(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072004
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】薬剤組成物、及びこれを密封してなる軟カプセル剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20170123BHJP
A61K 9/66 20060101ALI20170123BHJP
A61K 9/64 20060101ALI20170123BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20170123BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20170123BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20170123BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K9/66
A61K9/64
A61K47/10
A61K47/42
A61K47/34
A61K31/05
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-507756(P2014-507756)
(86)(22)【出願日】2013年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2013057828
(87)【国際公開番号】WO2013146471
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-74394(P2012-74394)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003392
【氏名又は名称】大幸薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】米田 裕治
(72)【発明者】
【氏名】中川 香織
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−201140(JP,A)
【文献】
GORINSTEIN,S. et al,A comparative study of phenolic compounds and antioxidant and antiproliferative activities in freque,Eur Food Res Technol,2009年,Vol.228, No.6,p.903-911
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A61K 31/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封される液状の薬剤組成物であって、
(a)フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物、及び
(b)コハク化ゼラチン不溶化物質を含有し、
前記フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)が、木クレオソートあるいはその構成成分であり、
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が非イオン性界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含む薬剤組成物。
【請求項2】
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が、下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を含有する化合物である請求項1に記載の薬剤組成物。
[化1]
(−CH2−CH2−O−)
【請求項3】
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が、下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を45重量%以上含有する化合物である請求項1または2に記載の薬剤組成物。
[化1]
(−CH2−CH2−O−)
【請求項4】
フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)およびコハク化ゼラチン不溶化物質(b)を含有する液状の薬剤組成物が、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封されてなる軟カプセル剤であって、
前記フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)が、木クレオソートあるいはその構成成分であり、
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が非イオン性界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含む軟カプセル剤。
【請求項5】
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が、下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を含有する化合物である請求項4に記載の軟カプセル剤。
[化1]
(−CH2−CH2−O−)
【請求項6】
前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が、下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を45重量%以上含有する化合物である請求項4または5に記載の軟カプセル剤。
[化1]
(−CH2−CH2−O−)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤組成物、及びこれを密封する軟カプセル剤(ソフトカプセル剤)に関し、詳しくは、カプセル剤皮(カプセル基材、カプセル皮膜などともいう)を溶解させることなく、当該カプセル内で長期にわたって安定的に保存される液状の薬剤組成物、及び前記薬剤組成物を密封してなる易溶性でかつ崩壊遅延を起こしにくく、保存安定性に優れた軟カプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品やサプリメントで汎用されている軟カプセル剤は、その剤皮の主成分としてゼラチンやグリセリンが用いられていた。しかしながら、従来の軟カプセル剤は経時的に、カプセル剤皮の主成分の不溶化が起こって軟カプセル剤としての溶解性が乏しくなる虞があった。これにより、軟カプセル剤の崩壊性が劣化して崩壊遅延を起こし、バイオアベイラビリティなどに悪影響を与えるといった問題があった。
【0003】
このようなカプセル剤皮の溶解性(皮膜崩壊性)が劣化するのを防ぐため、剤皮主成分であるゼラチンに有機酸である無水コハク酸を反応させ、これにより得られたコハク化ゼラチンを軟カプセルの剤皮の主成分として使用することが提案された(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−310520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術により、易溶性かつ崩壊遅延を起こしにくい軟カプセル剤を提供することができた。しかしながら、分子内にヒドロキシル基などの親水基を有する有機化合物(フェノール誘導体など)をカプセル剤皮の中に密封した場合、内容物(薬剤)によっては当該カプセル剤皮を溶解してしまうという問題が起こった。
【0006】
従って、本発明の目的は、コハク化ゼラチンを軟カプセルの剤皮主成分として使用したときに、分子内に親水基を有する有機化合物(フェノール誘導体など)を密封する場合でも内容物(薬剤)が剤皮を溶解するのを防止できる薬剤組成物、および、当該薬剤組成物を含有する軟カプセル剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究開発を重ねた結果、当該有機化合物(フェノール誘導体など)に界面活性剤などのコハク化ゼラチン不溶化物質を併用することにより上記問題点を解決し得ることを見出し、そして本発明に至った。
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る薬剤組成物は、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封される液状の薬剤組成物であって、その第一特徴構成は、(a)フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物、及び(b)コハク化ゼラチン不溶化物質を含有した点にある。
【0009】
本構成によれば、フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(以下、単に「(a)成分」ともいう)を、コハク化ゼラチンを剤皮の主成分とした軟カプセルに密封(充填)しても、保存中にカプセル剤皮を溶解するのを防止できる。
【0010】
本構成では、前記フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)を、木クレオソートあるいはその構成成分としている。また、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を非イオン性
界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含むように構成してある。
【0011】
本構成のように内容物が木クレオソートあるいはその構成成分
、および、非イオン性
界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含むように構成してあれば、上記の効果(カプセル剤皮の溶解防止効果)が顕著にみられる。また、これまで不可能と考えられていた木クレオソートあるいはその構成成分のカプセル化が可能となる。
【0013】
尚、ここでいう
非イオン性界面活性剤は、いわゆる消泡剤、乳化剤、湿潤剤、洗浄剤および分散剤も含有する。
また、使用するコハク化ゼラチン不溶化物質(b)が
非イオン性界面活性剤であり、そのHLB値が8以上の場合、剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【0014】
本発明に係る薬剤組成物の
第二特徴構成は、前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を含有する化合物とした点にある。
[化1]
(−CH
2−CH
2−O−)
【0015】
本構成であれば、カプセル剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【0016】
本発明に係る薬剤組成物の
第三特徴構成は、前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を45重量%以上含有する化合物とした点にある。
[化1]
(−CH
2−CH
2−O−)
【0017】
本構成のように、オキシエチレン基が繰り返される部分(ポリオキシエチレン重合鎖)が、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)中、45重量%(好ましくは60重量%以上で100重量%未満)含有される場合、カプセル剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【0018】
本発明に係る軟カプセル剤の第一特徴構成は、フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)およびコハク化ゼラチン不溶化物質(b)を含有する液状の薬剤組成物を、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封した点にある。
【0019】
本構成によれば、カプセル剤皮に密封されている内容物(フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物を含有する液状の薬剤組成物)がカプセル剤皮を溶解するのを防止できるため、内容物を長期間にわたって保存することができ、保存安定性に優れた軟カプセル剤が得られる。
【0020】
本構成では、前記フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a)を、木クレオソートあるいはその構成成分としている。また、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を非イオン性
界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含むように構成してある。
【0021】
本構成のように内容物が木クレオソートあるいはその構成成分
、および、非イオン性
界面活性剤およびPEGの少なくとも一種を含むように構成してあれば、
第二特徴構成記載の発明の効果(剤皮の溶解防止効果)が顕著にみられる。また、これまで不可能と考えられていた木クレオソートあるいはその構成成分のカプセル製剤を提供することができる。
【0023】
また、使用するコハク化ゼラチン不溶化物質(b)が
非イオン性界面活性剤であり、そのHLBが8以上の場合、カプセル剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【0024】
本発明に係る軟カプセル剤の
第二特徴構成は、前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を含有する化合物とした点にある。
[化1]
(−CH
2−CH
2−O−)
【0025】
本構成であれば、カプセル剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【0026】
本発明に係る軟カプセル剤の
第三特徴構成は、前記コハク化ゼラチン不溶化物質(b)を下記化学式1で表されるオキシエチレン基が繰り返された重合鎖を45重量%以上含有する化合物とした点にある。
[化1]
(−CH
2−CH
2−O−)
【0027】
本構成のように、オキシエチレン基が繰り返される部分(ポリオキシエチレン重合鎖)が、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)中、45重量%(好ましくは60重量%以上で100重量%未満)含有される場合、カプセル剤皮の溶解防止効果がより一層顕著にみられる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の薬剤組成物は、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封される液状の薬剤組成物であって、(a)フェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物、及び、(b)コハク化ゼラチン不溶化物質を含有する。
【0029】
(コハク化ゼラチン)
本発明におけるコハク化ゼラチンは、従来公知の方法により得ることができる。すなわち、ゼラチンと無水コハク酸をアルカリ存在下で反応させて得られるゼラチンのスクシニル誘導体がコハク化ゼラチンである。本発明におけるカプセル剤皮のゼラチン成分のうち、コハク化ゼラチンの割合は特に限定されないが、好ましくは60〜100重量%(以下、単に「%」と記すこともある)であり、90〜100%であることがさらに好ましい。コハク化ゼラチン以外に含んでいてもよいゼラチン成分としては、例えば、日局(日本薬局方)ゼラチンの他、酸性ゼラチン、アルカリ性ゼラチン、有機酸ゼラチン、ペプチドゼラチンなどが挙げられる。
【0030】
(フェノール誘導体(a成分))
本発明におけるフェノール誘導体(フェノール系化合物)としては、例えば木クレオソート、あるいはその構成成分であるグアヤコール(guaiacol)、クレオソール(creosol)、フェノール(phenol)、p-クレゾール(p-cresol)、4−エチルグアヤコール(4-ethylguaiacol)、o-クレゾール(o-cresol)など、常温で液状のものが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、複数種を併用することもできる。
【0031】
(コハク化ゼラチン不溶化物質(b成分))
本発明におけるコハク化ゼラチン不溶化物質(b)としては、フェノール誘導体(a成分)による軟カプセル剤皮(コハク化ゼラチン)の溶解を防止する物質であれば、特に限定はない。コハク化ゼラチン不溶化物質(b)としては、例えば界面活性剤(陰イオン系界面活性剤(アニオン性界面活性剤)、陽イオン系界面活性剤(カチオン性界面活性剤)、両性界面活性剤(双性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤))が挙げられる。
【0032】
界面活性剤は、いわゆる消泡剤、乳化剤、湿潤剤、洗浄剤および分散剤も含まれる(これらの剤名は必ずしも明確に使い分けられていないのが現状である)。界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400などのPEG(マクロゴール)、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油などポリオキシル化したヒマシ油、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンサンモノラウレート、ポリソルベート、モノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸グリセリド、モノオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、モノオキシエチレンソルビタンモノステアレート、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80などのポリソルベート類、マクロゴール類、ショ糖脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、プロピレングリコール脂肪酸エステル(分散剤)など、「医薬品添加剤事典」(薬事日報社(株)発行)、「食品添加物公定書」((株)廣川書店発行)に界面活性剤として分類されるものが挙げられ、それを単独で使用しても、2種以上を併用することもできる。
【0033】
界面活性剤以外のコハク化ゼラチン不溶化物質(b)としては、例えば可塑剤あるいはコーティング剤などが挙げられる。具体的には、クエン酸トリエチル(可塑剤、コーティング剤)、(一部の)プロピレングリコール脂肪酸エステル、(一部の)ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0034】
特に、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)は、下記化学式1で表される構造式(オキシエチレン基)を分子内に繰り返して含有する化合物(ポリオキシエチレン鎖を有する化合物)であることが好ましい。
[化1]
(−CH
2−CH
2−O−)
【0035】
1分子中に含有するその繰り返しの数の合計は、5個〜30個、好ましくは7個〜23個の化合物であることが、取り扱いの容易さや入手の容易さ、及び剤皮の溶解防止効果の点で好ましい。なお、前記化合物が分岐化合物であり、化学式1で表される構造が1つの分子の鎖上に散在する場合は、その合計を繰り返しの数(重合度)とする。
【0036】
前記化合物としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80などのポリソルベート類、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400などのPEG(マクロゴール)、ポリオキシル35ヒマシ油などのポリオキシル化ヒマシ油が挙げられる。好ましい具体例としては、ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、Tween80、平均分子量約1300、HLB15、ポリオキシエチレン鎖を約67重量%含有)、ポリエチレングリコール400(マクロゴール400、平均分子量約400、ポリオキシエチレン鎖を約99重量%含有)、あるいはポリソルベート80およびポリエチレングリコール400の併用(混合物の使用)が、顕著にカプセル剤皮の溶解を防止(軽減)するという点で最も好ましい。
【0037】
コハク化ゼラチン不溶化物質(b)としては前述したように、2種以上を併用することもできる。その場合、ポリソルベート80、ポリエチレングリコール400、これらの少なくとも何れか一方を必ず配合しておくことがカプセル剤皮の溶解を防止(軽減)するという点で好ましい。好ましい配合割合としては、ポリソルベート80かポリエチレングリコール400の少なくとも何れか一方を30重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%とする。
【0038】
コハク化ゼラチン不溶化物質(b)の使用量としては特に限定はないが、使用するフェノール誘導体の1種あるいはその複数種の混合物(a成分)(例えば木クレオソート)の1量(1重量)に対し、0.3〜10倍量であることが好ましい。0.3倍量未満であれば、(a)成分による剤皮溶解防止効果が得られにくくなる可能性が生じる。一方、10倍量を超えて使用した場合、カプセル剤皮の溶解防止効果がさほど向上しなくなる可能性があって不経済を招き、また最終製品としての軟カプセル剤の粒が大きくなるといった問題が生じやすくなる。コハク化ゼラチン不溶化物質(b)の使用量のさらに好ましい範囲は、(a)成分1量に対して0.5倍(等量)〜8倍量であり、さらに好ましい範囲は0.8〜6倍量である。
【0039】
コハク化ゼラチン不溶化物質(b)の数平均分子量(以下単に「分子量」という)は300以上であることが好ましく、400〜2000であることがさらに好ましく、500〜1500であることがさらに好ましい。分子量が400より小さいと、剤皮の溶解を防止(軽減)する効果が得られにくくなり、また分子量が1500より大きいと、薬剤組成物としての粘度が上昇して軟カプセル剤皮中への充填(密封)作業が困難となる可能性がある。
【0040】
また、コハク化ゼラチン不溶化物質(b)が界面活性剤である場合、そのHLB(親水親油バランス(Hydrophile-Lipophile-Balance))は、剤皮の溶解をより一層効果的に防止(軽減)するという点で8以上であることが好ましく、8〜18であることがさらに好ましく、10〜16であることがさらに好ましい。
尚、HLBは、Griffinの定義に倣い、親水基の重量分率に20を乗じた数値である。HLBが8より小さいと、剤皮の溶解を防止(軽減)する効果が得られにくくなる。
【0041】
フェノール誘導体(a成分)およびコハク化ゼラチン不溶化物質(b成分)を含有してなる薬剤組成物、すなわち軟カプセル剤皮に充填される薬剤組成物は、透明で澄んだ澄明なもの(透明・半透明液状のもの)でもよいし、第3成分として生薬などを含ませて濁らせた(非透明の)懸濁化液状物でも構わない。しかし、最終製品(軟カプセル剤)としての美しさ(審美感)を消費者に与え、商品価値が高まるという点では澄明な液状物である方が好ましい。
【0042】
(その他の成分)
上記以外に、本発明の薬剤組成物あるいはカプセル剤皮(基材)に配合することができる成分(添加剤)として、遮光剤や可塑剤、着色剤などが挙げられる。
遮光剤としては、紫外線等の光の吸収を阻害する成分や着色剤として機能する成分が挙げられ、具体的には、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色105号、食用赤色106号などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
可塑剤としては濃グリセリン、D−ソルビトールなどが挙げられる。
【0043】
(カプセル剤皮)
コハク化ゼラチンを主成分とするカプセル剤皮中、濃グリセリンおよび水分(あるいはいずれか一方)の含有量を減らすことで、カプセル内に密封(充填)しようとする内容物(薬剤)の匂い漏れを軽減することができる。すなわち、カプセル剤皮における濃グリセリンの含有割合を7%以下、好ましくは6%〜4%とし、かつ/または含水割合を9〜6%まで下げることにより、カプセル内に密封(充填)しようとする内容物(薬剤)の匂い漏れを軽減することができる。これは、内容物(薬剤)が、木クレオソートあるいはその構成成分グアヤコール、クレオソール、フェノール、p-クレゾール、4−エチルグアヤコール、o-クレゾールのように強い芳香を持つ場合、カプセル外への匂い漏れを防ぐ有効な手段となる。
【0044】
(その他)
軟カプセル剤における内容物(a成分)が木クレオソートあるいはその構成成分の場合の投薬量は、患者の性別、年齢、体重、症状の程度等により適宜選択されるが、一般に、成人に対し、前記有効成分を1日当たり体重1kgに対して1〜500mg程度、好ましくは2〜100mg程度、より好ましくは2〜25mg程度とし、これらを1日2〜4回程度に分けて投薬することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の一実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0046】
〔調製例1〜2(軟カプセル剤皮の調製)〕
下記表1に記載した各成分を同表に併記した割合(重量部、以下単に「部」ともいう)で以て配合し、従来公知の方法により軟カプセル生シートを製造した(調製例1、2−1,2−2)。
【0047】
【表1】
【0048】
〔実施例1〜3、比較例1(薬剤組成物の調製、軟カプセル剤の製造)〕
下記表2に記載した各成分を同表に併記した割合で以て配合し、木クレオソートと界面活性剤などのコハク化ゼラチン不溶化物質を含有する澄明な薬剤組成物を調製した。そして、上記のようにして得た軟カプセル生シートを用い、前記薬剤組成物を密封した軟カプセル剤(ソフトカプセル)を常法に従って製造した。なお、前記表1における剤皮水分率(%)は、この時点(充填し乾燥処理が終わった時点)での軟カプセル剤のカプセル剤皮(基材)における水分率である。
【0049】
【表2】
【0050】
このようにして得た各々の軟カプセル剤を安定性試験(50℃、30日間)に供した。結果を下記表3に記載した。
【0051】
【表3】
【0052】
上記表3からも分かるように、木クレオソートを密封(充填)した軟カプセル剤において、界面活性剤などのコハク化ゼラチン不溶化物質を併用した場合に限り内容物がカプセル剤皮を溶かすことはなかった。
【0053】
〔調製例3〜4(軟カプセル剤皮の調製)〕
下記表4に記載した各成分を同表に併記した割合で以て配合し、従来公知の方法により軟カプセル生シートを製造した(調製例3−1〜3−3、4−1〜4−3)。
【0054】
【表4】
【0055】
〔実施例4〜9(薬剤組成物の調製、軟カプセル剤の製造)〕
このようにして得た軟カプセル生シートを用い、常法に従って軟カプセル剤(ソフトカプセル)を製造した。この軟カプセル剤に密封(充填)した薬剤組成物は、下記表5に記載する通りである。なお、前記した表4における剤皮水分率(%)は、製造した(この時点での)軟カプセル剤の剤皮における水分率である。この水分率は、途中の乾燥工程の長短によって調節が可能であり、例えば水分率8%の剤皮を得たいのであれば約48時間、水分率6%の剤皮を得たいのであれば約100時間、通常の乾燥処理を続ければよい。
また、このようにして得た各々の軟カプセル剤を安定性試験(50℃、30日間)に供した。結果を下記表5に併記した。
【0056】
【表5】
【0057】
〔保存後の崩壊性試験〕
別途、上記した木クレオソート軟カプセル剤(実施例7)を用いて、40℃保存(密栓したガラス瓶中で保存期間は6ヶ月)後における安定性および崩壊性を確認した。結果を下記表6に記載した。
【0058】
【表6】
【0059】
上記表6より、本発明の軟カプセル剤は、易溶性でかつ崩壊遅延を起こし難いと認められた。
【0060】
〔その他の実施例10〜38(溶解防止効果試験)〕
界面活性剤などのコハク化ゼラチン不溶化物質の配合割合を変えたり、その他の物質を用いた場合の剤皮溶解防止効果を確認すべく、下記表に記載した成分を用いて溶解防止効果試験を行った。軟カプセル生シートとしては調製例3−1で得たものを使用した。すなわち、調製例3−1で得た軟カプセル生シートをガラス瓶の中に設置し、木クレオソートと各種コハク化ゼラチン不溶化物質の混合物(液状の薬剤組成物)をスクリュー管に採取し、この混合物(薬剤組成物)でガラス瓶中の軟カプセル生シートを浸漬し、密栓して40℃条件下で保存した。2週間の保存後、軟カプセル生シートの変化を目視で観察した。使用したコハク化ゼラチン不溶化物質の分子量およびHLBを下記表7に示し、結果を下記表8〜表12に記載した(変化がない場合は○、シートが僅かに溶けているが特に問題は無い場合は△、溶解している場合は×と評価した)。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
【表12】
【0067】
〔実施例39〜40(薬剤組成物の調製、軟カプセル剤の製造)〕
上記調製例4−2で得た軟カプセル生シートを用い、常法に従って軟カプセル剤(ソフトカプセル)を製造した。この軟カプセル剤に密封(充填)した薬剤組成物は、表13に記載した通りである。尚、用いた軟カプセル生シート(調製例4−2で得たもの)の剤皮水分率(%)は、製造した(この時点での)軟カプセル剤の剤皮における水分率である。このようにして得た各々の軟カプセル剤を安定性試験(50℃、30日間)に供した。結果を表13に併記する。
【0068】
【表13】
【0069】
〔保存後の崩壊性試験〕
別途、上述した木クレオソート軟カプセル剤(実施例39および40)を用いて、40℃保存(密栓したガラス瓶中で保存期間は6ヶ月)後における安定性および崩壊性を確認した。結果を表14に記載する。
【0070】
【表14】
【0071】
表14より、本発明の軟カプセル剤は、易溶性でかつ崩壊遅延を起こしにくいものと認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の薬剤組成物は、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封される液状の薬剤組成物に利用できる。また、本発明の軟カプセル剤は、当該薬剤組成物が、コハク化ゼラチンを剤皮の主成分とした軟カプセルに密封されてなる軟カプセル剤に利用できる。