特許第6072066号(P6072066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6072066硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜、および該複合塗膜で被覆された防汚基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072066
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜、および該複合塗膜で被覆された防汚基材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/06 20060101AFI20170123BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20170123BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20170123BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20170123BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170123BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20170123BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20170123BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B32B27/06
   C09D175/04
   C09D183/04
   C09D183/08
   C09D5/16
   C09D5/08
   B05D7/14 N
   B05D5/00 H
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-546966(P2014-546966)
(86)(22)【出願日】2013年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2013080331
(87)【国際公開番号】WO2014077204
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249241(P2012-249241)
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】大家 政明
(72)【発明者】
【氏名】山根 究
(72)【発明者】
【氏名】田代 真一
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−200455(JP,A)
【文献】 特開2005−296836(JP,A)
【文献】 特開2010−022997(JP,A)
【文献】 特開2006−082414(JP,A)
【文献】 特開2003−205572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)ポリオールおよびグリシジルエーテル類からなる群より選ばれる主剤ならびにイソシアネート系硬化剤を含む防食塗料組成物から形成されたウレタン樹脂系防食塗膜と、
(II)下記(a)、(b)、および(c)成分を含む硬化性ポリシロキサン組成物から形成された、水棲生物の付着を防止するための防汚塗膜とが積層されてなり、
船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材の表面を保護するために用いられる
ことを特徴とする防汚性複合塗膜。
(a)1分子中に少なくとも2個の官能基を有するジオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に少なくとも2個の水酸基又は加水分解性基を有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、
(c)下記一般式(1)で表されるアミノ基含有アルコキシシラン及び/又はその反応生成物、
X−R1−SiR2n(OR33-n ・・・(1)
(R1は、炭素原子数が1〜10のアルキレン基を示し、
2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、
3は、炭素原子数が1〜10のアルキル基を示し、
Xは、R45N−またはR67C=N−で表される基(R4は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基、またはH2N(CH2p(NH(CH2qr−(p、qは2〜5の整数、rは0〜5の整数である。)を示し、R5は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示す。)であり、
nは0〜2の整数である。)
【請求項2】
前記(a)ジオルガノポリシロキサンの官能基が、水酸基、イミノキシ基、アミノ基、アセチルオキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項3】
前記(b)オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の防汚性複合塗膜。
8dSiY4-d・・・(2)
(式中、R8は炭素原子数1〜6の炭化水素基を示し、Yは水酸基又は加水分解性基を示し、dは0〜2の整数である。)
【請求項4】
前記一般式(2)の中のYが、水酸基、イミノキシ基、アセチルオキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項3に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項5】
前記(I)の防食塗料組成物に、硬化促進用触媒として3級アミン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項6】
前記(c)アミノ基含有アルコキシシランが、γ−アミノプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項7】
前記(II)の硬化性ポリシロキサン組成物の固形分100重量部に対して、前記(c)アミノ基含有アルコキシシランを0.001〜5重量部含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項8】
前記防食塗料組成物において、前記主剤がポリオールであり、前記イソシアネート系硬化剤がポリイソシアネートである請求項1〜7のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項9】
前記防食塗料組成物において、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の当量と、ポリオールに含まれる水酸基の当量との比[NCO基/OH基]が0.3/1.0〜2.0/1.0であることを特徴とする請求項8に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項10】
前記硬化性ポリシロキサン組成物がシリコーンオイル(e)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜(ただし、前記防汚塗膜が、光触媒を含み該光触媒の活性化により耐汚染性を発揮する防汚塗膜であるものを除く。)。
【請求項12】
船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材表面に、請求項1〜11のいずれか1項に記載の防汚性複合塗膜が、基材/(I)/(II)の順で積層されてなることを特徴とする防汚基材。
【請求項13】
前記基材が、水中構造物または船舶であることを特徴とする請求項12に記載の防汚基材。
【請求項14】
船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材表面に、請求項1〜11のいずれかに記載の防汚性複合塗膜を、基材/(I)/(II)の順で積層することを特徴とする防汚基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂系防食塗膜と硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗膜とからなる硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜、および該複合塗膜で被覆された防汚基材に関する。
【背景技術】
【0002】
水中構造物への水棲生物の付着を防止するための防汚塗膜として、硬化性オルガノポリシロキサン系塗料組成物から形成される塗膜は、従来の有機金属等の有害物質を含む防汚塗膜の代替品として有用である。硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗膜は、鋼製などの基材表面に防食性の観点から形成されたエポキシ樹脂系防食塗膜等の上層に積層され、硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜として一般に用いられている。
【0003】
従来、硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜は、オルガノポリシロキサン系防汚塗膜層(Finish Coat)とエポキシ防食塗膜層(Under Coat)との間に、1層または2層のオルガノポリシロキサン中間塗膜層(Tie Coat)を介在させ、防汚性複合塗膜全体を3層または4層の塗膜構造とすることにより、塗膜層間の付着力を保持していた。
【0004】
しかしながら、このような多層塗膜構造の防汚性複合塗膜においては、長期的な防汚性が得られるものの、塗装工期が長期化し、コスト高となる問題があった。
【0005】
例えば、本願出願人による特許文献1には、「エポキシ樹脂系防食塗膜の表面上に直接、この防食塗膜との層間付着性と防汚性能との両方に優れたオルガノポリシロキサン防汚塗膜を積層させて得られる、硬化オルガノポリシロキサン系防汚複合塗膜」が提案されている。
【0006】
該防汚複合塗膜は、「[I]エポキシ樹脂(e1)およびエポキシ樹脂用アミン系硬化剤(e2)を含む防食塗料組成物[i]から形成されたエポキシ樹脂系防食塗膜と、[II]当該エポキシ樹脂系防食塗膜の表面上に直接積層された、下記(A)、(B)および(C)成分からなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する防汚塗料組成物[ii]から形成された防汚塗膜と、からなる硬化オルガノポリシロキサン系防汚複合塗膜であって、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、(A)1分子中に少なくとも2個の縮合反応性基を有するオルガノポリシロキサン(a1)およびシリカ(a2)を含有する主剤成分と、(B)上記1分子中に少なくとも2個の縮合反応性基を有するオルガノポリシロキサン(a1)の縮合反応性基と縮合反応可能な官能基を有するオルガノシランおよび/またはその部分加水分解物(b1)を含有する硬化剤成分と、(C)特定のスズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のスズ化合物(ac)を含有する硬化促進剤成分と、からなる3液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物であることを特徴とする硬化オルガノポリシロキサン系防汚複合塗膜」である。
【0007】
換言すれば、特許文献1に係る防汚複合塗膜は、特殊スズ触媒を改良することで、エポキシ樹脂系防食塗膜上に直接、防汚性能に優れたオルガノポリシロキサン防汚塗膜を積層させて得られるものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の防汚複合塗膜は、ベース塗膜がエポキシ樹脂の場合低温条件での塗装が難しく、極限条件(低温(0℃))での硬化性に劣り、また低温時の付着性が低下するという問題があった。
【0009】
特許文献2には、鋼材に対し、ウレタン塗料またはポリエチレン樹脂である防食材料を塗装または被覆して成る下塗り層、該下塗り層の上にシリコーンゴムを3重量%以上含有する塗料を塗装して成る中塗り層、そして該中塗り層の上にシリコーンゴム塗料を塗布して成る上塗り層を備えた防汚防食被覆鋼材が提案されている。
【0010】
しかしながら、ウレタンとシリコーンの防汚性積層塗膜間にシリコーン成分を数%含んだウレタン中塗り塗料が必要である。
【0011】
特許文献3には、0.02〜1.5重量%のイミダゾール化合物と水酸基含有ウレタン樹脂とイソシアネート化合物とからなる接着剤組成物が提案されている。
【0012】
しかしながら、特許文献3は対象が接着剤であり、シリコーン防汚塗膜を含む複合塗膜についての記載がない。
【0013】
こうした室温硬化性シリコーンゴムは、離型性や柔軟性には優れるものの、付着性や防汚性には改良の余地があった。一般に、付着性の向上を図ると防汚性が損なわれ、逆に防汚性の向上を図ると付着性が低下するという傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−245141号公報
【特許文献2】特許第2814526号
【特許文献3】特許第3176396号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、1層または2層のオルガノポリシロキサン中間塗膜層(Tie Coat)の代わりに、硬化性に優れるウレタン樹脂系防食塗膜を用い、該防食塗膜との層間付着性と防汚性能との両方に優れたオルガノポリシロキサン防汚塗膜を積層させて得られる、硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜、および該複合塗膜で被覆された防汚基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するため防汚性複合塗膜の構成について鋭意検討してきた。その過程で、硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗料組成物に特定のアミノ基含有アルコキシシランを配合することにより、ウレタン樹脂系塗膜のイソシアネートとの相互作用により付着性が向上し、ウレタン樹脂系塗料による塗装と上塗りの硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗料による塗装との間隔が短くても、ウレタン樹脂系塗膜に対するオルガノポリシロキサン系防汚塗膜の付着性が発現し、さらに防汚性能と塗膜強度性能がともに良好なオルガノポリシロキサン系防汚塗膜が形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
通常、冬場の低温時には塗膜の乾燥に1日以上の日数を要するため、1回目と2回目の塗装間隔が1日以上となるが、本発明ではウレタン塗料の硬化速度を高めることにより、ウレタン塗膜表面の硬化が早くなり、同じ日に(6時間後)シリコーンを塗装しても良好な付着性発現することが可能となった。また、船舶向けのシリコーン塗装では、シリコーン成分が他に付着性不良を発生しないように、シリコーン塗料以外の一般塗装の終了後にシリコーン塗装範囲を塗装するのが一般的である。
【0018】
そのため、シリコーン塗料とその下層の塗料との塗装間隔は短い程、塗装終了までに掛かる時間が短縮でき工程上メリットがある。さらに実際の現場では、塗装は天候の影響を受けやすく、同日に塗装出来ることは施工期間短縮及び高品質の塗膜を形成する上でも非常に効果がある。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係る防汚性複合塗膜は、(I)ポリオールおよびグリシジルエーテル類からなる群より選ばれる主剤ならびにイソシアネート系硬化剤を含む防食塗料組成物から形成されたウレタン樹脂系防食塗膜と、(II)下記(a)、(b)および(c)成分を含む硬化性ポリシロキサン組成物から形成された防汚塗膜とが積層されてなることを特徴とする防汚性複合塗膜である。
【0020】
(a)1分子中に少なくとも2個の官能基を有するジオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に少なくとも2個の水酸基又は加水分解性基を有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、
(c)下記一般式(1)で表されるアミノ基含有アルコキシシラン及び/又はその反応生成物、
X−R1−SiR2n(OR33-n ・・・(1)
(R1は、炭素原子数が1〜10のアルキレン基を示し、
2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、
3は、炭素原子数が1〜10のアルキル基を示し、
Xは、R45N−またはR67C=N−で表される基(R4は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基、またはH2N(CH2p(NH(CH2qr−(p、qは2〜5の整数、rは0〜5の整数である。)を示し、R5は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示す。)であり、
nは0〜2の整数である。)
基材表面に対する前記塗膜(I)および(II)の積層順序は、基材表面、塗膜(I)、塗膜(II)の順序である。
【0021】
本発明に係る防汚性複合塗膜において、前記(a)ジオルガノポリシロキサンの官能基が、水酸基、イミノキシ基、アミノ基、アセチルオキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0022】
本発明に係る防汚性複合塗膜において、前記(b)オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【0023】
8dSiY4-d ・・・(2)
(式中、R8は炭素原子数1〜6の炭化水素基を示し、Yは水酸基又は加水分解性基を示し、dは0〜2の整数である。)
本発明に係る防汚性複合塗膜において、前記一般式(2)の中のYが、水酸基、イミノキシ基、アセチルオキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0024】
本発明に係る防汚性複合塗膜において、防食塗料組成物に、硬化促進用触媒として3級アミン化合物を含有することが好ましい。
【0025】
本発明に係る防汚性複合塗膜において、前記(c)アミノ基含有アルコキシシランが、γ−アミノプロピルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0026】
本発明に係る防汚性複合塗膜において、硬化性ポリシロキサン組成物の固形分(すなわち、組成物中の、任意成分である溶剤以外の成分。)100重量部に対して、前記(c)アミノ基含有アルコキシシランを0.001〜5重量部含むことが好ましい。
【0027】
本発明に係る防汚性複合塗膜を構成する、防食塗料組成物において、前記主剤がポリオールであり、前記イソシアネート系硬化剤がポリイソシアネートであることが好ましい。
【0028】
本発明に係る防汚性複合塗膜を構成する、防食塗料組成物において、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の当量と、ポリオールに含まれる水酸基の当量との比[NCO基/OH基]が0.3/1.0〜2.0/1.0であることが好ましい。
【0029】
上記課題を解決するための本発明に係る防汚基材は、基材表面に、上記記載の防汚性複合塗膜が、基材/(I)/(II)の順で積層されてなることを特徴とする。
【0030】
この発明によれば、基材表面に、上記記載の防汚性複合塗膜が、基材/(I)/(II)の順で積層されるので、1層または2層のオルガノポリシロキサン中間塗膜層(Tie Coat)を介在させることなく、ウレタン防食塗膜層の上に直接接して、この防食塗膜層との層間付着性に優れた硬化オルガノポリシロキサン系防汚塗膜層を積層させた防汚性複合塗膜を得ることが可能となり、塗装工期の短縮やコスト低減などが実現できる。さらに、通常用いられるエポキシ塗膜上には低温では硬化性不良のために形成することができなかった硬化オルガノポリシロキサン系防汚塗膜を、極低温(0℃)での塗装であっても下塗り層に対して良好な付着性で積層させた防汚性複合塗膜を得ることが可能となる。
【0031】
本発明に係る防汚基材において、前記基材が、水中構造物または船舶であることが好ましい。
【0032】
この発明によれば、基材が、水中構造物または船舶であるので、防汚塗膜が、水中構造物、船舶などの基材を被覆するよう形成され、良好な防汚性能を発揮することができる。
【0033】
上記課題を解決するための本発明に係る防汚基材の製造方法は、基材表面に、上記記載の防汚性複合塗膜を、基材/(I)/(II)の順で積層することを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、基材表面に、上記記載の防汚性複合塗膜を、基材/(I)/(II)の順で積層するので、硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗料組成物に特定のアミノ基含有アルコキシシランを配合することで、ウレタン樹脂系塗膜のイソシアネートとの相互作用によりオルガノポリシロキサン系防汚塗膜とウレタン樹脂系塗膜との付着性が向上し、ウレタン樹脂系塗料に特定の3級アミンを配合することにより、ウレタン樹脂系塗料の低温での硬化性が向上する。また、ウレタン樹脂系塗料による塗装と上塗り用の硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗料による塗装との間隔が短くても、ウレタン樹脂系塗膜に対するオルガノポリシロキサン系防汚塗膜の付着性が発現し、さらに防汚性能および塗膜強度性能が良好なオルガノポリシロキサン系防汚塗膜が形成される。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る防汚性複合塗膜、および該防汚性複合塗膜で被覆された防汚基材によれば、1層または2層のオルガノポリシロキサン中間塗膜層(Tie Coat)を介在させることなく、ウレタン防食塗膜層の上に直接接して、この防食塗膜層との層間付着性に優れた硬化オルガノポリシロキサン系防汚塗膜層を積層させた防汚性複合塗膜を得ることが可能となり、塗装工期の短縮やコスト低減などが実現できる。さらに、通常用いられるエポキシ塗膜上には低温では硬化性不良のために形成することができなかった硬化オルガノポリシロキサン系防汚塗膜を、極低温(0℃)での塗装であっても下塗り層に対して良好な付着性で積層させた防汚性複合塗膜を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明に係る防汚性複合塗膜、および該防汚性複合塗膜で被覆された防汚基材について詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0037】
本発明に係る防汚性複合塗膜は、(I)ポリオールおよびグリシジルエーテル類からなる群より選ばれる主剤ならびにイソシアネート系硬化剤を含む防食塗料組成物から形成されたウレタン樹脂系防食塗膜と、(II)下記(a)、(b)および(c)成分を含む硬化性ポリシロキサン組成物(以下「防汚塗料組成物」ともいう。)から形成された防汚塗膜が、基材表面から(I)、(II)の順に積層されることを特徴とする防汚性複合塗膜である。
【0038】
(a)1分子中に少なくとも2個の官能基を有するジオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に少なくとも2個の水酸基又は加水分解性基を有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、
(c)下記一般式(1)で表されるアミノ基含有アルコキシシラン及び/又はその反応生成物、
X−R1−SiR2n(OR33-n ・・・(1)
(R1は、炭素原子数が1〜10のアルキレン基、R2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、
3は、炭素原子数が1〜10のアルキル基を示し、Xは、R45N−またはR67C=N−で表される基(R4は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基、またはH2N(CH2p(NH(CH2qr−(p、qは2〜5の整数、rは0〜5の整数である。)を示し、
5は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示す。)であり、nは0〜2の整数である。)
以下、各成分について順に説明する。
【0039】
ポリオールおよびグリシジルエーテル類からなる群より選ばれる主剤ならびにイソシアネート系硬化剤を含む防食塗料組成物から形成されたウレタン樹脂系防食塗膜(I)
ウレタン樹脂系防食塗膜(I)は、基材表面と密着するように形成されるが、前記主剤、好ましくはポリオールと、前記イソシアネート系硬化剤、好ましくはポリイソシアネートとを含む防食塗料組成物を塗装硬化することによって得られる。
【0040】
<防食塗料組成物>
防食塗料組成物は、好ましくは、ポリオールと、硬化剤としてのポリイソシアネートとが含まれる。
【0041】
(ポリオール)
ポリオールとしては、この種の塗料組成物の主剤として用いられるものであれば、特に制限無く使用できるが、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、ポリブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10- デカンジオール、アルカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の2価アルコール;グリセロール、トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、2,4-ジヒドロキシ-3- ヒドロキシメチルペンタン、1,1,1-トリス(ビスヒドロキシメチル)プロパン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタノール-3等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセロール等の4価アルコール;アラビット、リビトール、キシリトール等の5価アルコール(ペンチット);ソルビット、マンニット、ガラクチトール、アロズルシット等の6価アルコール(ヘキシット);などの多価アルコール;
ポリグリセロール、ポリテトラメチレングリコール等の多価ヒドロキシ化合物などの炭素原子数10程度までのポリグリコール化合物、トリメチロールプロパンに代表される多価アルコールなどの縮合反応によって得られるポリエーテルポリオール樹脂;
アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、コハク酸などの多塩基酸と、プロピレングリコール、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコールを縮合反応して得られるポリエステルポリオール樹脂;
多価アルコール(具体例:上述の多価アルコールの具体例)と多塩基酸(具体例:上述の多塩基酸の具体例)を縮合反応して得られるポリエステルポリオール樹脂;
ヒマシ油などの、活性水酸基を2個以上持った樹脂と、
4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族系ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンメチルエステルジイソシアネート(LDI)などの脂肪族系ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環族系ジイソシアネートなどの活性イソシアネート化合物と
を付加重合反応することによって得られる線状高分子からなるポリオール樹脂;
グリシジルエステル類(カージュラE10:ジャパンエポキシレジン(株)など)またはグリシジルエーテル類と多価カルボン酸(具体例:上述の多塩基酸の具体例)および多価アルコール(具体例:上述の多価アルコールの具体例)とから誘導されるポリエステルポリオール;
無水フタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、脂肪酸、エポキシ樹脂等と多価アルコール(具体例:上述の多価アルコールの具体例)から誘導されるポリエステルポリオール、エポキシポリオール(アルカノールアミン変性エポキシ)、ポリエーテルポリオールまたはアクリルポリオールなどが挙げられる。
【0042】
中でも、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0043】
本発明において好ましく用いられるポリオールとしては、市販品であれば、具体的にはフタルキッド806(日立化成工業(株))などが挙げられる。
【0044】
また、前記主剤として、ビスフェノールAグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAグリシジルエーテル、ビスフェノールFグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ等のグリシジルエーテル類も用いることができる。
【0045】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートは、硬化剤として作用する。この種の塗料組成物の硬化剤として用いられるものであれば、特に制限無く使用できるが、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水素化XDI、H6XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4-ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水素化MDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)、リジンジイソシアネート(2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート)(LDI)、メチルシクロヘキサン-2,4(又は2,6)-ジイソシアネート(水素化TDI 又は HTDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4- ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等のジイソシアネート類、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4- イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等のトリイソシアネート類などが挙げられる。また、これらから誘導されるイソシネート化合物も、この種の塗料組成物の硬化剤として用いられるものであれば、特に制限無く使用できる。
【0046】
さらに、前記硬化剤として、上記に記載されたイソシアネートから誘導されるアダクト体もしくはイソシアヌレート体等も用いることができる。上記化合物以外のポリイソシアネートの具体例として、(A)3価以上の脂肪族多価アルコール(i)とトリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI 又は HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、またはビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水素化XDI、H6 XDI)との付加重合によるアダクト、および(B)ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI 又は HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、またはビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンからなる、イソシアヌレート構造体(ヌレート構造体)を挙げることができる。アダクトの構成成分として用いられる3価以上の脂肪族多価アルコール(i)としては、具体的には、グリセロール、トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、2,4-ジヒドロキシ-3- ヒドロキシメチルペンタン、1,1,1-トリス(ビスヒドロキシメチル)プロパン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタノール-3等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセロール等の4価アルコール;アラビット、リビトール、キシリトール等の5価アルコール(ペンチット);ソルビット、マンニット、ガラクチトール、アロズルシット等の6価アルコール(ヘキシット)などが挙げられる。中でも、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが特に好ましい。
【0047】
本発明において好ましく用いられるアダクトとしては、例えば、ポリメリックMDI、TDIとトリメチロールプロパンを反応して得られるイソシアネート化合物(コロネートL:日本ポリウレタン)、HDIとトリメチロールプロパンを反応して得られるイソシアネート化合物(コロネートHL:日本ポリウレタン)、ポリメリックMDIと水素添加した水酸基末端ポリブタジエングリコールを反応させて得られる活性イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有するイソシアネート化合物などの、2個以上の活性イソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。
【0048】
(配合割合)
本発明においては、防食塗料組成物に含まれるポリオール、ポリイソシアネートの各成分は、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の当量と、ポリオールに含まれる水酸基の当量の比[NCO基/OH基]が0.3/1.0〜2.0/1.0、好ましくは0.9/1.0〜1.2/1.0になる量で用いられる。この範囲にあると塗膜の耐水性が向上し、長期防食性の観点から好ましい。
【0049】
また、該防食塗料組成物には、低温硬化性を上げるため硬化促進用触媒として、3級アミン化合物を用いることもできる。具体的には、イミダゾール、サンアプロ製のDBU[1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)ウンデセン−7]のオクチル酸塩又はフェノール塩、DBN[1,5−ジアザビシクロ−(4,3,0)ノネン−5]のオクチル酸塩、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、4-フェニルプロピルピリジン、2,4,6-コリジン、キノリン、イソキノリン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなどが挙げられる。この3級アミン化合物は、溶剤等を含む防食塗料組成物中に、1%未満の重量を含有することができ、好ましくは、0.01%以上〜1%未満の重量、さらに好ましくは、0.03%以上〜0.5%未満の重量、特に好ましくは、0.03%以上〜0.2%以下を含有することができる。
【0050】
さらに、該防食塗料組成物は、顔料等を含まないクリヤー塗料として用いることによりクリヤー塗膜を形成させることもできるが、着色顔料、分散剤などの従来公知の塗料用添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0051】
その他、その他の充填剤、タレ止め,沈降防止剤(搖変剤)等の任意成分を配合してもよい。これらについては、以下の(II)の防汚塗膜において説明する。
【0052】
(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)成分を含む硬化性ポリシロキサン組成物から形成された防汚塗膜(II)
<硬化性ポリシロキサン組成物>
(1分子中に少なくとも2個の官能基を有するジオルガノポリシロキサン(a))
ジオルガノポリシロキサン(a)は、1分子中に少なくとも2個の官能基を有する。具体的には、下記一般式(4)で示される重合体が好適である。
【0053】
【化1】
【0054】
上記式(4)中、R9は、互いに同一でも異なっていてもよく、官能基または炭素原子数1〜12の1価の炭化水素基を示す。ただし、R9の少なくとも2個は官能基を示す。nは250〜2500、好ましくは350〜1500の整数である。
【0055】
官能基は、水酸基、アルコキシ基、アセチルオキシ基、アルケニルオキシ基、イミノキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、などの加水分解性基等が挙げられ、中でも、水酸基、イミノキシ基、アミノ基、アセチルオキシ基、またはアルコキシ基が反応性などの点で好ましい。
【0056】
イミノキシ基としては、炭素3〜10程度のものが望ましく、例えばジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基などが上げられる。
【0057】
アミノ基としては、総炭素原子数1〜10のものが好ましく、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などが挙げられる。
【0058】
アセチルオキシ基としては、炭素原子数1〜10の脂肪族系、炭素原子数6〜12の芳香族系のものが好ましく、例えば、アセトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
【0059】
アルコキシ基としては、総炭素原子数1〜10のものが好ましく、炭素原子間に1カ所以上酸素原子(エーテル結合)が介在していてもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基などが挙げられる。
【0060】
本発明におけるオルガノポリシロキサン(a)は、反応性などの点から、水酸基、イミノキシ基、アミノ基、アセチルオキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選ばれる官能基を、分子の両末端にそれぞれ独立に有するものが好ましく、中でも分子の両末端に水酸基を有するもの(α,ω−ジヒドロキシ官能性シロキサン)が特に好ましい。
【0061】
上記一般式(4)における炭素原子数1〜12の1価の炭化水素基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基などが挙げられる。1価の炭化水素基は、置換または非置換のどちらでもよい。
【0062】
アルキル基としては、直鎖状、分岐状または脂環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルブチル基、オクチル基などが挙げられる。
【0063】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、ヘキセニル基、アリル基などが挙げられる。
【0064】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジフェニル基などが挙げられる。
【0065】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが挙げられる。
【0066】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2−フェニルエチル基などが挙げられる。中でも、非置換のメチル基およびフェニル基が好ましい。
【0067】
上記一般式(4)で表されるオルガノポリシロキサン(a)は、数平均分子量が通常は20,000〜170,000、好ましくは25,000〜100,000である。また、25℃における粘度が通常は500〜1,000,000mPa・s、好ましくは1,000〜100,000mPa・sである。
【0068】
このようなオルガノポリシロキサン(a)は、良好な防汚性を発揮させるために、溶剤等を含む防汚塗料組成物中に、通常20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の量で含まれる。また防汚塗料組成物の固形分100重量%に対して、通常25〜95重量%、好ましくは35〜85重量%の量で含まれる。
【0069】
このようなオルガノポリシロキサン(a) は上市されているものを用いることができる。例えば、水酸基を有する「YF3057」(東芝シリコーン製) 、イミノキシ基を有する「KE45」(信越化学工業製) 、アルコキシ基を有する「KE489」(信越化学工業製) などが挙げられる。
【0070】
(シリカ)
ジオルガノポリシロキサンは、使用前にシリカと混練されていても良い。
【0071】
本発明で用いられるシリカは、湿式法シリカ(水和シリカ)、乾式法シリカ(フュームドシリカ、無水シリカ)等の親水性シリカ(表面未処理シリカ)、および、疎水性湿式シリカ、疎水性フュームドシリカ等の表面処理された疎水性シリカを用いることができる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
湿式法シリカは、特に限定されないが、例えば、吸着水分含量4〜8%程度、嵩密度200〜300g/L、1次粒子径10〜30μm、比表面積(BET表面積)10m2/g以上のものを使用できる。
【0073】
乾式法シリカは、特に限定されないが、例えば、水分含量が1.5%以下、嵩密度50〜100g/L、1次粒子径8〜20μm、比表面積10m2/g以上のものを使用できる。
【0074】
疎水性フュームドシリカは、乾式法シリカをメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の有機珪素化合物で表面処理したものである。経時的な水分吸着は少なく、水分含量は通常0.3%以下、多くの場合0.1〜0.2%である。このような疎水性フュームドシリカとしては、特に限定されないが、例えば、1次粒子径5〜50μm、嵩密度50〜100g/L、比表面積10m2/g以上のものを使用できる。
【0075】
なお、以下に述べるように、シリカを前述のジオルガノポリシロキサンと共に熱処理した場合、生成される熱処理疎水性ヒュームドシリカは、シリカの表面に吸着している水分が物理的に低減・除去されており、水分含量は通常、0.2%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05〜0.1%である。嵩密度等のその他の物性値は、上記疎水性シリカと同様のままである。
【0076】
このようなシリカは上市されているものを用いることができる。例えば、日本アエロジル製「R974」、「RX200」などが挙げられる。
【0077】
本発明の主剤成分(以下、後述する)中のジオルガノポリシロキサンおよびシリカは、上記ジオルガノポリシロキサンとシリカとを予め加熱処理することにより形成される熱処理物であること、または、この熱処理物および加熱処理していないジオルガノポリシロキサンの混合物であることが好ましい。シリカを、ジオルガノポリシロキサンの一部または全部と共にあらかじめ加熱処理することにより、両成分の親和性を向上させ、シリカの凝集を抑制するなどの効果が得られるためである。この加熱処理は、例えば、常圧下または減圧下に、100℃以上で配合成分の分解温度以下、好ましくは100〜300℃、さらに好ましくは140〜200℃の温度で、通常3〜30時間程度加熱すればよい。
【0078】
シリカは、ジオルガノポリシロキサン100重量部に対し、通常1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、更に好ましくは5〜30重量部の割合で配合される。シリカの配合量が、上記範囲より少ないと、充分な塗膜強度、塗膜硬度およびチクソトロピー性が得られず、1回の塗装、特にスプレー塗装で所望の膜厚が得られないことがあり、上記範囲より多いと、塗料の粘度が過度に高くなることがある。
【0079】
以上のようなシリカを用いることにより、得られる防汚塗料組成物の調製または保管時の安定性が増し、流動性、チクソトロピー性が良好になり、垂直塗装面などに対しても充分な厚みの塗膜を少ない塗装回数で形成でき、さらに得られる塗膜の硬さ、引張強さ、伸び等の物性にバランス良く優れ、防汚性にも優れるなどの効果が得られる。
【0080】
(1分子中に少なくとも2個の水酸基又は加水分解性基を有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物(b))
オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、下記一般式(2)で表される化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である。
【0081】
8dSiY4-d ・・・(2)
上記式(2)中、R8は炭素原子数1〜6の炭化水素基を示し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などの直鎖状、および分枝状アルキル基;シクロヘキシル基などの環状アルキル基;ビニル基などのアルケニル基;フェニル基などのアリール基であり、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0082】
上記式(2)中、Yは、水酸基又は加水分解性基を示し、例えば、イミノキシ基、アセチルオキシ基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基等が挙げられ、好ましくはアルコキシ基である。
【0083】
アセチルオキシ基としては、炭素原子数1〜10の脂肪族系、炭素原子数6〜12の芳香族系のものが好ましく、例えば、アセトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
【0084】
アルコキシ基としては、総炭素数が1〜10のものが好ましく、また炭素原子間に1箇所以上酸素原子が介在していてもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等が挙げられる。
【0085】
アシロキシ基としては、式: RCOO−(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基)で示される脂肪族系または芳香族系のものが好ましく、例えば、アセトキシ基、プロピオノキシ基、ブチロキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0086】
アルケニルオキシ基としては、炭素数3〜10のものが好ましく、例えば、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシ基等が挙げられる。
【0087】
イミノキシ基(=N−OH、オキシイミノ基、ケトオキシム基とも言う。)としては、炭素数3〜10程度のものが好ましく、例えば、ケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンタノキシム基、シクロヘキサノキシム基等が挙げられる。
【0088】
アミノ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等が挙げられる。
【0089】
アミド基としては、総炭素数2〜10のものが好ましく、例えば、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等が挙げられる。
【0090】
アミノオキシ基としては、総炭素数2〜10のものが好ましく、例えば、N,N−ジメチルアミノオキシ基、N,N−ジエチルアミノオキシ基等が挙げられる。
【0091】
dは0〜2の整数であり、0が好ましい。
【0092】
こうしたオルガノシランは、上市したものを用いることができる。例えば、テトラエチルオルトシリケートとしては「エチルシリケート28」(コルコート社製)、「正珪酸エチル」(多摩化学工業製)、テトラエチルオルトシリケートの部分加水分解物としては「シリケート40」(多摩化学工業製)、「TES40 WN」(旭化成ワッカーシリコーン製)、アルキルトリアルコキシシランとしては「KBM−13」(信越化学工業製)などが挙げられる。
【0093】
上記オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、上記ジオルガノポリシロキサン100重量部に対して、0.1〜50重量部の量で使用可能であるが、通常1〜30重量部の量で使用し、好ましくは3〜15重量部の量である。また、オルガノシランおよび/またはその部分加水分解物(b)の重量は、上記ジオルガノポリシロキサン(a)およびシリカの合計重量に対して、1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。この範囲にあると、硬化性に優れるウレタン樹脂系塗膜との層間付着性と防汚性能との両方に優れたオルガノポリシロキサン防汚塗膜を積層して得られる硬化性オルガノポリシロキサン系防汚性複合塗膜を得ることができる。
【0094】
(下記一般式(1)で表されるアミノ基含有アルコキシシラン及び/又はその反応生成物(c))
下記一般式(1)で表されるアミノ基含有アルコキシシランは、該組成物に付着性を付与する重要な化合物である。
【0095】
X−R1−SiR2n(OR33-n ・・・(1)
(R1は、炭素原子数が1〜10のアルキレン基、R2は、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、
3は、炭素原子数が1〜10のアルキル基を示し、Xは、R45N−またはR67C=N−で表される基(R4は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基、またはH2N(CH2p(NH(CH2qr−(p、qは2〜5の整数、rは0〜5の整数である。)を示し、
5は、水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示し、R6、R7は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数が1〜10のアルキル基、炭素原子数が2〜5のアルケニル基、炭素原子数が6〜12のアリール基を示す。)であり、nは0〜2の整数である。)
この化合物の例としては、γ−アミノプロピル基を有するものとしてはNH236Si(OCH33、NH236Si(OC253、NH236Si(OC373、NH236Si(OC493、NH236Si(CH3)(OCH32、NH236Si(CH3)(OC252、NH236Si(CH3)(OC372、NH236Si(CH3)(OC492、NH236Si(CH32(OCH3)、NH236Si(CH32(OC25)、NH236Si(CH32(OC37)、NH236Si(CH32(OC49)、あるいはアルコキシ基が一部交換反応を起こしたNH236Si(OCH3)(OC252、NH236Si(OC252(OC37)などが挙げられる。また、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピル基を有するものはNH224NHC36Si(OCH33、NH224NHC36Si(OC253、NH224NHC36Si(OC373、NH224NHC36Si(OC493、NH224NHC36Si(CH3)(OCH32、NH224NHC36Si(CH3)(OC252、NH224NHC36Si(CH3)(OC372、NH224NHC36Si(CH3)(OC492、NH224NHC36Si(CH32(OCH3)、NH224NHC36Si(CH32(OC25)、NH224NHC36Si(CH32(OC37)、NH224NHC36Si(CH32(OC49)などである。また、N−(メチル)γ−アミノプロピル基を含有するN(CH3)HC36Si(OCH33、N(CH3)HC36Si(CH3)(OCH32、N(CH3)HC36Si(OC253、N(CH3)HC36Si(CH3)(OC252なども挙げられる。他にNH224NHC24NHC36Si(OCH33、NH224NHC24NHC24NHC36Si(OCH33、(CH33Si−NHC36Si(OCH33、(CH33Si−NHC36Si(CH3)(OCH32などが挙げられる。
【0096】
このような(c)アミノ基含有アルコキシシランは、硬化性ポリシロキサン組成物の固形分(すなわち、組成物中の、任意成分である溶剤以外の成分)100重量部に対して、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜3重量部含まれる。この範囲にあると、ウレタン樹脂系塗膜のイソシアネートとの相互作用により付着性が向上する。
【0097】
<任意成分>
本発明に係る硬化性ポリシロキサン組成物は、(a)ジオルガノポリシロキサン、(b)オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、(c)アミノ基含有アルコキシシラン及び/又はその反応生成物を含有することを特徴とするが、これらに加えて、触媒(d)、シリコーンオイル(e)、着色顔料(f)、タレ止め,沈降防止剤(g)、シランカップリング剤(h)、その他の充填剤(i)、その他の塗膜形成成分(j)、チクソトロピー性付与剤(k)等が含まれていてもよい。
【0098】
(触媒(d))
触媒(d)としては、硬化性触媒を好適に用いることができ、例えば、日本特許第2522854号に記載されているものを使用できる。具体的には、ナフテン酸錫、オレイン酸錫等のカルボン酸錫類;ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫アセトアセトネート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジペントエート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジネオデカノエート、ジオクチル錫ジネオデカノエート、ビス(ジブチルスズラウレート)オキサイド、ジブチルビス(トリエトキシシロキシ)錫、ビス(ジブチルスズアセテート)オキサイド、ジブチル錫ビス(エチルマレート) およびジオクチル錫ビス(エチルマレート)等の錫化合物類;テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチルグリコール等のチタン酸エステル類あるいはチタンキレート化合物;等の他、ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛−2−エチルオクトエート、鉄−2−エチルヘキソエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン−2−エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、アルコキシアルミニウム化合物等の有機金属化合物類;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アモノエチル)γ−アモノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン類;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルドデシルアミン、ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物及びその塩類;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、臭酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩類;テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシラン又はシロキサン類;等が挙げられる。
【0099】
触媒(d)の配合によって塗膜の形成を促進し、乾燥塗膜をより速く得ることができる。
【0100】
触媒(d)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、10重量部以下、好ましくは5重量部以下、さらには1重量部以下の量で用いられ、該触媒を使用する場合の好ましい下限値は0.001重量部以上、特に0.01重量部以上である。
【0101】
(シリコーンオイル(e))
シリコーンオイル(e)は、非反応性(非縮合性)のシリコーンオイルや防汚塗料の硬化物からブリードアウトしていくものが好ましい。こうしたシリコーンオイル(e)としては、フェニル変性オルガノポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。また、下記式(5)、(7)で示されるシリコーンオイル(5)、(7)、下記式(6)で示される基を有するようなシリコーンオイル(6)が好ましい。
【0102】
シリコーンオイル(5)、(7)は、上記成分(a)などとの反応性や自己縮合性を示さず、塗膜表面(層)に防汚機能層(膜)を形成する働きを有していると考えられる。またシリコーンオイル(6)は、塗膜形成成分である成分(a)などと反応し、硬化塗膜を形成し、長期間海水に浸漬されていると経時的に加水分解され、末端基がアルコール性水酸基を有する基「≡SiR4OH」等となって塗膜表面にブリードアウトし、海中生物付着防止効果を発揮すると考えられる。
【0103】
(R103SiO(SiR102O)nSi(R103 ・・・・・(5)
(式中、複数個のR10は互いに同一または異なってもよく、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基またはフルオロアルキル基を示し、nは0〜500の整数を示す。)
≡SiR 11OSiR12b ・・・・・(6)
(式中、R11は非置換または置換の2価の炭化水素基またはエーテル結合を含む2価炭化水素基を示し、R12は非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、Yは水酸基又は加水分解性基を示し、bは0〜2の整数である。)
13xSi(R14−Z)y(4-x-y)/2 ・・・・・(7)
(式中、R13は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R14は、エーテル基、エステル基または−NH−が介在していてもよい炭素数1〜10の2価脂肪族炭化水素基を示し、Zは、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基または末端が炭素数1〜6のアルキル基もしくはアシル基で封鎖されていてもよいポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール基である1価の極性基を示し、x、yは、0.01≦x<3.99、0.02≦y<4、かつ、0.02≦x+y<4である。)。
【0104】
シリコーンオイル(e)のうち、上記式(5)で示されるシリコーンオイルとしては、特開平10−316933号公報に記載のものが使用でき、数平均分子量が180〜20,000、好ましくは1,000〜10,000であり、粘度が20〜30,000mm2/s、好ましくは50〜10、000mm2/sであることが好ましい。
【0105】
このような上記式(5)で示されるシリコーンオイルは、例えば、R10の全てがメチル基であるジメチルシリコーンオイル、これらのジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部がフェニル基に置換されたフェニルメチルシリコーンオイルが挙げられ、中でもメチルフェニルシリコーンオイルが好ましい。
【0106】
メチルフェニルシリコーンオイルとしては、例えば、「KF−54、KF−56、KF−50」(信越化学工業社製品)、「SH510、SH550」(東レダウコーニングシリコーン社製)、「TSF431、TSF433」(東芝シリコーン社製)等の商品名で上市されているものが挙げられる。
【0107】
また、上記式(6)で示される基を有するシリコーンオイルとしては、本願出願人の提案した特許第2522854号に記載されているものが使用でき、数平均分子量が250〜20,000、好ましくは1,000〜10,000であり、粘度が20〜30,000mm2/s、好ましくは50〜10、000mm2/sであることが好ましい。
【0108】
上記式(6)中、R11は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のような非置換または置換の2価の炭化水素基;または、「−(CH2p−O−(CH2q−」(式中、p、qはそれぞれ独立に1〜6の整数を示す。)等で示されるエーテル結合を含む2価の炭化水素基;等が挙げられる。
【0109】
12は、炭素数1〜8の非置換または置換の1価の炭化水素基を示し、Yは、水酸基、イミノキシ基、アミノ基、アセチルオキシ基およびアルコキシ基からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0110】
このような式(6)で示される基を少なくとも1個有するシリコーンオイルは、例えば、(CH33SiO[(CH32SiO]m[R1516SiO]n(CH32SiC36−OH、HO−C36−[(CH32SiO][(CH32SiO]m[R1516SiO]n−(CH32Si−C36−OH、(CH33SiO[(CH32SiO]m[R1516SiO]n[(CH3)(C36−OH)SiO]l[(CH32SiCH3]で表されるシリコーンオイルの水酸基を加水分解性基で封鎖したもの等が挙げられる。但し、上記各式中、R15、R16のうち少なくとも一方はフェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、β−フェニルエチル基等のアラルキル基;トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;等、メチル基以外の基から選択される非置換または置換の1価炭化水素基であり、R15、R16の残りはメチル基である。m、n、lは何れも整数を示す。
【0111】
また、得られる組成物の保存安定性の点から、上記のシリコーンオイルを、下記に例示するような上記の式:「R8dSiY4-d」(R8、Y、dは式(2)の場合と同様である。)で示されるオルガノシランと反応させたものでもよい。
【0112】
例えば、(CH33SiO[(CH32SiO]m[R1516SiO]n(CH32SiC36−O−R8dSiY3-d、HO−C36−[(CH32SiO][(CH32SiO]m[R1516SiO]n−(CH32Si−C36−O−R8dSiY3-d、(CH33SiO[(CH32SiO]m[R1516SiO]n[(CH3)(C36−O−R8dSiY3-d)SiO]l[(CH32SiCH3]などが挙げられる。
【0113】
また、上記式(7)で示される基を有するシリコーンオイルとしては、具体的には、特開平10−316933号公報に記載されているものが使用でき、数平均分子量が250〜30,000、好ましくは1,000〜20,000であり、粘度が20〜30,000mm2/s、好ましくは50〜10,000mm2/sである。
【0114】
上記式(7)で示されるシリコーンオイルとしては、好ましくはR13が、メチル基またはフェニル基であり、R14が、メチレン基、エチレン基またはプロピレン基である。またZとしては、末端が炭素数6以下のアルキル基もしくはアシル基で封鎖されていてもよいポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール基である場合、繰り返し単位としてのオキシエチレン、オキシプロピレンの数は10〜60が好ましい。また、末端封鎖用の上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、末端封鎖用の上記アシル基としては、ケトオキシム基、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。
【0115】
具体的には、極性基Zがアミノ基であるシリコーンオイルとしては、「SF8417」(東レダウコーニング社製)、「ISI4700、ISI4701」(東芝シリコーン社製)、「FZ3712、AFL−40」(日本ユニカー社製)等が挙げられる。極性基Zがカルボキシル基であるシリコーンオイルとしては、「XI42−411」(東芝シリコーン社製)、「SF8418」(東レダウコーニングシリコーン社製)、「FXZ4707」(日本ユニカー社製)等が挙げられる。また極性基がエポキシ基であるシリコーンオイルとしては、「SF8411」(東レダウコーニングシリコーン社製)、「XI42−301」(東芝シリコーン社製)、「L−93,T−29」(日本ユニカー社製)等が挙げられる。極性基Zがアルキル基またはアシル基であるシリコーンオイルとしては、「ISI4460,ISI4445、ISI4446」(東芝シリコーン社製)、「SH3746、SH8400、SH3749、SH3700」(東レダウコーニングシリコーン社製)、「KF6009」(信越シリコーン社製)等が挙げられる。
【0116】
シリコーンオイル(e)は、好ましくは、シリコーンオイル(5)、シリコーンオイル(6)及びシリコーンオイル(7)のうちの何れか1種または2種以上が、上記成分(a)100重量部に対して、合計で、0.1〜200重量部、好ましくは20〜100重量部の量で含有されていることが好ましい。
【0117】
シリコーンオイル(e)の含有量が上記範囲にあると、防汚性、塗膜強度共に優れた防汚塗膜が得られ良好な防汚機能層を形成する傾向があり、上記範囲より少ないと防汚性が低下し、また上記範囲を超えると塗膜強度が低下することがある。
【0118】
(着色顔料(f))
着色顔料(f)は、従来公知の有機系、無機系の各種顔料を用いることができる。有機系顔料としては、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、紺青等が挙げられる。無機系顔料としては、チタン白、ベンガラ、黒色弁柄、バライト粉、シリカ、タルク、白亜、酸化鉄粉等のように中性で非反応性のもの; 亜鉛華(ZnO、酸化亜鉛)、鉛白、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛粉等のように塩基性で塗料中の酸性物質と反応性のもの(活性顔料)等が挙げられる。なお、染料等の各種着色剤を含むこともできる。
【0119】
着色顔料(f)を配合することによって塗膜の強度を向上させることができ、さらに下塗り塗膜を隠蔽することで、下塗り塗膜の紫外光による劣化を防止することができる。
【0120】
着色顔料(f)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、0.01〜30重量部の量が好ましい。
【0121】
また、着色顔料(f)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)およびシリカの合計量に対して、0.01〜30重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。
【0122】
(タレ止め,沈降防止剤(搖変剤)(g))
タレ止め,沈降防止剤(搖変剤)(g)としては、グリシジル変性オルガノポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、有機粘土系Al、Ca、Zn、Na、のステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの塩類、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス系、ポリアマイドワックス系および両者の混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等が挙げられ、好ましくは、ポリアマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスが挙げられる。このようなタレ止め・沈降防止剤としては、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」等の他、「ディスパロンA630-20X」等の商品名で上市されているものが挙げられる。
【0123】
タレ止め,沈降防止剤(g)の配合によって塗膜のタレ止め性を向上させることができる。ただし、これらの配合量の増加は塗料霧化性の低下、塗膜のレベリング性の低下も引き起こすため、タレ止め,沈降防止剤(F)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部の量が好ましい。
【0124】
(シランカップリング剤(h))
シランカップリング剤(h)は、アルコキシシリル基、エポキシ基、ヒドロシリル基、(メタ)アクリル基等の基を1種または2種以上含有するシランカップリング剤等の物質あるいはこれらの物質の混合物であり、例えば、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−(2−アミノエチル)アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0125】
シランカップリング剤(h)の配合によって下塗り塗膜、基材との付着をより強固にすることができる。
【0126】
シランカップリング剤(h)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部の量が好ましい。
【0127】
(その他の充填剤(i))
その他の充填剤は、けいそう土、アルミナ、マイカ等の金属酸化物あるいはこれらの表面をシラン化合物で表面処理したもの;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩;アスベスト、ガラス繊維、石英粉、水酸化アルミ、金粉、銀粉、表面処理炭酸カルシウム、ガラスバルーン、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの充填剤は、1種単独で使用してもよく、または2種以上併用してもよい。
【0128】
(その他の塗膜形成成分(j))
その他の塗膜形成成分(j)は、オルガノポリシロキサン(a)等以外の塗膜形成成分が本発明の目的に反しない範囲内で含むことができる。こうした「その他の塗膜形成成分」としては、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂(ゴム)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩化ゴム(樹脂)、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、クマロン樹脂、トリアルキルシリルアクリレート(共) 重合体(シリル系樹脂)、石油樹脂等の難あるいは非水溶性樹脂(以下、難/非水溶性樹脂ともいう)等が挙げられる。
【0129】
その他の塗膜形成成分(j)の配合によって、形成塗膜の強度を向上させることができる。
【0130】
その他の塗膜形成成分(j)の配合量は、ジオルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部の量が好ましい。
【0131】
(チクソトロピー性付与剤(k))
チクソトロピー性付与剤は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0132】
本発明に用いられる硬化性ポリシロキサン組成物は、通常、2以上の多液型の塗料として提供される。これらの各液はそれぞれ別個に、缶などの容器に入れられた状態で貯蔵保管され、塗装時に混合・攪拌して使用される。
【0133】
3液型の態様の防汚塗料組成物においては、主剤成分(X)、硬化剤成分(Y)および付着性付与成分(Z)がそれぞれ別個に包装(パック)され、使用時にこれらを混合して用いる。
【0134】
主剤成分(X)は、(a)1分子中に少なくとも2個の官能基(縮合反応性基)を有するジオルガノポリシロキサンとシリカを加熱処理することにより形成された熱処理物(a22)、または熱処理物(a22)と1分子中に少なくとも2個の官能基(縮合反応性基)を有するジオルガノポリシロキサン(a)とを含有することが好ましい。
【0135】
主剤成分(X)は、さらに、チタン白、黒色弁柄、カーボンブラック、弁柄およびコバルトブルーなどの着色顔料(f)を含有してもよい。
【0136】
主剤成分(X)は、必要に応じて溶剤を含有していてもよい。溶剤は、脂肪族系、芳香族系、ケトン系、エステル系、エーテル系、アルコール系などの、従来公知の溶剤を用いることが可能である。芳香族系溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等が挙げられ、ケトン系溶剤としては、例えば、MIBK、シクロヘキサノン等が挙げられ、エーテル系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAC)等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0137】
こうした溶剤は、得られる防汚塗料組成物の粘度が塗工性などの点で好適となるように、例えば、ジオルガノポリシロキサンに対して、0〜50重量%使用することが好ましい。なお、硬化剤成分(Y)および付着性付与成分(Z)についても、このような溶剤を適量配合して用いてもよい。
【0138】
硬化剤成分(Y) は、(b)水酸基又は加水分解性基を1分子中に2個以上有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、および主剤成分(X)と反応性が高いために貯蔵に不適な任意成分を含有する。
【0139】
また、本発明に係る複合塗膜に用いられる防汚塗膜を形成するために用いる硬化性ポリシロキサン組成物から、単独の防汚塗膜を形成させることもできる。
【0140】
以上のような防汚塗膜と本発明に係る防汚複合塗膜は、水中構造物および船舶などの基材を被覆するよう塗装することができ、良好な防汚性能を発揮しうる。
【0141】
付着性付与成分(Z)は、主剤成分(X)および硬化剤成分(Y)との反応性が高いためにこれらと共に貯蔵することが不適な任意成分を含有する。
【0142】
任意成分とは、具体的にはアミノ基含有アルコキシシランをいう。
【0143】
「基材表面から(I)、(II)の順に積層された」とは、基材/ウレタン樹脂系防食塗膜(I)/防汚塗膜(II)の順序で積層するように複合塗膜が形成されることである。
【0144】
このような防汚構造体は、基材とウレタン樹脂系防食塗膜(I)間、ウレタン樹脂系防食塗膜(I)と防汚塗膜(II)間の層間付着強度に優れており、これら各塗膜(層)間にプライマー層やバインダー層を設ける必要がないため、短期間に塗装作業を完了できる。しかも、このような防汚構造体では、淡水あるいは海水と接触してもこの接触面での生物汚損が防止される。
【0145】
また、このような防汚構造体を製造する際に用いられるウレタン樹脂系防食塗膜(I)用の塗料は、極短時間に硬化するため、ウレタン樹脂系防食塗膜(I)形成後、直接、防汚塗膜(II)用の塗料を速やかに塗り重ねることができるため、塗装工程の短縮化、塗装日数の短縮化を図ることができる。
【0146】
硬化性ポリシロキサン組成物から形成された防汚塗膜をウレタン樹脂系防食塗膜に形成するには、刷毛塗り、スプレー塗装(エアースプレー、エアレススプレー)、ロールコーター塗装、ウレタン樹脂系防食塗膜が形成された被塗物基材を上塗用塗料中に浸漬するなど、従来公知の方法を適宜採用すればよい。
【0147】
基材
基材としては、火力・原子力発電所その他臨海プラントの冷却水取水路・排水路、港湾施設、海底パイプライン、海底油田掘削リグ、航路浮標、船舶係留用ブイなどのように海中に設置される構造物、さらには淡水中に設置される構造物が挙げられる。なお、被塗物基材の形状については、後述するような方法で塗装可能な限り、板・管・半割管・球など特に限定されない。
【0148】
基材の材質としては、金属、コンクリート、樹脂材料、木質材料、有機質繊維板、紙などが挙げられる。上記金属としては、さらに具体的には、炭素鋼、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、銅合金、亜鉛引き鋼、亜鉛などが挙げられる。
【0149】
樹脂材料としては、具体的には、メチルメタクリレート、ポリカーボネート、FRP(ガラス繊維強化プラスチックス)、CRP(炭素繊維強化プラスチックス)等の硬質材、または塩化ビニル、ポリオレフィン、塩化ビニリデン等が挙げられる。これらのプラスチック材料は、発泡体であってもよく、非発泡体であってもよい。これら種々の樹脂材料のうちでは、基材とウレタン樹脂系防食塗膜との層間剥離強度などの点で炭素鋼、コンクリート材が好ましい。
【0150】
基材表面は、ウレタン樹脂系防食塗料を塗布するに先立ち、予め、下記のような方法で下地処理を行っておくことが好ましい。すなわち、上記基材表面の下地前処理は、基材が炭素鋼材の場合には、ミルスケール、さびなどをブラスト、ディスクサンダー、パワーブラシなどにより除去した後、必要に応じて有機溶剤を滲み込ませた布で基材表面に付着している汚染物を除去する。また、アルミニウム、ステンレス鋼、銅合金などの材料の場合には、パワーブラシ、サンドペーパーなどにより基材表面に軽度の面荒らしを行なった後、必要に応じて有機溶剤を滲み込ませた布で汚れを拭き取って基材表面を清浄にする。
【0151】
また基材がコンクリート材の場合には、ディスクサンダー、パワーブラシなどにより、基材表面に付着しているエフロレセンス、レイタンスなどを入念に除去した後、清水洗いを行なって基材表面を清浄にし、さらに表面水分が10重量%以下となるように自然乾燥または熱風乾燥により吸着水分を除去する。
【0152】
基材が樹脂材料である場合には、サンドペーパーなどの研磨材により面荒らしを行なって基材表面を粗面化した後、ラッカーシンナーなどの有機溶剤を滲み込ませた布で基材表面の汚れを拭き取って基材表面を清浄にする。
【0153】
防汚塗膜および防汚性複合塗膜の形成方法
本発明に係る防汚性複合塗膜は、ウレタン樹脂系防食塗膜(I)を基材表面に形成した後、防汚塗料組成物を塗装し、防汚塗膜(II)を形成することにより得られる。
【0154】
長期の防食性を考慮するとウレタン樹脂系防食塗膜の下層に、エポキシ樹脂系防食塗料を塗布することも可能である。
【0155】
本発明において防汚塗膜のベースとなるウレタン樹脂系防食塗膜は、ウレタン樹脂系防食塗料組成物を一般的な手法に従って、攪拌・混合した後、基材表面に塗布または含浸させ、大気中で0.5〜3日間程度硬化させることにより形成される。硬化後の防食塗膜[I]の膜厚は、用途などに応じて所望の厚さにすればよいが、例えば、ウレタン樹脂系防食塗料組成物を30〜150μm/回で、1回〜複数回、塗布または含浸した後に硬化させ、乾燥膜厚が50〜5000μmとなるようにすれば、防食性に優れた被膜が得られる。
【0156】
また、下層にエポキシ塗膜を100〜300μmとなるように形成し、その上に本技術のウレタン塗料を30〜200μmとなるようにすれば、長期防食性及び経済性に優れた被膜が得られる。
【0157】
ウレタン樹脂系防食塗膜[I]は、基材の材質がFRP、鋼鉄、木、アルミニウム合金などである場合にも基材表面に良好に付着し、中でも鋼鉄が密着性の点で材質として好ましい。また、上記基材は、防食塗膜[I]との密着性を高めるために、ブラスト処理などの公知の表面処理が施されていてもよい。
【0158】
一方、上記防汚塗膜[II]も、一般的な手法に従って、前述した防汚塗料組成物を攪拌・混合した後、上記防食塗膜[I]の表面に塗装し、常温の大気中で0.5〜3日間程度放置ないし加熱下に強制送風して硬化させることにより形成される。硬化後の防汚塗膜[II]の膜厚は、用途などに応じて所望の厚さにすればよいが、例えば防汚塗料組成物を30〜150μm/回で、1回〜複数回、塗布または含浸した後に硬化させ、膜厚が50〜5000μmとなるようにすれば、防汚性能やウレタン樹脂系防食塗膜[I]との付着性に優れた被膜となる。
【0159】
なお、この防汚塗膜[II]が形成される防食塗膜[I]は完全硬化されていてもよいが、密着性向上などの点から、指触半硬化状態のうちに防汚塗料組成物を塗布し、防汚塗膜[II]を形成するようにしてもよい。
【0160】
本発明に係る防汚塗料組成物は、例えば、常法に従って、防汚塗料を構成する各成分である多液型のパックの内容物および必要に応じて任意成分を順次または同時に添加し、これらを混合することにより得られる。
【0161】
本発明に係る防汚性複合塗膜は、電気部品、電子部品、建材、工芸用品などの各種基材の表面被覆用のコーティング材(コーティング用組成物)として、また、海水または真水と接触する基材、例えば、船舶、漁業資材(例えば、ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ等)、火力・原子力発電所の給排水口等の水中構造物、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等の各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜などの各種基材の表面を保護するために利用することができる。
【0162】
このように本発明の防汚性複合塗膜は、電気・電子、建材・工芸、農林・水産業、発電、港湾・土木建設、造船あるいは船舶の修理、特に船舶塗装などの広範な産業分野で用いられる。
【実施例】
【0163】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0164】
(硬化性オルガノポリシロキサン系防汚塗料組成物の調製)
表1に記載された配合組成の、主剤成分(X)、硬化剤成分(Y)、および付着性付与成分(Z)からなる3液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製した。付着性付与成分(Z)については、6種類のアミノシラン化合物をそれぞれ1種類ずつ用いることにより調製した。
【0165】
表1記載の主剤成分(X)77重量部、硬化剤成分(Y)18重量部、および付着性付与成分(Z)5重量部を、ディスパーを用いて均一になるよう充分に混合することにより、表4に示した配合量で成分を含有する、実施例1、2、12〜15のそれぞれに用いられる防汚塗料組成物を調製した。
【0166】
また、主剤成分(X)77重量部、硬化剤成分(Y)18重量部および付着性付与成分(Z)3.3重量部を、ディスパーを用いて均一になるよう充分に混合することにより、表4に示した配合量で成分を含有する、実施例3〜5、8〜11、16〜18および比較例2のそれぞれに用いられる防汚塗料組成物を調製した。
【0167】
主剤成分(X)77重量部、硬化剤成分(Y)18重量部、および付着性付与成分(Z)1.7重量部を、ディスパーを用いて均一になるよう充分に混合することにより、表4に示した配合量で成分を含有する、実施例6に用いられる防汚塗料組成物を調製した。
【0168】
主剤成分(X)77重量部、硬化剤成分(Y)18重量部および付着性付与成分(Z)0.6重量部を、ディスパーを用いて均一になるよう充分に混合することにより、表4に示した配合量で含有する、実施例7に用いられる防汚塗料組成物を調製した。
【0169】
主剤成分(X)77重量部、硬化剤成分(Y)18重量部のみを含有する、比較例1に用いられる防汚塗料組成物を調製した。
【0170】
【表1】
【0171】
(ウレタン樹脂系塗料組成物の調製)
表2に記載された配合組成の、ウレタン樹脂系塗料組成物用の主剤成分(X)および硬化剤成分(Y)を調製した後、該主剤成分(X)81重量部および硬化剤成分(Y)19重量部を、攪拌装置で均一になるよう充分に混合して、ウレタン樹脂系防食塗膜を形成するための塗料組成物を調製した。
【0172】
【表2】
【0173】
(エポキシ樹脂系塗料組成物の調製)
表3に記載された組成配合の、エポキシ樹脂系塗料組成物用の主剤成分(X)および硬化剤成分(Y)を調製した後、上記主剤成分(X)85重量部および硬化剤成分(Y)15重量部を、攪拌装置で均一になるよう充分に混合して、エポキシ樹脂系防食塗膜を形成するための塗料組成物を調製した。
【0174】
【表3】
【0175】
[評価方法]
前述のように調製したウレタン樹脂系塗料組成物と硬化性オルガノポリシロキサン系塗料組成物から形成される防汚複合塗膜について、下記の方法で引張試験、テープ剥離試験、真水浸漬試験、および防汚試験を行った。これらの試験結果を表4に示す。
【0176】
(引張試験)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、ウレタン樹脂系防食塗料AC−1〜AC−7の、乾燥膜厚400μmのウレタン樹脂系防食塗膜を常温(23℃)で形成した。次いで、この6時間乾燥した防食塗膜上に、実施例1〜15および比較例1で調製した防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温下で塗装し、1日間乾燥させた。
【0177】
引張試験は、JIS K 5600−5−7(ISO4624)に定められた方法で行った。硬化した防汚複合塗膜が設けられた試験板に、接着剤(GE東芝製、商品名「TSE399」)を用いて、断面積2cm2、ステンレススチール製の試験円筒(Dollyピース)を接着させた。このDollyピースの周囲にカッターナイフで切り込みを入れた後、プルオフ試験機(プルゲージ/型番200型、(株)フジモト製)により付着強度を測定した。
【0178】
(テープ剥離試験1)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板の中央に、マスキングテープ(商品名「建築用マスキングテープ」(ニチバン(株)製))を貼り付けてから、ウレタン樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)条件下で塗装し、6時間乾燥させ、乾燥膜厚250μmのウレタン樹脂系防食塗膜を形成した。次いで、この乾燥した防食塗膜上に、実施例1〜15および比較例1で調製した防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温下で塗装し、1日間乾燥させた。
【0179】
貼り付けておいたマスキングテープを除去し、塗膜に段差を形成させた後、その段差部分の塗膜を指の腹で強く擦り、剥離した塗膜の大きさを測定し、「最大剥離距離」(鋼板上のマスキングテープが貼られていた領域から剥離部分末端までの最大の距離)として表した。十分付着していれば最大剥離距離は0mmであり、付着不良の場合はこの距離が長くなる。
【0180】
(真水浸漬試験1)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、エポキシ樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)条件下で厚さが150μmとなるように塗装した。この時、エポキシ樹脂系塗料組成物としてバンノー500〔中国塗料製エポキシ防食塗料〕を使用し、1日間乾燥させてエポキシ樹脂塗膜を形成し、エポキシ樹脂塗膜上にウレタン樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)条件で厚さが100μmとなるように塗装し、6時間乾燥させた。次いで、得られた防食塗膜上に、実施例1〜15および比較例1で用いられる防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温下で塗装し、1日間乾燥させた。
【0181】
硬化した複合塗膜を、水温を23℃に保った脱イオン水に6ヶ月浸漬した。発生したフクレの程度を、ASTM D714に定められた方法で評価した。ASTM D714に基づくフクレの大きさと密度を、表6に示す基準で判定し、例えば大きさ8のフクレ(かなり小さなフクレ)が、中程度分布している場合は、8Mと表現した。
【0182】
(防汚試験)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、上記ウレタン樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)で塗装し、6時間乾燥させ、乾燥膜厚250μmのウレタン樹脂系防食塗膜を形成した。次いで、この乾燥した防食塗膜上に、実施例1〜15、比較例1で用いられる防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温下で塗装し、1日間乾燥させた。その結果、比較例1用の防汚塗料組成物を用いた場合は塗膜が付着しなかったため、硬化した防汚複合塗膜を形成した実施例1〜15用の防汚塗料組成物を用いた場合についてのみ、防汚試験を行った。
【0183】
硬化した防汚性複合塗膜が設けられた試験板を、長崎県長崎湾内の海水中に12ヶ月静置浸漬させ、6ヶ月後および12ヶ月後に目視観察し、下記に示す基準にて防汚性評価を行った。
【0184】
防汚性評価基準
5点:ごく薄いスライムの付着が認められるが、動物種の付着は認められない
4点:スライムの付着が認められるが、動物種の付着は認められない
3点:ヘビースライムの付着が認められるが、動物種の付着は認められない
2点:動物種の汚損が認められる
1点:塗膜の全体にわたり動物種の付着が認められる
【0185】
【表4】
【0186】
次いで、常温(23℃)と低温時(0℃)での付着性を検討した。その結果を表5に示す。
【0187】
(テープ剥離試験2)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板の中央に、マスキングテープ(商品名「建築用マスキングテープ」(ニチバン(株)製))を貼り付けてから、上記ウレタン樹脂系塗料組成物またはエポキシ樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)と低温(0℃)下で塗装し、6時間乾燥させ、乾燥膜厚250μmの防食塗膜を形成した。次いで、この乾燥した防食塗膜上に、実施例16〜18および比較例2で調製した防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて各温度(23℃および0℃)下で塗装し、1日間乾燥させた。
【0188】
貼り付けておいたマスキングテープを除去し、塗膜に段差を形成させた後、その段差部分の塗膜を指の腹で強く擦り、剥離した塗膜の大きさを測定し、「最大剥離距離」(鋼板上のマスキングテープが貼られていた領域から剥離部分末端までの最大の距離)として表した。十分付着していれば最大剥離距離は0mmであり、付着不良の場合はこの距離が長くなる。
【0189】
(真水浸漬試験2)
100mm×300mm×2.3mmのサンドブラスト鋼板に、エポキシ樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)及び低温(0℃)条件下で150μm塗装した。この時、常温条件ではバンノー500(中国塗料製、エポキシ防食塗料)、低温条件ではバンノー500QD(中国塗料製、エポキシ防食塗料)を使用し、1日間乾燥させて防食塗膜を形成し、防食塗膜上に上記ウレタン樹脂系塗料組成物またはエポキシ樹脂系塗料組成物をスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて常温(23℃)と低温(0℃)下で厚さが100μmとなるように塗装し、6時間乾燥させた。次いで、得ら得た防食塗膜上に、実施例16〜18および比較例2で用いられる防汚塗料組成物を乾燥膜厚が300μmになるようスプレー塗装機(商品名:iwata WIDER SPRAY GUN、型番:W−77−2G)を用いて各温度(23℃および0℃)下で塗装し、1日間乾燥させた。
【0190】
硬化した複合塗膜を、水温を23℃に保った脱イオン水に6ヶ月浸漬した。発生したフクレの程度を、ASTM D714に定められた方法で評価した。ASTM D714のフクレの大きさと密度を、表6に示す基準で判定し、例えば大きさ8(かなり小さなフクレ)が、中程度分布している場合は、8Mと表現する。
【0191】
【表5】
【0192】
【表6】