食塩水が上流側に向かって引かれることはない。
【0021】
トランスデューサライン207は、
図1に示すように、一例として弁機能の無いコネクタ217によってベースライン部210に接続されている。このコネクタ217とデュアルチェックバルブ215Bとの間には三方活栓213が設けられている。ただし、この三方活栓213の配置位置は必ずしもこれに限定されるものではない。
図2Cに示すように、活栓213を、患者ライン208のエアセンサ232(詳細下記)より下流に配置してもよい。
【0022】
なお、三方活栓213は、一例として、そこに接続される3つのラインのうちレバーの方向に沿う1つが閉塞されるもの(例えば、
図1の状態では、下向きに延びる不図示のラインへの液体の移動が阻止される)であってもよい。このような三方活栓は、術者がライン中の液体を、必要に応じて、外部に排出する場合などに用いられる。
【0023】
次に、各ライン204〜208に接続される機器等について説明する。なお、これらの機器は従来公知のものを利用可能であるため、詳細な説明は省略するものとする。
【0024】
シリンジライン204が接続されるシリンジ251としては、例えばその容量が数十ml〜200ml程度のものであってもよく、また、高圧注入を実施できるものであることが好ましい。必要に応じて、シリンジ251を覆う保護カバーが用いられてもよい。シリンジ251は、筒状のシリンダ部材と、そのシリンダ部材内にスライド自在に挿入されたピストン部材(プランジャロッド)とを有している。なお、ピストン部材はいわゆるロッドレスタイプのものであってもよい。
【0025】
シリンジ251が取外し可能に装着されるインジェクタ(注入ヘッド)260は、限定されるものではないが、例えば高圧注入を行うことができるタイプであることが望ましい。インジェクタは、駆動源であるモータと、前後に移動するプレッサー部材とを有している。プレッサー部材を引くことで、シリンジのピストン部材が引かれてシリンジ内に薬液が充填される、一方、プレッサー部材を押すことで、シリンジ内の液体が外部に押し出される。
【0026】
造影剤ライン205が接続される造影剤チャンバ221は、一例として造影剤が充填されたボトル状の容器であってもよい。造影剤チャンバ221は、不図示の吊り具に吊り下げられて使用されるものであってもよく、この造影剤チャンバ221の下部に造影剤ライン205が接続される。この接続は、ニードルを介して行われるものであってもよい。
【0027】
図1に示すように、造影剤チャンバ221の下方には、造影剤ライン205内の液体に空気が混入しているか否かを検出するためのエアセンサ231(例えば赤外線センサ)が配置されている。このエアセンサ231でライン内の空気を検知することにより、チャンバ内の薬液が無くなったことを検出することができる。エアセンサ231の下方であって、造影剤ライン205上には点滴用チャンバ233が配置されており、造影剤チャンバ221からの造影剤は一旦このチャンバ233内に滴下し、このチャンバ233内から造影剤ライン205内へと流れるようになっている。
【0028】
生理食塩水ライン206が接続される生理食塩水チャンバ223は、一例として造影剤が充填されたバッグ状の容器であってもよく、この例ではさらに、バッグを加圧するための加圧手段224を備えている(このような構成のものを「加圧バッグ」ともいう)。加圧バッグは市販のものを利用してもよい。加圧手段224は、限定されるものではないが、空気などの流体を駆動源としてバッグを圧縮するものであってもよいし、または、モータ等を駆動源としてバッグを圧縮するものであってもよい。造影剤ライン205と同様、生理食塩水ライン206にも同様のエアセンサ231および点滴用チャンバ233が配置されている。なお、生理食塩水を加圧するための機構は上記に限定されるものでないが、他の構成については後述するものとする。
【0029】
生理食塩水ライン206には、そのライン206の開閉を切り替えるためのリリースバルブ202Aが設けられている。リリースバルブ202Aの具体的な一構成例については
図11〜
図19を参照して後述する。リリースバルブ202Aは、外力を受けて移動する可動部材203を有し、その可動部材203を移動させることによって開弁/閉弁状態が切り替わり生理食塩水ライン206を開閉する。本実施形態では一例として、可動部材203を押すことによりバルブ202Aが開き、加圧バッグからの生理食塩水がベースライン部210側へと流れるように構成されている。
【0030】
次に、トランスデューサライン207に接続される機器等について説明する。このライン207に接続されるトランスデューサ270は、一例として、血圧を検出して患者の脈をモニタリングできるようにするものである。一例として、脈の波形はトランデューサ270に接続されたディスプレイ271に表示されるように構成されている。
【0031】
トランスデューサライン207にも、生理食塩水ライン206のリリースバルブ202Aと同様のリリースバルブ202Bが設けられている。ただし、その向きはリリースバルブ202Aとは逆向きである。このリリースバルブ202Bでは、可動部材203を押すことにより、薬液がトランスデューサ270側に流れることができる状態となる。
【0032】
なお、
図1の例では、トランスデューサライン207のリリースバルブ202Bとトランスデューサ270との間に、三方活栓213が配置されている。また、一方のリリースバルブ202Aの可動部材203と他方のリリースバルブ202Bの可動部材203とが互いに向かい合った配置となっている。さらに、後述する切替機300の構成に対応するように、ベースライン部210から各バルブの可動部材203、203までの距離(L
1、L
2)が同一とならないように配置されている。
【0033】
患者ライン208の先端部にはカテーテル(不図示)とよばれる細い管が接続され、このカテーテルは患者の血管内に挿入される。心臓カテーテル検査においては、カテーテル先端は例えば冠動脈などにまで移送され、このカテーテル先端から造影剤等が血管内へ注入される。
【0034】
続いて、
図2Bを参照して、
図1の液体回路キット201の一部を保持してその流れを適宜切り替えるための切替機300について説明する。この切替機300は、一例として箱状のハウジング310を備える。切替機300は、生理食塩水ライン206の一部を保持するための第1の保持部306と、トランスデューサライン207の一部を保持するための第2の保持部307とを有している。これらの保持部306、307は凹状に形成され、その内部に各ラインのリリースバルブ202A、202Bがセットされるように構成されている。
【0035】
切替機300のハウジング310内部には、例えばモータを駆動源として電気機械的に各バルブ202A、202Bの可動部材203、203を押す駆動部301、301が設けられている。この駆動部301、301は、外部のコントローラ350からの制御信号に応じて動作するように構成されていてもよい。このコントローラ350の機能は、特に限定されるものではないが、インジェクタ260が有していてもよい。
【0036】
切替機300はまた、患者ライン208の一部を保持する第3の保持部308およびその患者ライン208内の気泡の有無を検出するためのエアセンサ332を有している。このエアセンサ332は、一例として超音波式のものであってもよい。超音波式のセンサ332は、赤外線式のもの等に比べて、高圧条件下で液体に気泡が混入した場合であってもそれらを良好に見つけることができる点で有利である。
【0037】
上記のように構成された本実施形態の液体回路キット200の使用方法について、以下、説明する。
【0038】
図3は初期状態を示しており、この状態では、リリースバルブ202A、202Bの可動部材203、203は押されておらず液体が双方向には流れない状態となっている。
図3の状態で、インジェクタ206の所定のボタン(エアクリア用ボタン)を術者が押すと、そのピストン駆動機構が動作してシリンジ251のピストン部材を引く。これにより、シリンジ251およびシリンジライン204内が負圧となり、造影剤ライン205およびデュアルチェックバルブ215Aを経由して、チャンバ221内の造影剤がシリンジライン205、204およびシリンジ251内に引き込まれる。
【0039】
次いで、
図4に示すように、今度はシリンジ251のピストン部材を押し、シリンジ251内から造影剤を押し出す。流体は、シリンジライン204を通ってベースライン部210側へと送られ、2つのデュアルチェックバルブ215A、215Bを通過してベースライン部210を満たしていく。この造影剤の押出し動作は、
図4に示すように、造影剤が少なくともデュアルチェックバルブ215Bを超える程度に押し出されるまで、続けられる。
【0040】
次いで、
図5に示すように、リリースバルブ202Aの可動部材203およびリリースバルブ202Bの可動部材203を押し、両バルブ202A、202Bを開放する。この開放は、切替機300の駆動部301、301が各可動部材を押すことによって自動で行われる。この時点では、生理食塩水チャンバ223の加圧手段224が駆動され、生理食塩水に所定の圧力(例えば300mmHg程度)が加わった状態となっている。したがって、バルブ202Aの開放により、生理食塩水はチャンバ223側からベースライン部210に向かって流れ、リリースバルブ202Aおよびデュアルチェックバルブ215Bを通過して、患者ライン208側へと流れる。造影剤はさらに、三方活栓213を通過するとともにコネクタ217のところで分岐して、一部は患者ライン208内へと流れ、他の一部はトランスデューサライン207内へと流れ込む。ここで、リリースバルブ202Bは開放されているので、生理食塩水は、リリースバルブ202Bを超えてトランスデューサ270に向かって流れる。このように各ラインを生理食塩水で満たすことによりライン中の気泡が外部へと除去される。
【0041】
次いで、
図6の示すように、生理食塩水ライン206のリリースバルブ202Aの可動部材203を押圧するのを解除し、生理食塩水がリリースバルブ202Aを超えて下流側に流れない状態とする。また、次の造影剤注入工程で造影剤がトランデューサ270側に流れ込まないように、トランスデューサライン207のリリースバルブ202Bの可動部材203ついても押圧を解除し、造影剤等がリリースバルブ202Bを超えてトランスデューサ側に流れない状態とする。
【0042】
次いで、インジェクタ206のピストン駆動機構を動作させてシリンジ251のピストン部材を押すことで、
図7に示すようにシリンジ251内の造影剤を患者に向けて押し出す。具体的には、造影剤は、造影剤ライン204、ベースライン部210、患者ライン208、および不図示のカテーテルを通って、患者体内の所定の撮像部位(一例として、心臓の冠動脈など)へと送られる。
【0043】
次いで、造影剤を注入し終わり回路内の残圧が十分に低下した後、
図8に示すように生理食塩水ライン206のリリースバルブ202Aの可動部材203を押して、バルブを再び開放する。前述した工程と同様、この時点では、加圧バッグの加圧手段224によって生理食塩水に所定の圧力(例えば300mmHg程度)が加わった状態となっているので、
図8に示すように生理食塩水は、ベースライン部210および患者ライン208へと送り出され、造影剤のフラッシュが行われる。
【0044】
次いで、必要に応じてさらに
図9に示すように、トランスデューサライン207のリリースバルブ202Bを開放し、これにより、リリースバルブ202Bよりもトランスデューサ側にも生理食塩水を流し、この領域についても生理食塩水によるフラッシュを行う。
【0045】
その後、
図10に示すように、生理食塩水ライン206のチェックバルブ202Aの可動部材203の押圧を解除し、生理食塩水がバルブ202Aを超えてベースライン部210側に流れない状態とする。これにより、ベースライン部210よりも下流側の生理食塩水の加圧状態が解除される。その結果、
図10に示すように、患者ライン208とトランスデューサライン207とを通じて血液ルートが確立され、トランスデューサ270によって血圧を検出できる状態となる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の液体回路キット201は、造影剤ライン205、生理食塩水ライン206、シリンジライン204、患者ライン208、およびベースライン部210を備えており、かつ、造影剤ライン205とベースライン部210との接続部および生理食塩水ライン206とベースライン部206との接続部には液体の流れを所定方向に規制するデュアルチェックバルブ215A、215Bが設けられている。したがって、術者が三方活栓を手で切り替えたりする作業を要することなく、シリンジ251内への造影剤の吸引(
図3)およびそれに続く造影剤の送出(
図4)などを良好に実施することができる。
【0047】
また、本実施形態の液体回路キット201は、生理食塩水ライン206にリリースバルブ202Aが設けられている。特に、このリリースバルブ202Aは、可動部材203を押すことで開閉を切り替えるものであるので、例えば三方活栓のようなレバーをひねることで開閉を切り替えるタイプと比較して切替動作を行い易い。具体的には、モータ等のアクチュエータを利用した、切替機による自動的な切替を行い易いという利点がある。さらに、このような可動部材203の移動は、レバーをひねる場合と比較して短時間で実施可能である。また、本実施形態のようにリリースバルブ202A、202B自体の機能によって流路を閉塞する構成の場合、例えばチューブをつぶして閉塞するものと比べてより確実に閉塞を行うことができる。
【0048】
さらに、本実施形態の構成では、リリースバルブ202Bを用いてトランスデューサライン207を良好に閉塞することができるため、心臓カテーテル検査といった高圧の注入を行う場合であっても、高圧の液体のトランデューサ270側への流入を防止でき、ひいてはトランスデューサ270の破損、損傷を未然に防ぐことができる。
【0049】
本実施形態の液体回路キット201は、一例として、造影剤ライン205、生理食塩水ライン206、シリンジライン204、トランスデューサライン207、患者ライン208、およびベースライン部210を1つのセットとして、ディスポーザブルとして用いられるものであってもよい。すなわち、液体回路キット200は複数回使用することも可能であるが、感染症などの防止を目的として、一人の患者に対する使用が終った時点で新しいものに交換されてもよい。この場合、生理食塩水ライン206および造影剤ライン205の点滴用チャンバ233、233(一方のみでも可)も含めて、ディスポーザブルとしてもよい。
【0050】
また、本実施形態の液体回路システムは、上記液体回路キット200を利用するものであり、シリンジ251を搭載して液体の吸引および注入(送出)を行うインジェクタと、液体回路キット200の所定のラインの開閉を自動で切り替える切替機300とを備えている。このようなシステムによれば、術者が三方活栓を切り替えたりする作業を要することなく、造影剤および生理食塩水の一連の注入動作を適切に行うことができ、必要に応じて、全ての工程を自動で行うことも可能となる。
【0051】
本発明は上記に説明した形態に限定されるものでない。例えば、生理食塩水を押し出す構成として、加圧バッグの代わりに、チューブを連続的に押しつぶしてチューブ内の生理食塩水を所定方向に流すチューブポンプを利用してもよい。または、小型のシリンジのピストン部材を往復移動させることで生理食塩水の吸引と押出しを繰り返す装置を用いることもでき、この装置は、カム機構および付勢部材(例えばバネ)を利用するものであってもよい。
【0052】
〔リリースバルブの具体的な一例〕
図1の液体回路システム200に利用可能なリリースバルブ202A、202Bは、具体的には下記のようなものであってもよい。なお、以下、
図11〜
図19を参照しつつリリースバルブの一構成例について説明するが、本発明は下記する工程に限定されるものではない。また、下記では、リリースバルブ220A、220Bに相当するものを「一方弁1」として説明する。可動部材223は「可動ピン60」に相当する。
【0053】
なお、
図11〜
図19に示す一方弁は、薬液の一方向への移動のみを許容する一方弁の状態と、双方向への移動を許容する開放状態とが切り替わるものであるが、
図1のリリースバルブとしては、液体の移動を完全に遮断する閉塞状態と、双方向への移動を許容する開放状態(液体が流れる方向は液体の圧力差に依存する)とが切り替わるものであってもよい。
【0054】
図11に示す本実施形態の一方弁1は、主に医療用の液体回路に利用されるものである。特には、この一方弁1は高い耐圧性能を有し、例えば心臓カテーテル検査に使用可能なものである。一方弁1は、
図11、
図12に示すように、弁室10を構成するケーシング50と、その弁室10内に配置される円板状の弁体25と、ケーシング50の一部に移動可能に保持された可動ピン60と、その可動ピン60を覆うようにケーシング50に取り付けられるキャップ70と、を備えている。
【0055】
この一方弁1には、供給チューブP1および排出チューブP2が接続される。一方弁1は、基本的には、供給チューブP1から排出チューブP2へと向かう流れのみを許容し、可動ピン60が押されている間のみ双方向の流れを許容する。なお、薬液の流れる方向はチューブP1、P2内の薬液の圧力に依存するものであるため、所定の圧力条件の下では、上記以外の流れ方向も可能である。一例として、P2側の液圧がP1側より高いような条件下では、可動ピン60が押されていない状態では薬液は流れず、押されている間のみP2側からP1側に向かって薬液が流れることとなる。
【0056】
限定されるものではないが、ケーシング50、可動ピン60、キャップ70、および後述する支持部材21の各部品は一例として樹脂成形品であってもよい。
【0057】
ケーシング50は、
図11、
図12に示すように、供給チューブP1が接続されるケーシング本体40と、排出チューブP2が接続される略円筒形状のクロージャー部材30とを有している。クロージャー部材30がケーシング本体40に取り付けられると、両部材間に弁室10が形成される。弁室10の上流側には、薬液を弁室内に供給するための入口部11が形成され(
図12)、下流側には、薬液を外部へと送り出すための出口部13が形成されている。
【0058】
弁室10は概ね横向き円柱状のような形状であって、その下流側は、出口部13側に向かって断面積が徐々に小さくなるようなテーパ状となっている。弁室10内には、入口部11を開閉するための弁体25(詳細下記)や、その弁体25を押さえる支持部材21(詳細下記)が配置される。
【0059】
図15を参照してケーシング本体40の形状を詳細に説明する。ケーシング本体40は、
図15に示すように、弁室10を構成する円筒状(一例)の本体部41と、その上流側に設けられた本体部41よりも細い円筒状部分であって供給パイプP1が連結されるチューブ保持部48とを有している。ケーシング本体40の材質は、限定されるものではないが、弁内部が見えるように透過性を有するものであってもよいし、または、非透過性のものでもよい。
【0060】
チューブ保持部48の内部には供給チューブP1の端部が差し込まれる。液圧が上昇してもチューブが外れないように、供給チューブP1は従来公知の方法によって十分な強度でチューブ保持部48内に接続される。供給チューブP1の接続を作業性良く行うことができるように、チューブ保持部48に1つまたは複数のリブが形成されていてもよい。この例では、円筒部49の上部および下部に、径方向に張り出したリブ49f、49fが1つずつ形成されている。
【0061】
本体部41は、
図15、
図16に示すように、円筒を横向きにしたような形状であり、その内部に弁体25(
図11参照)およびそれを押さえる支持部材21が配置される(これらの部材については詳細下記)。
図16に示すように、本体部内の壁面41hの一部には、薬液を供給するための入口部11が形成されている。
【0062】
この例では、入口部11には、壁面41hを部分的に窪ませるように形成した凹部11a(
図14、
図16参照)が設けられており、この凹部11aに流路11cが連通している。
図14に示すように、凹部11aと流路11cの境界部分にはチャンファー面11bが形成されている。また、
図16に示すように凹部11aの輪郭形状は円形であり、凹部11a内には、一例として3つのリブ43Raが形成されている。これらのリブ43Raは、放射状に、互いに等間隔に形成されている。リブ43Raは、弁体25の前面を支持する役割を果たす(詳細下記)。
【0063】
図16に示すように、入口部11の周囲には、弁体25の外周部を支持するための複数の支持リブ43Rbが形成されている。一例として、6つの支持リブ43Rbが、互いに等間隔で放射状に配置されている。
【0064】
弁体25は、
図11に示すように、一例として円板状であり可撓性を有している(可撓性を有していない弁体については後で再度説明する)。弁体の厚みは均一であってもよい。弁体の材質は、例えばシリコーンゴムであってもよく、その硬度は一例で5°以上90°以下の範囲、好ましくは40°以上80°以下の範囲、さらに好ましくは60°以上80°以下の範囲であってもよい。弁体25は、入口部11を閉塞できる程度の直径を有している。
【0065】
弁体25を押さえるための支持部材21は、
図18に示すように、リング状のフレーム27と、その中心部に配置された略コーン形状(円錐形状)の押さえ部23と、押さえ部23とフレーム27とを繋いで押さえ部23を支持する4本(一例)の支持アーム26を有している。押さえ部23は弁体25の方向に向かって突出しており、その先端部で、弁体25の背面の中心部付近を押さえる。
【0066】
支持部材21によるこのような支持方法によれば、弁体25の外周部付近が拘束されていないため、自由に弾性変形可能となる。弁体25は、基本的には、
図12に示すように入口部11を塞ぎ、弁室10から供給パイプP1側に向かう流れを阻止する。一方、供給パイプP1から薬液が供給される場合には、その液圧によって弁体25の外周部が弾性変形し、これにより薬液の弁室10内への薬液の流入を許容する。
【0067】
再び支持部材21の説明に戻る。
図18に示すように、支持部材21は、仮に弁室内に気泡が混入した場合であってもその気泡を弁室外に良好に排出できるように、各部の形状がR状またはテーパ状に設けられている。具体的には、各支持アーム26の流れ方向上流側にはなだらかなR形状が形成されている。また、フレーム27に関しても、流れ方向上流側ほどフレームの板厚が薄くなるようなテーパ形状となっている。このような構成よれば、支持アーム26やフレーム27の断面形状が単純な矩形の場合と比較して、気泡が下流側に流れ易いという利点がある。
【0068】
なお、気泡を取り除く作業としては、限定されるものではないが、例えば一方弁1全体を排出チューブP2側が上となるように起こして、ユーザーが手または所定の道具を用いて軽く弁を叩くことによって気泡を下流側に逃がすものであってもよい。ケーシング40の材質が透明の場合、ケーシング内に気泡が残っているか否かを良好に視認することができる。さらに、本実施形態のように弁室10の下流側が出口部13に向かって断面積が徐々に小さくなるテーパ状に形成されている場合、気泡を良好に外に逃がすことができる。
【0069】
上記構成の変形例しては、各支持アーム26のR形状に代えて、その断面形状を、流れ方向上流側ほど板厚が薄くなるようなテーパ状としてもよい。また、フレーム27にR形状が設けられていてもよい。
【0070】
再び
図12を参照する。支持部材21は、その外周部がケーシング本体40とクロージャー部材30との間に挟まれて支持される構成となっている。このような構成によれば、支持部材21を固定するための専用の部品または構造を設ける必要がない。また、支持部材21が弁室10内で回転するのを防止するために、
図15、
図18に示すように、フレーム27の外周部に突起27aが形成され、この突起27aがケーシング本体内の長手方向溝43gに係合するようになっていてもよい。
【0071】
なお、弁室10内に気泡を滞留させないために、本実施形態では可動ピン60の先端形状も所定の形状を有しているが、これについては後述する。
【0072】
次いで、可動ピン60およびそれが配置される構造部について説明する。
図12に示すように、可動ピン60が配置される収容スペース15は、ケーシング本体40の外筒部45(詳細下記)とそれに取り付けられるキャップ70とによって形成されている。
【0073】
キャップ70は、
図12、
図19に示すように全体として略有底筒状であって、この例では、平坦な上面部71と、その周辺部から下向に延び出した円筒状の周壁部73とを有している。上面部71には1つの開口部が設けられており、ここを通って可動ピン60の一部が外部へと突出している。
図19に示すように、周壁部73の内面には凸部76(一例として断面形状が矩形)が形成されている。この例では、凸部76は周壁部73の両側に1つずつ設けられている。
【0074】
本実施形態では、使用時に薬液に高い圧力が加わったとしてもキャップ70および可動ピン60が外れないように、キャップ70は十分な強度でケーシング本体40に取り付けられる。キャップ70を固定するための手段としては、例えば、接着剤にまたは溶着などを利用してもよいが、機械的な固定手段がより好ましい。機械的な固定手段としては、例えば、一方の部材の凸部が他方の部材の凹部に嵌合するもの、ネジ部どうしが螺合するもの、または、ネジもしくは固定ピンといった追加の固定具を利用して両部材を固定するものであってもよい。
【0075】
本実施形態では、一例として、キャップ70の内側の凸部76(
図19参照)が、ケーシングの外筒部45の外周に形成されたL字の溝45g(
図14参照)に係合する構成となっている。このような固定方式によれば、キャップ70を十分な強度で、しかも位置精度よく固定することができる。なお、必要であれば、キャップ70を外筒部45に取り付けられた後、接着剤等でさらなる固定を行ってもよい。
【0076】
次いで、可動ピン60について説明する。可動ピン60は
図17に示すように、一例として円形の断面形状の軸部61と、その一部に形成されたフランジ部67を有している。軸部61の先端側(下端側)には、弁体25に当接する作用部63が形成されている。
【0077】
作用部63は、
図14に示すように、弁体25の外周部を壁面41hから浮き上がらせることができるようにくさび形状に形成されている。具体的には、作用部63は、弁体25と壁面41hとの間に入り込む突出部63aと、その突出部63aの下流側に形成された平坦部63bとを有している。この平坦部63は、
図14の破線で示すように可動ピン63が上方に位置している状態で、弁室10の上面と同一面またはそれより突出するように構成されていることが好ましい。仮に、この平坦面63が弁室の上面よりも窪んだ位置となる場合、この部分に気泡が滞留してしまうおそれがあるが、上記構成とすれば、気泡を良好に下流側に流すことができる。
【0078】
再び
図17を参照すると、軸部61にはOリングR1(詳細下記)を嵌めるための環状溝61cが形成されている。フランジ部67はその環状溝61cより上方に形成されており、フランジ部67に円弧形状のガイド孔67aが4つ形成されている。軸部61の上端は、ユーザーによって、または、所定の機構によって押される部分であり、上端外周のコーナー部はR形状とされている。
【0079】
図5に示すように、可動ピン60は、ケーシング本体41の外筒部45内に配置される。外筒45の内側には内筒部46が形成されており、この内筒部46は断面形状が円弧形状の4つの壁片46aで構成されている。可動ピン60を外筒部45内にセットすると、各壁片46aが可動ピンの各ガイド孔67aに通された状態となる。各壁片46aは、可動ピン60の上下方向の動きをガイドする部材として機能するとともに、可動ピン60が中心軸周りに回転するのを防止する役割を果たす。
【0080】
上記のように構成された可動ピン60は、
図12、
図13に示すように、上下動できるように構成されている。まず、可動ピン60が第1の位置(上方位置)にある
図12の状態について説明する。
【0081】
この状態では、可動ピン60のフランジ部67の下方に配置されたコイルばね68の付勢力によって可動ピン60が上方に持ち上げられ、フランジ部67の上面がキャップ70の内面に押し付けられている。フランジ部67はキャップ70の開口部よりも大径に形成されているので、可動ピン60がキャップ外へと抜けることはない。本実施形態では、フランジ部67の上面およびキャップ70の内面がいずれも平坦面であって両部材が面で接触するようになっているので、キャップ70は、フランジ部67からの力を均一に受けることができる。
【0082】
可動ピン60がこの第1の位置にあるとき、可動ピン60の作用部63は弁体25から離れ、弁体25は入口部11を閉塞する。この状態では、一方弁1は、供給チューブP1側から排出チューブP2側への流れのみを許容する一方弁として機能する。なお、上述したように、薬液の流れる方向はチューブP1、P2内の薬液の圧力に依存するものであり、例えば、P2側の液圧がP1側より高いような液体回路で弁1を使用する場合には、可動ピン60が押されていない状態では薬液は流れず、押されている間のみP2側からP1側に向かって薬液が流れることとなる。本実施形態の一方弁1はこのように薬液の流れが特定方向に限定されるものではない。
【0083】
一方、
図13では、可動ピン60が下方に押され、第2の位置(下方位置)に移動している。可動ピン60は、コイルばね68の付勢力に抗しながら押し下げられ、
図13の位置まで移動した状態では、可動ピン60の作用部63が弁体25と壁面41hとの間に入り込み(
図14)、弁体25の外周部が弾性変形し、これにより入口部11が開放される。その結果、薬液が双方向に流れることができるようになる(いずれの方向に流れるかはP1、P2内の液圧に依存する)。
図13の状態で可動ピン60を押すのをやめると、コイルばね68の付勢力によって可動ピン60が再び第1の位置に戻り、弁体25が元の形状に戻って入口部11が閉塞され、弁1が一方弁として機能する状態となる。
【0084】
上述のとおり、本実施形態の一方弁1では、可動ピン60を押すことにより、弁の連通状態を適宜切り替えることができる。可動ピン1を押す手段は特に限定されるものではなく、例えば、ユーザーが手でまたは所定の道具を用いて可動ピン60を押してもよいし、所定の機構が可動ピン60を押すものであってもよい。
【0085】
図12、
図13を参照しつつ、弁の組立状態について説明を追加すると、可動ピン60にはOリングR1が嵌められ、これにより、可動ピン60と内筒部46との間のシール性が確保されている。このような構成の場合、OリングR1からの力を受けて、内筒部46に径方向外向き力が加わることになるが、本実施形態では、
図13に示すように、内筒部46を構成する各壁片46aの先端がキャップ70の上面部71の内面に形成された係止溝71gに嵌るように構成されている。したがって、内筒部46の先端側が拡がることが防止され、その結果、使用時においてもOリングR1によるシール性が良好に保たれる。
【0086】
一方弁1を構成する各部品の具体的な材質は特に限定されるものではないが、一例として、可動ピン60は摺動性の良いポリアセタール樹脂(POM)であってもよい。ケーシング50を構成する部品は、一例としてポリカーボネート樹脂(PC)であってもよい。また、必要に応じて、弁体25の外周面(特には、壁面41hに対向する面)に微細な凸凹形状が施されていてもよい。
【0087】
以上説明したように本実施形態の一方弁1は、可動ピン60を動かすことで一方弁としての機能を一時的に解除することが可能である。そして、この可動ピン60は収容スペース15内に配置されており、可動ピン60はキャップ70から抜けないように構成されている。したがって、仮に、使用時に薬液の圧力が上昇し可動ピン60に対して同ピンを押し出すような向きの大きな力が加わったとしても、その力はフランジ部67を介してキャップ70によって受け止められるので可動ピン60が外れることはない。よって、本実施形態の一方弁1は、薬液の高圧注入に良好に対応することができる。
【0088】
また、本実施形態では、キャップ70が機械的固定手段(45g、76)を用いてケーシング50に固定されている。そのため、例えば接着剤のみを用いてキャップ70を固定するものと比較して、十分な強度で、しかも位置精度よくキャップ70の固定を行うことができる。
【0089】
また、本実施形態では、弁室10の入口部11に
図16に示すような凹部11aが形成されているため、弁体25を僅かに変形させるだけで確実に入口部11を開放させることができる。すなわち、もしこのような凹部11aが形成されていない場合、入口部11を開放するためには中央の流路11cが開放される程度にまで弁体25を変形させる必要がある。これに対して本実施形態の構成によれば、
図16に示すように、弁体25の外周部が変形した時点で凹部11aが開放されそれに連通する流路11cも開放された状態となるので、弁体25の僅かな変形で入口部11の開閉を行うことが可能となる。
【0090】
一方、このように凹部11aを設けた場合、弁の使用時に弁体25の背面に加わる液圧が問題となる。すなわち、弁1をどのような液体回路内で使用するかによっても異なるが、仮に使用時に弁室10内の液圧が非常に高くなるような場合、その液圧によって弁体25が凹部11a側へと押し付けられることが想定される。この場合、もし凹部11a内に支持リブ43Raが設けられていないと、弁体25が凹部11aに張り付いたような状態となりうる。この状態では、可動ピン60の作用部63を弁体25と壁面41hとの間に押し込んだとしても、入口部11が十分に開放されない可能性がある。これに対して本実施形態のように、凹部11a内に支持リブ43Raが形成されていれば、弁体25が凹部11aに張り付いたような状態となることが防止され、可動ピン60の操作によって良好に入口部11を開閉できるようになる。なお、支持リブ43Raは必ずしも
図16に示したような形状に限定されものではなく、凹部11aの底部から突出する任意の形状の突起が形成されていてもよい。
【0091】
以上、図面を参照して本発明の一形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではなく、種々変更可能である。
例えば、上記では、弁体25が可撓性を有するものであってその外周部が弾性変形する例を説明したが、弁体25は可撓性を有していなくても良い。例えば、弁体は、可撓性のないプレート状の部材であって、(a)入口部11を閉塞する位置と、(b)入口部11を開放する位置との間で変位可能に構成されていてもよい。可動ピン60を押した場合に、この弁体は(b)の位置へと変位し、これにより入口部11が開放される。この場合、支持部材21は、少なくともその押さえ部23が弾性を有し、その押さえ部が弾性的に縮むことで上記弁体の変位を許容する構成としてもよい。
【0092】
支持部材の押さえ部の形状は、円錐型に限定されるものではなく、例えば円錐台型であってもよく、このような形状とすることでより広い面積で弁体が押さえられることとなる。
【0093】
キャップ70は、一方弁1の使用時に可動ピン60が抜けないように十分な強度でケーシング50に固定されるものであれば、その形状は特に限定されるものではなく、有底筒状以外の形状としてもよい。
【0094】
可動ピン60としては、外部からの力を受けて移動しそれにより弁体25を動かすものであれば、その形状は限定されるものではなく、ピン形状以外の形状を有していてもよい。本実施形態のようにピン形状とする場合、その断面形状は、円形に限らず、矩形および多角形等であってもよい。また、可動ピン60の抜けを防止するための構造として、上記実施形態では可動ピン60のフランジ部67がキャップ70の上面に当接するものを例示したが、抜け防止のための構造はフランジに限らず、可動ピン外周に設けられた単なる突起などであってもよい。また、可動ピン60をユーザーが手で押しやすくするために、可動ピン60の突出部に追加のキャップ(不図示)が取り付けられてもよい。
【0095】
上記例では、ケーシング50がケーシング本体およびクロージャー部材30で構成されていたが、ケーシングは弁室10を形成するものであれば、その部品点数や形状は限定されるものではない。
【0096】
弁体25は、円形の輪郭形状のものに限らず、楕円形、矩形、多角形等の輪郭形状を有していてもよい。また、上記では弁体25の厚みが一定のものを想定したが、弁体25の厚みが部位によって異なっていてもよい。
【0097】
(弁の他の機能)
さらに、本発明の他の形態に係る一方弁は次のようなものであってもよい。
【0098】
液体の入口および出口を有する弁室を構成するケーシングと、
前記弁室内において前記入口を閉塞するように配置されるとともに、該入口を開放するために弾性変形可能または変位可能に構成された弁体と、
前記ケーシングに移動可能に保持された可動部材であって、移動することによって前記弁体に当接してその弁体を弾性変形または変位させる可動部材と、
を備え、
前記可動部材を押すと、その移動量に対応する量の薬液が、前記出口を通じて弁室外に押し出される、開放機能付き一方弁。
【0099】
図13を参照してこの弁について説明する。この弁は、可動ピン60を押した際に、その移動量に対応した少量の薬液が弁室10内から押し出されるように構成されている。一方、可動ピン60を押すのをやめると、コイルばね68によって可動ピン68が元の位置に戻るとともに、弁体25が一時的に変形して弁室10内に再度薬液が補充される。このように、可動ピン60の操作で少量の薬液を押し出せる機能は、特に、例えば心臓カテーテル検査で造影剤を注入する場合に有効である。すなわち、この種の検査では、患者の血管内にカテーテルが挿入されることとなるが、一方弁が上記のような機能を有している場合、カテーテルの先端から少量の造影剤を出すこと可能となり、その結果、例えば、カテーテル先端が現在患者体内のどの部位にあるかの確認を良好に実施できる。
【0100】
(PIT式のポンプ装置について)
本発明に係る薬液回路システムにおいては、生理食塩水用の加圧手段224(
図1)に代えて、
図20のようなポンプ装置226を利用してもよい。
図20では、薬液回路システムの一部のみを示している。三方活栓213より下流の構成については
図1と同様のものを使用可能である。
【0101】
このポンプ装置226は、例えば特許第3626264号に開示されたような方式のものである。ポンプ装置226は、小型のシリンジ226aを搭載する本体部227と、そのシリンジ226aのピストン部材を進退・後退させるピストン駆動機構(不図示)を備えている。
【0102】
このポンプ装置226による生理食塩水の輸送を実現するために、
図20の構成では、回路の一部が
図1のものから変更されている。具体的には、チェックバルブ215A、215Bの代わりコネクタ215C、215Dが使用されており、両コネクタ間に一方弁V−1が配置されている。なお、一方弁V−1は、
図20の三角マークで示すように、下流側への流れは許容しその逆方向の流れは許容しないように配置されている。他の一方弁の流れ規制方向に関しても、これと同様に
図20の三角マークの方向に従う。
【0103】
コネクタ215Cと造影剤チャンバ221とを結ぶライン205上には、チャンバ221に近い側から順に、接続コネクタ234、点滴用チャンバ233、エアセンサ231、一方弁V−2が配置されている。なお、これらの構成要素234、233、231の配置については適宜変更可能である。
【0104】
コネクタ215Dと生理食塩水チャンバ223とを結ぶライン206は途中で2つに別れており、その一方がライン206であり、他方がポンプ装置226へと向かうライン209である。
図20に示すように、ライン206には2つの一方弁V−3、V−4が配置されている。
【0105】
コネクタ215Dと三方活栓213との間にも、一方弁V−5が1つ設けられている。なお、一方弁V−5は省略されてもよい。一方弁V−5がある場合、該一方弁よりも下流の回路をディスポーザブルとしてもよい。あるいはい、一方弁V−5の有無に関わらず、コネクタ215Dよりも下流の回路をディスポーザルとしてもよい。
また、三方活栓213に薬液チューブ(不図示)が接続され、その薬液チューブ経由で患者に向けて薬液を注入するようにしてもよい。
【0106】
上述のように構成された
図20の薬液回路システムでは、ポンプ装置226を動作させて小型シリンジ226aのピストン部材を進退移動させることで、(i)チャンバ223からシリンジ226a内への生理食塩水の吸引と、(ii)小型シリンジ226aからの生理食塩水の吐出が繰り返される。これにより、生理食塩水が患者に向けて注入される。
【0107】
なお、
図20の構成では、一例として、生理食塩水チャンバ223の重量を計測する荷重センサ223Sが設けられている。不図示の制御装置は、この荷重センサ223Sの出力値もしくはそれを荷重に変換したものに基づき、その値が所定の設定値以下であるかどうか(すなわち、生理食塩水の残量がある基準値以下となったかどうか)を判定する。そして、所定の設定値以下と判定した場合には、術者に対して所定の警告(例えばランプの点灯、メッセージの表示、音もしくは音声の出力等)を発する。
【0108】
当然ながら、上記のような荷重センサ223Sは、
図1の実施形態の薬液回路システムにおいても利用可能である。
【0109】
例えば
図20の薬液回路システムにおいてエアセンサ231を省略するために、点滴用チャンバに一例として特開平9−117505に開示されているような浮遊する弁体を有するコネクタを利用することもでき、これにより、患者ライン側へのエアの混入が防止される。また、その弁体の位置に基づき空になったか否かを判定し、空になっている場合には注入を停止する等の制御を行うようにしてもよい。
【0110】
図20の薬液回路システムは下記の液体回路キットを含むものである:
血管造影に用いられる医療用の液体回路キットであって、
造影剤チャンバに接続される造影剤ラインと、
生理食塩水チャンバに接続される生理食塩水ラインと、
シリンジに接続されるシリンジラインと、
造影剤または生理食塩水を患者に向けて送るための患者ラインと、
前記各ラインが接続されるベースライン部であって、前記造影剤ラインおよび前記生理食塩水ラインがそれぞれT字状に接続されるベースライン部と、
を備え、さらに、
a:(i)液体が前記ベースライン部の上流側に向かって引かれた場合には、造影剤がライン内から前記ベースライン部内に流れ、(ii)液体が前記ベースライン部の上流側から下流側に向けて押された場合には、該弁手段を通過してその方向に液体が流れるように構成された第1の弁手段(V−1、V−2)と、
b:液体が前記ベースライン部の上流側から下流側に向けて押された場合にその方向に液体が流れるのを許容し、逆向きの流れは許容しない第2の弁手段(V−1)と、
c:生理食塩水を送る手段によって前記生理食塩水チャンバから生理食塩水が送られる際に、生理食塩水の患者ライン側への流れは許容し、シリンジライン側への流れは許容しない第3の弁手段(V−3、V−1)と、
を備える、医療用の液体回路キット。
【0111】
(ローラ式のポンプ装置について)
薬液チャンバを加圧して薬液を送り出す手段としては、
図21のようなローラ式ポンプ470を利用することもできる。このポンプ470は、一例として、チャンバ223を挟むように配置された一対の押圧部材471、472を有している。押圧部材471、472うち一方が他方に対して近接することで、両部材471、472の間のチャンバ223が押圧され、これにより、チャンバ223内部の薬液が押し出される。
【0112】
具体的な構造については適宜設計ないし変更可能であるが、一例として、ヒンジ部474で両部材が接続され、一方が他方に対して回動するようになっていてもよい。一方の部材を他方に向けて近接させるために、ローラ476が設けられていてもよい。ローラ476は、回転中心476a周りに回転しながら(駆動源があってもよいし無くてもよい)、図示矢印に示すように下方へと移動し、押圧部材471を他方の部材472に向けて押し付けるように構成されていてもよい。
【0113】
(ピストン式のポンプ装置について)
さらに、
図22のようなピストン式のポンプ480を利用することもできる。このポンプ480は、直列に接続された2つのシリンジ481、486を備えており、前方のシリンジ481の先端部がライン209(
図20参照)に接続される。前方のシリンジ481内には、短いガスケット482aがスライド移動可能に配置されており、ガスケット482aの背面には突起485が形成されている。この突起485は、必ずしも形成されていなくても構わないが、ガスケット482aが後方に移動する際の可動範囲を規定する役割を果たす。
【0114】
後方のシリンジ486の先端は長細く形成され、前方のシリンジ481の封止部材482bに形成された貫通孔に挿入されている。これにより、後方のシリンジ486内の液体または気体が前方のシリンジ481内に送られる、および、同シリンジ481内から吸引される、ように構成されている。なお、このポンプ480には、後方のシリンジ486のピストン部材を進退移動させる駆動手段(不図示)も設けられている。
【0115】
本発明に係る薬液回路システムにおいては、このように、
図22のようなタイプのポンプ装置480を利用して、生理食塩水の吸引および注入を実施することも可能である。
【0116】
(リリースバルブの他の構成)
図1のリリースバルブ202A、202Bとして、
図23のような構成のものを利用してもよい。なお、
図23(および後述する
図24)では一部構成が模式的に描かれている点に留意されたい。
【0117】
図23のリリースバルブ401Aは、ケーシング410を構成する部材として、中空の本体部材411と、その下部に接続されたチューブ接続部材412と、本体部材411の上端開口部を閉塞するキャップ部材413とを有している。また、本体部材411の内部には、上方および下方に移動可能に配置された軸部材425が配置されている。軸部材425には2つのシール部材428、429が設けられ、また、軸部材425の一部にはフランジ部425fが形成されている。
【0118】
軸部材425は、コイルスプリングS1によって上方に付勢されており(
図23)、この状態では、フランジ部425fがシール部材429に押し当たる。この状態では、接続部材412の下端開口部412aから本体部材411の側方開口部411aに向けて(あるいはその逆方向)流体が流れることはない。
【0119】
一方、キャップ部材413の中央部から上方に突出した軸部材425の端部を押すと、フランジ部425fが下方に移動するので、流体の流路(詳細は不図示)が開放され、これにより、接続部材412の下端開口部412aから本体部材411の側方開口部411aに向けて(あるいはその逆方向)流体が流れることができるようになる。なお、流体の流路に関して、例えば、軸部材425の外周部にその長手方向に沿って形成された溝によって流路の一部が形成されていてもよい。
【0120】
このように、本発明に係る薬液回路システムにおいては、
図23のようなリリースバルブ401Aを使用してもよい。
【0121】
他にも、
図24のようなリリースバルブ401Bを用いてもよい。
図24のリリースバルブ401Bは、ケーシング410を構成する部材として、中空の本体部材411と、その上端開口部を閉塞するキャップ部材413とを有している。本体部材411の内部には、上方および下方に移動可能に配置された軸部材425が配置されている。軸部材425には、1つのシール部材429と、OリングR1が設けられている。キャップ部材413から上方に突出した軸部材425の上端には、内部に流路が形成された押圧部材416が取り付けられている。押圧部材416は、流体の出入口となる側方開口部416aを有している。
【0122】
このように構成されたリリースバルブ401Bにおいても、軸部材425を押していない状態では、コイルスプリングS1の付勢力によってフランジ部425fがシール部材429に押し当てられ、その結果、下端開口部411aから押圧部材416の側方開口部416aに向けて(あるいはその逆方向)流体が流れないようになっている。一方、キャップ部材軸部材425を押すと、流体の流路(詳細は不図示)が開放され、これにより流体が流れることができるようになる。
【0123】
(その他の構成)
以上、本発明の一例について図面を参照して説明したが、本発明の回路システムには従来公知の種々の構造、装置、機器を適用可能である。例えば、患者への気泡の注入を防止するために、タコ管と呼ばれる構造を回路の任意の位置に設けてもよい。一例として、
図1の構成において、コネクタ217とエアセンサ232との間にタコ管を設けてもよい。なお、「タコ管」とは、内部が空洞に形成された蛸の頭部のような突起部(外形はどのようなものであってもよい)であって、流体回路を流れてきた気泡を捕捉するためのものである。したがって、タコ管は鉛直上方に突出するように配置されることが好ましい。また、その姿勢が変動しないように、回路システムのうちライン(チューブ)の向きが安定している箇所に設けることが好ましい。