特許第6072023号(P6072023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6072023電子ビーム装置および電子ビーム装置を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072023
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】電子ビーム装置および電子ビーム装置を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20170123BHJP
   G21K 5/10 20060101ALN20170123BHJP
   A61L 2/08 20060101ALN20170123BHJP
   B65B 55/04 20060101ALN20170123BHJP
   B65B 55/08 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
   G21K5/04 S
   G21K5/04 E
   !G21K5/10 S
   !A61L2/08
   !B65B55/04 B
   !B65B55/08 B
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-517680(P2014-517680)
(86)(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公表番号】特表2014-526037(P2014-526037A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】EP2012062454
(87)【国際公開番号】WO2013004565
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年5月15日
(31)【優先権主張番号】1100519-6
(32)【優先日】2011年7月4日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】61/525,136
(32)【優先日】2011年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593205554
【氏名又は名称】テトラ・ラヴァル・ホールディングス・アンド・ファイナンス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】TETRA LAVAL HOLDINGS & FINANCE S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】クルト・ホルム
(72)【発明者】
【氏名】トニ・ウェバー
(72)【発明者】
【氏名】ウルス・ホシュテトラー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ヴォナシュ
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04008413(US,A)
【文献】 特開平11−038200(JP,A)
【文献】 米国特許第03144552(US,A)
【文献】 特開平03−134600(JP,A)
【文献】 特開2005−172449(JP,A)
【文献】 特開平10−332898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00
G21K 5/04
G21K 5/10
B65B 55/04
B65B 55/08
A61L 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体(102)を備える電子ビーム装置(100)であって、前記円筒体(102)は、前記円筒体(102)の軸方向に延在する電子出口窓(104)を備え、前記円筒体(102)が少なくとも部分的に真空室を形成し、前記真空室が、カソードハウジング(112)を具備するカソードと、前記カソードハウジング(112)の形状に沿って共に延在する制御格子(114)および電子を発生する少なくとも1つのフィラメント(120)と、を内部に備え、前記制御格子(114)および前記カソードハウジング(112)が連結手段(118)によって互いに連結され、前記制御格子(114)は、前記電子が通過できる有孔面(115)を備え、
前記制御格子(114)の軸方向に自由な終端部同士が、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状(126)を形成するために、互いに向かう方向に曲げられ
前記連結手段(118)は、電気絶縁要素であり、かつ、前記有孔面(115)と前記膨出形状(126)との間に設けられる領域に配置され、
前記膨出形状(126)は、前記連結手段(118)の上で曲げられて前記連結手段(118)を少なくとも一部包囲し、かつ、前記制御格子(114)の軸方向の両自由縁(132)が前記制御格子(114)の有孔面(115)に直交する方向を向くように形成されることを特徴とする電子ビーム装置(100)。
【請求項2】
前記制御格子(114)の前記有孔面(115)、中央に配置され、前記制御格子(114)の前記軸方向に自由な終端部同士は、前記膨出形状(126)が前記有孔面(115)の軸方向の境界部(130)へと延在するように、互いに向かう方向に曲げられる請求項1に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項3】
前記制御格子(114)の前記自由縁(132)は前記有孔面(115)まで延在している、請求項2に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項4】
前記カソードハウジング(112)は半円環状の外殻として形成され、前記外殻の開いている側が前記制御格子(114)によって覆われた請求項1からのいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのフィラメント(120)は、前記カソードハウジング(112)の前記半円環状の外殻内の中央において前記半円環状の外殻に沿って延在している請求項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項6】
記カソードハウジング(112)の前記軸方向に自由な終端部は、内向きに曲げられ、前記制御格子(114)の有孔面と平行に向けられた径方向の突起(116)を形成する、請求項2からのいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項7】
前記制御格子(114)と前記カソードハウジング(112)とは別々の電源に接続される、請求項1からのいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項8】
前記電子ビーム装置(100)は三極管型のものであり、前記フィラメント(120)は第1の電源に接続され、前記カソードハウジング(112)は第2の電源に接続され、前記制御格子(114)は第3の電源に接続され、前記円筒体(102)および前記電子出口窓(104)は接地された請求項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項9】
前記カソードハウジング(112)はステンレス鋼から作られた、請求項1からのいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項10】
前記制御格子(114)はステンレス鋼から作られた請求項1からのいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項11】
前記円筒体(102)はステンレス鋼から作られた請求項1から10のいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項12】
前記連結手段(118)はセラミック材料から作られた請求項1から11のいずれか一項に記載の電子ビーム装置(100)。
【請求項13】
筒体(102)を備える電子ビーム装置(100)であって、前記円筒体(102)は、円筒体(102)の軸方向に延在する電子出口窓(104)を備え、前記円筒体(102)が少なくとも部分的に真空室を形成し、前記真空室が、カソードハウジング(112)を具備するカソードと、前記カソードハウジング(112)の形状に沿って共に延在する制御格子(114)および電子を発生する少なくとも1つのフィラメント(120)と、を内部に備え、前記制御格子(114)は、前記電子が通過できる有孔面(115)を備える、電子ビーム装置(100)を製造する方法であって、当該方法は、
記制御格子(114)の軸方向に自由な終端部同士を、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状を形成するために、互いに向かう方向に曲げるステップと、
前記制御格子(114)の軸方向の両自由縁(132)が前記制御格子(114)の有孔面(115)に直交する方向を向くように前記膨出形状(126)を形成するステップと、
前記制御格子(114)および前記カソードハウジング(112)を連結手段(118)によって互いに連結するステップであって、前記連結手段(118)は、前記有孔面(115)と前記膨出形状(126)との間に設けられる領域に配置された電気絶縁要素であり、これにより、前記膨出形状(126)は、前記連結手段(118)の上で曲げられて前記連結手段(118)を少なくとも一部包囲する、ステップと、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム装置、および電子ビーム装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な電子ビーム装置は、密封された、すなわち真空気密の本体部を備え、本体部内部にカソードハウジングが配置される。カソードハウジングは、電子を生成するために電流によって加熱されるフィラメントを備える。したがって、生成された電子は、高電位によって加速され、典型的には支持格子に支持された薄い窓箔である、本体部の出口窓を通って出ていく。電子ビーム装置は、インクもしくは接着剤の硬化、または、容量物もしくは表面の殺菌など、いくつかの目的のために使用されることがある。加速電圧、ビームプロフィルなどの印加特性に応じて、電子ビーム装置の形状は変化することになる。本発明の教示は、織物の包装材料の殺菌に使用される電子ビーム装置に有利に適用できるが、その理由は、その目的のために設計されている電子ビーム装置の性能を大幅に改善できるからである。しかしながら、同様の構造を持つ他の電子ビーム装置に適用できることを理解されたい。
【0003】
織物の包装材料の殺菌の分野においては、殺菌の質が確保されているならば、安定性、耐久性、および寿命などの性能因子が重要な問題となる。電子ビーム装置があらゆる所与の状況において所望のビーム形状を生成するために、前述のすべての構成部品およびさらに別の構成部品を最適化することができる。
【0004】
本発明は、包装容器の生産に用いられる織物の包装材料など、より大きな表面を処理するために使用される細長い電子ビーム装置の背景に関する。より詳細には、本発明は、適切な品質を確保しつつ電子ビーム装置の組立を簡略化するという観点において、上記のような電子ビーム装置を改良することに関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、細長い形状の円筒体を備える電子ビーム装置であって、電子出口窓が円筒体の長手方向に延在する、電子ビーム装置に関する。円筒体が少なくとも部分的に真空室を形成し、真空室が、細長い形状のカソードハウジングを具備するカソードと、カソードハウジングの細長い形状に沿って共に延在する制御格子および電子を発生する少なくとも1つのフィラメントと、を内部に備える。制御格子およびカソードハウジングは連結手段によって互いに連結され、制御格子またはカソードハウジングのいずれかの自由な長手終端部(free longitudinal end portions)同士は、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状を形成するために、互いに向かう方向に曲げられる。この手法では、容易に製造および組み立てられるカソードを備え、電子出口窓の面に本質的に(essentially)直交する方向で電子が電子出口窓に達するように電界を形成できる電子ビーム装置が提供される。本発明の電子ビーム装置を用いれば、例えば、幅広の織物の包装材料を殺菌するのに非常に適切な電子ビームが形成される。
【0006】
一実施形態では、制御格子は、電子が通過できる本質的に中央に配置された有孔面を備え、制御格子またはカソードハウジングのいずれかの長手終端部同士は、膨出形状(bulge-like shapes)が有孔面の長手境界部へと延在するように、互いに向かう方向に制御格子の上で曲げられる。膨出形状は、電子が本質的に直角に、すなわち、出口窓の面に本質的に直交する方向で出口窓に達するように電界を形成するのを助けることになる。実際、電極は、電子軌跡を電子ビームの中心へと若干「曲がる」ようにさせることで、電子軌跡が拡がる傾向のある出口窓の近く、すなわち、電子ビームが制御格子の近くよりも、通常はより拡がることになる出口窓の近くで、電子軌跡が「曲がっていく」のとは反対に作用することになる。
【0007】
一実施形態では、膨出形状は、その自由縁が制御格子の有孔面に本質的に直交する方向を向くように形成される。その自由縁は、制御格子へと本質的に下方に延在する。これが、前述の電子を向かわせる効果にさらに加わる。
【0008】
一実施形態では、膨出形状を形成するために曲げられている長手終端部同士は、連結手段の上で曲げられて、連結手段を少なくとも一部包囲する。したがって、連結手段の形は、電界に対してまったくもしくはほとんど影響を与えることはなく、そのため、カソードハウジングと制御格子とを連結することができる最も優れた方法で設計することができる。
【0009】
電子を制御格子に一様に向かわせるために、カソードハウジングは細長い半円環状の外殻として好ましくは形成され、外殻の開いている側は制御格子によって覆われる。
【0010】
1つまたは複数の現在の好ましい実施形態では、少なくとも1つのフィラメントは、半円環状の外殻内の本質的に中央において外殻に沿って延在する。この実施形態は、小型で組み立てが容易なカソードを実現する。
【0011】
一実施形態では、膨出形状は制御格子で形成され、カソードハウジングの自由な長手終端部は、内向きに曲げられ、制御格子の有孔面と本質的に平行に向けられた径方向の突起を形成し、連結手段は、カソードハウジングの突起に連結されるとともに制御格子の領域にも連結され、その領域は有孔面と膨出形状との間に設けられる。この実施形態によって、カソードの部品を容易に製造および組み立てられる。
【0012】
一実施形態では、制御格子とカソードハウジングとは別々の電源に接続され、連結手段は電気絶縁要素である。この実施形態は、制御格子が電子ビームを能動的に形作る三極管型の電子ビーム装置を形成することになる。
【0013】
一実施形態では、電子ビーム装置は三極管型のものであり、フィラメントは第1の電源に接続され、カソードハウジングは第2の電源に接続され、制御格子は第3の電源に接続され、円筒体および電子出口窓は接地される。これは、効率のよい三極管型電子ビーム装置の例である。
【0014】
さらに他の実施形態は、追加の従属請求項によって定められる。
【0015】
さらに、本発明は、細長い形状の円筒体を備える電子ビーム装置であって、電子出口窓が円筒体の長手方向に延在する、電子ビーム装置を製造する方法も提供する。円筒体が少なくとも部分的に真空室を形成し、真空室が、細長い形状のカソードハウジングを具備するカソードと、カソードハウジングの細長い形状に沿って共に延在する制御格子および電子を発生する少なくとも1つのフィラメントと、を内部に備える。この方法は、制御格子およびカソードハウジングを連結手段によって互いに連結するステップと、制御格子またはカソードハウジングのいずれかの自由な長手終端部同士を、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状を形成するために、互いに向かう方向に曲げるステップと、を含む。
【0016】
以下に、本発明の現在の好ましい実施形態が、添付の概略図を参照しつつ、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による電子ビーム装置の斜視図である。
図2図1の電子ビーム装置で用いることができるカソードの斜視図である。
図3図2のカソードの長手方向における断面図である。
図4図2のカソードの第1の実施形態の概略断面図である。
図5a】制御格子をカソードハウジングに連結する連結手段の図である。
図5b】連結手段を連結するために制御格子とカソードハウジングとで用いられる孔の図であり、点線は、取付状態および固定状態の2つの状態における、連結手段の最大直径を示す図である。
図6a】カソードハウジングの一部の斜視図である。
図6b】制御格子の一部の斜視図である。
図7】カソードの第2の実施形態の概略断面図である。
図8】カソードの第3の実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の密封された例示の電子ビーム装置100の斜視図であり、その外観のみを示している。図面の目的は、単に、電子ビーム装置の基本的な構成部品を図示することであり、その目的が、正確な構造図面を提供することではなく、また、本発明をなにか他に限定する方法で提供することではないことは強調されなければならない。
【0019】
電子ビーム装置の主要な構成部品は、細長い形状の円筒体102である。出口窓部104は、円筒体102の内部の真空からの電子に出口を提供する。出口窓部104は、本発明に関係していないが円筒体102の内部の真空を保ちつつ電子に出口窓を提供する特徴を有する部分組立品をさらに備える。円筒体102の近位端は、電気接続部106と絶縁性のセラミック円板108とを備える組立体を具備し、セラミック円板108は組立体と円筒体102の内周部とを封止する。本実施形態では、セラミック円板108は、実際には、細長い円筒体に溶接される円筒部材110の内周部を封止する。本発明に関係していないため、この構成は、電子ビーム装置の組立、分解、再組立を単純化している。
【0020】
円筒体102の内部には、カソードが配置されている。カソードは、図2および図3に図示される構成部品のうちの1つであるカソードハウジング112を備えている。円筒部材110およびセラミック円板108ははっきりと見ることができ、当業者は、図1の組立体を形成するために、図示した構成がどのように円筒体102に挿入されるかは理解できる。カソードハウジング112は、半円環状の外殻として形成され、その開いている側は制御格子114によって覆われている。カソードハウジング112の半円環状の外殻の内部には、カソードハウジング112の近位端から遠位端へと延在する1つまたは複数のフィラメント120(図3参照)が配置されている。使用の際、電子ビームは、電流を用いてフィラメント120を加熱するとともに、電子出口窓104に向かう電子をカソードハウジング112と(アノードである)出口窓104との間の高電位によって加速することによって、発生させられる。高電位は、例えば、カソードハウジングを電源に接続するとともに、円筒体を接地することによって作り出される。
【0021】
制御格子114にも電位を印加することで、電子の放出をさらに抑制することができる。別々とされた変更可能な電位が制御格子114に印加される場合、それによって、発生した電子ビームを能動的に形作るために制御格子114を用いることが可能となる。この目的のために、制御格子114は別々の電源(図示せず)に電気的に接続されてもよい。このような型式の電子ビーム装置は、三極管と一般的に称される。三極管は、一般的に、フィラメントが第1の電源に接続され、カソードハウジングが第2の電源に接続され、制御格子が第3の電源に接続されることを特徴とする。
【0022】
制御格子114は、電子が通過するための開口または貫通孔のパターンを有する平らな有孔面115を備えている。カソードハウジング112の開いている側は、制御格子114を支持しており、明白な理由のため、出口窓部104を向いているべきである。
【0023】
カソードの第1の実施形態が図4に示されている。カソードハウジング112の自由な長手終端部(free longitudinal end portions)が、互いに向かう方向、すなわち、長手方向に延在する縁に直交している短手方向において、内向きに曲げられている。それにより、縁は径方向の突起116を形成する。これらの径方向の突起116は、好ましくは、制御格子114の平らな有孔面115に対して平行であって直線的である。制御格子114は、連結手段118を用いて、連結位置で突起116に連結されている。カソードハウジング112と制御格子114との間に電位差がある場合には、連結手段118は電気絶縁要素であるのが好ましい。そのような場合、電気絶縁要素は、例えば、セラミック材料Alから作られるのが好ましい。
【0024】
連結手段118の例は図5aに示されている。連結手段118は、X軸に周りに回転対称となっている。連結手段118は、3カ所のより大きな直径の部分と、2カ所のより小さな直径の中間部分とを備えている。より大きな直径の部分のうちの真ん中の部分は、他の2カ所のより大きな直径の部分よりもさらに大きくなっている。制御格子とカソードハウジングとは、連結手段118によって穴を介して互いに連結されている。典型的な孔形状144は図5bに示されている。図5aおよび図5bが互いに同じ尺度とはなっていないことは指摘しておくべきであろう。孔144は、より大きな直径の円形部122と、より小さな直径の長円形部124とを備える。円形部122のより大きな直径は、連結手段118の2番目に大きな直径よりも若干大きくなっている。長円形部124のより小さな直径は、連結手段118の中間部分のより小さな直径よりも若干小さい、もしくは、その直径に本質的に等しくなっている。図6aでは、カソードハウジング112の一部が、径方向の突起116と共にはっきりと視認可能に図示されている。径方向の突起116には、図5bの前述の孔形状144の貫通孔が設けられている。複数のこのような孔144が、長手方向に延在する径方向の突起116に沿って設けられている。同様に、複数のこのような孔144が、制御格子114に設けられている。孔144は、有孔面115と膨出形状(bulge-like shapes)126との間に設けられた領域に配置され、膨出形状は下記で、さらに詳細に説明される。図6bは制御格子を「逆さま」に示しており、それによって、カソードハウジングを向くように適合された有孔面115をはっきりと見ることができることに留意されたい。さらに、簡略化のために、有孔面115は本明細書では空白で示されている(電子のための貫通する開口のパターンを見ることはできなくされている)。
【0025】
連結手段118は、その端部を孔144のより大きな円形部122を通すことで孔144に取り付けられる。したがって、連結手段118の最も大きな直径の径方向の表面は、突起116において孔144の周囲の表面に載る状態となる。それにより、連結手段118は取付状態になる。次に、連結手段118は、それがしっかりと固定される孔144のより小さい長円形部124に向かってスライドされる。これで固定状態となる。取付状態および固定状態における連結手段118の位置は、図5bに点線で示される。制御格子114およびカソードハウジング112は、カソードハウジング120の各孔144に1つの連結手段118を配置するとともに、連結手段118を固定状態にスライドすることによって、互いに取り付けられる。したがって、制御格子114は、カソードハウジング112に取り付けられた連結手段118を、その他方の端において、制御格子114の孔144のより大きな円形部において受け入れるように配置される。そして、制御格子114はカソードハウジング112の上で所定位置にスライドされ、それによって、制御格子114は、連結手段118が制御格子114の孔144のより小さい長円形部124に最終的に位置するように配置されることになる。
【0026】
図4に示す、カソードの第1の実施形態では、制御格子114の自由な長手終端部128同士は、互いに向かう方向に、すなわち、長手終端部の延出に直交している短手方向に曲げられることで、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状126を形成している。このような電極は、「ウェーネルト」電極と称されることがある。膨出形状は、予測可能な滑らかな電界の発生における助けとなって、電子ビーム装置100の性能の利益となる。膨出形状は、電子が本質的に直角に、すなわち、出口窓104の面に本質的に直交する方向で出口窓104に達するように電界を形成するのを助ける。実際、電極は、電子軌跡を電子ビームの中心へと若干「曲がる」ようにさせることで、電子軌跡が拡がる傾向のある出口窓104の近く、すなわち、電子ビームが、制御格子114の近くよりも、通常はより拡がることになる出口窓104の近くで、電子軌跡が「曲がっていく」のとは反対に作用することになる。
【0027】
「膨出形状」という用語は、限定的に解釈されるべきではなく、本明細書では、例えば、膨らんだ形状、玉のような形状、巻いた形状、湾曲した形状、波のような形状、または、半円の形状を形成するあらゆる形状として解釈されるべきである。また、例えば、半三角形状といった多角的に一続きとされた形状など、より直線的な形状をも意味することができる。
【0028】
制御格子114は、その中心に位置された有孔面115に向かって、制御格子114自体の上に巻かれるようにして曲げられている。膨出形状126は、有孔面115の長手境界部130へと延在するように作られている。さらに、膨出形状126は、その自由縁(free edges)132が制御格子114の有孔面115に本質的に直交する方向を向くように形成されている。その自由縁132は、制御格子114へと本質的に下方に延在し、小さな隙間だけを残している。図4に見ることができるように、長手終端部128は連結手段118上で曲げられて、連結手段118を少なくとも一部包囲している。
【0029】
前述のカソードは、図2に示すように、電子ビーム装置内に嵌め込まれている。近位端と同様に、カソードハウジング112の遠位端は、電気接続部とともに、フィラメント120用の物理的な懸架部を備える。遠位端では、この構成が半球形状の蓋134内に収容されて覆われている。半球形状の蓋を用いることは、効果的な方法で蓋の内部の構成部品を蓋の外部の電界から遮蔽することになり、また反対に、例えば、蓋の内部の構成部品の形状が電界に弊害をもたらすように影響することはないことを示唆している。
【0030】
蓋134は、図3に示すように、断面において一部が半球を若干超えるような球形の外殻の形態を有している。本実施形態の蓋134は軸対称であり、自由端には中実の膨出部136が設けられ、膨出部136は自由縁に滑らかな外観ももたらすことで、電界強度が小さく保たれることになる。膨出部136の内周縁によって定められる蓋134の開口は、カソードハウジング112の一部を内部に挿入できるように、カソードハウジング112の半円環状の外殻に嵌まり合うように寸法が定められている。蓋134の開口は、半円環状の外殻の曲率となるような直径を有しており、開口の下半分を効果的に塞いでいる。開口の上半分は板138によって覆うことができ、電界が蓋134に入るのを防ぎ、蓋134に対してカソードハウジング112を位置決めしている。蓋134は、一体に形成された、開放された端部(自由縁と玉のような形状とが設けられている)と半球体とを備えるように示されてもよい。
【0031】
近位端において、カソードハウジング112は細長い円筒体に懸架されている。この懸架の方法は1つの方法だけで提供されなくてもよく、図3で最もよく理解できる懸架は、以前には示されていない一選択肢である。カソードハウジングは、本明細書では詳細に説明しないいくつかの中間部品によって、円板108の中心の開口に効率よく懸架されている。近位端での電界の歪みを回避するために、以下において「近位蓋」140と称されることになる、近位端にも蓋が設けられている。近位蓋140の開放された端部における自由縁には、玉のような形状が設けられ、開放された端部自体は、蓋134の対応する端部と実質的に同等である。しかしながら、蓋134は開放された端部と半球体とを備えるように示されたが、近位蓋140は、円筒体の近位端で懸架構成部に嵌め合わされるように、開放された端部と円筒形の外殻とを備える。
【0032】
好ましくは、カソードハウジング、円筒体、および制御格子は、ステンレス鋼からすべて作られる。
【0033】
図2および図4において、カソードハウジング112の半円環状の外殻の断面は、滑らかな円形とされておらず、小平面142によって、または、多角的に一続きとされて形成される。これによって、電子ビーム装置の製造において用いられる曲げ加工がかなり容易になる。さらに、カソードハウジング112には、カソードハウジング112の細長形状を交差する補強材として機能する多くの支柱部(図示せず)が設けられている。
【0034】
カソードの第2の実施形態が図7に示されている。簡単にするため、同じ参照符号が対応する要素に用いられており、第1の実施形態と第2の実施形態との間の異なる点だけを説明する。図面で見ることができるように、第2の実施形態は、第1の実施形態に非常に似ている。基本的には、異なる形状を有する制御格子114およびその膨出形状126だけである。制御格子114は、有孔面115の面が連結手段118用の孔144が設けられる領域を構成する面からずれるように曲げられている。有孔面115は、カソードハウジング112から離れる方向にずらされている。この実施形態は、第1の実施形態よりも複雑な設計であるが、電界強度がより小さくなる。
【0035】
カソードの第3の実施形態が図8に示されている。簡単にするため、ここでも同じ参照符号が対応する要素に用いられており、第1の実施形態と第3の実施形態との間の異なる点だけを説明する。第3の実施形態では、カソードハウジング112の自由な長手終端部同士が、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状126を形成するために、互いに向かう方向に曲げられている。連結手段118を保持するように適合された径方向の突起116は、カソードハウジング112の内側面に連結された要素144によって形成されている。要素144は、好ましくは、内側面に溶接またはロウ付けされてもよい。他の代わりの取付方法は、例えば、接着剤、リベット打ち、またはねじ止めがある。要素144によって、制御格子114を第1の実施形態と同様の位置に保持することができる。
【0036】
本発明は、細長い形状の円筒体102を備える電子ビーム装置100であって、電子出口窓104が円筒体102の長手方向に延在する、電子ビーム装置100を製造する方法もさらに含む。円筒体102は、少なくとも部分的に真空室を形成している。真空室は、細長い形状のカソードハウジング112を具備しているカソードと、カソードハウジング112の細長い形状に沿って共に延在する制御格子114および電子を発生する少なくとも1つのフィラメント120とを内部に備えている。この方法は、制御格子114およびカソードハウジング112を連結手段118によって互いに連結するステップと、制御格子114またはカソードハウジング112のいずれかの自由な長手終端部122同士を、電子ビーム形成電極を形成するための膨出形状を形成するために、互いに向かう方向に曲げるステップと、を含む。
【0037】
本発明は、現在の好ましい実施形態に関して説明したが、様々な改良や変更が、添付の特許請求の範囲において定義された本発明の目的および範囲から逸脱することなく行われ得ることは理解されるであろう。
【符号の説明】
【0038】
100 電子ビーム装置
102 円筒体
104 電子出口窓
106 電気接続部
108 セラミック円板
110 円筒部材
112 カソードハウジング
114 制御格子
115 有孔面
116 突起
118 連結手段
120 フィラメント
122 円形部
124 長円形部
126 膨出形状
128 長手終端部
130 長手境界部
132 自由縁
134 蓋
136 膨出部
138 板
140 近位蓋
142 小平面
144 孔
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8