【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様により、本発明は、第1の相及び第2の相を含む複合生体適合性セラミック材料であって、前記第1の相がドープされたハーディストナイト(Ca
2ZnSi
2O
7)であり、前記第2の相がスピネル群の鉱物に属する金属酸化物である材料を提供する。
【0018】
第1の相は、国際公開WO2010/003191に詳述されている、ドープされたハーディストナイト(Ca
2ZnSi
2O
7)である。ハーディストナイトには、ストロンチウム、バリウム及び/又はマグネシウムのうちの少なくとも1種がドープされている。第2の相は、スピネル群の鉱物に属する金属酸化物である。スピネルは、一般式A
2+B
23+O
42-の鉱物の種類のいずれかであり、立方晶系/等軸晶系で結晶化し、酸化物アニオンが立方最密充填格子で配列され、カチオンA及びBが、格子中の八面体サイト及び四面体サイトの一部又は全てを占めている。A及びBは、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン、アルミニウム、クロム、チタン及びケイ素を含む、二価、三価又は四価のカチオンであることができる。好ましい実施形態において、金属酸化物はガーナイト(ZnAl
2O
4)であり、これは「亜鉛尖晶石」と称されることもある。しかし、他の実施形態において、金属酸化物は一般名「スピネル」(MgAl
2O
4)若しくはヘルシナイト(FeAl
2O
4)又はそれらの組合せである。
【0019】
本発明の第1の態様によって定義される材料は、前記第1の相及び前記第2の相の単独での生体適合性よりも大きい第1の相と第2の相との間の相乗的生体適合性を具体化する。
【0020】
好ましい一実施形態において、前記第1の相は、分子式[(Sr
aBa
bMg
c)Ca
[2.0-Σ(a,b,c)]ZnSi
2O
7](式中、Σ(a,b,c)は0.05〜0.9である)を含み、前記第2の相は、分子式[(Mg
xZn
yFe
z)Al
2O
4](式中、Σ(x,y,z)=1)を含む。
【0021】
別の実施形態において、前記第1の相は、式Sr
0.1Ca
1.9ZnSi
2O
7のケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛である。一実施形態において、前記第1の相の重量百分率は、約70〜約99%であり、前記第2の相の個別の重量百分率は約30〜約1%である。
【0022】
好ましい一実施形態において、材料は、インプラントグレード又は医療グレードの材料である。材料は好ましくは、体液への曝露時にヒドロキシアパタイト層を形成し、それによって哺乳動物の体内における生体適合性を向上させる。
【0023】
他の好ましい実施形態において、材料は、約20〜約80%の気孔率、約20〜約500ミクロン平均細孔径及び/又は約2〜約15MPaの圧縮強度を有する。
【0024】
便宜上、以下の記述において、第1の相は、「相A」又は「Sr-HT」と称し、第2の相は、「相B」又は「鉱物酸化物」と称する。しかし、本発明のセラミック材料が実際の別個の不連続相を有していても有していなくてもよいこと、材料がこれらの「相」の均質混合物であっても、各「相」を含む、別個に識別可能な構成要素の多相系であってもよいことがわかるであろう。本発明の材料は、ドープされたハーディストナイト及び鉱物酸化物を含む複合材料である。
【0025】
相Aと相Bの混合物中の相Aの重量百分率は、70%程度に低くてもよいし、99%程度に高くてもよく、したがって、相Bの個別の重量百分率は30〜1%となる。詳細には、相Aの量は、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99重量%であることができ、相Bの(非個別の)量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30重量%であることができる。
【0026】
最終材料中の鉱物酸化物(相B)の百分率は、ドープされたハーディストナイト(相A)に添加されるアルミナの百分率に左右される。説明のために、一例としてガーナイトを用いて、アルミナを、ストロンチウムがドープされたハーディストナイトと高温で反応させると、部分融解が起こる。ガーナイト相が、この融解物から形成される。スキャフォールドが大規模融解により「崩壊する」傾向があるので、追加のアルミナは一定量を超えては添加できないことがわかっている。これは事実上、アルミナの最大添加量が、最終材料中に約20%のガーナイトをもたらす約15重量%であることを意味する。しかし、系は、約30%までのガーナイトを得るように構成できると考えられる。
【0027】
WO2010/003191において、ハーディストナイト(Hardsytonite)中のCaイオンをSrで部分的に置き換えることによってCa-Si系中でZnイオンとSrイオンとを合わせることによって、新規材料、ケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛(Sr
0.1Ca
1.9ZnSi
2O
7)が得られた。この好ましい材料は、ソル-ゲル方法によって作られた。新しい材料は驚くべきことに、向上した生物学的性質を示し、これは意外なことに、関連する既知の材料よりも良好であった。本発明においては、Sr-HTを、ガーナイトと組合せた。この組合せによって、驚くべき相乗効果がもたらされた。すなわち、新しい複合セラミック材料は、個別の構成要素の合計よりも際だった性質を示した。本発明の新しい複合セラミック材料は、好ましくはSr-HTとガーナイトとの80/20(重量/重量)混合物を含み、生体適合性であるのみならず、市販材料又はSr-HT単独よりも優れた材料であることが明白である。新しい複合セラミック材料、Sr-HT/ガーナイト(80/20重量%)はまた、組成及び結晶構造がSr-HTとは異なり、以下のパラメーターの少なくとも1つ又は複数がSr-HTより優れている:組成;結晶構造;安定性;機械的強度(市販材料の100倍良好である)及び弾性率;親水性;耐破壊性;生物学的挙動、例えば、付着、延展及びヒト骨芽細胞分化の誘導(骨芽細胞=骨形成細胞)。
【0028】
驚くべきことに、Sr-HTとガーナイトの複合セラミック材料は、その骨伝導性及び骨誘導性によって示されるように、向上した生体適合性及び生物活性を示すことが発見された。さらに、Sr-HTとガーナイトの複合セラミック材料は、骨組織及び他の組織の再生に特に適している。一実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、関節炎にかかった関節をリサーフェシングして関節軟骨の成長を促進するのに特に有用である。他の実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、骨細胞及び内皮細胞の移動、増殖及び分化を促進する3Dスキャフォールドの開発において、例えば、整形外科手術及び顎顔面手術において有用であり、さらに、荷重負荷部分に十分な機械的性質をもたらす。本発明の生体適合性セラミック材料は、骨組織再生/形成及び血管新生をサポートし、さらにまた、最小の線維形成反応を示す。一形態において、本発明は、骨軟骨欠損のための複合セラミックスキャフォールドを提供する。他の形態において、本発明は、向上した長期インプラント安定性を向上させるために、現在使用されている整形外科用インプラント及び歯科用インプラント上にコーティング可能な材料を提供する。本発明の複合生体適合性セラミック材料は、骨格組織再生のためのコーティングとしても有用である。本発明はまた、再建及び修復の目的に加えて、美容目的に用途を見出し、例えば、本発明の材料は、鼻及び顎を美しくする若しくは脚を長くするために使用される。他方において、本発明は、顎顔面再建の用途に、整形外科用金属インプラント及び歯科用のコーティングに特に適切である。
【0029】
好ましい一実施形態において、材料は、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリラクチド、アルギネート、コラーゲン、キトサン、ポリアルキレンオキサレート、ポリ無水物、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド及び/又はポリデプシペプチドから選択される少なくとも1種の吸収性ポリマー材料でコーティングする。
【0030】
焼結中にアルミナとHTとの化学反応によりスキャフォールドのミクロ構造内にガーナイト相が生成されるため、Sr-HT/ガーナイトの組成物を単にその前駆体(Sr-HT及びアルミナ)の混合物と述べる又は予測することはできないことは、当業者ならばわかるであろう。同様に、この化学反応のため、機械的性質及び生物活性は、使用する前駆体に基づいて明確に予測することができない。さらに、アルミナは生物学的に不活性である(生物活性がない)ことが知られており、したがって、アルミナを生物活性セラミックの前駆体として使用することは、直感では理解できないことである。ガーナイトをその場で生成させて凝集性の生体適合性セラミック材料を生成できるのに対して、Sr-HTとガーナイトとの単純混合ではあまり均一でない材料が得られることは、驚くべきことである。
【0031】
理論に束縛されることを望まないが、比較的に小さい割合のガーナイトをSr-HT材料に添加すると、以下の2つの主要因により、機械的性質が改善されると考えられる:部分融解及びSr-HT粗粒間におけるガラス相の形成;並びにガラス相中における1ミクロン未満のガーナイト相の存在及びSr-HT粗粒の周囲で強い「拘束」のように挙動する強力なガラス-セラミック相の作製。
【0032】
第2の態様により、本発明は、第1の相及び第2の相を含む複合生体適合性セラミック材料であって、前記第1の相が、Sr、Mg、Ba又はそれらの組合せからなるドーパントの群から選択される元素がドープされたケイ酸カルシウム亜鉛を含み、第2の相が、金属アルミニウム酸化物を含み、金属がMg、Zn、Fe又はそれらの組合せから選択される材料を提供する。
【0033】
第一相に関して、好ましくは、ドーパント、すなわち、Sr、Mg、Ba又はそれらの組合せは、ケイ酸カルシウム亜鉛中のカルシウムを少なくとも部分的に置換する。ドーパントがSrである他の好ましい実施形態において、Sr-カルシウム亜鉛シリケート(Sr-calcium zinc silicate)の分子式は、[Sr
xCa
(2-x)ZnSi
2O
7](式中、xは0.05〜0.9である)である。好ましくは、x=0.1であり、すなわち、前記第1の相は分子式[Sr
0.lCa
1.9ZnSi
2O
7]を含む。好ましい一実施形態において、カルシウムはMgで少なくとも部分的に置換されており、又はMgで完全に置き換えられていてもよい。
【0034】
好ましい一実施形態において、第2の相は、ガーナイト(ZnAl
2O
4)である。本発明の別の好ましい形態は、近似分子式Sr
0.1Ca
1.9ZnSi
2O
7のケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛及びガーナイトを含む。
【0035】
望ましくは、ケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛材料は、3つの特性ピークを有する以下の回折角2-θを有する透過型X線回折パターンを含む:「強い」強度のライン:31.44度;「中間の」強度のライン:29.225度、及び;3番目に強い強度のライン:36.565度。好ましくは、本発明の一実施態様のケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛材料は、国際公開WO 2010/003191の
図1Aのような透過型X線回折パターンを含む。
【0036】
好ましくは、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、生理液中に置かれたときに生体適合性である。好ましくは、本発明の生体適合性材料は、体液への曝露時にヒドロキシアパタイト層を形成する。当業者ならばわかるように、ヒドロキシアパタイトの形成は、身体がその材料をそれ自身に特有であるものとして受け入れる有力な証拠として広く認識されており、インプラントが生体骨と化学的に接着するための必要条件である。
【0037】
相Aに関して、好ましくは、Sr:Ca比は約0.025〜0.85である。例えば、Sr:Ca比は、0.025、0.05、0.075、0.1、0.125、0.15、0.175、0.2、0.225、0.25、0.275、0.3、0.325、0.35、0.375、0.4、0.425、0.45、0.475、0.5、0.525、0.55、0.575、0.6、0.625、0.65、0.675、0.7、0.725、0.75、0.775、0.8、0.825又は0.85の値を有することができる。言うまでもなく、これらの引用した例の間の比も許容できる。
【0038】
好ましくは、Sr-カルシウム亜鉛シリケートの分子式は、[Sr
xCa
(2-x)ZnSi
2O
7](式中、xは0.05〜0.9である)である。好ましくは、x=0.1である。あるいは、xは、0.05、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、又は引用した数値の間の任意の値であることができる。Srドーパントは代わりにMg又はBaであることができることがわかるであろう。ドーパントは、Sr、Mg又はBaの混合物であることもできる。一部の実施形態において、ストロンチウムは、Mg及びBaからなる群から選択され得るバリアントで実質的に置換してもよい。
【0039】
前述のように、骨組織再生のためのバイオガラス、ガラス-セラミック、並びにCaO及びSiO
2を含むバイオセラミックの開発は、過去30年間にわたって大いに注目されてきた。骨芽細胞の増殖、分化及び関連した遺伝子発現、並びに鉱質形成に対する、材料から放出されるCa-及びSi-含有イオン性生成物の刺激効果もまた、文書で十分に立証されている(例えば、Xynos I.D.ら、「Ionic products of bioactive glass dissolution increase proliferation of human osteoblasts and induce insulin-like growth factor II mRNA expression and protein synthesis」、Biochem. Biophy. Res. Commun. 2000年;276:461〜465頁を参照のこと)。CaSiO
3をベースとする材料は、生物活性のため、骨組織再生及びインプラントコーティングのための潜在的な生物活性材料とみなされている。しかし、CaSiO
3セラミックの主な欠陥は、溶解速度が比較的速く、周囲環境において高アルカリ性のpH値につながることである(例えば、Siriphannon P.ら、Formation of hydroxyapatite on CaSiO
3 powders in simulated body fluid、J. Eur. Ceram. Soc. 2002年;22:511〜520頁を参照のこと)。実際に、チタン基材へのCaSiO
3コーティングの接着は、コーティングの溶解速度が比較的速いため、擬似体液(SBF)中で浸漬時間の増加に伴って分解するため、さらなる生物学的用途が制限される。本発明者らは意外なことに、本発明の複合生体適合性セラミック材料が、これまで知られているケイ酸カルシウム及びこれまで知られているバイオセラミック材料と比較して、著しく改善された性質を有するバイオセラミックを提供することを見い出した。特に、特定の実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、CaSiO
3材料の利点の多くを提供するが、その既知の欠点の多くを改善する。本発明の複合生体適合性セラミック材料は、CaSiO
3材料と比較して、比較的減少したpHを伴う、比較的低減された溶解プロフィールを示す。さらに、ケイ酸カルシウムの高密度化が刺激され、アパタイト形成の能力は保持される。また、ヒト骨由来細胞の増殖が刺激される可能性がある。
【0040】
さらに、特定の実施形態において、本発明の複合セラミック生体適合性材料は、優れた機械的性質、例えば、曲げ強さ及び破壊靭性を示す。それはまた、骨細胞の付着及び増殖を可能にし得る。特に、特定の実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、骨との化学的接着を形成し、アパタイト層を形成する能力を有することが判明した。さらにまた、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、CaSiO
3と比較して、比較的低減した腐蝕を示した。
【0041】
第3の態様により、本発明は、複合生体適合性セラミック材料を調製するための方法であって、Sr、Mg、Ba又はそれらの組合せからなる群から選択される元素がドープされたケイ酸カルシウム亜鉛を生成するための前駆体材料のゾルを用意して、前記ゾルを第1のゾルに少なくとも部分的にゲル化するステップと、ガーナイトを生成するための前駆体材料のゾルを用意して、前記ゾルを第2のゾルに少なくとも部分的にゲル化するステップと、第1のゾルと第2のゾルを混合するステップと、乾燥させ、混合及び乾燥したゾルを焼結し、それによって複合生体適合性セラミック材料を形成するステップとを含む方法を提供する。
【0042】
第4の態様により、本発明は、複合生体適合性セラミック材料を調製するための方法であって、ゾル-ゲル法によって、ストロンチウムがドープされたケイ酸カルシウム亜鉛粉末を生成するステップと、回転ボールミル機によって、前記のストロンチウムがドープされたケイ酸カルシウム亜鉛粉末をアルミナ粉末と混合し、機械的に活性化させるステップと、得られた粉末を乾燥及び焼結して、前記複合生体適合性セラミック材料を形成するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、混合及び機械的活性化は、回転ボールミル機により、1週間にわたって実施する。
【0043】
出発原料の粒子は、回転微粉砕機中で微粉砕し、それによって拡散及びアルミナ粒子とSr-HT粒子との反応性を促進する。微粉砕の間に、粒子は分解されてより小さくなり、表面積が増加し、その結果として、高温における拡散が向上する。さらに、Sr-HT粉末の間におけるアルミナ粉末の分布がより均一及び均質になるであろう。アルミナとSr-HT相との混合によるガーナイトの形成のメカニズムは不明である。しかし、理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、アルミナがSr-HTと反応し、その結果としてSr-HTの表面の一部の粒子が部分的に融解し得ると仮定する。次に、冷却段階において、ガーナイト(ZnAl
2O
4)の一部の結晶が、Al、O、Zn、Ca及びSi元素を含有する融解物から結晶化する可能性があり、未反応の元素はガラス相を形成するであろう。
【0044】
第3及び第4の態様による複合生体適合性セラミック材料はゾル-ゲルに由来する。しかし、他の実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料のあらゆる合成的製造方法が、本発明の範囲内であることがわかるであろう。例えば、別の実施形態において、出発原料を融解させ、冷却し、得られる材料を粉末化する。次いで、得られた粉末を、当業界でよく知られているようにして、成形し、ホットプレスすることができる。
【0045】
第5の態様により、本発明は、本発明の第3又は第4の態様による方法によって製造される複合生体適合性セラミック材料を提供する。
【0046】
第6の態様により、本発明は、複合生体適合性セラミック材料を調製するための組成物であって、アルミナと、ストロンチウムがドープされたハーディストナイト[Sr
xCa
(2-x)ZnSi
2O
7](式中、xは約0.05〜約0.9である)の形態のSrがドープされたケイ酸カルシウム亜鉛とを含む組成物を提供する。
【0047】
第7の態様により、本発明は、本発明の第1、第2及び第5の態様によって定義される、複合生体適合性セラミック材料を含む植込み型医療機器を提供する。
【0048】
医療機器は好ましくは、3D植込み型スキャフォールド、再建手術のための整形外科用インプラント、歯科インプラント/プロテーゼ、脊椎インプラント、軟骨再生のための頭蓋顔面再建及び歯槽堤増大術用インプラント、骨軟骨欠損用インプラント、外科ファスナー(例えば、鉗子、クリップ、シース又はステープル)、手術用布、人工心臓弁(例えば、シース、フランジ、弁葉(leaf)又はヒンジ)、ストラット、ステント又はステント-グラフト、骨軟骨欠損用の二相スキャフォールド、血管新生及び骨組織内部成長を促進する骨組織再生及び顎顔面再建用のスキャフォールド、長期インプラント安定性を改善するための、現在使用されている整形外科用及び歯科用インプラントのコーティング、並びに薬物送達装置からなる群から選択される。しかし、多くの他の装置が本発明の範囲内であることがわかるであろう。他の実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料は、手術装置に又は手術装置のコーティングとして形成できる。また、本発明によって定義される複合生体適合性セラミック材料を含む、例えば骨インプラント、歯の詰め物又はバイオセメントも、本発明の範囲内である。
【0049】
一実施形態において、医療機器は、永久に植え込む。しかし、他の実施形態において医療機器は、一時的に植え込むことができる。一部の態様において、医療機器は、実質的に生分解性又は吸収性であることができる。
【0050】
一実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料を含む医療機器の気孔率は、約20〜約80%である。しかし、意図される又は望ましい使用によってはより小さい又はより大きい気孔率を有するように装置を配合又は生成できること、及びあらゆる気孔率範囲が本発明の範囲内となることがわかるであろう。例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90若しくは95%の気孔率又はこれらの例示的な数値の間の任意の気孔率も可能である。
【0051】
一実施形態において、装置の細孔径は、約20〜約500μm(ミクロン)である。しかし、意図される又は望ましい使用によってはより小さい又はより大きい細孔径を有するように装置を配合又は生成できること、及びあらゆる細孔径範囲が本発明の範囲内となることがわかるであろう。例えば、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490又は500ミクロンの細孔径が可能であり、引用した例示的数値のいずれかの間の任意の細孔径も同様に可能である。
【0052】
本発明による植込み型装置は、インプラントとしてのそれらの使用を好適にする多くの性質、例えば、高い機械的強度、耐疲労性、耐蝕性、及び生体適合性を有する。インプラントは、動物に植え込むことができ、動物の非限定的例としては、爬虫類、鳥類及び哺乳動物が挙げられ、ヒトが特に好ましい。好ましくは、前記植込み型装置の圧縮強度は、約2〜15MPaである。
【0053】
本発明の装置は、種々の方法で、これらに限定するものではないが例えば、皮下への植え込み、皮膚表面への植え込み、口腔内への植え込み及び他の手術による植え込み方法で、体内に植え込むことができる。
【0054】
一実施形態において、本発明の複合生体適合性セラミック材料に、少なくとも1種の吸収性ポリマー材料をコーティングすることができ、吸収性ポリマー材料の非限定的例としては、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリラクチド、アルギネート、コラーゲン、キトサン、ポリアルキレンオキサレート、ポリ無水物、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド及び/又はポリデプシペプチドが挙げられる。
【0055】
あるいは、コーティング材料は、治癒促進薬、例えば、血栓形成阻害薬(thrombosis inhibitor)、血栓溶解薬、血管拡張物質、抗炎症薬、細胞増殖阻害薬、及び基質同化又は発現の阻害薬を含むことができ、このような物質の例は、Solutia Inc.に対するUS6,162,537に示されている。本発明はまた、植込み型医療機器をコーティングするために、ポリマーコーティング(例えば、吸収性ポリマー)を治癒促進薬と併用することを企図する。
【0056】
植込み型医療機器は、吸収性であるか、又は生分解に対して完全に不活性であることができる。装置が吸収性である場合、インビボ分解により、傷害組織を強化するスキャフォールドが後に残される。
【0057】
第8の態様により、本発明は、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料を含む骨インプラント、歯の詰め物又はバイオセメントを提供する。
【0058】
本発明の第9の態様によれば、植込み型医療機器の製造方法であって、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料を、基材に移し又は適用し、それによって前記植込み型医療機器を形成するステップを含む方法が提供される。
【0059】
支持面又は基材への生体適合性材料の適用方法は多数存在し、これらの方法はいずれも本発明の範囲内であることがわかるであろう。例えば、一実施形態において、材料は、プラズマ溶射によってコーティングする。当技術分野においてよく知られているように、この方法は、融解された又は熱軟化された材料を表面に吹き付けて、コーティングを提供するステップを本質的に含む。粉末の形態の材料を、高温プラズマフレーム中に注入し、そこで材料が急速に加熱され、高速に加速される。高温材料は基材表面に激突し、急速に冷却し、それによってコーティングを形成する。コーティングは厚さ約50μm(ミクロン)の高密度の構造を有し、接着強さがヒドロキシアパタイトコーティングより高い。
【0060】
本発明の第10の態様によれば、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料を含む植込み型薬物送達装置が提供される。薬物送達装置は、任意の薬物又は薬物の任意の組合せを送達するよう構成することができ、特定の用途に適合するように付形できることがわかるであろう。
【0061】
第11の態様により、本発明は、植込み型医療機器の長期安定性を改善するための方法であって、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料を前記装置にコーティングするステップを含む方法を提供する。
【0062】
好ましくは、コーティングはさらに、生体適合性ポリマーを含み、生体適合性ポリマーは、一実施形態において、ポリラクチドグリコール酸(PLGA)である。一形態において、植込み型医療機器は、骨軟骨欠損用の二相スキャフォールドである。
【0063】
本発明の第12の態様によれば、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の、組織の再生又はリサーフェシングのための使用であって、前記再生又はリサーフェシングを少なくとも部分的に行うのに十分な期間、一定量の前記材料と前記組織を接触させることを含む使用が提供される。
【0064】
一実施形態において、組織と接触させる本発明の複合生体適合性セラミック材料は、国際公開WO2006/047820に開示された、S100A8若しくはS100A9ポリペプチド、又はプロモーターと操作可能に連結されたS100A8若しくはS100A9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、あるいは骨及び軟骨の再生において重要であることが示されている任意の他のタンパク質を含む。
【0065】
本発明の第13の態様によれば、組織を再生又はリサーフェシングするための方法であって、前記再生又はリサーフェシングを少なくとも部分的に行うのに十分な期間、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の一定量と前記組織を接触させるステップを含む方法が提供される。
【0066】
一実施形態において、組織と接触させる本発明の複合生体適合性セラミック材料は、国際公開WO2006/047820に開示された、S100A8若しくはS100A9ポリペプチド、又はプロモーターと操作可能に連結されたS100A8若しくはS100A9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、あるいは骨及び軟骨の再生において重要であることが示されている任意の他のタンパク質を含む。
【0067】
本発明の第14の態様によれば、整形外科的欠損上に骨組織を形成するための、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の使用であって、前記欠損を前記材料と所定の期間接触させることを含む使用が提供される。
【0068】
本発明の第15の態様によれば、整形外科的欠損上に骨組織を形成するための方法であって、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料と前記欠損を所定の期間接触させるステップを含む方法が提供される。
【0069】
本発明の第16の態様によれば、整形外科的状態を治療するための、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の使用であって、このような治療を必要としている患者の該当部位を有効再生量の前記材料と接触させることによる使用が提供される。
【0070】
本発明の第17の態様によれば、整形外科的状態を治療するための方法であって、このような治療を必要としている患者の該当部位を、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料を含む生体適合性組成物の有効再生量と接触させるステップを含む方法が提供される。
【0071】
本発明の第18の態様によれば、組織を再生又はリサーフェシングするためのキットであって、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料と、組織再生を刺激及び加速する治療薬と、前記材料及び前記治療薬の逐次投与又は同時投与のための使用説明書とを含むキットが提供される。
【0072】
本発明の第19の態様によれば、組織を再生又はリサーフェシングするための、液体注射製剤の形態での、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の使用が提供される。本発明の材料は好ましくは、好適な担体中に分散、懸濁又は溶解させる。次に、注射可能な分散液/懸濁液/溶液は、患者の標的部位に又はそれに近接して注射する。好適な担体及び注射技術は、十分に、当技術分野における適切な技術を有する者の知識及び能力の範囲内である。
【0073】
本発明の第20の態様によれば、組織を再生又はリサーフェシングするための方法であって、このような治療を必要としている患者に、本発明の第1、第2又は第5の態様によって定義される複合生体適合性セラミック材料の有効量を含む液体注射製剤を投与するステップを含む方法が提供される。
【0074】
本発明による複合生体適合性セラミック材料は、完全合成の骨移植片代用材として使用できる。細孔が相互接続されているため、材料は理想的な骨伝導性スキャフォールとして機能し、新しいホスト骨の形成をサポートする。本発明は、1つ又は複数の実施形態において、以下の利点の1つ又は複数を提供する:最適化された気孔率;改善された機械的強度及び弾性;向上した骨内部成長及び血管新生;移植法においてよく見られる潜在的な問題を回避する;用途に適合するようにほとんどあらゆる形状に形成可能である;使いやすい;自家骨髄若しくは血液と合体する;並びに/又は加速された及び向上した骨結合を示す。
【0075】
本発明の使用は、多種多様である。1つ又は複数の実施形態において、これは、皮質骨ではなく海綿骨を必要とする帯域における骨空隙充填又は増強;外傷後の骨欠損の充填、再建、又は荷重負荷がない若しくはある場合における矯正;外傷及び整形外科;嚢胞又は骨切断術によって引き起こされる空隙の充填、嵌入骨折によって生じる欠損の充填、海綿骨採取部位の補充、関節固定術及び偽関節;脊椎手術:後側方固定術、椎体間固定(ケージ充填材料として)、脊椎切除術(椎骨インプラントの充填材料として)、骨グラフト採取部位の補充、又は頭蓋顎顔面手術:下顎欠損の再建及びサイナスリフトに有用であり得る。
【0076】
本発明の好ましい実施形態を、添付した図を参照して、ごく一例として以下に説明する。