【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3の中空バルブにおいて、熱引き効果をさらに上げるには、中空部の容積を大きく(バルブを薄肉化)して、冷却材の装填量を多くすればよいが、バルブの耐久性が低下するため、薄肉化には限界がある。
【0011】
即ち、バルブ傘部は、燃焼室や排気通路において高温の燃焼ガスにさらされて高温となるが、中空部内の冷却材を介してバルブ全体に熱が伝達され、バルブ軸部が摺接するバルブガイドや、閉弁時にバルブ傘部(のフェース部)が当接するバルブシートを介してシリンダヘッドに放熱される。特に、バルブ傘部の熱の大半がバルブシートを介してシリンダヘッドに放熱されると考えられる。
【0012】
このため、バルブの熱引き効果を高めるには、バルブ傘部の熱をバルブシートに如何に効率よく伝達させるかということが重要で、そのためには、バルブ傘部における大径中空部内の冷却材からバルブフェース部間のバルブ母材における熱伝達経路(距離)を短縮することが望ましい。そのための一つの方策としては、大径中空部全体を大きくすればよいが、高温にさらされて耐熱強度が低下するバルブ傘部全体を薄肉化することになって、バルブの耐久性の低下につながるため到底できるものではない。
【0013】
そこで、発明者は、大径中空部の底面側外周縁部だけを半径方向外方にフランジ状に拡径すれば、大径中空部内の冷却材とバルブフェース部間のバルブ母材における熱伝達経路(距離)が短くなって、熱伝達効率が上がることで、熱引き効果が高められるし、バルブ傘部の耐久性も低下することもない、と考えた。
【0014】
また、「大径中空部の底面側外周縁部を半径方向外方にフランジ状に拡径する」という発明者の知見に係る構造については、前記した特許文献3の図面(例えば
図1,3)に図示されている。しかし、この発明者の知見に係る構造の適用範囲は、特許文献3の発明(バルブ軸部内の小径中空部が連通するバルブ傘部内の大径中空部を略円錐台形状に形成して、バルブの開閉動作(バルブの軸方向への往復動作)の際に、大径中空部内の冷却材にタンブル流が形成される、という構造)に限定されるものではなく、先行特許文献1,2等を含む従来公知の中空バルブにも広く適用できるものであることから、この度、先行特許文献3に基づく優先権を主張する特許出願をするに至ったものである。
【0015】
本発明は、前記した従来技術の問題点および発明者の前記した知見に基づいてなされたもので、その目的は、バルブ傘部内の大径中空部の底面側外周縁部を外方に拡径することで、バルブの耐久性に影響を与えることなく、バルブの熱引き効果(熱伝導性)を改善できる中空ポペットバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明(請求項1)に係る中空ポペットバルブにおいては、
軸部の一端側に傘部を一体的に形成したポペットバルブの傘部から軸部にかけて中空部が形成され、前記中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填された中空ポペットバルブにおいて、
前記バルブ傘部内に、前記バルブ軸部内に設けられた直線状の小径中空部が連通する、略円盤形状の大径中空部を設けるともに、該大径中空部の底面側外周縁部を半径方向外方にフランジ状に拡径するように構成した。
【0017】
(作用)バルブ傘部の熱の大半は、大径中空部内の冷却材を介してバルブ母材(傘部形成壁)に伝達されて、バルブフェース部からシリンダヘッドに放熱されるが、大径中空部の底面側外周縁部が半径方向外方に拡径されているので、第1には、大径中空部内の冷却材の装填量が増える分、バルブ傘部における熱伝達効率が上がる。
【0018】
第2には、大径中空部(内の冷却材)とバルブフェース部間のバルブ母材(傘部形成壁)における熱伝達経路が大径中空部の底面側外周縁部の拡径幅(拡径長さ)相当だけ短縮されて、それだけバルブ傘部における熱伝達効率が上がる。
【0019】
また、大径中空部の拡径された底面側外周縁部は、フランジ状に形成されて、バルブ傘部形成壁全体が薄肉化されるものではないため、バルブ傘部の剛性強度や曲げ強度が低下するおそれはない。
【0020】
請求項2においては、請求項1に記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記大径中空部を、前記バルブ傘部の外形に略倣うテーパ形状の外周面を備えた略円錐台形状に形成し、該大径中空部の円形天井面に前記小径中空部が直交するように連通して、バルブが軸方向に往復動作する際、少なくとも該大径中空部内の冷却材に前記バルブの中心軸線周りに縦方向の旋回流が形成されるように構成した。
【0021】
(作用)バルブが閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブが下降する際)には、
図3(a)に示すように、中空部内の冷却材(液体)には慣性力が上向きに作用する。そして、大径中空部中央部の冷却材に作用する慣性力(上向き)が大径中空部周辺領域の冷却材に作用する慣性力よりも大きいため、大径中空部内の冷却材が連通部を介して小径中空部に移動しようとする。しかし、連通部には庇状の環状段差部が形成されているため、換言すれば、大径中空部の天井面(大径中空部における小径中空部の開口周縁部)がバルブの中心軸線に対し略直交する平面で構成されているため、冷却材は、連通部が滑らかな形状で形成されている従来(先行特許文献1,2)の中空バルブのようにスムーズに小径中空部に移動できない。
【0022】
このため、
図4(a)に示すように、連通部Pにおいて小径中空部S2に向かう流れF4,F5が僅かに発生するものの、円環状の段差部(大径中空部の天井面)に沿って半径方向外側に向かう流れF1が発生する。このとき、大径中空部の底面側では、大径中空部中央部の冷却材が上方に移動することで、大径中空部中央部の底面側が負圧になって、半径方向外側から内側に向かう流れF3が発生し、これに伴って、大径中空部の傾斜外周面に沿って下方に向かう流れF2が発生する。
【0023】
このように、大径中空部内の冷却材には、矢印F1→F2→F3→F1に示すように、バルブの中心軸線の周りに縦方向外回りの旋回流(以下、外回りのタンブル流という)が形成され、小径中空部内の冷却材には、F4,F5に示すような乱流が発生する。
【0024】
一方、バルブが開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブが上昇する際)は、
図3(b)に示すように、中空部内の冷却材には慣性力が下向きに作用する。そして、大径中空部中央部の冷却材に作用する慣性力(下向き)が大径中空部周辺領域の冷却材に作用する慣性力よりも大きいため、
図4(b)に示すように、大径中空部内の冷却材には、大径中空部の中央部から底面に沿って半径方向外方に向かう流れF6が発生し、同時に、小径中空部においても連通部を通って下方に向かう流れ(乱流)F7が発生する。大径中空部の底面に沿った流れF6は、大径中空部の外方からテーパ状外周面に沿って天井面側に回りこみ、大径中空部S1の天井面に沿った流れF8となり、大径中空部の中央部において下方に向かう流れF6,F7に合流する。
【0025】
即ち、大径中空部の冷却材には、矢印F6→F8→F6に示すように、バルブの中心軸線の周りに縦方向内回りの旋回流(以下、内回りのタンブル流という)が形成され、小径中空部内の冷却材には、矢印F7に示すような乱流が発生する。
【0026】
このように、バルブが開閉動作することで、バルブの大径中空部内の冷却材には、
図4に示すようなタンブル流や乱流が形成されて、中空部内全体の冷却材の上層部、中層部、下層部が積極的に攪拌されるため、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が著しく改善される。
【0027】
請求項3おいては、請求項2記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記大径中空部の拡径された底面側外周縁部の天井面をテーパ状に形成して、拡径された該底面側外周縁部にも前記タンブル流の一部が導かれるように構成した。
【0028】
(作用)バルブの開閉動作の際に、大径中空部内の冷却材に形成されるタンブル流の一部が大径中空部の拡径された底面側外周縁部にも導かれて、大径中空部の拡径された底面側外周縁部内の冷却材も攪拌されるため、バルブの熱引き効果(熱伝導性)がいっそう改善される。
【0029】
請求項4おいては、請求項2または3に記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記大径中空部を、その円形の天井面が略円錐台の上面に対し前記バルブの軸部側に所定距離オフセットする段付き略円錐台形状に構成した。
【0030】
(作用)請求項2または3では、略円錐台形状の大径中空部の円形天井面が平面で構成されているので、鍛造工程で用いる金型先端部の押圧成形面が平面となり、金型先端部の押圧成形面を所定の曲面やテーパ面に加工する場合に比べて、確かに金型の加工は容易である。
【0031】
しかし、鍛造工程だけで、大径中空部の天井面(略円錐台形状の上面)を高精度の平面に成形することは難しく、鍛造工程で用いる金型先端部の押圧成形面の摩滅も激しい。
【0032】
然るに、請求項4では、大径中空部の円形の天井面を、略円錐台形状の上面に対しバルブの軸部側に所定距離(たとえば、鍛造工程で成形された傘部外殻内側の略円錐台形状凹部の球面状底面を、バルブの中心軸線に対し直交する平面に切削加工するために必要な距離)だけオフセットした位置に設けるように構成した(大径中空部を段付き略円錐台形状に形成した)ので、たとえば、鍛造工程で用いる金型先端部(の押圧成形面)に丸みを付けることで、金型が摩滅しにくいし、鍛造後に大径中空部の円形の天井面を切削加工で成形するため、鍛造工程で用いる金型先端部(の押圧成形面)の加工精度に対する要求も緩和されて、金型の加工がより容易となるし、大径中空部の円形の天井面(平面)の加工精度も上がる。
【0033】
請求項5においては、請求項1〜4のいずれかに記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記バルブ軸端部寄りの小径中空部の内径を前記バルブ傘部寄り小径中空部の内径よりも大きく形成して、前記小径中空部内の軸方向所定位置に円環状の段差部を設けるとともに、前記段差部を越えた位置まで前記冷却材を装填するように構成した。
【0034】
(作用)バルブが閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブが下降する際)は、小径中空部内の冷却材(液体)が、内径の小さいバルブ傘部寄りの小径中空部から内径の大きいバルブ軸端部寄りの小径中空部に移動する際に、
図4(a)に示すように、段差部の下流側で乱流F9が形成されて、小径中空部内の冷却材が攪拌される。
【0035】
一方、バルブが開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブが上昇する際)は、開弁動作によって小径中空部内を上方にいったん移動した冷却材(液体)が、内径の大きいバルブ軸端部寄りの小径中空部から内径の小さいバルブ傘部寄りの小径中空部に移動する際に、
図4(b)に示すように、円環状の段差部の下流側で乱流F10が形成されて、小径中空部内の冷却材が攪拌される。
【0036】
このように、バルブの開閉動作(上下方向の往復動作)に伴って、冷却材が小径中空部内を軸方向に移動する際に段差部の近傍に乱流が発生し、これによって小径中空部内の冷却材が攪拌されるので、バルブ軸部における熱引き効果(熱伝導性)がさらに高くなる。
【0037】
請求項6においては、請求項5に記載の中空ポペットバルブにおいて、前記小径中空部内の段差部を、前記バルブをエンジンの燃焼室に開口する排気通路または吸気通路に配設した際に、前記排気通路または吸気通路内とならない所定位置に設けるように構成した。
【0038】
(作用)金属の疲労強度は高温になるほど低下するため、常に排気通路(または吸気通路)内にあって高熱にさらされる部位である、バルブ軸部におけるバルブ傘部寄りの領域は、疲労強度の低下に耐え得る程度の肉厚に形成する必要がある。一方、熱源から離れ、しかも常にバルブガイドに摺接する部位である、バルブ軸部における軸端部寄りの領域は、冷却材を介して燃焼室や排気通路(または吸気通路)の熱が伝達されるものの、伝達された熱はバルブガイドを介して直ちにシリンダヘッドに放熱されるため、バルブ傘部寄りの領域ほどの高温となることがない。したがって、バルブ軸部における軸端部寄り領域は、バルブ傘部寄りの領域よりも疲労強度が低下しないため、薄肉に形成(小径中空部の内径を大きく形成)しても、強度的(疲労により折損する等の耐久性)には問題がない。
【0039】
また、軸端部寄り小径中空部の内径を大きくすれば、小径中空部全体の表面積(冷却材との接触表面積)が増えることで、バルブ軸部における熱伝達効率が上がるし、小径中空部全体の容積が増えることで、バルブの総重量を軽減できる。また、冷却材の装填量を増やすことで、バルブ軸部の熱引き効果(熱伝導性)も上がる。そして、小径中空部内の段差部がバルブ傘部寄りとなるほど、バルブの熱引き効果が高くなる。
【0040】
このため、小径中空部内の段差部は、バルブが開弁しきった状態で、少なくとも排気通路または吸気通路内とならない所定位置(例えば、バルブガイドの排気通路または吸気通路に臨む側の端部に略対応する位置)に設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0041】
本願発明(請求項1)に係る中空ポペットバルブによれば、大径中空部内の冷却材の装填量が増えるとともに、大径中空部(内の冷却材)とバルブフェース部間のバルブ母材(傘部形成壁)における熱伝達経路が短縮されるので、バルブ傘部における熱伝達効率が上がり、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が改善されて、エンジンの性能が向上する。
【0042】
また、バルブフェース部近傍の一部が薄肉となるが、バルブ傘部形成壁全体が薄肉化されるものでないため、バルブ傘部の剛性強度や曲げ強度が低下してバルブの耐久性が低下することもない。
【0043】
請求項2に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作の際に、大径中空部内の冷却材に縦方向の旋回流が形成されて、中空部内全体の冷却材の上層部、中層部、下層部が積極的に攪拌されるので、中空部内全体の冷却材による熱伝達が活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が著しく改善されて、エンジンの性能がいっそう向上する。
【0044】
請求項3に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作の際に、大径中空部内の冷却材に縦方向の旋回流が形成されて、中空部内全体の冷却材の上層部、中層部、下層部がより積極的に攪拌されるので、中空部内全体の冷却材による熱伝達がいっそう活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)がいっそう改善されて、エンジンの性能がよりいっそう向上する。
【0045】
請求項4に係る中空ポペットバルブによれば、大径中空部を加工する際に一定の加工精度が保証されるので、製造される各バルブにおける熱引き効果(熱伝導性)の均一化が可能となる。
【0046】
請求項5に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作(上下方向の動作)に伴って、小径中空部内の冷却材全体も積極的に撹拌されるので、さらにいっそう熱引き効果(熱伝導性)に優れた中空ポペットバルブが提供される。
【0047】
請求項6に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの耐久性に影響を与えない範囲で、バルブ軸部における軸端部寄りの小径中空部の内径を大きくするとともに、小径中空部内の段差部の位置を下方にしたので、バルブ軸部の熱引き効果(熱伝導性)がいっそう改善されるとともに、バルブ総重量が軽減されて、エンジンの性能がいっそう向上する。