特許第6072195号(P6072195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6072195高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6072195
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/08 20060101AFI20170123BHJP
   B21F 19/00 20060101ALI20170123BHJP
   C22C 18/02 20060101ALI20170123BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20170123BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20170123BHJP
   C22F 1/16 20060101ALI20170123BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
   B23H7/08
   B21F19/00
   C22C18/02
   C22C9/04
   C22F1/08 C
   C22F1/16 B
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 660Z
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694Z
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-220976(P2015-220976)
(22)【出願日】2015年11月11日
【審査請求日】2015年11月13日
(31)【優先権主張番号】201510458831.8
(32)【優先日】2015年7月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515313778
【氏名又は名称】寧波博威麦特莱科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】NINGBO POWERWAY MATERIALISE CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【弁理士】
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】梁 志寧
(72)【発明者】
【氏名】郭 芳林
(72)【発明者】
【氏名】万 林輝
(72)【発明者】
【氏名】呉 桐
(72)【発明者】
【氏名】孟 憲旗
(72)【発明者】
【氏名】林 火根
(72)【発明者】
【氏名】陳 小軍
(72)【発明者】
【氏名】鍾 傑
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−015740(JP,A)
【文献】 特開2000−308924(JP,A)
【文献】 特開2002−137123(JP,A)
【文献】 特開2014−136285(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0027991(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/08
B21F 19/00
C22C 9/04
C22C 18/02
C22F 1/08
C22F 1/16
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、シェル層とを含み、前記芯材の材質がCu又は銅合金で、前記シェル層の材質がZn又は亜鉛合金である放電腐食加工用電極線であって、
前記シェル層は、前記芯材の表面を被覆するシェル層基部と、電極点と、前記シェル層基部の表面を被覆する保護層とを含み、
前記電極点は、前記シェル層基部に埋め込まれる電極微粒子であり、
当該電極微粒子は、大量の銅亜鉛合金の電子化合物の集合からなり、
前記シェル層基部では、前記電極点の周り及び/又は前記シェル層基部の中心部に、内から外に延びる通路が分布しており、当該通路は微孔状でその孔径が100nm以上1000nm以下である、ことを特徴とする
電腐食加工用電極線。
【請求項2】
前記シェル層中の各成分が、質量パーセントにおいて、Znが42.5〜52.5%で、その残量がCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和が0.3%以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項3】
前記シェル層の厚さが10〜50μmであることを特徴とする、
請求項2に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項4】
前記電極点の粒径が200〜2000nmで、前記電極点のシェル層基部に占める割合が20〜80%であることを特徴とする、
請求項1に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項5】
記芯材を中心に環状に、前記芯材の外側に均一に分布している前記電極点の割合が、80%であることを特徴とする、
請求項4に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項6】
前記銅亜鉛合金の電子化合物がCuZn、Cu3Zn2、Cu5Zn8のうちの少なくとも1種類であることを特徴とする、
請求項4に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項7】
前記芯材中の各成分が、質量パーセントにおいて、Cuが58.5〜68.5%で、その残量がZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和が0.3%以下であることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項8】
前記保護層の厚さが0.1〜0.5μmであることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の放電腐食加工用電極線。
【請求項9】
(1)Cu又は銅合金を引張強度400〜600MPaで引張加工して、線径がΦ0.6〜Φ1.5mmである母線を製造する、前記芯材の製造工程であって、前記銅合金のうちCuの含有量は58.5〜68.5%で、その残量はZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である工程と、
(2)製造された前記母線に、厚さが10〜50μmである一層のZn又は亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る、前記シェル層基部の製造工程であって、前記亜鉛合金のうちZnの含有量は42.5〜99%で、その残量はCu及び原材料に付随する不可避の不純物であり、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下で、当該シェル層基部の硬度はHB20〜50で、断面収縮率は60%以上で、導電率は22〜25%IACSである工程と、
(3)前記第1の線ブランクの熱処理及びプレス加工処理により、所望の前記電極点及び前記通路が前記シェル層基部中に得られるようにし、電極線の半製品を得る、前記電極点及び前記通路を形成する工程であって、熱処理のパラメータは、熱処理温度が400〜500℃、熱処理時間が2〜10時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をし、プレス加工処理のパラメータは、加工速度が500〜1500m/min、加工電圧が10〜50V、電流が5〜20A、加工率が82.6〜97.2%である工程と、
(4)製造された前記電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.1〜0.5μmである保護層を形成する、保護層の製造工程であって、ドライ温度が50〜100℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径がΦ0.2〜Φ0.35mmである工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の放電腐食加工用電極線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電腐食加工分野に関するもので、特に、高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤカット放電加工(Wire Cut Electrical Discharge Machining、略称WEDM、WC)は、ワイヤカッティングともいい、連続移動する細ワイヤ(電極線という)を利用して電極として、ワークにパルス放電腐食を行って金属を除去しカット成形することで、ワークを仕上げる加工の方法である。
【0003】
ワイヤカット放電加工の物理的原理は次のとおりである。カットされるワークをワーク電極として、上記の細ワイヤ(すなわち、電極線)を工具電極とする。2つの電極の間にスパークを生じさせるため、それに加えられる電圧は、GAP(電極線とワークとの間の隙間)の降伏電圧より高くなければならない。この過程の開始段階で強電界を形成して、電極線とワークとが最も接近した部分に最高濃度の陽・陰イオンを形成する。強電界の作用により、電子と陽イオンとが加速されて高い速度に達し、電気伝導のイオン通路を速やかに形成し、このとき、両電極(電極線及びワーク)の間で電流によってスパークを生じて、粒子間で極めて多い回数の衝突を引き起こしてプラズマエリアを形成する。それと同時に、「電極」と加工液の蒸発によって気泡を形成され、さらに、その圧力が高い値まで上昇するので、既に形成されたプラズマエリアがすぐに8000℃〜12000℃の極高温に達する。衝突数が増加し続け高温になることで、両導体の表面で一定量の材料が瞬時に部分的に熔化する。電流が切断された際には、温度の突然の低下によって気泡の爆発が引き起こされ、発生した動力により、熔化した材料が放電ピットから放出され、除去されてきた材料がその後すぐに加工液中で凝結して小球体となり、スラッジとして加工液によって排出される。加工過程で、電極とワークにおける除去量は同じでないが、これらは主に電極の極性、材料の熱伝導性、融点、放電の持続時間及び強さ並びにワイヤ走行速度などによって決まり、そのうち、電極線において生じた除去が消耗とされ、ワークにおいて生じた除去が材料除去量とされる。
【0004】
ワイヤカット放電加工の過程では、電極線において生じる消耗が少ないほど望ましいとされている。なぜなら、電極線は、動かされる長いワイヤで、同一のカット面積では、単位長さあたりの電極線の消耗が少ないほど、エネルギー消費が少なく、再利用できる電極線も多くなるだけでなく、加工液の環境に対する汚染度も小さくなるため、清潔でエコロジーな低消耗のワイヤカットが実現できるためである。現在では、極性効果を利用して電極の消耗を減らす方法(仕上加工の際は工具電極を陰極に接続し、粗加工の際はこの逆にする)がよく採用されており、例えば、出願番号201010102045.1(出願公開番号CN101829822A)の中国発明特許『一種通過与極間串聯二級管以減少微細電火花加工工具電極損耗的方法(訳:電極間とダイオードを直列接続することでマイクロ放電加工工具の電極消耗を低減する方法)』では、工具電極又はワークから最も近い部分に高速スイッチングダイオード又は超高速回復ダイオードを接続することで、ダイオードが順方向バイアスされ、ダイオードと電極間とパルス電源との3者が1つの直列回路を形成して、マイクロ放電加工における工具電極の消耗を著しく低減することができる。しかしながら、現在、電極線自体を改良することで放電腐食加工におけるその消耗を低減することは未だ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする1つ目の技術的課題は、先行技術に対して、カット効率が高くて消耗が小さい上に精度も高い高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線を提供することである。
【0006】
本発明が解決しようとする2つ目の技術的課題は、先行技術に対して、上記の電極線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電極線自体を出発点として、当該電極線がその電極点によって迅速な放電カット、金属の腐食を実現し、電極点の周り及び/又は電極線の中心部内側近傍に設けられた通路を介して気泡の爆発力の飛び出る方向を改善し、除去されてきた材料が放電ピットの両側から迅速に放出されるようにし、電極線中心部と接触して二次放電が発生することを防いで、電極線を保護する作用を果たすことで、電極線の消耗を低減している。
【0008】
本発明が1つ目の技術的課題を解決するために採用した技術的解決手段は、材質がCu又は銅合金である芯材と、材質がZn又は亜鉛合金であるシェル層と、を含む高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線であって、前記シェル層に、芯材の表面を被覆するシェル層基部と、電極点と、シェル層基部の表面を被覆する保護層とが含まれ、前記電極点は、シェル層基部に埋設される電極微粒子であって、当該電極微粒子が、大量の銅亜鉛合金の電子化合物の集合からなるとともに、前記シェル層基部には、電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に内から外に延びる通路を分布しており、当該通路が微孔状をしていてその孔径が100nm以上1000nm以下であることを特徴とするものである。
【0009】
好ましくは、前記シェル層中の各成分の質量パーセントの構成は、Znが42.5〜52.5%、その残りがCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。この亜鉛の含有量設定によって、カット放電するときの気化性能を強化させることができ、カットしたワークの表面平滑度を高めるのに役立つ。
【0010】
本発明におけるシェル層の厚さは10〜50μmで、また、22〜25%IACSの良好な導電率も有し、シェル層のシェル層基部は靭性にも比較的優れていて、カット放電する過程で電極線が靭性の不足によって引き起こされる断線を避けることができる。このほか、当該シェル層基部は、良好な導電性能を有しており、放電エネルギーをさらに効果的に伝送して、カット効率を高めることができる。
【0011】
好ましくは、前記電極点の粒径は200〜2000nmで、前記電極点のシェル層基部に占める割合は20〜80%である。さらに、80%の前記電極点は、芯材を中心に環状になって芯材の外側に均一に分布している。上記に記載のとおり、電極点は、シェル層基部に埋設される電極微粒子で、当該電極微粒子は、大量の銅亜鉛合金の電子化合物の集合からなり、電子が比較的小さな質量及び慣性を有するため、比較的大きな加速度及び速度が容易に得られ、降伏放電の初期段階で陽極に向かって高速で飛び、エネルギーをワークの陽極表面に伝達し、それを迅速に熔化、気化させることで、電極点は優れた放電効果を有し、迅速な放電カット、金属の腐食が実現できる。
【0012】
好ましくは、前記銅亜鉛合金の電子化合物は、CuZn、CuZn、CuZnのうちの少なくとも1種類である。
【0013】
好ましくは、前記芯材中の各成分の質量パーセントの構成は、Cuが58.5〜68.5%、その残りがZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。
【0014】
本発明が2つ目の技術的課題を解決するために採用した技術的解決手段は、次のとおりである。
【0015】
(1)芯材の製造:Cu又は銅合金を引張加工し、線径がΦ0.6〜Φ1.5mmである母線を製造する。引張強度を400〜600MPaとし、当該銅合金のうちCuの含有量は58.5〜68.5%、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。
【0016】
(2)シェル層基部の製造:上記で製造した母線に、厚さが10〜50μmである一層のZn又は亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。当該亜鉛合金のうちZnの含有量は42.5〜99%、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。当該シェル層基部の硬度はHB20〜50、断面収縮率は60%以上、導電率は22〜25%IACSである。このときのシェル層基部は、硬度が比較的低いため、ステップ(3)で電極微粒子を埋め込んで電極点を形成しやすい上、良好な塑性及び靭性と冷間加工性能とを有しており、電極線の加工過程において電極微粒子をシェル層基部で環状に均一に分布させるのに都合がよい。
【0017】
(3)電極点及び通路の形成:所望の電極点及び通路がシェル層基部中で得られるように、上記の第1の線ブランクに熱処理及びプレス加工処理を行い、電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が400〜500℃、熱処理時間が2〜10時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が500〜1500m/min、加工電圧が10〜50V、電流が5〜20A、加工率が82.6〜97.2%である。
【0018】
(4)保護層の製造:上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理を行い、厚さが0.1〜0.5μmである保護層を形成する。ドライ温度は50〜100℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.2〜Φ0.35mmである。不動態化処理及びドライ処理によって厚さが均一の保護層が形成されると、電極線の性能が安定し、電極線の導電率を上げることができる。当該保護層は、電極線の酸化を効果的に防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。このほか、用いる不動態化処理及びドライ処理は、連続引張り、連続焼鈍しをするプレス加工と同時に行われるため、生産プロセスが簡単で、実施可能性が高く、製造ステップも少なく、生産設備も簡単で、ローコストという顕著な優位性を有する。
【発明の効果】
【0019】
先行技術と比べて、本発明の利点は次のとおりである。
【0020】
(1)電極点は、シェル層基部に埋設される電極微粒子で、当該電極微粒子は、大量の銅亜鉛合金の電子化合物の集合からなる。運動エネルギー式から導かれるように、電子は比較的小さな質量及び慣性を有するため、電子は大きな加速度及び速度を得ることができ、降伏放電の初期段階で陽極に向かって高速で飛び、エネルギーをワークの陽極表面に伝達し、それを迅速に熔化、気化させることで、電極点は優れた放電効果を有し、迅速な放電カット、金属の腐食が実現できる。このほか、シェル層中の通路と、亜鉛が腐食され除去された後に残される凹みとによって電極線の表面積が増加し、表面積の増加によって放電の際の放熱面積が増加するため、カットの際に集合するエネルギーがより容易に分散し、このようにして、電極線のカット速度が著しく向上する。
【0021】
(2)電流が切断された際に、温度の突然の低下によって気泡の爆発が起こり、発生した動力により、熔化した材料が放電ピットから放出されるが、通路中に大量の気体が溜まっており、放電ピットの表側から放出される材料に対して緩衝作用を有し、反作用力を生じさえするので、設備が高圧水洗いされるときに、腐食した材料を電極線の両側から放出して、それが電極線の芯材と接触して二次放電が発生することを防止し、電極線を保護して、電極線の消耗を低減する作用を果たす。このほか、当該通路は、イオン速度を低下させ、電極線の陰極に達するイオン数が最大値となる前に放電を終わらせることもできるので、電極線に対する爆撃作用を低下させ、電極線の消耗を更に一層低減させている。
【0022】
(3)本発明のシェル層中の通路は、更に、シェル層の金属である銅亜鉛の連続性を遮断することで、カットの際の放電の間隔性を確実なものとしており、放電加工の際の冷却作用及びチップ除去作用を果たしている。放電の際、亜鉛は、融点が低く、蒸発エンタルピーが低いことから、まず腐食により除去されるが、高い融点を有する酸化銅、亜酸化銅、亜酸化亜鉛などが電極線の表面に残っているので、電極線の幾何学的形状の整合性は確実なものとなっており、電極線の幾何学的形状の整合性が、カットされたワークの幾何公差及び寸法精度を高めるのに寄与するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1における母線の横断面模式図である。
図2】本発明の実施例1における第1の線ブランクの横断面模式図である。
図3】本発明の実施例1における電極線の半製品の横断面模式図である。
図4】本発明の実施例1における電極線の完成品の横断面模式図である。
図5図3のI部分の拡大図である。
図6図4のII部分の拡大図である。
図7】本発明の実施例1における母線の横断面の顕微鏡写真図(×100)である。
図8】本発明の実施例1における第1の線ブランクの横断面の顕微鏡写真図(×100)である。
図9】本発明の実施例1における電極線の半製品の横断面の顕微鏡写真図(×100)である。
図10】本発明の実施例1における電極線の完成品の横断面の顕微鏡写真図(×100)である。
図11】本発明の実施例1による電極線の完成品の横断面の電子顕微鏡図(×300)である。
図12】本発明の実施例1による電極線の完成品の横断面一部の電子顕微鏡図(×2000)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面、実施例と関連付けて、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0025】
<実施例1>
図1〜6に示すように、銅線ブランクに引張加工をし、引張強度400MPaの下で、線径がΦ0.6mmの母線を製造する。続いて、得られた母線に電気メッキをして厚さが10μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部2を形成することで第1の線ブランクを得る。当該第1の線ブランクのうち、上記の母線から芯材1が構成される。当該亜鉛合金のZnの含有量は42.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。加工過程でシェル層基部2中の元素が改めて分配され、拡散することで銅亜鉛合金の電子化合物が形成される。当該銅亜鉛合金の電子化合物の集合によって電極微粒子が形成されて電極点4となり、電極点の周り及び/又はシェル層基部2の中心部に、シェル層基部2に沿って内から外に延びる通路3が形成される。熱処理のパラメータは、熱処理温度が400℃で、熱処理時間が2時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が500m/min、加工電圧が10V、電流が5A、加工率が89.6%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.1μmの保護層5を形成して、電極線の完成品を製造する。保護層5により電極線の酸化を防止して、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は50℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.2mmである。
【0026】
図7図12は、本実施例における原料、半製品及び完成品の写真である。図7から母線の内部組織構造が均質であることが看取される。当該母線の外に亜鉛合金層を被覆することで、第1の線ブランクが形成される(図8参照)。熱処理及びプレス加工処理を行うと、芯材とメッキ層とに拡散が生じ、芯材の直径が小さくなりメッキ層の厚さが増すことでシェル層が形成され、このほか、シェル層が芯材の表面で改めて分配・拡散されることで電極点と通路とがそれぞれ形成される(図9図12参照)。製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成し、芯材中のCuの含有量は58.5%である。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層の厚さは10μm、シェル層基部の硬度はHB20、断面収縮率は80%、導電率は22%IACSである。当該シェル層基部は、硬度が比較的低く、電極微粒子を埋め込んで電極点を形成しやすい上、良好な塑性及び靭性と冷間加工性能とを有しており、電極線が製造過程において電極微粒子をシェル層基部で環状に均一に分布させるのに資する。また、放電カット過程で、電極線が靭性の不足により引き起こされる断線を避ける以外にも、当該シェル層基部は良好な導電性能を有しているため、放電エネルギーをさらに効果的に伝え、カット効率を高めることができる。
【0027】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が60%で、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均一に分布している。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は200nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。運動エネルギー公式E=mv/2によれば、総運動エネルギーEが不変で、電子の質量(m)が相対的に小さければ、得られる加速度及び速度(v)も大きくなるため、降伏放電の初期段階で陽極に向かって高速で飛び、エネルギーをワークの陽極表面に伝達する。それを迅速に熔化、気化させることで、電極点は優れた放電効果を有し、迅速な放電カット、金属の腐食が実現できる。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値が1000nmであるので、電流が切断された際に、温度の突然の低下によって気泡の爆発が引き起こされて、発生した動力により、熔化した材料が放電ピットから放出されるが、通路中に大量の気体が溜まっており、放電ピットの表側から放出された材料に対して緩衝作用を有し、反作用力を生じさえするので、設備が高圧水洗いされるときには、腐食した材料を電極線の両側から放出して、それが電極線の芯材と接触して二次放電が発生することを防止し、電極線を保護して、電極線の消耗を低減する作用を果たす。このほか、当該通路は、イオン速度を低下させ、電極線の陰極に達するイオン数が最大値となる前に放電を終わらせることもできるので、電極線に対する爆撃作用を低下させ、電極線の消耗が更に一層低減するようになっている。
【0028】
<実施例2>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度600MPaの下で、線径がΦ1.5mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は68.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが50μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。当該亜鉛合金のZnの含有量は52.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が500℃で、熱処理時間が10時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1500m/min、加工電圧が50V、電流が20A、加工率が95.2%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.5μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は100℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.35mmである。
【0029】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層の厚さは50μm、シェル層基部の硬度はHB50、断面収縮率は61%、導電率は25%IACSである。
【0030】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が20%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均一に分布している。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は2000nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は800nmである。
【0031】
<実施例3>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度500MPaの下で、線径がΦ0.8mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は60.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に吹付け法で厚さが25μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。当該亜鉛合金のうちZnの含有量は49.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が450℃で、熱処理時間が6時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1000m/min、加工電圧が30V、電流が12A、加工率が87.5%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.3μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は75℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.30mmである。
【0032】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層の厚さは25μm、シェル層基部の硬度はHB35、断面収縮率は65%以上、導電率は23%IACSである。
【0033】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が80%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側で均一になっている。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は600nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心箇所に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は1000nmである。
【0034】
<実施例4>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度450MPaの下で、線径がΦ0.7mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は62.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に電気メッキ法で厚さが30μmの一層の亜鉛を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が480℃で、熱処理時間が5時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が700m/min、加工電圧が25V、電流が10A、加工率が89.2%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.4μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は60℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.25mmである。
【0035】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層中のZnの含有量は48.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。シェル層の厚さは30μm、シェル層基部の硬度はHB30、断面収縮率は70%、導電率は24%IACSである。
【0036】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が60%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均一に分布している。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1200nmで、大量のCuZn、CuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は600nmである。
【0037】
<実施例5>
銅線ブランクに引張加工をし、引張強度550MPaの下で、線径がΦ1.0mmの母線を製造する。続いて、得られた母線に吹付け法で厚さが35μmの一層の亜鉛を被覆してシェル層基部を形成することで線ブランクを得る。その後、上記の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が480℃で、熱処理時間が4時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1000m/min、加工電圧が35V、電流が18A、加工率が90.5%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.3μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は55℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.33mmである。
【0038】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成し、芯材中のCuの含有量は65.5%である。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層中のZnは50.0%、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。シェル層の厚さは30μm、シェル層基部の硬度はHB25、断面収縮率は75%、導電率は25%IACSである。
【0039】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が75%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均等に分布している。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1700nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は400nmである。
【0040】
<実施例6>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度500MPaの下で、線径がΦ1.2mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は61.5%、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが40μmである一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで線ブランクを得る。当該亜鉛合金のZnの含有量は52.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の線ブランクを熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が480℃で、熱処理時間が8時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1200m/min、加工電圧が40V、電流が15A、加工率が94.5%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.4μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は80℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.3mmである。
【0041】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層の厚さは40μm、シェル層基部の硬度はHB30、断面収縮率は80%、導電率は23%IACSである。
【0042】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が45%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均等に設けられている。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1000nmで、大量のCuZn、CuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心箇所に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は600nmである。
【0043】
<実施例7>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度550MPaの下で、線径がΦ1.3mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は63.0%、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが20μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで線ブランクを得る。当該亜鉛合金のZnの含有量は46.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が480℃で、熱処理時間が8時間であって、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が700m/min、加工電圧が30V、電流が18A、加工率が96.5%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.2μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は60℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.25mmである。
【0044】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本実施例では、シェル層の厚さは20μm、硬度はHB30、断面収縮率は70%、導電率は23%IACSである。
【0045】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が70%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均等に分布している。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1200nmで、大量のCuZn及びCuZn、CuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周り及び/又はシェル層基部の中心部に通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は100nmである。
【0046】
上記の実施例1〜7で製造された、最終的に成形された高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線について、その総合的な力学的性質を万能電子伸縮計でテストして、その導電率をブリッジ法でテストし、厚さ60mmの良質炭素鋼S45Cをワークとして、製造された高効率・低消耗の電極線の放電加工速度及び消耗量をテストすると、テスト結果のデータは、表1に示すとおりである。
【0047】
<比較例1>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度600MPaの下で、線径がΦ1.5mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は68.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが50μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。当該亜鉛合金のZnの含有量は52.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の第1の線ブランクに繰り返し連続引張り、連続焼鈍しをして加工を行い電極線の半製品を得る。引張速度は1000m/min、アニール電圧は50V、アニール電流は30Aである。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.5μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は100℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.35mmである。
【0048】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなる。本比較例では、シェル層の厚さは50μm、硬度はHB50、断面収縮率は61%、導電率は25%IACSである。
【0049】
<比較例2>
銅線ブランクに引張加工をし、引張強度550MPaの下で、線径がΦ1.6mmの母線を製造する。続いて、得られた母線に吹付け法で厚さが35μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理パラメータは、熱処理温度が660℃で、熱処理時間が20時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1000m/min、加工電圧が35V、電流が18A、加工率が97.8%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.3μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は55℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.25mmである。
【0050】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成し、芯材中のCuの含有量は65.5%で、その残りはZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなる。本比較例では、シェル層中のZnの含有量は51.5%で、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。シェル層の厚さは35μm、硬度はHB25、断面収縮率は75%、導電率は25%IACSである。電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が75%で、また、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均等に設けられている。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1700nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。
【0051】
<比較例3>
銅線ブランクに引張加工をし、引張強度600MPaの下で、線径がΦ1.2mmの母線を製造する。続いて、得られた母線に吹付け法で厚さが30μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が200℃で、熱処理時間が2時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1000m/min、加工電圧が35V、電流が18A、加工率が96.1%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.3μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は55℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.25mmである。
【0052】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成し、芯材中のCuの含有量は62.5%、その残りはZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなる。本比較例では、シェル層中のZnの含有量は48.5%、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。シェル層の厚さは30μm、硬度はHB25、断面収縮率は75%、導電率は25%IACSとし、シェル層基部には当該電極点の周りに通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は800nmである。
【0053】
<比較例4>
銅線ブランクに引張加工をし、引張強度400MPaの下で、線径がΦ0.5mmの母線を製造する。続いて、得られた母線に電気メッキ法で厚さが10μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで線ブランクを得る。当該亜鉛合金のCuの含有量は47.5%、その残りはZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が600℃で、熱処理時間が1時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が500m/min、加工電圧が10V、電流が5A、加工率が76.9%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.1μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は50℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.25mmである。
【0054】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成し、芯材中のCuの含有量は58.5%で、その残りはZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなる。本比較例では、シェル層の厚さは10μm、硬度はHB20、断面収縮率は80%、導電率は22%IACSである。電極点は、シェル層基部に埋め込まれ、シェル層基部に占める割合が20%で、80%の電極点が芯材を中心にして環状に、芯材の外側に均等に設けられている。電極点は、電極微粒子で、その粒径の平均値は200nmで、大量のCuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。
【0055】
<比較例5>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度500MPaの下で、線径がΦ1.5mmの母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は60.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが35μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで第1の線ブランクを得る。当該亜鉛合金のうちCuの含有量は52.5%で、その残りはZn及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の第1の線ブランクに、熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が450℃で、熱処理時間が5時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1200m/min、加工電圧が40V、電流が15A、加工率が98.4%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.4μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は80℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.2mmである。
【0056】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本比較例では、シェル層の厚さは35μm、硬度はHB30、断面収縮率は80%、導電率は23%IACSである。
【0057】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が70%で、また、80%の電極点が芯材を中心として芯材の内部に填め込まれている。電極点は、電極微粒子で、その粒径平均値は1700nmで、大量のCuZn、CuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、当該電極点の周りに通路が分布していて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値が600nmである。
【0058】
<比較例6>
銅合金線ブランクに引張加工をし、引張強度500MPaの下で、線径がΦ0.5mmである母線を製造する。当該母線中のCuの含有量は63.0%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。続いて、得られた母線に溶融メッキ法で厚さが20μmの一層の亜鉛合金を被覆してシェル層基部を形成することで線ブランクを得る。当該亜鉛合金のZnの含有量は49.5%、その残りはCu及び原材料に付随する不可避の不純物で、不可避の不純物の含有量の和は0.3%以下である。その後、上記の線ブランクに熱処理及びプレス加工処理をして電極線の半製品を得る。熱処理のパラメータは、熱処理温度が480℃で、熱処理時間が8時間であり、熱処理過程で窒素充填保護をする。プレス加工処理のパラメータは、加工速度が1200m/minで、加工電圧が40Vで、電流が15Aで、加工率が69.1%である。最後に、上記で製造した電極線の半製品に不動態化処理及びドライ処理をして、厚さが0.2μmの保護層を形成する。当該保護層は、電極線の酸化を防止するため、電極線の保管期間を延ばすことができる。ドライ温度は80℃で、最終的に得られる電極線の完成品の線径はΦ0.3mmである。
【0059】
製造された電極線は、上記の母線によって芯材を形成する。芯材の外のシェル層は、シェル層基部と保護層とからなり、熱処理及びプレス加工処理を行うことでシェル層基部に電極点及び通路が形成される。本比較例では、シェル層の厚さは20μm、硬度はHB30、断面収縮率は80%、導電率は23%IACSである。
【0060】
電極点は、シェル層基部に埋め込まれて、シェル層基部に占める割合が70%で、また、80%の電極点が芯材を中心として環状に、芯材の外側に均等に設けられている。電極点は、電極微粒子で、粒径平均値は1200nmで、大量のCuZn、CuZnの電子化合物の集合からなり、CuZn、CuZnをベースとする規則固溶体の形態でシェル層基部中に存在する。このほか、シェル層基部には、電極点の表面に近接して通路が設けられていて、当該通路が微孔状をしていてその孔径平均値は100nmである。
【0061】
<比較例7>
亜鉛メッキ電極線であって、直径がΦ0.6〜Φ1.5mmである銅亜鉛合金により芯材を構成する。当該芯材の成分構成は、実施例7における完成品の電極線中の芯材と同じものである。芯材の表面に亜鉛メッキをして、亜鉛メッキの厚さを10〜30umとして第2の線ブランクを得てから、第2の線ブランクに連続引張り、連続焼鈍しをして加工を行い、直径が0.20〜0.35mmである亜鉛メッキワイヤ電極を製造する。
【0062】
<比較例8>
銅亜鉛合金線ブランクに、引張強度400〜600MPaで引張加工をし、線径がΦ0.6〜Φ1.5mmの母線を製造する。上記の銅亜鉛合金のCuの含有量は58.5〜68.5%で、その残りはZn及び不可避の不純物元素であり、不可避の不純物元素の含有量は0.3%以下である。このような母線に連続引張り、連続焼鈍しをして加工を行い、直径が0.20〜0.35mmである普通黄銅の電極線を製造する。
【0063】
上記の比較例1〜8で製造された、最終的に成形された電極線について、その総合的な力学的性質を万能電子伸縮計でテストして、その導電率をブリッジ法でテストし、厚さ60mmの良質炭素鋼S45Cをワークとして、製造された最終的に成形された電極線の放電加工速度及び消耗量をテストすると、テスト結果のデータは、表1に示すとおりとなる。
【0064】
以上のように、本発明による高効率・低消耗の電極線の加工速度及び消耗には明らかな優位性があって、導電率も同種の製品の水準より高く、引張強度は同種の製品を超えるほどにまでになっている。
【0065】
上記の実施例は、本発明を解釈、説明するためのものであって、本発明について限定をするものではない。本発明の趣旨及び請求項の保護範囲内で本発明についてするいかなる修正及び変更もすべて本発明の保護範囲に含まれるものである。
【0066】
(表1) 実施例及び比較例において得られた完成品の電極線の性能テストデータ

【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】中国特許出願公開第101829822号明細書
【要約】      (修正有)
【課題】カット効率が高く、消耗が小さく、精度も高い高効率・低消耗の放電腐食加工用電極線を提供する。
【解決手段】電極線には、芯材1とシェル層とが含まれ、前記芯材の材質は銅又は銅合金で、前記シェル層の材質は亜鉛又は亜鉛合金で、前記シェル層には、芯材の表面を被覆するシェル層基部2と、電極点4と、シェル層基部の表面を被覆する保護層5とが含まれ、前記電極点は、シェル層基部に埋め込まれる電極微粒子であって、当該電極微粒子は、大量の銅亜鉛合金の電子化合物の集合からなり、前記シェル層基部には、電極点の周り及び/又はその中心部に通路3を設けられていて、当該通路は微孔状でありその孔径は100nm以上1000nm以下である。
【選択図】図4
図1
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